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シナリオ詳細

吼える声遠く響く

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●吼える声遠く響く
 広大な海が広がりし国、ネオフロンティア海洋王国。
 夏の薫りも薄れ、次第に秋めいてくる9月中旬……とは言え海洋王国が過ごす日常は変わる事もなく、海上を船が行き交い、交易品を交換し……そして、時には海賊船が物資を掠奪したりする、そんな事件が繰り広げられている。
「さて、と……今日はこの航路だな。皆、周りに注意して行くぞ!』
『おー!!』
 と、この海域の交易路を巡回している通商船の船長が、乗組員達を前に発破を掛ける。
 彼らにとってこれは日常であり、日々の生活の糧を稼ぐ仕事。
 今迄も幾度となく海賊船に襲われたり、台風により荒れ狂う波間を一致団結して乗り越えたり……と、様々な困難を乗り越えてきて、団結力もかなり上がった交易船の船員達。
 ……だが、そんな交易船の船団達が、日常の航海を一致団結して熟していく中。
『ピィィィ……ピィィ……』
 どこか遠くの方から、些細に聞こえてくる音。
 何か悲鳴のような、心をざわつかせる音色で……今迄に聞いた事の無い旋律。
『ん……何だ、この鳴き声は……』
『分からねぇな……ま、海の中に棲む何かじゃねえか?』
 と乗組員達は軽く会話を交わしただけで、余り気にも留めずにそのまま船を進める。
 ……そして。
『ピィィィ……!!』
 更にその鳴き声が強くなり……次の瞬間、航路の先からザバァァン、と大きな波を立てる。
 その波は、決して小さくない交易船よりも大きな波を作り出し……船を丸ごと飲み込んでしまう。
 完全にバラバラになった船の木くずが辺りに散乱する中で。
『ピィィ……ピィィィ……』
 と、その悲しげな鳴き声は、暫くの間響きわたり続けるのであった。


「ん……どうやら集まった様だな。んじゃ、早速だが始めるか」
 と『黒猫の』ショウ(p3n000005)は人を集める。
 その横には『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)の姿……という事は、彼が持ってきた、という事だろうか。
「集まって貰ったのは他でもないんだわ。どうやら海洋でまた海獣が出てしまったようでな……ある被害の情報をイズマから持ってきて貰って、調べたところ大当たり、ってな訳な様なんだわ」
「今回の海獣は、凶暴化してしまった『鯨』の様だ。何故凶暴化為てしまったかはよくわからんが……自分のテリトリーに侵入した者を、その巨体で破壊し尽くし、跡形も無く海の中へ沈めるといった、かなり危険なシロモノの様だ」
「イレギュラーズの皆も船を使い、その海域へと進む事になると思うが……流石に今回は、皆の船も無事、と言う訳にはいかないだろう。手配は出来るが、船の上で安全に戦えるなんて状況じゃないって事は認識為ておいて欲しい」
「後は……そうだな。巨大な鯨の身体だから、その身体に捕まって戦う事も出来るとは思う。ただ奴は海の中でも暴れ廻るような、そんな荒くれ者だ。水中でも行動出来るよう、皆も手を打って置いて貰えると助かる」
「ま……こうした海獣が暴れ廻るってのは、俺達が何かしでかしてんじゃないかって所もあるんだが……だからといって放置しておいていい訳もねぇ。という訳で皆、宜しく頼むな?」
 と、皆の肩を叩き送り出すショウなのであった

GMコメント

 皆様、こんにちわ。緋月 燕(あけつき・つばめ)です。
 今回の依頼ですが、荒くれ者の鯨さんが暴れ廻るので、それを対峙してきて欲しい……という依頼になります。

●成功条件
 海の中に潜む海獣『全てを沈めし鯨『ディグレア・ホエール』を倒す事です。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●周りの状況
 鯨の現れる海域においては、襲い掛かる直前に悲しげな鯨の鳴き声が鳴り響きます。
 音葉かなり小さめなので、静かにしてないと聞き逃してしまうかもしれません。
 ……そしてその鳴き声が鳴り響いた暫し後、鯨は海面からザパァァン、と飛び出してきて、船をその巨体でぶっ潰してきます。
 その巨体でダイブされれば、ほぼどんな船もひとたまりもありません……皆様の為に船は提供されますが、その船の上で戦える事は無いでしょう。
 なのでその初撃をどうにか乗り越えた後、荒れ狂う鯨と戦う事になります。
 つまり戦場は海の中となりますので、海中でも行動出来るようなスキルはほぼ必須となります。
 
 尚鯨自体は一体のみですが、攻撃力、体力共にとても高い強敵です。
 しっかりとした対処をしないと、負けて帰る事になる事も充分あり得るので、ご注意下さい。

●討伐目標
・全てを沈めし鯨『ディグレア・ホエール』x1匹
  中型船よりも巨躯を誇る、凶暴な鯨です。
  その身体には幾つか髭のようなものが生えており、それを掴めば海中に潜ったとしても、何とか捕まり続ける事は出来るでしょう。
  巨体故に、彼が攻撃を躱す事はほぼ出来ませんが、海の中で荒れ狂い、海の外にザッパンと飛び出したり、と激しい動きをして、捕まるイレギュラーズの皆さんを振り解こうとしてきます。
  振り解かれても、外から攻撃する事自体は可能ですが……捕まっていない状態では敵の動きは相対的に速いので、身を翻して回避されてしまう可能性もあるでしょう。
  尚、海の中で行動する他には、変な特殊能力や、バッドステータスを与えるような事は無い様です。

 それでは、イレギュラーズの皆様、宜しくお願い致します。

  • 吼える声遠く響く完了
  • GM名緋月燕
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年09月27日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

十夜 縁(p3p000099)
幻蒼海龍
マルベート・トゥールーズ(p3p000736)
饗宴の悪魔
寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)
月夜の蒼
ソア(p3p007025)
無尽虎爪
クレマァダ=コン=モスカ(p3p008547)
海淵の祭司
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
キルシェ=キルシュ(p3p009805)
光の聖女

リプレイ

●広大な海は
 広大な海が広がる、ネオフロンティア海洋王国。
 9月中旬、夏の薫りも薄れ初めて、次第に秋めく頃……とは言え海洋王国が過ごす日常には、大きな変化は無い状態。
 ……だが、そんな秋の海に突如として現れたのは、海中で荒れ狂う巨大な鯨。
 それが出ると言われる海へと漕ぎ出したイレギュラーズは、目前に広がる大海原を前にして。
「また危険なクジラが出たものだね……」
 溜息を吐く『若木』秋宮・史之(p3p002233)に対し、『幻蒼海龍』十夜 縁(p3p000099)も。
「そうだな。ま……海獣が暴れ廻ってるのは、黒猫の旦那が言うには俺達が何かしでかしたせいかもしれない、と……ありえん話しじゃねぇ。だからといって放っておく訳にもいかねぇのは辛い所だな」
「うん。確かクジラは豊穣の象徴だったと思うんだけど、それが害敵になってしまったんじゃ仕方ないね。きっちり後始末をさせて貰うよ」
 史之と縁が交わす会話。
 その会話を聞いた『雷虎』ソア(p3p007025)は感心する様に。
「そうなんだ。クジラはなんだかとっても大切にされてる生き物なんだね。僕も大きな獲物に尊敬する気持ちを向けるのは、何となく分かるよ!」
 目をキラキラと光らせるソア。
 確かにクジラというものは、海中に住まう生物の中では最大級に大きい生物。
 勿論この海洋王国という広大な海の中には、それよりも大きな魔物とかがいたりする事もあるだろう……だが、最大限に大きいのは間違いない。
 ……そんな大きな生物を討伐しなければならないというのは……色々と思う所はあれど、テンションが上がる所もあるだろう。
「ふふ……鯨狩りとは、悪くない。いや、寧ろ素晴らしい……血肉は数多の生命の糧となり、骨や皮は数多の文化の糧にもなろう。巨大な一つがあらゆるものの礎となる素晴らしき円環だ。うん、実に私好みだよ。私も一匹の獣として、存分に堪能させてもらおうじゃないか!」
「そうだね……海の中でも、こんな大きな相手を倒すのだと思うと、ボクもちょっと……ワクワクするね!」
 と『饗宴の悪魔』マルベート・トゥールーズ(p3p000736)の言葉に、ニッ、と笑みを浮かべるソア。
 ただ……今回の依頼、この海域を巡回する交易通商船を襲っているという話しを聞いた『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)は。
「しかしクジラは、無差別に船を襲うような、荒々しい気性ではなかった様に思う。それに悲しげな鳴き声を襲撃前には上げると聞いたんだが……?」
 と軽く首を傾げるイズマに、『海淵の祭司』クレマァダ=コン=モスカ(p3p008547)が。
「うむ……孤独なのじゃな。哭いておるのか?」
 大海原に向けて、零す一言。
 ただ、彼女の杞憂する声に返る声は無く……静かな海が広がるのみ。
 そんな二人の言葉に『リチェと一緒』キルシェ=キルシュ(p3p009805)が。
「本当に、クジラさん、どうして暴れてるのかしら? どこか怪我して痛いのかしら? それならルシェ、直してあげたいけど……出来ないなら、せめて出来るだけ苦しむことなく眠らせてあげたいわね!」
 と言うと、イズマも。
「何故悲しそうに暴れているのかは分からないが……被害が出ている以上は放ってはおけない。ゆえに敵は討伐するが、その命を無駄にしないようにもしないとな」
 と頷く。
 それに『月夜の蒼』ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)が。
「本当、此処まで暴れ廻るから目を付けられるんだろうに、仕方ないなぁ……討伐と言われちゃ逃す事も出来ないからね。きっちり終わらせよう」
 と仲間達を促し、そしてイレギュラーズ達はショウか指示された海域へと赴くのであった。

●狂いし海の王
 そして、ショウの示した海域へと辿り着くイレギュラーズ。
「さて……と。この辺りかな?」
 とマルベートは周囲を見渡すが……今迄の海域とさほど変わらぬ、平穏なる波が押しては引く限り。
 ……本当に、こんな所に荒々しいクジラが出てくるのか、と思う所もある位に、極々平和が広がっている。
「本当に、こんな海にクジラが出てくるのか……?」
 とイズマがぽつりと零すくらいに、平穏過ぎる。
 でも、この海域で通商船が襲われたのは紛う事無き事実……そんな海を、静かに航海し続ける。
「うーん……水の中って、きらきらゆらゆら綺麗ね!」
 とキルシェが水面に目を凝らしながら喜んでいると……。
『……ピィィィ……』
 遠く遠く、海の底からほんの僅かだけ聞こえた、悲しげな鳴き声。
「……ん?」
 耳を澄ませていたクレマァダが、声のした方角へ振り返る。
 勿論、その方角に広がるのは、ただただ穏やかな波のみ。
「……調べて見るとするかの」
 そう言うと、クレマァダは小さな音を周囲に響かせ、その反響度合いを確認。
 地底の岩等に反響する音の響きを一通り感じる中で、唯一、先程声がした方向からは、その反響が無い。
「ふむ……皆。この方向怪しそうじゃ」
「了解」
 と、クレマァダの言葉に頷き、船の方向を転換するイズマ。
 スピードを落として、先程声のした海域に更に距離を詰めていくと。
『……ピィィィ、ピィィィ……』
 今迄小さかった鳴き声が、船の上に乗るイレギュラーズ達全員にも、はっきりと聞こえ始める。
「……おいでなすった様だな」
 その声に眼を閉じ、集中する縁に、史之は。
「しかし、どうしてこう物悲しげに鳴くんだろう……なにか理由があるのかな?」
 ふと小首を傾げるが、すぐに気を取り直して。
「ううん、考えるのはあとあと……そろそろ、出てくるだろうし」
「そうだね。巨大な敵を狩るために、協力して臨むのは……ふふっ、獣の血が騒ぐね」
 史之に微笑むマルベート……と、次の瞬間。
『ピィ……ピィィィ……!』
 今迄よりも一際大きく、その叫び声が周囲に響きわたる。
 そしてその鳴き声と共に、船の傍らの海が盛り上がり、底からザパァァンと飛び出してくる巨大クジラ。
「わー、でっかいクジラだー。これと戦うとか中々荷が重そうな案件だこと」
「そうね。クジラさん、凄く大きいのね!」
 ルーキスが肩を竦め、キルシェが微笑む。
 ……だが、次の瞬間クジラはその巨体を一旦水面へと叩きつける。
 凄まじい水飛沫がイレギュラーズ達に叩きつけられ、船も大きく揺れる……が、まずはその波を何とか乗り切る。
「もう一度来るよ。一回手を止めて、振り回されないようにね!」
 とルーキスは皆に向けて叫ぶと、更に水中に戻ったクジラは、再び勢いを付けながら、イレギュラーズ達の船の近くへと再接近。
「さーて、そんじゃひとつ根比べと行こうや」
 と縁はニヤリと笑みを浮かべつつ、先行して船から海に向けて飛び込む縁。
「つくづく……こういう時海種で良かったって思っちまうな」
 海種であるから、海中であっても行動の制限はない彼。
 そして彼に続きルーキスが。
「次に来たら、クジラの髭に捕まるんだよ!」
 と仲間達に呼びかける。
 対し史之とクレマァダは、先行して船から退避し、二人も海中へ。
 そして、また海中から飛び出してくるクジラ……今度はその巨体のターゲットは、イズマの操舵する船。
「……来るぞ、今だ!!」
 とイズマは叫ぶと、キルシェが。
「わかったわ、今回海の中なのね! ルシェ海初めて! 水中呼吸あるけど、大丈夫かしら?」
「大丈夫……むしろこっちが大変かもだけどな」
 短くイズマとキルシェは声を躱す。
 そして飛び上がり、巨体を船にぶつけ、船を破壊する直前に、残る仲間達も船の上を退避。
 浮かぶ船が巨体に潰される所で。
「……あそこに髭があるよ。1、2……3!」
 ソアの号令にタイミングを合わせ、イレギュラーズ達はクジラの髭を掴み、クジラを掴む。
 もちろんクジラは髭を引っ張られ、ピィィイ、と鳴きながら、振り解こうと水面、そして水中に潜り暴れていく。
「マルベートさん!」
「準備はいい?」
「もちろん!」
 ソアの言葉に、マルベートが頷く。
 そして二人は、クジラのお腹ら辺に狙いを定めて。
「……食い破る!」
 タイミングを合わせて、初撃の一閃を喰らわせる。
 悲痛に身を捩らせるクジラ、それに。
「どこか怪我して痛いの? それとも悲しいの? ルシェたちにはわからないけど……疲れたでしょう? そろそろ休みましょう?」
 と、憂いの一言を投げかけるキルシェ。
 しかしながら、クジラの反応は身を捩らせ、暴れ続けるがのみ。
「っ……これは中々な荒鯨だな」
 と、そんなクジラの激しい動きに振り落とされそうになる縁だが、掴んだ髭を更にぐっと惹いて、その手をぐるりと巻き付ける事で振り解き辛くなるように細工。
 他の仲間達も同様に、鯨の髭を掴んでどうにか鯨の荒れ狂う動きを暫く堪えていく。
「お兄さん、お姉さん。鯨さんが安らかに眠れるように手伝って下さい!」
 とキルシェの言葉に、クレマァダはこくり、と頷く。
 だがその言葉を効いてない様で、数分の、身体を捩り暴れ続ける。
 だが、さすがにずっと動き続ける事は無く、一瞬だけその動きが弱まった瞬間を狙い済まして、ソアが。
「ここからは鯨とボクの我慢比べだ!!」
 と、また鯨の腹に爪を立てて、かじり付く。
 その身から血潮が海中に広がり、海に朱が差していく。
 そんなソアの行動に連携してマルベートは魔門を開放すると共に、傷ついているソアと同じ箇所に向けて炎禍の牙と悪意の爪を突き立てる連撃を喰らわせる。
「ふふーっ、ボクの頼りになるお姉さま!」
「あらあら。ソアも頼りにしてるわよ? だって巨大な獣を狩る為に協力して臨むのは……ふふっ、獣の血が騒ぐもの」
「そうだね! ボク……愉しくなってきちゃったよ!」
 姉妹分の関係である二人であるからこそ出来る、強力な絆の連携で鯨の腸を喰らい、傷付けて行く。
 しかし鯨も去る者。
 その攻撃を喰らいつつも、イレギュラーズ達をどうにか海中に振り解こうと、急潜航したり、急上昇して海上に飛び出し、また海中に戻る事をしたり。
 そんな熾烈な反撃を食らいながらも、縁は赤と黒の破滅の一撃を放ち、猛毒と業炎をその身体に刷り込む。
 続いて史之は、水中で良く効くであろう雷撃の一撃を放ちつつ。
「ほら、その位じゃ俺達は振りほどけないよ! 振りほどきたいなら、もうちょっと暴れてみなよ!」
 と挑発。
 ……その言葉を解したかは分からないものの、鯨の動きは更に激しくなる。
「っ……これだけ重量級の相手だ。最初から飛ばさないとこれは失礼でしょう? 手は抜けないから、悪く思わないでねー!」
 とルーキスは零距離で極撃を放つと、更にそこにイズマが、魔術と格闘を織り交ぜた双撃を繰り出し、確実にダメージを与えていく。
 更にクレマァダが。
「いつも大きなモノとは海中で戦っておるに、こやつは早いと。異な事だが、そういうこともあろうな」
 と言いながら、己に再生効果を付与。
 更にその瞳は黄金色に輝かせると共に、その腕を一振り薙ぐ一線を放ち行く。
 そして……仲間達が攻撃を一通り放ちし後、最後にキルシェが。
「みなさん、がんばってください……!!」
 と、新生なる祝福の歌声を奏で、回復する。
 ……その後も鯨は海中、海上と大きく暴れ回るのだが、決してイレギュラーズ達は髭から手を離す事無く、食らい付きながら、確実にダメージを積み重ねる。
 そんなイレギュラーズ達の動きにより傷つき、段々と弱り始める敵。
 動きも少しずつ鈍っていくのに。
「落ちついて。痛い事をして御免ね。でも、俺たちも譲れない。だから、暴れ回るのは終わりだ」
 とイズマは静かに呼びかける。
『ピィ……』
 その声に、本当に一瞬だけ鳴く鯨。
「うん、ごめんね。でも、鯨さんが暴れてるのかわからなくて……でも、もう苦しまなくても良いの。おやすみなさい」
 その声にキルシェが優しく語りかけ、そして。
「……失った物を取り戻そうとしてるのか? だとすれば……その気持ちはとてもわかる。故に……我はお主を斃そう」
 そうクレマァダは告げると共に、精神統一から繰り出す無の一打を放つ。
 そして……。
「それじゃ、中からステーキにしてあげるよ!」
 とソアの炎乱の花吹雪が敵の内側に開花。
 萌上がる炎が敵の内臓を灼き尽くすと……鯨は甲高い断末魔の鳴き声を上げて、その動きを止めて水上に向けて浮上していくのであった。

●荒れた海を沈めし
 そして……。
「ふぅ……どうにか終わった様だな……」
 身体から水を滴らせながら、クジラの上に昇る縁。
 ……イレギュラーズ8人が乗った位では揺れもしない位、その巨体がぷかり、と海上に浮かんでいる。
「ほんと、大変でした……! 本当、皆さんも、お疲れ様でした……!」
 ぺこり、と頭を下げるキルシェ。
 もう、みんなクジラのせいでずぶ濡れになってしまってはいるけれど……取りあえずこれで、この交易路の安全は確保出来たはず。
「さて、と。これだけの恵み、いただかないのはもったいないよね?」
 と史之が微笑むと、それにクレマァダが。
「うむ。肉は肉へ、骨は住処へ……これだけの巨躯じゃ。その恵みに感謝しつつ、残りしものは海に沈めるとしよう」
 確かにこのクジラは、自然の理を外れた、超常的な存在であるかもしれない。
 だが、この海に住まう一匹の鯨である事に変わりは無い。
 食物連鎖の最上位に立とうとも、彼が死ねば他の魚に喰われるのも、その節理の循環に含まれているのだから……。
「そうだな。欲しい素材を戴いたら、残りは海へと帰す。無闇やたらに獲るのは海に住まう者達を乱獲することにも繋がりかねないからね」
 そうイズマが言うと、キルシェがこくり、と頷いて。
「そうですね! それじゃあ、必要な分を分けて貰って、イズマさんの船で帰りましょう!」
 と、イレギュラーズ達は、それぞれが必要とする分だけ鯨の肉を分けて貰う。
 そう仲間達が採取している中、ルーキスはクジラの頭頂部の辺りまでよじ登りながら。
「しかし、無事に済んで何よりだけど、結局クジラが凶暴化した元凶は何なんだろう? クジラなんて、そう暴走する種でもないだろうに……ね」
 と、クジラの目が濁ったりしてないか……何か不審な点がないか、等を調べる。
 勿論、既に死したクジラなので、彼の声を聞くことは出来ないけれど……少しでも調査する手がかりになりそうなものがないか、を採取していく。
 各々が思うクジラへの対応を一通り行った後、遠くに避難させていたイズマは船と共に合流。
 そしてクジラの後処理を行い、その巨躯を静かに沈めていく。
「これでまた、彼も多くの生き物の苗床となる大事な資源となるのじゃ。心安らかに、海へお還り」
 そう、沈みゆくクジラの巨躯に、そうクレマァダは弔いの言葉を投げかけるクレマァダ。
 ……小一時間程で、その影が全て海の中へと沈んだ後。
「これで……良し、か。それじゃ、帰るとしよう」
 とイズマが操舵輪を回し、その海域を発つ。
 ……そして、沈みし海域を離れつつ、キルシェは。
「クジラさん、おやすみなさい……今度は、優しいクジラさんになって、みんなと仲良く暮らしてね……?」
 と、小さくつぶやきながら、手を合わせて弔うのであった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

荒れ狂う鯨退治、お疲れ様でした!
水中、水上と暴れ回る鯨……傷付けてこないなら、普通に見ていたい雄々しい光景ではありますが、こうなってしまうと正しく海の悪魔、といった所でしょうね……。

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