PandoraPartyProject

シナリオ詳細

スチームヘヴンの扉を叩け

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 あくる日。アーリア・スピリッツ (p3p004400)が鉄帝の街を散策していた時のことである。
 鉄帝の、商店エリア。いくつかの飲食店が並ぶそこで、多くの人達が遠巻きに、とある店舗へ視線を送っている。
「……なにかしら?」
 些か剣呑な空気を感じつつ、アーリアが向かってみれば、群衆の輪の先に、一軒の店があった。『スチームヘヴン』と看板の掲げられたその店は、どうやら近頃オープンしたばかりのダイニングバーのようである。確か、地酒を始めとする美味しいお酒がよく入荷しているという噂を、アーリアも聞いていた。
 さて、そのスチームヘヴンであるが、アーリアの察したとおりに剣呑な空気が立ち込めている。群衆の分から中を覗いてみれば、一人の男が窓からスチーム・ガン(蒸気で弾丸を発射する武器である)の銃口を外に向けている。
「おい! 分かった! とにかく話し合おう!」
 と、ガタイのいい男が叫んだ。はち切れんばかりの胸筋と、それを抑えるには力不足に見えるサスペンダーをつけた男。
「うるせぇ! 黙れクソ野郎!」
 スチーム・ガン男が叫ぶ。
「いいか! 話し合う事なんざ何もねぇ! とにかく金! 車! 女だ! 今すぐもってこい!」
 と言うや、上空に向けて一発、発砲した。スチームの音が響いて、やじ馬たちが悲鳴をあげる。
「……穏やかじゃない、って奴ね?」
 と、アーリアの背中から声がかかる。アーリアがふりかえると、そこにいたのは、ゼファー (p3p007625)だ。
「あら、アーリア・スピリッツ? 奇遇ね、こんな所で会うなんて」
 ゼファーの言葉に、アーリアが笑う。
「そうねぇ。ねぇ、ちょっと一緒に来てくれない? ひとまず、あのサスペンダーおじさんを止めないとねぇ?」
 アーリアとゼファーが、人の波をかき分けて先ヘ進む。がなり立てるサスペンダー男へ近づくと、
「はい、ストップ。ちょっと静かにね?」
「今は相手を刺激しちゃだめよぉ。ちょっと状況を教えてくれないかしらぁ?」
 と、サスペンダー男へと告げた。サスペンダー男は一瞬、びっくりした様子を見せたが、二人のただものではない空気を感じ取ったのだろう。素直に頷いて、店から離れて見せた。
 銃声に、群種の輪も広くなる。一行はその端に座り込むと、
「アンタら、傭兵か何かか? だったら頼む! あいつらから店を奪還してほしいんだ!」
 ぐ、と勢い良く頭を下げるサスペンダー男。
「俺はアレキサンダー・ボルドーウィン。まぁアレクと呼んでくれ。あのダイニングバー、スチームヘヴンのオーナーだ。
 見ての通り、ちと厄介な客が来店しちまってなぁ」
「あら、あなただったら、あれくらいなんとかなりそうですけれど?
 隠してても解るわよ、あなた元軍人か、傭兵でしょ?」
 ゼファーが言うのへ、アレキサンダーは頷く。
「正解! 元軍人だ。だが、いま腕を痛めちまってな、日常生活には影響ないんだが、荒事となるとちょっとなぁ」
「なるほどねぇ。えーと、あの人たちは、常連客かしらぁ?」
 アーリアが言うのへ、
「まさか! 一見さんって奴だ。奴らががなってたのを聞くことにゃあ、どうも脱走してきた囚人らしい。で、何の因果か俺の店に来てて、ひとあばれ、ってわけだ」
「ふぅむ? なるほど、脱獄囚か。それは災難だな」
 と、三人の頭の上から声がかかる。そこを見れば、こちらを見下ろすブレンダ・スカーレット・アレクサンデル (p3p008017)の姿が見えた。
「ああ、怪しいものではない。こう見えてもローレットのイレギュラーズだよ。荒事なら手伝えるかもしれない」
「へぇ! ってことは、もしかしてそっちの二人も?」
 ゼファーとアーリアが頷くのへ、アレキサンダーは笑顔を見せた。
「そりゃ心強い! 頼む! 奴らを追っ払ってくれ! 報酬も出すし、恩人とありゃあ、一生代金を安く(ディスカウント)する。常連の客って事で、たまり場にしてくれてもいいぜ」
「おや、それは魅力的な話だな」
 ブレンダが言う。アーリアも噂に聞いていたことだが、この店は新規オープンながら、評判は良い。そこを拠点にできるとあれば、ありがたい話だろう。
「では、具体的な話に入ろうか。敵の数は解るか?」
「8人だ。全員がスチーム・ガンで武装してる」
「数が多いわねぇ。戦うなら、せめてもう一人欲しいけれど……」
 アーリアが言うのへ、
「ええと、お困りごとでしたら」
 と、声がかかる。声の方を見てみれば、そこには小金井・正純 (p3p008000)の姿があった。
「私もローレットの所属です。小金井・正純と申します。お力になれるかと」
「ふむ、助かる」
 ブレンダが笑うのへ、ゼファーが続く。
「で、どうする? 正面から……って言うのも被害が多そうね」
「先ほどから聞いてみれば、連中は女性を連れてこい、と要求しています」
 正純が言った。
「幸いにして、ここに集まったの四人は皆女性……ならば、要求にこたえることは容易いでしょう」
「なるほど、人質として潜入するわけねぇ?」
 アーリアが言った。
「マジか? 危なくねぇか?」
 アレキサンダーが心配げに言うのへ、
「問題ないわ! 危ない橋ならよくわたっているもの。
 ただ、そうね、もうちょっと着飾った方がいいのかしら……?」
 ゼファーの言葉に、アレキサンダーが頷く。
「だったら、はす向かいの服屋に行こう。そこのネーレシアって店主は俺の知り合いでな、ドレスを貸してくれるかもしれん」
「なら善は急げだ!」
 ブレンダが言う。
「作戦はこうだ。連中の要求する人質として、入り込む。或いは、その隙をついて店の裏手から侵入する者がいてもいいかもしれないな。
 とにかく、侵入さえしてしまえばこっちのものだ。タイミングを見て攻撃を開始。敵を制圧する。どうだろう?」
「ええ、それでいいと思いますよ」
 正純が頷いた。
「じゃあ、早速準備に取り掛かりましょう?」
 アーリアが言うのへ、皆は頷いた。
 さてはて、期せずして始まった大捕り物。
 その結末は、如何に?

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 此方はイレギュラーズ達への依頼(リクエスト)により発生したお仕事となります。

●成功条件
 すべての敵の撃破

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●状況
 脱獄囚により占拠された、鉄帝のダイニングバー・スチームヘヴン。たまたま近くを通りがかった皆さんは、店主であるアレキサンダーにお願いされ、この脱獄囚たちを撃退することとなりました。
 侵入方法は主に二つ。ドレスで着飾り、敵の要求する人質として正面から潜入する方法。
 もう一つは、人質たちが時間と注意を稼いでいる間に、裏口から侵入する方法。
 お好きな方をお選びください。もちろん、全員でドレスを着飾って、人質として潜入しても構いませんし、「もっとスマートに潜入できらぁ!」と言うプレイングがありましたら、そちらをかけてもらっても構いません。
 作戦決行タイミングは昼。内部は広めのダイニングバーで、数個のテーブルとカウンター席があります。8人の敵+4人のイレギュラーズが入っても充分動ける程度の広さはありますが、狭い場所でも動きやすい戦闘方法を考えると、判定に少々プラスが発生するでしょう。

●エネミーデータ
 脱獄囚 ×8
  鉄帝の牢獄から、看守の隙をついて脱走してきた囚人たちです。道中で調達したスチーム・ガン(取り回しの良いハンドガンみたいなもの)で武装しています。
  スチーム・ガンの攻撃力は高いですが、彼ら自身の戦闘能力はさほど高くはありません。しっかりと対応すれば、充分に対処できる程度の敵です。

●味方NPC
 アレキサンダー・ボルドーウィン
  退役軍人にして、ダイニングバー・スチームヘヴンのオーナー。
  怪我をしているので、建物の外で応援してくれます。

 以上となります。
 それでは、皆様のプレイングをお待ちしております。

  • スチームヘヴンの扉を叩け完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年09月28日 22時05分
  • 参加人数4/4人
  • 相談8日
  • 参加費---RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
ゼファー(p3p007625)
祝福の風
小金井・正純(p3p008000)
ただの女
ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)
薄明を見る者

リプレイ

●彼女たちのおめかし
「んー、流石だねぇ。皆綺麗だぁ」
 と、のんびりとした様子でイレギュラーズ達4人を見つめる、獣種の女性。名をネーレシアと言う。この服飾店のオーナーだ。
「そ、そうですか? 皆さんに比べたら劣るものと思いますが……」
 と、若干頬を赤らめつつ言う『未来を願う』小金井・正純(p3p008000)。袖なしで、動きやすいようにスリットを……との事で、黒を基調としたイブニングドレスを選んでもらって着込んでいる。背中が大きく空いていて、慣れない着心地に、正純はどこか、そわそわ、としてしまう。
「そんなことないよぉ? 小金井さんもとっても綺麗だぁ。これならあのアホな男どもも一発さぁ」
 くすくすとわらうネーレシア。正純は愛想笑いなどを浮かべつつ、深くあいたスリットの感覚に気恥ずかしさを感じていた。
「そうね、正純なら魅力でも物理でも一発、です!」
 『律の風』ゼファー(p3p007625)が笑う。ゼファーは空色のカクテルドレスを着ていて、短めのスカートと、そこに空いたスリットがまた艶やかだ。
「まぁ、魅力と言う点なら、ここにいる誰もが負けてはいないと思うけれどね。あの野蛮な男どもにはもったいない」
 ゼファーの言葉に、アレキサンダーは唸った。
「うーむ、アンタら、今回の件が済んだら、ウチで働かんか?」
 と冗談めかして言うのへ、『導きの戦乙女』ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)は笑って返した。
「生憎とローレットは色々忙しいからな」
 真っ赤なアフタヌーンドレスの長いスカートを持ち上げて、ガーターベルトに小剣を仕込む。一目では、武器を仕込んでいるとは思えないだろう。
「それより、店主。ドレスの代金はしっかり支払おう。綺麗なままで返せる、という保証はない」
 ブレンダがそう言う。こうしてドレスに着替えているメンバーだが、決してパーティにしゃれ込むわけではない。これから始まるのは荒事。アレキサンダーの店を占拠した脱獄囚を、油断させて一気に捕まえるために、こうしておめかししているわけだ。だが、ネーレシアはひらひらと手を振って、
「ん-、ああいいよぉ別に。あたしもアレクの店に世話になってるからねぇ。あそこを助けてくれるなら、それ位の出費は安いものさぁ。
 それに、服って言うのは必要としている人の所に行く縁があるものだよぉ。その子達は、今日みんなに来てもらうために服になったんだぁ」
「あら、素敵な意見ねぇ」
 『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)は、薄紫色のイブニングドレス姿だ。大きく開いた肩から胸元、背中ももちろんだが、笹紅でめかしこんだ、唇と目じりが実に艶やかである。
「お店だけじゃなくて、ドレスも守ってあげなくちゃ、って気分になるわぁ。ありがとう、ネーレシアさん。お仕事が終わったら、お礼に来るわぁ」
「うんー。出来ればうちの常連にもなってくれると嬉しいねぇ。じゃあ、気を付けてねぇ、イレギュラーズさん達」
 ひらひらと手を振るネーレシアを背に、一行は店から出た。やじ馬の視線が此方に集まる。おお、と感嘆する声が上がる。アーリアは穏やかに手など振ってみる。
「さぁ、皆も見てるし。失敗は出来ないわねぇ」
「もとより失敗するつもりはありませんけどね」
 アーリアの言葉に、正純が笑う。
「それじゃ、演技を始めるとしようか」
 ブレンダの言葉にゼファーは頷き、
「そうね。私たちは、人質代わりに連れてこられたコンパニオン……って事で、みんな、OKかしら?」
 そう言うのへ、三人は頷く。
「じゃあ、俺が先頭で行くぞ。すまねぇなぁ、怪我がなければ、俺もひとあばれ……」
「もしそうだったら、今よりもっと酷い怪我をしているかもしれません。私達に任せて、外でお待ちください」
 正純が言うのへ、アレキサンダーはむぅ、と唸った。アーリアがくすくすと笑う。
「現役に任せてちょうだい? さぁ、エスコートお願いねぇ」
 アレキサンダーは頷くと、ゆっくりと歩き始める。人の輪は道を開けて、その中を五人はしずしずと歩いた。やがてスチームヘヴン――脱獄囚が占拠しているアレキサンダーの店の前に到着する。アレキサンダーは声を張り上げた。
「要求していた女性の人質を連れてきた! 金と車は今用意してる!」
「ああ!?」
 男が窓から顔を出して、こちらを品定めするように視線を這わせた。露骨なその視線にはおぞけが走るほどだが、ブレンダもゼファーも気にする様子でもなく微笑んで見せてやった。「ほぉ?」と、好色げな声を男があげる。
(下衆め)
 胸中で呟きながら、正純が目を伏せる。緊張している演技。アーリアはゆっくりと両手をあげると、
「こんにちはぁ、私達でお眼鏡に叶うかしら?」
 伏し目がちにそう言う。怯えた、か弱い乙女を演出してやる。男はふん、と鼻を鳴らして、
「中に入れ! さっさと金と車も持ってこい!」
 此方にスチーム・ガンを向けながら言うのへ、
「わかった! とにかく、女性たちは渡すぞ!」
 と、アレキサンダーが言って後ずさる。すれ違いざまに視線を向けるアレキサンダー。
(気を付けてくれよ、お嬢さんがた)
(まかせてぇ?)
 アーリアは視線で応える。4人はゆっくりと店内へ入り込んだ。

●天国と地獄
 内部はなかなかの広さだった。あのムキムキのアレキサンダーのことだから、随分質実剛健なデザインなのだろうと思い込んでいたが、これはなかなか、洒落た感じで落ち着いたダイニング・バーになっている。雰囲気は最高だろう。スチーム・ガンを装備した8人の男が、品定めをする様子でこちらを見ていなければ、だが。
(こうも露骨だと、やっぱり男って、って気分にはなるわね)
 ゼファーは肩をすくめたい気分だ。今すぐ全員ぶん殴って解散したい所だが、そうでは店に被害が出るだろう。まだ油断させるフェーズだ。
(ま、使えるのなら外見でも武器にして差し上げますけど?)
 ゼファーは胸中で呟くと、
「それで、わたしたちは何をすれば……?」
 と、しおらしい様子で聞いてやる。怯えたのかと勘違いしたのだろう、自分たちが高位にいると思い込んでいる男たちが、下卑た笑いを浮かべる。
「まずはそうだな、そこの黒髪の女、こっちにこい」
 リーダーらしき男が正純を指さすのへ、正純は思わず眉をひそめたくなった。不機嫌が顔に出ていないか不安だったので顔を伏せたが、恐怖で目をそらしたものだと思い込んだらしい。
「どうした、殺されたくなければこっちにこい」
(正純、まだ抑えてね?)
 ゼファーがそう言うのへ、正純は目を細めた。
(ええ。まだ大丈夫です。まだ)
 正純は無の表情を決めて見せる。正純はゆっくりとリーダーの隣へとやってくると、リーダーの男は正純の肩を乱暴に抱いて、椅子に座らせた。リーダーが正純の前に酒瓶を乱暴に置いた。高級酒だ。こう乱暴に扱っていいものではない。殺すぞこいつ、と思った。
「とりあえず酒を酌めや。それ位できるだろ?」
「は、はい……」
 正純はふるふると身体を震わせながら、酒瓶を手に取った。
(ああ、あれは怒ってるわねぇ)
 アーリアがぼやく。
(ふむ。これは試練の時だな、正純殿)
 ブレンダが嘆息する。正純はひきつった笑みを浮かべながら、グラスに高級ワインを注ぐ。
「ど、どうぞ……」
 頬をひきつらせながら、グラスを捧げる。リーダーは一息にそれを飲み干した。
(あら、勿体ないわねぇ)
 アーリアがのんきに胸中で呟く。もっと香りや味やらを楽しんで飲めばいいのに。それも出来ぬほどには粗野な連中か。
「で、テメェ、名前は?」
 リーダーが正純に尋ねるのへ、答えたのはアーリアである。
「星子ちゃんよぉ」
「は?」
 と、正純が思わず声をあげたので、アーリアはふるふると首を振った。
「嘘よぉ、カズラちゃん! カズラちゃん、って言うの。カムイグラからこっちに来たばかりなのぉ。
 で、私はアリィ。こっちの空色のドレスの子がズィーで、赤のドレスの子がブレルよぉ」
「ふん。おい、お前らも好きな女に注いでもらえや。とりあえず、金と車が来るまでは、あの長い牢獄生活の憂さを晴らさせてもらおうぜ!」
「流石リーダー! 話が分かる!」
 男たちが近寄ってくるのへ、三人は思わず身構えた。欲望にギラギラした瞳。露骨に体を、ものとして品定めされる感覚。つくづく気持ちの悪い視線だ。
「おう、ブレルっつったか? こっちこいや!」
「ああ……いや、はい、わかりました」
 ブレンダはしずしずと一礼をすると、楚々と其方へと向かっていく。
(合図、頼むぞ、ゼファー殿)
 ブレンダの視線に、ゼファーは頷く。
「アリィちゃんよぉ、こっちおいでぇ!」
 ぎゃはは、と下卑た笑い声をあげる男たちに、アーリアはにこやかに微笑む。
「はぁい♪ あ、ズィーちゃんはその、お酒を飲ませるのはやめてあげてねぇ?」
「ええ。私、お酒での失敗が多くって禁止されてるのよねぇ。
 酔っぱらって友達の家を爆破したりとか。
 酔ってる内にパンツ泥棒の組織をボコボコにしたりとか」
 ――まぁ、やったの私じゃないんだけど。
 胸中でつぎ足しつつ。その言葉に、男たちも若干ヒいたようすで、
「お、おう……酒だけ注いでくれればいいからよ……」
 ゼファーはにっこりと笑うと、カウンターの中から一番酒を選ぼうとして、
「ズィーちゃん、そのお酒がいいわぁ。そう、棚の一番下の、右の……」
 アーリアが言うのへ、
「これ?」
 と、ゼファーが酒瓶を取る。ゼファーは内心苦笑した。この店で、最も安価な酒だ。アーリアは、飲ませるならその程度で充分だ、と言いたいのだろう。それでも、奴らに飲ませるには上等な代物か。
「そうそう、とぉっても、おいしいのよぉ?」
 にこり、とアーリアは笑った。

 かくして、イレギュラーズ達は男たちの接待を始めた。こういう時の男の話などはつまらないものだ。大抵は自分語り……其れも退屈な。酒と自分に酔った自己中心的な男どもの相手ほど容易い事もない。『そのままお酌をして酒を飲ませてやろう。大人しくしておけば勝手につけあがるだろう』とは、潜入前の作戦会議中にブレンダが言った一言だが、おっしゃる通りである。
「ここに来る前には何をしていたんですか?」
 安酒を注ぎながら、ブレンダが尋ねる。そう聞けば、男たちは上機嫌になって、過去の犯罪履歴などをつらつらと語りだすものだ。
「俺は相当な悪だからなぁ? ビビっちまったんじゃないかぁ?」
「そんなことないですよ、女は悪い人に惹かれるものですよぉ?」
 ――我ながら心にもない事を言うものだなぁ。とブレンダは胸中でぼやく。とはいえ、美女に持ち上げられたのがうれしいのか、男の酒を飲む速度が上がる。チョロいものだ。
「御煙草、お吸いになられますか?」
 正純は胸元からライターを取り出して、リーダーのタバコに火をつけてやった。リーダー満足そうに笑う。
「ふふ、こういうの慣れてる女はお嫌いですか?」
「いや、気の利く女は好きだぜ?」
 リーダーが笑う。リーダーが笑うたびに、なにかこう、心の大切な部分が凍り付いている気がした。
(正純ももう限界かしら? いや、と言うかみんな、もうだいぶうんざりしてるわね)
 ゼファーが胸中でぼやく。肩に手を回す男の手を振り払いたい気持ちだったが、耐えつつ。
「いや、いい女だぜ、あんた。どうだい、このまま一緒に仲間にならないか? 夜も楽しませてやるぜ?」
 ゼファーは微笑んだ。もういいかな、と思ったのだ。
「私が夜の相手?
 あら、あら。ふふ」
 刹那、ゼファーの右手が鋭く動いた。男たちが捕らえることなどできぬ速度。そのまま酒瓶を逆手に握ると、
「答えはコイツで充分よね?」
 そう言って、すくいあげるような動きで、男の側頭部を思い切り酒瓶でぶん殴った! 粉々に割れる酒瓶! 抵抗する間もなく昏倒する男!
「何を――!?」
 傍にいたもう一人の男が声をあげた刹那、アーリアは勢いよく立ち上がると、
「合図有難う……もういいわよぉ!」
 叫びつつ、その手を掲げる。途端、指先から迸る琥珀色の雷撃た、男たちを強かに打ちのめした!
「テメェらまさか……!」
「そのまさかだ」
 ブレンダがテーブルの上に躍り出る。びり、とスカートを破き、あらわになったその太ももには、いくつもの小剣が取り付けられている。ブレンダはそれを取り上げると、
「くそ! 殺せ!」
 リーダーが叫ぶのに合わせて、男たちがスチーム・ガンを構える。ブレンダは小剣を投擲! 刃が男の持っていたスチーム・ガンの銃身を切り裂き、無力化!
「な、あっ!?」
 男が悲鳴をあげる間もなく、ブレンダは思いっきり飛び掛かった。無力化した銃を手放せぬ男に、ブレンダはヒールを使った飛び蹴りを敢行。一撃で昏倒した男が床に倒れる。
「テメェも……!」
 リーダーが叫び、正純にスチーム・ガンを向ける――が、その前には正純はすでに動いていた。右手に光る、ガラス製の灰皿。正純は無言でそれを持ち上げると、リーダーの顔面に思い切り叩きつけた!
「ガッ!?」
「なんでしょう、とても手に馴染みますね灰皿」
 にこり、笑う。それから、くぅ、と伸びなどしつつ。
「ええ、ええ、最近ストレスが溜まっておりまして。まさかここにきていらぬストレスを追加されるとは思いませんでしたが。私、相当我慢したのですよ? 臭い息も、下卑た笑いも、汚い手も――」
「この、野郎……!」
 まだ息のあった(殺す気はないので当然だが)リーダーが立ち上がろうとするのへ、正純はもう一度、笑顔で灰皿を後頭部に落としてやった。今度こそリーダーが動かなくなる。もちろん、死んではいない。これから、この店で一杯やろうと思っているのだ。血なまぐさい事は避けたい。
「――我慢した分、存分に発散させてもらいます。
 唸れ天狼。今日は弓矢はありませんが、その牙にはいささかの衰えもないものと知りなさい」
 正純が手を掲げる――同時、天井を透かして、星が輝いたように見えた。途端、降り注ぐ天狼の星の光が、脱獄班たちを打ち貫く!
「しまった……!」
 激痛にスチーム・ガンを取り落とす男たち。そうなれば、もはや男たちに勝ち目などは無い。
「つかの間の天国は楽しめたかしら? 奇遇な事ね、この店の名前はスチームヘヴン。でも、あなた達がいくら天国の扉をノックしても、入店はお断りよ!」
「うるせぇぞ、クソが!」
 雄叫びをあげながら殴り掛かってくる男へ、ゼファーは椅子の背を持って受け止めてやった。ぎゃあ、と痛みに男が悲鳴をあげる中、ゼファーは椅子を男へと投げつけた。勢いよく椅子と共に男が吹き飛ばされて、壁に当たって気絶する。
「はぁい、皆もお休みの時間よぉ?」
 アーリアの展開した茨の結界より、放たれた茨が男たちに絡みつく。負うた傷をさらに抉る呪殺の撃が、男たちの身体を強かに打ち、そのまま意識を奪った。
「では、天国から御退店願おうか!」
 ブレンダの鋭いハイキックが、男の顎を捉えた。ぐえ、と一撃で紺とした男が、床に倒れ込む。ふむ、とブレンダは唸ると、
「まぁ、こんなものか。酒にべろべろに酔っていたようだからな、鎮圧も容易いものだった。
 ……アーリア殿、もしや悪い酔いするような酒を選んで飲ませたな?」
 アーリアは「あら」と言いつつ、頬に手を当てた。
「お安いお酒とは言え、節度を持って愉しめば悪酔いすることなんてないわよぉ。マナーがなってなかったのねぇ」
 くすくすと笑った。

●静かな天国で
「今日はお疲れ様だ! 乾杯!」
『かんぱーい!』
 店内に、今は普段の服に着替えた四人の声が響く。グラスに注がれたエール……一つは冷やしたお茶であったけど、とにかく四人はグラスをぶつけ合うと、まずはごくり、と一口。
「ふぅ……仕事の後の一杯は格別ですね。疲れが取れるというものです」
 正純が言うのへ、ブレンダは頷いた。
「いや、正純殿は大変そうだったな……その分開放されてからは、随分と活き活きしていたように見えたが」
「ねぇ。正純ちゃんの灰皿、すごく絵になってたって言うか……再現性東京のドラマで見た気がするのよね、ああいうの」
 アーリアが笑うのへ、ゼファーが続ける。
「ああ、お昼のドラマとか、夜の刑事ドラマとかよね。すごくそれっぽい」
「あの、まったく嬉しくないのですけれど」
 正純がげんなりした様子を見せるのへ、皆が笑った。
「おまちどうさま! サラダとスペアリブ、それからこっちはチーズフォンデュだ」
「ふふ、待ってました!」
 ゼファーが手を合わせて笑う。
 悪漢どもを制圧して、軍に引き渡して一息。店の片づけを手伝い、開店したお店で、一行はこうしてお酒と料理を楽しんでいるわけだ。
「んー、おいしい! アレク、あなた見かけによらず料理が上手いのねぇ?」
 ゼファーが言うのへ、アレキサンダーは笑った。
「こう見えても料理は趣味なのさ! アンタらはまさに店の救世主だ。今日は俺の奢り! 明日からは約束通り値引き価格でいつでも対応するぜ!」
「ふふ、ありがとぉ? こんな素敵なお店をホームにできるとなると、とってもありがたいわねぇ」
 アーリアが笑う。その時、アーリアの脳裏に天啓がひらめいた。そう遠くない未来、いつものメンバーで、このお店で食事を楽しむ映像。
 そんな素敵な未来を確信しながら、仲間達はひと時の休息を楽しむのであった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 リクエストありがとうございました!
 皆さんの活躍により、悪漢どもは再逮捕。
 皆さんも、素敵なホームグラウンドを手に入れられたようですね。

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