PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<月没>紅蓮炎舞

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 蒸気機関車の汽笛が雄叫びを上げる。
 動輪同士を繋ぐ主連棒が暴れ狂い、加速――加速、加速。

 それはさながら漆黒の破城槌が如く、脱線し馬車道を挽き潰しながら猛進していた。
 街路樹をなぎ倒し、乗用車を跳ね飛ばし、向かう先はモダン建築のビルである。
 掲げる看板は大日出文芸『松書房』。流行の雑誌を出版している会社であった。
 衝突の衝撃が建屋を揺らし、四階建てのビルは瞬く間に半壊。辺りを炎が包み始める。

「これで少しはお灸になるかな」
「なるなる、反省するする」
 蘇芳の赤炎が嗤った。

「朱雀様も喜ぶかな」
「喜ぶ。絶対喜ぶ」
 辰砂の紅炎が謳った。

「豊底比売様は」
「朝敵を打ち破り、この國へ溢れんばかりの光あることを、お望みだ!」

 ――四神『朱雀』。
 カムイグラにおける神霊の一柱であり、人々の守護者である。
 その歪な模造品ネクストにおける『ヒイズル』でも、また同様。
 だがその眷属が敵としたものは、この日、なんだったのだろうか。
「大日出文芸『松書房』。今月号に、豊底比売様を讃えないページが、三頁あった罪」
「鉄槌、完了!」

 炎霊――朱雀の眷属達は、空に舞い上がり、溶けて消える。
 辺りは赤き灼焔に焼き尽くされ、残るのは燃えかすばかりだった。


 渾天儀【星読幻灯機】――ほしよみキネマが描く、未来の惨劇を前に、天香遮那は腕を組む。
「明々白々に、異常だな」
 全くの同感だとイレギュラーズは頷く。
 これを、こんな事を帝は許すのか。朱雀が望むのか。
 カムイグラにおける彼等を知る者には、信じがたい光景であった。

 Rapid Origin Online(R.O.O)2.0『帝都星読キネマ譚』のイベントが進行し、『月没』の副題が冠された。
 攻略のため、これまで帝に協力する形でイベントに参戦していたイレギュラーズであったが、システムはそこから寝返り、帝に反逆する天香遮那への協力を要請してきた。
 だがそれはヒイズルという国家そのものと敵対するということでもある。イレギュラーズの立場を安定させるため、練達上層部『佐伯 操』と、神威神楽の陰陽師『月ヶ瀬・庚』は協力し、システムへと直接的に手を加え、高天京特務高等警察へと書き換えた。

 その理由は、再現性東京2010:希望ヶ浜にも見られた『侵食の月』だ。
 この月は突如として希望ヶ浜と神咒曙光――つまり現実の無辜なる混沌と、ネクストへ同時に現れた皆既月食である。だが徐々に陽が月を奪い返すと蝕み始める奇妙な動き。それも異常なほど輝いている。
 そしてヒイズルには侵食度』というパラメーターが表示された。
 これこそ、R.O.Oでは『豊底比売』と呼ばれた水神、国産みの女神。希望ヶ浜では『日出建子命』と呼ばれる国作りの男神。真性怪異の影響である。
 光は国を産み、発展させ。けれどその反面、強すぎる光は、怪異の大量増殖や精神への異常な影響などを引き起こしている。対抗する手段は、夜妖の力を制し、纏い、戦うこと。

「あの汽車はどこから来た?」
 遮那の言葉にベルンハルト(p3x007867)は資料に目を落とす。
「ここにある車庫だろうな」
 車庫に現れた朱雀の眷属達は、ありったけの石炭を燃やして、汽車を暴走させた。
 そうしてルートを変え、馬車道を破壊し。
「三階建てのビルにつっこむのだろう。辺りは赤き炎に包まれ騒然とするだろうな」
「ああ。朱雀の眷属ならば炎の扱いには長けているだろうしな」
 だがほしよみキネマが描くのは、未来の出来事。
 惨劇を未然に防ぐことが出来る。
 イレギュラーズ――否、高天京特務高等警察『月将七課』の面々は、至急この車庫へ赴き、現れる朱雀の眷属を撃退しなければならない。

 黒い外套を翻し遮那は一歩前に出る。
「急ぐぞ」
 以前ならば、背を追いかけたい者だけが来れば良いと思っていた。
 されど、遮那は振り返りイレギュラーズに琥珀の視線を向ける。
「ああ――頼りにさせてもらう」
 孤独を背負っていたあの頃とは違うのだ。

 きっと彼等ならば――

GMコメント

 もみじです。
 遮那と共闘。朱雀の眷属と戦い、鎮めましょう。

●目的
 朱雀眷属達の撃退。もしくは鎮める。

●ロケーション
 夕方。逢魔が時。
 郊外にある蒸気機関車の車庫です。
 あたりには線路が敷き詰められており、いくつもの蒸気機関車が停車しています。
 足場と視界はあまり良くないでしょう。

●敵
 数が多く、強いです。

『軫宿(みつかけ)』
 朱雀眷属の一柱。
 炎系BSを多数保有する、近接型トータルファイターです。

『獄炎鬼』×2
 蘇芳と辰砂という名があるようです。
 身体が燃えさかっているような人型の敵です。
 多数の炎系BSを保有し、近接戦闘を行います。なかなかタフです。

『煉獄鳥』×8
 高速飛行しながら、炎でなぎ払ってきます。
 オールレンジかつ攻撃力が非常に高い、厄介な敵です。

『鬼火』×16
 飛行しながら、中~遠距離に単体~範囲攻撃の炎を放ってきます。
 攻撃力が高いです。

●魔哭天焦『月閃』
 当シナリオは『月閃』という能力を、一人につき一度だけ使用することが出来ます。
 プレイングで月閃を宣言した際には、数ターンの間、戦闘能力がハネ上がります。
 夜妖を纏うため、禍々しいオーラに包まれます。
 またこの時『反転イラスト』などの姿になることも出来ます。
 月閃はイレギュラーズに強大な力を与えますが、その代償は謎に包まれています。

●侵食度
 当シナリオは成功することで希望ヶ浜及び神光の共通パラメーターである『侵食度』の進行を遅らせることが出来ます。

●『侵食の月』
 突如として希望ヶ浜と神咒曙光に現われた月です。闇に覆い隠されていますが、徐々に光を取り戻していく様子が見て取れます。
 一見すればただの皆既月食ですが、陽がじわじわと月を奪い返そうと動いています。それは、魔的な気配を纏っており人々を狂気に誘います。
 佐伯操の観測結果、及び音呂木の巫女・音呂木ひよのの調査の結果、それらは真性怪異の力が『侵食』している様子を顕わしているようです。
 R.O.Oではクエストをクリアすることで、希望ヶ浜では夜妖を倒すことで侵食を防ぐ(遅らせる)ことが出来るようですが……

●ほしよみキネマ
 https://rev1.reversion.jp/page/gensounoyoru
 こちらは帝都星読キネマ譚<現想ノ夜妖>のシナリオです。
 渾天儀【星読幻灯機】こと『ほしよみキネマ』とは、陰陽頭である月ヶ瀬 庚が星天情報を調整し、巫女が覗き込むことで夜妖が起こすであろう未来の悲劇を映像として予知することが出来るカラクリ装置です。

●情報精度なし
 ヒイズル『帝都星読キネマ譚』には、情報精度が存在しません。
 未来が予知されているからです。

※重要な備考『デスカウント』
 R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
 現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。

●特殊サクラメント
 今回は比較的近くに復活ポイントがあり、短時間で戦線復帰出来ます。

  • <月没>紅蓮炎舞完了
  • GM名もみじ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年09月27日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ザミエラ(p3x000787)
おそろいねこちゃん
イルー(p3x004460)
瑞心
リセリア(p3x005056)
紫の閃光
アウラ(p3x005065)
Reisender
真読・流雨(p3x007296)
飢餓する
ベルンハルト(p3x007867)
空虚なる
スイッチ(p3x008566)
機翼疾駆
座敷童(p3x009099)
幸運の象徴

リプレイ


 橙色の夕焼けが街路樹の影を作り出す。
 地に沈む前の鮮烈な太陽は煌々と辺りを照らし幻想的な二色を織りなした。
 されど、光が強ければ強いほど、また影も濃さを増してしまう。
 この光景はゲームの中のものだと『初心者』イルー(p3x004460)は街路樹の影が揺れるのを見つめた。
 されど、本来であれば干渉しない筈の現実世界との境界が揺らいでいるのだろうかとイルーは逡巡する。

「それにしても、ほしよみキネマはずいぶん便利じゃのう」
 渾天儀【星読幻灯機】が映し出すのは未来の出来事。この機能が現実世界でも使う事ができたのならと『幸運の象徴』座敷童(p3x009099)は案じずにはいられない。
「……否、そもRooというのが仮想混沌世界であったな」
 無辜なる混沌を投影した世界。
「現実の再現性東京にも大正時代の街はあったし、時代考査的に考えれば……再現性東京と交流を持った未来の神威神楽の姿、未来演算の果て、か」
 今のヒイズルがカムイグラの未来の姿であるのか、バグが生み出した全く別のものなのかは定かではないけれど、可能性は否定する事はできないと座敷童は頷く。
「ならいまのうちに問題を特定しておけばちょー未来のためになるであろう」
「R.O.O……ゲームの中のおはなしが、そうではなくなってしまうかもしれないのです、よね」
『恋屍・愛無のアバター』真読・流雨(p3x007296)はイルーの言葉に首を振った。
「実際問題、偶然に現実と仮想現実が統合される可能性が高いとは思えない」
 ネクストは現実世界を『投影した仮想世界』だ。
「現実世界から仮想現実に介入する者は居るかもしれないが、ネクストから現実への介入は本来ならありえないだろう。もしかしたら、高い技術水準と相応の資材を持つ者が何かしら手を入れている可能性があるのかもしれない」
 例えば三塔の佐伯 操がイレギュラーズを八扇 中務省 陰陽寮の退魔師から『高天京特務高等警察:月将七課』へと変更したように。
「そんな者は必然的に限られてくるのだろうが」
 しかしと流雨は先ほどの星読みキネマの映像を思い出す。
「あの無垢な子供のような朱雀が、このような事をするとは」
 現実世界の朱雀はいつも眠たげでふわふわと漂っているような童女だ。悪辣からは程遠い存在。神霊たる威厳が感じられぬ程の無垢を纏った朱雀と、今回の眷属との乖離に流雨は瞳を伏せる。
「如何に仮想現実と言えど、このように、その在り方を改竄されているとなれば不憫な事だ。早急に手を打たねばなるまいよ」
 流雨の隣にいる『硝子色の煌めき』ザミエラ(p3x000787)も手をひらひらとさせて見せる。
「いやいやいや、いくらなんでも無いわね。豊底比売を讃えないページが三頁あった罪?」
 星読みキネマが映し出した映像には朱雀の眷属である軫宿達がビルを炎上させる瞬間が捉えられていた。
「それでビル吹き飛ばすってイヤイヤ期の赤ちゃんでももう少し寛容なんじゃない?」
 無垢なる幼子は時に横暴なれど。余程可愛げがあるものだと同意を得るようにザミエラは『Reisender』アウラ(p3x005065)に振り向く。
「汽車って……あれって線路を走ってるものでしょう?」
「そうだねぇ」
「それをわざわざ建物に突撃ってもしかしなくても暇なの? こういっちゃなんだけど馬鹿にしかみえないかなあ。だってむざむざこんな事しなくても、もっと別のやり方があっただろうに」
「確かに」
 アウラは頭を抱えるように手を額に当てた。
「楽な方法とかさあ。流石は阿保な動機で事を起こすだけの事はあるね」
 嘲う言葉を吐いたアウラは隣に立ったリセリア(p3x005056)に振り向く。
「そうね。出版社に汽車を突入させて爆破……なんとも雑な、とも思ったけれど」
 紫色の瞳を細め深く考えを巡らせるリセリア。
「言動から感じる幼さからして、行為そのものから感じる雑さや軽率さも気のせいではない、のかしら?」
 流雨が言ったように何かしらの介入や改変があったのか。それともバグが発生しているのか。

「確かに異常だね。同意見だ」
『可能性の分岐点』スイッチ(p3x008566)は歩を進めながらオレンジ色の夕焼けに伸びる影を視線で追う。
「もしみんなが正気に戻った時にこんなことをしたと知ったらきっと疵になる」
 自分が犯した罪の重さに耐えきれずに、それこそ闇に落ちてしまうかも知れない。
 神性が強ければ強い程、闇に傾いたときの影響は計り知れないだろう。
「それを防ぐ為にも……何とかして止めないとね」
 スイッチは自身の前を歩いて行く天香・遮那の背を見上げる。同じように視線を上げたのは『空虚なる』ベルンハルト(p3x007867)だ。
「頼りにさせてもらう、か」
 先ほど遮那が零した言葉を反芻するベルンハルト。
 好感が持てる。遮那が素直に己の力を必要とするならば、手を差し伸べるのが正しく美しい。
「嗚呼、今宵の月は闇に潜む私にはどうにも目映いが……共に踊ろうではないか」
 ベルンハルトが差し出した手を一瞥した遮那は口の端を上げる。
「誘いは女子からの方が有り難いがな。他の皆も頼りにしているぞ」
「わ、わたしはあまり頼りにはならないかも……いえ、いいえ」
 遮那の言葉に首をぶんぶんと振るのはイルーだ。彼が信じてくれた自分を否定したくない。頼ってくれる事が嬉しいから頑張る。それだけでいいのだ。
「……歪められてしまった、カムイグラの……ヒイズルの国を、助ける力に、なります。遮那さま、参りましょう……!」
「ああ――」
 夕焼けの赤。黒く伸びる影。


 車両の影に隠れた流雨の瞳に赤き焔が映し出される。
 待機し仲間へと合図を送れば一番最初に影を飛び上がったのはベルンハルト。
 近づいて来る敵の位置を的確に見極め、多を制するのだ。
「神ともあろう者、神の眷属たる者が随分と狭量な事だ」
 ベルンハルトは敢えて神を誹る言葉を選ぶ。
「何だと! お前! 不届き者か!」
「己の主を讃えぬ物を許せぬと、笑わせる」
 ベルンハルトの周りに怒りに満ちた鬼火が集まってきた。
「いや、それとも……讃えさせねばならぬ理由でもあるのか? 何れにせよ自らを讃えよ等と言う偶像を人は望まぬだろうがな」
 敵の狙いが列車を使った爆発事故なのだとしたら、動力室そのものを狙うのは悪手だ。それを逆手に取り車両の影に隠れた座敷童は兎の耳をピンと立てる。
 敵が何処にいるのか音の反響で位置を割り出すのだ。
 この戦場は特に程よい位置に車庫があり音の反響がある。
「羽の音は分かりやすいからのう」
 心を落ち着かせ、深呼吸をする座敷童。
「……使った後動けない、とかがなければよいのじゃが」
 ネクストではパンドラの奇跡は起こらない。一度死んでしまえばその場で立ち上がる事は出来ないのだ。
 サクラメントから戻ってくる時間も惜しいと座敷童は口を引き結ぶ。
「月閃――!」
 闇と光が転じ。月の一閃を纏えば座敷童の黒い髪が白へと変わる。
 青い炎は白へ。送り火でもなく、弔いの焔でもなく、ただ殺すための――存在を消すための炎を手に。
「ベルンハルト避けよ!」
 彼の頬をすり抜けて敵陣後方を穿つのは座敷童の白き幽炎を纏し蹴鞠。
 青の軌跡を描く様は天を舞う鳳凰の如く優雅さで煉獄鳥の群れを捉えた。
 翼が凍り付き、その上から消せぬ炎が燃え広がる鳥は浮力を失い地上へと墜落する。
「如何に火の権能が強かろうと、この身を焦す前に消し飛ばせば関係あるまいよ!」
 廻る陰陽。月明流転――魔哭天焦『月閃』はベルンハルトの身体を深く闇の色彩に染める。
 鬼火を引き連れ宙を蹴り仲間の元へと走ってくる様は、まるで百鬼夜行。
 ベルンハルトの黒き顎が鬼火を喰らう。
「荒ぶる焔は全てを呑み込むが……中々どうして。その焔を呑み込んでやるも存外悪くない。美味である」
 赤き炎が闇に飲まれていく。

「数も多いし、そのくせに一匹一匹の質も高いみたいだし」
 ベルンハルトに群がる敵に眉を寄せるザミエラ。
「流石は神の眷属に連なるだけはあるのかしらね? だけど、こっちも切り札はあるんだから……あ、作戦の都合上いきなり出しちゃうし切り札って言わないほうが良いのかな? まあ、もう使ってるし大丈夫か」
 とにかく、とザミエラは手を高く掲げ口の端を上げた。
「とっておきで目にもの見せてあげちゃうわね! あなた達の火遊びはおイタが過ぎるから、やらかす前にお仕置きしてあげる!」
 ザミエラの足下からディープパープルの色彩が花開く。
「さあ、目を眩ませるような朝は優しい夜の帳で遮りましょう。月閃、発動……!」
 黒き花弁が戦場を舞えばザミエラの艶やかな闇夜のドレスが靡いた。
 スパンコールが散りばめられた黒いドレスはザミエラの白い肌に映える。
 見上げる視線の先、ベルンハルトが集めた敵陣に向かってザミエラが透き通る硝子のナイフを閃かせた。

 使い魔のお菓子はイルーの目となり周囲の様子を伺う。
 戦況把握は勿論であるが、万が一戦闘よりも列車に突撃する個体が居ないか警戒する意味合いもあった。
 イルーは少し躊躇うように拳を握り込む。
 月閃の噂。日々更新される『侵食度』が無関係な筈が無い。
(この力を、使うべきか……あの噂がほんとう、なら……しかし、それでも、今は!)
 遮那が頼ってくれたから。ちっぽけな自分が役に立てるなら。頑張る事が出来る――!
 闇纏い妖しく照らされるはイルーの瞳。
 イルーの背を見つめながらアウラは愛銃を構えた。
「仲間をなるべく巻き込まない位置はっと……」
 スコープをのぞき込み慎重に照準を合わせるアウラの脳波を中距離型集中砲火ユニットが読み込む。
 空中に浮かんだユニットはアウラの視線に照準を重ねた。
「そこだ!」
 戦場を駆け抜ける閃光は鬼火と煉獄鳥の群れを捉える。
 炎の眷属たちは形を保つことが出来ず次々に空気へと散って行った。
「そういえば遮那君に会うのは初めてだったかな」
「ああ。そうだな」
 混沌世界でも天香・遮那という少年に会ったことは無いとアウラは笑顔を向ける。
「これからも私達共々宜しくね、遮那君」
「俺からもお願いがある。苦戦している人がいたら手を貸してもらえると助かるかな。俺達もキミを頼りにしているよ、よろしくね」
 スイッチの言葉に「分かった」と頷いた遮那。

 ――――
 ――

「殲滅は厳しいでしょうが、明らかな形勢不利となれば相手も逃げに移る筈」
 リセリアはスイッチに頷き駆け出す。視線の先には朱雀の眷属である蘇芳が炎を揺らしていた。
「四神『朱雀』の眷属ともあろう者が、何をしようとしているのです。私刑ですか?」
「悪い奴らを成敗しているだけだよ!」
「そーだそーだ! いけないことは駄目なんだ。正義の鉄槌どーんだよ!」
 彼等の言動と行動にリセリアは眉を寄せる。
 気のせいなどではない。言動も思考も『無邪気』と形容するべきなのか。
「まるで子供か妖精のよう。遮那さんの言う通り、確かにこれは異常と言わざるを得ない」
「ああ。以前の彼等は賢く安易に人への干渉を行わなかった」
 忌々しげに遮那は朱雀の眷属を見遣る。

 スイッチはベルンハルトの横を通り抜け軫宿の前へと飛んだ。
「君も邪魔をするの? 受けて立つよ!」
「朱雀の眷属だけにそう簡単な相手じゃないと分かってる。だから俺は――」
 最初から全力で月閃の力を纏うと拳を握るスイッチ。
「この力がどういった力なのかよく分からないのは正直不安だけれど、初手から戦闘不能なんてことになったらまったくもって笑えないからね。夜妖の力だとしても使わせてもらうよ」
 胸に手を当て願う想い。夜妖を纏うのだとしても。未来の可能性を掴むため。

「陰(かげ)と陽(ひ)よ、転じて廻れ――魔哭天焦『月閃』!」


「彼らとて、正気を失っているいるだけではあるだろう。今後の事も考えれば、無益な殺生は避けたい」
 流雨は辰砂と相対する。頬についた火傷の痕を擦る流雨。
 流石は朱雀の眷属。雑魚共とは格が違う。
 だが、この世界は死んでも生きて帰ってくることができる。
 そんな『好都合』な状況で曇らせる刃などありはしない。
 殺生は避けるとしても。戦いを楽しむ流雨元来の性質が顔を擡げる。
「さあ、楽しもうじゃないか」
「ぬぬー!」
 流雨と辰砂は互いに牽制し激しく牙を交えた。

「よし。行けるかザミエラ」
「任せて!」
 座敷童はうさぎの耳を立てて位置を正確に把握する。
 ザミエラと共に照準を合わせ、一斉射撃に持ち込むのだ。
「ロックオン!」
「行くぞ!」
 硝子の短剣を先陣に闇の力を纏う鞠が追従する。
 ザミエラの一投は戦場を走り、煉獄鳥を穿った。そして、周囲に集まっていた雑魚共に座敷童の氷結の霰が降り注ぐ。
 ばらばらと散って行く敵の姿にザミエラと座敷童は拳を合わせた。
 夕焼けの赤に霧散していく炎の向こう。
 月閃を纏うスイッチと軫宿の姿が見えた。
 先手を取った邪魔者に苛立ちを隠せない軫宿は、スイッチへと炎の術式を放つ。
 数度の応酬の中、分かったことがあった。
 軫宿はスイッチよりも反応速度が遅いということだ。
 だが、状態異常への耐性は高いのだろう。刺して刺されて。剣檄は戦場に響いた。
「俺から逃げられるなんて思わない方が良いよ」
 機動力はスイッチの方が高い。軫宿は頬を膨らませて本来の力を発揮出来ないでいた。
「くそー! どいてよ! その列車を使って悪い奴らを粛清しないといけないんだから!」
「守護神霊の眷属が、事もあろうにこんな思考と理由で力を行使して他者を害そうとしているなんて、まるで箍の外れた暴走、或いは狂気」
「うぅー! 煩い煩い!」
 リセリアの鋭い言葉にたじろぎ耳を塞ぐように首を振る蘇芳と軫宿。
 この異常とも思える行動が彼等だけでなく四神やその上位にまで及んでいるのだとしたら。
 リセリアの言葉にイルーの背筋に冷や汗が流れる。
 それは何れだけの影響力があるものなのだろう。先の見えない沼の様に恐怖だけが広がる。
「なるほど、遮那さんの行動の理由も深く理解できるというもの。この振る舞いを是と受け入れるなら、人の世の繁栄など意味は無い」
 イルーはリセリアと息を合わせるように杖を掲げる。
 次に繋げる魔法の調べ。
「そもそも本来的に神々との関係がこうであったのなら、人の世が成り立ってきた筈もない」
 侵食の月の影響なのか、それとも他の可能性があるのだろうか。
 明確な答えにはまだ辿り着かないけれど。それでも進んで行かなければならないから。
「今です!」
「ええ――!」
 イルーのかけ声にリセリアが応え。増幅された銀閃の力は冷気を帯びて朱雀の眷属を圧倒する。

「今宵は未だたらふく喰えるか。好い」
 ベルンハルトの瞳が赤く嗤う。逢魔が時は一刻と紫紺を孕み夜が近づいて来ていた。
 彼の背に遮那が付いて刀を振るう。
 未だ遮那が月閃を宿していないのはイレギュラーズが居てくれるから。
「どうだ、遮那。一人で踊るも良いが……これはこれで悪くなかろう」
「ああ、そうだな。悪く無い……だがそろそろカタをつけるぞ」
 剣の柄に力を込める遮那。されど、流雨は遮那の月閃を制した。
「まあ、待ちたまえ遮那君」
 この軫宿達の変化が魔種の狂気感染のようなものだったなら、戦闘不能にすることで改善が見られるのでは無いかと流雨は考えた。戦闘を長引かせる事は得策では無い。
「その名前からしても暗示的ではあるが、背に腹はかえられぬ。まずは今を乗り越える」
 闇夜と陽光が流転する。廻る因果の果て。一筋の黒光が流雨を包み、姿形が変容する。
 それは黒光りした本来の姿と、無数の口腔。その内部には眼球が蠢いていた。
「遮那君が刀を振るうリスクは減らしたい」
 彼の刀の情報や、その能力は知っておきたいが、現実世界へ直接的な影響が無いとも言い切れないと流雨は思案する。だから、ここは慎重にならざるを得ない。
「しかし日に月か」
 燈堂に集まる人々の顔を思い出す流雨。あの地も陰陽の影響が強い場所だった。

 流雨ノ黒爪戦場ヲ蹂躙ス。

 ――――
 ――

「キミ達の僕は倒させてもらった。ここで引く気は無いかな。去るなら追わないよ」
 スイッチの声が車庫の壁面に反射して木霊する。
「ただ主神を敬わないページが数ページあった。それで断罪はいささか横暴すぎだと思わないかな。落ち着いて考えて、本当にキミ達はそんなこと望んでいるのかな」
 頬を膨らませてそれを睨み付ける軫宿。不服そうな表情と比例するように赤く染まる頬。
 少女の姿を見てスイッチは現実世界の彼等を思い浮かべる。
 もっと理性的で話しが通じるものと思っていたけれど。
「鎮まり給え、朱雀の眷属よ。斯様に荒ぶる必要は本当にあるのか。一度考え直してくれ」
「だって、悪い事なんだよ!? それを成敗して何が悪いのさ! 朱雀様もお喜びになるんだから!」
 駄々を捏ねる子供のように地団駄を踏む軫宿。
 これではまるで――スイッチが眉を寄せるのにリセリアも頷く。
 無邪気故に、命を賭してでも為さんとするような覚悟、気迫は感じないのだとリセリアは目の前の少女に視線を上げた。
「うー! だめなんだから!」
 本当に気にいらなくて憤りの侭に暴れたかのような純真さ。『人』よりも混ざり気の無い感情は何処かプログラムされた物のように思えた。
「退きなさい。――眷属が勝手に振舞い勝手に暴れて勝手に滅びる……それを朱雀が許可した訳では無いでしょう?」
 軫宿はリセリアの言葉に恐る恐る後ろを振り向いた。
 鬼火と煉獄鳥は自然の輪廻へと帰還しこの空間には存在していない。
 蘇芳と辰砂も弱々しく朱い焔球となっていた。
「朱雀さまの為にも、あなた方にこのようなことを、させるわけにはいかないのです、よ」
 リセリアとイルーの言葉は自分を滅ぼす為では無いのだと軫宿は理解する。
 問答無用で軫宿を殺した場合、四神達との関係が悪化してしまうだろうとザミエラは考えた。それはここに集まったイレギュラーズとて同じ意見だろう。
 月閃の力を解いたザミエラは軫宿の頭をぽんぽんと撫でた。
「もう、破壊行為はやめなさい……これ以上やると本当に苦しんで痛い目を見ることになるわ。あなただけじゃない。その子達もよ。だから、お家にかえりなさい」
 ザミエラの言葉に軫宿は俯く。
 月閃を纏うイレギュラーズと戦った事で少なからず陰陽のバランスが闇に傾いた軫宿。朱雀の為という輝かしい大義名分を疑ってしまった。自分の中に生まれた『悪い心』に涙を見せる。
「あ、あ……どうしよう。怒られるよお。蘇芳辰砂ぁ」
「帰ろ。帰ろ」
「お家に帰ろ」
 戦意を喪失した軫宿はスイッチの元から獄炎鬼に駆け寄る。
 イレギュラーズに振り返り、ぷくぷくと頬を膨らませた表情をしたあと、赤い軌跡を煌めかせ飛び上がった軫宿は空の彼方へ消えて行った。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 お疲れ様でした。如何だったでしょうか。
 無事に朱雀の眷属を退ける事が出来ました。

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