PandoraPartyProject

シナリオ詳細

リスクテイク・ハイリスク

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「ぷはー! 今回はいい稼ぎだったぜぇ! なあ、あんた等もそう思うだろ!?」
 煙管を人差し指と親指だけで持ち、空へ煙を燻らせたのは、屈強なる大男。
 圧の強い髭面の顔は厳めしく、けれど威厳という類には無い特徴的な顔立ちであった。
「どうだ、オレっちだって、やるときゃやるってわけだ!」
 がはははは! とばかりに笑い飛ばした男の名を、カルロス・トヨトミという。
 こう見えて、現地のルールでアウトギリギリを攻める商売を思いつく抜群の発想力を持つ商人である。
 とはいえ、引き際の見切りが壊滅的に下手なこの男。
 過去には雇った協力者に乗っ取られたり、利用しようとしたものが暴走したりなんて問題も引き起こしている。
「そうだね……」
 頷きつつも、溜息を吐く美咲・マクスウェル(p3p005192)は、この男に以前に巻き込まれてその時の問題を何とか解決したことがあるのだが――さておき。
 普段であれば、危険域直前の場面でばったり遭遇しては巻き込まれてしまう関係性。
 ろくでもないと思っていたが、今回は意外とスムーズに事が運んでいた。
(でも、だからこそ不安なんだよね……ここまでは何故か知らないけど、上手く行った。
 もしかして……ここから先にとんでもないことが待ってるんじゃ……)
「どうしたの? 何か考え事でしてるみたいだけど?」
 美咲の前にひょっこりと顔を出したのは、ヒィロ=エヒト(p3p002503)だった。
「何でもない……といえばなんでもないんだ」
 ただ、これから何かが起こるかもしれない――経験則でしかないことをあまり公言してもそれがフラグになりそうで。
「よっしゃ! あとは今回の商品を持って、買い手に売りつけるだけだな!
 よろしく頼むぜ! がはははは!」
 上機嫌ここに極まりといった様子で再び荷物を担ぎ、歩き出すカルロスを見ながら、美咲は拭いきれぬ不信の目を向けた。


 それから数日後、買い手との商談の場とやらに連れてこられた一行だった――が。
「――ちくしょう! なんでこうなっちまった!?」
 カルロスの苛立ちと困惑の絶叫が響く。
「結局こうなるんじゃない!」
 思わず苛立ちを露わにする美咲の瞳が、魔眼の本性を露わにする。
 その周囲には、エキゾチックな衣装に身を包み、胡乱な瞳を見せる男が10人。
 明らかに堅気ではない雰囲気を醸し出しながら、笑顔だけ酷く柔らかい。
「美咲さん! 足音が増えてる! まだまだ来るよ!」
 ヒィロが狐耳をぴくぴくと揺れ動かせ、美咲に言えば、美咲の方は少しばかり頭を抱え。
「やっぱ、アンタと合うと碌なことがないわ」
「オレっちだって、こんなことになるなんて知らなかったんだよぉ!」
「どこの世界に、『そっち』の組織に商売に行って挙句の果てに割高で売ろうとする馬鹿がいるわけ!?」
「あんな身ぎれいな奴がそんなヤバい奴だと思わなかったんだって!」
 美咲は言い訳するカルロスを睨みながらも辺りを見渡した。
(今の時点で既にこっちが不利だけど、ここからさらに不利になるのは眼に見えてる……)
「みんな、巻き込んでしまってごめんなさい……みんなで生きて帰りましょ」
「それが一番だね……」
「おいおい、オレっちをわすれないでくれよぉ!」
「分かってるわ。まがいなりにも依頼人だしね」
「ご相談は終わりましたか? いやはや、まさか。
 我々に対して、報酬を釣り上げようとされる方を見るのは初めてです。
 最初の約束通りにさっさとお金を置いていってくだされば、それでよかったのですがね?」
 そう語りかけてきたのは、堅気じゃない彼らの中心に立つ、一際柔和な笑みを浮かべる優男。
「まぁ、どちらにせよ、我々の正体を外へ漏らされると大変困ります。
 ここで死んでいただきましょう」
 そう言うと、男がどこからともなくクロスボウを取り出した。

GMコメント

 さてこんばんは、春野紅葉です。
 全体直後ですので、こちらの相談期間につきまして、『8日』とさせていただきます。

●オーダー
【1】メトフェッセル盗賊団のアジトから脱出する。
【2】カルロス・トヨトミの生存

●状況
 皆さんはカルロス・トヨトミの依頼を受けました。
 内容は『ある宝石を遺跡から持ち出し、買い手へと売りつけるまでの護衛をすること』でした。
 その宝石は掌サイズのエメラルドとサファイアであり、見るからに高価です。
 『こりゃあ、売りつけるのを当初よりも高くしてもいいんじゃね?』と意気込むカルロスが入った所は、
 所謂「ヤ」とか「ギャ」とか「マ」から始まりそうな事務所でした。
 みんなで頑張って脱出しましょう!

●フィールドデータ
 3階建ての住宅の2階部分をまるまる使用した応接間。
 1階に降りるには窓から飛び降りるか、1階に降りてそこを突っ切るかのどちらかのみ。
 なお、当然ながら階段からは1階と3階の盗賊団員たちが押しかけてきます。
 窓からであればひとまず脱出可能ですが、残念ながらカルロスには背負っている商売道具や商品があります。
 普通に飛び降りるとぺしゃんこですし、そもそもカルロスは飛び降りることに抵抗を持っています。

●エネミーデータ
・メトフェッセル盗賊団×10~(最大32)
 「ヤ」とか「ギャ」とか「マ」から始まりそうな人たちです。
 素直に金を持って帰るなら不問に付したでしょうが、
 当初よりも高くしようともくろんだことで『下手にでりゃあよぉ!』的なテンションです。
 徒手空拳や曲刀、ナイフ、クロスボウなどを持っています。

●友軍データ
・カルロス・トヨトミ
 今回の依頼人、美咲さんの関係者に当たります。
 小さな商売をしている商人ですが、壊滅的な引き際の悪さを今回も発揮、その手の人に包囲されています。
 戦闘能力はない物として判定します。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • リスクテイク・ハイリスク完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年09月26日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談9日
  • 参加費150RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
ヒィロ=エヒト(p3p002503)
瑠璃の刃
※参加確定済み※
美咲・マクスウェル(p3p005192)
玻璃の瞳
※参加確定済み※
鏡禍・A・水月(p3p008354)
鏡花の盾
橋場・ステラ(p3p008617)
夜を裂く星
メルランヌ・ヴィーライ(p3p009063)
翼より殺意を込めて
チヨ・ケンコーランド(p3p009158)
元気なBBA
サルヴェナーズ・ザラスシュティ(p3p009720)
砂漠の蛇

リプレイ


「勘弁してくださいよぉ、なんでこんなことに巻き込まれるんですかぁ!」
 気持ち声を抑えた『鏡越しの世界』水月・鏡禍(p3p008354)の悲鳴が上がる。
「遺跡のほうが危険かと思っていたら……最後の最後に……」
 げんなりせざるをえない鏡禍のジト目は依頼人――カルロス・トヨトミの方に注がれる。
「ちくしょう、いい感じに上乗せしてがっぽりの予定だったんだぜ」
「うーん、何故、イケると思ったのか……」
 自業自得の状況にしきりに怯える依頼人へ呆れて『剣砕きの』ラダ・ジグリ(p3p000271)が思わず呟いた。
 それはきっとカルロスを除くほとんど全員が心のどこかで少しぐらいは思っていること。
(ともかく、この状況をどう……にかするのが仕事か。全く、ラサで仕事するのも楽じゃないな)
 頭痛がしそうな状況に呆れながらも、ラダは視線をカルロスへ向ける。
(幸い、今回は運ぶのが得意なのが2人いる。
 チヨばーちゃんと協力してカルロスと彼の荷物を運び出すのが先決か……)
 まだ部屋の中に敵は10人だけ。時期に上下階から援軍が来るだろう。
 抜けるのであれば、今すぐ動き出すほかない。
「ふう、欲望とは際限のないものですね。
 そのエネルギーがもっと良い方向へ向かえばとも思うのですが、仕方のないことなのでしょうか」
 溜め息をつくのは『砂漠の蛇』サルヴェナーズ・ザラスシュティ(p3p009720)である。
 商人としての性か、はたまた小物としての性なのか。
 センスと発想の外側で盛大にこけるこの依頼人に言っても意味がない気もする。
「二兎を追うものは何とやら……欲をかくとロクな事にはならないものです」
 『花盾』橋場・ステラ(p3p008617)はやれやれとばかりに正論を突きつけつつも、少しばかり考える。
(引き際の見切りが壊滅的……………というか、ご自分で商談とかされるのに向いてないのでは?)
 敢えて言わずとも思うところはある。
(蹴散らして事務所ごとズドン、でもいいですけど……
 今回のお仕事はあくまで護衛でしたね……戦えるタイプでもなさそうですし)
 体格だけ見ればかなり良いが、だからと言って戦闘ができるタイプではなさそうだった。
「まーったくもう、おじさん(カルロス)はホントにしょうがない人だよね!
 商売人としての実力はともかく、人間としての運というか人生力みたいなのは明らかに下の下の下の下下下くらいだよ!
 こんなところで一緒に殺されるなんてまっぴらゴメンだよ!」
「そ、そこまでいうことないだろ! そ、そりゃあ、今回はちょっと無茶だったかもしれねぇけどよぉ」
 意気込んで言い始めた言葉が順調に尻すぼむカルロスを『激情の踊り子』ヒィロ=エヒト(p3p002503)は睨むように見て。
「生きて帰って危険手当を割り増しで請求するから!」
「ぐぅ……」
 唸ることしかできないカルロスを横に、ヒィロは他のメンバーと手早く方針を決めていく。
(このおっさん、才能と職種が噛み合ってないタイプよね……)
 そんな様子を横目に見る『あの虹を見よ』美咲・マクスウェル(p3p005192)。
 もちろんそれを教えてやる義理はない。
 義理は無いのだが――
(流石にここまで巻き込まれるとなると、いい加減、一言言ってやったほうがいい……?)
「まぁ、でも……なんにせよ、今を切り抜けてからかなぁ」
「結局どうするんだよぉ……」
「本当についていない方だこと」
 表では微笑みかけつつも、『翼より殺意を込めて』メルランヌ・ヴィーライ(p3p009063)も思うところがある。
(なんて他人事ではないのですけれども!)
「大暴れして蹴散らすにしても、この狭い中でカルロス様を守り切りながら……というのは難しそうね?
 やっぱり、先に脱出しましょ」
 可能な限りの小声でそう告げるも、カルロスはピンと来ていないように見える。
「そりゃそうだ! でも結局どうすんだ?」
「ほっほっほ! ブルっておるのう!!! カルロス坊!!」
「そりゃあ、怖いだろぉ!」
 カルロスに『元気なBBA』チヨ・ケンコーランド(p3p009158)は泰然と笑い飛ばす。
「ほっほっほ! それじゃあ、ささっと行くかのう!!」
 言うや否や、チヨ婆はカルロスの首根っこをガッと掴む。
「はっ???? おっふ! ちょ、ちょちょちょ! なんでオレっちを掴むんだぁ!?」
「ほっほっほ!」
 そのままチヨ婆に担がれるいい年したおっさんもといカルロス。
「おっけー、殿は任せて!」
 ヒィロはその様子を見るや否や、全身から闘志を溢れ出させた。
 自らを鼓舞し、仲間達を守るために奮い立たせる勇気を胸に、堂々と敵を見る。
「どこへ行くおつもりですか?」
「教える義理は無いよ! ボクが相手だよ!」
 溢れ出る闘志――それは受ける相手からすれば一種の殺気にも等しく、注意を引き付ける。
 そこへきて、美咲は魔眼を起こす。
 七色に彩る魔眼は深く昏い蒼穹を強め、断絶の蒼が窓辺の壁を破砕する。
 近くにいた敵が壁際へ吹き飛ばされれば、破砕されて罅割れた壁と激突、衝撃によって壁ごと落ちていく。
「道は出来たわ、行きましょ!」
「ちょっ、ちょっと待て! 待て待てまて! まさか、このままかよぉ!? 無理無理無理! 死ぬ死ぬ!!」
「ババアが軽やかに飛び降りれるんじゃからお主がしぬわけなかろうが!!!!!」
 絶叫するカルロスへ答えたのは、美咲ではなくチヨ婆だった。
「荷物はどうするんだよ!」
「大丈夫、それも持って行ってあげるわ。だから一緒に逃げましょ? ついてくることが出来たら、キスしてあげるわ!」
 全力で色気を以って誘惑するメルランヌの言葉に、一瞬意識を持っていかれたっぽいカルロスだったが、直ぐにふるふると首を振った。
「ふふ、勇敢で大胆不敵な殿方は嫌いでなくてよ?」
 首をかしげながら、あざとく笑み続ければ、カルロスが首を振る。
 自分よりはるかに年長の老婆に抱えあげられている絵面が相当かっこわるいのだが、気にしては駄目というもの。
「喋っとって舌かまんように口閉じるんじゃぞ!! そら、れっつらごー!!!」
 風を切る音が聞こえんばかりに走り出したチヨ婆はあっという間に窓めがけて走り出し――叩き割ったのかはたまた衝撃波でも生じたのか。
 窓が砕け散る音だけが事務所内に響き渡る。
 驚異の機動12!! 移動と全力移動を組み合わせた全力疾走すれば10秒で300メートルぶっちぎるおばばの最高速度!
 外から悲鳴が聞こえたり聞こえなかったりする!
 吹き飛ぶように跳んでいったチヨ婆の姿を追いかけるように、カルロスの荷物を背負ったラダもまた走り出した。
 振り向きざま、ぶちまけた弾丸は精密なコントロールで敵だけを撃ち抜くものの、明らかに狙ったところに行っていない。
「全く屋内じゃ撃ちづらいったらない!」
 思わず舌打ちしつつ、壁を乗り越えて跳躍する。
 続けるようにして走り出したメルランヌはあっという間に壁を跳び越えると、雨どいをロープ代わりに滑り降りていく。
「アッシュ、頼むわよ」
 見上げた空から降下してきた1羽のフクロウに手を伸ばし、勢いを殺しながら下へ。
「うぅ……こんな目に合わされるなんて……」
 メルランヌに続けるように、泣きたい気持ちを抑えながら鏡禍も壁の外へと飛び降りた。
 実質3mから少し高い程度の高さ、それで落下によるダメージなどは負わないが、ちょっと怖いもの怖い。
 ほっと僅かに胸をなでおろしてから、事務所の入口へ視線を向けた。
 2人が飛び降りていくのを見て、ステラは隠し持っていたOVER ZENITHを持ちだすや、突きつけるように敵のボスへと砲門を向ける。
「先手必殺です」
「まさか、そんな物騒な巨大な銃をぶっ放す気ですか?」
 ステラの様子にリーダーっぽい優男が顔を引きつらせる。
 そんな事お構いなしに、ステラは引き金を弾いた。
 爆発的な魔力が爆ぜ、直線を焼いた。
 体捌きでいくらか対応したリーダーのその後ろ、事務所の壁が消し飛んでいった。
 サルヴェナーズがそれに続いて飛び降りれば、ステラ、美咲、最後にヒィロが次々に風穴が開いた窓の外へと走っていく。
 そうして振り返ったサルヴェナーズが戦闘の準備を整えると、冠の中からねばついた音と共に泥が溢れ出して零れ落ち、またはその美しき褐色の身体を這いずり、地面へ広がっていく。


 さて、ひとまず事務所からの逃亡に成功したイレギュラーズとカルロスだったが、事務所の外では大層ご立腹な皆様との対峙が続いていた。
(ここまで相手を怒らせたら、この辺で商売とかできないのでは……)
 1階から姿を見せた10人ほどと相対しながら、思わずそんなことを思ってしまう鏡禍だった。
(……いえ、今はともかく、前の人たちに集中しましょう……)
 一つ息を入れて、鏡禍は名乗りを上げる。
 入り口から乗り出すようにしてこちらを見ていた敵のリーダーっぽい優男を含む数人の視線が鏡禍を向いた。
 手にした鏡に太陽光を集めて反射させ、注いだ光に目を眩ませた者達がうめき声をあげる。
 続々と姿を見せる敵の数を見ながら、サルヴェナーズは降りてきた窓の方へと走り出す。
「少しばかり戻っておいていただきましょうか」
 汚穢の檻が槍のように姿を変えていき、扇状に広がり、降りてきていた敵を纏めて部屋の奥へと吹き飛ばしていく。
 ステラはその様子を見ながらバスター砲を構えた。
「カモ発見――ですね」
 視線が入り口から出てきた3人ほどに注がれる。
 一直線に並ぶそちら目掛け、ステラは砲身を向けた。
 静かに弾かれた引き金。濃密に集束された魔力が、レーザーの如く真っすぐに走り抜け、その3人を薙ぎ払う。
 ほぼ同時、メルランヌも術式を構築しつつあった。
 貴人はその背に美しき大翼を開き、それを刃へと変質させる。
「見逃してくれないかしら?」
 艶美なる笑みを浮かべた貴婦人は人差し指を口元に添えて、ウインクと共に投げキッスを放つ。
 同時、背中へ浮かぶ大翼が一斉に疾走し、出て北ばかりの数人へと殺到していった。
「ヒィロなら問題ないだろうけど……流石に敵の数が多いわね……」
 深呼吸と共に、美咲は魔眼を起こす。
(事務所壊された時点で怒ってるだろうけど、死者まで出たら向こうも引けなくなるだろうし……)
 七色の輝きが鮮烈に瞬き、迫っていた4人へと炸裂する。
 それは神聖なる輝きを帯びて慈悲さえ有して輝く。
 動きに乱れを見せた4人をしり目に、美咲は視線を建物の方へ向けた。
(……怪我しないで、ヒィロ)
 静かに祈りを。
 殿として部屋の中にいたヒィロは額に青筋を浮かべるリーダーっぽい男と相対していた。
「ウチの取引を足元みた上、事務所までぶっ壊してくれるとは、いい度胸してますねぇ!
 次あいつを見つけたら落とし前付けさせてもらいましょうか!」
 かなり穏やかな声色だったが、明らかに怒りを湛えた表情を浮かべている。
 正当防衛であり脱出の為だったがゆえに仕方ないが、家の壁にぽっかりと風穴を開けられたら誰だって怒る。
 相手が堅気じゃないことを差し引いても、そこだけは少しばかり同情にたるところだ。
「兄貴! さっきの音は何ですか!」
「頭!」
 階段から降りてきた男達。数はざっと10人ほどか。
「って、あぁ! 事務所に穴が!?」
「その小娘がやったんですかい!」
 激昂するもの、驚く者など反応に差はあれど、彼らの視線はヒィロに注がれている。
「ボクの回避能力を貫けるか、試してみなよ!」
「てめえらは下に行って部屋から出てった奴らを追え! 嬢ちゃん……悪いけど、ちぃとばかし、反省してもらおうか」
「それが本当の性格? やってみなよ!」
 粗野な口調、ドスの効いた低い声を発した頭こと優男を挑発しながら、大声で追撃が始まることを仲間に向けて告げた。
 どたどたと走り去る男達を横目に見ながら、じりじりと後ろへ下がっていく。


 建物の2階、壁を通り抜けてヒィロが跳躍する。
「ヒィロ!」
「美咲さん!」
 それをすぐさま把握した美咲は声を上げた。
 少しばかり安堵の息を漏らしてから、再びその魔眼を昏い蒼へ。
 断絶を生む深い闇を思わせる魔眼に、近づいてきていた数人が吹っ飛んでいった。
「そろそろ頃合いですね」
 サルヴェナーズはその様子を眺めてから、ぽつりと一つ。
 眼帯の奥、閉ざされた蛇眼――あるいは魔眼が開かれる。
 狂気をもたらす大蛇の幻(ゆめ)が、近づこうとする敵を残らず包み込んでいく。
 悲鳴が、怒号が響き、隣同士に殴りかかっていく。
「ふぅ、これで時間稼ぎになるでしょう。それでは皆様、またいつか……」
 薄っすら笑みを零し、沙リヴェナーズも後退していく。
 鏡禍はそんな2人のやり取りを把握してから、向かってきた1人を背負い投げで投げ倒す。
 打ちどころが悪かったのか、そのまま伸びてしまったそれを横目に、一気に後退する。
「はぁ……しばらくはこの手の依頼いかないようにしよう……」
 思わず零れた言葉を、否定することのできる人はこの場に誰もいなかった。
 否、寧ろ――思いは同じだった。
「チヨばーちゃんがどこまで行ったか分からないが……そろそろ諦めてくれないかね!」
 ラダは、ライフルへと弾丸を装填しながら思わず愚痴る。
 近づいてくる敵の数は4。
 静かに照準を合わせ――引き金を弾いた。
 疾走する弾丸が地面へと炸裂すると同時に爆風と反響音を響かせる。
 生物が聞き取れぬ音の波長で放たれたそれが4人の身体の神意まで響き渡り、絡めとる。


 さて、どこまで逃げたことやら。全ての仲間達を置き去りにして駆け抜けてきたチヨ婆は、ぴたりと立ち止まる。
「ほっほっほ! ここまで退けば大丈夫じゃろて!!」
「ほれ、カルロス坊、しゃきっとせえ!」
 荷物でも置くようにぽいっと投げられたカルロスが、地面に転がりおちた。
「ほっほっほ! なんじゃ、だらしないのう!」
 ぐったりとして白目を剥いたカルロスは、ちゃんと気絶しているようだった。

 こうして逃げ延びることに成功したカルロスは美咲に詰め寄られて飲み物どころか夕食をおごらされることになった。
 ――と同時に、相手方から正式に突きつけられた損害賠償を被る羽目になったという。
「ちくしょう……こんなはずじゃなかったのに!!」
 そんな絶叫が、今日も今日とて響くのだった。

成否

成功

MVP

チヨ・ケンコーランド(p3p009158)
元気なBBA

状態異常

なし

あとがき

10秒で300メートルかっ飛ばされる恐怖……
でもそんな速度で吹っ飛ばされると一瞬すぎて逆に怖くない説もあるかもしれません……せやろか?

というわけで、MVPはおばあちゃんへ。
その速度がなければこのシナリオは別の流れになった事でしょう。

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