PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<グランドウォークライ>強襲のギアブルグ、電撃のザーバ

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●命がけの防衛戦
 前略。スチール・グラードを巨大な蜘蛛足を突き進み、都市防壁を突き破り家屋をまたぎ戦闘機を弾き飛ばす怪物。もとい巨大移動要塞ギアバジリカ。
 そのコントロールデッキは全天球状のホールとなっており、魔力によって動作する細長い絨毯の先にのびたオペレーション講壇に司祭たちがつき、ギアバジリカ各部を統括していた。
 オペレータの一人が叫ぶ。
「第三防壁の破壊を確認、都市部へ突入します!」
 ゼシュテリウス軍閥みんなの中間管理職ことショッケン将軍は腕組みをし、じっと前をにらみつける。無数の戦闘機械が殺到する風景のその先に、ピンクのクリスタルで彩られたディアナキャッスルがそびえ立っている。
 流れる汗を拭い、覚悟を決める。
「いよいよか……。全速前進! イレギュラーズ各大隊を展開し――」
 命令を出そうとした、その時。
 ズドンという音と共にデッキ全体が激しく揺れた。
 魔法のリングによって腰をささえられているとはいえよろめきそうになったショッケンは『何事だ!』と叫んだが、事態にいち早く気付いたのは眼鏡をかけた男性オペレーターだった。
「称号パターン、チャコールブラック! ギアシリーズです!」
「ギア・バジリカの同型艦だと!?」
 スクリーン出ますと叫ぶ声とほぼ同時に大型スクリーンに表示されたのは、こちらへと突き進む和城であった。全体を黒と白で統一したそのボディからはすさまじいスケールの大砲が突き出し、壁面が次々と開き無数の機銃が展開していく。
 よくみれば地上のあらゆる建造物を轢き潰しながら、おそろしく巨大なキャタピラによって走行しているようだった。
 その雄々しい造形に顔を引きつらせるショッケン。
「――『ギア・ブルグ』! ザーバ軍閥か!!」
 拡大されるスクリーン映像。
 天守閣の上で腕組みし、にやりと笑う『塊鬼将』ザーバ・ザンザの姿が見えた。
 漆黒の光を大砲の奥から溢れさせるギアブルグ。
「高エネルギー反応!」
「シールド急げ!」

 街がある。都市である。
 家々、工場、病院や警察署、流れる川や鉄塔や、公園や電柱の列がある。
 それらの天空を、漆黒の光が突き抜けた。
 たったそれだけで衝撃がはしり家屋は倒壊し屋根という屋根が吹き飛び、電柱はタンポポの綿毛のごとく吹き飛んでいく。
 多重に展開された半透明な光の防壁に阻まれる光線。バギィンという奇妙な音と、そして衝撃。ギアバジリカ周囲は酷く崩壊し、ギアバジリカ自体も軽く傾くに至った。
 次が撃たれれば首都進撃どころではないだろう。
 が、しかし。
 ザーバはギアブルグの頂上を走り、そして大地へと着地した。
 あまりの衝撃に軽いクレーターができたが、ザーバの肉体に一切のダメージはない。
 そして手に取った魔道機械を口元へあて、呟く。
「俺と戦え、ゼシュテリウス」
 移動要塞ギアブルグより拡大された彼の声が響き、ギアバジリカへと浴びせられた。
 いつか彼が現れ、正々堂々と戦うことを求めた際の声色とは、明らかに違う。
「俺は戦いたいのだ。今すぐに。この手で、お前達と。戦って、戦って、戦って、そして――!」
 掲げた手で、ぎゅっと拳を作る。
「お前達を、破壊し尽くしたい」
 そう、ザーバ・ザンバは――黒き絶望(DARK†DESPAIR)に堕ちていた。

●命がけの時間稼ぎ
「サーバと戦ってくれ。
 勝ち目はない。
 充分な戦力を投入するコストも払えない。
 ギアバジリカからの支援もできない。
 おそらく幾度となく死ぬだろう。
 だがそれでも――戦ってくれ」

 ショッケンから課せられたオーダーは、そういうものだった。
 首都進撃を決定したゼシュテリウス軍閥。そんな彼らを察知して世界のバグである聖頌姫ディアナは首都の支配を実行し、己の作り出した軍団によって迎撃を開始。ディアナVSゼシュテリウスという大決戦が勃発した――その矢先のこと。
 突如として側面より現れた移動要塞ギアブルグ。その主砲による激しい攻撃を受け、ギアブルグは一時的に足を止められてしまったのだった。
 軍閥内及び協力軍閥の技術者たちが駆け回ることで修理はすぐに可能だが、その間にザーバがギアバジリカにとりついてしまったらおしまいだ。
「より濃密な歪み……DARK†DESPAIRに墜ちたザーバ殿はもはや別人だ。修羅と化し、闘争に身を任せ、望むすべてを破壊しようとするだろう。
 彼がその気になればひとりで街ひとつを破壊し尽くすことすら可能。いくら防御が堅いとはいえギアバジリカを破壊することもおそらくは……」
 本来鋼鉄帝国を守護するために使われていたすべてのパワーを破壊にのみ使えば、そんなことだって起こるのだ。
「だがその特徴を利用することもできる。
 今のザーバ殿は戦いの虜。こちらから挑み、ぶつかっていく限りはそれに応じることだろう。
 ギアバジリカの修理が完了するまでの間、この10人で一人ずつザーバ殿へ挑み続け――」
 と言った途端、フラッシュドスコイ(p3x000371)がワーと叫んだ。

 スクリーンに映る風景を見よ。
 停止したギアブルグよりふわりと何者かが飛び上がったのだ。
 そしてギアブルグに手を振り、後退させる。
 どこか美しく、そして流麗な印象を受ける大人びた男性だ。
 その顔立ちを見て、フラッシュドスコイが呟く。
「ボクだ……」
 そう、ROO世界におけるNPCリュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガー。
 ザーバと同じくDARK†DESPAIRに墜ちた……もといザーバを堕とすきっかけを作った男。
 彼は空中にふわふわと浮かんだまま杖をかざすと、唇をなぞるように指を這わせた。
「さあ、パーティーの始まりです。我が主ディアナ聖頌姫陛下の意志のままに、滅び去るのです」
 リュカシスが杖を振って作り出したのは無数のコピー戦士たちだった。
 もしこの映像を見ている中に南部戦線に詳しい者がいたならわかるだろう。
 永き歴史の中でその名をとどろかせてきた無数の戦士をコピーしたシャドーレギオンが何体も作られ、瓦礫の上に出現したのだ。
 実物との明確な違いは彼らの額にピンク色のクリスタルが埋まっていることだが……。
「こ、これは……」
 スクリーンを見てぷるぷる震えるフラッシュドスコイ。
 その横でショッケンもまた震えていた。
「まずい……防衛部隊を……いや都市部進撃のために既に出払って……いやそもそも温存しなくては……ええい!」
 拳を握りしめ台を叩くと、歯を食いしばってから叫んだ。
「専門学兵第一から第五部隊を出撃させろ! フラッシュドスコイ殿、指揮を!」
「まかせて!」
 ぽいーんとジャンプした彼をバスケットボールのようにキャッチしたのは、命令を聞きつけて駆けつけたジェイビー。そしてその後ろに集まるホランドなどの学兵たちだった。
 リュカシスの学友にして占有。いずれ立派な戦士になることを夢見て鍛え続ける学生たちだ。
「あいつを止めるのは俺たちの役目だ。手伝ってくれよ? ドスコイ」
 指の上でくるくる回転させるジェイビーに『まかせてー!』といいながら回転するフラッシュドスコイ。
 ショッケンは学生を出撃させることが苦しいのか、顔を歪ませつつも叫んだ。
「イレギュラーズよ! 学兵部隊と共にシャドーレギオン部隊を迎撃! 同時に進撃してくるザーバ殿に挑み時間を稼ぐのだ!
 修理が完了ししだい牽制射撃をくわえながら共に離脱する! 頼んだぞ、戦士達よ!」

GMコメント

●あらすじ
 DARK†WISHよりも更に歪んだバグであるDARK†DESPAIRに墜ちてしまったサーバとリュカシス。
 彼らは闘争本能のままにギアバジリカへと攻撃を開始しました。
 もしまともに戦えば激しいダメージは免れません。幸いにも攻撃を仕掛けるのはザーバとリュカシス、そして彼の召喚したインスタントシャドーレギオンのみ。
 ギアバジリカの修理が完了するまでの短い時間、彼らを足止めできればそれでいい。
 幸いにもサクラメント(復活ポイント)はすぐそこにある。
 何度でも命をぶつけ、勝利への時間をつかみ取れ!

※DARK†DESPAIRとは
 元々聖頌姫ディアナによってばらまかれたDARK†WISHというバグを更に歪め、闘争本能に忠実な狂戦士へ変えてしまう深刻なバグ。
 解消方法は不明で、とにかく戦うほかない。

●戦い方と状況
 只今、シャドーレギオン部隊とリュカシス&ザーバがギアバジリカ目指して攻め込んできています。
 こちらは軍学校の戦士たちと共に出撃しこれと戦います。
 周囲では学兵たちがシャドーレギオンと戦い、その中であなたはすさまじいパワーでシャドーレギオンを倒しながら突き進み、その中にいるザーバやリュカシスへと挑みかかることになるでしょう。
 ギアバジリカは修理中なうえ、この先のために戦力を温存しなければなりません。(一部戦力に至ってはもう別のところに出撃しています)
 ですので、修理が完了するまでの間戦い続けなくてはならないのです。

※重要な備考『デスカウント』
 R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
 現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません
 また、今回は復活ポイントがすぐそばにあるため死亡してすぐに再出撃が可能です。
 一度のシナリオで複数回のデスカウントを受ける可能性もあります。

●エネミーデータ
・ザーバ・ザンバ(DARK†DESPAIR)
 言わずと知れた鋼鉄帝国の将軍であり主将。
 鉄帝国最強の一角と謳われ、軍民問わぬ絶大な支持を集める守護神。
 その戦闘力は圧倒的であり、たとえイレギュラーズ猛者が20人ほどで殴りかかってもそのすべてをなぎ払ってしまうほど。
 全員で挑むより、いっそのこと次々に挑みかかって『一騎打ち』を何度も行うほうが時間稼ぎという点では有利だ!
 無論、何度も死ぬことになる!

・リュカシス(DARK†DESPAIR)
 鋼鉄帝国の軍学校に通う気の良い学生……だったはずだが、DARK†DESPAIRによる歪みを受けてまるで魔種の如き力と人格変化を起こしている。
 シャドーレギオンを次々に作り出す力を行使しており、彼自身もまた恐るべき敵である。
 放置するのは危険だろう。

・シャドーレギオン部隊
 厳密にはインスタントシャドーレギオン。
 DARK†WISHによって歪んだ人々ではなく、『DARK†WISHのもと』を使っていちから作り出されたコピー体たち。
 南部戦線の猛者達がコピーされており、もしかしたらROO世界で南部戦線に参加しているという設定のPCNPCあなたのコピー体が混じっているかも?

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●ROOとは
 練達三塔主の『Project:IDEA』の産物で練達ネットワーク上に構築された疑似世界をR.O.O(Rapid Origin Online)と呼びます。
 練達の悲願を達成する為、混沌世界の『法則』を研究すべく作られた仮想環境ではありますが、原因不明のエラーにより暴走。情報の自己増殖が発生し、まるでゲームのような世界を構築しています。
 R.O.O内の作りは混沌の現実に似ていますが、旅人たちの世界の風景や人物、既に亡き人物が存在する等、世界のルールを部分的に外れた事象も観測されるようです。
 練達三塔主より依頼を受けたローレット・イレギュラーズはこの疑似世界で活動するためログイン装置を介してこの世界に介入。
 自分専用の『アバター』を作って活動し、閉じ込められた人々の救出や『ゲームクリア』を目指します。
特設ページ:https://rev1.reversion.jp/page/RapidOriginOnline

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • <グランドウォークライ>強襲のギアブルグ、電撃のザーバLv:20以上完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別EX
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2021年09月25日 22時05分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

フラッシュドスコイ(p3x000371)
よく弾む!
桜(p3x005004)
華義の刀
玲(p3x006862)
雪風
セフィーロ(p3x007625)
Fascinator
タイム(p3x007854)
希望の穿光
ベネディクト・ファブニル(p3x008160)
災禍の竜血
きうりん(p3x008356)
雑草魂
デイジー・ベル(p3x008384)
Error Lady
鬼丸(p3x008639)
鉄騎魔装
アズハ(p3x009471)
青き調和

リプレイ

●本能が呼んでいる
 灰がある。空がある。吹きすさぶ風がある。
 まるでモーセの軌跡のごとく左右に分かれなぎ倒された町の風景の、その中心に巨大移動要塞ギアブルグはそびえ立っていた。
 天守閣をもつ和城風のそれは、いまも主砲をギアバジリカへと向けていた。
 それを放たないのは、ギアブルグの手前に立ち、かの移動要塞を越えるプレッシャーをこちらに浴びせる一人の男ゆえである。
 ギアブルグを脅しにつかってこちらの兵力を試したいから、ではない。
 自分自身の手で、こちらの要塞ギアバジリカを破壊し尽くしたいからだ。
 余計な小細工はさせまいとして展開したコピー戦士によるシャドーレギオンたち。
 その上にふわりと浮かんでこちらを見つめるリュカシス。
 ギリ、と歯を食いしばってそれをにらみつけるのは、学兵隊のジェイビーだった。大柄な身体で胸を張り、その肩に『はやい!』フラッシュドスコイ(p3x000371)を担ぐ。
「言ってやれドスコイ!」
「いいとも、我が心の友、ー!」
 ぽっきょんという変な音と共にフラッシュドスコイから出現したメガホン。
 大声を張り上げ、呼びかける。
「学び舎の盟友達! 力を貸して!
 敵はシャドーレギオンとはいえ名だたる戦士達! 彼らと戦えるなんて、こんなに楽しい事はないよね!」
 呼びかけに対して、学兵たちは顔を見合わせた。「あんな生徒いたか?」とか「なんか既視感のある奴だな」とか言い合っていたが、ざわめきも次の言葉で消えた。
「必ずや勝利を! 然るのち生還を! 武功をあげろ!」
 フラッシュドスコイは――否、真のリュカシスは知っている。
 出身も性格も違う学友達が共通して持っているものを。
 ギラリと光った彼らの目に頷き、そして余った袖を振り上げる。
「突撃ーー!!!」

 シャドーレギオンと学兵達たちが真正面からぶつかり合う。
 コピーとはいえ南部戦線の英雄達。戦力はかなりのものだ。
 そんな彼らの頭上を、『鉄騎魔装』鬼丸(p3x008639)は機脚皇瑪駕推進器(レッグオメガスラスター)で飛び越えた。
 一気にこのまま――とは考えていない。
 ピリッとした殺気を感知してカーブをきると、つい先ほど鬼丸がいた場所をマジカル☆アハトアハトの魔力砲弾が抜けていった。あまりの威力ゆえか、当たってもいないのに身体が揺さぶられる。
 だが、それだけだ。
 それだけなのだ。
「強い弾ならものいわぬ機械にでも撃てる。空から落ちる隕石にだってできる。
 この魔法に『心』は無い!」
 グンッと直角にカーブ。今度は先ほど砲撃を放ったオニキスコピーめがけてだ。
 次なる砲弾を放とうとする前に、鬼丸のドリルアームがその武装を破壊。どころか、衝撃のあまりその後ろと更に後ろの戦士たちまで螺旋状のエネルギーが貫通し、パチュンという水風船のような音をたてて――いや、実際水風船のように破裂して消えてしまった。
「『あのオニキス・ハート』と戦ったから分かる。姿を真似ただけの力じゃあ、私達を止められないよ!」
「その通りだ」
 ぽいんとジャンプしたポメラニアン――否、ヒューマンフォームにチェンジした『蒼竜』ベネディクト・ファブニル(p3x008160)はドラゴンの力を引き上げ、竜刀『夢幻白光』を引き抜いた。
 大上段どころか頭上から打ち出された斬撃が、彼からみて右から左の真一文字に走る。あまりにもあっけなく消滅するシャドーレギオンたちに、ベネディクトはフッと失笑を漏らした。
 だが油断はしない。なぜなら、消えたそばから新しいシャドーレギオンが粘土細工のように生成され、動き出し始めたからだ。
「此処が正念場だ、皆。踏ん張ってくれ! 俺達も、全力を尽くす!」
 そう叫び仲間達を前へ進め――ようとした矢先。
 彼めがけて円錐状のナイトランスが飛来した。
 腕に宿した竜の力でそれを撃ち弾くと、まるで意志をもつかのように『持ち主』へと槍が帰って行く。
 それをキャッチしたのは、馬に乗る黒狼王の騎士であった。
 南部戦線部隊英雄騎士ベネディクト=レベンディス=マナガルムは馬上よりベネディクトをにらみつけた。
「……貴様、似ているな」
 『誰に』かを問うまでもない。ベネディクトは自分を摸したPCNPCマナガルム卿に対して刀を構えた。
 竜の力が腕に、両目に、そしてなびくマントにオーラの光となって湧き出す。
 突撃を駆けてくるマナガルム。走り出し、跳躍するベネディクト。
 刀と槍が、鋼の獣が吠えるが如き音と共に交差する。

「さっきのを見たし、予想はしてた……!」
 『サクラのアバター』桜(p3x005004)は立ち止まる。
 美しい和装にヒールのたかいブーツというアバターフォーム。なびく赤い髪は元々彼女がもっていたそれとよく似ていた。
 相手は――南部戦線英雄聖騎士サクラは刀を抜いてこちらへと突きつけてくる。
 よく知っている目、よく知っている髪、よく知っている刀身、よく知――。
「敵も殺せば同じ肉だよね、サクラちゃん!」
 知らない鮫が肩の上を浮いていた。
 二度見する桜。
 が、そんな余裕を与えてはくれないようでサクラは豪速で距離をつめ、どこからともなく現れた桜花の吹雪に身を隠す。
「――ッ!」
 背後から気配。
 と同時に前方、と同時に側面、と同時に――。
「上!」
 跳躍で逃れようとすると同時にムーンサルトジャンプをかけ、はるか頭上から突きおろされた刀を蹴りつけることで狙いを外させる。
 パッと散った花吹雪。空中で刀を弾かれたサクラは回転しながらやや距離を取り、着地。
 同じく着地した桜はすぐさま突進からの斬撃を繰り出した。
 激突する刀と刀。乱れる髪と髪。
 真正面からにらみ合う、青い瞳。

「にゃーっはっはっはっは!
 外に繰り出してみれば祭りか! 祭りをやっておるではないか!
 大将首に不足なし! のう! 妾も混ぜい! ちょっと首獲ってくるのじゃ!」
 『緋衝の幻影』玲(p3x006862)は腰のホルスターから黒と銀の拳銃をそれぞれ抜くと、指をひっかけてくるくると回す。
「現世と外れた歴史とて、妾が経験知らぬ歴史、されど『決まって』はおらぬ歴史!
 で、あればやることはただ一つ! いっぱい殺して殺されようぞ!」
 左右の腕を交差させ、銃をフルオートモードに切り替える。交差状態から両腕を翼のように開くフォームへとスライドさせながら銃を連射。並み居るコピー英雄たちが軒並み払われ、吹き飛んでいく。
「この流れ……分かっておるぞ。奏も他のアンロットセブンも出た以上、ここは満を持してのROO秋奈のォ――」
 ぐるんと振り向き水平に構えた二丁拳銃を向けた先に、彼女はいた。
 二本指を額につけてちょっとセクシーな腰つきでウィンクする……。
「やっ、たかくらさんだよ」
「なんでじゃああああああああああああああああ!」
「はいアンコールにお応えして、たかくらビーム」
 ウィンクひとつで放たれたビームがギニャアといいながら身体を弓形に反らしたことでギリギリ回避した玲を通り抜け、ずっと先にある建物と他の英雄コピーたちを20人規模で破壊した。
「あれ? お呼びじゃなかったかな?」
 それとも出るとこまちがえた? と言いながら高倉-■■■は自分のこめかみに二本指をつきつけ首をかしげた。そして、頭越しに天空へ向けてビームを放つ。当然死んだし水風船みたいに弾けてきた。
「……な、なんだったんじゃ今の……」

「やれ。ついこの間酷い目に遭ったばっかりだってのにね。私も相当に懲りない女だわ」
 そう言いながらバイクで乱戦のなかを駆け抜けていく女、『Fascinator』セフィーロ(p3x007625)。
 時折邪魔な敵を撥ねつつ目指すは敵陣の中心でもあるリュカシスのもとへだ。
 が、セフィーロは本能的な直感をえてバイクから飛び退いた。
 それまで跨がっていたバイクに槍が突き刺さり、そして爆発したのである。
「最近よく壊れるわねこのバイク……」
 修理代がかからないからいいんだけど、と言いながら前髪をかきあげ、そして立ち上がる。
 見るべきはバイクではない。
 刺さった槍、でもない。
 その、あまりにも見覚えがありすぎて心にまで突き刺さった槍の、持ち主を。
「無難に避けたか。調子に乗ってくれれば楽だったんだが」
 槍を持った初老の男性である。やや後退した白髪と、ほっそりとした身体。しかし手には歴戦の跡があり、目にはそれ以上に鋭い歴史を感じさせる。
「コピーだの、写しだの、あんまり良い思い出がないのよね……今その記録が更新されたわ」
 が、迷わない。過去何度もやったのだ。
「此の手合いを相手にするときのコツは一つ。どんな顔の奴が出てきたって、感傷に浸るのはナシってことだわ!」
 落ちた槍を拾いあげ、なじんだ動きで相手の心臓を突き刺――そうとした動きを先読みした相手の男は槍を手の甲で小さく払うようにかわし、セフィーロの喉に親指を突きたて――ようとした動きを先読みしていたセフィーロは槍をはなしてスピン。相手の側頭部に肘をたたき込む。
「でもって、ホンモノには劣るって相場が決まってるのよ」

 女騎士が立っていた。
 『月将』タイム(p3x007854)の行く手を阻むように立つ。桜色を基調とした色合いのフルプレートアーマーに身を包み、両手剣を手にした騎士である。
 兜に収まりきらず、編み込まれた金髪とシールドバイザー越しに見える夏の空のように青い瞳には見覚えがあった。
 鏡でよく見る色だ。
 その背景にはギアブルグ。一方タイムの背景にはギアバジリカ。
 遠近感が狂うようなその光景にふらつきそうになるが、タイムはぐっと腰を落としたような構えをとった。
「あ、あなたなんて全然怖くないんだから! わたしが相手よ!」
 挑発に答えたコピー英雄たちが集まってくるが、桃色の女騎士には通じていないようだ。が、それでもコピー英雄たちと共に突撃を仕掛けてくる。
(今回は勝ち目のない時間稼ぎ。うう足がちょっと竦む……でもやらなくちゃ。
 これ、所謂イベントバトルってやつじゃないの? 違うの?)
 タイムは覚悟を決めて飛び込んだ。
 首を狙っての相手の斬撃をスライディングでよけ、地面をパンと叩く勢いで跳ね起き反転。地面に踵をうちこむように踏ん張り、全身を使って脳内でコマンドを入力した。
「たいむぱんち!」
 拳は、剣から片手をはなし急速に身をひねった桃色の女騎士が腕の装甲部でタイムの拳をガードする。
 衝撃がはしり、風が砂を薙いだ。
「今だよ、ドスコイさん!」
 が、この拮抗はあえて狙ったものだ。
「トゥ!」
 『雑草魂』きうりん(p3x008356)がこちらに背面を向けたまま跳躍。彼女の頭上にはスピンしながら跳躍(?)するフラッシュドスコイの姿があった。
「そっちは任せたよ! きうりんしゅーと!」
 ムーンサルトの動きで繰り出したオーバーヘッドキックによってなんかぐにゅって歪んだフラッシュドスコイが謎にライトグリーンな光を纏って飛んでいった。
 邪魔になるコピー英雄たちを破壊しながら。
 そしてきうりんはきうりんでグベッていいながら頭から地面に落ちた。
 一斉に銃や弓や魔法の狙いを定めるコピー英雄たち。
 起き上がっててへぺろするきうりんに集中砲火が浴びせられ、激しい爆発と土煙に包まれた。
「やったか!」
 コピー英雄のひとりが叫ぶ。
 晴れゆく煙。
 その中には……。
「…………」
 それはもう完膚なきまでに死にまくったきうりんがいた。
「え、やったの?」
 言った自分を疑うみたいに周りに同意を求めるコピー英雄。
 が、次の瞬間。ピチュンと消えたきうりん(死)と入れ替わるようにネオきうりんが現れた。
「私がROOで何回死んだと思ってるんだ!! 何回でも蘇ってザーバくんに挑んでやるぜ!」
 きうりんドロップキックが炸裂し、コピー英雄を蹴り倒す。
 そしてグベッていいながら腰から落ち、一斉に銃や弓や魔法の狙いを以下略――。

 仲間達の切り拓いた道は、確かにザーバへと届いている。
 学兵たちが突撃し押さえ込んだコピー英雄たちの中を、『機械の唄』デイジー・ベル(p3x008384)が駆け抜ける。
(命が無い機械の私が死に戻りなど少し不思議な心地ですが……えぇ、全霊で依頼の遂行を)
 決意の光を目に宿し、ザーバへ一騎打ちを――とした矢先、彼女は本能的危機を感知して飛び退いた。
 もしそれがなければ、頭上から降り杭の如く突き刺さった男の拳が彼女の肉体(アバター)を破壊していただろう。
 黒いタンクトップシャツとダメージジーンズ。見上げるほどの背丈と隆々とした筋肉にまもらてたボディ。しかしそのすべてに生命の脈動はなく、地面に手首まで突き刺さった拳も一切痛みを感じていないかのように引き抜いた。
 何より特徴的なのは、男の首から上が箱形のCRTディスプレイモニターになっていたことだった。
 ゆっくりと立ち上がり、背筋を伸ばして視線(もとい画面)を向け見下ろす男。
 彼の放つ圧倒的迫力に一瞬だか半歩下がってしまった自分に、デイジー自身が驚いていた。
 この身、もといこの精神(アストラルレイヤー)にこれだけの本能があったことに。いや、違うのだろうか。アバターという名の肉体(パーソナルレイヤー)に感情(メンタルレイヤー)が引っ張られているだけなのかもしれない。
 が、退くわけにはいかない。退いた足を再び前に出し、右手に狂気(エラー)を、左手に狂気(エラー)を宿して飛びかかる。
 拳で対抗しようとする男に対し――
「起動(boot)――腐食風域・呪詛弾丸」
 暴風と弾丸がひとつとなって相手に襲いかかり、デイジーへ直撃した拳もろとも崩壊させていく。
 『アルコ空団“路を聴く者”』アズハ(p3x009471)はその隙を突くかたちで側面をまわり、ザーバへと直進する。
(随分と無茶苦茶な……でも、それができるのがゲームらしい。
 何度も死ぬのは解ってるし、なんなら経験済みだ。
 やり遂げる。何度だって、諦めない)
 対抗するように集団の中から飛び出したのは。右腕と両足を鋼に変えた戦士だった。
 ブルーのヘルメットをしているせいで個人を判別できないが……。
「そんな気はしていたよ」
 アズハは目を閉じたままスッと片腕をかざした。機械の腕がカパッと音を立てて開き、手のひらから銃口が現れる。
 格闘戦を想定していたらしい相手は咄嗟に防御姿勢をとるが、構わずアズハは手のひらの銃口から機関銃のごとき連射を浴びせかける。
 常人であれば血煙と化しそうな威力と連射に対し、相手はかざした腕と膝のガードでなんとか耐えきって見せた。
 が、しかし。
「コピーの限界、かな」
 射撃しながら急速に距離を詰め、そして網一方の腕を、手のひらを相手に突きつけた。
「チェックメイトだ」
 ドゥっという音と共に迫撃砲の如き衝撃が走る。相手は水風船のように弾けて消滅し、その後ろにあったザーバまでも巻き込んだ……筈だが。
「面白い」
 ザーバは身体にへばりついた黒い粘液状の物体を手でなでるようにすると、歯を見せて笑った。
「これが痛みか」
 完璧に巻き込んだはず。だが、ザーバの肉体に微々たる傷もつけていない。
 別に不思議じゃあない。分かっていたことだ。
「『ついで』で倒れるような相手だったら、困っていたところだ」
 再び構え、そして薄目を開ける。
「ザーバ将軍。一騎打ちを申し込む。
 少なくとも、暇にはさせないよ」

●破壊と、破壊と
 幾度となく、死があった。
 学兵達を庇う形で、リュカシスやザーバに滅ぼされる形で。
 全員あわせて両手の指より多い数に達し、やっとという具合で『アズハの番』がまた回ってきた。
「次は俺と戦おうか! 何度でも壊してみればいい」
 対するザーバは。
「ははは」
 楽しそうに笑った。友と酒を飲み交わす時のように、朗らかに、手すら叩いて。
「面白い。幾度壊しても復活するとは。面白いのう。だが――」
 ザーバの手が豪速でアズハの顔面を掴んだ。そして、地面に叩きつける。
「一方的に壊れるようでは、瓦礫を殴るのと変わらんぞ?」
「わかってる!」
 相手の腕を掴んで『頭を潰されないように』抵抗すると、足をザーバの腹に突きつけて足裏に開いたパルスキャノンを発砲。
 零距離から直撃しているはずだが、ザーバが痛痒を示す様子はない。動きが鈍る様子も、ましてや肉体が破壊される様子すら。
(これは、戻せるのか?
 破壊に満足すれば……だがそれでは、こっちがもたない。
 根本から解決せよということか)
 足を掴んで投げられながら思う。
 あまりの威力に建物を一つ突き抜けていったが、両手と両足を後方につっぱるように突き出しジェット噴射。
「欲求不満みたいだな。もっと壊したいならやってみろよ」
 ミサイルのように飛行すると、ザーバを思い切り殴りつける。
 ザーバは、アズハの拳を手のひらで受け……そして、僅かにビリッとした感覚を放った。
 相手が痛みに耐えている。確実に攻撃は効いている。それが、アズハには分かった。
 分かった瞬間に腕を握りつぶされ、次なる拳で肉体を粉砕される。
 だがそれでいい。勝つ必要などない。
「私が殴られるだけのきうりだと思ったでしょ! その通りだよ!!」
 間髪入れずに突っ込んでいったのはきうりんだった。
 周囲のコピー英雄たちが襲いかかろうとするが、スッと水平に伸ばしたザーバの片腕に制されるようにして止まる。
 空いた手でてまねきをするザーバに、きうりんはニッと笑って飛びかかった。文字通りに、跳躍して蹴りの構えを取ったのである。
 この状態のきうりんに【反】能力があることは、幾度もの戦いのなかでザーバは知っている。が、それでも。
「ぬぅん!」
 モーニングハンマーを投擲。跳び蹴り姿勢のきうりんをべっこりと損傷させ、地面へと沈ませた。
「まだまだだよ! まだ全然傷ついてないし! ぴっかぴかだし! そのまま食卓に並べるし!!」
 が、すぐに立ち上がる。きうりんの特殊能力『リボーンベジタブル』によって外見だけを修復したのだ。無論、HPは回復していないので……
「くらえ雑草のいちげ――」
 雑草ムシャムシャくんのオーラを最大限にまで高め凝縮したやけに緑臭い拳をザー場へ叩きつける寸前のところで、ザーバの斧が直撃した。
 『斧で殴られる』という現象にはあるまじき破壊が、おきた。
 大地に1m以上の溝が刻まれそれが40mまで伸び、その余波によってV字の衝撃が溝左右の空間を上向きに吹き飛ばし敵味方もろとも宙を舞わせる。その最先端にあったきうりんがどうなったかなど想像に難くない。
 そしてそれだけのダメージに対する【反】効果をうけたザーバにどれほどのダメージが入ったかも。
「ははは、はははははは……」
 それでも笑って、深く呼吸を整える。たったそれだけでダメージなど吹き飛んでしまうとでもいうように。
 表情は、実に晴れやかだ。
 味方からのテレパス通信が入ってくる。ギアバジリカの応急処置がもうじき完了するとのことだ。イレギュラーズたちが加わったことでマンパワーが増したのか、思ったよりも早い。
 それでも、分単位。
「もう一度、挑むべきでしょう」
 デイジーが狂気(エラー)を具象化。巨大な骨の手を作り出すとコピー英雄たちをなぎ払い、ザーバへと挑みかかる。
(破壊し尽くすのならやってみろ。何度でも貴方の前に立つ。
 前よりも長く、硬く、貴方と戦ってやる。
 DARK†DESPAIRなんて誰かから与えられたバグなんかで狂う奴に、負けてなどやるものか)
 生への渇望。死への恐怖。自分にはどこか無縁にすら思えていたものを胸にしっかりと抱き、デイジーはザーバの顔面へと殴りかかる。
 巨大な骨の手は直撃し――そして砕け散る。
 ザーバがギラリと獰猛に笑い放ったプレッシャーだけで破壊されたのだと気付いたデイジーはすぐさま『腐食風域』を発動。毒の風が暴風となってザーバへ吹きつける。北風と太陽の逸話では旅人のコートを冷たい風で剥ぎ取ろうとしていたが、この風は違う。心を腐らせ精神ごと剥ぎ取る凶悪な毒風だ。
 なのに、ザーバはギラギラと笑ったまま突き進んでくる。向かい風が心地よいとでも言わんばかりに両腕を広げ、なびく髪を遊ばせ、そしてその腕でがしりとデイジーを掴んだ。
 掴んだ、というより抱きしめたというほうが正しいだろうか。
 それだけの距離に近づくまで反応ができなかったのだ。それだけ素早く、それだけ強引に距離を詰めたということである。
 そしてこれが友好や愛情のハグでないことは分かっている。デイジーはそのほっそりとしたアバターにすべての力を注ぎ込み、腕をつっぱらせる。ザーバはそれを強引に押し込み、デイジーの肉体を圧迫していく。
「嬉しいのう。若い者が、こんなにも、俺のために命を賭けてくれる」
 はたと気付けば、ザーバは上下の前歯をむき出しにして笑いながら、だくだくと涙を流していた。
「なんと、恵まれた幸福かッ!」
 圧迫が限界を超えたデイジーが血を吐きのけぞると同時に、そのアバターがかき消える。
 玲がザーバのむき出しの腹に二丁拳銃を突きつけたのはまさにそのタイミングだった。
 そう、計っていたのだ。ギリギリこのタイミングに倒れることを、デイジーは意図して耐えたのだ。
「さー、お主! この妾が盛大に遊んでやろうではないか!  ――ATHGAMBR壱式!」
 リミッターを解除した銃のトリガーをひき、込められたすべての弾丸をザーバへ高速でたたき込む。
 ただ撃ち込むだけでなく、玲は左右に分身を生み出しそれぞれの方向から足や顔面、背や肩関節といった相手にとって弱みになりそうな部分すべてに対して連射をしかけていく。
 常人であれば奇妙なデスダンスを踊った後に、それが人間であったか判別できないほどくたくたに折りたたまれて沈んだことだろう。
 では常人の枠を越え超人の枠すら越えたやもしれないザーバでは……?
「ほう……」
 バキ、と音をたててザーバの鎧にヒビがはいる。
 鋼鉄帝国の守護神が待とう最上級の鎧に、ヒビが。これまで積み重ねたダメージが、それだけザーバという高みに届いたということだ。
「精強なる戦士よ、戦の神よ、感謝するぞ……!」
 ガッと玲の首をつかみ取る。そしてハンマー投げのごとく大回転をかけると、ギアバジリカめがけて投擲した。
 ボッと音をたて壁面を破壊。倉庫の一角に突っ込んだ玲は小麦粉の袋に激突して粉を散らした。
「まだまだ……」
 が、その目から闘志は失われていない。アバターが消えていくが、すぐに復活して挑みかかるだろう。

 一方で、こちらはある程度のカタがつきつつあった。
 学兵たちの奮闘によってコピー英雄たちの多くは倒され、新たな個体を作り出す頻度も減ってきた。
 リュカシスにとってこの『英雄のコピーを作り出す』という能力には、それなりの制限や限界があるのかもしれない。
 そもそも……。
「やい!リュカシス! なにがパーティーだ! 友達にも心配かけて! ばかやろう! おたんこなす!」
 復活してギアバジリカの大砲(出撃用)から発射されたフラッシュドスコイが、リュカシスの手にばしりと止められる。
 杖で撃ち弾かれて飛ぶが、くるくると回転して同じく復活したタイムにキャッチされる。
「さっきから、なんで自分の力で戦わないんだ! 自分も、友達も、何も信じてない戦い方じゃないか!」
 フラッシュドスコイの指摘は正しい。
 リュカシスは一個体で大部隊を作り出せる恐るべき怪物だ。
 だがそれは、ザーバのような『圧倒的な個』という力を持たないのと同時に、本来のリュカシスが築き上げてきた友情や信頼による『頑強な絆』も持たないことを意味している。
 タイムの目から見ても分かる。あまりに、悲しい力だ。
「ドスコイさん、リュカシスは……」
「うん。こんなこと、絶対にしない。友達を裏切るようなことなんて……」
 ハハッ、とリュカシスは笑って前髪をかきあげた。大人びた、それこそ若い大人の声に聞こえた。
「友達? 迷惑? そんなものに遠慮して何になるんです」
「……へえ、言うじゃない」
 コピー英雄をハイキックで倒したセフィーロが振り返る。
「だったら、あなたは何になりたいっていうのかしら? チャンピオン? 大統領(プレジデント)? それとも大金持ち(リッチ)?」
 挑発的に言ったが、リュカシスもまた挑発的にそれを受けた。
「力、名声、富……いいですねえ。けどどれも違う。僕は『いちばん』になりたいのですよ。この国でいちばんにね」
 分かるでしょう? とでも言うように肩をすくめる。
 フラッシュドスコイは……。
「わかるよ」
「だったら――」
「けど――!」
 ギュン、と顔面のモニターが真っ赤に染まった。
「それは『誰かを蹴落として』『誰かを潰し合わせて』『他人に失敗させて』得るものじゃないんだ! ボクが憧れたのは、そんな『いちばん』じゃない!」
「その意気だよ、ドスコイさん!」
 タイムはフラッシュドスコイを大きく振りかぶると、リュカシスめがけて思い切り投げつけた。
「チッ――」
 リュカシスが舌打ちをした。初めて余裕の崩れた瞬間だった。タイムの放ったボールの威を殺しきれないと悟ったからだ。
 豪速で迫るフラッシュドスコイ。杖をぎゅっと握りしめ、打ち返す構えをとる――その瞬間、セフィーロがバイクに跨がって後方から激突した。
「お熱いのはお好きかしら? こいつは私からの奢りよ!」
 いつもの愛車とは異なる、エクスギアの悪路強襲用三輪走行オプションである。
 が、威力は本物。不意打ちを食らったリュカシスの表情に今度こそ余裕が消えた。
 フラッシュドスコイが、真っ赤に光る。
「思い出せ! きみが憧れたのはそんなにお手軽で独りよがりな最強じゃ無い筈だ!」
 ドウッ、とリュカシスの腹に直撃するフラッシュドスコイ。
 タイムとフラッシュドスコイのパワーが合わさり、リュカシスの魔力防壁を突破し身体に直撃させたのだ。
 うめき声をあげ、転がるリュカシス。
「僕が……僕は……僕のために……なんで……」
 頭を抑え、痛みにこらえているようだ。
 今しがた与えたダメージではない。彼の心の中で泥のように絡みついたものと、それに抗う痛みだ。
 と、その時である。
『修理完了! ギアバジリカ、出るぞ! 総員ギアバジリカまで撤退!』
 すさまじい音量で、ギアバジリカから放送が流れた。

 一斉に撤退していく学兵部隊。
 倒れたリュカシスはゆっくりと起き上がり、忌々しげにギアバジリカを睨んだ。
 ゆっくりと、しかし確実に巨大な鋼鉄の蜘蛛足を動かし始めるその姿を。
 が、しかし。
「待て。まだ終局には早い」
 ザーバは、違う。
 あえて両手の武器を放り捨て、鎧すらも捨て、鉄壁であった防御形態を取り払い、あえて腰布ひとつで走り出したのだ。
 その速度はすさまじく、ギアバジリカに追いつくことも容易。
 牽制射撃が浴びせられ、機関銃や大砲が火を噴き、幾度と無い爆発に見舞われるが止まらない。弱まらない。
 ギアバジリカ内で復活した桜に、駆けつけたショッケンが大声でよびかける。
「二人とも、頼む! もうひと仕事だ!」
「……言われなくても!」
 サクラメントルームから飛び出し、窓を蹴破り外へ飛び出すと甲板を走りに走って跳躍。
 こちらを追いかけるザーバめがけて、抜刀。
「ザーバ・ザンザ! もういちど、一騎打ちを申し込むよ!」
「望むところ!」
 大上段から全力で打ち込む刀が、ザーバの素手によって握られる。そして、へし折られる。
「ザーバ、貴方は今楽しい?」
「ああ、楽しい、楽しいとも!」
「帝国のすべてを犠牲にしてでも!?」
「ああ、もちろん。この快楽こそ至上、だのう!」
 歪んだ喜び。歪んだ願い。
 折れた刀の柄を握りしめながら、桜は吼えた。
「ならば覚えていなさいザーバ・ザンザ!!
 私は特異運命座標の桜! 必ず貴方を助け出してみせる!」
 そして、桜の膝蹴りがザーバの顔面にぶち込まれた。
 鼻血を出しながら笑うザーバ。
 そして繰り出した拳が桜のボディに命中――するのと同時に思えるほど高速かつ連続で、数十発の拳が連続で打ち込まれる。
 ボディの限界。だが構わない。
「後退だ、桜!」
 サーバめがけ、『黒鉄十字柩(エクスギア)』が直接突き刺さる。
 否、その先端はザーバの手によって止められた。
 バガンと音をたてて開く棺から飛び出したベネディクトは、そうなることを予期していたかのように竜の力を解放。オーラがまるで翼のように広がり、彼の目に竜の輝きを持たせた。
「ザーバ・ザンザ! 鋼鉄帝国の守護神、最強の一角。お相手願おう!」
 振りかざした両手に、竜の腕の如きオーラが被さる。否、オーラだけではない。その爪はザーバをクロスし、胸に酷い傷を作った。吹き上がる血を浴びながら、ザーバはしかし笑う。
「例えどれだけお前が強かろうと、心だけは折れない。絶対にだ!」
「それでいい。折れてくれるな。破壊し尽くすその時まで!」
 ベネディクトを強烈なパンチが襲う。ボディをうろこ状のオーラで護っていたとはいえ、ベネディクトは派手に吹き飛ばされギアバジリカの足に激突。そしてアバターを消滅させた。
 一方的な勝利……に見えたが、違う。
 拳を振り抜いたザーバは、立ち止まっていた。
 ベネディクトの見せた覚悟が、桜の見せた覚悟が、玲の狂気じみた戦意が、きうりんの素顔の下に隠れたしたたかさが、デイジーの見せた生への執着が、アズハの見せつけた気迫が、そしてリュカシスを一時的にとはいえ倒すに至ったフラッシュドスコイ、タイム、セフィーロの――。
 そう、彼らの『魂の輝き』ともいうべきものが、ザーバを戸惑わせた。

「俺は……なぜ……こんなことを……?」
 思わず呟いた言葉に、首を振る。
 既にこの世界に絶望したはずだ。
 国を護ることのむなしさを想ったはずだ。
 あらゆる手を尽くして戦った伝承王国の兵も、結局望んでいるのは勝利でも敗北でもない現状維持。
 帝国も王を頂かぬまま内乱を続け、自分が忠義を尽くすべき相手はいない。
 仮にいたとしても、瓦礫の上に立った野獣にすぎない。
 そんな者が自分に何を望むだろうか。そんな国にはたして義はあるのだろうか。
 『いいや、俺は■■■■■■■■■■■■■■■■■■――』
 心の中で誓った何かが、黒く塗りつぶされているように思えた。
 大切な思い出のなかに輝く光景が、塗りつぶされているように思えた。
 そしてその闇を、イレギュラーズたちの魂の輝きが、ほら、こんなふうに――。

「ザーバ・ザンバ!」
 鬼丸が輝きを放った。それは確かに、魂からの輝きだった。
 変形し鉄騎魔神モードとなった彼がザーバの前に立ちはだかる。
「『私』は……オニキス・ハートは、貴方の下でなら、力を持たない人たちを守れると信じていた。
 貴方が望む戦いは、ただ壊すためのものではなかったはずだよ」
「ぐ……」
「貴方はもう『私』の信じた貴方じゃない。今の貴方には何度倒されても絶対に負けない……!」
 まぶしい程に吼える鬼丸が、その魂の輝きが、ザーバの心の闇をはらうような気がした。それが、恐ろしいと思えた。
「黙れ――!」
 圧倒的破壊の力が右腕に宿る。
 対して。
「螺旋徹甲氷結拡散閃瑪駕閃光――螺旋氷結瑪駕閃砲(アクティブフルバースト)!」
 右腕に完全集中させた全兵器の力を、ザーバへとぶつける。
 拮抗する力。
 だが、打ち抜いたのはザーバのほうだった。
 その拳が鬼丸の全武装を破壊し、腕を破壊し、そのままボディをも粉砕した。
 消えていくアバター。
 だが、ザーバはがくりと膝を突いた。
 両目を見開いたまま、走り去るギアバジリカを見つめている。
「なんなのだ……この……輝きは……」
 思い出しそうになる。
 なにか、とても、とてもとても大切なことを。

成否

成功

MVP

鬼丸(p3x008639)
鉄騎魔装

状態異常

フラッシュドスコイ(p3x000371)[死亡×3]
よく弾む!
桜(p3x005004)[死亡×5]
華義の刀
玲(p3x006862)[死亡×4]
雪風
セフィーロ(p3x007625)[死亡×2]
Fascinator
タイム(p3x007854)[死亡×2]
希望の穿光
ベネディクト・ファブニル(p3x008160)[死亡×3]
災禍の竜血
きうりん(p3x008356)[死亡×7]
雑草魂
デイジー・ベル(p3x008384)[死亡×5]
Error Lady
鬼丸(p3x008639)[死亡×4]
鉄騎魔装
アズハ(p3x009471)[死亡×3]
青き調和

あとがき

 ――ザーバおよびギアブルグを払いのけ、首都進撃の再開に成功しました!

 ――ザーバとリュカシスの心に、強い楔を打ち込んだようです。
 ――DARK†DESPAIRに対し、『魂の輝き』が有効であるという仮説が生まれました……。『魂の輝き』が何であるのかについては、今だ解明されていません。

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