PandoraPartyProject

シナリオ詳細

老小鬼、凶の獣と邂逅すること。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●獣、吠える
「お断りだ」
 と、ハウザー・ヤークは言い放った。
 ここはR.O.O、ネクスト世界。つまり練達のコンピュータによって再現された仮想世界であり、今特異運命座標たちがいるこの地も、傭兵(ラサ)ではなく、似て異なる国である砂嵐(サンドストーム)だ。当然、目の前にいるハウザーも、現実のハウザーではなく、仮想世界に再現されたハウザーである。とはいえ、その性質はさほど変わりない。些か悪によってはいるものの、その資質は直情的、即物的、本能的……すなわち獣。
 さて、そんな獣の本域たる傭兵団『凶(マガキ)』の本拠地に乗り込んできたのは、言うまでもなく特異運命座標たち、そしてキドー・ルンペルシュティルツなる老作家である。キドー、と言う名の通り、彼はR.O.O世界におけるキドー(p3p000244)であるが、R.O.Oにおいては齢を重ね、老いたる作家として再現されていた。
「おお、怖い。その辺の子犬ならビビッて逃げ出すだろうが、俺達はキャンキャン吠えられるのには慣れっこなんだ」
 肩をすくめてみせるキドーに、特異運命座標、トモコ・ザ・バーバリアン (p3x008321)は、クシィ (p3x000244)へと耳打ちした。
(R.O.Oのキドーは随分と肝が据わってんな)
(喜ばしい話だが、ハウザーの前でこれは命がいくつあっても足りねぇぞ、この爺)
 トモコとクシィ、そして残る六名の特異運命座標たちは、このキドーに「取材の護衛」として雇われた者たちだ。確かに、クエスト詳細にも「砂嵐の傭兵団と接触するキドーを護衛する」程度のことしか書いていなかったが、まさかその取材対象がよりにもよってハウザーであったとは。
(大丈夫か? この爺さん(キドー)殺されないか?)
(知らねぇよ、なんか秘策でもあるんじゃねぇの)
 とはいうものの、自分だったら間違いなく、ハウザーに対する秘策などは持ち合わせていないだろうな、とクシィは胸中で嘆息する。ハウザーはキドーを睨みつけると、
「安っぽい挑発だな、爺。お前の話は聞いてる……砂塵の小鬼、そこそこに名の知れた傭兵だったな」
「今は優しい作家のお爺ちゃんだよ。で、もう一度言うが、アンタの武勇伝を取材させてもらいたい。礼金は払う。ま、貧乏作家なので唸るほどはだせんが?」
「断るっつってんだろ」
 ハウザーが、ぼう、と酒臭い吐息を吐き出す。それだけで、まるで獣の雄たけびをきいたような緊張感が、一同に走った。
「何故だ――いや、気持ちはわかる。俺ら傭兵は武勇が日常だ。先月食ったどうでもいい朝飯のことをいちいち覚えてられるか? と聞かれればノーだ。だが、それが日常であるような連中だからこそ、たまに食う御馳走の話は聞く価値がある」
「お前に語って俺達に何のメリットがある。大体、お前が連れてる護衛の連中、前の伝承攻めの時に邪魔した傭兵じゃねぇのか?」
「アンタに歯向かえるような馬鹿じゃなきゃ護衛に雇わねぇよ。で、メリットはねぇよ。小銭が稼げることと、アンタが死んだ後も、アンタが語り継がれるくらいだ」
「俺は俺が死んだ後に謎興味はねぇ」
 ぎろり、とにらみつけるハウザーに、肩をすくめてみせるキドー。
(おい、これ本当に大丈夫か? 死にイベじゃねぇの?)
(アンタがそう言うか? まぁ、大丈夫だろう? それならそうとクエスト詳細に描いてあるだろうし――)
 トモコがそう呟いた瞬間、ハウザーは特異運命座標たちをじろり、と見た。明らかに値踏みされている感覚。気後れしない程度に、腹に力を籠める。
「そうだな――」
 ハウザーがぐるる、と唸った。
「俺は酒が飲みてぇ。酒絵を飲むにはつまみが必要だ」
「するめでも食うか?」
 キドーが言うのへ、ハウザーは嘲笑った。
「お前ら、ちょっと殺しあえ」
「あ?」
 ハウザーが、特異運命座標たちを指さして言うのへ、トモコが声を上げtが。
「凶には新入りの希望が後を絶たなくてな。いちいち審査するのも面倒だが、ちょうどいい。お前ら、新入り希望とまとめて殺しあえ。お前らが生き残ったら、しょうがねぇ、少しくらいなら話をしてやる」
「いいのか? 殺しちまって?」
 クシィが尋ねるのへ、ハウザーは嘲笑った。
「お前らに殺されるような奴が、凶の名を名乗れるとでも? ああ、それからこれは俺からの注文だ。ツマラネェ戦いはするな。派手にやれ。俺の酒のつまみになるようにな」
(――つまり、凶頭サマは、酒のつまみに血を所望でいらっしゃる)
 クシィがうなだれた。メンドクセェ。が、これもクエストか。
「おう、護衛共、出番だぞ。俺は見ての通りジジイだから戦えん。精々派手に暴れてくれや」
 キドーがケタケタと笑いながらそういうのへ、トモコは頷いた。
「ま、ここでグダグダ話し合うのも性に合わないからな。暴れて済むならそれでいい」
「剛毅だな、女。精々楽しませてくれよ」
 ハウザーがにぃ、と口元を歪ませるのへ、トモコもまた笑って返した。
 かくしてそののち、一同は凶の領土の一つである廃遺跡へとやってきた。目の前には、数十の血の気の多い獣種たちがおり、明確な殺意を持ってこちらを睨みつけている。
「よし。じゃあお前ら、派手に殺しあえ」
 ハウザーの言葉に、獣種たちは怒声をあげた。これもクエスト、やるしかない。特異運命座標たちは武器を構え、獣種たちの雪崩を迎え撃つのだった。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 此方のクエストは、キドー・ルンペルシュティルツからの護衛依頼(リクエスト)によよって発生したものになります。

●成功条件
 ハウザーを満足させるような戦い方で、敵をすべて撃退する。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●状況
 R.O.Oのキドーさんから、取材のための護衛を依頼された特異運命座標たち。その取材先は、よりにもよって砂嵐の傭兵団、『凶』の本拠地、取材対象は彼のハウザー・ヤークでした。
 粘り強い交渉の末、取材を勝ち取ったキドー。しかし、そのための条件として、凶の入団希望者と命をかけて戦う事となります。
 皆さんは、この新入り希望の群れを討ち取り、取材権を勝ち取るのです。
 とはいえ、あまり地味で面白くない戦い方をしては、ハウザーの不興を買います。
 派手に殺したり殺されたりするのが、ハウザーの注文です。
 クエスト開始時刻は昼。フィールドは廃遺跡。あちこちに遺跡の残骸が転がっている他、地面は砂地となっています。

●ROOとは
 練達三塔主の『Project:IDEA』の産物で練達ネットワーク上に構築された疑似世界をR.O.O(Rapid Origin Online)と呼びます。
 練達の悲願を達成する為、混沌世界の『法則』を研究すべく作られた仮想環境ではありますが、原因不明のエラーにより暴走。情報の自己増殖が発生し、まるでゲームのような世界を構築しています。
 R.O.O内の作りは混沌の現実に似ていますが、旅人たちの世界の風景や人物、既に亡き人物が存在する等、世界のルールを部分的に外れた事象も観測されるようです。
 練達三塔主より依頼を受けたローレット・イレギュラーズはこの疑似世界で活動するためログイン装置を介してこの世界に介入。
 自分専用の『アバター』を作って活動し、閉じ込められた人々の救出や『ゲームクリア』を目指します。
特設ページ:https://rev1.reversion.jp/page/RapidOriginOnline

※重要な備考『デスカウント』
 R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
 現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。

●サクラメントについて
 強化型サクラメント(リスポーンポイント)が近くに存在するため、一人につき数度程度は、死亡しても数ターン後に復帰できます。
 死亡回数に関しては、ハウザーの不興を買う事はありません。むしろ派手に死んでくれた方が楽しんでくれる節もあります。

●エネミーデータ
 凶入団希望者 ×30
  凶の入団希望者である獣種の傭兵たちです。主に物理攻撃タイプ、近距離攻撃を重視するものが多いです。
  ヒーラーはおらず、とにかくガンガン攻撃してくるスタイルです。
  『出血系列』や『火炎系列』、『怒り』などのBSを持つ攻撃も行ってくるようです。

●NPC
 キドー・ルンペルシュティルツ
  R.O.Oのキドーさんです。今回の依頼人。
  戦場には居ますが、戦闘には参加しません。
 
 ハウザー・ヤーク
  R.O.Oのハウザーです。その性質はまさに獣。
  気まぐれから、皆さんが派手な戦いを見せてくれれば、取材を受けてくれることになっています。
  皆さんも話を聞きたいことがあるでしょうし、頑張ってハウザーを楽しませましょう。

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加とプレイングをお待ちしております。

  • 老小鬼、凶の獣と邂逅すること。完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年09月22日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費150RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

クシィ(p3x000244)
大鴉を追うもの
※参加確定済み※
グドルフ(p3x000694)
ユウキ(p3x006804)
勇気、優希、悠木
トモコ・ザ・バーバリアン(p3x008321)
蛮族女帝
※参加確定済み※
きうりん(p3x008356)
雑草魂
カノン(p3x008357)
仮想世界の冒険者
ウーティス(p3x009093)
無名騎士
キサラギ(p3x009715)
呉越同舟

リプレイ

●獣たちの宴
 怒号。雄叫び。鬨。そう言ったものが、正面から聞こえる。目の前にいるのは、無数のけだもの。
「たんなる護衛なんてつまんねぇと思ってたが、見世物にすンのが本命ってワケか。ハハッ! 面白ェジジイじゃねェか!」
 ケタケタと笑ってみせる豪傑、『雷火、烈霜を呼ぶ』キサラギ(p3x009715)。並の人間なら相対しただけで竦むであろう程の獣たちを前に、しかし大胆不敵に笑ってみせる。
「騙されンのは気に入らねェが、まァ相手は悪くない。次会った時きゃあ覚えとけよジジイ」
「おうおう、依頼料はきちんと払うんだから、精々派手に戦うんだぞ?」
 すごむキサラギに、客席の老小鬼、キドーは手など振ってみせる。
「ハッ! クソゴブリンに顎で使われるたあ、このおれさまも安くなったもんだぜ。
 ま……『此処』じゃあ、おれさまとあいつは出会ってねえからしかたねえ話か」
 そんな様子を見やりながら、『山賊』グドルフ(p3x000694)はキドーへと視線を送った。
「――オウ、ジジイ。その目ェかっぴらいてよく見とけよ! この山賊グドルフさまの華々しい活躍をな!」
「フン、精々生き残れよ? そうしたら、アンタの話も取材してやるよ!」
 カカカ、とキドーが笑う。此方の心配をする様子を見せないのは、信頼か、或いは肝が据わっているのか。
「こっちの世界のキドーさんは爺さん、か……ふーん、面白ぇ」
 『勇気、優希、悠木』ユウキ(p3x006804)が呟いた。それからふ、と口元を緩め。
「こうなると、こっちの俺が……じゃない。
 ──アタシがどんなヤツなのか気になる所だな、かかっ」
 そう言って笑う。まだ見ぬ自分、それとであるのも、R.O.Oと言う世界の面白さだろう。
「しかし驚いたな。まさかこっちのキドーは爺になってたなんてなぁ。
 てっきり長生きはできそうにないキャラとばかり思ってたんだが、傭兵稼業から足を洗って作家にねぇ……」
 『蛮族女帝』トモコ・ザ・バーバリアン(p3x008321)は腕などを組みつつ、うんうんと唸った。
「ケッケッケッ、すっかり丸くなってやんの! あの顔で童話とかも書いたりすんのかぁ?
 ちぃと興味出たからあとで読ませてもらうか。あれでファンシーなの書いてたらマジで笑えるよな。
 しっかし本人が見たらどんな反応すんのかね。そっちも興味あんな。なぁ、クシィ、アンタもそう思うだろ?
 このクエストを受注したのはそもそもアンタだからな。リアルでもキドーに縁がある奴じゃないのか?」
「ん、まぁ、そうだな。ちょっとした知り合いだな」
 と、『大鴉を追うもの』クシィ(p3x000244)が肩をすくめた。
「しかしあのジジイ! 特等席でノンキに観戦ってか!?
 クソッ、依頼人を戦わせる訳にもいかねェし、シワシワのジジイに応援されても嬉しかねェし……」
「そりゃわかるぜ」
 トモコがケタケタと笑うのへ、クシィは肩を落とす。
「ま、やるしかねぇんだがな……此処でハウザーの奴の機嫌を損ねて見ろ? サクラメントがぶっ壊れるまで殺されかねねぇ」
「おう、護衛共、怖気づいたか?」
 会話を聞いていたのか、キドーの隣に酒瓶を並べていたハウザーが嘲笑するように言う。
「まぁ、ビビった所で逃がす気はねぇ。戦わねぇならせめて奴らのサンドバッグくらいにはなれ。
 こっちは酔う気でいるんだ。上等なウイスキーも開けちまった! これをマズくさせたら隣の爺ともどもただじゃ済まさねぇ!」
「おおう、怖い怖い。と言うわけでさっさと頼むぞ、護衛達よ」
 肩をすくめてみせるキドーに、クシィは鼻を鳴らした。
「気楽なもんだぜ……ま、さっさとおっぱじめるのには賛成だ。準備は良いか?」
「きうりんはおっけーだよ!」
 『雑草魂』きうりん(p3x008356)が片手をあげて見せた。
「派手に死ぬのは、私、大得意だよ!
 私がROOで何回死んだと思ってるの!!ㅤまぁ、生憎と飛び散るのは血じゃなくて水分だけどね!!」
「きうりんさんは、きうり……? ですからね!」
 『仮想世界の冒険者』カノン(p3x008357)が言った。
「でもあんまり死んじゃだめですよ。痛いには痛いのですから」
「はーい、きをつけます!」
 きうりんが手をあげる。
「大傭兵の武勇伝となれば、まさに浪漫です! それで私達が戦う理不尽は本当に脳筋――としか言えませんが!!」
「だが、語り継ぐという事については、興味がある」
 『名もなき騎士』ウーティス(p3x009093)が言った。
「語り継ぐのが作家の役目、忘れられるが傭兵のさだめ。
 本人達は死んだ後のことには興味が無いそうだが、生憎私は死者を語り継ぐことに重きを置くたちでな。
 故に、此度は作家殿の代理として、存分に戦おうではないか」
「覚悟は決まったか? こっちじゃ酒を冷やす氷も結構手間がかかってな。魔術師共の苦労を無駄にさせるなよ?」
 ハウザーが嘲る。どっちが全滅しても、ハウザーにとっては面白い見世物なのだろう。
「こっちはオッケーだ。あっちで吠えてる野良犬の群れを放ってくれていい」
 クシィが言うのへ、ハウザーはその口を、にぃ、と歪めた。
「テメェもよく吠える。良いぜ。
 よし。じゃあお前ら、派手に殺しあえ」
 ハウザーの言葉に、獣種たちは怒声をあげた。まさに解き放たれた野獣の群れのように、凶入隊希望の獣種たちが、武器を手に駆けだす。
「じゃあ、魅せてやるよ。アタシの……アタシたちの戦いって奴をな!」
 ばし、と拳を打ち合わせ、ユウキが叫んだ。それに応じるように、仲間達も構えをとると、獣の群れへと向けて、一気に駆けだした!

●死の乱闘
「ぜんっいん!ㅤしゅーごー!!!
 はっはー!!ㅤ私を倒せる自信があるやつからかかってこーい!!!」
 きうりんが最前線へ立つ。両手を腰に胸を張って、どーんとやってみた結果、
『くそが! 舐めてんじゃねぇぞ! 死ね!!』
 無数の獣種たちが、ものすごい勢いで襲い掛かってきた! 振るわれる大剣や爪の乱舞! ちぎれ飛ぶきうりんの雑草!
「ぎゃーっ! 殺意が高い! まぁそうだよね! 砂嵐の凶に入りたいような人たちだもんね!
 わんわん吠えて可愛いねぇ!ㅤまぁ私犬語わかんないけど!!ㅤわおーん?」
「ハウザーからのリクエストでもある! 派手にやるぞ!」
 クシィは叫び、ナイフを構える。疾駆(ステップ)。一気に大剣士の獣種の前に立ちはだかるや、そのナイフを深々と腹へと突き刺す。
「ぐおっ!?」
「悪いな、まぁ運が良ければ生き残るだろうさ!」
 クシィが蹴りを入れつつナイフを引き抜き、次なる相手に躍りかかる――おっと、ここでめちゃめちゃ良い戦い方をしたら……自慢出来るんじゃあねェの!? アイツに! そんな乙女心をフルドライブしつつ、クシィが嵐のごとく暴れまわるのへ、さらなる暴風、グドルフが躍り出る。
 同じ嵐でも方向性が違う。クシィが素早さ、すなわち疾風であるならば、まさにグドルフは暴風! 
「オラオラオラ! かかってきな。ビビってんじゃねえぞ!?」
 巨大な大剣を振るい、その重量を以って獣種の双剣士を断ッ! ぎゃあ、と悲鳴をあげて、血飛沫と共に吹き飛ばされる双剣士。
「凶に入ろうってんだ、この程度でビビったなら今すぐ逃げ出せ! 情けで追わずにいてやらあ!」
 ちょいちょい、と小ばかにするように指を倒す=かかってこいの合図。グドルフへの怒りが、獣種たちの頭に血をのぼらせる。
「舐めるんじゃねぇ、ジジイ!」
 若い猫の獣種が、ダガーを手に躍りかかる。グドルフは飛び込んできたそいつを拳で力強く殴りつける! 顔面に拳がめり込み、猫獣種がダガーを取り落とすのへ、グドルフは器用にそれを奪い取ると、致命傷を避けて隣にいた兎獣種の太ももに突き刺した。兎獣種が痛みに身をよじらせた刹那、
「うおおりゃあっ!」
 気合と共に振るわれる、キサラギの居合の斬撃。雷電のごとく打ち払われるそれは、兎獣種の軽鎧ごとその身を斬って、戦闘不能に叩き込む。
「――はっ! 狐月三刀流は手数だけは多くてなァ、数が多いだけじゃオレは倒せねェよ!
 凶ってのも志望者はこんなもんか? だったら団員ってのも大したもんじゃねぇんじゃねぇのか!? ナァ!」
 挑発するようにいうキサラギに、観客席のハウザーは獰猛な笑みを浮かべた。
「小娘、今日の相手は俺じゃねぇだろ? 出だしは褒めてやる。グラスを一杯空けてやろう」
 ぐい、と強烈なアルコールをなんとでもなしに飲み干すハウザー。革袋から干し肉(ジャーキー)を取り出し、かじりついて見せる。
「ちっ、すっかり観戦モードか! まぁいい、言う通り、今日の相手はこっちのワンチャンどもだ!」
 キサラギがさらなる敵へと斬りかかる一方、ウーティスも狼の獣種へと立ちはだかっていた。
「私は『誰でもなき者』、名もなき騎士、破滅の先触れ――。我が剣が貴殿らの『最期の一触れ』となろう。いざ!」
 名乗りと同時に、いや、それすらも無視して狼がその長剣で襲い掛かる。振るわれる剣を、ウーティスはその手に持つ銀の剣で受け止めた。
「騎士気取りが! 俺達ぁ傭兵だ! テメェみたいにいちいち挨拶なんかしてられねぇんだよ!」
「だろうな。傭兵の作法も知っている。これは――そうだな、挑発ようなものだよ。貴殿はそれに見事に引っかかったわけだ」
 その銀の剣が、いや、全身が眩いほどの光に包まれる!
「なにぃ!?」
「我が身は光の風とならん――受けてみろ、光輝、烈風!」
 ウーティスの叫びと共に、その身が、その光が、まさに烈風のごとく走る! 光は戦場を駆け、獣種たちをなぎ倒した!
「全身全霊には全身全霊です、いざ!」
 カノンがその手に持つ術書を掲げる。途端、生み出された無数の魔術弾が、獣種たちを狙って飛翔、次々と着弾。魔力の爆発を起こす!
「ちっ、魔術師か! 邪魔クセェ!」
 クマの獣種が吠え、その両手につけた武闘爪を振るう。駆けるクマに、カノンは迎撃の魔力弾を発射!
「すごい、並の相手なら膝くらいついてもおかしくないのに……!」
 実力か、或いは気迫か。カノンの術弾幕を喰らい、なおクマは接近を諦めない。
「くたばれ!」
 いよいよ接近したクマが、カノンを狙う――が、カノンにも切り札はある。追い詰められたときにのみ発動できる、それは。
「させない――!」
 手にした術書から、魔力が迸る。刃のように至近距離から放たれたそれが、クマ胸を切り裂き、鮮血と共にその動きを止めた。
「クソが……!」
 悪態をつきながら、クマが倒れる。カノンが胸をなでおろした。
 さて、特異運命座標たちも相応の実力者であるが、獣種たちの勢いもそうそう落ちない。獰猛な気迫は勢いを増し、特異運命座標たちに重くのしかかる――だが、気迫と言う点においても、特異運命座標たちは決して後れを取ってなどはいない!
「アタシは逃げも隠れも、それどころか避けも防ぎもしねぇ。思う存分かかってこいや。
 だが覚悟しとけ? 避けも防ぎもしねぇとは言ったが、やり返さねぇとは! 言ってねぇからな!」
 片手で巨大な刃を振り払い、近寄る獣種をなぎ倒すはトモコ! 一方、よけも防ぎもしない、と言う宣言通り、振るわれた獣種の斬撃が、トモコの肌に新たなる傷を彩った。だが、この程度――肉を斬られたところで、腕は止まらない!
「温い攻撃なんざ求めちゃいねぇんだよ! 命とってみせろよ、オラァ!!」
 トモコの再び振るわれる斬撃が、獣種を殴り飛ばした。
「調子に乗ってんじゃねぇぞ、クソアマがァ!!」
 怒号と共に振るわれる、猪の獣種の巨大な鉄斧。トモコの肉体を鋭く切り裂き、鮮血をほとばしらせる――激痛がトモコの脳裏を駆け巡るも、しかしギリギリで立ち止まる。
「そうだよ、そう来なくちゃよぉ!」
 トモコが壮絶な笑みを浮かべる。

 一方、ユウキが獣種たちの間を飛び回る。一撃一撃を、華麗に、魅せるように。ギリギリで敵の攻撃をかわし、敵の攻撃の隙をついて、自身の攻撃を叩き込む。
「あのガキのは見世物の戦い方だな。傭兵のじゃねぇ」
 ガジガジとジャーキーを噛みながら、ハウザーが酒を煽った。
「進んでいるな。今のところは満足か?」
 キドーが尋ねるのへ、
「ふん。まぁ、まずい酒じゃねぇ。もっと血が欲しいが……」
「ハウザー。死んだら終わりだろう?」
 ハウザーは鼻で笑った。
「死んだら終わりだ。だから今愉しむんだろうが」

●武勇というもの
「よっしゃー!!ㅤじゃあもう私ごとやれー!! きうりん、大爆発――ッ!」
 きうりんが本日二度目の大爆発を起こす! あたりに飛び散る草を踏みしめ、残る6名の獣種が、猛攻を仕掛けた! どちらの陣営も、疲労は限界だ。この一合で、戦いは決まるだろう。
「ユウキ! アンタのスキルで正面のを打て! グドルフ、合わせてつっこむぞ!」
 クシィがそう言うのへ、ユウキは頷いた。
「了解だ! 唸れ、大海の波術!」
 拳突き出すと同時に、波濤の水流が巻き起こり、正面にいたトラの獣種を打ち抜く。その波濤の流れに乗る様に、クシィとグドルフが前進。固まっていたライオンとガゼルの獣種に、それぞれ一撃をお見舞いする!
「おれさまに勝とうってなら、あと10倍は連れてこいってんだ!」
 グドルフが笑うのへ、一方残るは3。キサラギの細剣が閃き、ラクダの獣種の胸を切り裂く。
「はっ、楽しい動物ショーだったが、これで仕舞いだな!」
「そうですね……中々きつい戦いでしたが……!
 さぁ、もう終わりです! 死にたく無ければ死んだふりでもしていてくださいね――!」
 カノンの魔術弾が、馬の獣種を叩き、足を止める。馬の獣種が呻くのへ、間髪入れず飛び込んだウーティスの刃が、その意識を刈り取る。
「トモコ、残るは――」
「おう、こいつで仕舞いだ!」
 眼前に立つゾウの獣種を、トモコはシンプルにぶん殴った。巨体が宙に浮き、ぐえ、と言う悲鳴をあげてゾウがぶっ倒れる。
 果たして、決着――倒れ伏した入団志望者たちは、死んだものも、生きたものもいる。が、ハウザーの予定よりは、随分と生き残っている様だ。
「随分と甘ぇな」
 ハウザーが、残っていた酒の瓶を煽った。客席に放り捨てると、瓶がガシャン、と割れる。
「これが魅せる戦い方だぜ、ハウザー!
 俺の戦い方は満足したか! しなかったか!」
 ユウキがそう言うのへ、ハウザーはゆっくり立ち上がると、戦場へと飛び込んできた。特異運命座標たちの中に、緊張が走る……が、ハウザーはジャーキーを一枚取り出すと、ユウキの口に放り込んだ。
「か……からい!?」
 その味に、ユウキが目を白黒とさせる。
「砂嵐で取れる、激辛のスパイスで味付けした干し肉だ。
 ガキのお前にはわからんうま味か? ならこの味がわかるくらいにはなれ。
 ま、今日のお前は、この肉一枚くらい分には酒のつまみにはなった」
 ハウザーはぐるる、と獰猛に唸った。
「このジャーキーに比べて、まぁ甘い。そこのガキはなんだ、手当のつもりか? そっちのは、祈りでも捧げる?」
 カノンとウーティスが入団希望者たちの様子を見ているのを、みて、ハウザーは鼻を鳴らす。
「え、えーと……まずかったですか?」
 あはは、と苦笑するカノンと、
「死者に違いは無い。弔いは必要だ」
 そう言うウーティスへ、ハウザーは唸る。
「弱者の命は強い奴のモンだ。お前達が強者なら、弱者の命や屍など好きにすればいい」
「んで、満足してくれた、ってことでいいのか?」
 キサラギが言う。
「満足してねぇってなら……一緒に運動なんてのはどうだ? 付き合うぜ?」
「そこの小娘は随分と好戦的だな。俺に怨みでもあんのか?」
 ハウザーがにぃ、と笑う。
「視ただろう。酒瓶は空になった。しょうがねぇ、少しくらいは爺に付き合ってやるとしよう」
「よ、よかった~! これで約束破られたら私死に損だよね!
 あ、じゃあじゃあ、きうりって食べます?」
 きうりんが胸をなでおろしつつ、そう言うのへ、
「喰わねぇ」
 ハウザーが言った。一方、ハウザーを追うように戦場へと降りてきたキドーが、満足げに笑ってみせた。
「おお、流石は噂の特異運命座標だったな。この程度は朝飯前だったか?」
「まぁな。良い運動にはなったな」
 トモコが笑う。
「爺も満足したか? 本作るんだろ?」
「俺が満足するのは取材が終わった後だよ。本ができたら一冊位献本はしてやる」
「硬くて分厚い奴にしてくれよ。枕にするわ」
「読めよ」
 キドーの言葉に、トモコが豪快に笑った。
「おいジジイ。ハウザーの次はおれさまのことを書けよ。最強最高の山賊、グドルフさまの華々しい武勇伝だ。
 今ならタダで書かせてやるぜ。なんなら、アイデアもくれてやるよ」
 グドルフがそう言うのへ、キドーは笑う。
「そう言えば、生き残ったら取材してやると約束したなアイデアとは?」
「おう。はじめの一文は、こうだ。
 昔、山賊、海賊、盗賊の3人の男が居た――ってな」
「ふん、なら次の取材の……いや、次は予定があったな。予定が空いたら連絡してやる」
 そう言うキドーの姿を見ながら、クシィは苦笑した。
(やれやれ、年取った自分を見るってのも……なんだな。
 この姿じゃなければ、感想を聞いてみたい所だが……)
 クシィは肩をすくめると、
「ま、今度現実で聞いてみるか……」
 そう呟いて、拠点へと戻るハウザーとキドーの後を追った。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

グドルフ(p3x000694)[死亡]
トモコ・ザ・バーバリアン(p3x008321)[死亡]
蛮族女帝
きうりん(p3x008356)[死亡×2]
雑草魂

あとがき

 リクエスト、ご参加ありがとうございました。
 かくして、ハウザーはキドーへと、自身の物語を語ったようです――。

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