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シナリオ詳細

<グランドウォークライ>悪食・メサイア・コンツェルト

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●DARK†WISH
――つまりはさ、俺たち全員が満足する結末なんて望めやしないってことだ。


 鋼鉄の大地。
 ぱき、とビスケットを折る音が響いた。
 小さな音は塹壕に反響し、存外に大きく空気を震わせる。
 ここは古びた塹壕の中。硝煙の香りがたちこめている。――最前線で敗走した兵士二人が身を寄せ合っている。
「まだ聞こえるか?」
「ああ……」
 一人は人間によく似た姿の、そしてもう一人はずんぐりむっくりした鉄騎種(オールドワン)だった。
 無線機は鳴らない。助けは来ないだろう。そもそも、無理な戦いを強いられたのも、上官のくだらないプライドのためだった。負けてみればそう思う。
「でも、勝てると思ってたよな。あの土地があれば俺たちやさ、俺たちの後の連中がさ、楽になるんじゃないかと思ったんだ」
「ハハハ、まあ、死ぬなんて思ってねぇよな、俺たちさ」
 鉄仮面の奥、笑い声が響いた。
「夢なんか見なきゃよかったぜ。腹も膨れねぇ」
 ぐううう、と人間の腹の音がひびいた。
 パキ。
 やるよ、と鉄騎種がビスケットを砕く。
「ほら、食べろ、お前が。俺は”鉄人”だからさ、後で起こしてくれれば大丈夫」
「ふっ……」
 若い兵士――人間のほう、エピキュリーはぷっと噴き出した。この鉄騎種(っぽい種族は)、ふだん、機械のわりにものすごいバカ食いなのだった。その分でっかいし、力も強いし、頼りになるのだが。
「俺は燃費が悪いからなあ。寝るよ」
「そうかよ。それじゃあ、全部食っちまうぞ」
「ああ。おやすみ、相棒。それじゃ、またな」
 エピキュリーは知らなかったのだ。

 彼にスリープモードなんてないのだってことを。
 彼が、もう二度と起動しないことを。


「撃て、撃て、撃てーーーーっ!」
 ゼシュテリオンの兵士たちが大砲で狙いをつける。不吉なほど真っ赤な、瘦身のエクスギアスの腕を次々と吹き飛ばす。
「よし、いいぞ! 畳みかけろ――」
 兵士たちの攻撃は効いているかに思われる。しかし……。
「無駄だ無駄だ無駄だっ! 無駄なんだよ、ザコどもがっ! 【ファイアソルト!】」
「ぐあー!」
 機体の手のひらから炎が照射される。
 そして、せっかく与えた損傷も……。エクスギアスの腕からツタが伸びると、しゅるしゅると腕をもとどおりに戻した。
「この『エピキュリアン』はなぁ! 己が肉体を再生し続ける。何度でも、何度でも、なんどでもなあ!」
 DARK†WISH。
 彼は知ってしまった。
 全員に行きわたる分の食べ物なんてものは、ここ鋼鉄にはないということを。
 すべての人たちに分け与えるのは無理だ。
「なら、俺が選別してやる。俺が、だ。ガイウスであれだれでもいい! それで……それで……」
 それで、なんだったか?
 頭痛がする。
『ほら、食べろ、お前が。俺は”鉄人”だから……』
「あああああ……っ!!!」

 ちゃんと俺たちみたいな兵士がさ、戦ってごはんかせいで、で、ちびっこいのとか戦えないのとかにさ。
 ごはん、あげられたらいいよな。

 何もかも、忘れていく。
 再生のたびに炎が身を包むかのように熱い。でも、やるべきことがある。
「無駄だ。この機体は――己の一部である限り再生し続ける! 無限に! 無限にだ!」
「弱点はないんですか!?」
「今分析してる……ダメだ!」
「う、うおおおおおおーーー」
 勇気ある兵士の突進が、装甲を剥いだ。
 剥き身の中身が散らばった。
 艶めいた中身。きらきらと輝かんばかりのみずみずしい赤色。
 巨大な口を開けた、ともすればややも間抜けな表情を見せるアバターが空から降ってきて装甲の中身をぱっくりと「平らげた」。


 ここは鋼鉄。
 シャドーレギオン部隊に襲われ、阿鼻叫喚のテーブルタウンという小さな町だ。今、ここを襲っているのは「エピキュリアン」という機体らしかった。
「ウチは『ジィリュイ』……よろしく」
 サクラメントの前にいたのは実に奇妙なマスコットだった。
 炎を吐くシャドーレギオンを前にして、用意されたエクスギアエクスと……なぜかアバターにぴったりのエプロン。
「で、ここはそういうステージらしい。無限に生えてくるあれを倒す方法は、己の一部にすること……つまり、食べることだ。今知った。うん」
 え?
「あの身を剝がしてくれれば食らいつくす。手伝ってくれてもいい。……できればちゃんと……いや、贅沢は言わない。ウチだって早く帰りたい」
 どうにもログアウトできなかったうちの一人らしいのだが、さて。

GMコメント

グランドウォー喰らい。はい。えっとなんでもないです。

●目標
『エピキュリアン』を食らいつくせ!
食べないと無限に再生していくぞ!

●敵
甲殻機動戦士『エピキュリアン』
 瘦身の真っ赤な機体。装甲に覆われており、接合部には再生するツタが生えています。
「己の一部と認識したものを再生する」という強烈な再生能力があるのですが、食べればもうそれはその人の一部。ってことで再生できなくなります。
 中身の食感はカニとかエビに似ています。ツタはサラダだし。
 弱点は食材適性です。弱点だと!? 美点だろ!?!?
 なぜか究極の強さを求めているうちに偶然美味しくなってしまいました。殻は食べなくていいです。大丈夫です。

中の人:兵士エピキュリー
※おいしくない

偵察兵器『ドギーバッグ』×10
 小さな偵察用ロボット。
 箱状になっており、中身に動力としてからあげやピザなどおいしそうなものが入っている。
 その動力は紹興酒でできている。あ、でも未成年にはジュースです。はい。

●味方
『ジィリュイ』……R.O.Oに現れた謎のマスコット。
普通に敵を倒したら黙々と食してくれます。
割と好き嫌いはないらしいが、できれば美味しくしてくれるとありがたい。

●状況
シャドーレギオン『エピキュリアン』が暴れまわっています。
ちょうどよくエクスギアとエプロン(人によってはめちゃくちゃファンシーだったりする)があるし、
なんか煮えたぎった油とか丁度良いでっかい包丁みたいな剣とかありますし。

●超強襲用高機動ロボット『エクスギア・EX(エクス)』
 エクスギアEXとは大型の人型ロボットです。
 『黒鉄十字柩(エクスギア)』に附随した大型オプションパーツを超複雑変形させそれぞれの戦闘ロボットへと変形します。
 搭乗者の身体特徴や能力をそのまま反映した形状や武装をもち、搭乗者にあわせた操作性を選択し誰しもが意のままに操れる専用機となります。
 能力はキャラクターステータスに依存し、スペックが向上した状態になります。
 武装等はスキル、装備、アクセスファンタズムに依存しています。
 搭乗者のHPがゼロになると破壊され、多くの場合爆発四散します。
 搭乗者が装備する剣と同様の剣で斬りかかったり魔術砲撃をしたりと、搭乗するキャラクターによってその戦闘方法は変わるでしょう。
 もしお望みであれば、普段と違うデザインをオーダーしてみるのもいいでしょう。
 ※すべてが専用にカスタムされているため、別の人物が乗り込んだり敵のエクスギアを鹵獲し即座に使用することはできません。逆もまた然りです。

●調理精度
 このシナリオの調理精度はDです。
 多くの食材は断片的であるか、あてにならないものです。
 様々な食材を疑い、不測の調理に備えて下さい。

  • <グランドウォークライ>悪食・メサイア・コンツェルト完了
  • GM名布川
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年09月24日 22時06分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

リュート(p3x000684)
竜は誓約を違えず
神様(p3x000808)
R.O.Oの
シラス(p3x004421)
竜空
イルー(p3x004460)
瑞心
ベネディクト・ファブニル(p3x008160)
災禍の竜血
アメベニ(p3x008287)
戦火よ舞え
Adam(p3x008414)
Hide Ranger
ミセバヤ(p3x008870)
ウサ侍

リプレイ

●いざ食卓に集え、エクスギア!
 あちこちから悲鳴が上がる中……。
『R.O.Oの』神様(p3x000808)は、どこからか己を呼ぶ声を聞いた。
「ロボ……?
何ぞスゴいモン出てきちゃったな。
練達知ってからコッチ何でも有りだぜ」
 まるで必然であったかのように、神様の機体はそこにある。
「待ってくれ! それは、適合者がいない機体だ。誰にも動かせない」
「え、そなの?」
 しかし、神様にはわかる。なんたって、クエストマーカーというやつが頭の上に浮かんでいるのだ。
「何かは良く分からんが。ヤラなきゃ成らない事だけは何故かコイツが教えてくれそうだ……」
 機体が呼応する。
 巨大な剣を掲げたGODは、雷光を呼んだ。荒れ狂う嵐を制御するように、背面排熱板が猛烈な神光を放ち、空に浮き上がった。
「そうなんだろ? GOD……」

「! あそこッスね!」
 ピッシャーンと落ちる雷に、『神の仔竜』リュート(p3x000684)はいち早く気が付いた。
 その光を目印に、勇者たちは集うのだ。
「成程、状況は分かった。
これ以上、例の機体を暴れさせる訳にはいかない」
「エビは好物だよ……現実ならな!」
「ロボット、食べられるッス? リュートのエクスギアEXも食べられるッス?」
 エピキュリアンの暴れる戦場に、三頭の竜が現れた。
 『竜空』シラス(p3x004421)と『蒼竜』ベネディクト・ファブニル(p3x008160)の操る一体は空を滑る。リュートの一体は地を駆け、跳ねた。
「ッス!」
 リュートのエクスギアEXは、四足歩行型ドラゴンロボである。翼を広げ、羽ばたくと地面を蹴る。このロボは美味しいのだろうか。……、ちょっとかじってみると、明らかに金属味である。
「……流石に、食べられないッスね。相手の機体に期待ッス! オーバードラゴン!」
「敵を喰い殺すっていうのは初体験だ。
いよいよ俺もドラゴンらしくなってきたぜ」
 シラスの機体の翼が敵の機体を打って、姿勢を崩れさせた。
「可及的速やかに制圧する、準備は出来ているぞ」
 空から舞い降りたベネディクトが、敵の機体を押さえつける。
「ぐああああっ!」
「此処までだ。これ以上の破壊活動を止め、投降するなら手荒な真似はしない」
「投降、だと!? お断りだ!」
 破れた装甲は一気に元通りに戻る。
 しかし、それは織り込み済みだった。
「よし、状況は何とか飲み込めた。それじゃあ、こいつを言わなくっちゃ始まらない」
 竜の咆哮とともに、叫ぶ。
「いただきます!」「いただくッス!」「いただきます、だ!」

「杰緑(ジィリュイ)!」
 懐かしい顔を見つけた『雨紅のアバター』アメベニ(p3x008287)は勢いよく駆け寄った。名前だけでもわかるものか、とジィリュイは感心するものである。
「あんた、雨紅(ユーホン)か。
ただの兄弟“機”なのに律儀だよな」
「はい、あなた宛に届いてるものいっぱいあるんです、帰ったら食べましょう
やっと見つけたんです、このチャンスは絶対に逃しません」
 と、話しているところで地面が大きく揺れる。
「話したいのは山々ですが、今はクエストクリアが先ですね」
 アメベニはあたりを見渡す。あれに対抗するためには、エクスギアに乗るしかなさそうだ。
 気配に呼応して、瓦礫の山の中から立ち上がる。美しい炎をまとった機体があった。
 こちらに気が付くと、主人を待っていたかのように、姿勢を低くする。
 今回の戦闘仕様なのか、ふりふりのエプロンをくっつけている。
(可愛いフリルエプロンですね……いえ、この姿なら似合うはず)
 乗り込むと、コックピットに無機質なモニタが現れる。
 ナマエヲ入力してください。
「え、機体名……ですか。では『炎血』で」
 炎血。
 呼ばれると、炎に飲まれて一層激しく燃え上がり、新たな機体が生まれた。

「うわ〜すげぇ赤々してる! 旨そう!」
 音もなく、その機体はエピキュリアンに接近していた。
『Hide Ranger』Adam(p3x008414)の操るエクスギアは美しい花をまとった機体だ。
 一歩舞うごとに、可憐なエフェクトが舞い落ちる。
「かーっこいー! 浪漫ってやつだねぇ」
 炎を照り返し、青に紫にと自在に姿を変える。
 流れるようにドギーバッグに食らいついて、中身を確認する。小さなフライドポテトであった。
「んー、ゲーム内でも味とか分かるのかな。てか運動しながら食事してたら無限に食えるんじゃない!? やば、最高じゃん!」
「高級食材の食べ放題と聞いて駆けつけたのですよ!」
 ぴょんぴょんと平原をはねるがごとくのウサギ――『ウサ侍』ミセバヤ(p3x008870)のウサギ型エクスギアはもちもちと草を食んでいた。そのたびに加速し、ふりふりのニンジン柄のファンシーエプロンをひるがえし、戦場へとやってきた。
「加勢に、来ました……!」
 ぽん、と町の一角、かわいらしいケーキ工場から、ファンシーな機体が飛び出すのだった。
『初心者』イルー(p3x004460)の機体は、ファンシーなデコレーションを施された可愛らしい3段ケーキだ。生クリームの隙間から、ちょこんと角が見えている。
「助かる。食事をとれるモノは多ければ多い方がいいからな」
「みんなで食べたほうが美味いっていうしな」
「どれだけ食べられるか、競争ッスね~!」
「……って、何ですかあの巨大な機械(エピキュリアン)は?
え、あれを食べるんですか?」
「えっ食べられる……? しかも、美味しいんです、か? ううん。外見も、エビっぽいなとは思っていたのですが」
 イルーは、しばし考え込むそぶりを見せる。
「再生できないように、食べつくす……食べ放題というやつです、ね。理解しました」
 理解が早い。
(負けてられないです! 元気いっぱいお腹いっぱい、食べてマスコットとしての役目を果たさなければ……!)
 闘志を燃やすミセバヤ。
「よし、そろったみたいだし」
 GODを通じて、厳かな声が告げた。
『全ての現象を処理するのだ』

●調理タイム
「えいっ……」
 イルーによって命を与えられたシュークリームが、ぽわぽわと空へと浮き上がる。
 それを追いかける偵察機。
「……攻撃反応アリです! 一撃が来ます!」
「大丈夫か、シラス?」
「ああ。どんな攻撃を仕掛けてくるのか分からない。
それでも持ちこたえる自信はあるぞ」
 相手は捨て身である。再生を前提とした重いパンチが降ってくる。
 だが、シラスも負けてはいない。
「……! 馬鹿な!貴様も持っているのか、再生能力を!」
「それだけじゃないな」
 シラスの機体は懐に潜り込んで……強烈な一撃を叩き込んだ。
 カウンターだ。
 竜の牙で切り裂かれた一撃により、殻から中身が覗いている。
(せっかく新鮮なんだ、先ずは生で頂こう)
「ぐあー…………!?」
 シラスは組み付くと一気にかじりついた。
「どうだ!?」
「どうスか!?」
(ごくり……)
「果たして本当に美味いのだろうか――」

「美味い」

 その一言が、これからの戦いの方針を決定づけた。
「プリプリしてる……甘みがある」
「敵襲、甘いです!」
 イルーがシュークリーム偵察機から得た情報はまたたくまに仲間に拡散される。
「いいぜ、俺らの腹が膨れるか、お前が食い尽くされるか。
――勝負だ!」
「そおいそおい!」
 ミセバヤはしゃがんで攻撃をかわし、それからぴょんとウサギキックをかます。動きを止めてから、いそいそとドギーバッグの中身を取り出すのだった。
「んー、何か調味料とか入ってないですかね? ……あった! 『まよねーず』です!」
「でかした!」
 と、ベネディクト。
「エビ、カニ、サラダ……どれにも合う最強調味料なのです。えっへん」
「となれば本体。まずはあの殻を割る所から!」
 Adamの素早い奇襲。思い切りエピキュリアンの腕を押さえつけた。一撃。変幻自在に潜み、敵の視覚から的確に外れる。
 そのまま地面に叩きつけると、バキバキと嫌な音がした。
「だが、傷は浅い」
「それはどうかな……!」
 きらり、輝くじゃいあんとつまようじをかかげる。突き立てて、身を掻き出す。
「遂にじゃいあんとつまようじが役に立つ時が来た……! せーのおお!」
 無音の一突きが、中身をえぐりだした。
「うん、イケる! プリプリで甘い!」
「ドギーバッグ……こちらにも美味しいものが詰まっているのです、ね」
 イルーはきらりと目を輝かせる。
「……はっ、これは酢……!」
 茹でたエビカニに振りかけると一味違うのである。ほんとだ、と舌鼓をうつAdam。
 防御姿勢になったエピキュリアンを蔦が覆いつくしていく。
「てぇいっ!」
 ミセバヤの一撃が敵をひっくり返す。装甲をものともしない、力強い一撃である。
「くっ、ファンシーななりのわりに……」
「うー……ぎゃおー! たべちゃうぞーッス!」
 竜神の声にびびった蔦がくいっとリュートを避けていくのだ。
「ふふん。加勢するですよ!」
 ミセバヤの雑草ムシャムシャゴーストビットが、蔦を――野菜を捕食していく。もちもちとちぎって、食べられそうな草はサラダとするのだ。
「栄養バランスは大事だからな……」
 ベネディクトの竜爪が舞い、エピキュリアンを追い詰める。
「炎の扱いならお任せを」
 アメベニの炎舞が火の粉となって舞い落ちる。炎舞族の舞台。きらきらと舞い落ちる炎を危うげないスポットライトに変える。人々を蝕んでいた炎は向きを変え、盾となる。
「次に狙うのは、腕と足ですね。了解しました」
 アメベニの機体が跳ねるように舞い、炎は巨大な鳥の姿を作り出す。
 アメベニの舞の型が変わる。
 炎の牙を受け止めて、装甲は赤く輝いた。
「無駄だ……っ!」
(いいえ、狙うのはあくまでも……)
「中身、か」
 ジィリュイにはアマベニの狙いがわかった。
 外に大きな損傷がないのならば、修復機構は働かない。
 ぱちぱちと泡がはじけていく。たんぱく質が変性し、上手く動かなくなるのである。
 そこに、ベネディクトの鋭い爪が加わる。
「GOD、調理しよう」
 神の奇跡が、戦場を調理台へと変えていく。
 ちょうどよく横たわったがれきのひとつをまな板代わりに……、神の奇跡【炎】は、ほどほどの強火。中華と言ったら、火力である。
「加勢します」
「あ、この炎のエフェクトいいね」
 アマベニの炎が神様のフライパンに追加される。
 神様が作るのは、――。そう、分け隔てなく万人が好きなものである。
(ガキが大好きエビフライ。
 そして、誰でも美味しいエビチリ)
「辛いものが苦手な人のために、ちょっと甘口のエビチリ・ソース、です……!」
 イルーの指揮により、生クリームのソースがぽわぽわと溶けていった。
「よしっ……」
 さらに、さっぱりいきたい海老塩である。が……。
「塩がない!」
「まかせろ」
 シラスの機体がドギーバッグを切り裂き、塩とケチャップが降ってきた。
 危うげなくキャッチするGOD。
「ぐっ、があ!」
 イルーの甘い一撃が、相手の口に飛び込んでいった。
「甘い!」
――残してはいけない。大切に作られたことがわかるからだ。
 エピキュリアンの動きがわずかに止まった。
「おおっー!」
「てえいてえいっ!」
 オーバードラゴンからの魔弾がさく裂し、リュートの機体がかじり取っていく。
「エビエキス美味しいッス!
蔓も濃厚なエキスッス! アボカドっぽい感じで。じゅるり……濃厚ッス!」
 リュートのかじった跡がおおきく開いている。
「き、機体ごと!?」
 食べ盛りまっしぐら、どーんと飛び込んでがつがつと平らげていく。

●飽きない味
(だが……)
 エピキュリアンは引かない。
 どんな生物にも飽きはある。容量の限界はある。
 食べては水分で胃に流し、ローテーションでエピキュリアンを流し込んでいくベネディクト……なんでも食べるリュートを見ていると自信がなくなってきた。
 しかし、勇者たちが平らげるペースは一向に落ちない。
「こっちにはからあげや……ケチャップ何かも入っているな、使うか? 少しは飽きがマシになるだろう」
 ベネディクトは紹興酒をエビに食らわせる。動きが鈍ったところを、Adamが剥いた。
「中身ふわふわ表面カリカリ辛旨になってください!」
 アメベニが鍋に貯めていた唐辛子と熱した油をぶっかけた。
 香ばしいにおい。
 半分ほどは殻付きのまま、フライパンで炒っていくのだった。
「辛いのもどう? これは神、来ちゃったかもね」
 荒れ狂う猛風が明けてみれば、ぴっかぴかのエビがそこにある。
「塩、タレもいけるな」
 シラスは器用に調味料を合わせて、新しい味を作り出していった。
「美味い! さすがに生は飽きてきたなって思ってたんだ」
 Adamは身を焼きつつ、BBQに移行する。煮えている油に、つまようじをさしてくぐらせる。揚げエビだ。
「おっ、ピザ生地発見」
「炎ですね、お任せください」
「GOD!」
「えっ、お酒もあるんですか?そんなん普通に飲むに決まってるじゃん! ……毒とか入ってないよね?」
「……分析します。問題ありません!」
「それでは、かんぱーい!」
(マスコット枠……っ! アイデンティティの危機……っ)
 震えるミセバヤ。
 リュートのじゃれつきでドギーがぽろぽろ中身を出していく。
「おりーぶおいる。がーりっく。……オイル焼きッスね!」
 リュートの色とりどりの光弾ブレスがどーんと炸裂するのだった。
「いっぱんてきに~……一番美味しいのは……真ん中ッス! 中の人も美味しいかもッス!」

 装甲がはがれていく。
 機体が美味しく調理されていく。
………。
「なぜだ、なぜ飽きない……!?」
 変幻自在の調理法。
 それは、食事を美味しく味わうため――。
 そして誰かを想う気持ち。
「何度でも、何度でも。あなたを止めてみせます。
根性勝負です、よ」
「エピフライ! エピチリ! 説明不要! 玉ねぎと塩コショウとシャンタンでさらりと食べれるエピ塩玉ねぎツタ添えだウオーお好みでレモン振って! 爆食! GOD! Cuisine!」
「そこまで時間が許さないから色んな物を作れないのが残念ではあるが、仲間とこうして食べるというのも食事に対するモチベーションを上げる秘訣なのだろうな」
(この光景は……)
 ミセバヤの活躍により、巨大なちゃぶ台の上に料理が並んでいった。
「食材に、そして、料理人に――感謝を」
 ベネディクトはすっと手を合わせ、料理を取り分ける。
「狙い通りです。身がしまっていますね!」
 ばちばちとまだ燃える身を剥がし、ワイルドに平らげる。
 巻き込まれたドギーバックからさっぱりとしたビーフンと水が落ちてきた。
「ここでも食べる感覚は味わえるけど、現実のメシもいい加減恋しいんだ
つーか現実の季節限定品とか逃してんだよ!」
 と、ジィリュイ。
「腹立ってきたヤケ食いだ!」
 戦闘中でありながら、しばしの休戦。
 実食タイムである。

「む、こちらは味噌のようです。いかがですか?」
「うん、このツタ部分も美味いな。マヨネーズはあるかな?」
「えっへん。どうぞですよ!」
「万能ですよね」
「それにしても……」
 ミセバヤのジト目がジィリュイをにらむ。
「その緩い雰囲気に垂れた耳(?)自分とキャラ被ってませんか?」
「兎か……兎……」
 美味しいような気がする。ほんのり浮かんだのをそっと心にしまうジィリュイ。
「マスコットポジションは譲れな……いや何でもないですつい熱くなってしまいました」
「冷たいのもいけるな」
「ふふん。自分のお手柄なのです。焼く、蒸す、揚げる……ジィリュイさんはどんな調理法がお好きですか?
少しでも美味しく食べられる様、お好みの料理にも挑戦してみますよ!」
 ここまでされたら、平らげるのがマナーというものである。
(せっかく調理してくれたんだ、戦略抜きに残すのは嫌だ)
 満腹になろうとも……満腹になろうというのが惜しいくらいに美味い。
「あの中の人、どうしよう?」
「もし、もし彼がDARK†WISH化した理由が『食』と関係しているのならー……」
 ミセバヤが言った。
「え、食べないんッスか?」
 と、リュート。

●分かち合う食事
 ああ、終わったんだな、と彼は感じる。
「…………?」
 エピキュリアンの操縦者は、目を覚ました。
 今、燃えているのは破壊の炎ではない。
 アメベニが舞い、呼び出したのは、「小さくも温かい鬼火たち」。
「味も良い、これだけの量が食べられるのなら──別の方法で使う事も出来るだろうな。それこそ、食べられない者達もこの世界にはたくさん居る」
 ベネディクトは言うのだった。
 食卓には、ひとつ、席が空いている。どうぞ、とアメベニが言った。
「近くに腹すかしてるヤツ居ない?」
 神様が、適当に近くの市民を集めてきた。
「ソレこそガキとか負傷してるヤツとか
こんななってまで食わせたかった連中がさ」
 そのための、取り皿だろう。
「僕は神だけど コレは神の恵みじゃない 優しかった奴の 願いさ ……多分」
 神様はぐいと酒をあおった。
「弔いになれば神的にも ね」
「これも、願いが歪められてしまった結果、なのです、ね。
彼が、願った想い。それはまっすぐなものだった、はず」
 だって、彼は攻撃しなかった。食事を邪魔することはなかった。
「さあ、わたしたちと、共に立ち上がりましょう。本当の願いを叶えに」
「あなたの機体すごかったですよ! なんて言うか……すごい美味しかったんだ! 多分一緒に食べた皆も満足してますよ。ごちそうさまでした!」
 Adamが気持ちよく言った。
「しかし勿体ねえな、戦うよりも使い道あったんじゃねえの?」
 鋼鉄も現実の鉄帝と同じで貧しい。
(これだけ食えるものとなれば重宝しただろうに。
ままならないものだな)
 と、シラスは考えた。全員が腹いっぱい食べるのは、現実では実に難しい。

 差し出された皿は一枚。色とりどりの、あたたかい料理。
 どうしてこんなにも満たされているのだろうか。
「お前の願いがどの様な物なのか、俺には解らない。だが、お前のその機体は戦う為に使うだけじゃなく──他の誰かを幸せにする事が出来る。そんな使い方もあるんじゃないか、エピキュリー」
竜撃爪。ベネディクトは満足げに告げる。
「今、私は満腹ですし、きっとこれからもそういう人が増えますよ」
 アメベニのことばに、涙が浮かんだ。
「……戦は、せめて平穏に至る為にあって欲しいです」
「ごちそうさま!」
 ああ、これが願いだったのだ。

成否

成功

MVP

神様(p3x000808)
R.O.Oの

状態異常

神様(p3x000808)[死亡]
R.O.Oの
アメベニ(p3x008287)[死亡]
戦火よ舞え

あとがき

戦え、イレギュラーズ!
食べろ、イレギュラーズ!
残りの機体はスタッフが美味しくいただきました。
ごちそうさまでした!

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