PandoraPartyProject

シナリオ詳細

実験区画で羽ばたく聖獣

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 天義、独立国家『アドラステイア』。
 高い円形の塀に覆われたその都市は新たな神『ファルマコン』を掲げた者達が暮らす場所。
 そのほとんどが少年少女であり、一部の大人達に導かれているという。
 毎日、一度都市の中心で鳴り響く鐘の音を聞きながら、子供達は祈りを捧げる。
 ――我らが新しき神が許に、致命者を送り届けん!
 ――我らが父と母の教育に感謝を!
 声を揃える子供達。
 神を信じる彼らは武器を手にし、互いに目を光らせる。信仰の疑わしき者を告発し、魔女裁判を起こす為。
 そうして、彼らは信仰の証を得て、日々を過ごすのだ。

 かつて、アドラステイアへと逃げ込んだ戦争孤児達。
 しかしながら、彼らは都市内部で置かれた境遇は個々によって大きく異なる。
 ある者は『神様の為に奉仕した証』を重ねて大人達から信任を勝ち得ていたが、ある者は魔女裁判によって信仰がないと断罪されて『疑雲の渓』から突き落とされる。
 ただ、そんな中、イレギュラーズに救出された少女がいた。
 エルシという少女は天義の保護を受けながらも、自身の体験したアドラステイアの実状を語ってくれる。
 新たな神ファルマコンのこと、魔女裁判のこと、キシェフのこと、イコルのこと……。
 とはいえ、まだ10歳である彼女だ。さほどしっかりした説明とはいえず、何より心の傷もあって情報を得るのにはかなりの時間がかかっていた。
 そんな中、エルシが話してくれたのは、フォルトゥーナと呼ばれる実験区画のこと。
 子供達の間では、そこは立ち入り禁止で入ろうとした子供は魔女裁判に賭けられてしまったという話だ。
「そこはとても幸せな生活ができるって、大人は言ってたんだけど……」
 実際のところはわからないとエルシは首を振る。
 それを聞いていた『海賊淑女』オリヴィア・ミラン(p3n000011)は小さく唸り、その調査へと出向くことにした。


 アドラステイアは厚い壁に覆われてはいるが、イレギュラーズが潜入の為に使っている穴がいくつか存在する。
 たまに潰されることはあるが、その度に新たな穴を掘り進めており、いたちごっこが続いている状況である。
「あれから、マザー・マリアンヌが鳴りを潜めているのも気にはなっているが……」
 他の地域での事件も大きくなっているが、その合間を見てオリヴィアは潜入を繰り返していたこの都市に、気になる場所があるとイレギュラーズに告げる。
 実験区画フォルトゥーナ。
 そこは子供達の話では、ファーザーバイラムが収める豊かで幸福で街だと言うが、潜入したオリヴィアの目線ではとてもそう見えなかったという。
「ひどいものさ。不衛生な場所に子供達を押し込んで、強制労働をさせているのさ」
 ただ、報酬としてイコルを与えられる子供達は疑問を抱くことなく、働き続けているという。
 ただ、このイコルという薬品にも疑問点が多い。
「赤い錠剤で、アドラステイアの外にも出回っているらしいんだがな」
 それを調べてみたところ、摂取すると多幸感や幻覚作用を引き起こすという代物だった。
 しかも、その内部には危険な成分が検知された。どうやら、何者かの血液が含まれており、接種したものの肉体に何らかの作用を起こすという。
「現状わかっているのはこんなところさ。他の情報屋はもっと知っているかもしれないが、それはこれから情報交換していくつもりさ」
 ともあれ、今は多くの情報を得るべく潜入を願いたいと、オリヴィアはこの場のイレギュラーズ達に願うのである。


 オリヴィアと別れたイレギュラーズは、アドラステイア下層へと潜入する。
 決して内部の者にばれる事のないよう、メンバー達は気配を消して移動していく。
 目指すは、フォルトゥーナと呼ばれる場所。
 封鎖されたその区画へと突入したメンバー達は、一切掃除されていない不潔な空間に表情を歪めてしまう。
 その区画にある工場へと一行が忍び込むと、子供達が何かを運び、流れるベルトコンベアの脇になって作業を行っているのが分かった。
 メンバー達がその製造ラインを追っていくと、それが何であるかに気付く。
 ならば、その原料は……?
 一行がラインを逆にたどろうとすると、そこに現れたのは1人の女性だった。
「潜入しているネズミがいると聞いていましたが、ローレットでしたか」
 血染めの修道服を纏うマザー・マリアンヌ。
 この地では人気のシスターであるという彼女だが、憎々しげに睨みつけてくる表情にその陰は微塵もない。
「こんなところで、邪魔をさせるわけにはいきません」
 どうやら、彼女もここでイレギュラーズに合うとは思ってもいなかったらしく、逃げの一手を打つ。
 ただ、逃げるだけでなく、マザーの合図によって工場の天井を破壊して突入してきたのは3体の聖獣だった。
「さあ、初仕事です。この者達を倒すのです」
 それらに、イレギュラーズは見覚えがあった。
 氷鳥フレスベルグ、怪鳥アンズー、そして、雷鳥サンダーバード。
 それらは個々の事件で討伐した聖獣とほぼ同じ姿をしていた。
 初仕事という言葉に思う事があるイレギュラーズ達だったが、質問したくともマザーはすでにこの場から姿を消していた。
 この場には、働く子供達の姿もあるが、聖獣達はお構いなしに邪魔者であるイレギュラーズへと攻撃を仕掛けてくるようだ。
 メンバー達はこの場を切り抜けるべく、3体の聖獣の撃破に当たるのである。

GMコメント

 イレギュラーズの皆様こんにちは。GMのなちゅいです。
 久々となりましたが、天義アドラステイア関連シナリオです。
 実験区画フォルトゥーナ……アドラステイア下層のこの区域について、皆まことしやかに語られていた噂があるとか……。

●目的
 実験区画フォルトゥーナの調査、襲撃してくる聖獣の討伐。

●概要
 独立都市アドラステイアの実態がなかなか見えず、その全容解明が進まぬ状況の中、以前救出した子供が思い出した噂を基に、調査が始まるのが実験区画フォルトゥーナです。
 市民すら出入りが禁止されているその場所は、表向き幸せで豊かな場所とされているようですが……。
 リプレイは潜入直後、何かを製造している工場、マザー・マリアンヌとの出会いと基本的にはOPをたどる形となります。
 いくつか具体的な表現を避けている場所もありますので、気になる場所はチェックしてみるといいでしょう。皆様の行動で展開がOPと変わる場合があります。
 
●敵……聖獣×3体
 潜入した区画の工場内にて、マザーの指示で襲ってくる聖獣達です。何れも共闘するよう動きます。
 これまでの依頼で見られた聖獣ばかりが確認されたこと、初依頼と言われたことなどからある程度聖獣達の正体についても判別できそうです。

○フレスベルグ
 全長3m、巨大な白いワシの姿をしております。
 嘴で引き裂かんとしてくる他、氷のつぶてを発射したり、羽ばたきによって強い衝撃を浴びせかけてきたりします。

○アンズー
 全長3m。ライオンの頭にワシの身体を持ちます。
 衝撃波を放つ他、急降下しての攻撃、掴みかかってからの叩き落としなどで攻撃してきます。

○サンダーバード×1体
 全長4m。雷の力を行使するワシを思わせる姿をした黄色の鳥です。
 全身に光を纏ってくちばしを突き出してからの突撃、周囲への放電、集束しての放射もできるようです。

〇マザー・マリアンヌ
 20代女性。血に濡れた修道服を纏う魔種となった元人間種女性です。
 神への愛を説き、慈善活動奉仕など比較的優しい条件でキシェフを与えてくれるなど、下層でも人気のシスターとして知られています。
 今回、フォルトゥーナで出会う彼女ですが、その目的は……。
 基本的に彼女は戦いを避けようとする為戦闘にはなりませんが、強引に戦おうとすると、難易度ハード相当の判定となりますので、ご留意くださいませ。

●NPC
〇エルシ
 拙作「子供達を導く『聖女』」でアドラステイアの魔女狩りの対象となっていたところ、イレギュラーズに助け出された人間種の少女です。
 今回はOPのみの登場でリプレイ内には登場しません。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

 それでは、よろしくお願いいたします。

  • 実験区画で羽ばたく聖獣完了
  • GM名なちゅい
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年09月19日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

アリシス・シーアルジア(p3p000397)
黒のミスティリオン
エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
コーデリア・ハーグリーブス(p3p006255)
信仰者
ミリヤム・ドリーミング(p3p007247)
アイドルでばかりはいられない
リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)
神殺し
佐藤 美咲(p3p009818)
無職
アルトリウス・モルガン(p3p009981)
金眼黒獅子

リプレイ


 天義の海岸沿い、高い円形の壁に遮られた独立国家アドラステイア。
 そこに、ローレットから新たな依頼を受けたイレギュラーズのチームがやってくる。
「……話には聞いていましたが、来るのは初めてですね」
 高層に聳える内部を、ジト目ぼさぼさ頭の旅人女性『ダメ人間に見える』佐藤 美咲(p3p009818)は外側から見上げる。
「相変わらず不明な部分が多いですね。そろそろ全容を明らかにしていきたいところですが……」
 天義の貴族である『信仰者』コーデリア・ハーグリーブス(p3p006255)にとって、はお膝下と言えるこの場所で斯様な存在は許してはおけないとのこと。
 薬に洗脳……現地民にとっても大きな事件に違いないのだが。
「そこに子供まで絡めたらまた話は別でしょうに」
 旅人である美咲ですらも、語気を強めて全容解明と解決をと力を入れる状況である。

 アドラステイアへと潜入したメンバーは事前情報の通り、フォルトゥーナと呼ばれる実験区画を目指す。
「……アドラステイア下層にこんな場所があったとは……」
 普段はにやけ顔の『不幸属性アイドル』ミリヤム・ドリーミング(p3p007247)は私情も絡んでか、真面目な顔だ。
「実験区画、フォルトゥーナ、か」
 金髪色黒の『倫敦の聖女』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)がぽつりと呟く。
 辺りに倒れる子供達はなぜか笑顔を浮かべている。そのままの表情でこと切れたかわいそうな命も……。
「子供がこのような環境で製造可能な程度のものとは驚きですが……」
 凛とした態度の聖職者、『黒のミスティリオン』アリシス・シーアルジア(p3p000397)は時折、倒れる子供に祈りを捧げる。
「『工場』ねぇ……働いてンのもガキばっかでよ、胡散臭ェなオイ」
 黒変種と呼ばれる突然変異の獣種、『新たな可能性』アルトリウス・モルガン(p3p009981)も顔を顰めて周囲を見回す。
 衛生面が劣悪な環境下で、年端もいかぬ子供達が黙々と作業を行っている。
「無理やり幼い子供達を働かせるなんて許せない!」
 天義の貴族出身、現在は聖職者である『リインカーネーション』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)は思わず声を荒げそうになるが、今は潜入中。できるだけ足音も立てずにメンバー達は移動する。
「ここでイコルを作ってるのかな……」
 首輪と足枷を引き摺る人狼、『うそつき』リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)はこそこそと進みつつ、工場について考察する。
 イコルについての知識は現状、アドラステイアの子供達が欲しがっており、大量に服用すると聖獣になるかもしれないということくらいしか分かっていない。
「わかることがあれば、イコル目当ての子供たちを引き離すことができるかな?」
 彼女の問いに、エクスマリアはわからないと首を振って。
「皆の予想通りならば、完膚なきまでに破壊したいところだ、が。これがまだ実験段階のものだとしたら、今回のことで、先の趨勢が大きく変わるかも、しれない」
 果たして、フォルトゥーナで行われている実験とは……。


 ともあれ、この工場で何が製造されているのか、イレギュラーズは調査を始める。
「区画内の情報、重要物品の摂取……後はできれば研究妨害の為に機器の破壊といったところか」
 とりわけ、可能性の高いとみられるイコル、そしてその素材。重要な者は持ち帰り、解析してもらおうとエクスマリアが仲間達へと呼びかける。
 頷くリュコスは早速エコーロケーションで周囲の危機、人の把握に努める。
「全員では『製法』、『原料』、『工場そのモノに関する資料』を主に調べるとして……」
 全体方針を語りつつ、美咲がメインで調べるのは製法。
 彼女はその途中でレーダーも使い、罠による敵の妨害がないか、加えて証拠隠滅させるようなものはないかとみていたが……。
「ああ、幸せだなあ」
「ずっとここで働いていたい」
 多幸感を語り、作業に従事しているのは子供のみ。
「収監どころか、子供達自身が働いているなんて……」
 ミリヤムは収監されているのかと考えていたが、彼らは仕事を強要されることなく、むしろ嬉々として働いている。
「強制労働と思ったのですが、様子が違いますね」
 アリシスはそれだけに、余計この状況を訝しむ。外の子供達も区画にいることを嫌がる印象がなかったが……。
(職人らしき姿はありませンね)
 スキル「非発声無線技士」により、美咲は言葉を発さずに仲間と意思疎通を行う。
 基本、工場は流れ作業で、それに子供達が手を加えているといった形だ。ラインに立つ子供達自身に専門性が必要とは感じさせない。
 コーデリアは工場についての資料がないかと事務室を探すと、発見したリュコスがこっちだと教えてくれ、人目の少ない場所からそちらへと向かう。
「何の資料も残されていないということはないでしょうけれど……」
 ここは敵の拠点。見つかればそれで終わりだ。
 時間は限られていると考えるコーデリアは効率よく情報収集すべく、資料らしき書物を手に取ってそれらを瞬間記憶していく。
「次、行きましょう」
 製造工程を頭に入れたコーデリアの案内で、メンバーはまず何か作られているかを確認する。
 とはいえ、それは大方の予想通り、アドラステイアの子供達に配られているという赤い錠剤イコルだ。
 皆、大方の予想通りだとこれには驚かず、製造ラインを遡ることに。
「ここで作ってるのは、イコルだけみたいだね」
 リュコスの言葉に頷くアリシスは、製造途中の品も確保しつつ、製造方法に関する情報の解析、取得にも努める。
「錬金術が使われているようです。全て機器側で行っているようですが」
 赤い物体……いや、液体に色々な薬品を加えられ、錠剤の形となっている。
 原料となっているこの赤いものは……。
「今までの事からおそらくは『子供』が使われてるっスよね……」
「聖獣はともかく、イコルの製造において、子供が原料になっていることはありません」
 そこで、コーデリアがミリヤムの推論に異を唱える。資料ではこの生産ラインで使われているのは、赤い物体と薬品のみなのだ。
「これ、だね」
 リュコスがイコルの原料である少量の赤い液体へと手を伸ばしたところで、コーデリアが止める。
「余り触れない方が。口に入れるなどもってのほかです」
 それが血液だというのは鉄臭さから明らか。その液体からは感じたのは……魔種のものだ。
 これまでの情報から、皆推論を語ろうとするが、それは後だとアルトリウスが主張する。
「いずれにせよ、工場設備自体は破壊したほうが良さそうだ」
「待って」
 こちらに近づいてくる足音を、リュコスが察知する。
「潜入しているネズミがいると聞いていましたが、ローレットでしたか」
 物陰から姿を現したのは、血染めの修道服を纏う魔種へと堕ちた女性……マザー・マリアンヌだった。
 ギエアアアアアアァァ!!!
 彼女は有無を言わさず合図を出すと、天井を破って聖獣3体が姿を現す。
「さあ、初仕事です。この者達を倒すのです」
 マザーの指示で聖獣達は声を揃えて叫び、こちらを威嚇してくる。
「やはり、価値観合わない場所だぜ」
 この場の状況、聖獣、それに子供達を労働に駆り出す大人。アルトリウスはそれら全てにうんざりしてしまう。
「くそっ! マリアパイセンをぶん殴りたい気持ちはあるっスけど、今はこの窮地を脱しなくちゃっス!」
 かつての先輩彼女が聖獣を呼び寄せる状況に、ミリヤムはキナ臭さが強まるばかりと感じていた。
 その前に目の前の聖獣を倒さねば、無事に取得品を持ち帰ることもままならない。
「アンズーだったっけ、あれとか見覚えがあるよ……!」
 リュコスはライオン頭にワシの体を持つ聖獣に注目する。加えて、マザーの告げた「初仕事」という言葉にも。
「別の聖獣ってことかな……」
「以前に処理したことがある聖獣の同型個体ですか」
 アリシスはこれまでの情報を整理する。
 あの赤い液体から作られたイコルを与えられ、多幸感を得て仕事に従事する子供達。
 途中、壊れてしまった子供は区画内で野垂れ死ぬ。
 また、イコルを与えられ続けた子供達は聖獣へと変貌してしまう。
「イコルを報酬として与えられているそうですし、不思議でもありませんね

 マザーがいたことがその証拠。アリシスと同じ考えに至ったリュコスはマザーへと呼び掛ける。
「なんでこんなことするの!」
「…………」
 答えることなく身を引くマザーの様子から、イレギュラーズと遭遇するのは不本意といったふうにも見て取れた。
 逃げるマザーからもっと事情を聴きたいが……。
「追えば届くのでしょうが、まあ無理せずとも良いでしょう」
「ええ、今戦うメリットは薄いでしょう」
 アリシスもコーデリアもこの場はマザーよりも聖獣達を処理することを先決する。
「どうしてこんな酷いことをできるんだろう……」
 それらの聖獣はイコルを与えられ続けた結果、聖獣となった子供達であることはこれまでの情報からスティアも察して。
「これ以上、悪い大人達の思い通りになんてさせないよ!」
「そうっス、アイドル魂見せるっスよ!」
 ミリアムも涙目になりつつ、現状を打破すべく奮起するのである。


 襲い来る聖獣は3体。
 氷鳥フレスベルグ、凶鳥アンズー、そして、雷鳥サンダーバード。
 3体一度に相手するのは厳しい相手だけに、イレギュラーズもスティアが抑えに当たる。
 丁度、初動が氷、雷と発射準備を行っていた2体へと近づいたスティアは神の福音を鳴らして、それらの聖獣を纏めて相手取っていた。
「安心するが、いい。手足の1、2本程度なら、落ちても繋がる。多分、な」
 冗談でも怖いことを言いつつ、エクスマリアは氷や雷を浴びるスティアへと別の福音を紡ぐことで癒やしをもたらす。
 ただ、彼女らにだけ矢面には立たせないと、ミリヤムはドヤ顔で前に出る。
「ボクこそ、天義の新鋭中華アイドル、ミリヤム・ドリーミングっスよ! 聖獣共、ボクのファンになってっス」
 実のところ、今回はこれ以外できないそうだが、それはそれ。
「か弱いボクに攻撃力とか求めないで! 代わりに根性で聖獣を引き付けるッスから!」
 ドヤ顔は維持しつつも、ミリヤムは抑える形となっていたアンズーに掴みかかられ、涙をほろりと零していた。
 他のメンバー達は全力でそのアンズーに攻撃を集中させる。
「危ないから、早く逃げてね」
 周囲の子供達に声をかけつつ、鎖を鳴らして加速するリュコス。
「しゅうちゅうこうげきで、かっこげきはって言うんだよね」
 アンズーの体目掛け、リュコスは影の爪や牙を深く突き立てる。
「涙の日、裁きの時。 罪深き者よ、灰の中より蘇らん。 神よ、主よ。彼の者の罪を赦し給え――」
 空中に羽ばたこうとするアンズーだが、ミリヤムだけでなくアリシスも鎮魂と浄罪の秘蹟の簡易詠唱によって引付を行ったことで、アンズーはそのまま地上付近で応戦してくる。
「聖獣、などと大層な名前をつけている割には使い捨てなのですね」
 この場に残された聖獣、そして、残して去ったマザー。コーデリアには到底信仰心など思えず、聖獣をただの道具……それ以下の何かと見る。
 ともあれ、襲い来る聖獣を放置もできず、コーデリアは構えた銃でアンズーへと至近距離から弾丸を撃ち込む。
 グアオオオオォォ!!
 ただ、アンズーは思った以上にしぶとく、周囲に放つ衝撃波をイレギュラーズへと浴びせかけてくる。
 多少の攻撃など気にも留めず、美咲は周囲の子供を巻き込まぬよう気を付け、敵のみへと鋼の驟雨を撃ちつける。
 引き付け、回復に立ち回る者も多いチームの中、アルトリウスもいざというときの盾となるべく備えていて。
(ガキ共がオレらの味方とは限らねェが……ンなもん、助けねぇ理由にはならねェよ)
 アルトリウスもまた子供の立ち位置を確認し、鋭い視線でアンズーを狙う。
「足下がお留守だぜ、クソ鳥!」
 拳に纏わせた近接武装で殴り掛かり、アルトリウスはアンズーを空中から叩き落とす。
 そこで、エクスマリアが自らの祝福で仲間達の気力を支えて。
「手を緩める必要は、ない。全力で攻めて、いい。此方も全力で支える。任せろ」
 そんなエクスマリアに支えられ、皆全力でアンズーを追い込んで。
「しゅうちゅうこうげき……かっこげきは……!」
 遠吠えするリュコスは自らの爪と牙を研ぎ澄ませ、地面に墜ちたアンズーの体を貫く。
 グアァァォォ……。
 大きく目を見開いたアンズーはそれ以上抵抗もできず、そのまま力尽きたのだった。

 キエエエエェェェ!!
 1体減った聖獣だが、残る2体も有り余る力をイレギュラーズへとぶつけてくる。
 依然としてスティアが抑え続けていたが、それが1体となったことで負担は軽減されていたようだ。
 スティアは自らに福音を紡ぐことで傷を塞ぎ、位置取りを行いつつ周囲のメンバーの氷結、痺れ回復や気力回復などの支援にも当たる。
 ほぼ、回復支援特化で動いていたのはエクスマリアだ。
 ヒーラーとしてスティアを優先して癒やし、前線を支えるエクスマリアの的確なサポートによって、メンバー達が万全に立ち回って。
「ガキは離れてるな……」
 アルトリウスは子供達の様子をチラ見しながら自らの傷を塞ぐ。そして、自らの拳で雷を纏う鳥を殴りつけていく。
「状態異常漬けにしてやんぜ!」
 とにかく聖獣を弱らせ、ダメージを与えるアルトリウス。
 サンダーバードは雷を放射しながらも突っ込んでくるが、見る見るうちに弱っていく。
 仲間目掛けて近づいたところで、コーデリアは全てを断ち切る刃を放ち、聖獣の体を切り裂く。
 間髪入れずにアリシスが祈りを捧げ、束ねた光る刃でサンダーバードの体を貫き、その生を終わらせる。
 残る氷鳥フレスベルグはスティアの代わりに前へと出たミリヤムが体を凍らせつつ盾として引き付ける。
「アイドルは根性!」
 ドヤ顔のミリヤムは仲間の支援を期待し、じっと身構える。
 攻撃を続けていたリュコスも傷が深まっていたからか身を引くが、そこで、アリシスが癒しの秘跡で彼女達を清め、癒やしていく。
 傷が塞がれば、再びリュコスはスピードで相手を制しようとする。
 素早くリュコスの爪に裂かれた氷鳥に美咲が魔弾を撃ち込むと、相手も空中で仰け反る。
「あと一息……」
 美咲がさらなる魔弾で氷鳥の体を撃ち抜くと、聖獣は地面へと墜ちかけていた。
 そこで、攻撃に転じたのは支援に当たっていたエクスマリアだ。
「鳥としては、随分不格好、だ。その翼、斬り落として、やろう」
 背に光翼を現したエクスマリアは仲間を癒やし、同時に舞い踊る光刃で聖獣の体を切り裂く。
 クエ、エエェェ……。
 フレスベルグもまた翼をばたつかせようとしながらも、地に落ちて果ててしまったのだった。


 聖獣を倒し、イレギュラーズは事後処理を進める。
「先程の聖獣は、働かされている子供の成れの果て……というところでしょうか」
 アリシスが改めて口に出す。捕まっている子供がいないことからもそれは明らかだろう。
 そこで、ギフト「天真爛漫」を使ったスティアが子供達声をかけて。
「ねえ、ここで何をしていたの?」
 多幸感に包まれる子供達は仕事をこなせばイコルをもらえると嬉しそうだった。ただ、何をしているのかまでは残念ながら教えられていないようだ。
「工場設備自体は破壊した方が良さそうだ。ここに働き口を得てるガキ共にゃ悪いが……」
 アルトリウスの主張にメンバーから異論は出ず、銘々の手段で器具、設備を破壊していく。
「焼け石に水かもしれないけど、何もしないよりはいいからね!」
 とは、スティアの談。
 実際、数ある工場の1つを潰しても大勢に影響はないに違いない。
 しかし、ここで働いていた子供達は別だ。
「イコル……イコルは……」
 うわごとのように呟く子供を、スティアが保護したいと申し出る。
「こう見えて天儀の貴族だからね! 私にお任せあれ!」
「……ふむ、暮らせなくなるくらいなら、いっそ一緒に外へ行くか?」
 アルトリウスの提案にも、子供達は不安そうにおろおろするばかり。天義やローレットで保護する形となるだろうが、それはおいおい決まるだろう。
「これで全員っスかね」
 ミリヤムは複雑な表情をしつつ、無茶しない範囲で保護できる子供を連れてこの場を離れる。
 すでに資料も確保済み。一戦交えた後であり、新手が来る可能性もある為、長居は無用。美咲のローレット段ボールで気配を消して撤収する。
 ミリヤムは最後に確保した赤い液体を見つめて。
「……マリアパイセン、アンタは本当に外道になったんスね」
 魔種の血と思しき素材を使った生体実験を行うかつての師の姿に、ミリヤムは泣きそうな表情をしてしまうのである。

成否

成功

MVP

エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘

状態異常

なし

あとがき

 リプレイ公開です。
 MVPは回復支援に加え、聖獣1体を倒した貴方へ。
 今回はご参加ありがとうございました!

PAGETOPPAGEBOTTOM