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シナリオ詳細

私が死んだ餞に

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●父の死を、私は望んだ
「お父様の……暗殺、ですか」
「ああ、そうだ。執政官として父の下に就いて長いが、このままでは領民は減り続け、やがて近傍の貴族に買い叩かれるような事態を招きかねない状況に来ている。私なら立て直せるとは言わない。だが、昨今の荒れ様は度を過ぎている。いくらローゼを……老いてから生まれた長女を失ったからといっても、それを民草にぶつけるのはお門違いだ。……全くの見当違いではなかろうが、領主がする行いではない」
 『ナーバス・フィルムズ』日高 三弦(p3n000097)の問いかけに対し、辺境貴族であるレイヤード卿の次男、ヤトは鎮痛な面持ちでそう語った。
 貴族の暗殺。しかも、肉親からの依頼、それも次男ときた。あわよくば長男諸共に暗殺し、以て成り代わろうとするタイプかと一瞬勘ぐった三弦であったが、どうもそういった野心や敵愾心は彼からは感じられない。ヤトに少し待つよう伝え、棚の書類から引っ張り出した情報を見比べながら、三弦は彼の言葉に一定の真実があることを理解する。
「ローゼ嬢が亡くなったのは、今年の頭、冬の最中……ですか。流行り病に罹った彼女を診るべき医師もが、同じ病に伏していた。そして移動に窮し……お気持ちお察し致します」
「いい。あれは不幸に不幸が重なった。あればかりは、誰にも操れぬ運命だったのだ。悔いが残らぬといえば嘘になるが、それを機に臥せっていた医師を殺し、怪しい者を重用し人々に犠牲を強いるのは我慢ならぬ。兄上も……恐らくは。あの男と父を討ち、弟に世継ぎを任せたいと思っている」
「ヤトさんではなく?」
「私には主の器がない。賢しらに話を並べても、民を率いる情熱には勝てん。兄上、そして弟がその才覚を持ち合わせているのだ」
 ヤトの表情を見れば、弟を政争に巻き込むことへの悔いと、己が矢面に立てぬ申し訳無さがにじみ出ている。そして問題の根底は、医師に代わって領主に近付いた妖術師。錬金術師と言いかえるべきだろうか? 彼によるところが大きいようだ。薬に明るいのは事実で、領主は既に取り返しのつかぬところにきている、と。
「数日後、兄と妖術師が屋敷を離れる。私はそもそも宅を異にしている。弟は後学の為にこちら(王都)に離れている。当日の使用人と私兵は数える程度だろう……どうか、宜しく頼む」
 ヤトの苦悩に塗れた顔を見て、三弦は否やとは言えなかった。汚れ仕事を好んで行う者は少なくはない。それが唯一、救いであったといえる。
「暗殺任務ですと……取り敢えずあのお2人にはお声がけをして……」
 ふう、と三弦は深い息を吐く。
 貴族のお家問題は枚挙に暇がない。そして、それに便乗する怪しい輩も、また。
 懸念がないといえば嘘になるが、『そう』なるなら……毒を食らわば皿までと、彼女は判じた。

●娘の死を、望んだことなどあるわけもなく
「だからって、俺にお鉢が回ってくるなんてな」
「アタシも慣れっこだけど、お呼びがかかるなんて考えてもみなかったわ」
 そして、暗殺決行当日。
 眞田(p3p008414)と玖珂・深白(p3p009715)の2人を筆頭に集められたイレギュラーズ達は、思いの外、というか至極あっさりとレイヤード卿の暗殺に成功した。影を纏った姿の眞田は、胸を血で汚し、苦悶に歪む彼の瞼を閉じて部屋を出る。
「人が少ないって聞いたけど、ここまで少ないのは拍子抜けだ。絶対、ウラがあるだろ」
「例の錬金術師……と依頼人のお兄さん? 不在だって言ってた気がするけど――」
「自分を疎んでいた次男に分かるように情報を流していたなら、どうだろうな」
 眞田の言葉に、深白は眉根を寄せる。そして彼の話が続かないうちに、『答え合わせ』は領主の部屋の扉の開く音とともに現れる。
 それは、レイヤード卿の死体に相違なかった。首だった位置が落ち窪んで、胴と四肢だけになったそれから植物の蔦が這い回るような、怪植物に支配された姿になったものをレイヤード卿だというのなら、だが。

 そしてその頃。
 屋敷の外で周辺の警戒に出ていたイレギュラーズの何名かが、遠くから響く鎧の音と明かりを目にする。
 ……程なくして、卿の長男と錬金術師もご到着ということか。
 よくないことは重ねて起きるものだ。或いは、起きることが前提であったのか……?

GMコメント

 一番不幸なのは父と兄達を失う運命にある王都の弟くんなんですがそれはともかく。

●成功条件
・(条件A)レイヤード卿(妖樹)の撃破(6ターン以内)
・(条件B、A規定ターン経過後)錬金術師、軍閥貴族ヴァン・レイヤード撃破
・(オプション・条件B時)レイヤード私兵の8割の戦闘不能

●レイヤード卿(妖樹)
 プレイングは『妖樹』で通用します。
 OPで暗殺されたレイヤード卿ですが、洗脳用の薬に混じってなにか仕込まれていたようです。
 高い再生力と抵抗値を誇り、比較的高くはない防技を強く補っています。
 基本的に移動はしませんが、【飛】を伴う攻撃で近づけさせないように立ち回ります。攻撃は遠近織り交ぜ、毒系統や麻痺系統、呪殺などを得意とします。
 HPは極端には高くない模様。

●錬金術師
 戦闘能力は低め(耐久その他はそれなり)ですが、戦闘距離に近づかずヴァンや兵士のサポートに立ち回ります。
 怪しい薬を多数使用し、短期的で強力なバフをかけてきます。
 本人がなにか強くなったり化けたりはしませんが、不利と見做せば逃走に転じます。

●ヴァン・レイヤード
 ヤトの兄、レイヤード家の跡継ぎ候補。
 父ほどヤバげな薬は使われていませんが、人並み外れた膂力を持ち頑丈です。
 武器は肉厚の大槍(≒だんびら)。射程長めです。

●レイヤード私兵×10
 ヴァンをサポートする形で戦う私兵達。忠誠心は高めです。

●戦場
 レイヤード卿との戦闘は廊下。一般的なそれよりは広いですが並んで立てる人数は限られ、立体的な戦いは困難です。外に誘導したりも可能。
 ヴァン達とは屋外で、になります。
 プレイングでは「外で警戒していた」「中で暗殺に赴いた」のいずれか選択可能です。

●注意事項
 この依頼は『悪属性依頼』です。
 成功した場合、『幻想』における名声がマイナスされます。
 又、失敗した場合の名声値の減少は0となります。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 私が死んだ餞に完了
  • GM名ふみの
  • 種別通常(悪)
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年09月21日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

極楽院 ことほぎ(p3p002087)
悪しき魔女
茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)
音呂木の蛇巫女
ピリム・リオト・エーディ(p3p007348)
復讐者
チェレンチィ(p3p008318)
暗殺流儀
眞田(p3p008414)
輝く赤き星
ハンス・キングスレー(p3p008418)
運命射手
マリカ・ハウ(p3p009233)
冥府への導き手
玖珂・深白(p3p009715)
キリングガール

リプレイ


「薬使って洗脳とか、あくどいことしてんなァ。つって、オレが言えた台詞じゃねーが!」
「私ちゃん達は外で警らね! 警ら! ぶはははは! これは楽な仕事なのでは?」
 『悪しき魔女』極楽院 ことほぎ(p3p002087)はけらけらと笑いながら、来るかも分からぬこの家の住人を待ち受けている。依頼主は『外出』していると言っていたが、どこまで信じていいのか怪しいものだ。それは『音呂木の巫女見習い』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)を含む外部警戒に回った者等も同感らしく、冗談めかした振る舞いをしつつ、視線の鋭さには偽りというものがまったくなかった。
「大切な『カゾク』が死んじゃったと思ったら、今度は『カゾク』に見放されたり利用されちゃったりするんだ。それって『アカノタニン』って関係とどう違うんだろーネ」
「貴族の身内が家族殺しを依頼してきて、しかもその後始末をつけたら弟に全てを……ですか。よほど家族のことを分かっているんでしょうねえ。歪んだ信頼といいますか、そういうところは『家族』じゃないとできないでしょうね」
「貴族サマなんてそんなもんさ! 血筋とか家族なんてモンは、貴族って立場を護るための道具ってこった! オレはカネが貰えりゃなんでもいーけど!」
 『トリック・アンド・トリート!』マリカ・ハウ(p3p009233)のどこか冷めきった言葉に、『青き砂彩』チェレンチィ(p3p008318)は出来るだけ自分の中で噛み砕いて言葉を紡ぐ。納得させるため、ではなく『家族殺し』という大罪を背負ってまで次に繋ごうとする依頼人を理解するために。ことほぎにとってみれば、よくある話で考える価値があるとも思えぬそれだったが。
 そんな話をしている最中に屋敷の側から響いた振動音に、一同は警戒を強める――が、それと同等かそれ以上の驚異が近づいてきている事実も、薄々ながら気付いている。
 罠に嵌められたのか? それとも、相手が行動を読んでいたのか? 依頼人がイレギュラーズに悪意的である筈がないとすれば。

「前門には長男、後門に……何、この化け物? 何この最悪展開? はあ、ツイてないな……俺らハメられた感じ?」
「死体遊びとか、本当に錬金術師って奴はどいつもさいっっこうの趣味をしてるよねぇ~……」
 『Re'drum'er』眞田(p3p008414)は先程キッチリ殺した筈の暗殺対象が生き返って……どころか、植物を主体とした謎の生物に変異した事態に顔を顰める。こんな話は聞いてない。敵となりうる長男の帰宅も危惧される中で現れた相手は、どう取り繕っても化け物だ。この状況を依頼人の策謀と思うのも無理はあるまい。『Can'dy?ho'use』ハンス・キングスレー(p3p008418)は過去の経験その他諸々を思い返し、やっぱり錬金術師って生き物はクソしかいないと再認識する。最高? 皮肉に決まっている。
「死んでも生き返るなんて、アタシの世界じゃ日常茶飯事だったけど怪植物に変身するのは初めて見たわね……」
「ん……? ある! 脚がありますねー! なら私の獲物ですねー! 形がどうあれ生きていて脚があれば私は大丈夫なので!」
『キリングガール』玖珂・深白(p3p009715)は目の前の状況の特異さに舌を巻く。が、殺すべき相手であることは変わらない為か、策謀だの敵の趣味には一顧だにしない。『《戦車(チャリオット)》』ピリム・リオト・エーディ(p3p007348)に至ってはより顕著で、蒐集対象が目の前にあればその他一切の事情など鑑みるつもりがないのである。ある意味、そちらの方が潔い気もするが。
「――さ、お手をどうぞ、マーダー? 舌、噛んじゃだめだよ」
「青い鳥に手を引いて貰えるとはね。俺、意外とラッキーデイじゃん。それじゃよろしく、ハンスさん」
 ハンスは恭しく一礼し、眞田に向けて手を差し伸べる。眞田は広げられた翼に小さく息をのむと、いつもどおりの軽口でその手をとった。
 両者が動き出すより速く、最早残像すら置いてけぼりにする勢いで飛びかかったピリムの斬撃は、正確に妖樹の腕を両断する。断面を接合するように伸びる枝の姿に催す吐き気は今は無視して、青い羽根は最高速度で跳ね回る。


「ヤトめ、俺達を屋敷から引き離す為にくだらぬ小芝居を打ったか。殺されると分かっていように、回りくどいことを!」
 全身鎧をやかましく響かせて、ヴァン・レイヤードは手桶を雑に揺らしながら森を歩く。振るわれるたびに草葉に溢れる赤い液体の意味を、理解できぬ者はどこにも居まい。
「し、しかし、ヘンリー様が王都に居る以上はおいそれと手出しもなりません。私達がヤト様の元へ『伺う』日取りを予め絞ったうえで告発の準備をしている、というポーズをとったのなら、もしかしたら私共も狙うつもりだったのでは?」
 おどおどとした調子で(否、強行軍に息が上がっているだけだ)ヴァンに応じるのは、レイヤードお抱えの錬金術師。彼はヴァンより頭が回るらしく、現状の危険性を相手以上に理解していた。
 まず、告発の準備をするヤトを無視する。彼はそのまま、本当に告発してしまうだろう。握りつぶされるとしても、表沙汰になるのはまずい。
 ヤトが告発する直前に殺害に赴く。彼自身の実力を加味すると手勢を減らせず、ヴァンが出張る羽目になる。
 そしてこの際、錬金術師(じぶん)が屋敷に残る……レイヤード卿共々、手練に命を落とされて終わってしまう。よしんば死を偽装する手段を用意しても、簡単には通じまい。
 結果、レイヤード卿は屋敷にほぼ1人。……嗚呼、研究の成果をもう少しじっくりと試したかったのに。錬金術師は残念そうに肩を落とした。
「貴様の父への献身と、それ故の落胆は如何許か図り知れん。なれば、早急に屋敷の不埒者を殺さねばなるまいな……そらきた、屋敷が騒がしい」


「流石速いわねあなた、でもアタシも遅れないわよ、っと!」
 深白はハンスの動きにあわせて前進し、勢いそのままドロップキックを放つ。妖樹は床に根ざしてでもいたのか、激しい衝撃を受けながらもこゆるぎもしない。だが、ピリムの斬撃の影響は受けているらしく、蹴りの衝撃が常より深いのを、深白は足先で感じていた。
「黒猫を運ぶなら速さが必要だと思うし……ねっ! 任せたよ!」
「さっすが速いな……! 気ぃ抜いたら意識だけ置いてかれそうだ」
 眞田を抱えて前進したハンスは、相手を投げつけるように前に押し出し、己は脚甲に意識を馳せ、闇と呪いとを乗せて振り上げる。眞田の暗殺技術がそのまま載った暗殺剣は、ハンスの『空想の鉤爪』諸共に妖樹の胴を穿ったそれは、精度こそ申し分ないが、再生能力を奪うほどの深みに至れなかったようだ。成程、七面倒臭い相手を押し付けられたなとハンスは顔をしかめた……その鼻先で、飛来した種が連続して破裂する。
「何、この種……!?」
「痛った……くはないけど、厭らしい攻撃だなぁ! 大丈夫、眞田さん?」
「え、ああ、うん。なんかたまたま避けてたみたいだわ」
 避ける空間も与えず振りまかれた爆弾種は、眞田を除く3人を後方へと追いやっていた。『たまたま』避けられた眞田は、数歩分仲間よりも前にいる。それが幸か不幸か、考えにくいところがあるのだが。
「~~~~~~~!!!」
「あ、なんか分かんないけど怒ってる? カンジ?」
「活きの良い脚は大歓迎ですよー、もう少し楽しませてもらいましょうか」
「化け物になった上に『化け物の自我』があるなんて聞いてないわよ? ……楽しいからいいけど」
「うわ、皆ノリノリじゃん。嫌だよ僕、あんなダンスの趣味が悪そうな相手と踊るの。踊るなら外の皆とがいいなあ……あ、いや。外もちょっと面倒くさそうになってる?」
 ハンスは外をちらりと見て、森と庭との境目にちらりと覗いた光を見逃さない。あれはランタン、そして……見ただけで分かる『血の匂い』。

「ふぅん、これがいわゆる、『騙して悪いが』ってヤツ?」
「……そうでしょうか?」
 秋奈はヴァンが率いる兵士達を一瞥し、依頼人に騙されたものと判断した。疑問を唱えるチェレンチィは別として、ことほぎも同感らしく、茂みに隠れ、一瞬の隙を窺っている。
(話ちげーじゃん、もうちょっと楽な仕事だって聞いてたぜェ? ま、仕事が楽だった試しはねーんだが!)
「はは、ヤトもつくづく人望に恵まれん男だな。俺達を命がけでひきつけておきながら、『私達はあの男に嵌められたんだ』、か!」
 ヴァンは手にしていた桶……『首桶』を放り投げると、転がるままにして鼻で笑う。中身は見えないが、依頼人の特徴であった栗色の頭髪がちらりと覗いた。
「おろ? おろろ?」
「依頼主のことを、家族の方がよく知っていたということですよ。何か狙っていたのは分かっていて、今しがた殺してきたところなんでしょう」
「カゾクの為に死ぬ人もいれば、カゾクを平気な顔で殺すことも、カゾクが死んでも気にしないヒトもいるんだネ……はぁーあ」
 理解できないという表情の秋奈にチェレンチィは説明を加え、一連の流れを理解したマリカは心からの侮蔑が混じった表情でヴァンと、彼に心酔するような私兵の顔との間に視線を往復させた。
「なーんだ、つまんないの。マリカちゃんダルいし眠いからあとのコトは『お友達』のみんなでテキトーに考えてやっといてネ。なんか興ざめだし、別に誰も生かしとかなくていいよ」
 マリカの声に応じて現れた死霊達は、彼女の意向に沿うように動き出す。殺意と、『お友達』を増やそうという意思が見えるその姿は私兵達の戦意を多少なり挫こうとし。次の瞬間、流れ始めた音程を背景に同士討ちを始めたではないか。
「殿方の懐に飛び込むなんてできませんわ、なーんて」
「チッ、この小娘どもが……」
「おおっと私ちゃんがお相手だぜ! 弟の分までしっかり楽しませてもらうぜ! 我は戦神、茶屋ヶ坂秋奈!」
 呪歌を振りまいて私兵を混乱に陥れたことほぎに、ヴァンの凶刃が迫る。が、姉妹刀を振るってそれを弾いた秋奈が堂々と名乗りを上げれば、ヴァンの視線は彼女以外を捉えることはない。
「……メイスン・レイヤードが一子ヴァン。家督と誇りが為貴様を殺す」

「私を守れ、そしてヴァン様を守れ! 私が先だぞ、わかっているな!」
「ハイ」
「よおしいい子だ、このまま――」
 錬金術師はといえば、混乱に陥った兵士達の意識を引き戻し、勢い、活性薬によって自分の命令を守らせようと試みる。……が、用意された怪しい薬は瓶ごと、そして錬金術師の指先ごとチェレンチィが刈り取った。
「距離をとりたいのは見え透いています。護衛を用意するのが遅かったようですね」
「な、馬鹿な」
 彼女の動きが速かったのは事実だ。だが、それ以前に強化薬を与えていた私兵もいたはずだ。だというのに、手玉にとられるはずがない。よしんば同士討ちが響いたとしても、そんな簡単には。
 錬金術師はそこまで思考を回転させてから、しかし兵士達に群がる死霊達の姿を見た。何もかもをくれと、奪うためだけに群がるそれらは私兵の肉体から光るオーラを……強化薬の効果をも引き抜いたというのか。次の瞬間、死霊に埋もれていく兵士の哀れを思う間が、果たして彼にあるというのか?
「おのれ、だがまだレイヤード卿が」
「……レイヤードさんもラッキーだよ。青い鳥と黒い猫、幸福の象徴たちの共演を最期に見れたんだからさ」
 ガシャン、と。
 錬金術師の言葉が終るよりはやく、粉々になった妖樹の破片と、それに蹴りを突き刺す眞田とハンスが飛び出してくる。いきおい、庭に落下すると思われた眞田を抱えてふわりと降りたハンスの姿を、屋敷内の深白とピリムは食傷気味な顔で見ていた。
「あれ? あの桶……あー、はいはい。ハメられたのは依頼主もなのね」
「全くおもしろくもない筋書きばっかり書くね、錬金術師。僕達にこんなつまらない戯曲を踊らせた責任、とってもらうよ?」
 眞田はハンスの腕の中で全てを察すると、ゆっくりと降りてから得物を構え直す。ハンスの心持ちはもう最悪に近く、正直なところマリカと何が違うのか、というレベル。
「ふ、不届き者どもめ! 私達を無じっ」
「まだ私だぢっ」
「あーもう、うっせえ! ご主人サマも錬金術師も死にそうなんだから素直に死んでおきゃいいだろーが!」
 私兵達がなおも立ち上がろうとした、その後頭部をことほぎの監獄魔術が鋭く撃ち抜く。見れば、秋奈と打ち合っていたヴァンもその片腕を切り落とされているではないか。
「……あれ? まだあの2人の脚は無事ですね!?」
「そうね、行っていいんじゃないかしら?」
 屋敷内で様子を見守っていたピリムは、いちばん重要な事実に気付くと嬉々として中庭へと身を躍らせた。その後の顛末など、語るも愚というやつである。

「それにしても災難ねぇ。流行り病って彼は言ってたけど本当にそうかしら」
「それは事実でしょうね。錬金術師ももとを辿れば薬師のようなものですから」
 深白のふとした懸念に、チェレンチィは首を振って応じた。そこまで、そこからが悪意の始まりだったら救えない。それだけは、事実であってほしかったと。
「『カゾク』って、なんだろうネ」
「なんなんだろうね。少なくとも、うん……王都にいる末弟君含めて、誰もお互いをみてなかったのかもしれない」
 マリカの独白に、ハンスは心からつまらないものをみた、というふうに応じた。きっとお互いをよく知っていて、だからこそ違っていくのを恐れて、目を背けていたのかもしれないと。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 誰も居ない家を継いで、一番キツいのが末弟君なんですけどヤトはそこまで考えてなかったと思いますよ。

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