PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<月没>届けよ我らが夢、と歌姫は歌った

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●劇場の奈落
 今日もその劇場では、一人のスタアが生まれる。
 劇場の舞台に立ち、白のドレスを身に纏い。マイクの前にて高らかに歌を歌いあげるその歌姫は、齢18。数多の歌姫候補の中から生まれた、たった一人のスタアだ。
 年に一度行われる、歌姫のオーディション。毎年多くの少女たちが挑戦し、そして夢破れて涙を呑む。
 選ばれる歌姫は、たった一人。幾多の夢と屍の果てに、ただ一人劇場で歌う事を許される一人の乙女。
 ――届けよ、我らが夢。
 歌姫は歌った。それは、毎年の課題曲であり、夢を求めた戦う歌姫たちの魂の叫びであった。
 ――届けよ、届けよ、我らが夢よ。我らは一人に非ず。されど、あの劇場に立つは、ただ一人。
 ――届けよ、謳えよ、我が夢よ。乙女の夢よ、歌に響け。
 歌姫は歌う。堂々と。朗々と。彼女は夢を手にした。夢をかなえた。栄誉を手にした。
(私を送り出してくれたお父さんとお母さん。オーディションで共に戦った仲間達。みんなみんな、皆の願いを乗せて、私の歌よ、響いて届け――)
 綺麗事だろうか。彼女は確かに、夢を手にした。されど、その華やかな夢の上には、多くの夢の屍が眠っている。
 無数の破れた夢の上、無数の流れた涙の上に、夢をかなえるという栄光を得し彼女は立っている。
 夢とは、全ての人に見る権利が与えられて――。
 されど叶えられる権利は、僅か一握りの者しか勝ち取れないのだから。
 ――だからその人の分まで、私は歌う。
 歌姫はそう言うだろう。歌姫はそう歌うだろう。
 それは綺麗事だろう。多くの無残の上に、歌姫は立っているのだとしたら――。
 されど、それは綺麗でなければならない。美しくあらなければならない。残酷な世界で、それは美しく輝くものでなければならない。
 劇場には、奈落と呼ばれる場所がある。
 舞台の下、通路や物置となっている、闇の底。
 歌姫の立つ、舞台の下。それは、殺された夢の濁り場所。
 そこには無数の歌姫がいる。夢かなえられなかった歌姫がいる。
 歌姫がいる。歌姫がいる。歌姫(ゆめ)が殺した歌姫(ゆめ)がいる。夢の墓場、夢の濁り場、奈落(じごく)と名付けられるそこには、悍ましいほどの怨念(ゆめ)が濁り、いま、夜妖の姿を撮りて、吹き出そうとしている――。

●夢の終わりに
 ――R.O.Oのイベント進行状況に変化が訪れていた。舞台はヒイズル。副題は『月没』。
 『侵蝕の月』が高らかと天に昇る。それは、現実世界ともリンクする、ネクストの異常事態であった。
 突如現れた侵蝕度なるパラメータ。現実と交差する怪異。
 そして、特異運命座標は高天京特務高等警察と身分を変え、夜妖の力を纏い、夜妖と戦う事となる――。
「ま、あなたたちのやることは変わらないわ。夜妖を倒す。人々を救う。ね、簡単でしょ?」
 『高天京壱号映画館』のシアタアにて、そそぎはそう言う。そそぎの言うことによれば、毎年、京にて「歌姫オーディション」なる歌手の発掘イベントが行われているのだが、今年、その歌姫の発表会場にて、夜妖の襲撃が行われるのだという。
「夜妖の正体は、歌姫の怨念(ゆめ)、です」
 つづりが言った。オーディションと言う形式である以上、すなわち勝者と敗者が存在する。夢をかなえらえれるのはわずかに一人。夢は夢を喰らい、夢を殺し、夢の屍の上に立つ。そうして生き残ったわずか一人が、夢かなえし歌姫として舞台に立つのだ。
「言い方は悪いけど、蟲毒のようなものよ。もちろん、一度や二度じゃ、その怨念(ゆめ)も大したものじゃないけど、今や数回にわたり開催されたオーディション、つもりに積もった怨念(ゆめ)は、相当なものでしょうね」
 それが、夜妖に取り込まれ、怪物へと変化したのだ、と言う。予知によれば、夜妖は選ばれた歌姫がお披露目の課題曲を謳う際に、舞台の下、奈落と言う空間から漏れ出て、歌姫や、その場にいた人間を喰らい殺す、と言うのだ。
「皆さんには、事前に奈落に待機していてもらいたいんです。そして、歌姫の歌が始まったら、そこに現れた夜妖の群れを、舞台に這い上がる前にやっつけて欲しいんです」
「正直、数年分の怨念(ゆめ)だから数は多いわ。でも、あなたたちも、夜妖の力を纏う……『月閃』の力を得ているはずよ。うまく使えば、数の差くらいひっくり返せるはず」
 なるほど、確かにこの度実装された月閃……ありていに言ってしまえば、ステータスの大幅アップのシステムであるが、それを使えば、ある程度の戦力差なら覆せるだろう。
「……本来、夢は純粋なものです。それは確かに、想いが強ければ強いほど、呪いのようになって怨念(ゆめ)へと変わってしまうかもしれません。でも、負けてしまった歌姫たちも、自分の夢が、こんな風に誰かを傷つける事なんて望んでないはずです。
 お願いです。怨念(ゆめ)になってしまった願い(ゆめ)のためにも――どうか、悪夢(ゆめ)に終わりを告げてあげてください」
 そういって、つづりが頭を下げた。そそぎも頷き、特異運命座標たちにエールの視線を送る。
 特異運命座標たちはその想いを引き受け、劇場へと向かうのであった。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 無念(ゆめ)を終わらせましょう。

●成功条件
 残骸(ゆめ)が奈落中央から舞台にはい出る前に、すべての残骸(ゆめ)を倒す。

●情報精度なし
 ヒイズル『帝都星読キネマ譚』には、情報精度が存在しません。
 未来が予知されているからです。

●侵食度
 当シナリオは成功することで希望ヶ浜及び神光の共通パラメーターである『侵食度』の進行を遅らせることが出来ます。

●状況
 年に一度開かれる、歌姫オーディション。その会場には、今年選ばれた一人の歌姫が、今まさに課題曲を歌い、夢をかなえようとしています。
 しかし、叶う夢あれば潰える夢があるのも道理。潰えた夢は『残骸(ゆめ)』という夜妖と化し、舞台の下、奈落に沈殿しています。そして今、集まり混濁した残骸(ゆめ)は、奈落より這いだし、人を傷つけようとしています。
 いくら濁ったとはいえ、それは想い(ゆめ)。このような凶行に走らせることはしのびない。
 皆さんは、その夢が人を殺めてしまう前に、すべてを浄化してあげてください。
 作戦エリアは、奈落と呼ばれる劇場下の広い空間です。明かりなどは用意されていますが、独自に用意すると、判定に有利に働くかもしれません。また、広さはペナルティなど無しで戦闘できるくらいに広いものとします。
 皆さんは、クエスト開始時点ですでに奈落にいるものとします。しばらくすると、歌姫の歌が始まり、残骸(ゆめ)が発生します。残骸(ゆめ)の発生までには時間があるので、ある程度の簡単な準備などは可能です。例えば、簡単にバリケードなどを組んで、奈落中央の舞台への続く蓋を防衛する……などです。

●ROOとは
 練達三塔主の『Project:IDEA』の産物で練達ネットワーク上に構築された疑似世界をR.O.O(Rapid Origin Online)と呼びます。
 練達の悲願を達成する為、混沌世界の『法則』を研究すべく作られた仮想環境ではありますが、原因不明のエラーにより暴走。情報の自己増殖が発生し、まるでゲームのような世界を構築しています。
 R.O.O内の作りは混沌の現実に似ていますが、旅人たちの世界の風景や人物、既に亡き人物が存在する等、世界のルールを部分的に外れた事象も観測されるようです。
 練達三塔主より依頼を受けたローレット・イレギュラーズはこの疑似世界で活動するためログイン装置を介してこの世界に介入。
 自分専用の『アバター』を作って活動し、閉じ込められた人々の救出や『ゲームクリア』を目指します。
特設ページ:https://rev1.reversion.jp/page/RapidOriginOnline

※重要な備考『デスカウント』
 R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
 現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。

●エネミーデータ
 残骸(ゆめ) ×44
  歌姫たちの潰えた夢。それが怨念(ゆめ)となって、夜妖に取り込まれた存在です。数が多く、まともに相手取るには厄介ですが、皆さんには新たな力、『月閃』があります。うまく活用し、せん滅しましょう。
  主に神秘属性の攻撃を利用するほか、『摩耗』の状態を常に保持します。また、『窒息系列』のBSを付与する攻撃も行ってきます。

●魔哭天焦『月閃』
 当シナリオは『月閃』という能力を、一人につき一度だけ使用することが出来ます。
 プレイングで月閃を宣言した際には、数ターンの間、戦闘能力がハネ上がります。
 夜妖を纏うため、禍々しいオーラに包まれます。
 またこの時『反転イラスト』などの姿になることも出来ます。
 月閃はイレギュラーズに強大な力を与えますが、その代償は謎に包まれています。

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加とプレイングを、お待ちしております。

  • <月没>届けよ我らが夢、と歌姫は歌った完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年09月20日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ヴァリフィルド(p3x000072)
悪食竜
トリス・ラクトアイス(p3x000883)
オン・ステージ
マーク(p3x001309)
データの旅人
入江・星(p3x008000)
根性、見せたれや
ヴィルヘルミナ・ツェペシュ(p3x008547)
†夜の闇を統べる女王†
アイシス(p3x008820)
アイス・ローズ
座敷童(p3x009099)
幸運の象徴
ECHO(p3x009308)
癒歌の蒼

リプレイ

●オン・ステエジ
 奈落。劇場の舞台の底に設けられたスペースや通路、機械室の事を言う。
 奈落。俗に――そこにはよくないものが住み着く、とも言われていた。華やかなりし舞台には、必ず嫉妬や良くない感情が渦巻く。
 それが奈落に集まって、濁る――俗な話である。他愛のない話である。だが……ヒイズルの地には、悪しき夜妖がいる。
 噂を真実とする、魔がいる。
「ここが奈落であるか」
 『悪食竜』ヴァリフィルド(p3x000072)がそう言った。機械などが置かれることもあり、防音性はしっかりしているのだろう。くぐもったリハーサルの音が、頭上――舞台の方から聞こえる。
「夢かなえた、歌姫の舞台……怨念が標的にするには、ちょうどいいのであろうな。
 光さす所には影が生ずる。これは自然の摂理である。だが……影が、悪しき者が、正しく生きるものを害することがあってはならない。
 さて、明かりでも喰らっておくとしようか。我のアクセスファンタズムで、生み出した眷属が、多少はライトの代わりにはなろう」
「助かります、ヴァリフィルドさん」
 『星が聞こえぬ代わりに』入江・星(p3x008000)はそう言うと、天を見上げた。頭上に輝く星は見えない。スタアも、星も。
(夢、夢ですか。ええ、自身のことのように頭が痛くなる話です。
 ……意味の無いものだと分かっていても、それを見た以上、人はそれに深く囚われる。深く囚われた夢は、終わることない悪夢に変わる)
 星が胸中で呟く。夢。それは人に活力を与える。夢。それは時に呪縛ともなる。すべては表裏一体――だが、人は夢を見なければ生きてはいけないのかもしれない
「どしたー、ポジティブシンキングは? ちょっと表情が暗いぞ?」
 『†夜の闇を統べる女王†』ヴィルヘルミナ・ツェペシュ(p3x008547)が、ぴっ、と人差し指を自身の頬に当てながら、そう言う。星は少し頭を振ると、
「いえ……少し考え事をしてしまいました。夢。そしてその残滓について」
 少しばかり、ヴィルヘルミナも悲しげな顔をする。
「……調べた限りじゃ、自暴自棄になっちゃった子もいるみたい。
 ……ばかよね。ほんと、おばかさん。歌なんかのために、そこまでこだわっちゃって……苦しんで」
 そう呟くヴィルヘルミナに、星は何か言葉をかけようとしたが、しかしヴィルヘルミナは気を取り直すように笑った。
「ダメダメ!
 歌姫(そんなもの)よりぃ、我を見てもらわなきゃね♡」

 一方で、戦うための準備は進んでいく。頭上でも、本番への準備は進んでいく。カウントダウンは止まらない。
「じゃあ、私のアクセスファンタズムで、陣地(ステージ)を呼び出すね!」
 トリス・ラクトアイス(p3x000883)がそう言うと、足元からごごご、と舞台(ステージ)がせりあがった。備え付けられたライトがステージを照らす。
「これなら、バリケードみたいに使えるんじゃないかな?」
「おお、立派なものじゃな。助かるぞ」
 『幸運の象徴』座敷童(p3x009099)が愉快気に笑う。
「なにせ敵は多い……数年分の無念じゃ。少しでも足止めができるなら、有利に働くじゃろう。
 ……しかし、無念を夜妖が利用するというのは実に業腹じゃなぁ。触れてはならんものじゃろうに」
「うん……一人の歌姫を生み出すために、多くの歌姫の夢がダメになっちゃうなら……どうしても、そう言う気持は生まれちゃうよね」
 ――……、いつか、願ったものは何だったろう、なくしたものは何だったろう。
 そのトリスの呟きは、誰にも聞こえぬまま。鬨は刻一刻と過ぎていく。頭上に響く、課題曲の伴奏。まだ歌姫の歌は無い。
「いい曲なんだろうね。夢をかなえた人のための歌」
「そうじゃな……それ故に、汚してはならん歌じゃよ……ととっ!?」
 と、足元に水が流れていることに気づいた。その水は、すぐに吸い込まれるように一転に収束していく。やがて凍り付いたその大量の水が、トリスのそれと同様、アクセスファンタズムによって舞台(ステージ)と化していった。
「失礼。大丈夫ですか?」
 と、ステージの主、『氷華のアイドル』アイシス(p3x008820)が声をかける。
「うん、私達の方は大丈夫! そっちも素敵なステージだね!」
 と、トリスが言うのへ、アイシスは頷いた。
「トリスさんのも。座敷童さん、ライトを設置しましょう」
「おお、そうじゃな。トリス、そなたも手伝っておくれ」
「うん!」

 時は過ぎる。頭上、舞台に人の気配が集まっていくの感じる。時は過ぎる。奈落の舞台も少しずつ完成に近づいていく。
 歌が聞こえる。リハーサルの歌。音が聞こえる。リハーサルの曲。合わさる時まで、もう僅か。
「準備は完了ですね」
 『碧音の金糸雀』ECHO(p3x009308)が言う。誂えらえれた、奈落の舞台。歌姫(ゆめ)達を迎える、もう一つのステエジ。
「ゆめ。夢。純粋であるが故に抱き、叶え、そして破れゆくもの」
 ECHOが呟く。舞台の上から。夢。叶えるモノ。破れるモノ。折り合いをつけるモノ。進み続けるモノ。どれも正しい。どれも苦しい。
「それ故に、どれも尊い」
「それに、一度ですべてが終わるわけじゃない」
 『マルク・シリングのアバター』マーク(p3x001309)が、言った。
「一度のオーディションが夢の終わりと決まっているわけでもないし、舞台への道を去る時に、そのオーディションの経験を糧に次の道へと向かう人もいる。
 それを一括りに怨念とするのは、夢を追って努力した人たちへの侮辱だと、僕は思うよ」
 マークがゆっくりと、奈落の闇を見据える。夢を怨念へと変えたものがいるならば。それは。
「そう……侮辱したのは夜妖、あなた達だ」
 マークの言葉に応じたみたいに、ずわ、と影がうごめいた。それは湿った気配と共に、奈落をはいずる。やがてその影が、一人の少女の姿を取った。可憐なドレスに身を包んだ、歌姫。夢破れたあの日の幻影。
「わたしは、もっと歌いたかったの」
 と、歌姫は言った。
「知っているよ」
 と、マークは言った。
「あの舞台の上に立ちたかった。応援してくれたみんなの想いを、背中を押してくれたみんなの想いを、私は叶えてあげたかった」
 と、歌姫は言った。
「ああ、知っているとも。だからこそ、君達の想い(ゆめ)は尊い」
 と、マークは言った。
 故に――。
「歌姫(ゆめ)の代弁者を気取るなよ、夜妖。彼女たちを貶めているとしたら、それはお前達だ」
 ――さあ、歌おう、共に、共に――。
 天上で歌姫が歌う。夢かなえし者。同時、無数の影が、無数の少女たちの姿を取った。夢潰えし者。その眼は絶望と羨望に満ちて、天上を見上げる。
「歌姫たちの無念、すべてを推し量ることはできません。ですが――」
 ECHOが言う。ゆっくりと、武器を構える。
「はじめましょう。せめてその想いだけでも、救いましょう」
 特異運命座標たちは、夢守るための戦いに身を投じる――。

●夢守りし者
 ――我らは夢の下に集い、競い、笑いあった――。
 舞台から歌姫の歌が聞こえる。奈落の残骸たちが、舞台への蓋めがけてゆっくりと歩き出す! バリケード代わりの舞台を盾に、特異運命座標たちは必至の防衛戦を試みる。放たれるスキルが、歌姫を打ち、歌姫の呪詛が、特異運命座標たちを打つ。放たれる攻撃は、特異運命座標たちの魂を摩耗させるような、そんな力を秘めていた。
「其れに触れてはならぬよ夜妖。
 恨み、憎しみ、嫉妬、悔恨、絶望。どのような負の想いでも、
 其れは全力と本気の涙の痕。静かに闇の底に沈めて、時折思い出して糧とするもの。
 穢してはならぬし、他者が利用するなどもってのほか」
 座敷童が蹴りつけた蹴鞠が、奈落の宙を飛ぶ。放たれた蹴鞠は幻惑の起動を描きながら、残骸に直撃。残骸が、ぱん、とはじけて泥のようになって消える。
「囲まれておるのう! 後ろから近づかれておるぞ!」
「任せてください」
 星が応じ、バリケードの中から飛び出す。すぐさまに第一スキルをセット、発動。高らかに掲げた手から、スタアの輝きが解き放たれ、残骸たちをその光で呪縛する。
「夜妖……まさかカムイグラ、いえ、ヒイズルで遭遇するとは。遮那さんも闇と戦っている今、私も皮(アバター)を被って遊んでいるわけにはいきません」
 さらに力強くて掲げた手を握り込む。輝きを増したスタアの光が、残骸たちを圧していく!
「入江・星……いいえ、此度は小金井・正純! 全力で参ります!」
 スタアの光が、残骸たちを泥のごとくとかした。だが、その背後から、さらなる残骸が雪崩を打ったように這い寄ってくる!
「残骸の皆さん、天上の歌も良いですが、私の歌もいかがですか? ファーストシングルは、氷雪乱舞――!」
 アイシスは、氷の舞台の上で高らかに歌う。氷雪の中、しかし歩みを止めぬそれは勇気の歌。仲間達に氷雪の加護を与えつつ、ステージ上で輝くスタアに、残骸たちの視線が集まる。
「――さあ、アイドル活動を始めよう」
 一方、もう一つのステージに立ち、マイクを掲げるはトリス。
「あなた達に捧げるなら――課題曲だよね。……、奈落の底にも、どうか光を。
 聞いて、私達の歌――!」
 トリスが歌う歌がスキルを乗せて、仲間達の傷を癒していく。奏でられる二つの歌、それは不思議と調和するように、奈落の底を光で満たしていく。
 だが、光が強くなればなるほど、闇もまた濃くなる……怨念は自然、光へと視線を向ける。
「どうして、あなた達は歌えるの!」
 残骸が叫んだ。
「私たちはもう歌えないのに!」
 残骸の呪詛。それが気力を削り取る一打となって、二人のアイドルに降り注ぐ。
「くっ……アイシスさん、まだ歌えるよね?」
「当然です。舞台に立った。歌うと誓った。弔うと誓った。昇華すると謳った。ならば、この喉枯れるまで、歌い続けます!」
「おっけー、いくよ! 今夜だけのオンステージだ!」
 アイシスとトリスが、声高らかに歌声を奏でる。旋律が仲間の傷を、仲間の身体を、癒し、踏み出すための力と為す。
「……間違っています。あなた達は、もう歌えないわけではありません。
 歌おうと思えば、どこでも歌えます。伝えようと思えば、どんな思いでも伝わります。
 負けないで。潰えないで。あなた達が本当に諦める時まで、夢は終わらないのです」
 ECHOが言った。それは難しいことかもしれない。辛い道かもしれない。それでも。
 この声は届かないかもしれない。聞いてくれないかもしれない。ああ、それでも。
「わたしは歌い続けましょう。あなた達のために。仲間達のために。夢のために、嗚呼、夢のために」
 ECHOの歌声が響く。奈落に響く、三つの歌。声。想い――そう言ったものが混ざり合って、輝かしい星のように瞬いた。
「行こう、皆。これが僕たちが守るべき夢ならば、その歌を絶えさせてはいけない」
 マークが言う。
「そうだね! じゃ、とっておきのスキルでライトアップ!」
 ヴィルヘルミナが手を掲げると、まるで天井が無くなったみたいに、幻想の夜空が現れた。そこに輝くは赤き月。ブラディ・ムーンの月光がライトアップのように世界を照らし、仲間達の活力と為す。
「うおおおおお!」
 月光のサポートを受けて、ヴァリフィルドが駆ける。放たれるはドラゴンの吐息! もはや嵐の奔流とかしたそれは残骸たちをまとめて吹き飛ばす!
「自分の叶えられなかった夢を他者がかなえた時。
 恨み辛み、妬み嫉みはどうして生ずるであろう。
 それ自体を否定するつもりはない」
 ヴァリフィルドが吠える!
「人であればそのような感情を持つのは至極当然である故な。
 だが、それが他者へと牙を向けるものとなるのであれば捨て置けぬ!」
 ヴァリフィルドの咆哮が、残骸を崩れさせる――だが、次から次へと迫る残骸は、その勢いを衰えさせはしない。
 これが、怨念か。如何に夜妖により強化されたとはいえ……哀しみとは、これほどのものか。
「……けれど、その悲しみを、悲しみのまま終わらせたりはしない。
 それが闇を纏うなら、僕らも夜を纏い、君達の想い、受け止めて見せる!」
 マークが叫ぶ。選び取る。その道を!
「やるんだね……!?」
 ヴィルヘルミナが、少しだけ怯えたような顔をした。だが、マークは力強く頷く。
「歌姫たちを救えるなら、迷う事は無い……使うよ、『月閃』!」
 マークを月光が包み、そして――。

●月、閃く
 刹那、マークの姿はそれまでの騎士鎧の姿から、白き軍服を着た姿へと変わっていた。夜妖を纏い、夜妖を討つ。月閃。新たなる力!
「君たちは残骸なんかじゃ、怨念なんかじゃない! 夢を目指した想いが間違っているなんて、僕が誰にも言わせない!
 だから、全部受け止める……さあ、来い!」
 マークが駆ける! 先ほどよりもさらに素早く! さらに力強く! 佩刀した刀を抜き放ち、一たび振るえばその閃光の下に残骸は砕け散る!
「やるのう、あれが月閃か!」
 座敷童がバリケードから飛び出し、月の光をつかみ取る。
「なら、わらわも歌おう――夜よ、わらわに力を!」
 座敷童が月閃を発動する。姿こそ変わらぬものの、黒いオーラがその身から迸る。着地と共に舞う舞は、黒赤い雷を周囲へとまき散らした! 歌うは鼻歌。星滅の唄。
「これ謳うの何百年ぶりじゃろうな、威力はちっとも足らぬが」
 にぃ、と笑ってみせる。黒赤の雷が、残骸たちを薙ぎ払う。
「凄い力……だけど、やっぱりどこか……!」
 トリスは感嘆の声をあげつつ、しかし月閃の持つ力に、どこか危うさを感じていた。それに、今回は自身が使う事は無いだろう。力を使う事を恐れているわけではない。月閃によって現れるであろう「私(イリス)が捨てたもの」が、この残骸(ゆめ)とは相性が悪いと察したからだ。
「ならばその分……歌い続けましょう」
 ECHOが言った。
「わたし達のできることは、歌う事。想いを受け取る事。さぁ、歌いましょう。皆のために」
「そうです! 仲間達の活躍は、私達の手にかかっています! 歌声を、途切れさせないで!」
 アイシスの言葉に、トリスは頷く。
「さぁ、行きますよ!」
「歌うは夢! すべてを肯定する、輝く夢の歌!」
 アイシスが叫び、トリスが叫ぶ。三人の歌姫の歌が、夜を纏いし者達の背中を押す!
「使いどころはここ――月閃!」
 星、いや正純が夜を纏う。黒のオーラが身体より吹き出し、反転した可能性の姿を発現させた。夜の力はより身軽に、より俊敏に、その足を運ばせる。奈落の天井ギリギリまで跳躍! 上天にて手を掲げ、星の光を残骸たちに浴びせる!
「やぶれた残骸、人の想いの成れの果て。
 いいのです。私が赦しを与えましょう。
 我が腕の中で眠り、再び空に瞬くスタアとなりなさい。
 ゆっくりと、おやすみなさい」
 星の輝きが、残骸たちを昇華させる! 正純の星が、輝けなかった星を包み、抱き、瞬いた。
(この力……。
 ミナちゃん、使うのちょっと怖いな。
 だって、よくない力なんだもん)
 ヴィルヘルミナが、胸中で呟く。それは、力への不安。
(でもね、こうも思うんだ。
 力は力でしかないって。
 使い方を間違えなければ、いいんだって。

 そして、こうも思うの。
 我にそんなことできるのかなって。
 可愛くて完璧な『ミナちゃん』ならもちろんできるけど。

 『我』は)
 逡巡。迷い。畏怖。様々な感情が鎌首をもたげ、その心の内で踊る。されど、手にしたものは。
「…………でも、今使わなくてはならんのならば」
 夜を、掴む。夜を、纏う。
 歌が、聞こえる。潮騒が、聞こえる。
 聞こえるのは、『我』の口から。
「くちる さんごが くずれるのがすき
 くじらの むくろが うたうのがすき」
 ヴィルヘルミナは――姿は変わらずとも、穏やかな、深海に似た笑みを浮かべ。
 ゆっくりと、その手を掲げる。本来なら操られし闇は、今は深海に泳ぐ無数の影とかした。世界を深海に染め上げ、深き生命の影が残骸たちを翻弄し、その大海の内へと飲み込んでいく――。
 月閃――その威力はまさに驚異的。パワーアップした一行の反撃に、残骸たちは一気に押し返されていく! だが、月閃のタイムリミットは短い。その間に、多く! 確実に! 残骸を昇華しなければならない!
「輝け、星よ――!」
 正純の掲げる星が、残骸たちを昇華していく。その合間を縫ってかけるマークの刃が、残骸を斬り、浄化していく!
「君達の夢は終わったんじゃない。君達の想いは潰えたんじゃない。
 現実は続いていく。ならばきっと、夢も続いていく!
 辛いかもしれない。苦しいかもしれない。でも諦めないならば、夢は!」
 最後に残った残骸の姿が消える。後に残ったのは、醜く濁った、夜妖の塊だった。
「終わりだ、悪しき者よ」
 ヴァリフィルドが、その顎で夜妖を喰らった。それで、辺りの空気は一変した。重苦しいものは途切れ、涼やかな地下の空気が、辺りを包んでいた。
 ――残骸は消えた。特異運命座標たちは、その浄化に成功した。傷つき、『死亡』したものもいたが、それでも、やり遂げた。
「ありがとう」
 と、誰かの声が聞こえた気がした。
「私達、歌う事を止めない」
 残骸……いや、それは想い(ゆめ)の声だった。
「そうだね。それがいい」
 マークは言った。

 上天に向って、夢が昇っていく。
 夢は終わらない。想いが続く限り、きっと。

成否

成功

MVP

トリス・ラクトアイス(p3x000883)
オン・ステージ

状態異常

マーク(p3x001309)[死亡]
データの旅人
入江・星(p3x008000)[死亡]
根性、見せたれや

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 皆さの活躍によって、残骸(ゆめ)は希望(ゆめ)に変わり。
 想いが続く限り――また次の夢へ。

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