PandoraPartyProject

シナリオ詳細

廃船島のサンディ・カルタ。或いは、人工迷宮オリエンテーリング…。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●追跡者
 天義。
 アドラステイアの外れ。
 血と汗と垢の臭いが混ざり合った異臭漂うスラム街に、数発の銃声が響き渡った。
「っと、あぶねっ」
 銃声が鳴り響くと同時、サンディ・カルタ (p3p000438)は転がるように前へと転がる。
 そうしながら、傍らを走る巨大たい焼き……否、ベーク・シー・ドリーム (p3p000209)を掴むと、それを被るように頭上へと掲げた。
 衝撃、そして銃弾がベークの身体を打つ音が響く。
「うわっ!? これは……【感電】ですね」
 頭上より降る魔弾をその身で受けたベークはそう言った。
 数発の魔弾を受けたことにより、たい焼きに幾つもの穴が穿たれるが、即座にそれは治癒を始めた。
「……どこから撃って来てるんだ?」
 魔弾の掃射が止むと同時に、サンディは再び走り出す。
 瓦礫を跳び越え、壊れかけた家屋へ身体を滑り込ませ、寝ていたスラムの住人を大きく迂回し回避する。
 
 ことの起こりは数時間前。
 アドラステイア、スラムへ忍び込んだサンディとベークはそこで1通の手紙を手に入れた。
 数度にわたる潜入調査を行ううちに、知り合いとなったスラムの男に譲られたものだ。
「しばらく前にスラムで聖獣が暴れたろ? その時、聖獣に襲われた奴が持ってたものさ」
 幾らかの食糧と引き換えに、サンディは男から手紙を受け取る。
 手紙に記されていたのは日付と、それから「廃船島、5番ドック」というごく短い文字列、そして“C”という署名だけだった。
「廃船島? どこだ、そりゃ?」
「さぁ? 僕にもさっぱり……もう少し調べてみる必要がありますかね?」
「だな。誰かしら、知ってる奴もいるかもしれない」
 ほんの短い打ち合わせの後、サンディとベークはスラム街で聞き込み調査を行うことに方針を定めた。
 それからしばらく……聞き込み調査を行う2人は、何者かの襲撃を受けることになる。

 断続的に響く銃声を耳にして、多くの者はそっと物陰に身を潜めた。
 スラムに住まう者たちは、正しくそれが厄介ごとの気配であると知っているのだ。
 中にはひどく察しが悪く、野次馬根性を丸出しにして自ら死地へと赴く者もいるのだが、得てしてそう言う者の寿命は短いものだ。
「にゃ?」
 けれど1人……シキ・ナイトアッシュ (p3p000229)は、それを厄介ごとの気配と察したうえで、銃声を追って駆けていく。
 風のようにスラムを走るその影を、住人たちは唖然とした目で見送った。
 どうやら銃声は、スラムの外れへ向けて移動しているようだ。
 もうじき、現場に辿り着く。
 シキは腰に下げた刀へ手をかけると、走る速度を一段上げた。

 炎に氷、稲妻と、数種類の魔弾がサンディへと降り注ぐ。
 サンディはそれを時に回避し、時にベークで受け止めながら走り続けた。
「今度は【業炎】に【氷結】ですか。こうも連続で撃ち込まれると、いつかサンディ君に当たりそうですね」
 軽い口調でベークはそんなことを言う。
 とはいえ彼も、ここまで至る間にそれなりのダメージを負っていた。
 またサンディも、姿の見えない追跡者を相手に戦い続けていることで、神経をすり減らし続けている。

 サンディとベークの逃走経路を、空から見下ろす影がある。
 翼を広げ、スラムの上を旋回していたティスル ティル (p3p006151)だ。
 瓦礫や家屋の影に隠れて、追跡者は絶えず移動しているため、その姿は視認出来ていない。
 けれど、空からずっと観察を続けていたティスルには、敵が潜むおよその位置は分かっていた。
「駄目だね。手が足りない。2人は逃げるのに精いっぱいだし、私が行ったら敵の位置が分からなくなるよね」
 どうしよう?
 顎にそっと指を添え、ティスルは静かに思案する。
 銃声を聞きつけ、様子を見に来たティスルはそこで、逃げるサンディとベークを見つけた。
 声をかけようとも思ったが、2人が何者かに追われていることに気づき、こうして観察役に徹していたのだ。
「追跡者はたぶん、あっちの倉庫みたいな建物にいるけど……んん?」
 そう言ってティスルは、追跡者の潜む倉庫へ視線を向けて……そこで、シキの姿を捉えた。

「それ! そこの倉庫を壊して!!」
 頭上より響くティスルの声を耳にして、シキは即座にその場でピタリと動きを止めた。
 くるり、と踵を返しながら腰の刀を引き抜くと、それを倉庫の柱へ向けて叩きつけた。
 朽ちかけた木製の柱を断ち斬る程度であれば、シキにとっては容易に過ぎた。
 1本、2本、3本と倉庫の周囲を駆け抜けながら次々と支柱を断ち斬った。
 支えを失った倉庫が、音を立てて倒壊を始める。
「サンディ! てめぇ、待ちやがれっ!」
 倉庫の内より若い男の怒声が響く。
 次いで、1発の銃声。
 砕けた壁の向こうには、白い服を着た浅黒い肌の男性と、魔女のような帽子を被った女性の姿があった。
 その服装から察するに、2人はアドラステイアの聖銃士だろう。
 その姿が瓦礫に飲まれる寸前、放たれた魔弾がサンディの脇を撃ち抜いた。

●廃船島
 スラムから幾分離れた廃教会。
 その片隅に4人の男女が集まっていた。
「それで、撃たれた時に手紙を落としちゃったんだね」
 困ったね、とそう言ったのはシキだった。
 バツの悪そうな顔をして、サンディはわざとらしく肩を落とす。
「命は拾ったんだから、良しとするさ。手紙の内容は頭に入ってるしな」
「まぁ、日付と“廃船島”の一文、それに“C”という送り主の署名だけでしか書かれていませんでしたからね」
 サンディの治療を終えたベークは、埃塗れの床に手紙の内容を書く。
 “廃船島”についての情報を追ってはいたが、未だそれが何を指すのかは分からないままだ。
 サンディ、ベーク、シキは文字を目で追いながら、思案する。
 もう一度、スラムに戻って情報を集めるべきか。
 それとも一度、ローレットへ帰還するべきか。
「あれ?」
 ただ1人、ティスルだけは“廃船島”の名前を聞いて、何かを察したようだった。
 彼女は地図を取り出すと、その一ヶ所を指さした。
 アドラステイアから幾らか離れた海の上。
 ごく小さな、島があった。
「たぶんここだよ、廃船島って」
「見たところ、人が住めるような規模の島には見えませんけど?」
「うん。陸地はね。でも、ここには多くの人間が住んでいるんだよ」
 ベークの問いにそう返し、ティスルは廃船島についてを語る。
 曰く、潮の流れの関係で、その島には無数の難破船が漂着するらしい。
 ある日、1人の男が小舟でその島へと渡った。
 彼は流れ着いた船の残骸を繋ぎ合わせることで、島に即席の住居を造った。
 いつしか、島には無数の人が渡り住み、それに応じて島の規模もどんどん大きくなっていった。
 結果、今では半径1キロほどの巨大な人工島へと形を変えているそうだ。
「まぁ、孤島のスラムだね。そこから渡って来たって人に、偶然話を聞いたんだよ」
 住む人々が好き勝手に増改築を繰り返すせいで、廃船島はまるで迷路のようになっているらしい。
「島に住んでいるならず者には海種が多いって話だよ。随分と排他的で、余所者には厳しいんだって」
 そんな海種のならず者たちが、廃船島を拡大するための拠点として使っているのが“ドック”と呼ばれる施設である。
 現在、ドックの数は13。
 うち1~7までは役目を終えて破棄されているそうだ。
「1~7番ドックは島のどこかに、8~13番は島の外周にあるよ」
「……迷路みたいな人工島か。それに、ならず者の群れ、と」
 廃船島へ渡ることは可能だろう。
 それに、手紙の内容も気にかかっていた。
「さっき追って来てたのは、たぶんサタディとウェスティの2人だよな……つくづく縁のある連中だぜ」
 サタディ・ガスタ、そしてウェスティ・カルートの2人はアドラステイアの聖銃士だ。
 かつて数回、サタディはその2人と顔を合わせたことがある。
 先ほど撃ち込まれていた【感電】や【業炎】【氷結】の魔弾はサタディの得意とする攻撃手段である。
 また、ウェスティは体力、BSの回復といった支援を得意としていたはずだ。
「2人は手紙を拾っただろうな。先に手紙を得たのは俺たちなのに、横から全部かっさらわれるのは嫌だよな」
「じゃ、決まりだね。えっと、話を聞く感じだと、まずは外周にあるドックを目指せばいいのかな?」
 行くんでしょ?
 そういってシキは、腰の刀をチャリと鳴らす。
 ベークやティスルも、それぞれ準備を開始した。
 どうやら3人も、サンディとともに廃船島へと乗り込むつもりであるらしい。
 一瞬、呆けた顔をしていたサンディだが、3人の意思を察すると途端に勝気な笑みを浮かべた。
「よし、行くか。サタディたちより先に“C”とやらを見つけ出そう」

GMコメント

※こちらのシナリオはリクエストシナリオとなります。


●ミッション
サタディ&ウェスティより先に“C”を見つけ、保護すること。

●ターゲット
・“C”
廃船島で待つ謎の人物。
聖獣に襲われたスラムの住人が、近々コンタクトを取る予定だった人物。
スラムの住人は、Cと逢って何をどうするつもりだったのだろうか。
それを調べることが今回の目的となる。


・ウェスティ・カルート
https://rev1.reversion.jp/illust/illust/33362
アドラスティアに所属する聖銃士の女性。
直接の戦闘よりも、魔導銃による体力、BSの回復を得意としている。
※スラムの惨状に胸を痛めているようだ。


・サタディ・ガスタ
https://rev1.reversion.jp/illust/illust/33361
アドラスティアに所属する聖銃士の青年。
穏やかな気性のウェスティに比べ、荒っぽい性格をしている。
魔導銃による威力の高い魔弾の発射を得意とする。
サタディの操る魔弾には【感電】や【業炎】【氷結】の状態異常が付与されている。

・ならず者
廃船島に住むならず者。
廃船島はいわばスラムのようなものだ。
住んでいる住人たちも、相応にガラの悪い者が多い。
とくに海種が多い。
彼らの大半は、外部から来た者に対して友好的ではないようだ。


●フィールド
アドラステイア沖合にある廃船島。
廃船を繋ぎ合わせて造った半径1キロほどの人工島。
ほとんど船で出来ているのでよく揺れるし、壊れやすい。
適当に船を繋ぎ合わせているせいで、島内はまるで迷宮のようだ。
島にあるドックは全部で13。
8~13番ドックは島の外周に存在しており見つけやすいが、1~7番は島内のあちこちに点在しており、正確な位置は既に不明となっている。
ドックは廃船島拡大の拠点となる。そのため、必然ドックには多くの情報が集積されている。
目的地である5番ドックに至るためには、幾つかのドックを回って情報を集める必要がある。


●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 廃船島のサンディ・カルタ。或いは、人工迷宮オリエンテーリング…。完了
  • GM名病み月
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年09月20日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費150RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)
よく炙られる
※参加確定済み※
シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)
雨は止まない
※参加確定済み※
サンディ・カルタ(p3p000438)
横紙破り
※参加確定済み※
ティスル ティル(p3p006151)
幻耀双撃
※参加確定済み※
シャルティエ・F・クラリウス(p3p006902)
カモミーユの剣
リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)
うそつき
三國・誠司(p3p008563)
一般人
サルヴェナーズ・ザラスシュティ(p3p009720)
砂漠の蛇

リプレイ

●アドラステイアの廃船島
 廃船とはいえ、元は船。
 材料となる木板も、それなり頑丈で風化しづらいものである。
 しかし、飛来する魔弾は、まるで紙のようにそれを穿ち、風穴を開けた。
 飛び散る木っ端を浴びながら『挽いても叩いても食えない』ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)は告げる。
「二度あることは三度あると言いますけど、あのお兄さんちょっと好戦的すぎませんかね」
「まぁ、何度も侵入されてるってんでいい加減うんざりしてるんだろ。だがまぁ、こっちに来たってことなら、なんとかして足止めしてやらねーとな」
 そういって『横紙破り』サンディ・カルタ(p3p000438)はその場で体を後ろへ向けると、どこかに隠れているらしい追手の姿を確認。
 先ほど、そこらの鼠に聞いた話では、追手の数は白い服の男女が2人。まず間違いなく、ここしばらくの間にすっかり顔なじみとなったアドラスティアの聖銃士、ウェスティ&サタディで間違いないだろう。
「……サンディ君も妙な星の元に居ますねぇ。僕が言うなよって話ですが」
 地面を蹴ってベークが跳んだ。小柄な少年から、巨大なたいやきへと一瞬で姿を変えた彼は、その身をもって仲間たちを狙う魔弾を受け止める。
 ドス、と鈍い音がしてベークの身体に火炎の魔弾が着弾。
 弾かれたベークは、勢いよく地面を転がっていった。
「やべぇ、めっちゃ香ばしい香りする。お腹すく」
「食べ物じゃないんですよっ!」
 ふわり、と皆の鼻腔を甘い香りが擽った。思わず、といった様子で『一般人』三國・誠司(p3p008563)が己の腹へ手をあてれば、転がりながらベークは否と声をあげた。
 そんなベークを慌てた様子で拾い上げ『明日を希う』シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)は地面を蹴って宙へと跳躍。
 衝撃で、地面が大きく傾いた。
 現在イレギュラーズがいる廃船島は、その名の通り、廃船の残骸を繋ぎ合わせて造った人工の島である。当然、海に浮いているものであるため、強い衝撃や激しい波に襲われると、この島は実によく揺れる。
「すっかり訳の分からないところに追い込まれてしまったね。1回、飛ぼう。近くにドックがありそうだ」
 背後へ迫る人の気配と魔弾へ警戒を払いながら、一行は建物の壁に沿うようにして、次々空へと舞い上がる。

 一方そのころ。
『幻耀双撃』ティスル ティル(p3p006151)を先頭に、4人の男女が廃船島の9番ドックを訪れていた。
「さて、向こうは聖銃士に襲われているみたい。今のうちにサンディ君や聖銃士より先に、5番ドックの”C”を見つけてしまおうね」
 ティスルの肩には小鳥が1羽。
 別行動をとるサンディたち“たいやきさんチーム”との連絡役である。
「とはいえ、柄の悪い人が多いし……あんまり良く見られてないみたいだ。話を聞こうにも、ちゃんと話が出来るか怪しいかもしれない」
 腰の剣に手を添えたまま『カモミーユの剣』シャルティエ・F・クラリウス(p3p006902)はそう告げる。
 周囲の物陰からは、胡乱な視線が注がれている。警戒と敵意の滲んだ視線には慣れたものだが、だからといって一切平気というわけではない。
 いつそれらが襲い掛かって来るものか、と思えば落ち着いていられないのは必然だ。
 とはいえ、そんな住人たちの鋭い視線を気にも止めない者もいる。
 1人は、皆より少し高い位置に上って遠吠えしている『うそつき』リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)。可憐な少女のような外見ではあるが、彼女の本性は人狼だ。
 おぉん、と響く遠吠えも、堂に入ったものである。
 そしてもう1人は目隠しをした灰色髪の女性……『砂漠の蛇』サルヴェナーズ・ザラスシュティ(p3p009720)だ。
「ごめんなさい。道に迷ってしまって。5番ドックの場所をご存じないでしょうか?」
 そう問いかける彼女の前には、尻もちをついて慌てふためく男が1人。不用意にサルヴェナーズに声をかけ、礼を失した態度を取ってしまったがため、膨大な量の蛇に襲われる幻覚を見せられているのである。
「あ、あぁぁ!? し、知らねぇ! 知らねぇが……1番ドックなら島の北側にある!」
「北側、とだけ言われても。もう少し何か知りませんか? どうしてもそこに行かなければならないのです」
「北側は北側だよ! 北端にある12番ドックより島の内側! 間に2つ、ドックがあるとは聞いてるよ!」
 だから蛇を退けてくれ。
 悲鳴をあげて腕を激しく振り回し、男はそんなことを言う。

●廃船島を駆ける
 入り組んだ道も、視界を遮る古い家屋も、リュコスにとっては何ら障害になり得ない。
 身を低くして、獣のように街を駆け抜け、彼女はあっという間にそれを見つけた。
 錆びた鉄のプレートに、刻まれた文字は「№.2」。
 廃船島の1番ドックと12番ドックの間にあったのがそれだった。
「んー? ここが2番目ってことは……あれ? でも、ここまでのあいだにそれらしいものってなかったよね? パッと見で分からないってことは、廃船島のおくふかくに開けたくうかんとか、かくれたいりぐちがあるの?」
 わかんない、と。
 小首を傾げたリュコスは、すんすんと鼻を鳴らしてプレートの周りを嗅ぎまわる。
 彼女の勘が告げているのだ、この付近にはきっと何か手がかりになるものがある、と。

「何やってんだ、あいつ?」
「分かんねぇよ。だが、ちとちいせぇが見た目は悪くないんだし、捕まえてどこかに売りつけるか?」
「無理やりってのもあれだからな、誰か菓子持ってねぇか? それで釣れば……」
 なんて。
 プレートの周囲を嗅ぎまわっているリュコスの様子を、遠目に観察している男が5、6名ほど。一様に汚い身なりをしているのは、彼らが特定の住処を持たないならず者であることの証拠であろう。
「あぁ、ちと古いが焼き菓子ならある。これで」
 と、男の1人が懐から薄汚れた布の包みを取り出した。
 中身は焼き菓子なのだろう。
 それを手に、男はリュコスへ近づいていくが……。
「あぁ、ちょっと待って。彼女は別に孤児とか迷子ってわけじゃないんだ。探し物をしているだけなんだよ」
 慌てた様子で、シャルティエが男を呼び止めた。
 人好きのする笑みを浮かべたシャルティエは、両手を顔の横に掲げて敵意は無いとアピールしている。
 剣は腰の鞘に収まっているし、愛用の盾も背中に下げたままだった。
「あ? どいてろガキが。こっちは」
「こっちから手荒な真似はしたくない」
 男の言葉を遮って、シャルティエは1歩前に出た。
 ミシ、と。
 その足元で木板が軋む。
 散歩にでも出かけるような気安い1歩であったけれど、込められた力はかなりのものだ。証拠に、木板にはシャルティエの足形に罅が走っているのだから。
 当然、男もそれに気づいた。
 長くならず者をやっていると、自然、そういう本能の部分が鍛えられるのだ。長生きするには、危うい場所や人に近寄らないことが何より肝心なのである。
 そして、男の本能は目の前に立つ優男から、危険な気配を感じていた。
「……あぁ、わりぃな。連れだったか」
 ところで、何を探してるって?
 古い菓子を懐に仕舞い、男は問うた。
 この場でシャルティエ相手に一戦交えることを、彼の本能は良しとしなかったのであろう。

「リュコスさん。何か見つかりましたか?」
「うー? 分からないけど、あやしいきがするよぅ」
 すんすんと鼻を鳴らしているリュコス。
 隣に並んだサルヴェナーズも、一緒になって手がかりの捜索に加わった。
 邪魔が入らないよう、周囲の見張りはシャルティエとティスルが担っている。
「ねぇ! けっこう近い位置で騒ぎが起きてるよ! これ、たいやきさんチームがこっちに追い込まれてるんじゃないかな!?」
 頭上を飛び回っていたティスルが戦闘の気配を察知する。
 サルヴェナーズやリュコスの位置からは見えないが、なるほど確かに耳を澄ませば遠くで何かが壊れる音が鳴っている。
「……手がかりは少ないですが、次のドックへ向かいますか?」
「うぅ……ちょっとまって。やっぱり、ここがあやしい気がするよ」
 サルヴェナーズを引き留めて、リュコスは「№2」と書かれたプレートに指をかけた。
「そういえば、最初に立ち寄ったドックにはプレートなんてありませんでしたね」
 サルヴェナーズがそう呟くのと、リュコスの爪が壁に嵌ったプレートを引っぺがすのはほぼ同時。
 ぽろり、とプレートが剥離した後には、小さな空洞が開いていた。中には木箱が納まっている。
「これ、なんだろ? これな気がするよ」
 なんて。
 リュコスは木箱を手に取った。
 直後、頭上を舞っていたティスルが慌てたように声をあげる。
「やば! 見つかっちゃった! ひ、東の方に退避!」
 飛来する魔弾を回避しながらティスルが叫ぶ。
 敵の居場所を仲間たちへと伝えた彼女は、魔弾の射線から逃れるべく急降下。建物の影に身を隠しながら、東の方へと進むのだった。

 リュコスが見つけた木箱の中には、廃船島の古い地図が納まっていた。
 現在とは幾らか形も異なるが、そこにはしっかり目的地である5番ドックの位置も記載されている。
「って、サンディ君たちの方が近いね、これ!」
 とりあえず、得た情報をサンディたちへと伝えたティスルたち一行は、5番ドックへ向けて移動を開始した。

 サタディからの攻撃は、しばしの間止んでいた。
 しかし、彼が追跡を諦めたわけでないことは分かる。背後から感じる明確な敵意がそこに2人がいることを教えてくれていた。
「これ、僕たちの目的に気づかれましたかね? 泳がされていませんか?」
「ま、別動隊の存在がバレた以上仕方ねぇよ」
 背後を警戒しているベークとサンディは、声を潜めて意見を交わす。
 ティスルたち別動隊の存在がサタディ&ウェスティにばれた。以降、2人の目的はイレギュラーズの排除から、“C”の身柄確保へとシフトしたようだ。
 つまり、イレギュラーズが“C”を見つけた後で、横から身柄をかっ攫おうという心算である。
「そう長くここに留まってもいられないな……なぁ、そっちは何か分かったか?」
 サンディは背後へ向けてそう問いかけた。
 ところは廃船島1番ドック。
 ティスルたち別動隊が廃船島の古い地図を見つけたらしいが、どうにも5番ドックへ至る道が既に無いらしい。
 小鳥の運んできたメモにそんなことが記されていた。
 その辺りの情報を補足すべく、シキと誠司が聞き込み調査を行っているのだ。
「尋問……んん、ちょっとそこらに居た人に、お話聞かせてもらったんだけど」
「ドックの上に家が建っているそうだよ。そりゃ、見つからないはずだ」
 そう言って誠司は小鳥の口にメモを1枚咥えさせる。
 それから愛用の大砲を構えると、空へ向けて2度、空砲を撃ち出した。
「さて、聞くこと聞いたらあとはとんずら。それが一番、面倒が少ない」
「……よし。それじゃあ、そうしようか」
「それじゃあ、僕たちも移動しましょう。聖銃士の2人は、サンディ君も僕もいるこっちを狙って来る可能性が高そうですよね」
 なんて。
 言葉少なに今後の方針を固めた4人は、早速移動を開始した。

●“C”ontact
 埃塗れの木材を退けると、現れたのは古めかしい金属板だった。
 記されている文字は「№5」。
「おぉい! “C”って奴はどこにいる!?」
 “C”
 それはおそらく、何かのコードネームだろう。
 アドラステイアに侵入していたスパイの女から、情報を受け取る役割を担う者の名だ。
 当の女スパイはすでにこの世にいない。
 何らかの事故か事情によって、聖獣と成り果て、討伐されたからだ。
 サンディの声に誘われ、建物の影から痩せた男が顔を覗かせる。
 瞬間、鳴り響く銃声。
 男へ向けて、サタディが魔弾を撃ったのだ。
 しかし、それはベークが身体を挺して庇う。
「うぅん、やっぱり痛い。背びれの痛みがなかなか引きませんね……」
 地面に転がったベークは、そんな軽口を叩きながら身を起こす。その背中は、火炎の魔弾を受けたことにより、黒く焼け焦げていた。
 もっとも、ベークの回復力を持ってすれば、そう長い時間をかけないうちに治癒する程度のものなのだが。
「痛いじゃ済まないはずなんだけどな。本当に、どうなってるんだ、お前?」
「回復できるのはこっちも同じだけどね」
 タン、と軽い足音を鳴らし、サタディとウェスティが4人の前に姿を現す。
「2人は“C”に心当たりがあるのかな? 5番ドックの位置は知ってる?」
 突然。
 そう問いかけたのはシキである。
「あ? そいつが“C”なんじゃ……」
「どう? 読み取れたかな、三國君?」
 サタディの問いを無視したシキは、傍らに立つ誠司に問うた。
 刹那、誠司は突如として大砲の引き金を引く。
 轟音と共に砲弾が放たれ、サタディたちの背後へ着弾。砕け、崩落する家屋を避け、2人は前方へと退避を図った。
「あぁ、2人とも“C”にも5番ドックにも心当たりがないようだよ! つまり、ここで足止めしておけば万事OKだ!」
「っ!? こいつ、退路を断つために?」
「サタディ、これ罠じゃ……」
「分かってる。分かってるが……もう遅い!」
 そう叫んだサタディは、壁に埋もれた「№5」のプレートへ視線を向けた。
 何故? ここが5番ドックじゃないのか?
 そんな疑問に対する答えは、サタディの口から告げられる。
「俺の造った偽物のプレートだよっ。どうだ? よくできてるだろ?」
「あの人は通りすがりの一般人だね。巻き込んじゃって悪いけど」
 右からはサンディの仕込み刃。
 左からはシキの刀。
 斬撃のタイミングはほぼ同時。
 防御も攻撃も間に合わず、サタディは後方へと跳んだ。完全には避けきれず、顔の前に翳した腕に深い裂傷が刻まれる。
 体勢を立て直すべく、背後の壁に足を着けるが、直後、足場が激しく揺れる。誠司の砲弾が、建物の壁を吹き飛ばしたのだ。
 姿勢を崩したサタディへ、ウェスティが回復弾を撃ち込むが……。
「させませんよ!」
 射線に跳び込むベークがそれを、サタディの代わりに受け止める。
 淡い燐光がベークの身体を包み込み、背びれの火傷をじわりと癒した。
「えぇ!? ちょ、君じゃない!?」
 いかに2人が手練れとはいえ、数の不利は覆せない。遠距離攻撃の利点を封じられた今、2人には防戦に回るほか術はない。

 家屋と家屋の間にあった狭い階段を下りた先。
 半ばほど浸水しているその場所には、小舟に乗った女性が1人。
「貴方が“C”だね」
 そう問いかけたティスルの顔を、女性はチラと一瞥する。
 口元を黒い布で隠した、蛇のような眼をした女だ。
 その表情から、何ら感情や意思は確認できない。待ち合わせの場所に見知らぬ女が現れたというのに、彼はひどく冷静だった。
「ねぇ、なんで“C”なの?」
「contact。Connect。cable. Cap。理由は様々だが、私は“コネクター”と名乗っているな……君、いや君たちは?」
 じっとりとした視線を、“C”は左右へ巡らせる。
 小舟に乗った彼女の周囲を囲むように、リュコス、サルヴェナーズ、シャルティエが配置を完了している。
 “C”が不審な動きをした場合、即座に対応できる配置だ。それと同時に、万が一“C”が誰かの襲撃を受けた場合、すぐに守りに入れる位置取りでもある。
「うみのにおいがするねぇ」
「ここから、そのまま船で海に出られるのでしょうね」
 リュコスとサルヴェナーズが暗がりへと視線を向けてそう言った。
 廃船島は海の上に浮く人工島だ。
 船の残骸同士を組み合わせる過程で、島の下には幾らかの空間が出来ている。そこを小舟で渡ることで“C”は5番ドックへ辿り着いたのだろう。
「彼女はどうした? 代理が来るなんて話は聞いていないが……私は」
「情報を持って帰らないとなんだろ? こっちもそうなんだけど……今回は諦めた方がいい」
「……死んだか」
 そういうこともある。
 そう呟いて“C”は視線を僅かに下げた。
 感情を抑えているようだが、彼女の瞳や気配から、悲しみの感情が滲んでいることをリュコスは知った。
 もっとも、この場でそれを口にするほど野暮な真似はしない。“C”も、アドラステイアへ侵入していたスパイの女も、それぞれが己の任務を果たした結果がこれだ。
 志半ばに命を落とすこともある。
 “C”たちも、イレギュラーズも変わらない。
「貴女、これからどうするの? 何か運ぶ必要があるなら私が運ぶよ?」
「アドラステイアに敵対しているというのなら、手を結ぶことも出来るはず。或いは、せめて安全な場所までお送りしますが?」
「……いや。不要だ。アドラステイアを潰したいわけではないからな」
 ティスルとサルヴェナーズの提案を断わり“C”は小舟を係留していた縄をナイフで斬り落とす。潮に流され、ゆっくりと小舟は暗闇の奥へと進んで行った。
 ティスルたちは、それを見送る。
 4人がかりで“C”を捕えることも出来たかもしれない。だが、危険な場所へ1人で訪れた彼女が、何ら自衛手段を持たないということはないはずだ。
「貴方たちは、何の目的で?」
「……それを話すと思うか? 彼女の最後を知るのなら、勝手に予測を立ててくれ」
 なんて。
 ティスルの問いにそう応え、“C”の姿は見えなくなった。

成否

成功

MVP

リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)
うそつき

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様です。
無事にサタディ&ウェスティに先んじて“C”との接触に成功。
彼女を無事に逃がすことに成功しました。
依頼達成です。

また、サタディ&ウェスティは不利と見てその場を逃走。
サンディ一味に対して彼らも何らかの因縁めいたものを感じたようです。

今回はシナリオリクエストありがとうございました。
また縁があれば別の依頼でお会いしましょう。

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