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シナリオ詳細

<半影食>ひまわりがわたしを見てる

完了

参加者 : 8 人

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オープニング


 はじめは、ただの迷子捜しのはずだったんだ。
 こんなことになるなんて、思わなかったんだ。

 四丁目四番地の四辻の端。壁に書かれただけの鳥居のマーク。
 そこに触れた女の子が行方不明になったという話を受けて、ランドウェラ=ロード=ロウス(p3p000788)は希望ヶ浜学園の校長室へと呼び出されていた。
 こういう場所が慣れないのか、ジーパンにワイシャツというラフな格好であたりをきょろきょろとしている。
 そんな彼の目の前にまずドンと置かれたのが、大瓶に入った金平糖だった。七色の星型砂糖菓子が、コルクで蓋をされた瓶の中でからんと鳴る。
 ついつい手を伸ばしてしまったランドウェラに対して、学園の校長――無名偲・無意式 (p3n000170)はスッと瓶を引っ込めて空振りをさせた。
「話を聞いてからだ」
「ああだよね……ですよね」
 『校長』という立場の人間がどういう階級にあるのかピンときてないランドウェラは、からぶった手を握ったり開いたりしながら彼の顔を見た。
 不吉なオーラをまき散らす、毎日がハロウィーンのような男だった。

 ここは練達、再現性東京2010街、希望ヶ浜地区。
 ランドウェラにとってあまりに歪んだ街だ。
 現代日本から召喚された、あるいはその文化を気に入りすぎた人々が閉じこもった結果、ファンタジックな混沌世界から自らを切り離してしまった街。
 この街では『平和な毎日』と『安全で常識的な疑似現代日本』が続いているらしい。
 ちょっと外に出れば戦争とモンスターと魔種で滅茶苦茶な世界が広がっていることは、分かっていてもいないフリをする。そんな街だ。
 けどそんなの無理なんじゃないの? とランドウェラは思うが、どうやらそれで上手く回っているらしい。なんでも目の前の校長曰く、『常識の結界』がこの街を覆っているからだとか。その結果『夜妖(ヨル)』なる怪物が現れ、その駆除を市民に対し秘密裏に行っているのがここ希望ヶ浜学園特待生……つまりはローレット・イレギュラーズたちであるそうだ。
「あんまり僕はこの辺に関わりがないんだけど……呼ばれたってことはその夜妖退治を依頼されたってことでいいんだよね?」
「…………」
 校長は黙って、そして静かに胸ポケットからポラロイド写真をとりだした。
 テーブルに置き、スッとランドウェラの前にすべらせる。
 つい手が伸びたが、今度は空振りすることはない。
「この場所を、知っているな?」
「…………ん」
 映っているのは住宅街。
 灰色の、うっすら霧がかった空。舗装されたアスファルト道路。
 通常ではありえないほど巨大なゼンマイや、生い茂るツタ植物や、立派にさくひまわり。
 まるでつい一秒前まで人がいたと思わせるような生活感をもちながら、誰一人いない街並み。
「『僕たち』は、植物住宅街って呼んでる。この世界にはない場所だよね。異世界か……ROOに生成された異世界由来のフィールドかな。けどこの写真って……」
「そういうことだ」
 他にも複数枚の写真が並べられたが、どれも同じような場所を撮影したものだった。
 不思議なのは、すべてのひまわりが必ず『こちら』を向いていることや、雨上がりのようなどこかてらてらとした地面をしていること。かと思えばからっと渇いた道路もあること。全く同じ場所を撮影しているにもかかわらず、植物の位置だけが移動しているようにも見えるということ。
「こちら側の世界で、このフィールドが観測された。心当たりは?」
「いや。ない。ないけど……」
 胸騒ぎが大きくなる。
 行かなくては。
 そう、思えて仕方ない。

●豊小路
 解説をしておかねばなるまい。
 現在ROOのヒイズルにて発生中のイベントは、少なからず現実(混沌世界)側にも影響を及ぼしていた。
 希望ヶ浜地区の空に突如『侵食の月』が現れ、つい先日より散発的におきていた『歪んだ希望ヶ浜』ともいうべき異世界空間にも変化が現れた。
 『豊小路』と呼ばれる道を辿っていくと、特殊なフィールドにたどり着いたり特殊な怪異に遭遇するという。
 校長はこれを『夜妖とは似て非なるもの』と称し、区別すべく『守護幻影』と名付けた。
「この植物たちは……ROO世界、ヒイズルの神霊である『青龍』の守護幻影だろう。
 ROOの世界が現実側に侵食しているという見方も、できるな」
「…………」
 写真を握る手に、僅かながら力がこもる。
「ゲートに誤って触れてしまった女子生徒が迷い込んでいる。ゲートの確保及び収容処理は済んでいるが、女子生徒の救出はまだだ。
 いや、厳密には『行われたが失敗した』というのが正しい。二人組で探索をさせたんだが、片方が『現地の植物に喰われた』らしくてな」
 植物に喰われる。
 写真には食虫植物のようなものは写っていなかったが、その表現からして生存者はかなりおぞましいものを目撃してしまったのだろう。
「女子生徒はどこかに隠れている筈だ。いや、『筈』でしかないが……救出できるならしておけ。そうでないなら、現地の情報を得て帰還するだけでもいい」
「…………わかった」
 ランドウェラはすっくとソファから立ち上がり、そして思い出したようにテーブルの上の瓶を手に取った。
 数粒金平糖を手のひらに出すと、『貰っていくね』と言って部屋を出る。

GMコメント

●オーダー
・成功条件A:PC全員が生存したまま帰還する
・成功条件B:PC全員が正気を保ったまま帰還する
 →成功条件はAB両方を満たす必要があります
・オプションA:女子生徒を発見する
・オプションB:女子生徒を生存させる
・オプションC:■■■■■■■■■を発見する
・オプションD:植物住宅街を探索し、情報を持ち帰る

●植物住宅街の探索について
 探索方法は『自由』です。
 全員一塊になって動いても、空を飛んでも、壁を抜けても、何かに疎通しても、誰かに話しかけても、本当に何をしても良い――ですが、その対価は常に支払われます。
 探索中各メンバーの『正気』が少しずつ削れることがあり、一定に達すると発狂状態になり強制的に混沌側へと連行されます。(詳しくは説明されていませんが、そうなった場合の保険として校長が特殊なアイテムを仕込んでくれているようです)

●探索中の戦闘について
 植物住宅街に発生している植物の多くは『守護幻影』といって、ROO世界ヒイズルの四神青龍の眷属として出現しているようです。
 しかし多くの場合こちらをじっと見つめるような気配があるだけで、直接襲ってくケースは少ないようです。
 もし襲ってくることがあったら迎撃し、その場を離脱するという選択をとるのが正解でしょう。
 戦闘力や性能はピンキリですが極端に強すぎる個体とはそもそも戦わずに逃げるのが正解になるので、戦闘の際は自分の得意な戦法を使ってもおよそ問題はなさそうです。

●女子生徒について
 今のところ生存は確認されていません……が、メタ情報として『植物住宅街のどこかに隠れ潜んでいる』ことをお知らせします。
 また、帰還用のアイテムとして『音呂木の鈴』が全員に配られています。コレを用いることで現実側へ迷わず帰還することが可能です。

●Danger!(狂気)
 当シナリオには『見てはいけないものを見たときに狂気に陥る』可能性が有り得ます。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
●侵食度
 当シナリオは成功することで希望ヶ浜及び神光の共通パラメーターである『侵食度』の進行を遅らせることが出来ます。

================================
●『侵食の月』
 突如として希望ヶ浜と神咒曙光に現われた月です。闇に覆い隠されていますが、徐々に光を取り戻していく様子が見て取れます。
 一見すれば皆既月食ですが、陽がじわじわと月を奪い返しています。それは、魔的な気配を纏っており人々を狂気に誘います。
 佐伯操の観測結果、及び音呂木の巫女・音呂木ひよのの調査の結果、それらは真性怪異の力が『侵食』している様子を顕わしているようです。
 R.O.Oではクエストをクリアすることで、希望ヶ浜では夜妖を倒すことで侵食を防ぐ(遅らせる)ことが出来るようですが……

●ROOとは
 練達三塔主の『Project:IDEA』の産物で練達ネットワーク上に構築された疑似世界をR.O.O(Rapid Origin Online)と呼びます。
 練達の悲願を達成する為、混沌世界の『法則』を研究すべく作られた仮想環境ではありますが、原因不明のエラーにより暴走。情報の自己増殖が発生し、まるでゲームのような世界を構築しています。
 R.O.O内の作りは混沌の現実に似ていますが、旅人たちの世界の風景や人物、既に亡き人物が存在する等、世界のルールを部分的に外れた事象も観測されるようです。
 練達三塔主より依頼を受けたローレット・イレギュラーズはこの疑似世界で活動するためログイン装置を介してこの世界に介入。
 自分専用の『アバター』を作って活動し、閉じ込められた人々の救出や『ゲームクリア』を目指します。
特設ページ:https://rev1.reversion.jp/page/RapidOriginOnline

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • <半影食>ひまわりがわたしを見てる完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年09月13日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

零・K・メルヴィル(p3p000277)
つばさ
志屍 瑠璃(p3p000416)
遺言代行業
ランドウェラ=ロード=ロウス(p3p000788)
黄昏夢廸
清水 洸汰(p3p000845)
理想のにーちゃん
武器商人(p3p001107)
闇之雲
マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)
黒鎖の傭兵
タイム(p3p007854)
女の子は強いから
楊枝 茄子子(p3p008356)
虚飾

リプレイ

●四丁目四番地
「ROOから現実に……あれだね! 異世界転移だね!
 ROOでできるなら現実でもいつかできるようになるのかな! よくわかんないけど元の世界帰れる日も近いかもね!」
 交差点をスキップしながら歩いて行く、『羽衣教会会長』楊枝 茄子子(p3p008356)。
 『闇之雲』武器商人(p3p001107)はその横を静かに、そして背筋を伸ばして歩いている。白いスーツは以前この町で着ていたのと同じものだ。
 武器商人は茄子子の疑問に答える気は無いようで、代わりにそのまた横を歩いていた『遺言代行業』志屍 瑠璃(p3p000416)が手帳を開きながら答えてくれた。
「希望ヶ浜地区には、噂話が現実になるという現象が多々起きています。今回の案件も、ROO被験者が帰ってこない理由を異世界へ迷い込んだからだと噂したために発生した……というのが専門家たちの見解ですね」
 ここでいう専門家は希望ヶ浜校長無名偲、音呂木神社所属ひよの、その他複数の希望ヶ浜関係者たちだ。
「それって異世界転移とどう違うんだ?」
 『理想のにーちゃん』清水 洸汰(p3p000845)が両手を頭の後ろで組みながら言った。
 ROO内の仮想世界ネクストは、見方を変えれば異世界だ。
 その探査記録がちらほらとだが希望ヶ浜内へと伝わって、噂話に取り込まれたと考えるなら、情報的異世界転移と定義することもできなくも、ない。
 『黒鎖の傭兵』マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)もそうだな、という顔で頷いている。
 彼らの疑問に答えたのは『黄昏夢廸』ランドウェラ=ロード=ロウス(p3p000788)だ。
「まず、僕たちが『イデアの棺』を使って経験したのは僕の出身世界の『再現』。
 ROO内で目撃した同様の空間は、その『再現の模倣』。
 更に希望ヶ浜異世界に出現したであろうエリアは……さしずめ『再現の模倣の転写』ってところかな」
「メチャクチャわかりづらいなー!」
「まあ、言ってる僕もそういう予想をしてるってだけだしね。本当に元の世界の一部がごっそり出現しちゃってるのかもしれないし?」
 そんなことありえないだろうな……と思いつつ、もしあったらと思うと空寒い。
 ランドウェラたちはある意味、この『無辜なる混沌(フーリッシュケイオス)』という世界の法則に保護されている。目が合えば死ぬ怪異だとか支配的死者蘇生だとか3日で世界を埋め尽くすケーキだとかそういうものが力を制限されるおかげで、この世界がそうそうすぐに滅びなくて済んでいる。
 きっと瞬きひとつで世界を滅ぼせるような存在もこの世界に召喚されたのだろうが、彼らだってウィンクで星型のビームが出る程度に制限されているだろう。
 だから『ありえない』というより『ありえていたら今頃こうはなってない』というのが正しい。
 希望ヶ浜の空気にあわせるべく夏用のさわやかなセーラー服に身を包んだ『優光紡ぐ』タイム(p3p007854)が、顎に人差し指をあてて首をかしげた。
「仮にそのくらいコピーしまくったのなら……すごく荒くなってる筈だよね。世界が非可逆圧縮なのかは知らないけど……」
 JPG保存したようなものでしょ? とすごく大雑把にたとえながら。
 『恋揺れる天華』上谷・零(p3p000277)は身に覚えのあるたとえにブルッときたが、それはそれとして……。
「前に見た時点でとてつもなくヤバかったんだ。そんなのが現実(混沌)側にも出てくるとか反則だろ! あとそんな場所に閉じ込められたなら、ヤバすぎるだろ!」
 助けに行かなきゃだよな! と拳を握りしめる零。その考えには、誰もが深く賛同した。
「情報を持ち帰るだけでも良いなんて言われたけど、ここは気張っていくぞ。
 俺たちは情報収集にあたるから、ランドウェラたちはマジで迷い込んだ女子生徒ってやつを探してやってくれ」
 実際そうすることでこの世界の情報収集にもなるだろうから、と。
 ランドウェラは頷き、そして足を止める。
 四辻の端に、チョークで書かれたであろう鳥居のマークがあった。
 手のひらほどの大きさだが、近づけてみるとまるで垂直な水面に触れたかのように空間に波紋がはしり、ぴちゃんという音すらした。
 勇気を出し、手を押し込む。
 少しの抵抗を感じつつも、手は確かに見えない水面の向こう側へと沈んでいく。
 反射的に息を止め、そして思い切って、見えない水面に頭を突っ込んだ。

●いないいないばあ
「――っし! それじゃあ二人で探すぞー!」
 うーんと背伸びをする洸汰。
 ゲートを通って出たのは確かに住宅街だったが、あちこちに奇妙な植物がはえていて、特にひまわりに至ってはずっとこちらを見ているのが分かった。
 まるで視線を感じるかのような花の様子にウッとなるが、洸汰は持ち前のメンタルの強さでそれをすぐに拭い去った。
「怖くなーい、怖くないんだぞー……だってオレは超カッコよくって笑顔が素敵なコータ様なんだからな〜……」
 よしっ! と叫んで両手で頬を叩く。
 そして仲間であるコータオルタへと振り返った。
 血塗れのバットを手にした、洸汰そっくりの少年だった。
「あ、れ?」
 小首をかしげる洸汰。
「オレたち、ずっと二人だったよな?」
「そうに決まってるだろ。馬鹿だなアンタ」
 渇いた、そしてひどくスレた笑い方をするコータオルタ。
 そして『最初の予定通り』『何の迷いもなく』『目的を達成するために』『自分の家の玄関のドア』を開いた。
「あっ、お帰りお兄ちゃん!」
 弟のユータが駆けてくる。
「遅かったじゃないか、寄り道でもしてたのか?」
 すこしムッとした様子の父トータがあとから歩いてきて、その後ろに顔の見えない母がくすくすと笑ってついてくる。
「え…………あ…………」
 洸汰はぱっと明るく笑って。
「……ただいま!」

 巨大な食虫植物に胸まで喰われた洸汰が、うつろな目をしながら溶けるように笑っていた。
「ただい……ま……とー……ちゃん……」
 そして、フッと姿が消える。

●もういいかい
「助けに来たぞ、大丈夫か?」
 十字路の真ん中にへたりこんでいた女子生徒にかけより、零はどこからともなくフランスパンを取り出した。
 普通に考えたら行方不明の子供にいきなり差し出すものではないが、零基準ではほかほかのフランスパンは人の心を癒やすものだとわかっていた。
「ありがとう……」
 顔にピクセルモザイクのかかった女子生徒は虹色の髪を風になびかせ、顔をあげた。
 同行していた武器商人は『随分早く見つかったねえ』とつぶやきながらも、周りをあらためて観察してみた。
 武器商人はこの世界に入り込んでから、様々な対策をしていた。
 たとえば二枠分のファミリアーを使って仲間と情報共有をしたり、濃塩水や人形を用意したり、零の様子がおかしい時は叩くなどして回復させる準備をしたり、こちらに畏怖をもたせようとする異常存在に警戒したり、今まさに自分を見ているひまわりに対して後ろを見ないようにしたり。
 そうした様々な準備とは別に、ここ住宅街以外の異常なフィールドがないかや、名のある神社がないかや、青龍は発見できるかといった部分にも注意を配りながら探索をしていた。
 その甲斐あって、武器商人の放っていた四億四千万四百四匹のファミリアーを介して仲間達から全く同時に呼びかけがあった。
「「「「「女子生徒を発見した。今から帰還する。そっちも気をつけて」」」」」
 武器商人も了解の意と、自分も女子生徒を見つけた旨を話して懐から音呂木の心臓を取り出した。
 どくどくと脈打つそれをつまみ、振ってみる。
 どこか遠くでドォンドォンカラカララと祭り囃子の音が聞こえた。ああこれだ、日出建子命様から聞いていた帰り道の見つけ方だ。
「行こうか? 教え子……」
 手を出すと、零は笑顔で頷いた。
 彼のもう一方の手はひまわりの葉っぱを掴んでいる。武器商人と零とひまわりは一緒に歩き出――。
「あ、ぐ……!?」
 手の中の感触に、その違和感に、零の心臓がどくんと脈打った。
「……ちがう」

 気付けば、零と武器商人は希望ヶ浜学園の中庭、ひまわりが一本だけたつ場所に寝転がっていた。ひまわりは、太陽のほうを向いている。

●だるまさんがころんだ
 仲間との連絡が途絶えた。
「うーん、マズいなあ……」
 ランドウェラはあたまをかいて、タイムへと振り返る。
「連絡が途切れたことが?」
「いや? あーまあ、それもあるけど……今、僕って俯瞰視点をはたらかせてるじゃない?」
「うん」
「俯瞰した道や建物と、今見えてる道や建物が全然違うって言ったらどうする?」
「…………」
 タイムは無性に何かにしがみつきたくなった。
 気を利かせて差し出してくれたランドウェラの手を握り、ヘェイといって差し出してきた茄子子の手も握った。
 ふと振り返ると、ひまわりがじっとこちらを見ていた。
「てかひまわりがね、やだね! どこみてんのかしらないけど! そうだ、祈雨術でお祈りしたら雨降らないかな?」
 メロイックサインみたいなものを出して空に円を描くと、ふれふれあーめーと適当な唱え方をした。
 場を和まそうとわざとふざけてくれているのだろうか。タイムはその気持ちにも答えたくなって笑みを作――
 どしゃぶりの雨がふった。

 端的に言おう。
 瑠璃は仲間とはぐれた。
 四人で行動していた筈だが、突然雨が降り出したと思ったら、自分は広い交差点の真ん中に立っていた。
 ガードレールにバンパーの角をめりこませて止まる自動車と、血塗れの横断歩道と、へし折れたビニール傘と、倒れた自転車。
 それ以外は濃い霧に阻まれてなにも見えない。
 耳を澄ませてみるが、雨の音しか聞こえなかった。ファミリアーとの接続は切れてしまったらしい。
 が、まだ手段は残っている。
「これを持っていて正解でしたね」
 aPhoneを取り出し、電話帳からランドウェラを見つけてダイヤルした。
 数度のコール音の後、相手の声がする。
『あーもしもし?』
「どうやらはぐれてしまったようです。逆に、そちらが消失しただけかもしれませんが……ここがどこかは分かりません。明確な座標を教えるのも難しそうです。使役できそうな動物も見える範囲にはいませんから」
 そう伝えると、相手は数秒の沈黙のあと答えた。
『街路樹のお地蔵さんがぬまけしいよな』
「……は?」
『油揚げにまぶしいんだよ。おじいさんにはお会計したか?』
 瑠璃はその問いかけには答えず、通話を切った。
 すると、メッセージアプリが勝手に立ち上がり、文字化けした不明な相手からメッセージが投げかけられた。
『こっちを見ろ』
 既読マークがついた途端、『こっちを見ろ』が連続して滝のように流れ始める。
 瑠璃はポケットにaPhoneをしまい、かわりに鈴を取り出した。
 じたばたするのが、この場合は危険だ。

「おーい! 助けに来たよー!! 返事してー! おっきな声でー!!」
「「「「「はーい!」」」」」
「うん、元気!」
 両手それぞれにひまわりの葉っぱを握った茄子子は、ひまわりと一緒ににっこり笑って歩き出した。
「ちゃんと『目的も果たした』し、帰宅しよう! 鈴ならして帰宅! はいちりんちりーん!」
 音呂木の鈴を取り出してふる。音がどこからも聞こえ、こっちだよと言って茄子子は歩き出した。
 沢山のひまわりと一緒に。
 帰り道を。
 一緒に。

 四畳半の部屋。風呂もトイレもないアパートの一室。
 日焼けしてがさがさになった畳の上に、長い虹色の髪をした女子生徒は座っていた。
 ポケットから写真を取り出して、行方不明になっていた少女と同一人物であることを確認する。
「ウェラさん、間違いなさそう」
 タイムはそう呼びかけると、廊下側でまわりを警戒していたランドウェラを室内に手招きした。
 タイムはアクティブにしていた人助けセンサーで少女を見つけた……わけではない。
 なぜなら、この空間にはいってセンサーを起動したらそれはもうとんでもない数の助けを呼ぶ声を感知してしまったからだ。コレ絶対ヤバイ奴だと察したタイムはすぐにそれを切って、偵察係に徹することにしたのである。
 まあ、そうして良かったとも言える。
 なぜなら少女はベランダの外に浮かんでいる太陽をじーっと見つめ、とろけるように笑みを浮かべるばかりだったからだ。
「ね、帰ろう」
 タイムが抱きしめてあげると、少女はタイムのほうを見た。全く変わらない表情で。
 ランドウェラが入ってきて、部屋の中を見回す。
 部屋の四隅にはひまわりの花が畳から直接はえていて、そのすべてが中央の少女をみつめていた。
 ひまわりの一つに近づいて、そっと手を伸ばす。その袖をタイムが慌ててひいた。
「ねえウェラさん何がそんなに気になるの?早く帰ろうよ、ねえったら!」
「…………タイムちゃん。少しだけ。少しだけ付き合っておくれ。
 僕がいたはずの世界なのに、僕自身が知らないのが悔しいんだ。あと勝手に使われるの嫌だから」
「すぐ終わるから待って。すぐだから」
 そう言ってランドウェラはひまわりにリーディングと霊魂疎通を『成功条件を満たすために』使った。





●ただいま
 希望ヶ浜学園の中庭に、ランドウェラは寝転んでいた。大量のひまわりが咲いていて、どれも太陽を見つめている。
 薄めをあけると、ランドウェラの手が誰かの手を掴んでいたことに気付く。
 誰だろう。そう思って起き上がると、三つ編み黒髪の少女が寝転んでいた。写真で見た『行方不明になった少女』だ。
「…………よかった」
 ふと見ると、タイムが片腕でひまわりを抱き、別のひまわりの葉っぱを掴んでぐいぐいと引っ張っていた。
「帰ろう!? ねえ、帰ろうよ! こんなとこもう嫌だよ! 帰ろうよ!!!!!」

成否

失敗

MVP

タイム(p3p007854)
女の子は強いから

状態異常

なし

あとがき

 ――参加メンバーのうち半数ほどが正気を失いましたが、無名偲校長の『保険』によって意識を回復することができました。
 ――これによって『保険』を使い果たしました。再度同様の探索を行うことは危険性の観点から禁止されました。
 ――行方不明になっていた女子生徒の救出に成功しました。女子生徒は正気を失っていたため澄原病院へ入院しました。回復の兆候があるようです。

 ――女子生徒を発見できたのは『タイム』であったようです
 ――中庭のひまわりの数が異常に増加しました
 ――希望ヶ浜地区内で『太陽をじっと見つめること』が一部の女子生徒たちに流行りました。理由は「なんとなく」とのことです。

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