PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<半影食>月食の刻、走れ特異運命座標

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●学園の噂
 ――ねぇねぇ、知ってる? 東の霊園の噂話!
 ――知ってる、知ってる! お化けがるよ! 妖怪が出るよ!
 ――怖いね、怖いね! 気になるね!
 ――気になる! 気になる! 行ってみようか!
 ――行ってみよう! 行ってみよう! でもね、でもね!
 ――遊びに行った子は、誰も帰ってこないんだって!
 ――ねぇねぇ、知ってる? 噂話!
 ――知ってる、知ってる! 夜妖の怖い話!

「ねぇ、オイリちゃんも一緒に行こうよぉ」
 希望ヶ浜学園中等部の教室。机に突っ伏してそう言うのは、オイリの友達のキョウカだ。
「行こうって、噂の霊園?」
 オイリはうぇ、と分かりやすく嫌そうな顔をする。窓際のオイリの席、その前の席に腰かけて、キョウカはおねがい、と手を合わせた。
「オイリちゃん、ほら、なんか頼りになるって言うか、皆の事よく見てくれるタイプじゃん? みんな安心するんだよねぇ」
「いや、不安ならいかなきゃいいじゃない? それに、今は色々と危ないから、そういうとこ行くの、希に止められてるのよね」
 キョウカは、んー、と、口元に手をやりつつ唸ってから、
「希さん、ってオイリちゃんのお母さんだっけ?」
「保護者! それ本人の前で言わないでよ? 多分怒る」
「とにかく! もう夏も終わっちゃうでしょ? 最後に思い出作ろうよぉ」
 オイリは目を細めた。
「夏の最後の思い出が肝試しなの、結構嫌なんだけど」
「えー、アオハルっぽくない? ねー、オイリちゃん、いこうよー。皆も待ってるよー」
 むー、とオイリは唸った。放っておいたら、この子らは勝手に行ってしまうだろう。昨今は、確かに危険だ。希によれば、ROOなる練達の極秘プロジェクトの影響で、夜妖が活発になってるらしい。
(……勝手に行かれて、わたしの目の届かない所でピンチになられても嫌よね。だったら、まだ皆を守れる方がいいのかしら……)
 危ないことはするな、と言う希の言葉には背くことになるが、しかしキョウカたちをほうっては置けない。彼女もまた、この地でできた大切な友達なのだ……。
「わかった。ただし、変な事が起きたらすぐに帰るわよ」
「やったー! タクヤとかカコたちにも言ってくる! 出発は今日の夕方ね!」
 ばっ、とキョウカは立ち上がって、教室から出て行った。オイリは、はぁ、とため息をつきつつ、しかし友達との冒険に、年頃の少女のようにワクワクとしているのだ。

 その夕方。街の東にある大きな霊園。果たしてどこが運営しているのかをオイリたちは知らなかったが、何にしても、どこかうらぶれて寂し気な.その光景は、雰囲気としてはバッチリである。
「で、どこに出るんだっけ? 幽霊」
 友達のタクヤが声を上げるのへ、ヨーヘイが応えた。
「奥の一番おっきなお墓のところ」
「なんか、江戸時代の罪人の首塚なんだって」
 カコがそう言うのへ、オイリは内心ぼやいた。
(江戸時代って……ま、ここってそう言うことになってる場所らしいけど……)
 外の住人であるオイリにとっては、この都市の欺瞞はなんとも不思議な心地だ。学校に編入した時など、アメリカ人かフランス人か、とか聞かれて目を白黒させたのも懐かしい。希の言葉に従って、適当にイギリス人とか言うことにしておいたが。
「首塚って、首が沢山埋まってるの? 怖、ヤバいじゃん」
「ねー! 何で首埋めたんだろうね! 胴体はどこ行ったのかな、オイリちゃん」
「いや、解んないけど……ん?」
 ざわ、と、オイリの肌が粟立った。それは、日常から非日常へと空気がシフトした感覚。かつての、オンネリネンの傭兵だった時の感覚がよみがえる。
「ちょっとまって、皆」
 オイリが警戒するように声をあげた。
「なになに、お化けとか出たの……?」
 カコがそう言うのへ、オイリは、しっ、と人差し指を立てた。カバンから折り畳み式の小さなロッドを取り出して展開する。
「え、何それ、警棒?」
「黙って!」
 オイリが叫ぶ。その真剣さに、皆は押し黙った。ふと気が付けば、世界の色が赤かった。空には暗い月がかかっており、どこか赤黒い夜空が世界を包んでいる。日が落ちた? いつの間に? ――違う、夕方のあの世界から、この世界へと引き釣り込まれたのだ――!
 マズい! オイリは本能的にそれを察した。懐からaPhoneを取り出して、連絡先一覧から『希』を選んでコールする。呼び出しの音楽側スカになった刹那、その先に希――白夜 希 (p3p009099)の声が響く。
「何――」
 返答を待たず、オイリは叫んだ。
「助けて! 東の霊園! 多分変な世界に――」
 そこまで言った瞬間、ぶつり、と音を立てて電話が切れる。慌てて画面を見てみれば、そこに圏外の文字が無慈悲に踊る。
「おうらり」
「むねをよ」
 あたりから声が上がる。オイリが、片手をかざして、友達を守る様にロッドを構える。あたりを睨みつければ、そこには無数の『生首』が浮かんでいた。それが発する意味不明な声が、あちこちにこだまする――。

●少女たちをすくえ
「クロエ! 緊急! イレギュラーズを招集して!」
 カフェ・ローレットに飛び込んできた希は、『練達の科学者』クロエ=クローズ(p3n000162)の姿を認めると、叫んだ。
「希か? 一体何が……」
 びっくりしたような声をあげるクロエに、希は言葉を返す。
「希望ヶ浜の子が、東の霊園で異界に引きずりこまれた!」
「――! 建国さんの異界か!?」
 即座に理解したクロエが、慌ててaPhoneを取り出す。
「だが、すまん、今すぐ動けるのはカフェにいる君を含めた四人だけだ……心当たりのあるものに連絡する、集まるまで待って……」
「待ってられない。まずここにいる四人で突入する」
 希が真剣な様子で言うので、クロエは一瞬、息をのんだが、
「どうやら緊急事態のようだな……分かった。ひとまず、ここにいる四人で異界に突入してくれ。残りのメンバーは連絡がつき次第向かわせる! 多少時間が空くと思うが……」
「大丈夫、もたせる」
 希の言葉に、クロエは頷く。
「わかった。くれぐれも、全員が到着するまで無茶はするな。気を付けて行くんだぞ!」
 クロエの言葉を背に受けて、希たちは一路異界へと向かうのであった。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 此方のシナリオは、白夜 希 (p3p009099)への緊急連絡(リクエスト)によって発生した依頼になります。

●成功条件
 オイリを始めとする子供達が全員生存している状態で、敵を全滅させる。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●Danger!(狂気)
 当シナリオには『見てはいけないものを見たときに狂気に陥る』可能性が有り得ます。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

●侵食度
 当シナリオは成功することで希望ヶ浜及び神光の共通パラメーターである『侵食度』の進行を遅らせることが出来ます。

●状況
 幽霊が出るという『東の霊園』へと肝試しにむかった、希さんの関係者であるオイリと、その友達たち。他愛のない夏の思い出で終わるはずのそれは、建国さんの異界に引きずり込まれるという、夜妖との遭遇事件となってしまいます。
 オイリから緊急の救助連絡を受けた希さんは、カフェ・ローレットにむかい仲間を募りますが、今すぐ動けるのは4人だけ。残る4人が合流するには、しばしの時間がかかります。
 状況的に残る四人の合流を待ってはいられず、希さんたち4人は、一足早くに異界へと突入するのでした。
 シナリオは、異界に突入し、オイリと合流した所からスタートします。が、前述したとおり、最初に異界に突入できるのは『4人』までです。残る4人のメンバーは、戦闘中にある程度のターン数が経過することで合流することになります。
 オイリたちを襲おうとする夜妖と、最初は四人で戦い、フルメンバーがそろうまで耐えて戦いつつ、全員が合流した後に反撃に転じましょう。
 作戦フィールドは、異界の霊園。空は月食の月が昇り、どこか赤黒い、薄暗い空があたりを包んでいます。明かりは特に必要ではないですが、プレイングで明かりを用意するなどすれば、行動に少々の有利判定が発生します。

●特殊ルール
 このシナリオでは、最初に戦闘に参加できるメンバーは『希さんを含む四人まで』になります。
 その後、数ターン(ランダム)が経過するたびに、『2名ずつ』戦闘に参加します。(最長でも10ターンまでには、全員がそろいます)。
 また、参戦タイミングによって、その時参戦したキャラには以下のようなバフがかかります。

 1.最初からいるメンバー4名
  希さんを含む4名のメンバーは、シナリオ開始時点から戦闘に参加できます。
  子供たちを守り、仲間が来るまで耐えるという気持から、『防御技術』『特殊抵抗』『回避』にプラスの修正が発生します。

 2.一回目に合流する2名
  数ターン(ランダム)後に、2名のメンバーが現場に到着し、戦闘に参加します。
  このメンバーは、遅れを取り戻すという気持から、『反応』『機動力』『EXA』にプラスの修正が発生します。

 3.二回目に合流する2名
  さらに数ターン(ランダム)後に、残る2名のメンバーが現場に到着して戦闘に参加します。
  このメンバーは、敵に止めを刺すという気持から、『物理・神秘攻撃力』と『命中』にプラスの修正が発生します。

  プレイングにて、1,2,3のどのタイミングで参戦するかを宣言してください。ただし、白夜 希 (p3p009099)さんは強制的に1のタイミングで参戦します。
  もしプレイングに参戦タイミングが記載されていなかったり、或いは規定数以上のメンバーが同じ参戦タイミングを宣言していた場合は、ランダムでタイミングを割り振られます。

  ちなみに、どんな手段で現場に到着するのかは自由です。走ってきても良いですし、バイクや軍馬などで派手に登場しても構いません。どうせ異界です。多少派手に暴れて壊しても構いません。

●エネミーデータ
 生首 ×10
  江戸時代の罪人の生首……と言う事ですが、そもそもここは再現性東京なので、江戸時代なんて時代は存在しません。なので、これは、噂を夜妖が再現したものでしょう。
  訳の分からない言葉をつぶやきながら、神秘攻撃を繰り出します。攻撃力はさほど高くは無いですが、数が多く、動き回るために子供達に被害が及ぶ可能性もあります。『毒系列』や『痺れ系列』のBSも使ってきます。

 首無しの身体 ×5
  江戸時代の罪人、首を落とされた身体……と言う事ですが、そもそもここは再現性東京なので……。夜妖が噂を再現しただけでしょう。
  上記2のメンバーが合流したターンの最初に、増援として現れます。
  手にした刀による鋭い物理攻撃が脅威です。『出血系列』のBSにご注意を。
  2番目に合流したメンバーで、素早く撃退してしまうのがいいでしょう。

 憎悪の鎧武者 ×5
  江戸時代の……という噂を、夜妖が再現したものです。
  上記3のメンバーが合流したターンの最初に、増援として現れます。
  刀による鋭い斬撃と、鎧による高い防御技術とHPが驚異的。『渾身』を持つ強力な攻撃も使います。
  三番目に合流したメンバーの強力な攻撃で、素早く撃退しましょう。


●味方NPC
 オイリ
  希さんの関係者。かつてオンネリネンと言う傭兵部隊に所属していたこともあり、それなりに戦うことができます。
  主に神秘攻撃の遠距離攻撃を行います。『生首』相手なら、戦力として数えられるでしょう。『首無しの身体』辺りはちょっと厳しく、『憎悪の鎧武者』相手には力不足です。

 キョウカ、タクヤ、ヨーヘイ、カコ
 一般的な希望ヶ浜の中学生男女です。戦力にはなりませんので、ちゃんと守ってあげてください。


 以上となります。
 それでは、皆様のご参加と、プレイングを、お待ちしております。

  • <半影食>月食の刻、走れ特異運命座標完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年09月18日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費150RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

日向 葵(p3p000366)
紅眼のエースストライカー
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)
私の航海誌
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
橋場・ステラ(p3p008617)
夜を裂く星
ミヅハ・ソレイユ(p3p008648)
天下無双の狩人
白夜 希(p3p009099)
死生の魔女
※参加確定済み※
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色

リプレイ

●走れ! 特異運命座標!
「緊急事態か……子供が5人、異界に飲まれたとは。そのうち一人は、御主の関係者か」
 と、『流麗花月』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)が言うのへ、『スズランの誓い』白夜 希(p3p009099)が応えた。
「ん……前に保護した子。まったく、本当にヤバそうなところに行くなら、先に連絡しろって言うの」
 心配げな様子を見せつつそう言うのへ、汰磨羈は笑った。
「勇み足も子供の特権だよ。まぁ、心配する親心は解るがな?」
 親心、と言う言葉に、希は些か不思議気な表情を見せた。
「親心……かは解らないけど。選択肢をあげたかったのは事実……其れより、異界の入り口がある社まで、どれくらい?」
 希が言う。四人が走り、向かっているのは、建国さんの神社や小さな社と言った施設だ。建国さんに連なる異界は、そう言った場所から侵入できる。情報――オイリ少女からの情報によれば、彼女たちはすでに異界にいる。東の霊園そのものにむかうよりも、近場の入り口から内部へと侵入した方が速く、確実である。
「すぐですね。ただ、内部に入ってから、合流までも走らなきゃいけないと思いますけど」
 『私の航海誌』ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)は、真っ白な毛並みの馬、ラニオンの背で、そう言う。その後ろには『花盾』橋場・ステラ(p3p008617)も同乗していて、その両腕をぎゅっとウィズィの腰に回している。
「肝試しは夏の定番と言えば定番ですが、今は少し時期が悪かったですね……」
 ステラがそう言う。昨今は、希望ヶ浜の地も何かと騒がしい。特に、R.O.Oのヒイズルで異変が生じてからは……。
「夏の思い出を惨劇の記憶にしてはいけません。頑張りましょう、お姉ちゃん!」
 と、ステラがウィズィへいうのへ、ウィズィはウインク一つ。
「そうだね、子供たちの夏の冒険、めでたしめでたしで終わらせてあげないとね! ……見えてきました! 社があります!」
 ウィズィの言葉に、一同は足を止めた。街のはずれにある、小さな社。建国さんをまつるそれは、その異界へと向かうための入り口の一つとなっている。
「では、行こうか……!」
 汰磨羈が言うのへ、希は頷き、手を差し出す――途端、辺りの景色が引き延ばされるような感覚が走り、同時に何かに引きずり込まれるような感覚が、皆を襲った。わずかな眩暈の後に意識をしっかりと持てば、そこはすでに、異界とかした霊園の入り口であった。

「くそーっ、間に合えよ!」
 叫び、『紅眼のエースストライカー』日向 葵(p3p000366)が街を疾走する。クロエから連絡を受けた葵は、緊急事態の要請を受けると真っ先に走り出した。とはいえ、出遅れてしまうのは確実だろう。仲間を信頼していないわけではないが、その分負担がかかってしまうだろう。となれば、一秒でも早く到着したい。
「……日向殿か」
 と、その横より声がかかった。視線を向けてみれば、葵と同様に走る『霊魂使い』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)の姿が見える。
「その様子だと、あなたもオイリ殿たちを助けに?」
「ああ、その通り、っス!」
 にっ、と笑いかけながら、葵、アーマデル、二人が並んで走る。
「この変だと、神社が近いはずっス! そこから異界に入れば……!」
「よし、行こう。多少の遅れは、現地の働きで取り戻そう」
 その言葉に頷き、二人は走る。やがて二人の前に、建国さんの神社が姿を現した。

 そのころ、『天穿つ』ミヅハ・ソレイユ(p3p008648)も、クロエからの連絡を受けていた。
「中学生の子が異界に囚われた? 確かなんだな? ……しかも緊急? わかった! すぐに向かう!」
 ミヅハは借り物のバイクにまたがると、エンジンを唸らせる。
「この辺りからだと……オーケイ、町はずれの社が近いな? そこから異界に突入する!」
 爆音とともにアクセルを回す。エンジンが唸りをあげ、爆発するような速度で走り出す。一方、『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)もまた、クロエからの連絡を受け、希望ヶ浜の商店街を走っていた。
「またあの異界か……!」
 ぎり、と歯噛みをし、急いで街を駆け抜ける。目標は、町はずれの建国さんの社。此処から一番近いのは、あの場所のはずだった。話によれば、既に第一陣の四人は異界へと突入したころだという。
「……皆なら耐えられるだろうけど、すぐに向かわないと!」
 イズマは呟いて、力強く足を踏みだした。遠くから、バイクの音が聞こえてくる。此方にむかってくるそれは、仲間のものかもしれない。
 皆急いでいる。速く向かい、合流しなくては……!

●救いの手は現れて
「くっ……!」
 オイリは友達たちを墓石の影に隠して、周囲の様子を窺う。あちこちに生首の怪物が飛んでいた。
(……まずいなぁ)
 オイリは胸中で呟いた。友達たちを隠れさせ、守りながら、生首を撃退できるか? ひとりなら、躊躇なく戦う事を選んだが、隠れた友達たちを守りながら戦うとなると、些か難しい。
(……考えてみれば、誰かを守りながら戦う訓練とか、受けてなかったかも)
 難しいんだな、とオイリは思った。同時に、それをやってのける希たち……イレギュラーズ達の実力を、オイリはあらためて思い知った。
「お、オイリちゃん、怖くないの……?」
 震えるキョウカの声。オイリはにっこり笑って、
「ぜんぜん! みんなも、怖がらないでも大丈夫よ! すぐに助けも来るからね」
 と、言ってみせたが、内心は緊張の度合いが強い。いざとなったら、自身を囮にして、皆を逃がすか……。そう思った刹那、生首のうち一体が、ぐりん、と此方を向いた!
(みつかった……!)
 オイリはロッドを構えると、墓石から飛び出した。
「皆は頭低くして隠れて! そこから出ないで!」
 叫ぶと同時に、生首が叫んだ。それに気づいた他の生首たちが、その生首の付近へと集まってくる。やるしかない! ぐっ、と腰を落とし、意識を集中する――その横を、一陣の風が走り抜けた。さわやかな風。それが白い馬だと気づいたとき、馬にまたがっていた二人の人影が、一気に馬から飛び降りる!
「ステラちゃん!」
「はい、お姉ちゃん!」
 人影――ウィズィとステラだ! 二人は飛び降りると、空中で武器を取り出した。ステラの茨がその手を覆い、同時に手から離れた氷の槍列が生首たちを打ち飛ばす!
「オイリさん、ですね? 無事ですか!?」
 ウィズィが手にした『ハーロヴィット・トゥユー』、『ラヴリラ』を構えて、生首たちの前に立ちはだかった。生首たちはウィズィに意識を寄せられ、警戒するように周囲を浮遊する。
「う、うん……! もしかして、イレギュラーズの……!」
「正解」
「あいたっ!」
 言葉と共に、オイリの頭に痛みが走った。チョップされた、と気づいた時には、その背後に希が立っていることに気づいた。
「希! 来てくれたの!?」
「あたりまえ。それより、他の子を守って」
 そう言って、希が構える。
「だ、大丈夫! わたしだって戦えるから、手伝う……!」
「いや、友達を守ってやるだけでいい」
 と、新たな声がかかった。それは、汰磨羈だ。
「ここは希望ヶ浜だ。下手に御主に妙な力があると学友に悟られれば、暮らしにくくもなるだろう。精々、体術を学んだ、程度にしておけ」
「う……」
 オイリが呻いた。確かに、汰磨羈の言う通りだろう。
「なぁに、私達のことなら心配するな。この後味方の増援も来る。だから、友を守ることに集中すると良い」
「……終わったら、話があるから」
「うっ」
 希の言葉に、先ほどとは違う声質の呻きを、オイリは上げた。さておき、汰磨羈は楽しげに笑うと、
「子の教育はそのくらいにしておくといい……来るぞ! ステラ、分業と行こうか。私が周囲を確認する。ステラは判断を頼む!」
「任せて下さい師匠(せんせい)……ガンガン行こうぜ、です!」
 ステラが声をあげる。果たして10体の生首が、イレギュラーズ達を囲むように浮遊する。
「ふぅむ、敵の数はおおよそ倍か……味方の増援が来るまでは、守りも気にせねばらなないぞ?」
「賛成。けど、敵の増援も考慮して、落とせるだけおとしておく」
 汰磨羈の言葉に、希はそう言うと、一気に駆けだす。敵のど真ん中に飛び込むや、手にした長杖を掲げる。同時に、紫色の破滅の帳があたりを包み、生首たちをその光で打ち払う。否な気配のするそらに、不吉の月が昇った。生首たちが悲鳴をあげる。希はその奇怪な声と、狂気じみた顔に眉をしかめた。
「……子供達には見せられないね。トラウマになりそう……おーい、そこの男の子たち、うちの子にしがみついたら蹴るからね!」
 軽口をたたきつつ、希。一方、生首たちが金切り声をあげると、その振動が直接頭を殴るような感覚が、イレギュラーズ達を襲う。
「……っ! 厄介な声ですね! 生前の無念……って、ただの設定でしょう!?」
 ウィズィは叫び、生首のうち一体を、武器で叩きつける。一刀両断された生首が、おおお、と呻きながら消滅。
「ステラ、右から3、左から4、中央に2だ!」
「はい、師匠(せんせい)! 左の四つを引き付けましょう、ウィズィお姉ちゃん!」
 ステラがその手を掲げる。手を這う茨、同時に巻き起こる魔力が、霧氷を巻き起こす。
「異界であれど此処より先は拙の結界、容易に進めると思うなかれ」
 放たれた霧氷が、生首たちを叩いた。同時、飛び込んだウィズィが振り払った『ハーロヴィット・トゥユー』が、生首を切り払う。
「こっちはオッケーです!」
「なら、右手は私に任せてもらおうか!」
 汰磨羈が飛び込むと、冷たき霊刀を振るう。同時、振るわれる剣線は気糸の閃断と化し、生首たちをなますと切り刻んだ!
「す、すごい……! やっぱり、ローレットのイレギュラーズって本当に……!」
 思わず歓声をあげるオイリ……だが、その顔がすぐに焦りへと変わる。
「み、皆! 敵が増えてる!」
 オイリの叫びに、イレギュラーズ達は身構えた。見れば、刀を持った腐った身体が墓地より起き上がり、こちらへと向かってきている。
「増援か……敵が先だったかな」
 希が呟く。仲間達が構えるのへ、しかし空気を切り裂いて、赤い光の帯を残す何かが飛来し、腐った身体を討ち叩いた! それは、サッカーボールだ!
「サッカーボール……!?」
 オイリが叫ぶのへ、返事をするように声が上がる。
「悪ぃ遅くなった! 全員無事か!」
 走りやって来るのは、葵、そして、
「どうやら皆無事のようだ。間に合ったな」
 少しだけ安心した様子で、アーマデルが言った。
「あーっ、ミーサの所の!」
 オイリが再び叫ぶのへ、アーマデルは頷いた。
「今はその話は後に。遅れは取り戻す……行こう、葵殿」
「ああ、全力でいくっスよ!」
 二人は一気に戦場へ向けて駆けだす。アーマデルは跳躍、葵は再度、サッカーボールを蹴りつける。宙を裂いて勢いよくボールが、赤のエネルギーの帯を引いて、腐った死体の身体に、次々と突き刺さる。
「アーマデル!」
「了解だ――さて、死神の美酒、お前達には分不相応だが」
 アーマデルが投げつけた小瓶。それを、アーマデルは蛇銃剣で打ち抜いた。途端、ふりまかれる死神の果実酒が、腐った身体を降り注ぎ、その身を焼きつかせる。
「こっちは任せてほしいっス! 生首と、子供たちを!」
「了解した! ステラ、ウィズィ、生首の全滅を優先! その後に死体の方に合流しよう! 希は――」
 汰磨羈の言葉に希は頷く。
「支援に入る」
 長杖を抱くように構え、静かに歌を歌う。誰が歌ったかもわからぬ歌。記憶にすら残らぬかもしれぬその旋律が、静かに仲間達の傷を癒し久野が分かる。
「ステラちゃん、一気に残りを片付けるよ!」
「はい、ウィズィお姉ちゃん!」
 ウィズィとステラ、二人が残る生首を掃討するのをしり目に、アーマデルと葵の攻撃が続く。
「このくらいのボールも受け止められないなら、サッカーには向いてなさそうっスね!」
 葵の蹴りつけるサッカーボールが、再度中空を縫うように飛んで、腐った死体たちを激しく打ち据えた。同時、アーマデルの蛇鞭剣が唸りをあげて、死体の持っていた刀ごと、死体の身体を断裂する。
「やれ、遅れを取り戻すためとはいえ、随分と身体が軽く感じるな」
 苦笑しつつ、しかし普段よりも実力を発揮できていることは事実だ。アーマデルは身軽に跳躍しつつ、腐った死体を蛇鞭剣を鞭のようにしならせて叩く。腐った死体が耐えきれずに粉砕された刹那。近隣の墓石が盛り上がるや、首無しの鎧武者が大刀を構えて這い上がってきた!
「なるほど、首は十、身体は五、と足りないと思ったが……」
 アーマデルが呟きつつ、蛇鞭剣を振るった。がきん、と音を立てて、鎧に傷がつく。
「残りの身体はあれっスか! けど、随分硬いみたいっスね!」
 葵の叫びに、しかし答えたのはバイクのエンジン音だ! その方向に視線を映せば、こちらへとやってくるバイク、その上に二人の人影が見える。
「俺たちが最後か。遅れてすまない!」
 バイクを止めて飛び降りる。それは、ミヅハの姿だった。
「あの鎧武者で最後だな?」
 同様に、バイクで運んでもらったのであろう、イズマが言った。
「すまない、遅くなった。……さっさと倒してここから出るぞ!」

●異界の決着
 イズマとミヅハ、二人の登場に呼応するみたいに、鎧武者が吠えた。同時に、その巨大な太刀を振り下ろす。とっさに避けたアーマデル、振り下ろしたたちが地面を抉るのを見た。
「大した威力だ……体力を削って、あの一撃を止めないといけないな」
 その言葉に、ミヅハが頷く。
「なら、俺達の出番だな! 遅れた分は取り戻す! イズマ、いくぞ!」
「了解だ、相手は堅そうだけど、全力で叩ききる!」
 ミヅハは魔道具を掲げると、その手に強力な魔力を発現させた。それを打ち上げると、魔力は万物を砕く鉄の星々となり、隆盛となって降り注ぐ!
「貫け! 鉄の星よ!」
 降り注ぐ流星が、鎧武者たちの鎧を粉砕し、中の腐肉を傷つける! 痛みに身を悶えさせる鎧武者たち。その手近にいた一体に、イズマは一気に接近した。魔力を纏った細剣が、力と、魔、二つの要素を併せ持つ双撃を繰り出した。繊細ながら強烈な斬撃が、鎧武者の鎧ごと、その肉体を貫いて葬り去る!
「今日はいつもより力がみなぎっているんだ……近づいたら危ないよ?」
 一方、近づいてきた鎧武者の斬撃を、イズマは受け止めた。ずん、と重い衝撃が身体を駆け巡るが、
「そっちと違って、こっちは追い詰められてからが本番なんだ!」
 まさに背水の陣、逃げ場を失ってからこその技の冴えこそが、イズマの本番だ。返す刀で鋭い一撃は、まさに雷を斬るがごとし。鋭い閃剣が、鎧武者の残命を断ち切る。
「大樹の剣、新芽の矢――耐えきれるものか!」
 ミヅハが放つ幻創魔剣の矢が、鎧武者を貫く。ぼっ、と大きな音を立てて鎧武者の胸に大穴が開き、そのまま鎧武者が倒れ込んで動かなくなる。
 イズマが残る鎧武者へ一息に接敵した。振るう雷の剣閃が、背水の一撃が、鎧武者の鎧を完全に粉砕する。
「葵、とどめを!」
「了解っスよ!」
 葵の放つサッカーボールが、紅の軌跡を描いて飛んだ。鋭く突き刺さるサッカーボールが鎧武者の身体を貫いた。ず、と音を立てて、鎧武者が倒れ伏す。
「こっちは片付いたな」
 イズマがふぅ、と一息を吐いた。普段よりも、どうも気合が入ったようだ。いつもより明らかに、力の出具合が違う。
「それより……子供たちは大丈夫か? 容赦ない肝試しになってしまったんだ、心に傷を負ってなければいいけど……」
 イズマが視線を送る。子供たちはどこか、非現実的なものを見たような顔をしている。
「希望ヶ浜の子供達だ。こういった怪異にさらされるのはつらいだろうな」
 アーマデルが心配げに言うが、
「こういっては何だが」
 汰磨羈が言う。
「まだあの子らは幼い。大人になれば、何かの悪夢だとでも思ってくれるだろう」
「そうですね。少し恐ろしい思い出になってしまったかもしれないですが……」
 ステラが言った。元より、怪異を見て見ぬふりをするのが希望ヶ浜だ。今日のことも、くだらないオカルト話として消費されて消えていくのだろう。
「……それより、オイリさんが警棒とか持ってることについての方が、フォロー大変じゃありません?」
 ウィズィがそう言うのへ、皆は「あっ」と同時に声をあげた。
 さて、当のオイリと希であるが。
「あー……うちの子はね、お仕事で……護身術とか使えるから、それでねー。あはははー……」
「へー、確かにオイリ、運動できるもんなー」
 と、オイリと希を囲んで、わいわいとやっている。その様子がなんとも面白かったので、葵は思わず噴き出した。
「意外と、子供ってのは逞しいもんっスよ」
 イズマは、少しだけ安心したように頷いた。
「さぁ、なごむのは後だ。早く脱出しよう」
 イズマの言葉に、皆は頷く。
「そうだな。敵は倒したけど、ここが異界なのは変わりないからなぁ」
 ミヅハが言う。希はオイリに耳打ちすると、
「ヤバそうだからついていくって判断は上出来。
 ……明日から、訓練増やすから。こういう時のために」
「うええ……」
 オイリがうなだれるのを見やりつつ、一同は異界から脱出するのであった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 子供達には大変なひと夏の冒険になってしまいましたが、皆さんのおかげで、いつか幼い日の奇妙な記憶、として語られるような、そんな思い出となるのでしょう

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