PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<半影食>其は地の壁となり、其は疾き鉾となる

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●『現実』から『豊小路』へ
 日出神社周辺に張り巡らされた異界、『豊小路』。昨今の『R.O.Oに依らぬ希望ヶ浜住民の失踪事件』に関わる異界のひとつで、その深度を深めた場所とも言われる地。日出神社の神性『日出建子命』のものと思しき力で顕現したそれは、ネクストにおける四神の影響が強い……と、思われている。
 だからだろうか。イレギュラーズがさらなる異界調査のために『豊小路』へ踏み入って程なくして、一同は唐突にその足場を奪われた。
 否、足場だったところが黒に塗りつぶされ、辺り一面黒一色の世界へと放り出されたのだ。
「『此方側』を冒すのは其方(そち)等か。我らがあるじ、彼等が奉ずる『父』を涜し、あまつさえその神威に触れようとする……その行いの報いは、つけるべきであろうや?」
 第一印象は宇宙。それから、ただの虚無。
 足が踏み込めない違和感で、空を飛ぶ技量を持たぬものは一歩も動けず、不快感ばかりがせり上がる。そんな中に現れた亀? は、古めかしくも厳かな声で糾弾するかのごとく問う。
 抽象的な言葉、指示語が多く、事情を理解できぬ者には何を言っているのかはわからない。だが、恐らくこの怪生物は……『ヒイズルの四神』の遣いで、『建国さん』を冒涜するような振る舞いをしている(と、認識している)イレギュラーズを排除するために現れたのだと分かる。
「報い、報いとばかり告げられても何のことか分かるまい? 余り虐めてやるな、鎧の。ことの次第を教えてやった上で、断罪を説くべきだ」
「それでは遅いのだぞ、疾封。その成で巧遅を説くとは、老いも侮れんものよな」
 そんな亀(『鎧の』と呼ばれた)を窘めたのは、猫科のようでありながら黒い翼を生やし、東洋の猫科よりも幾分かスラリとした個体。虎というよりは、ピューマとかああいった類に見える。
 疾封と呼ばれたそれは歩み寄る姿勢を見せつつも、断罪を説くコト前提。つまり、イレギュラーズを敵視しているのは確定的だった。
「鎧件(よろいくだん)。俺はお前の抽象的な言葉と問答無用な態度が気に入らぬと言っている。……それで、神使の者共。俺達は今から、我らが祖に仇なす不敬の地に眷属と死を与えてやろうというのだ。よもや神と繋いだ縁故を無下にするつもりは、あるまい?」
 疾封の言葉を要約する。「希望ヶ浜に四神の配下たる彼等の遣いを下ろし、それにより虐殺ともとれる蹂躙に移る」、と。そう言いたいのだろう。
 豊小路、または異界を通して夜妖が表に出ようとする動きは、どこかであるだろう。だが、同じ夜妖でも四神の絡んだ遣い、『という形を成した』夜妖が現れるのはちょっと危険だ。
 これ以上進むことを望まぬが、さりとて自分達は侵攻することを企図している……全くもって、矛盾している。彼の権能か、俄に礫混じりの風が吹き付ける。
「汝らがこれより先を探るのであれば、我はその歩みを奪おう」
 鎧件と呼ばれた亀の化け物が厳かに告げる。足元がおぼつかない状況から、一同は突如として背中が足場になったような――重力の方向が滅茶苦茶になった錯覚を受ける。そして、背筋を震わす不吉な予感。
「我は我の子らと、風と雷の脅威を知らしめ、どこにも立てぬようにしてくれよう。なに、潔く去るなら追わんよ」
 疾封の声にあわせ、礫まじりの風はなお強くなる。徐々に大きさを増す礫をよく見れば、ごく小さいなにか、凶暴な牙を持った生物であることがわかろうか。
「己の認識を乱されたまま、切り刻まれたその骸がそちらに戻れば否応なしに分かるであろうよ。二度と此方に興味が持てぬよう教育してやろうか」
 鎧件の不穏な言葉に合わせるように、新たな何かが……さながら鎧件を人型に整形したような、甲羅を纏った人型が現れる。
 明らかな敵意、悪意。逃げるにせよ進むにせよ、それらの殲滅は最低条件となるだろう。

GMコメント

 何の説明もなしに俺らの父祖に喧嘩売ってるからヤっちまおーぜ! はかなりの蛮族ポイントが高いですね。

●成功条件
・『鎧件』『疾封』の撃破or撃退
・『亀人』『刃礫』の殲滅

●鎧件
 豊小路に現われた守護幻影。恐らくは『玄武』の眷属と思われる、ゾウガメの四肢に隆起した瘤のような、棘のようなものを持つ獣。こいつを倒すか撤退に追い込むと、後述の『戦場条件』が緩和されます。
 攻撃力は皆無に等しく、防御と抵抗が高く『反』持ち。高い再生能力を併せ持つ。欠点は攻撃力、機動、反応が低いことか。
・重力撹乱(神超範、【泥沼】)
・ほか、神秘遠距離スキル等。

●疾封
 豊小路に現われた守護幻影。恐らくは『白虎』の眷属と思われる、ピューマに黒い翼が生えたようなアンバランスな異形。
 遠距離+『移』の単体攻撃系スキルが充実しており、『出血系BS』を伴う。鎧件と対象的な性能(反応、機動などが高く防御はそれなり)。
 彼を倒すか撤退に追い込むと『刃礫』が自動全滅。

●亀人×6
 亀の甲羅を纏い、肌がゴツゴツした角質層で覆われた人っぽいナニカ。どっちかっていうと夜妖寄り。
 攻撃役というよりは、上記のボスを護衛する役割である。同じ相手を庇うことはせず、相互にかばったりしてターゲットを絞りにくくしている。
 それなり硬い。

●刃礫×けっこう多数
 風に乗ってイレギュラーズを襲う小さい鎌鼬みたいなもの。体長20cmほど。
 『弱点』つきの攻撃スキルを使用する。機動とEXAが雑魚のわりに高い。
 一発の攻撃力は低いが、数の暴力による防御減衰からのボスの一撃につなぐ、めんどくさい相手。
 小さい分、脆い。

●戦場:異世界『乱重力』
 鎧件の能力により、重力の概念が狂っている地形。
 一定ターンごとに足場が変わり、平衡感覚が狂う(混乱系統BS判定:抵抗1.5倍で判定)。
 飛行系統のスキルを持っていれば、任意の方向を向いて戦闘出来るため不利を被らない。
 なお、このシナリオに限り『簡易飛行』は戦闘中のみ永続使用可能。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●Danger!(狂気)
 当シナリオには『見てはいけないものを見たときに狂気に陥る』可能性が有り得ます。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

●侵食度
 当シナリオは成功することで希望ヶ浜及び神光の共通パラメーターである『侵食度』の進行を遅らせることが出来ます。

  • <半影食>其は地の壁となり、其は疾き鉾となる完了
  • GM名ふみの
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年09月15日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
藤野 蛍(p3p003861)
比翼連理・護
桜咲 珠緒(p3p004426)
比翼連理・攻
ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)
私の航海誌
天目 錬(p3p008364)
陰陽鍛冶師
白夜 希(p3p009099)
死生の魔女
糸色 月夜(p3p009451)
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色

リプレイ


「此処は希望ヶ浜だろ、安寧と平和と普通って言葉は、何時から消えやがった?」
「『ネクスト』と希望ヶ浜、ひいては混沌が繋がろうとしているんだ。ここは、希望ヶ浜であってそうじゃないってことだ」
 『まくなぎ』糸色 月夜(p3p009451)の苛立ちは、今まさに……『豊小路』に降り立ってから最高潮に達しようとしていた。ただでさえおかしな世界に、四神の守護幻影を名乗る悪意ある敵。夜妖などとは一線を画すその姿は、どうあっても有効的ではなく。『陰陽鍛冶師』天目 錬(p3p008364)も、噛み砕いて説明は出来ても、納得させられるとは到底思っていないのである。
「……入ったのは悪かった、かな? でもそっちはそっちで侵食してきてるわけで……お互い様じゃないか?」
「侵食とは異なことを。神は路を通らぬ。通った場所が路となり領域となるのだ」
 両手を上げ、申し訳なさげなポーズをとった『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)に、鎧件の言葉が届く。届くが、響きはしない。言葉のやり取りはある。だが、それを人は会話とは呼ばない。主張の言い合いにしかなっていないのだ。
「あーはい、つまりあなた達は自分勝手に振る舞うけど私達には通られるままにしておけと。冗談が苦手なようですね」
「――笑止千万、という言葉を知っているか? 人の地を侵し、暴虐非道な振る舞いを成さんとする"紛い物"風情が」
 いっそ傲岸とすら思える鎧件の言葉に、『私の航海誌』ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)と『流麗花月』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)は思わずハハッと鼻で笑い、互いに言葉を吐いた。
 彼等は仮想の世界で生まれた存在だ。現実へ現れたところで、結局まがい物であることに変わりはない。そんなものが歩いた先が路などと、笑い話にもほどがある。
「宇宙空間ぽいとこでの戦闘なんて、まるでゲームのラストステージみたいね!?」
「そこに、老人のような染みの浮いた言葉で煽ってくる敵ですか。言葉が通じても話が通じないというのも含め、清々しいまでに『ゲーム的』ですね」
 『比翼連理・護』藤野 蛍(p3p003861)と『比翼連理・攻』桜咲 珠緒(p3p004426)は阿吽の呼吸よろしく、周囲の状況を、そして眼前の敵に対するスタンスを擦り合わせていく。連携を重視する両者にとって、認識と敵意の同一化は重要な過程のひとつでもある。珠緒は己の血をもとに情報を整理しようとし――血に割って入ったノイズに思わずそれを打ち切った。霊にも、神にも触れぬ筈のそれは、しかし多くを観るがゆえに異常を訴えたのか。
「つまり、私達はこっちへ来るな、でも我々はそっちへいく、と? ……ところで喧嘩してたけど、両方とも四神の眷属だっけ。亀のほうが年上っぽいけど、どっちが賢いの?」
 『スズランの誓い』白夜 希(p3p009099)は相手の言葉の理不尽さを噛み締めてから、唐突に守護幻影達に質問を投げかける。得意げに鼻を鳴らした鎧件に、つまらなげな視線を向ける疾封。明らかに、雰囲気が悪い。最悪といっていい。
「やっぱ年上のほうが強いし賢いしで、それぞれのあるじさまやお父さんからも重宝されてるの? だとしたら、亀の方が話が通じるのかな?」
「娘。それは挑発のつもりか? 笑止、その程度で――」
「何が笑止か、疾封。我等各々が父祖を前にして何方がどうだと醜く言い添える気か。我は補、貴様は主攻。今は其れで十分」
 思わず声をあげた疾封に、しかし鎧件は静かに言い放つ。先程一瞬だけのぞかせた自慢げな雰囲気は霧消し、ただ敵を倒すという義務感が眼光に宿っている。
「これ以上話すも無駄か。燼滅されるは貴様等の方だと知るがいい!」
「何を言われようと、古風な言い回しであろうと、こちらも退く気はないよ」
「こっちの命狙うほどの喧嘩なら、そっちも死ぬ覚悟は出来ているンだろうな」
 汰磨羈、イズマ、月夜は堪りかねたように得物を構え、今や遅しと攻めの姿勢を顕にする。刃礫達も敵意に敏感に反応してか、散開から密集へと陣容を変え、攻め掛かる。
 奇妙な重力は錬の足元を脅かすが、しかし彼の表情はぴくりとも動かず、次の変化に早々に対応する。その目には、確かな勝利への確信が宿っていた。


「そのあからさまに防御重視な見た目、そして教科書みたいな隊列……盾役やってるボクそっくり」
「定石を踏んでおられるだけに、脅威も理解できます。ですが珠緒には、蛍さんの真似のようなその仕草は我慢なりません」
 蛍と珠緒は、普段から2人でひとつの戦闘方針を組み立てることが多い。つまり、それぞれの役割を、自分のそれ以上に熟知しているということの裏返しでもある。だからこそ、亀人の数の多さ、そして「いかにも」すぎる立ち回りにうんざりした気持ちになる。
 狂った重力を、空を歩くが如く闊歩する彼ら……の動きに数手先んじて、珠緒は神気閃光を放つ。疾封へ向けて動き出していたそれは、目的に到達するより早くびたりと動きを止め、苦し気に身をよじる。不意打ち気味の戒めは、しかしすんでのところで逃れた個体もいたようだ。
 一瞬の意識の構え、備えの差か。だが、そんな者達の懐に滑り込んだ蛍は、即座にその桜技を以て数体の意識を自らに引き付け、さらにその堅牢な表皮に火を灯す。
「これしきの火で、我らが成すべきを違えるなど」
「さあ、Step on it!! 残念ですが……動物園は閉鎖だッ!」
 亀人の、怒りと矜持の間で藻掻く声はしかし、続くウィズィの高らかな宣言を前にその覚悟ごと霧散する。
 蛍にウィズィ、若いなれども気鋭の彼女らの存在感と絶対の自信を見て、果たして守ることを『命じられた』それらが追い縋れるほどの覚悟はあろうか?
「有り難い、狙われてないなら直接……」
「直接、何をばせんと欲す? 我らに先んじるなどと、吐(ぬ)かすものよ」
 亀人の間を縫う手間が省けたとイズマが構えた刹那、標的は既に眼前に迫っていた。いつ、どうやって。その問いかけが無意味であることは理解しつつ、彼は咄嗟に細剣を構え、すれ違いざまの一撃を受け止める。受けてなお鋭く噛み付く風の刃は、激しい出血を伴う。それに誘われるように群がってくる刃礫の姿は、羽虫のように面倒だ。
「先んじるつもりはない――勝てればいい!」
「全くそのとおりだ。先だ後だを競うのはこの場では不釣り合い、俺達の世界に踏み込むつもりなら、容赦なく切り払うまで」
 イズマの裂帛の気合とともに放たれた一撃は、刃礫ごと疾封の毛皮を薙ぎ、明確な傷を生む。彼の言葉に応じるように、明後日の方から響いた錬の言葉、その姿は重力に翻弄され、ありもしない足場に身をおいているように見受けられた。が、彼はその状況に微塵の混乱も覚えておらず、『そこにあるまま疾封へと向かってくる』。
「この状況で善くも動き回れるものよ……! 我と眷属に働いた狼藉、今に身を以て後悔させてくれようぞ」
 疾封は動じこそすれ、乱れない。吹き荒れる刃礫の動きを見ずとも、自身の動きに絶対の自信があると言いたげに。だが、刃礫に混じってぽつぽつと現れた、微小な炎の渦にあっては余裕ばかりも告げられまい。
「白虎の眷属――ならば、金行に属するモノか。ところで貴様、火克金というものは知っているか?」
「五行相剋のみで事を成すか? 力の差を理解してから述べ……、……?」
 汰磨羈の放った炎乱であると、疾封は遅まきながらに気付き、それすらも御し易しと甘く見ていた。それだけの実力がある証左だが、その余裕すらも術中であるとは、終ぞ気付かぬことだろう。……勝たねば、それは優れた策ではなかったということだ。
「怪我は」
「これくらい問題ない! ……と言いたいけど、放っておいて勝てる相手じゃないかな」
「わかった」
 希の問いかけに、イズマは強気の言葉を吐き出し、次いで本音をぽつりと零す。絶え間なく襲ってくる刃礫と、主たる疾封のコンビネーションは多少封じたところで強敵に変わりなく。余力あらば、些細な傷も看過し難いと判断した。打てば響く反応速度で、希はイズマ含め、仲間達を治療していく。

「疾封の愚かめが。相手を下に見ずと粋がっておきながらその体たらくよ。全く嘆かわし、」
「よお、傷が出来てもお互い治るなら、我慢比べか。俺も得意だ、どっちが先にくたばるか勝負しようぜ」
「……嘆かわしいことだ。このような身分知らずも我の相手とはな」
 鎧件は、格の違いに終始して相手の実力を判じかねた疾封を愚かと断じた。畢竟、それは一同の戦いぶりを知る前の己への罵倒でもある。そして、月夜が眼前に、挑発的な行為を伴って現れたならそれを見逃す道理もなかった。全身から立ち上る敵意はしかし、続けざま放たれた血の刃の威力を推し量れば鎧件にとって『驚異』と断ずるに早計であった。
 早計ではあるが、月夜は速攻で鎧件を倒す腹積もりでもなければ、我を見よと英雄的な働きを望んでいるわけでもない。
 地に足をつけぬことで重力の軛から逃れ、執拗に視界に入って鎧件の射界を防ぐことに終始し、以て「後回しになって当然だが、放置するにも具合が悪い」敵の特性を徹底的に封じることを選択したのである。
 遠間を狙い、足止めを目的としたことで接近戦の、そして攻撃の純度が低い鎧件。
 接近戦での戦闘力と打たれ強さ、倒れ難さに全精力を注いで只管に相手の視界を奪い続ける月夜。
 両者の立場は似ているものの、戦場に立つ者としての意思、覚悟の純度に相違がある。
 その純度の差はすぐに判じるものではないが、じわじわと蝕む毒であり。
(こっちは命張ってンだ、高みの見物なんてさせてやるかよ……!)
 その覚悟を「どこ」に置くかの差でもあることを、認識する為の棘でもある。


「成すべきを違えぬ。たとえそれが死出の道への階であろうと」
「其方らの力と我らのそれに、抗いがたい断絶があろうとも」
「それでも我らは、ただ倒されるだけの木偶ではなかろう。鎧件様と疾封様が、暇無くその意思を貰い受けよう」
 亀人達は、時折動きを封じられ、あまつさえ感情を揺り動かされ、何者かを護ろうとする眷属としては極めて苛烈な不利を被っていた。無論、蛍と珠緒、ウィズィの戦術は通用していた。通用していたが、数度に一度の光明を彼等は逃さず、主たる者達を護るために全力を尽くすのだ。
「ボクも手加減したつもりはないんだけど、あっちの決意もそれなりってことなのかな。……それもちょっと、我慢できないな」
「私達はここを調べに来たんであって、動物の世話に来たわけじゃないんですけどね!」
「個人で負けるとわかっていても主の勝利の為に、ですか。半分はわかりますが、もう半分は珠緒には理解しかねます」
 3人は亀人達の言葉を知ったことかと気を吐き、猛攻を繰り返す。時に鎧件を、そして疾封を守りに入る者は居る。が、二重三重に守りを固めさせることだけは、絶対に無い。
 誰かが犠牲になることで全体の勝利を掴む。その覚悟は本物なのだろう。だが、イレギュラーズは『誰かの犠牲』を求めない。勝つなら、全員でだ。
「ええい、貴様の眷属はつくづく面倒だな! 私には通じぬどころか不利とわかっているなら退けばいいだろうに!」
「五行を識る知のほど、理解できる。だが、此方の父祖が其方を望んでいない。覗き込むを望んでいない。なれば我等は父祖の願いを全うするのみ……切り刻め!」
 疾封は汰磨羈の炎を受け、着実に調子を落としている。そうでなくとも、イレギュラーズはそれの撃破を最優先として動いているのだ。不利でないはずがない。
 が、傷の深さよりも受けた痛みよりも、守護幻影には誇りがある。だからこそ、今成すべきは何かを、疾封も鎧件も心得ている。
「守りに入った覚悟は結構だけど、俺達の邪魔をするならどいてもらう」
「この程度の乱重力で俺を崩す事は出来ないぞ。さあ、来るなら来い!」
 イズマが割って入ってきた亀人を吹き飛ばし、隙の生まれた疾封へと符術で攻め立てる。次の符を、と構えた時、その姿が死に体にすら感じたのは間違いではなさそうだ。
「あそこまでボロボロなら、庇う相手がいない今こそ倒すチャンスってことですね!」
「その通りだウィズィ! この七面倒臭い刃礫……を……?」
 広範囲を狙い、ハーロヴィットを振り上げたウィズィに同期するように、汰磨羈もとどめとばかりに術式を練り上げる。何しろ厄介なのは数に任せた刃礫。相当数倒して尚立ちはだかるなら、疾封を確実に潰す。……そう再認識した。したはずだった。
 潮が引くように霧散する刃礫に、すわ勝敗は決したか、と快哉を叫ぼうとした一同の視線は、しかし鎧件と相対していた月夜が驚いたように後退した姿を捉えていた。
 倒れにくいという事実は、倒れないと同義ではない。或いは鎧件に今少し、目の前の敵を倒すという覚悟が残っていれば話は違ったのかもしれない。
「我はな、鎧件。お前の思い上がった態度が気に入らぬ。だがお前が自らの力を維持するだけのために、むざむざ我等が倒されるのを待つ様も気に食わぬ」
「思い上がるな疾封。我は、此奴等が我が父祖を軽んじる態度こそが気に入らぬ。気に入らぬが……我は貴様の死に様など見たくは――」
 鎧件の声が、段々と遅れて聞こえ、やがて霞に溶けて消えていく。それまで月夜と、付近にいた希らを巻き込むように群がっていた刃礫は溶けて消え、宇宙空間の如き不安定感は霧散する。亀人は主を失い機能を喪失し、僅か2体となった個体は石像よろしく動かない。
「こちらの退路は塞ぎ、自身は危うくなれば遁走……恥知らずですね?」
「喧嘩の売り逃げかー、ダサいね」
 珠緒と蛍は、その転身の早さに顔をしかめつつもなるほど、と一定の理解を示した。
 勝てぬまでも一矢報いようと最期まで戦おうとする、とばかり思っていた鎧件がよもや敵前で遁走などと誰が思おう。
 希にさんざ当て擦られ、一見して判断力を減じていた2体の守護幻影はしかし、最後の最後で連携を取って逃げ手を打った。
「急にまともな重力に戻ると、変な感じがするな」
「影響を受けないといっても、平衡感覚がちょっとだけ狂うな……戻った時に苦労しそうだ」
 イズマと錬は、鎧件が消えたことで消失した重力の乱れの余波に頭を抱える。ここに居る者達全員が大なり小なり後々重力酔いを経験することとなろうが、ある意味、勝利の淡い余韻として甘受出来れば幸いである。

成否

成功

MVP

桜咲 珠緒(p3p004426)
比翼連理・攻

状態異常

白夜 希(p3p009099)[重傷]
死生の魔女
糸色 月夜(p3p009451)[重傷]

あとがき

 今目の前にあることを見なければ、先は見えないものなのです。

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