PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<月没>花枯れて、種残すように

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●高天京折紙喫茶店
 色の深い木製の格子窓。ガラスにぱらぱらとうちつける雨粒が流れては、縁をつたって落ちていく。
 窓際にぴったりとおかれたテーブルには振り子仕掛けの置物と砂糖壺。ぱらりと捲る新聞の音だけがした。
 正義国の文体で書かれた英字新聞を広げ、ハイカラな模様をした和服姿の女性が文字に目を走らせている。尖った耳と、首にはロザリオ。出会った誰もが一度は振り返ってしまうような不思議な魅力をもった女性はしかし、四人がけのテーブルにただひとり。誰からも声をかけられることなく目の前の珈琲を少しずつ冷めさせていた。
 いや、誰からもというのは間違いだ。
「カミラさん! ……お久しぶりです!」
 喜色満面といった様子で現れたのは、神父だった。彼も彼で、優しくちょっとかわった魅力のある男性である。
 見る者が見れば、彼の下げているロザリオに施された細かい細かい装飾が、女性のさげているそれと同じだと気付くだろう。
 カミラと呼ばれた女性は新聞を閉じて畳みながら、優しい笑みを男へ返す。
「アラン。遠路はるばる、よく来てくれました」

 珈琲を挟んで二人。交わす会話はごく日常のものばかりだ。
「カミラさん、今度の滞在は長いのでしょう? たしか天香の方が失踪なされたとかで……」
「耳が早いですね。正義国にまで伝わっていましたか」
「いやあ……」
 アランは少し照れくさそうに、そして困ったように笑った。
「グドルフさんたちが毎日カミラさんの帰りがいつか聞くもので、調べさせられました……。本当にしつこいんですよ。ブルースさんに至っては一日に何度も聞くんです。カミラさんからも言ってやってください」
「二人とも、よほど私に会いたかったのですね。まあ、あの二人だけが『そう』ではないのでしょうけれど」
 コーヒーカップを口元へもっていき、くすくすと悪戯めいて笑うカミラ。アランは顔を赤くしてうつむいた。
 そんなアランに、カミラは少しだけ声のトーンを落として続けた。
「あなたにお願いがあります、アラン」
 きょとんとした顔で彼女の顔を見るアラン。
「青龍様について、調べては頂けませんか」

●神器『花枯』
 暗い夜道を進む。並ぶガス灯は暖かく足下の煉瓦敷きの道路を照らし、雨上がりの露めいた香りと灯火の香りが混ざっていく。
 アランはそんな道を歩きながら、カミラと話したことを思い出していた。
 正義国出身のカミラはこの地へ定期的に訪れ、『青龍結界』の維持を他の巫女と共に行っている。ヒイズルを守護するという四大神霊のひとつである青龍は天を突くほどの巨大な樹木であるが、普段はその姿を文字通りに消してしまっている。ヒイズルのどこからでも眺められる大樹であるにも関わらず風景にそれがないのは、結界によって空と同化してしまっているからだ。
 それは日の光をヒイズルへ十全に届けるためであり、清浄なる水を流すためであり、肥沃な畑を維持するためである。人々が生きていくのに、青龍の力と結界は必要なのだ。
 だが……。
『結界に四神様がお集まりになってから、遮那様を警戒する動きが出始めました。遮那様の誤りを正すと、彼を教育し直すべきというお考えを、青龍様が示すようになったのです』
 正義国へ定期的に取り寄せているヒイズルの新聞でも、遮那失踪のニュースはとりあげていた。原因は不明とのことだったが、四神たちはそれをわかっているのだろうか。
 話を聞いただけでは遮那という人物が不良になって家出してしまったので親戚(?)として叱ろうとしているようにも思える。
 だがカミラはその動きにどこか不穏な雰囲気を感じたのだという。
「カミラさんが言うなら、そうなのだろう。あの人はいつも不穏をいち早く嗅ぎつけるから……」
 しかしカミラは青龍のそばにつき、青龍の考えを人に伝えたり結界を維持したりという重要な役割をもつ。裏を調べようとすれば目立ってしまうだろう。
 だから、アランなのだ。
「私がカミラさんの役に立つなら……」
 ぎゅっと拳を握りしめる。
「まずは遮那という人の行方……いや、失踪の理由からだ。カミラさんが感じた『不穏』がそこにあるはず」
 と、心を新たにしたその時。
「調査 サセナイ」
 声がした。いや、合成音声のようにも聞こえる。
 建物の屋根のうえからとび、ズンと目の前に着地したそれはとても大きな鎧のようであり、石像のようであり、ロボットのようであり、なにより体からはえた小さな樹木からたちのぼる神聖な気配がただものではないことを直感させた。
「手 引ケ。サモナクバ」
 両手を突き出すロボット。ロボットの胸に刻まれた文字『花枯』がその名なのだろうか。
 そう考える余裕を圧迫するように、『花枯』は両手に埋め込まれた蒼い光を強めた。
 ドゥッという衝撃の音。慌てて飛び退くアラン。
 彼の立っていた煉瓦の地面とその背後にあった壁が粉々に破壊されている。
 命を狙われている。何故? このロボットはどこから現れた? 目的は?
 いろいろな事を考えたが、アランはそのすべてよりも優先して、力強く立ち上がって言った。否、吼えた。
「断る! これは、私に託された大切な役目だ!」
「残念ダ」
 再びかざした手を光らせる『花枯』。

 あなた がこの場に現れなければ、きっと彼の命は――。

●ほしよみキネマ
 ――カラカラ、カタン。
 以上が、これから先の未来に起こるという出来事を写影したほしよみキネマなる装置である。
 場所は高天京壱号映画館。グドルフ(p3x000694)やエイラ(p3x008595)たちが客席にはついている。
 無名偲・無意式のアバターである名無しの退魔師 (p3y000170)が、映画がおわり照明のパッとついた部屋の中で立ち上がった。
「この、神咒曙光が禍ツ神豊底比売の侵食を受けている」
 突然漢字の多い言葉を言われて『へぇえ?』と裏返った声をあげるエイラ。
 練達国で開発された仮想世界構築装置ROO及びフルダイブ型ログイン装置によって極めてリアルな仮想世界ネクストへログイン中の彼らイレギュラーズ。その目的は膨大なクエストや次々に現れる特殊イベントを攻略することで得られる世界歪曲理由の糸口を掴むこと。
 ここはそんなネクストの中にある国、ヒイズルである。
 退魔師は手をかざして首を振った。
「難しく考えるな。この国では本来発生しえない『夜妖』が跋扈していることは知っているだろうが、その原因となる存在がこの国を侵食している。そういうイベントが起きているようだ。
 どうやらネクスト世界の天香遮那はその事実に気付いて、悪の暗躍を防ぐべく活動していた。行方不明の理由も、それだ」
「で?」
 グドルフが顔をしかめた。
「俺らに何をさせようって? 誰をとっちめりゃあクリアだ?」
「その考え方。シンプルでいいな」
 感心したように頷き、退魔師はスクリーンの前へと歩いて行った。
「この真実を探ろうと動いていた男、アラン・スミシー。彼をとめるべく出現したのがこのロボット『花枯』だ」
 『花枯』の造形はものすごく既視感がある。というか、フリークライそのものだ。違いとしては方から盆栽みたいな小さな木がはえていることと、胸に刻まれた名くらいか。
 それも一体や二体ではない。何体もの『花枯』が現れ、アランを追い詰め始末するつもりでいる。もしこのまま放っておけば、事実ごと闇に葬られることになるだろうな。
 それを止めに入る……という所まではわかる。が。
「もちろん支援なしに突然テロリストになれとは言わん。
 システムに干渉して俺たちには『高天京特務高等警察』という立場が付与されている。手帳だってあるぞ? こいつを使って事件に介入し、『花枯』を撃退。そしてアランと共に事件の真相を追え。
 この件に四神は深く関与しているのは間違いない。強い妨害をしてくることもな。
 『花枯』もその一つで、かなり強力な機動兵器たちだ。だが、『月閃』システムを用いれば対抗も可能だろう」
 『月閃』とは、現在ヒイズルに発生している『侵食の月』を転用した異能である。
 禍々しいオーラを纏うことでその姿を変化させ、まるで反転したかのような強いパワーを発揮することができるというものだ。
「毒をもって毒を制す。いい言葉だ。薬学の基本だな。というわけで……」
 退魔師はビッと映画館の出口を示す。
「あとは任せた。この事件の真相を掴んでこい」

GMコメント

●オーダー
・成功条件:アランの生存
・オプションA:『花枯』の3体以上の撃破
・オプションB:『花枯』が出現した目的を調べる

●シチュエーションとエネミー
 雨上がり、夜のヒイズル表通り。
 ガス灯の並ぶ町中で戦闘はおきました。人はまばらで目撃者も非常に少ないタイミングで、その少ない目撃者も一目散に逃げ出す事件です。
 アランは『花枯』に目を付けられ、今まさに抹殺されそうになっています。
 この場へ颯爽と現れとめに入り、追加で出現する『花枯』たちを撃退しましょう。
 今回の目的はアランの生存と調査への協力なので『花枯』を完全破壊したりする必要はありません。
 『花枯』の出現する数はおよそ6~8体程度とみられ、両手から衝撃波を飛ばしたり怪力で殴り飛ばしたり、癒やしの力を発動させて自他を回復したりといった能力を共通して有しています。
 一体ずつが非常に強いロボットなのですが、『月閃』を使えば勝つことも可能でしょう。

※おまけ解説:『月閃』
 現在ヒイズルに侵食をしかけている力を転用したもので、一時的に闇墜ちフォームになるこで戦闘力を増大させる技です。
 性格や姿が変わってもOK。どんな姿になるかをプレイングに書いてお楽しみください。
 効果時間が終わると元の姿に戻ります。そのまま本当に闇墜ちしちゃったりはしませんので、存分に暴れまくりましょう。

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※重要な備考『デスカウント』
 R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
 現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。

●魔哭天焦『月閃』
 当シナリオは『月閃』という能力を、一人につき一度だけ使用することが出来ます。
 プレイングで月閃を宣言した際には、数ターンの間、戦闘能力がハネ上がります。
 夜妖を纏うため、禍々しいオーラに包まれます。
 またこの時『反転イラスト』などの姿になることも出来ます。
 月閃はイレギュラーズに強大な力を与えますが、その代償は謎に包まれています。

●侵食度
 当シナリオは成功することで希望ヶ浜及び神光の共通パラメーターである『侵食度』の進行を遅らせることが出来ます。

●情報精度なし
 ヒイズル『帝都星読キネマ譚』には、情報精度が存在しません。
 未来が予知されているからです。

●ROOとは
 練達三塔主の『Project:IDEA』の産物で練達ネットワーク上に構築された疑似世界をR.O.O(Rapid Origin Online)と呼びます。
 練達の悲願を達成する為、混沌世界の『法則』を研究すべく作られた仮想環境ではありますが、原因不明のエラーにより暴走。情報の自己増殖が発生し、まるでゲームのような世界を構築しています。
 R.O.O内の作りは混沌の現実に似ていますが、旅人たちの世界の風景や人物、既に亡き人物が存在する等、世界のルールを部分的に外れた事象も観測されるようです。
 練達三塔主より依頼を受けたローレット・イレギュラーズはこの疑似世界で活動するためログイン装置を介してこの世界に介入。
 自分専用の『アバター』を作って活動し、閉じ込められた人々の救出や『ゲームクリア』を目指します。
特設ページ:https://rev1.reversion.jp/page/RapidOriginOnline

  • <月没>花枯れて、種残すように完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年09月12日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

Siki(p3x000229)
また、いつか
グドルフ(p3x000694)
リアナル(p3x002906)
音速の配膳係
吹雪(p3x004727)
氷神
白銀の騎士ストームナイト(p3x005012)
闇祓う一陣の風
セフィーロ(p3x007625)
Fascinator
壱狐(p3x008364)
神刀付喪
エイラ(p3x008595)
水底に揺蕩う月の花

リプレイ

●花枯
 突き出したロボット『花枯』の手のひら。青白い光が強くまばゆく膨らみ、光線として発射されようとした――その時。
 ぴょん、と巨大なクラゲのような笠を被った人型の存在が横っ飛びに現れた。
 半透明な身体をもった『深海に揺蕩う月の花』エイラ(p3x008595)。
 エイラは花枯の放った光線をバチバチと放ったクラゲ型の炎と火花で相殺し、そして受け流す。
「ン……」
 突然の闖入者に困惑したのか、それとも別の感情か。光線を放つ姿勢のまま、花枯の両目のランプがぱちぱちと点滅する。
「教えてって言っても、青龍のことぉ教えてくれないよね。
 だから、エイラが今知りたいのは君達の心」
 追い打ちをかけるかのように、エイラは花枯へと問いかけた。
「ねぇ。青龍、大事?」
「…………」
 花枯は黙った。答える心を持たないが故の沈黙ではない。答えることが難しい質問を投げかけられた人間の、様々な感情が入り交じった沈黙に、それは見えた。
 そしてそれゆえに、大きな隙となったのだ。
「背中ががら空きだぜオラァ!」
 叫びをうけ、ハッとして背後を振り返り腕を突き出す花枯。放たれる光線――が、なににも当たらず遠くに駐車していた人力車を粉砕した。
 後ろには誰もいない。
 いるのは――。
「ハッハァ、上だぜッ!」
 屋根の上からジャンプし、斧を振り上げ迫る『山賊』グドルフ(p3x000694)。
 花枯の頭部に直撃した斧はその装甲を破壊し、バチンと致命的な音と火花をたてた。
 ……が、花枯はぐらつく身体を抑えながらグドルフを振り払い、よたよたと後退。肩にはえた盆栽のごとき小さな樹木から溢れた光が流れ込み、花枯のボディがめきめきと修復されていった。
「『ホンモノ』に似てタフってことか。チッ……仕留め損なったぜ」
 舌打ちするグドルフ。ちらりと振り返ると、彼の姿を見たアランが口をぱくぱくさせていた。
 『なんで? いや、別人?』と呟いているようである。
 困惑する彼を見たグドルフの目に様々な感情が浮かんでは消え、そして野生動物のようなぐにゃりとした笑みにかき消えた。
「けっ……ガキが。戦えもしねえくせに虚勢張ってんじゃねえぞ!」
「し、しかし……!」
「下がってろ!」
 花枯から飛び退き、エイラとグドルフでアランを挟むように立つ。
 対して、花枯の反応は極端だった。
 グドルフたちの立場がハッキリしたとわかった途端、うつむいて両腕をだらんと下げた。
 それがどういう『感情』からのものかは、エイラは……少しだけだが、わかる。
 安堵。新たな不安。使命感。義務感。そして、次なる闘志への屈伸。
 再び花枯が顔を上げた途端。はるか上空から新たな花枯たちが次々と降ってきた。卵形に身体をまるめた複数の花枯たちが次々と地面や屋根に突き刺さり、そしてこちらを取り囲むように展開する。
 が、こちらとて二人だけで来たわけではない。
「待たせたわね」
 転倒するヘッドライト。『Fascinator』セフィーロ(p3x007625)がバイクに跨がり突っ込んでくる。花枯たちが飛び退くが、バイクの後方にのっていた『青の罪火』Siki(p3x000229)が剣を抜き、飛び出し花枯へ迫る。水龍のごとき尻尾をぺしんとしならせながら勢いをつけると、マンツーマンの要領で花枯たちを押さえ込んでいく。
 反撃に放たれたビームがバイクに直撃するも、セフィーロは直前で飛び降り爆発四散をさけた。
「ロボットのくせに感情が丸見えね。
 余程の駆け引き下手と見るか、徹底していると見るか……」
「相変わらずわからないことだらけ。ま、すべてを知るまで止まらないさ。
 どうして、を問うのは慣れっこだし。それに、力になれるならなりたいからね」
 ちらりと上を見ると、屋根の上で展開した花枯に対してマントをなびかせた『闇祓う一陣の風』白銀の騎士ストームナイト(p3x005012)が斬りかかる。
「夜の街の静寂を乱す者たちよ、狼藉はそこまでだ! 白銀の騎士ストームナイト、双星の導きによりここに推参!」
 至近距離。撃ち込む剣とそれを手のひらサイズの結界防壁によって防ぐ花枯。
(調査を始めた途端に妨害とは、直情すぎだぜ。その割に最初に「手を引け」と警告とは……なんか優しいな?)
 ストームナイトの感じる通り、花枯には戦闘の意思や敵意らしきものは感じるが、殺意や明確な害意、敵愾心めいたものは感じなかった。
 ロボットなのでそれまでと考えるべきなのか、それとも……。
 道を挟んだ反対側の建物。屋根の上に立ち上がりエイラたちに両手を構えた花枯を見てストームナイトが叫ぶ。
「壱狐、そっちを頼む!」
「はい! 特務高等警察です! この帝都にて狼藉は許しません!!」
 五行のうち木の属性を刀に纏わせた『妖刀付喪』壱狐(p3x008364)が構えた花枯の背後から斬りかかった。
 瞬時にそれを察して振り向き、後方にピンポイントバリアをはる花枯。
「特務高等警察……」
 空から舞い降りるものがある。『調査の一歩』リアナル(p3x002906)が機械の翼をはばたかせ、ゆっくりと降下しているのだ。彼女の腕には『氷神』吹雪(p3x004727)が抱かれ、足を組んで長い髪を色っぽくかきあげた。
「あらあら、まだ調査はこれからだというのに、ずいぶんとせっかちさんなのね。
 それに、これではまるで調べられると困ったことになりますと言っているようなもの、よ?」
 セクシーなブルーのルージュ。唇を小さく突き出すように言う吹雪に、リアナルが小声で言った。
「うまいうまい。いいロールプレイだとほむ――」
「あああああああっ!」
 両手をばたつかせて言葉を遮ると、リアナルから光輝ポーションを受け取ってぴょんと飛び降りた。
 展開する氷の槍。そしてリアナルが展開した翼のビットソードがそれぞれ花枯へと向けられる。
「防御と回復力がヤバイ。相手の性質からして粘られたら厄介だ。Siki、ストームナイト、一気に行くぞ!」
 槍とビットが一斉に飛ぶ。
 それを結界によってすべて弾き飛ばす花枯――に対して、リアナルは速攻をかけた。
 剣を、拳を、構えて解放する。
「「魔哭天焦――『月閃』!」」

●月閃
「……仲間の姿をした君を攻撃するの、あんまりいい気はしないねぇ」
 そう言いながらも、Sikiは青い光の柱に包まれた。
 柱が晴れたとき、そこに居たのはSikiと似て非なる者。
 血のように濁った宝石の角と、柘榴石の輝きを有した瞳。
 黒炎を纏った禍々しく赤黒い龍が、そこにはいた。
 アバターチェンジにはあまりにも違いすぎる圧(プレッシャー)に、花枯たちがじとりと半歩ほど身を退かせる。
「――夜妖纏イ!」
「燃やし尽くせ、全てを」
 龍と化したSikiの放ったドラゴンブレスはたちまちのうちに周囲を火の海へと変えた。
 と言っても、建物や建てかけられた自転車が燃えることはなく、あくまで花枯達だけに黒き炎が浴びせられることとなったのだが。
「転身! 宵闇の騎士、ストームナイト・ノワール!」
 そんな炎の中から現れたのはストームナイトだった。
 鎧と剣は漆黒に。
 髪は前髪の一部を残して白髪化し、左の瞳が緑から赤へと変わったその姿は白銀の騎士とは呼べない。漆黒の騎士である。
 真っ黒な剣と鎧に青白いライン状の光を流し、すさまじい速度とパワーで花枯へと斬りかかる。
 障壁を破壊しそのままボディを切り裂くのは、熱したナイフでバターを切るが如く容易であった。
 咄嗟に腕を突き出し、あふれ出るエネルギーを爆発させたいわゆる自爆攻撃を仕掛けてくる……が。
「フウ、便利だな……この力は」
 獣の尾をふり、ぶわりと煙を払うリアナル。
 無数に展開した魔方陣が障壁となり、花枯からのダメージを超高速でカバーしていた。痛みを感じることもないほどに。
 ドラゴンブレスの飛び火を受けた花枯たちが周囲を聖域化して炎をはらう。
 受けたダメージを素早く回復すべく構える――が。
「速攻って、言ったでしょう?」
 吹雪がため息をつくと、まだ夏の終わりだというのに白く曇った。
 湯気ではない。彼女の吐息自体に冷気がかかり凍り付いているのだ。
「グドルフ、エイラ。一緒にやりましょうか――月閃」
 オトナでクールな鏑木声で叫ぶと、吹雪が彼女を包み込む。
 現れたのは黒き氷神。
「これを使わせるアナタたちがいけないんだもの! あははっ、凍ってしまいなさい!」
 黒い大扇子を降ると、あたりの視界が激しい吹雪に包まれる。
 視界が真っ白に飛び、色が消えた。冷気と風圧ゆえに平衡感覚も狂い、いま自分がどの場所にどんな角度でいるのか、そもそも立っているのかすらわからなくなる。いわゆるホワイトアウト現象である。
 そんな世界を貫いて現れたのは精強なる山賊、グドルフであった。
「夜妖だかなんだか知らねえが、とっととおれさまに力を寄越しやがれッ!」
 胸のロザリオが光を放ち、グドルフ自身を真っ赤な闘志の光で燃え上がらせる。
 彼の斧は花枯の障壁を突き破るのみならずボディをピッチャー返しの球のごとく吹き飛ばし建物の平面へとぶつけ、そして崩壊させた。
「使命でもぉ忠誠でもぉ貴方達が大事なヒトのために自らの心で戦っているのならぁエイラはぁ嬉しい。
 エイラもねぇ、信じ、託してくれたとても大きな友達のこと、すごく大事なんだぁ」
 エイラはその姿を少しずつ変えていく。
「だからね、戦うよ」
 透明な殻を破って現れたのは、クリスタルのボディを持つ巨大な墓守人形型秘宝種ロボットだった。
 ――スタンダップ、フリッケライ!
 そんな声がどこからか聞こえた気がして、『彼』は笑った。
「我 フリック。我 エイラ。
 束ネテ我ガ真名 フリッケライ」
 立ち上がるその姿は、見上げるほどに巨大であった。
 咄嗟にビームを放つ花枯達を腕の一振りでなぎ払う。
「我ハ ”心”樹護。
 友ノ心ヲ 守ル者也!」
 距離をとり、路地の先へと飛び出す花枯たち。
 壱狐はそれを逃がさなかった。
 小さな川の上にかかる橋。
 その上を走り、刀を握りながら――。
「金剋木、青龍の加護を受けているとなればまずはその力を削ぎます。続いてください! 月閃!」
 壱狐は五行の光を放つ刀で花枯へと斬りかかる。
 水平に放たれた刀身を聖域防壁によってふせごうとする花枯だが、壱狐はそれを貫通して花枯のボディと肩から生えた樹木を切り裂いた。
 その横にいた花枯二体はビュンと腕を伸ばした。まるでワイヤークレーンのように発射された肘から先の部分がアランを掴み、腕を繋いでいたワイヤーめいた植物蔓が腕を巻き戻す。
 自らのもとへアランを抱えると、花枯は背から空圧ジェットを放って離脱――しようとしたところへ、新たに出現したバイクに跨がったセフィーロが追いついた。
「お手軽パワーアップなんてどうにも厄いわね
 とは云え。切り札ってのは血を流しても切るもの!」
「――!」
 片腕を伸ばして砲撃を放とうとするが、セフィーロはむしろその腕を掴んで鉄棒のように絡みつくと、アクロバティックに花枯の胴体部分へと両手をかけた。そして。
「さあて、ハイウェイの悪魔とのダンスと洒落込みましょうか!」
 両膝による強烈なキックで顔面を潰すと、その反動で飛び退いてバイクへ再び跨がった。
 どういう動きをしたものか、バイクの後部にはアランもいつのまにか跨がっている。
 爆発四散する花枯を背に、セフィーロは前髪をサッとかきあげた。
「あら、もうダンスはおしまい?」

●目的
 時計塔。針が深夜零時をさしたその上で、手すりに腰掛け眼下の風景を見つめる女がいた。
 吹雪である。
 夜風になびく雪色の長髪。かざした手の先、目が覚めるような青色のネイル。曲げた人差し指にとまったのは氷で出来た小鳥だった。
 ぴいぴいと鳴くそれに、吹雪は口づけをする。それを褒美ととったのか、それとも役目を終えたのか、小鳥はパッと氷の粒に散って姿を消した。
「一回りさせてみたけど、他に花枯の姿はなかったわ」
 振り返ると、白銀の騎士ストームナイトが腕組みをして立っている。今しがた時計塔を登ってきたところらしい。
 定期的になる鐘の整備をするためにもうけられたスペースらしいが、周辺の風景を見渡すには絶好の穴場ポイントだ。
「花枯達が現れた時、空から降ってきた。空中に突然ポップするんでもない限りは、空輸されたとみるのが正しいだろうな」
「大きな鳥がコウノトリさんみたいに運んだって?」
「コウノ……トリ……?」
「えっ?」
「ん?」
 しばし互いの顔を見合ってから、ストームナイトはコホンと咳払いをした。
 そこへ機械の翼を羽ばたかせながらリアナルが着地する。手すりから屋根までは身をまるくしなければ通り抜けできないようなスキマしかないのに、器用にてをかけ翼をたたみ滑り込んだ。
「私も一回りしてみたが……それらしいモノはなかったな。あ、いや……なくはない、か」
 ひっかかる言い方をするリアナルに先を促すと、リアナルは口元に手を当てたまま答えた。
「皆が集まったときに話す。意見が欲しい案件だったからな……」

 一度周囲の探索を終えて合流した仲間達。
 カミラと話をしたカフェでのこと。
「空を天女が飛んでいたと証言した奴がいた。郵便配達員だったんだが」
「天女……」
 セフィーロは首をかしげる。
「こう、羽衣をかけて空をふわふわ飛んでる女性のことよね?」
「まさにそれだな。それが、でっかい卵みたいなものをおとしたと。まあ、この世界に空を飛ぶ奴もデカい卵も別に珍しくないんだが、それが複数体同時に編隊飛行をしていたっていうのが気になるな」
「状況的に……花枯を輸送していた存在、よね。花枯に青龍の息がかかってるのはアタリマエとしても、ちょっとピンとこないモチーフだわ」
 と言いつつも、全く心当たりがないわけではない。自分の専門ではない(直接関わった経験が無い)だけで……。
 一方で。隣のテーブルではアランとグドルフが向き合って座って居た。
「命の危険など、関係ありません。あの人が私を頼ってくれたんです……何があっても手を引きません!」
「ゲハハハッ、こりゃ傑作だぜ! 甘っちょろい考えのボウズに、何が出来るってんだよ?」
 歯を食いしばってにらみつけるアランと、テーブルに足をのせ鼻をほじりながら見下すグドルフという構図だ。
「今のままだと野垂れ死ぬだけだ」
「いいえ。そうはなりません。私はカミラさんの判断を信じている。あの人は私を自殺させようなんて考えない!」
「……」
 グドルフの表情が、ごくごく微細に動いた、ように隣に座っていた壱狐には見えた。
「希望的観測は捨てな。可能性がゼロじゃねえ限りは、疑って掛かるしかねえのさ。例えそれが――」
「カミラさんと敵対することになってもです」
 今度こそ、グドルフの表情が動いた。
 身を乗り出すアラン。
「あの人にとって、私は大した力になりません。仮に邪魔になるなら、敵対すること自体が無意味だ。けれどもし『そうした』なら……意味がある筈なんです。戦う事以上に重要な、意味が」
 むっつりと黙ってしまったグドルフの横で、壱狐は話を進めてみる。
「エイラさんから見て、あの『花枯』はどうでしたか?」
 同じテーブルにつくエイラに話をふった。
 エイラは倒した花枯の残骸を回収し、土へうめ、そして弔った。
 その時の風景を見ていたが、不思議と悲しそうには見えなかった。彼らが土に還り水と風にのって新たな花や木や鳥になることを、わかっているように見えた。
 そしてそれこそが、『花枯』という名前の意味だとも。
 エイラはぽわぁっと口を開く。
「フリックはぁ、植物を育てられるよねぇ。青龍様は意思を持った大樹だけどぉ、『挿し木』で増えることもできそうだよねぇ」
「え、まあ、木というものがそういうものだしな」
 フリークライというボディを大量に生産しながら、そこに青龍の意志を少しずつ宿らせている……という考え方だ。
 であるならば、アランや自分たちにした反応は、青龍の意志そのものということになる……とも言えた。
「まだまだぁ、調査は必要だねぇ」

成否

成功

MVP

白銀の騎士ストームナイト(p3x005012)
闇祓う一陣の風

状態異常

なし

あとがき

 ――クエスト完了
 ――アランの生存フラグを獲得しました
 ――新たな情報が獲得できました
 ――新クエストが解放されようとしています……

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