PandoraPartyProject

シナリオ詳細

フルキャン。或いは、森ガール部隊襲来…。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●伝説の8人
 大戦のさなか、わずか8名の部隊で敵軍を壊滅寸前にまで追いつめた集団があった。
 しかし、大戦終結とともに部隊は解散し、消息を絶つ。
 今や伝説となった部隊の名は……。

「はぁ、いつの大戦かは分かりませんし、部隊についてもぼくは聞いたことないのです」
 ごめんなさいなのです、と。
 少しだけ困った顔をして『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)はそう言った。
 それから、様子を窺うように視線を右から左へ泳がす。
(一体、何者なのでしょうか。見たところ全員女性のようですが)
 ユリーカの視線の先にいたのは、都合8つの草の塊。
 背丈や声から察するに、ギリースーツを着込んだ女性たちらしい。
 
 ローレットにやって来るなり、彼女たちは先にも述べた部隊についてを語って聞かせた。
 自分たちの素性を語るより先に、である。
 よほどに興奮していたらしいことは理解できるが、しかしそれではこれ以上話も進まない。
「ところで、あなたはどなたなのです?」
 ユリーカの問いに、ギリースーツたちは「あっ」と肩を跳ねさせる。
「申し遅れたであります。私の名はタンゴ。我ら森ガール部隊のリーダーであります」
「はぁ。ぼくはユリーカ・ユリカ。ローレットの情報屋なのです」
 一応の礼儀として、タンゴとユリーカは互いに挨拶を交わす。
 森ガール部隊とやらが何なのかは相変わらず不明なままではあるが。
「……それで、一体何の御用でしょう? ご依頼です?」
「あぁ、そうでありました。実はここに“伝説の8人”がいるとお聞きいたしまして、ぜひご教導をと」
「……伝説の8人?」
「隠さずともよろしい。いや、実際のところ、我らも驚いているのです。まさか、かの部隊の後継が実在したとは!」
「????」
 ユリーカの脳裏を「?」が過る。
 タンゴの語る話の内容が、まったく理解できないからだ。
「えっと、どういう経緯でここに来たのかお聞きしても?」
 森ガール部隊の皆さまは、何かを勘違いしているのだろう。
 なので、ユリーカはより詳しく話を聞くことにした。
 草の塊と言葉を交わすという貴重な経験だ。まったくうれしくない。
 室内でギリースーツはひどく目立って仕方ないのだが、果たして彼女たちはそれに気づているのだろうか。
 それともギリースーツに見えるだけで、ともするとそういう民族衣装か何かなのか?
「はい、話は数日ほど前まで遡るであります。我らにここを教えてくれたのは、かつて我らに銃火器の扱いと白兵戦を教えてくれた教官殿でありますよ。つい先日、久しぶりに偶然この地でお会いしましてな」
 曰く、教官と街のチンピラたちが抗争していた折、さっそうと現れ事態を解決に導いた8人がいたらしい。
 風のように駆け、猛火のように襲い掛かり、容赦なく敵を打ち倒すその姿を、その活躍を、教官はタンゴたちに語って聞かせた。
「そのお話を聞いて、思ったのです。きっと件の8人は、我らの間に伝わる“伝説の8人”、その後継に違いないと」
「はぁ……つまり、うちに“伝説の8人”さんがいるはず、と」
「いえす」
 タンゴたちの言う教官は、何かしらの折、任務中のイレギュラーズと逢ったのだろう。
 そして、その活躍をタンゴたちに語って聞かせた。
 教官の語るイレギュラーズの戦いようが、タンゴたちの知る“伝説の8人”の理想像と重なった結果、このような勘違いが発生したというわけだ。
「残念ですが……」
「あ、いや! 皆まで言わずともよろしい! かの部隊の存在を、そう軽々に口には出来ないでしょうからな!」
「口にできないというか、いないというか」
「うむうむ。何かしらの事情があって消息を絶ったのでありましょうからな。存在を隠しておきたいのでしょう」
「いえ、ですから」
「しかし、我らもせっかくの機会とあればぜひ“伝説の8人”の教導をお受けしたいのです! 先ほどご依頼と言っていましたな。では、これを依頼といたしましょう」
 そうしてタンゴの語る依頼の内容はこうだ。
 彼女たちは、メフ・メフィート近郊の小山にキャンプを張って待っている。
 “伝説の8人”には、そこを攻めて来てもらいたい。
「“伝説の8人”相手に我らの戦略がどれだけ通用するか試したいのあります。何、遠慮は不要! こちらも罠など張って迎え撃たせていただきますゆえ!」
 そう言って、ギリースーツの一団はローレットから立ち去って行った。
「お山に罠を……依頼の内容はともかく、迷惑さんたちなのです」

●森ガール部隊
「皆さんには“伝説の8人”になってもらうです」
 開口一番、ユリーカは告げる。
「最悪8人いなくても構いません。病欠とか有給とか、そういうことにするのです」
 そういった前置きの後、ユリーカは今回の依頼についての仔細を語る。
 今回、イレギュラーズが戦う相手はギリースーツを纏った8人の女性たち。
 自身らを“森ガール部隊”と名乗るトンチキな集団である。
 しかし、その立ち居振る舞いから、それなり以上に“戦える”だろうことをユリーカは理解していた。
「森ガール部隊は小山のどこかにキャンプを張って待っているとか。罠もしかけているそうですので【停滞】や【懊悩】【体勢不利】には注意してほしいです」
 服装や、言動から察するに、彼女たちは山中での戦闘を得意としているようだった。
「銃火器や白兵戦の訓練も積んでいると言っていたですね。どちらにせよ、あまり舐めてかかるのはおすすめしません」
 今回の戦場は、相手側にとって有利な小山という場所で行われる。
 注意を怠った結果、足元をすくわれる……なんてことも十分にあり得るだろう。
「白兵戦となればナイフなどでしょうか? 銃火器はライフルや散弾銃の類を持っていたですね」
 ギリースーツ同様、それらの装備品も目立たぬよう加工されていたが、さすがに至近距離で相対すれば所持していることは分かる。
 そういった装備の類をしっかり観察している辺り、ユリーカは優秀な情報屋であるのだろう。
「ナイフには【毒】や【流血】。銃火器については【必殺】【ブレイク】辺りに注意すべきでしょうか」
 また、森ガール部隊は山中にキャンプを張っているらしいが、必ずしもキャンプ地に滞在しているとは限らない。
 あくまでそこが、彼女たちの拠点であるというだけだ。
「山中に道らしきものはないのです」
 彼女たち森ガール部隊の目的は“伝説の8人”の教導を受けること。
 細かな指定があるわけではないので、方法は参加したイレギュラーズに一任される。
 とはいえ、実戦形式の教導を望んでいることは確実だろうか。
 容赦なく叩きのめしても良いし、戦い方を教えてやるのでもいいだろう。
「納得できなければ、何度でも挑戦してくる可能性はあるのです」
 ただでさえイレギュラーズは忙しいのだ。
 勘違い集団を相手に、そう長い時間を取られるわけにはいかない。
「ちなみに合言葉は“ホウ・レン・ソウ”ということでした、砲撃、連撃、総攻撃ですね」
 そして彼女たちは、基本的には脳筋思考なのである。

GMコメント

●ミッション
森ガール部隊に戦いを教える


●ターゲット
・タンゴ×1
森ガール部隊のリーダー。
ギリースーツを身に纏っているため、容姿は不明。
おそらく女性である。


・森ガール部隊×7
ギリースーツを纏った女性の集団。
合言葉は“ホウ・レン・ソウ”
つまり、砲撃、連撃、総攻撃である。

砲撃:物超遠単に大ダメージ、ブレイク
 完全被甲弾による射撃。

連撃:物近単に中ダメージ、毒、流血
 毒を塗布したナイフによる格闘術。

総攻撃:物遠範に大ダメージ、ブレイク、必殺
 複数名の隊員による連携攻撃。


●フィールド
幻想にある小山。
滅多に人が立ち入らないため、道らしきものは存在しない。
獣道程度ならあるだろうか。
崖になっていたり、沼になっていたり、小川が流れていたりする。
※山中には多数の罠が設置されている。
罠の種類は不明だが【停滞】や【懊悩】【体勢不利】の状態異常を与える。


●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • フルキャン。或いは、森ガール部隊襲来…。完了
  • GM名病み月
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年09月06日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ラクリマ・イース(p3p004247)
白き歌
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ
ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)
私の航海誌
リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)
黒狼の従者
コルネリア=フライフォーゲル(p3p009315)
慈悪の天秤
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
ヴィリス(p3p009671)
黒靴のバレリーヌ
ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)
開幕を告げる星

リプレイ

●森ガールだか山ガールだか
 膝丈にまで伸びた草を踏みしめて『守る者』ラクリマ・イース(p3p004247)は道なき道を前へと進む。
「森ガールって噂でしか聞いたことないのですが、森にいそうな女の子とか、森が似合う女の子とかそんなんじゃなかったですか?」
 幻想近郊、ある山の中。
 一塊になって進むイレギュラーズは、油断なく周囲へ視線を配る。
「……言葉の意味は時代とともに変遷していくものです」
 先頭を歩く『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)の服装は、パリッと糊の利いたスーツと、山歩きには到底似合わぬものである。
 彼は腰をかがめると、足元にあった小石を拾って数メートルほど先へと投げた。
 数度、地面を跳ねた小石が地面に埋もれた何かに当たる。コツン、と硬質な音が鳴り、小石は何かに砕かれた。
 そこにあったのはトラバサミ。
 山にどこかに潜んでいる森ガール部隊が仕掛けた罠だ。
「あぁ、やっぱり。あると思ったんですよ。となると、上も怪しいですが」
 寛治は眼鏡を押し上げて、視線を斜め上方へ向けた。
「そういうことなら、私のファミリアー達に任せて下さいよ!」
 『私の航海誌』ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)が指を鳴らす。その音を合図とし、近くの茂みから1羽の小鳥が飛び立った。
 まっすぐに飛翔する先には、緑の葉をよく茂らせた太い樹木が生えている。
 くるくると螺旋を描くように、樹木の下を小鳥が舞った。
 数秒、小鳥はそうしていたが、何か異変が起こるようなことはない。
 おや? と首を傾げる寛治とウィズィへ『黒狼の従者』リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)が「あの」と小さく呼びかけた。
「もう少し下の方……だ、そうです」
 リュティスは耳に片手を添えて、何かの音か声を聞いているようだ。常なる者にはリュティスが何と対話しているのか理解できない。
 しかし、ウィズィはリュティスの言葉を疑うことなく小鳥に高度を下げるように指示を下した。
 ゆっくりと、幹に沿って小鳥は下降。
 その途中で、バチン、と何かにぶつかって悲鳴とともに地面へ落ちた。
「電気? 見えないが、糸のようなものを張っているのか? 知らない人が引っかかったら大変じゃないか」
「“森ガール” って、もうちょっと、こう……キャンプとかする平和的な感じじゃなかったのですよ?」 
 呆れたような、慄くような、何とも微妙な顔をして『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)と『にじいろ一番星』ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)は視線を交わす。
 今回、イレギュラーズに下された任務の内容は、山中に潜むギリースーツの女たち……通称“森ガール部隊”と一戦交え、戦いを指南するというものだ。
 模擬戦のようなものと予想していたのだが、森ガール部隊の仕掛けた罠はどうにも殺意が高すぎる。
「まるで猪や熊を相手にするかのような罠ですね。サバイバリティが高いというか、対人戦に慣れていないというか」
「なるほど。つまり、森の中でサバイバルする女の子のことを森ガールって言うのね! 勉強になったわ!」
 やれやれ、と言った様子で肩を竦めた寛治の横に『黒靴のバレリーヌ』ヴィリス(p3p009671)が並んでそう言った。
「それで、彼女たちはどこ? 戦い方を教えればいいのよね。私の戦い方が参考になるかはわからないけれど存分に相手をしてあげるわ!」
「あー…………こういうのは苦手なんだけど試合形式ならまだなんとかなるかしら?」
 今にも駆け出しそうなヴィリスに対し、『慈悪の天秤』コルネリア=フライフォーゲル(p3p009315)はどこか浮かない顔である。
 シスター服を着こんだ彼女は、いかにも重量のありそうなガトリングを携行しているのだ。当然、それは山登りに向いた服装と装備ではない。
「出番はもう少し後になるかと。この辺りには潜んでいないようですから」
「とはいえ色々隠れるところ多そうですから、不意打ちに気を付けなければですね」
 木々のざわめきに耳を澄ませるリュティス。
 そして、周囲へ鋭い視線を巡らすラクリマ。
 2人の感知できる範囲に、森ガールたちの姿は無い。

●砲撃、連撃、総攻撃
 ゆっくりと呼吸を数度。
 吸って、吐いて、吸って、吐いて、止めて。
 片目を閉じて、ライフルのトリガーに指をかける。安全装置を弾いて外し、視界を狭く、感覚を鋭く、意識的に閉じていく。
 スコープ越しに見えているのは、巨大な銀ナイフを肩に担いだ金髪の女。罠を警戒しているのか、スーツ姿の男と短く言葉を交わす。
 男が木の枝を前へと放る。
 それだけで茂みに隠して張っていたワイヤーが震え、その位置は8人の知るところとなった。
 問題ない。
 元よりあれはただの足止めだ。
 結果として、ワイヤーの手前で足を止めてくれたのなら、作戦通りと言えるだろう。
 指先にほんの僅かに力を込めた。
 カチリ。
 ほんの僅かな金属音。
 振り下ろされたハンマーが、弾丸の尻を強く叩く。
 火薬の爆ぜる渇いた音。
 ストックを押し付けた肩に僅かな衝撃。反動はそれなりだが、狙いを逸らすほどではない。
 銃声に驚いたのか、小鳥が頭上でチチチと鳴く。
 まっすぐに空を疾駆する弾丸は、金髪の女の側頭部を確実に射貫くだろう。訓練用のゴム弾頭とはいえ、直撃すれば大ダメージは避けられないし、何度も喰らえば意識も失う。当たり所が悪ければ、大怪我を負うこともあるだろう。
 しかし、女は弾丸を視界に捉えることなく大きく身体を後ろに仰け反らせることで、それを回避してみせた。
 弾丸は女の額を裂いた。
 皮膚の欠片と血飛沫の飛び散る様を、スコープ越しにしっかりと見た。
 そして……。

 くいっと眼鏡を押し上げて、寛治は問うた。
「敵は1人ですか?」
「斥候ですかね? とはいえ、森ガールらは不意打ちしたいでしょうし、戦力分散の愚は避けるでしょうし、密に連携してくるでしょう」
 ウィズィは応えを返し、額を濡らす血を拭う。
「どっちの火力が上か勝負でしてー!」
「あぁ、今回のメンツ、火力高いしアタシはちょっと意地悪にしようかしら」
 翼を広げ、ルシアが僅かに高度を上げる。
 その真下を走るコルネリアは、右手の指をこきりと鳴らし気糸を展開させていた。
 正確な敵の居場所は分からないが、銃声の鳴った方向からおよその潜伏場所は分かっている。
 現在、イレギュラーズが歩いているのは沢へと伸びた浅い窪地だ。その左方、斜面の中腹辺りから弾丸はこちらへ飛んできた。
「待ってください。斜面に罠の気配があります……ヴィリスさん」
 先行しようとした2人を寛治は慌てて呼び止める。
 代わりに跳びだしていったのはヴィリスだ。踵の刃を幹に突き刺し、一番上まで駆け上がる。およその敵の位置を探ると、ヴィリスは太い枝に飛び乗った。
 大きく枝がしなった瞬間、もう1度、茂みの中から銃声が響く。ヴィリスの狙いを理解した森ガールが牽制のために発砲したのだ。
「撃ったら移動しないと、位置を知られた所に撃ち込まれ、距離を詰められますよ。狙撃手は一箇所に留まってはならない」
 呆れたように寛治は呟く。
 枝の根元を銃弾が撃ち砕くより速く、枝のしなる反動を利用しヴィリスが跳躍する方が速い。
 木の枝や幹を足場とし、ヴィリスはアッと今に茂みへ近づいていく。
 その間、寛治とウィズィを先頭としたイレギュラーズは急ぎ斜面を駆け上がる。
 銃撃戦において、敵よりも高い位置を取ることには大きな意味がある。窪地に留まったままでは、狙い撃ちも良いところだ。
「攻撃を集中させやすい人から順に倒していきましょう。我慢強くはなさそうですし、そこを利用すれば容易そうです」
 茂みに隠れて姿は見えぬが、先ほどから銃声と金属の打ち合う音が鳴っている。ヴィリスと森ガールが交戦しているのだろう。
 ざわり、と草木が大きく揺れたのを見て、リュティスは弓を引き絞る。魔力で造った矢を番え、茂みの方へとそれを向けた。
 直後、背後より銃声。
 窪地を挟んで反対側の斜面から、誰かが銃を撃ったのだ。
「罠も奇襲もアリってのは嫌いじゃない。それも立派な戦術だしな」
 割り込んだイズマが細剣を掲げて銃弾を弾いた。衝撃でイズマの身体が大きく仰け反る。
 積み重なった枯れ葉に足を滑らせて、姿勢を崩したイズマの元へ、銃声も無く1発の弾丸が迫る。
「っ⁉ もう1人いたのか!?」
「サイレンサー? いえ、問題ありませんね。確実に数を減らしてリーダーを追い詰めていきましょう」
「あぁ、今ので銃が熱を持った……罠とかってあまり慣れてないから、ついでに、この機会に学ばせてもらおうかな」
 静かに。
 ラクリマは歌う。
 それは戦士へ送る歌。
 深々と、淡雪のごとき燐光が降り注ぐ。
 イズマの肩に触れた燐光は溶けるようにその身に沁み込み、負った傷をじくりと癒した。
 ラクリマの支援を受けながら、イズマは弾丸の発射地点へと到達。草むらに紛れ込んでいたギリースーツの女へ向けて、鋭い刺突を繰り出した。
「な……なんで、こんなにすぐに!?」
「何故気付いたかは後で教えてあげるよ」
 森ガールは銃を掲げて刺突を防いだ。砕けた部品が飛び散って、彼女は銃を投げ捨てる。地面に銃が転がると同時に暴発した弾丸が弾倉を爆ぜさせ、火を噴いた。
 白兵戦へと切り替える森ガールだが、イズマの接近を許し過ぎた。
「とりあえず死なない程度に! 諦めるまでぶん殴って、ごめんなさいせましょう!」
イズマの背へとラクリマが送った声援を聞き、森ガールは自身の敗北を悟るのだった。

 一閃。
 ヴィリスの脚が低い位置を薙ぐ。
 森ガールは後退することでそれを回避。低い位置にあるヴィリスの頭部へ銃口を向ける。
「ふふ、面白い服ね。草木に紛れてわかりづらくしているのかしら?」
 しかしヴィリスは動じることなく、身体を回転させながら立ち上がることで蹴りの位置を上方へと修正。
 ライフルの先端を蹴り飛ばすことで、射線を外した。
 軽快なリズムで叩き込まれる連撃は、森ガールの反撃を許さない。
「くっ……速いであります!」
 逃走、継戦。
 どちらを選択するにせよ、まずは体勢を立て直さなければ始まらない。滅茶苦茶に数発の弾丸をばらまき、転がるように茂みを跳びだす森ガール。
 しかし、次の瞬間、足首に走った激しい痛みに悲鳴を上げて転倒する。
 見れば森ガールの足首には、魔力によって編まれた黒い矢が刺さっていた。
「殺してしまわないように細心の注意を払ってくださいね」
 矢を放ったリュティスは言った。
 顔を上げた森ガールの眼前に、銀の鉄塊が迫る。それがウィズィの振るったナイフだと知る前に、付けていたゴーグルの上から顔面を強かに打ち抜かれ、彼女は意識を手放した。
「ちょうどいい。彼女が隠れていた茂みを拠点としましょう」
 窪地を挟んだ反対側の斜面に隠れている森ガールたちへ、牽制射撃を行っていた寛治だが、潜伏に適した場所が空いたと見るや仲間たちへと指示を出す。
 大量の弾丸をばらまくコルネリア、そして魔力砲を放つルシアに後方の警戒を任せ、一行は茂みの中へと跳び込んだ。

 残る森ガールは6名。
 窪地を挟んだ反対側に、2人ずつの組に分かれて散開しているようだ。
 位置を細かく変えながら、時折こちらへ銃弾を撃ち込んでくる。
「コルネリアさん、森ガールたちの居場所って把握できてます?」
 そう問うたのはラクリマだ。
 彼女の傍らには、先ほどウィズィが倒した森ガールが転がっている。あのまま戦場に放置していると、戦闘に巻き込まれる危険があったからだ。
 怪我をした森ガールはそのままだが、仲間たちの治療は既に終えている。しかし、反撃に打って出るにはある程度確度の高い情報が欲しいところ。
「あー、まぁ、およそは? っても、一応ずっと“見”続けられていると思うのだわ。ギリースーツで擬態しているとはいえ、隠れられている筈なのに視線を感じるとなると……それはストレスになる筈」
「接近戦を仕掛けようにも、どうにも罠だらけのようですしね」
 と、そう言ったのは寛治である。
「そこまで用意する必要あったのですよ……?」
 呆れたようなルシアの声も、虚しく木霊するばかり。
 実践訓練にしては、些か過剰なほどに罠を仕掛けられているのだ。
 そのうえで森ガールたちは、じりじりとイレギュラーズとの距離を詰めて来ている。
 砲撃、連撃のフェイズは終わった。
 次は総攻撃フェイズといったところか。
 戦闘訓練の終わりは近い。
 イレギュラーズと森ガール、どちらが勝利するにせよ……だ。

 数十分に及ぶ膠着状態は、イレギュラーズの抵抗が止んだことで終わりを迎えた。
 しばらく様子を確認した後、タンゴは仲間たちへと指示を下した。
『総攻撃!』
 ハンドサインを仲間が確認した後に、頭上に腕を翳して10のカウントを取る。
 カウントが0になると同時、銃弾をばらまきながら一目散に相手の潜んでいる茂みへと駆けこんでいく。
 ゲリラ戦を得意としている森ガールたちだが、だからといって殴り込みが不得手というわけではないのだ。
 窪地を抜け、斜面を上がり、中腹の茂みへ差し掛かる。
 しかし、茂みへと至るその直前、先行していた1人の足がピタリと止まった。
「ドントストップムービングでありますよ! 戦場で足を止めるとは、死にたいでありますか!」
 怒鳴り声をあげるタンゴ。
 しかし、仲間は進まない。
「違うであります! い、糸が絡まって動けないのであります!」
「……っ!?」
 タンゴがそれに気づいた時には手遅れだった。
 仲間の脚には気糸が巻き付いているのだ。
 気糸の伸びた先は、森ガールの足元。
 タンゴたちの見ている前で、緑の茂みががさりと蠢く。
「よぉ、いらっしゃい。せっかく来たんだ、鉛弾でも喰らっていきな」
 立ち上がった草の塊。
 否、それはギリースーツを纏ったコルネリアであった。
「待ち伏せ? こ、後方および左右に警戒!」
 タンゴは素早く指示を出す。
 命令に従い、後ろを向いた森ガールは、しかし次の瞬間にガトリングの掃射を受け倒れた。
「さぁ、アンタはこの状況、どうするのかしら」
「っ……まずは彼女からであります! その後、2:3に分かれて左右へ展開!」
 号令と共に、無数の弾丸がコルネリアを襲った。
 負けじとコルネリアも弾丸をばらまき、森ガールたちの体力を奪う。
 先に限界を迎えたのはコルネリアだ。
 ゆらり、と彼女が倒れる瞬間、タンゴは気づく。
 コルネリアが笑っていることに。

 コルネリアのばら撒く弾丸を回避するうち、知らず森ガールたちは横一列に並んでいた。
 元より彼女の狙いはこれだ。
 コルネリアが倒れた瞬間、ルシアは銃に充填していた膨大な魔力を解き放つ。
 ごう、と空気が唸り、木々が揺れた。
 視界を白に染めるほどの閃光。
 一条に束ねられた魔力の渦は、地面を抉り森ガールたちを撃ち抜いた。ルシア自身もダメージを負うほどの強い衝撃が吹き荒れる。
「戦いを続けることが無理そうなら伏せておくのですよー!!」
 なんて、朗らかに響くルシアの声は果たして森ガールたちの耳に届いただろうか。

 魔力砲による破壊から【パンドラ】を消費し意識を繋いだコルネリアは、這うようにして逃げていく。
「タンゴ隊長、ご武運を!」
 森ガールの1人がタンゴの身体を突き飛ばすのが視界の端に見えた。
 しかし、問題ない。
「さあ、Step on it!! 10年早いってとこ見せてやる!」
 大上段にナイフを構えたウィズィが、コルネリアの頭上を跳び越えていく。
 牽制のために撃たれた弾をナイフの柄で受け流し、一足飛びにタンゴとの距離を詰めていく。

●教導
 魔力砲の抉った地面に森ガールたちが転がっている。
 頭を抑え、そのうち1人が起き上がった。
 けれど次の瞬間、森ガールの肩を寛治の放った銃弾を撃ち抜き、その意識を奪い去る。
「タンゴさん、将の役割は何だと思いますか?」
 呟くようにように寛治は告げる。
 その視界の端では、リュティスやラクリマの手によって意識を繋いでいた森ガールたちが次々と戦闘不能に陥らされていた。
「伝説の8人を見出し育てることではなく、16人でも32人でも、必要な人数を揃えるのが将の最初の仕事です」
 森ガールたちの敗因は、十分な兵を揃え切らなかったことだ。
 倍ほどの人数がいれば、総攻撃の際に後続を残すこともできたはずだ。
「相手の得意な陣形を崩す、これが多対多の鉄則!」
 今だって、ウィズィの猛攻からタンゴを逃がすための支援を行えたかもしれない。しかし、それが出来ないからこそ、タンゴはウィズィの一撃を受け、地面に転がっているのだ。
「最後に大事なこと教えとくね……森ガールってそういうんじゃねえーー!!」
「いえ……それよりも勝つべくして勝つ、その為に準備するのが指揮官の仕事だと教えた方が」
 倒れた森ガールたちを一ヶ所に集めながら、寛治は告げた。
「せっかくなのでみんなでゆっくりするのはどうですよ?」
「どこかにキャンプを張ってるって言ってたのだわ。酒の1本も残ってないかしら」
 連れだって去っていくルシアとコルネリアを見送って、寛治は深いため息を零した。
 これから先は、寛治とウィズィによる戦闘指南の時間だ。

成否

成功

MVP

新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様です。
返却が遅くなりました。
森ガール部隊との戦闘に勝利し、彼女たちの尊敬を勝ち取れました。
罠に頼り切っていると、こういう時に痛い目見ますね。
依頼は成功となります。

この度はご参加いただきありがとうございました。
また縁があれば別の依頼でお会いしましょう。

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