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シナリオ詳細

Broken Lions Hearts

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●砕けた心

 最初に剣を握った時の感覚を、まだ覚えてる。

 こんなにもずっしりと重い剣を、いつに日にか片手で振るえる日が来るのかと胸が躍ったのを覚えている。

 いつか両親を、故郷を守る戦士になりたいと、ただ一心不乱に剣を振った日々を――
 この身で誰かを守れるように自分を鍛える日々を――

 僕はまだ覚えてる。
 それを忘れられたらどんなにいいんだろう。

 初めて戦った。

 初めて勝った。

 それまでに無数に負けたけど。
 悔しかった時なんて、いつもだった。
 悔しいなんて思う事すらできなかったときもある。

「努力が足りないんだ」
「お前の実力じゃ上にはいけない」
「努力は正しいやり方をしなくちゃ意味がない」

 そんな、ありふれた侮蔑も、嘲笑も、発破も――全部全部、空虚だった。

 あぁ――ちくしょう……どうして僕はまだ剣を握ってる?
 思い出される母の顔。けれど、肝心な何かを忘れてしまった気もする。

――でも。

 僕は、僕は――ライオンハートなんてこりごりなんだ。



 人々の歓声がラド・バウを揺らすのがここからでもわかる。
 あぁ、コールをされているのは、誰だっけ。

 一歩、二歩、ただ足を前に出して進む。
 開けた視界、輝きと共に観客からの声が響いている。
「よろしく――お願いします」
 静かに頭を下げてから、武骨で幅広の片刃の大剣を構えて――深く息を吸った。
 刹那――僕は咆哮を上げた。

 熱を感じた。痛みを感じた。血が出てるのが見えた。
 視界いっぱいに円形の闘技場と観客席が映りこむ。

 ――あぁ、今日は負け(その)日か。

 静寂が、罵倒に変わる。
 それを耳にしながら、一つ溜息を吐いた。

●ライオンハート
「皆様は、ライオンについてどう思われますか?」
 集められたその場で、情報屋のアナイスが不思議そうに首をかしげている。
「たとえば、勇気と威風の象徴だとか、統治者の紋章として描かれがちだとか。
 あるいは――単純に格好いい鬣の動物だとか。百獣の王とも呼ばれる、大型の肉食動物だとか……まぁ、色々とあります」
 つらつらと指を折って数えるアナイスだったが、イマイチ要領を得ない。
「今回、この案件をお願いするに当たって、情報を調べていて知ったんですが、ライオンって意外と雌が狩猟のメインを張るそうですよ。
 まぁ、実際の所、あんなに大きな鬣を持っていては、頭が重すぎて走りにくいというのも道理なのでしょう」
 要領を得ないままに進めていたアナイスはそこまで言ってこほん、と咳払いをする。
「実は皆さんに、ラドバウである闘士と闘っていただきたいのです
 今、ラドバウで『ライオンハート』なんて異名で勝ち星を増やしつつある1人の闘士がいます……いえ、いました」
 アナイスは少しばかり悲痛な表情を浮かべて資料を見やった。
「若い雄獅子の獣種で天才型とは言えませんが、勝ちにはおごらず、敗北の悔しさはバネにして。
 経験を積んで順当に勝ち星を増やしつつあったそうです。そんな彼が、不意に折れてしまった……それも中途半端に」
 心の折れてしまった人物に対しての評価としては聞き慣れぬ『中途半端』に首をかしげると、アナイスはそっと資料を手渡してくる。
「元々の性質なのか、技の精彩に欠くほど落ちぶれながら、彼は敗北しうる相手には敗北し、勝てる相手には勝っています。
 すっぱりと折れ砕けるわけでも、撃ちなおして立ち直れるわけでもなく、ただ怠惰に戦っているのです」
 ようは十把ひとからげ、凡庸な位置に落ち着いてしまったというわけか。
「皆さんにお願いしたいのは、彼にどちらか突っ切らせること、です。
 いっそのこと徹底的に叩きのめして完全に折れさせるも、逆に闘志の火種があれば立ち直らせるのも構いません。
 少なくとも今のような恥ずかしい在り方より変わるなら――と。それが母の願い、だそうです」
 告げられた内容は、依頼というには何とも辛辣なものだった。
「ちなみに申し上げますと、私としては今の彼の精神状態は良くないものだと推察しています。
 諦観はあっても諦めきれず不安定な精神状態となれば、とくに反転する可能性が高いと言えます。
 殺す、以外の対処が無くなる前に……救ってあげてください」
 それは、イレギュラーズとしても見過ごせぬ事態だった。
「皆さんには8人でラドバウに出場いただきます。
 一応、8対8のチーム戦ですが、戦闘自体はそう困難なものではないでしょう。
 きっと、彼を説くなり叩き潰すなりする余裕はあるはずです」
そう言って、彼女は締めくくった。

GMコメント

 さてこんばんは、春野紅葉です。
 心情より、戦闘シナリオになります。

●オーダー
『罅いるライオンハート』ノルベルトの気持ちに折り合いを付けさせる。


●フィールド
 背の高い凍てついた針葉樹が不規則に乱立するちょっとした森のような場所です。
 視界がやや悪く、移動にも若干の制限が掛かってしまうでしょう。
 また、低確率でターン開始時に抵抗判定が発生し【凍結】が発生します。

●エネミーデータ
・『罅いるライオンハート』ノルベルト
 ヴィーザル地方、シルヴァンスを出身とする雄獅子の獣種。
 武骨で幅広の片刃の大剣を獲物としています。
 本来の性格としてはライオンらしく誇り高く、勇猛果敢でした。
 お世辞にも天才とは言えませんが、敗北を糧にもできる有望な青年でした。

 ラドバウに出てからも無数の敗北期を経て徐々に勝ち星を疲労しつつありましたが、
 いつの頃からかぽっきり折れてしまった様子。
 折れる前にこっ酷く敗北したとも、華々しく勝利したとも言われています。

 回避力の低さをあまりあるタフネスで補い、
 速攻で突撃して果敢に攻撃するスピード重視のメインアタッカーでした。

 ただし、現在はそんな戦闘スタイルも陰りがあります。
 立ち直らせるのであれば、最終的には本気で戦ってくれることもあるかもしれません。

・チーム『ナイト・オブ・ビースト』×7人
 元々ノルベルトも所属している獣種で構成されたチームです。
 近距離サブアタッカーのひょろりと細い狼のような獣種が2人、近距離タンクの熊の獣種が2人。
 遠距離サブアタッカーのウサギの獣種が2人、近距離メインアタッカーに虎の獣種が1人。

 タイマンであれば皆さんの敵ではありません。
 皆さんの胸を借りるぐらいの気持ちと共に、
 ノルベルトをどうにかしてほしいという気持ちで参加しています。

●依頼人について
 依頼人はノルベルトの母親です。
 死にぞこないにも等しい現状に不快感を示し、
 立ち直るにしろ、諦めるにしろちゃんとしなさいという気持ち。
 闘士を続けるのも田舎に戻ってくるのもどちらでもいいと本気で思っています。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • Broken Lions Hearts完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年09月09日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)
灰雪に舞う翼
エッダ・フロールリジ(p3p006270)
フロイライン・ファウスト
マリア・レイシス(p3p006685)
雷光殲姫
レイリー=シュタイン(p3p007270)
ヴァイス☆ドラッヘ
ラヴ イズ ……(p3p007812)
おやすみなさい
蓮杖 綾姫(p3p008658)
悲嘆の呪いを知りし者
幻夢桜・獅門(p3p009000)
竜驤劍鬼
小狼(p3p009956)
特異運命座標

リプレイ


 歯車式のドローンが空を飛んでいく。
 ほぼ無音で空を飛ぶドローンが映した映像は会場へと映し出されている。
「心が折れるのはある事だとは思うけど、完全に折れ切っていない理由はなんだろうね」
 てなぐさみに指揮杖を遊ばせながら『空歌う翼』アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)は少しばかり考える。
(きっと私に出来ることは少ない。全力でぶつかって語り合うくらいしかないね)
 雷光迸らせる『ラド・バウB級闘士』マリア・レイシス(p3p006685)は静かにゆったりと敵を見渡していく。
 紅の雷はやがて深紅を彩っていく。
「だから……今日はよろしく! お互いベストを尽くそう!」
 敢えて、元気よく、マリアは彼らの方を見た。
「戦うのには理由がいる、と私は思うんだ。それも自分が心から納得できるやつだ」
 換装前の姿で『ヴァイスドラッヘ』レイリー=シュタイン(p3p007270)はぽつりと呟いた。
(それを忘れて戦うと、あぁなってしまうんだろうか。
 彼が戦う理由を思いだしてくれると嬉しいな)
 視線を上げれば、8人の獣種で構成された今回の敵――ナイト・オブ・ビーストが見える。
 その中の一人、明らかに精彩に欠いた男が一人見えた。
「誰かを守りたい……という気持ち、解るわ。その裏にある想いも」
 愛用の拳銃を静かに握る『おやすみなさい』ラヴ イズ ……(p3p007812)はぼんやりと立つ彼を見て。
「誰に請われた訳でもなく、何者かを守りたいと思う人はつまり……
 誰かの役に立ちたい、頼られたいのよね。恥ずかしながら、私も、解るわ」
「今の私には正直な話、戦う理由というものがあまりありません。
 記憶も朧気で寄る辺のない旅人なので……」
 ラヴの言葉に続くように呟いたのは『断ち斬りの』蓮杖 綾姫(p3p008658)だ。
「日々の糧と、興味の赴くままにというのが本当の所」
 朧げな記憶、かつての世界で振るった剣は酷く昏い思い出のように思う。だからこそ――
「戦う理由をお持ちの方はすごいと思いますし、
 それを見失ってしまった方にはもう一度取り戻してほしいと思います」
 静かに抜いた異空剣、二本の刃が螺旋を描くように捻じれた歪な剣に僅かに魔力のような物が宿る。
「誰かのため、自分のため、戦う理由は人それぞれ。まあそこら辺は何でもいい。でもよ、中途半端はいけねぇな」
 破竜刀を担ぐようにして持った『撃劍・素戔嗚』幻夢桜・獅門(p3p009000)は全身から気迫をみなぎらせる。
 烈しき闘気に、僅かに敵チームがたじろいだ様子を見せる。
 その中でも、漫然とした敵を見据えながら、少しばかりの不快感を覚えつつ、『特異運命座標』小狼(p3p009956)が静かに構えを取る。
 そんな頃合いだった。
『両チーム入場が完了しました。試合開始までカウントダウン――10――9――8――』
 1つずつ進む時の針。
『ゼロ――』
 その瞬間、踏み込み双方ともに駆け抜ける。
 最速で走り出すラヴは小さく呼吸する。
「――夜を召しませ」
 瞳に宿す敵チーム。
 彼ら全てと目が合ったかのような雰囲気と共に、嘆くように笑みを零す。
 それは幻影。天蓋覆う夜の空を落とす天地鳴動。
 射程圏内にいた敵チームの視線がラヴを向いた。
「オーダーとは別に。自分個人としては、なあなあに戦って生きるのも悪くはないと思うでありますよ。意外と思われるでありますかね?」
 戦場の中心を突っ切る『フロイライン・ファウスト』エッダ・フロールリジ(p3p006270)はぽつりと漏らす。
 踏み込むと同時に、眼前にいるはひょろりと細い狼のような獣種の片方。
「むろん命と尊厳のやりとりであればそうもいかんでありますが、食っていくタネとしては別に誰に迷惑かけてるわけでもなし。
 お前が乳離れできてない子猫ちゃんってことがバレてしまうくらいでありますよ。ははは」
 冗談とも本気ともとれぬ笑いを残せば、驚いた様子の前の獣種。
「何だよ、笑えよ」
 それは恐ろしく遠い場所からの踏み込み。
 驚き、混乱するその獣種の懐を撃ち込んで、そのまま後退。
 直後に叩き込むは夢想の拳。
 死角より撃ち込む掌底にひょろりと長い狼の獣種がその視線をエッダに向ける。
「ァァァ!!」
 身を屈めるようにして雄叫びをあげた彼に対して、少しばかり間合いを開けた。
 アクセルは迂回するように動いて進んでいく。
 できる限り敵チームの後方、ビームライフルっぽい武器を持ったウサギの獣種へ射線を向ける。
 指揮杖を振るい、魔力を音に合わせて収束させていく。
 放たれた弾丸の如き音の圧は真っすぐに飛び、ウサギの獣種に叩きつけられる。
 苛烈な音の魔力に、ウサギの獣種が悲鳴を上げた。
「うぐぅ……負けない!」
 奮起する兎の獣種を見ながら、アクセルも指揮杖を構えた。
(彼が何かを感じてくれたらいいけど……)
 ちらり、視線の先にはぼんやりと剣を構えているノルベルト。
 深紅の鎧が速度を高めるにつれて蒼く輝きを変えていく。
 吠える雷霆を描き、一番近くにいたクマの獣種へ。
「彼の試合をここに来るまでにいくつか見てきた。こうなる前に何かあったのかい?」
 肉薄する寸前、脚を踏み込み、身を翻して跳び蹴りへ。
 軌跡を描いた蒼い輝きの向こう側、その熊の獣種は両手に嵌めた手甲で防がんと動く。
 守りは固く、けれど連撃は肉体ではなく精神力を削り落とすもの。
「分からない……分からないんだ。突然だった。あいつが個人戦である選手に勝った当たりだった!」
 そう叫びながら、どうしてそうなったか分からない苛立ちをマリアへぶつけるように、熊は拳を叩きつけてきた。
 マリアはそれを抜群のセンスで抜き去り、少しばかりの間合いを開ける。
 小狼の目標は虎の獣種であった。
 ガントレットらしき物を構えるその虎の懐へ闘気を纏い肉薄する。
 掌を虎の鳩尾へ突きたて、身を崩したその刹那、足を払いガントレットを握ってぐるりと身を回す。
 ふらりと身を翻した虎の身体が地面へ叩きつけられる。
 そのまま受け身を取った虎の反撃の拳を受け流した。
「歪なる門よ、繋ぎて閉じよ」
 綾姫は静かに剣を立てて構えた。
 渦を巻いた不可視の力は螺旋描くように捩じれたその刀身を這いずるようにして振り抜かれる。
 それは異次元へと跳躍し、動きを見せたウサギの横腹をへし折るように叩きつける。
「私はヴァイスドラッヘ! さぁ、全力で手合わせを願おう。かかってこい!」
 換装と共に、レイリーは高らかに向上を上げた。
 そこで反応にやや遅れていた敵のチームが動き出す。
 跳ぶように走り出した狼の獣種の片方が先にレイリーへと飛び掛かり、その手の爪を払う。
 レイリーはその勢いの殆どを体捌きで受け流しながら、次に迫る敵を見た。
 手甲を嵌めたクマの獣種。
  守備型というのもあるのだろうが、勢いよく突っ込んできたそいつの手甲はさほどの力はない。
「さぁ、ノルベルト! じゃないと私を倒せないぞ」
 獅門はレイリーへと飛び掛かった狼の獣種の方へ肉薄する。
「守るために剣を握ったんだってな。……それで大事なものが守れんのか?」
 ノルベルトを一瞥して告げると同時、破竜刀を横薙ぎに払う。
 それは竜を穿つばかりの横薙ぎの斬撃となり、狼の細身の身体を横一文字に切り裂いた。
 ラヴは自分に向かって照準を合わせたウサギの獣種をしっかりと視線に捉えた。
 叩きつけるように放たれたレーザーを、ゆるりと躱すようにしてその勢いの殆どを押し殺し、次を見た。
「……なんで、きみ達は、そこまでやれるんです? こんなこと、何も意味がないのに……」
 それらを黙ってみていたノルベルトが何やら呟き、やっと剣を両手で握りグンと速度を上げて向かってくる。
「私は……」
 振り抜かれた斬撃も防御技術で受け流しながら、視線は絶えず前へ。
「皆の笑顔を守るために、強くなる。だから、負けられないの」
 その目には、小さな涙が流れ落ちる。
 それでも顔は笑顔で。
「貴方も、そうなのよね。……守る者の眼をしているわ」
 それはその言葉にか、あるいはその表情にか、相対するノルベルトの眼が見開かれた。
「――だからこそ負けられない。
 受け止めて、私の最大限の敬意を。
 思い出して、獅子心から生まれる誇り高き守護の意志を」
 放たれるバーストストリームが時を越えてノルベルトの身体を穿つ。
 咄嗟の防御より速き高速の銃撃に、小さな唸り声がした。


 戦いは順調に進んでいく。
 1人、1人と死力を尽くしたチームメンバーたちが崩れ落ちていく。
 『そう』は見せないようにしつつも、1対1になれば彼らはイレギュラーズの敵ではない。
 意図的に長期戦を行なってはいたが、それでもパンドラはおろか重傷にもなりうる傷を負うことなく、イレギュラーズは目標のノルベルトへ。
「そも、戦いに崇高さなんてないのであります。
 戦いとは生存の為の手段で、そこに意味を見出すのはあくまで主観によるもの。
 万民の求める真理などなく、戦いの哲学は自己満足であり、戦いによる敬意なんてものはやりすぎを防ぐ為の安全装置にすぎない」
 夢想を描く拳には、これまで倒してきた彼のチームメイトたちの思いを込めて。
 叩きつけた掌底をそのままに、くるりと投げを打つ。
 強くあって欲しい。勝って欲しい。あるいは、魅せて欲しい。
 彼と共にあった人々のその想いだけは、本物だ。
 地面へ叩きつけられた彼が、起き上がるのを、エッダは静かに見下ろした。
「そうだ、だから思い出せ! 君は何故戦うんだ」
 それを選んだ理由を、レイリーは静かに問う。
「君はどうしてここまで来たんだ。あったんだろう大切なものが!
 その言葉を聞いたノルベルトの表情に、少しだけ陰りのようなものを見た。
「故郷を護るために……ですか」
「そうだろう! 家族を故郷を護るためにここにいるんだろ!」
 レイリーからの問いかけは、確かに聞いているように見えた。
 けれど、その言葉の後ろに、何かどす黒い闇のようなものが感じられた。
「ノルベルト君、君は有望な闘士だと聞いていたが最近の試合を見るに調子が悪い、というよりは覇気が感じられないね」
「有望……有望、ですか……そんなの、くだらない。でも……覇気がないのはそうだと思います」
「なら私に聞かせておくれ! なぜラド・バウの闘士になったんだい? 君はなぜ戦っていたんだい?」
 自嘲気味に笑うノルベルトに、マリアは発破をかけるように覇気の籠った言葉を告げ、雷鳴を散らす。
「言葉はいらない! その剣で! 外野の言葉など気にするな! 君は君であればいい!」
 ゆっくりと構えられる剣は、彼を映すように鈍かった。
「異名とか別にいいじゃねぇか。自分で名乗ったわけじゃねぇんだ。他に大事なものがあるなら、その事だけ考えてればいいさ。違うか?」
 刀身を合わせせめぎ合いながら、獅門はノルベルトに向けて声をかけた。
「今のこれは負けてもまたやれるんだろうけどよ、一発限りの勝負だってあるんだぜ?
 故郷が燃え、家族が倒れても……『今日は負ける相手だったから仕方ない』で済むのか? 元通りになって再挑戦出来ると思うか?」
 力を入れる。せめぎ合う刃が獅門に圧されたように押し込まれていく。
「ええ、その通りです。それに、守りたいものを守るのに、力が足りる……などということはありません。
 いつ、どれだけの『何か』がくるかもわからないのですから」
 薙ぎ払うように破竜刀を振るった獅門に続けるように、綾姫は言葉に紡ぐ。
「いえ……それ以前に、このまま貴方が『堕ちて』守りたかったものをその手にかけることもありえるのですよ?
 朧げな記憶の、かつての私がそうであったように」
 煽られたノルベルトの剣を折るように、薙ぎ払った異空剣は守りの隙を縫って傷を加える。
「お母さんやお父さんを守る目的があって、勝っても慢心せず、負けの悔しさも受け止められる。
 ……だったら後は、思うままに戦うのがいいんじゃないかな」
 アクセルは真っすぐにノルベルトを見据える。
 闘士としての重責のようなものを感じているのじゃないかと、そう思っての事だった。
「あはは、はは、思うように、思うままに? はは」
 ノルべルトは顔を片手で覆うようにして、笑みを零す。
「そうだよ! 外からの言葉とか、重い物は色々あるだろうけど自分が楽しく戦えるのが一番だと思うよ!」
 手ごたえを感じて、もう一押しを加えたアクセルは、しかし、彼の様子に違和感を覚えた。
 その笑い声が、ほんの少しばかり、乾いたものにも思えたから。
「――知るか!」
 直後、絶叫するように獅子が吼えた。
 苛立ちを、不満を、嫌悪を剥き出しにした激昂と分かる雄叫びだった。
「僕だって、本当は分かってる。忘れてた気もしてたけど、でも本当は分かってる!」
 肉薄すると共に、苛立ちままに振るったであろう斬撃が初めてイレギュラーズに傷らしい傷を与えたあたりで、荒い息を立ててぎらりと獅子が視線を向けてくる。
「――ああ、本当に、君の言う通りだ……何がライオンハートだ! くだらない!!」
 刀裁きで受け流し、そのまま反撃の太刀を入れた獅門へ視線を向けた後、剣を構えなおしたノルベルトが声を荒げている。
「もういいや、もうどうにでもなれ……ぶちまけちおう。僕は、不正して勝ったことがある。買収さ! 知らなかったけどね!
 それも、ランク戦でもなんでもない……言っちゃ悪いけど、『勝とうが負けようが大して変わらない試合で』だ!
 もちろん、エンタメとかでもなかったよ。僕は本気でやったから」
「なに……?」
 小狼が訝し気に見る。
「ランク戦ならまだ分かるよ……だからこそ理解出来なかった。勝手にやったのさ、僕のスポンサーが!
 ぶちまけたら選手生命がどうなるか分からなかったけど、もう知ったこっちゃない!
 そもそも、不正が合ったのがその試合だけなのかさえ分からない。くだらないじゃないか。
 僕が死に物狂いで戦って何とか勝った試合も、もしかすると、裏で何かあって不正の上で勝たされたかもしれないなんて。
 僕の手で勝てたと信頼できるのが幾つある? あははっ、馬鹿げてる。故郷の人達だって、そんな奴に守られるの馬鹿馬鹿しいだろ――でも、もういいんだ」
 その時初めて、彼の身体から明確な闘志が溢れ出す。
「うん、ぶちまけたら吹っ切れたよ。たしかに、思うままにするってのは心地いいや。
 ……それに、流石に負けるのは分かってる。だから――最後ぐらい、本気でやってやる」
「きみの気持ちは分かった――さあ、全力でやろうか」
 レイリーが大盾を構えると、ノルベルトが小さく笑ったように見えて――刹那、その姿が掻き消える。
 直後、レイリーの眼が大剣を捉え、尋常じゃない重さの剣が殴りつけるように軌跡を描いて大盾を削る。
 反撃の一突きを撃ち込むと同時に身体が煽られた。
「それがお前の本気か――」
 その様子を見ていた獅門は獰猛な笑みを浮かべると、漲る気力を剣身へこめて、思いっきり殴りつけた。
 分厚き刀身より描かれる斬撃は死へ直結させるべき凄絶なる一刀。
 軌跡を語るまでも無き美しき剣閃は、真っすぐにノルベルトの剣身とぶつかり合い、削り、苛烈な傷を生む。
「吹っ切れたならいい。次どの道を行くにしろ、ここと決めた方向へ真っすぐ進むべきじゃねぇか?
 それでも迷ったと思うなら、いったん止まって考えるんだな!」
 少しばかり後退したノルベルトへ告げれば、彼は確かに笑っていた。
「ノルベルト、お前は戦いの先に何を求める?」
 踏み込んだ小狼は眼前の男へ問うた。
 戦いとは手段だ。勝敗に意味はなくその先に何を得られるかが重要で、それは各々で違う。
 それは地位のため、名誉のため、あるいは誰よりも強くなるために。
 吹っ切れたという今の彼は、何を求めるのか。
「それが分からないのであれば、そもそも戦うべきではない。
 そして、それが僅かにでもあるのなら、そうして停滞している場合ではないだろう」
「僕は――僕は――分からない! ああ、そうだ、結局分からない!」
 叫ぶと共に振るわれた剣の圧に後退を余儀なくされながらも、小狼は静かに視線を前に向けた。
「――だから、探してやる――僕が本当に、何を求める者なのか!」
 大きく深呼吸して、ノルベルトが雄叫びと共に再び動き出した。
「であれば、ただひたすらに餓え、求め、道を考えろ。そして走り、戦い、勝ち取れ」
 小さく笑って答え、小狼は拳を構えた。


 どさりと、男があおむけに倒れていくのが見えた。
 試合終了を告げる音がドローンから聞こえてくる。
「全力を出すのは気持ちがいいね。君もそう思うだろう?」
 全ての終わったその先で、マリアはノルベルトの傍へ近づいて問いかけた。
「あぁ……久しぶりに本気でやってみると、たしかに……楽しいかったかな」
 差し伸べた手を重ねて、ゆっくりとノルベルトが立ち上がる。
「それで、彼らに言うことはあるでありますか?」
 エッダはノルベルトに近づいて、チームメイトたちに視線を向けた。
「――うん、そうだね」
「そうでありますか。であれば今更ながら――エッダ・フロールリジであります」
 答えた彼に、改めて――あるいは初めて己の名前を告げた。

成否

成功

MVP

アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)
灰雪に舞う翼

状態異常

レイリー=シュタイン(p3p007270)[重傷]
ヴァイス☆ドラッヘ

あとがき

お疲れさまでした、イレギュラーズ。
ノルベルトが今後どうなるかは分かりません。
ですが、素晴らしいご活躍でした。
MVPは悩みましたが、彼の本音を引きずり出した貴方へ。

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