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シナリオ詳細

Crumbling house

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 鉄帝首都スチールグラードより程近い街アプレフカ。
 かの街は今日も穏やかなる時間が流れており、人々には笑顔が溢れていた――
 しかし。

「わ、わああああ!! 地震だ!! 結構大きいぞ、備えろ――!!」

 時刻は昼を少し過ぎた頃だろうか――突如として街全体を大きな揺れが襲った。
 その地震の規模は大きすぎるという程ではないが、静観できる程小さくもなく。
 戸棚から食器が零れ、割れる音があちこちより。
 激しき揺れが家財を、全てを揺らさんとすれば――すぐさま机の下などに避難するものだ。
 身を寄り添い合い時が過ぎるのを唯々待つ。
 動けばむしろ危険となってしまうのだから。
 このような地震の折には安全と思わしき場所で待つのが最上なのだ――
 やがてその思惑通り揺れは落ち着き始める。
 怪我はないか――家が崩れる気配はないか――?
 無事に乗り切る事が出来た者は恐る恐るながら周囲の様子を伺うものだ。家族や親しい者もまた乗り切った姿を見つけることが出来たのならば、ほっと吐息を一つ零して安堵する者達が次々と……出始めた、その時。
「ぐ、ぐぅおおお……! だ、誰か中にいる子供達をどうか……!」
「ベ、ベルガンさん!!? そんな所で何を――ていうかこれはッ……!」
 街の一角。そこでは軋みを挙げている一つの家があった。
 ――これは、倒壊寸前だ。
 周囲の家は比較的無事な様に見えるのだがしかし、この家だけはもう無理だった。それは手抜き工事でも生じていたのか、それとも老朽化が激しかったのか原因は分からないが……しかしもはや崩れる寸前の状態であるのに間違いはない。
 ギリギリの所で崩れていないのは、家の主たるベルガンが文字通り『支えて』いるからだ。
 全身の膂力を用いて。地震によって折れてしまった大黒柱の代わりとなる様に。
 ――同時。中から聞こえるのは子供の泣き声だ。
 まさか、中に取り残されているのか!?
 待っていろ――! 今助けるとばかりに、近隣の住民が中に駆けつけんとする、が。
「な、これは――ネ、ネズミだ!! なんだこいつら、どこから湧いて出てきやがった!?」
 その行く手を阻む影が一つ――いや二つ三つ、もっといるか!?
 少しばかり大きなネズミ型の魔物が湧いて出てきているのだ。地震の影響で地下から飛び出してきたのかなんなのか、とにかく奥から出てくる魔物達が邪魔で中々に進めない――そうしている内にも倒壊は少しずつ進んでおり。
「ぐぁ……だ、だめだ……若い頃の力があれば、ぐぐぐっ!」
 そして支えているベルガンの力も無限でなければ限界が来るものである。
 ベルガンはかつてラド・バウの闘士でもあった人物……だが、年老いた今となってはもうその折の力はなく。踏み留まる力の持続も――そう長くはもたない。
 ああせめて誰か代わりに支えるに足る力の持ち主がいれば。
 そしてネズミ共を排して進めるだけの力の持ち主がいればと思うが。
 どうにも街の別方向でも倒れてしまった家などがある様で……力自慢の助けがすぐにここに来れる保証はどこにもない。ああもう駄目なのかと思った――その時。

「成程な――なら、任せておきな」

 瞬間。遂に手を放してしまったベルガン……と即座に入れ替わる様に。
 家の支えに入ったのは――
「おお! イレギュラーズ、イレギュラーズだ!!」
「すげぇ!! また倒壊が止まったぞ!!」
 それはイレギュラーズであった。
 偶然か、なんらかの依頼の途中であったか。ともあれ縁によりこの場にあったイレギュラーズは子供を救わんと力の限りを込めるものである――倒壊を完全に止める事は叶わねども、時間を稼ぐぐらいであれば可能そうだ。
 その隙にネズミ達を排除し、子供の救出が果たせればよし。
 全ては――事を迅速に片付ける事が出来るか否か!
「さて……やってみるとしようかね……!」

GMコメント

●依頼達成条件
 家が崩れる前に子供を救出する事!

●フィールド・シチュエーション
 鉄帝首都スチールグラードより程近い『アプレフカ』という街です。
 時刻は昼。この平和な街で突如として地震が発生してしまいました。
 ほとんどの家は無事だったのですが、一部の家は倒壊するなどの被害に見舞われてしまったそうです――しかし辛うじて倒壊寸前で免れている家があり、皆さんには内部に取り残されている子供の救出を担当して頂きます。

 家はギリギリの所で倒壊を免れていますが、何もしなければやがて崩れてしまいます。
 更に開始後10~20ターン内に一度だけ余震が発生し、倒壊の速度が早まります。

 しかし! 倒壊を防ぐ手段として皆さんは『家を支える』行動をとる事が出来ます!

 具体的には家の内部。いくつかこの家を支えている様な柱があるのですが、その中でも倒壊しそうな気配がある……『非常に軋んだ音』を発している柱を『支える』事が出来ます。柱を支える人物はその場から動く事は出来ませんが、主行動や副行動は別途取る事が出来ます。
 支える人物の『フィジカル』と『キャパシティ』が高いと、より倒壊の時間が長引きます。
 ただし家を支えている間は少しずつ『HP』『AP』が減少していきます。
 家の内部には支える事が出来る箇所が最大で『四か所』あるようです。探索していればやがて見つかる事でしょう――支えている箇所が多い程効果も強まりますが、当然人員の手を割いてしまう事になります。

 倒壊を長引かせつつ、子供を救出してください!
 なおこの家は豪邸という程ではないですがそこそこ広いです。

●敵戦力×??匹
 少し大きめなネズミ型の魔物達が大量に湧いて出ています。
 彼らは突如の地震に困惑し、恐らく下水道などの地下から這いずり出てきた存在の様です――鋭い牙などを持ち、その牙には『不吉』や『致命』などのBSを付与する力があります。
 しかし彼らは激しい混乱状態にあり、常時『混乱BS』が付与されている状態です。
 統制の取れた様な行動をすることは無いでしょう。

●救出対象
 ベルガンさんの家族の子供です。どうも、家の中央の広間の方で倒れてきた家屋に足を挟まれている様で身動きが取れない状態となっています。泣き声が常に聞こえるのでおおまかな位置は常に把握できるでしょう。

●ベルガン
 元々若いころはラド・バウの闘士だったらしい人物です。
 しかし年老いてからは引退し、当時の力はないのだとか……孫の危機に家の倒壊を防ぐべく全力を尽くしていましたが、疲労が勝ってしまった様です。彼に代わり子供を救出してあげてください!

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • Crumbling house完了
  • GM名茶零四
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年08月31日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
久住・舞花(p3p005056)
氷月玲瓏
エッダ・フロールリジ(p3p006270)
フロイライン・ファウスト
カナメ(p3p007960)
毒亜竜脅し
眞田(p3p008414)
輝く赤き星
白夜 希(p3p009099)
死生の魔女
リコリス・ウォルハント・ローア(p3p009236)
花でいっぱいの
ブライアン・ブレイズ(p3p009563)
鬼火憑き

リプレイ


 建物全体が軋んでいる――
 もう一度大きな地震が発生すればその時点でこの家は終わりだろう……だから。
「いやいやいや『だから』って潰れかけの家を物理的に支えるなんざ狂気の沙汰だぜ! マジ信じられねぇ! んな事出来るかよ――ハッハー! だからこそ気に入ったぜ!!」
 『だから』家を支えるなんていう発想はこんな脳ミソ筋肉国家ぐらいしか思いつかないだろうと『鬼火憑き』ブライアン・ブレイズ(p3p009563)は思うものだ! だが良いぞ。だからこそ面白い! たった一つしかない生命をチップに一勝負する理由には十分だ!
「下がってなァ! オーディエンスども! こっからは時間との勝負でもあるってなぁ!」
「あとはボク達に任せて! ベルガンさん! ボク達が――必ずなんとかするから!」
「おお、お嬢ちゃん達は……まさか!」
 故に突っ込む。イレギュラーズである己らが、と!
 『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)は家の主たるベルガンへと短く声を掛け――ブライアンと共に突入するものだ。時間はない、故に先んじて飛ばしておいた神の使いたる猫を家の中へ。
 同時に生じさせるのは保護なる結界だ――
 意図した攻撃などは防げねども、これで少しでも家に傷が入る可能性を減少させることが出来る。勿論、だからといって倒壊は迫っている故に安心はできないが……!
「未来ある子供の命は何より重いであります――疾く参りましょう」
 続けて『フロイライン・ファウスト』エッダ・フロールリジ(p3p006270)も内部へ突入。目指すは倒壊の酷い方へ――だ。子供の救出の為にも、必要なのはこの家を支えるべき行動。
 時間を稼ぎ命を繋ぐ……その為に。
「いやーさっきの地震凄かったね~どこも大変な事になってないと良いけどってそんなワケないよねー! 子供が中にいるってホントに!? ――急いでいこうか!!」
「火事になってないだけマシだけど、さすがに倒れたら私達でも死ねるね。急ご」
 任せといてねおじさん! と『二律背反』カナメ(p3p007960)と『スズランの誓い』白夜 希(p3p009099)も同様に、家の中に素早く入り込むものだ。
 カナメの目的もエッダと同様に柱の支えを行う事。希はそれらの動きを支援するつもりである――子供を真っ先に救出できればそれに越したことはないが、しかし。
「う~ん……あっちこちから凄く嫌な音が響いてるしね……
 子供の所最優先、ていう訳にもいかないかぁ!」
 優れし耳を持つ『Re'drum'er』眞田(p3p008414)には倒壊の音が切実に伝わっていた。
 ――恐らく何もしなければ崩れる方が早いのではなかろうか。彼の耳には奥でなく子供の声も聞こえてきていて……早くに見つけてあげたい気持ちも湧き上がるものだ、が。
「かといって焦りは禁物です――鼠のような魔物、もいるとなれば。
 ……しかし地下にこんなものが潜んでいたなど……いえ、まあ今はいいとして」
 飛び出してきた鼠を一刀に切り伏せる『月花銀閃』久住・舞花(p3p005056)の言う通り――焦る訳にはいかない。焦ればこういった存在に強襲されて、此方が追い詰められるという可能性もゼロではないのだ。
 故に注意と探索、場合によっては戦闘をも同時に平行せねばならない。
「ううん、どれだけいるんだろう……邪魔しないで欲しいなぁ!」
「ま、ちっとずつでもやっていくしかねぇかね……!」
 そう思っていれば直後、混乱のままに襲い掛かってくる鼠が一匹。
 焔が弾き飛ばし、次いでブライアンが撃を叩き込むものだが――なんだかあちらこちらで同じような鼠が徘徊している音が聞こえる。一回程度ならともかく二回三回四回と続けざまに邪魔をされれば時間が無駄に掛かってしまおう。
 それを避けるためにも的確なるルートだけでも把握しておきたい所だ、が。
「ふふ~ん、という訳でお任せ! ボクのひみつ道具! 蜂のように舞い蜂のように刺す、念波式ドローンこと”自我蜂”〜! 今日のボクは狼じゃなくて警察犬だよ! くんくん。うわ鼠の匂いばっかりする」
 じゅるり、と。『魔種の回し者』リコリス・ウォルハント・ローア(p3p009236)よ、その涎を拭きとった様な音はなんですか? えへへじゃないんですよ?
 ともあれリコリスの鋭敏なる感覚は数多の状況に適していたと言えるだろう。
 彼女の嗅覚は周囲を探知し、優れし目は欠片程の手がかりも逃さぬ。
 そして耳は何より重要たる子供の位置と、危なげな柱を探知して――
「あ、あったよ! この柱危ない危ない!!」
「よーし! じゃあこれは任せておいて! 皆は奥の方へ先にッ――!」
 さすれば、素早くリコリスの声に反応した焔が支えに入るものだ。
 まずは己がと。足に力を、腰を踏み留まり、腕には全ての力を込めて。

「命があるんだ……絶対諦めないからね!」

 救出の未来の為に――焔の全霊が其処に注がれた。


「あれー? なんだろう、何か弱っちいのがうろちょろしてるー?
 あ、なんだネズミかぁ、カナてっきりただのきったないゴミかと思っちゃったよ♪」
「ヂュウウウッ!!」
 ごめんねー急いでるんだ♪ とカナメは広間に集まっていた鼠共の注意を引く様に。
 奴らは常に混乱している――とはいえ、多く存在する鼠達が通行上の邪魔となるのは否めない。故に、一人が引き付けその間に他の者が前へと進むのだ――子供の声もそれなりに近くなってきているのであれ、ば。
「お邪魔虫共には退場してもらおうかね――
 おっと虫じゃなくて鼠だったが、どっちでもいいよなぁオォイ!」
 カナメが引き付けた鼠共は――ブライアンが一掃しよう。
 彼の放つ銃撃がカナメを避けて敵だけを穿つ。鋼の驟雨は敵を決して逃がさない――ハイテンションのままに進む彼の歩みは決して止まらず。
「ふむ――声の主は、此方の方ですね急ぎましょう」
「おっと、待つであります。まずはここの支えに入ってから」
 そして家屋内の捜索に尽力する舞花は助けを求める声を機敏に察知し、素早く進行ルートを模索する――ダンジョンなどではなくあくまでも普通の家の構造であれば、人を迷わす様な造りにはなっていまい。故に捜索に注力すれば彼女の眼には声が聞こえる部屋へのルートが直感的に理解できるものだ。
 こちらに進めば近いだろうと。さすれば、その途上で発見した崩れそうな柱をエッダが見つけて。
「ふッ――と。なかなか、耐えるだけというのは、厳しいものでありますね……!」
 支える。全身の膂力をもってして、エッダが踏み留まるのだ。
 メイドの中のメイドたる信念と共に、加護をもってしてこの柱を崩させはしない――筋力はあまりない己ではあるが、しかし小さい力でしっかりと立つ為の技術と精神力には自信があるのだ。
 ……まぁ邪魔してきそうな気配を醸し出している鼠共が厄介ではあるが!
「う〜わ、思ったよりでかくて気持ち悪ぃ。こんなのが家に居たらと思うと泣けてくるな。
 無事に済んでもまず清掃業者に頼んだ方がいいんじゃないかな――これ」
 で、あればと鼠を押しのけるのが――眞田だ。
 多重に生じる程の残影。速度をもってして鼠を粉砕し、場を確保。生き残った鼠は……積極的に向かってこないのならばどうでもいい。ノロくなった奴は放置だ――鬼ごっこの醍醐味は撒く事にあり、鬼を倒す事ではなく。
「おいおいおいおいどんだけ湧いて出てくるんだよ、ホント勘弁してくれよ」
「ネズミは害獣だから片付けてもいいんだけど……キリがないし時間もない。
 混乱が止んだら勝手に出て行ってくれないかな――?」
 しかし眞田が一匹追い払えば……何故かその奥から二体三体とまだまだ湧いて出てくる。お前ら本当にどこにいたのだ! 故に希はいっそのこと彼らの混乱を癒せぬかと思考する――そもそも彼らがイレギュラーズの邪魔になっているのは、彼らが地震による影響からだ。
 ならばその混乱を取り払ってしまえばどうかと、物は試しに肉体と精神を蝕んでいる魔を喰らい殺す唄を奏でれ、ば。
「ヂュ……ヂュヂュ!!?」
「おお――逃げる個体もいるね。向かってくる個体もいるみたいだけど」
 半々ぐらいだろうか。『家がヤバイ』という事を理解して逃げる個体と『人間がいる』という事を理解して魔物の本能からかこっちに向かってくる個体――それぞれがいる。面倒だと思いもするが、戦力が半分程度減るのならやる価値もあるだろうかと思考して。
「あっ、ここも支えられそうだね! いいよ、任せて! カナは一人で大丈夫だから! というか一人で支えたい! 休む暇もない重労働……この疲れで体が追い込まれていく感じ、いい……うぇへへ……♥ ああ、もっとぉ……♥」
 直後。更に一つの柱を見つけたカナメが――積極的に支えへと入った。
 彼女の身に超重圧がのしかかり……しかしなぜか表情は恍惚気味だ。今の彼女にとってこの程度の苦行はさほどの苦しみではないと――いやなんか趣味入ってる? カナメさん? カナメさん!!?
 まぁだが己が体を修復させる術もあらばそうそう容易く崩れる事は実際あるまい。
 ここは彼女に任せた上で――先へと進めば――
「くんくん! 近い、近いよ! きっとこの先だ!!」
 そして――リコリスが遂に子供の気配を捉えた。
 警察犬モードであるリコリス。耳は常にぴんと立てて余震が無いか、鼠が近づいてきていないかを警戒し。そして部屋に――突入する。
「うう……お父さん、お母さん……じいちゃん……」
「――いたぜ! よーしよし。大丈夫か? もう安心だからな!
 ベルガンさんの所に帰ろうな!! 一回持ち上げるぞ、せーのっ!」
 辿り着いた広間――その隅で、家具に挟まれている子供を発見。
 さすれば眞田が落ち着かせるべく声を掛けながら舞花と共に家具を持ち上げるものだ――もう一度踏みつぶされたりせぬ様に横へとどけて。直後に舞花がすぐさま救出。周囲に鼠がいないのは、幸いだったか……!
「もう少し我慢してね。すぐに外に行くから」
「――あっ! あぶない!」
 だが。舞花が子供をあやすように頭を撫でた、その瞬間。
 近くの柱が崩落せんとばかりに一気に崩れを見せた――
 そこへほぼ反射的に支えに入ったのは、リコリスだ。おおお、踏み留まらなければならない。後は脱出するだけだが、脱出の最中に崩れては結局意味がないのだから――! あと一歩、踏み留まらなければ!
「ぬおおおおお! 今日の! ボクは! 火事場の!! 馬鹿犬!!!
 今日だけ!! 馬鹿犬!! いつもは!! 違う!! 違うよ!!!」
 ホントですかリコリスよ。ともあれ正解である。
「さぁ先に行って! ボクは大丈夫だから!!」
「すまねぇ――子供はすぐ脱出させるからな!! さぁどきなネズ公共ぉ!」
 ならばと、リコリスに言葉を述べつつブライアンが血路を切り開く。
 部屋の外にまた鼠共がいたのだ――柱を支えている者達がこれほど尽力しているのであれば、己が闘志を向けるのはコイツらだとばかりに。怒りぶつけ排除し、子供を確実に助けるとしよう!
 子供はイレギュラーズの手の内に。
 では行きはよいよい、帰りは――ッ?


「あああ、家が! 家がもう大分限界だぞ!」
「中はどうなってるんだ――!?」
 外では迂闊に中に入れない者達がざわめきたてる。
 家の揺れはすさまじく、もういつ潰れてもおかしくはない――が。

「まだだよ……絶対に、負けたりなんかするもんかッ!!」

 保護結界を維持しながら柱の支えも行う焔は死力を尽くしていた。
 支えていれば鼠共が足に噛み付いてきたりもするものだが、その程度で崩れる彼女ではない。己が体を急速に修復する技を齎しつつ、隙あらば鼠を天へと蹴り上げ排除する。
 使役していた動物とのリンクは――残念ながら切れているか。
 飛ばず、小さなタイプの猫は鼠にとって攻撃しやすい相手であったのかもしれない。あるいは混乱の最中に偶々攻撃されたのかもしれないが……しかし、信じているものだ。
「皆は……絶対、救出してくれるから……!」
 だから己も最後まで踏み留まろう。
 特に最初に支えに入ったこの地点は出口にも近いという事――己が崩れる訳にはいかないのだ。己が崩れれば、皆の帰り道もなくなってしまうかもしれないから。
「ぬぅぅぅ……こ、こいつは……中々……しんどいでありますね……!!」
 同時。腕がぷるぷるとし、足ががくがくとする――
 エッダの力は限界に達しようとしていた。なにせ流石に家を支えるなど、人の行う事ではない……これはきっと明日壮絶な筋肉痛になるのであろうなと思考しながら。
「――まぁ、それでも後悔はないでありますね」
 振り返ってみて、自分の人生というのは『誰かの為』と言いながら。
 その全ては――『自分の為』だった。
 こうして弱いものの代わりに己が傷ついてみせるのもきっとそう。だって、そうすれば。
 己は誰か弱いものを守れるくらい強いのだと証明したいかのような……
「……ふ。笑えるでありますね。計算ずくの矜持など、はたして矜持でありましょうか?」
 だが、それでも。

「矜持である限り、自分は騎士(メイド)だ……っ!」

 良いとか悪いとかそういう次元の話ではないのだ。
 ――己は己。騎士(メイド)は騎士(メイド)。
 その信念と矜持だけは――例え何を鑑みようとも変わる事はない! ていうかこんななんか死間際のモノローグっぽい雰囲気醸し出してるが勘違いするなよ生き残る気満々だ!! んな所で死ねるかァ――!
「おらああああ鉄帝なめんなよ!! ていうか、ちょっとまてグリーヴを齧るなクソネズミがぁ! ソレはテメェらの晩御飯でもなんでねーんでありますよ!! オイ! 聞いてるでありますか、お前子どもが逃げたら覚えてるでありますよ!!」
 必死に蹴りを繰り出して追い払わんとするが、鼠共しつこい!!
 ――しかし支えるのも別にいつまでも、という訳ではない。実際――
「わー! さー逃げろ逃げろー! 支える力はどんどん少なくなるからね!
 後は崩れるのが早いか逃げ切るのが早いかだよ!」
「くっそ――マジこの鼠まだ出てくるとかなんなんだよマジで!!」
「斬り捨てます。お子さんが傷つかないように、守護を!」
 支えていた一人であるカナメは子供を背負う眞田や舞花らと合流し、支えではなく脱出の段階に移っていた。鼠が壁へと叩きつけられる音が響いたが、それは舞花の遠当ての斬撃故か。それともブライアンの一撃か。
「チィ――月並みな感想だが、一刻を争うってヤツだな!
 …………ていうか思ったんだけどよ、帰り道は多少『強引』でもいいんじゃねぇか?」
「強引――成程」
 言うはブライアンと希だ。
 ブライアンは鼠を排除し、味方に治癒を齎していた希ではある、が。

「ああ。どうせ潰れちまう家なら、壁をぶっ壊しても問題ねぇよなぁ!!」

 直後に行ったブライアンの行動は――『壁』に狙いを定めた一撃。
 それはあまりの暴力性から『対城技』と称される鉄帝国の武技だ――その一撃は壁を穿ち、穴を作り。城を崩さんばかりの勢いをもってしてぶち抜いていく。『行き』で使わなかったのは家が即座に潰れては困るから、だが。
「なんなら天井に向けて打っても良いわけだしな――生き残れば勝ちだろ!」
「確かに、一理あるね」
 であればと希も邪魔に歪んだ扉や壁、崩れた柱があれば白き光を放つ杖で一閃するものだ。下手にすれば倒壊が早まるだけだが、しかし子供の救出も果たせた以上、最優先は脱出のみ。なんなら窓を壊したっていいのだから!
「わわわ! 皆ー! そろそろ限界だよ!! 脱出できる~!?」
「おおおおぉぉぉ! 行くぜッ――!」
 そして焔の支えも限界を悟り。仲間に届く様に大声を零せ――ば。
 子供を背負う眞田が最後の跳躍を試みるものだ。
 帰るまでが遠足。疲れを見せるのは全て終わった後だと――死力を尽くして!

「く、崩れるぞ――!」

 直後。最早止まらぬ勢いが全てを包み込んだ。
 内部に残っていた鼠共は全て潰れて――そしてイレギュラーズ達は――


「……ふぅ。流石に肝が冷えるというものですね、時間の制限があると」
 暫くして。完全に潰れた家を前に、舞花は短く吐息を零していた。
 ――家の形などもうどこにもないが、今先程まで自分達は『そこ』にいたのだ。
 あと少し突入が遅いか、或いは脱出が遅ければどうなっていた事か……しかし。
「じーちゃん! じーちゃーん!!」
「おお、生きておったか! 良かった、良かった!!」
 ベンガルの孫は無事に――救出を果たせたので良しとするか。
 非常に心身共に疲れたものだ。急がねばならぬという思いが心を。
 そして柱を、家を支えるという行為が肉体を疲れさせて。
「いやーでも中々気持ちよかったね! 子供がいたりしなければまたあっても……
 あっ! それより撤去作業とかあるんじゃないかな? 手伝うよ!」
「ま、これで一件落着……って所かねぇ」
 しかしなぜか負傷気味ではあるが、お肌艶々で元気なカナメ。撤去作業の手伝いに走っていく様はなんというか凄いなぁ……眞田は一端体を休めてから再び動き出すとしよう――ちなみにエッダはさっきからぶっ倒れて動かない。筋肉痛早い!
「ぷへっ。死ぬかと思った」
 ――と、その時。
 かなり長い間奥の方の柱を支えていたリコリスが瓦礫の下から這いずり出てきた。無事だったのか! …………って、あれ? リコリスよ、口の端から生えているその尻尾は一体?
「おっと。ふへ。いや柱にしがみついてたら鼠が近寄ってきたからちょっと」
 え、体力を(永遠に)拝借しただけ……? リコリスよ、それは世の見解だと所謂捕食――あっ! ちゅるんと飲み込んだ! まぁでもそのおかげでリコリスの体力に余裕が出来ていたなら良しとすべきだろうか。
「災害って怖いねぇ……うん、でも――皆無事で、本当によかったよ!」
 ともあれ負傷者はいても死者は無し。
 本当に良い結末に収まったものだと焔は思考しながら――笑顔を見せるのであった。

成否

成功

MVP

リコリス・ウォルハント・ローア(p3p009236)
花でいっぱいの

状態異常

リコリス・ウォルハント・ローア(p3p009236)[重傷]
花でいっぱいの

あとがき

 依頼お疲れさまでしたイレギュラーズ!

 時間制限がある中での捜索・救出・戦闘……
 しかし皆さんそれぞれ多くの技能を生かされ、また柱を支える分担も素晴らしかったかと思われます。
 MVPはその中でも捜索に柱支えにと活躍された貴方に。

 ありがとうございました!

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