PandoraPartyProject

シナリオ詳細

故人に捧ぐベルスーズ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●殺人鬼バルフォア
 少年は日々を謳歌することを諦めて居た。聖職者の父が貴族の娘との間に子をもうけた。それが少年であった。
 勿論、その娘には家の決めた婚約者が居た事だろう。家に逆らい命がけの恋――聞こえは良いが、聖職者と娘は多くを喪った。
 それでもいいと幸福に浸った『二人よがり』の恋の終止符は直ぐに訪れる。
 女は子を産み落とした際に命を落とした。母と瓜二つのかんばせを持って生まれた子を聖職者の父は受入れることが出来なかったという。
 愛しい女のかんばせを持って生まれた、愛しい女の命を奪った子供。
 聖職者は少年をふかふかとしたタオルケットで包み目を逸らした。
 ――そうして、子は幸福な毎日から外れ、人を害し生き延びる道だけを邁進する事となる。

 大勢だった。幾人もの女を、男を、幼児を。幼い頃から殺め続けた。
 人々が死する際に己を映す眸が、愛おしかった。快楽に溺れるように、少年は何度も何度も命を奪い続けた。
 少年は成長するにつれて、恋を知った。愛を知った。そして、己が誰かの愛した者達の命を奪い続けるだけだと知った。
 酷く狼狽しながら夜のとばりの縁で男は懺悔した。
 母に愛されることなく、父に愛されることなく、他者を害した自分は生きていても良いのだろうかと。
 初老の聖職者は懺悔に訪れた少年へと言った。

 ――バルフォアよ。欲を捨てなさい。殺めた命は戻りません。ですが、育む事でその罪を注ぐことは出来る。
 お前が愛を求めてその罪へと沈んだというならば。お前は親の愛も知らぬ子等に愛を注いでやるのです。

●introduction
「……お願いしたいことが、あるのです」
 イレギュラーズ達へ向き在って『聖女の殻』エルピス (p3n000080)は渋い表情を見せた。
 天義の外れにひっそりと孤児院を営む男が一人。その名をバルフォアと言うらしい。彼は先の大災で親を喪った子供達の父代わりとしておだやかな日々を過ごしているそうだ。
「実は、その方への暗殺依頼が出ました」
 辿々しく、言葉を選びながらエルピスはそう言った。「暗殺」と唇に言葉を灯したコルネリア=フライフォーゲル (p3p009315)は「物騒なのだわ」と仲間達を一瞥する。
「その人は『普通の孤児院を営む男性』? それとも――ワケありかしら」
 ゼファー (p3p007625)の問い掛けにエルピスは頷く。ワケありと問われた理由が分からぬほどにこの場へと揃ったイレギュラーズは初心ではない。
「……バルフォアさんは、現在のみを見れば善人です。
 先の大災……冠位魔種『強欲』との戦いで荒れた天義で親を喪った子や逸れてしまった幼児を保護し、愛を注いで、いますから」
「そうですね。ええ、其れだけ聞けば素晴らしい善人です。
 けれど、『現在のみ』と仰るからには旦那様の『材料』候補様にはどうやら薄暗い過去が或るご様子」
 澄恋 (p3p009412)の凜とした声音はぞわりと這う様に真実へと進む。エルピスはどこから話すべきかと唇を僅かに緩めて息を吐いた。
「……『元』殺人鬼、です。
 彼はとある貴族令嬢と聖職者の間に生まれ落ちた不義の息子です。報われぬ恋を望むために産まれた彼を命がけで産み、令嬢は……お母様はこの世を去られました。そして、母とそっくりな顔をした息子に父は、堪えきれなくなったのでしょう」
「勝手だね」
 静かな声音でシキ・ナイトアッシュ (p3p000229)はそう言った。「勝手ね」とゼファーが続く。
「実に身勝手だわ。それで? 愛した女とそっくりな顔をした忘れ形見を手放して――『息子殺人鬼になりました』って?」
「はい。彼は、成長してから人を殺めた己に恐怖し、懺悔しました。その際に『聖職者』は言ったそうです」

 ――バルフォアよ。欲を捨てなさい。殺めた命は戻りません。ですが、育む事でその罪を注ぐことは出来る。
 お前が愛を求めてその罪へと沈んだというならば。お前は親の愛も知らぬ子等に愛を注いでやるのです。

「……その贖罪で、孤児院を設立し、バルフォアは老いて行きました。
 きっと、神の迎えも後少しでしょう。それでも、彼が殺めた幼児の復讐を行いたいという人はおりました」
「それが今回の依頼人ですか? ええ、復讐心というのは当たり前に存在するしておりますでしょう。
 それを否定することなど誰も出来ません。その人を殺せば良いと――そういうことですか?」
 澄恋にエルピスは頷いた。唯の殺人鬼『だった』男を倒すだけならば。
 容易な依頼であろうか。それ位の悪事(しごと)はイレギュラーズも慣れきったものだった。
 エルピスは「向かって下さい。きっと、気付くはずです」とそう言った。

 ――夏の日差しの差し込んだ涼やかな木立の合間に、その孤児院は見えた。古びた洋館だろうか。
 人目を避けるようにひっそりと佇んで居たその場所で待っていたのは断罪を待っている老人ではなく。
「せんせい!」
「せんせえ、今日は何して遊ぶ?」
 彼を愛し、慕う幼い子供達であった。彼等から『父親』を奪う事になるのか――

GMコメント

 日下部あやめと申します。どうぞ、宜しくお願い致します。

●達成条件『元』殺人鬼バルフォアへの死亡
 その『死亡』の意味はお任せいたします。天義で彼が死ねばいいのです。
 意味によっては困難を極めるでしょう。 

●注意事項
 この依頼は『悪属性依頼』です。
 成功した場合、『天義』における名声がマイナスされます。
 又、失敗した場合の名声値の減少は0となります。

●『元』殺人鬼バルフォア
 聖職者の父と貴族令嬢の母を持つ老人です。
 幼い頃に捨てられ、最初は生き延びるために、そして快楽を感じたことで人を殺め続けた過去があります。
 悍ましい自身の行いを後悔し、恐怖し、改心と贖罪のために孤児院を設立して日々を過ごしていました。
 現在は善人です。孤児院で幼児を慈しみ愛して育てています。
 バルフォアは幼児のために生き残りたいと願っています。彼等にとって自身がどれ程に大切な存在あるのかを身に染みて知っているからです。
 その戦闘能力は不明ですが、若い頃の殺人の経歴から其れなりに体は動かせそうです。

●メルティエア孤児院の子供達 20名
 罪もない子供達です。バルフォアを愛し、慕って日々を過ごしています。
 子供達はバルフォアの罪を知りません。ですが、その顔を知ったところで彼等にとっては大切な『お父さん』である事には変わりないでしょう。

●メルティエア孤児院
 バルフォアが改心後に開いた孤児院です。彼を慕って日々を過ごしている子供達とのおだやかな日々を過ごしています。
 人目を避けるような木立の中に存在して居ます。自然と共に日々を過ごし幸福そうに過ごしているようです。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

 どうぞ、よろしくおねがいします。

  • 故人に捧ぐベルスーズ完了
  • GM名日下部あやめ
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年09月08日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費150RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)
優しき咆哮
※参加確定済み※
志屍 瑠璃(p3p000416)
遺言代行業
極楽院 ことほぎ(p3p002087)
悪しき魔女
ニコラス・コルゥ・ハイド(p3p007576)
名無しの
ゼファー(p3p007625)
祝福の風
※参加確定済み※
コルネリア=フライフォーゲル(p3p009315)
慈悪の天秤
※参加確定済み※
ネリウム・オレアンダー(p3p009336)
硝子の檻を砕いて
耀 澄恋(p3p009412)
六道の底からあなたを想う
※参加確定済み※

リプレイ


 過去は決して切り離せない。心の臓が動きを止めようとも、付き纏う恩讐を振り払うことなど出来ない。
 それを、彼女たちは知っていた。神は無慈悲にも罪を戒告せれど、雪ぐ事を良しとはしない。悔いが善行へと変化を遂げようとも。
 生きてきたその道を振り返ることが叶う限り、失せることのなき罪と言う名の烙印。それは、誰が為の『慈悪の天秤』コルネリア=フライフォーゲル(p3p009315)は知らなかった。
「了解」
 端的に、オーダーをチェックしてから答えたコルネリアの眸には常の通りの色が宿されていた。仕事に関してとやかく口にすることもない。ターゲットの周囲の子供達には手出しをしないことを決定した。故に、子供達に知られぬように殺害する手立てを『龍柱朋友』シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)は勘案したのだろう。そのサファイアの眸は惑いを滲ませる。『ひとごろし』のその身でも、慈愛を注ぐ幼き子供達の『両親』を奪う事になる悪逆は――成程、少女のその身には重すぎるモノでもある。
「まあ、私は生きていても構わないかと思いましたが、これも依頼ですので」
 仕方ないですね、と。『遺言代行業』志屍 瑠璃(p3p000416)は端的に言った。生き残る道を示す事は出来よう。名を変え、国を棄て、そうして書類上、事実上、彼を亡き者にする事だって出来よう。だが、彼とて人の命を奪い続けてきた。因果は廻る。それを『名無しの』ニコラス・コルゥ・ハイド(p3p007576)はよく知っているのだと告げた。
「ああ。だが、何が起きようと。何があろうと依頼は依頼だ。依頼を受けると決めたのも、殺すと決めたのも俺たちだ。
 その結果、恨まれようがどうなろうと、忘れた頃に刺されることになったとしても受け入れねぇとな。それが人を殺すってことだろ」
 人を殺す。その言葉にシキは目を細めた。生業で人を殺す事と悦楽で殺す事の意味が違うことは知っている。同じ、人殺しでも心証に大きく違いは出るのだろうが――それは『する側』の話でしかない。行為者が償えども、改心しようとも。それを『為された側』がどう思うのか。
「償いがあろうがなかろうが、それが赦されるかは別の話。……過去ってのは捨て切れねぇ。難儀なことによ」
 ニコラスが吐き捨てたその言葉に『薔薇の名前』ゼファー(p3p007625)は肩を竦めた。美しい女の銀の髪はなだらかに揺れる。薄い唇は「本当に」と囁きを乗せて。
「難儀なものね。過去って奴は振り払えずに追いかけてくるんだもの――身につまされる思いだわ?」
 この行いが善行な訳がない。『元殺人鬼』を殺す事が誰かの命を一つ奪ったことに違いないと知っている。『太陽の翼』澄恋(p3p009412)は死と言う言葉には無数の解釈があるのだろうと仲間達を振り返った。
「確認致しましょう」
「喜んで」
 常通りの笑みは楽しげであった。切なげな色さえ乗せることなく『悪しき魔女』極楽院 ことほぎ(p3p002087)は澄恋を促して。
「元殺人鬼は殺します。死の解釈に揺らぎはあれど、依頼人の意図は魂を地獄に墜とすことと推測します。
 その息の根を止めます。心拍を零にします。ヒトを塊に、土に還します。
 孤児は生かします。殺す理由がありません。子の殺害は依頼されていません。無益な殺生は何も生みません。子には罪が、ありません」
 オーライとことほぎは手をひらりと振って。澄恋の言葉に頷いて『硝子の檻を砕いて』ネリウム・オレアンダー(p3p009336)は「了解」と頷いた。

 ――子らは、彼を愛していました。

「……愛ね。僕にはよくわからないけれど、結局、孤児院作って子供育ててるだけじゃ罪を雪ぐことはできなかったってわけだ。
 でもま、いいんじゃない? 散々悩んで苦しんだんだったら、そろそろ死んで幸福になったって。幸福の権利は誰にでも与えられるものだよ」
 彼の贖罪の最後に。ネリウムが与える死は幸福であるのだと。深いアメジストに乗せられた意味が何であるかを誰も知らない。
 しあわせ、と唇に音乗せて首を傾いで。
「うふふ、びっくりするくらい誰も幸せにならない依頼ですね
 更に依頼関係者の行動が合理的で責任追及が困難と、唯一合理から外れ原因ともいえるのは……愛ですかね」
「やっぱり、愛か。よく分からないね」
「ええ。愛。愛というモノについて考察するのは容易です。ですが、不合理で有ることばかり。
 繁殖に恋愛は不要なのにどうしてヒトはヒトを愛するのでしょう? バルフォア様のご両親は何故禁忌と知りながら愛しあったのでしょう?
 うーん、わかりませんねえ。愛が定数化できたら我が旦那様錬成研究も捗るのですが……今は任務に集中ですね」
 人を愛して、禁忌を犯して。それでも、衝動に身を任せるほどに己が心を砕くのならば。
 ――目に見えないからこそ、それを愛と呼ぶのかも知れない。


 幸も不幸も其処には必要は無いのだと。瑠璃はメルティエア孤児院をその両眼へと映した。傍らではことほぎが依頼書を眺めてから舌をぺろりと覗かせた。
「何ナニ復讐? イイじゃん飯のタネになんだからどんどんやろーぜ! 悔い改めよーが遺族にゃ関係ねーし。標的のじーさんも覚悟はしてんだろ」
「そうでしょうね。『これが贖罪』になるわけがないと、本人とて知っているでしょう」
 瑠璃にことほぎは頷いた。ことほぎの中では子の命を奪わぬと言う選別は面倒でしか無かった。子供達をまとめて『送ってあげる』のが情けだろうとさえ思えていたからだ。それでも、数は多い。恨まれるのには慣れているならば面倒は少ない方が良いだろうか。
「ガキ共をどうするかは任せるぜ」
「ガキ共が邪魔ねぇ。まあ、そうね。忍び込んでその場で殺せば楽だけれど、ガキが一緒となるなら面倒だわ。ガキの目から話すように引っ張れないかしらね」
 コルネリアは楽しげな声が響くメルティエア孤児院を眺めてそう言った。「お父さん」と呼ぶ声は健気である。子供は殺さぬと言う選択肢を掲げながらネリウムは手紙を準備していた。子供達へ宛てたそれには真実を記しておいたのだ。
「お父さん、ね」
 ゼファーは小さな声音で呟いた。子供達の父親を今から殺すのだ。少し良いかしら、とゼファーは仲間達へと問うた。孤児院へと踏み込み、子供達と相対しておくのだ。コルネリアが持ち込んだ練達製のバイクの調子が悪い事を理由にし、ゼファーは屋敷の中から不思議そうな顔をしてコルネリアのバイクの元へと駆けていく子供達を眺めた。
「おとうさん、これって練達の?」
「ああ、そうだね。素晴らしい。旅の人にお礼をなさい。中々見られるものではないよ」
 優しい声音だった。安心しきった子供達の笑顔を眺めてゼファーは深く息を吐く。似たような親――親代わり、が正式だけれど、父親であるのには変わりない――を持つ『子供』として他人事には思えなかった。彼等は、知らずの内に父を亡くすのだろう。
 ゼファーの手を引いた子供が「コレについて教えて」と問い掛ける。林の中でその様子を眺めることほぎは「何も知らないって顔だな」と囁いた。
「そうだろうよ、父親の過去なんて知らない。口を噤まれてりゃ、ガキにとっては良いお父さんだ」
 ニコラスは呻いた。その言葉にシキは目を伏せる。良いお父さん。子供達にとっての唯一無二。それを――奪うのか。
 子供達の視線がバルフォアより外れた。コルネリアは旅のシスターであると名乗る。ゼファーは旅の連れであると告げ、雑木林に引き取って欲しい子供が居ると囁いた。
「此処へ連れてきては……」
「……いいえ」
 首を振った澄恋の瞳を眺めてから男は頷いた。まるで何かを悟ったような顔をして、その眸は薄らとした笑みさえ浮かんでいた。


 ――コイツが孤児院つくる前になにしてたか、知ってんの? オレらは遺族に依頼されて、復讐しに来たんだぜ?
 そう問えば、子供達の心に傷を残しながらも容易に事を運べただろうか。子供には容赦をする気のないことほぎは、素直に澄恋とコルネリアに付いてきた男をまじまじと眺めた。
「へぇ、話が分かるじゃん」
 そう呟いたことほぎの背後からすると瑠璃が走り抜けた。子供達が此方へと気付いていないだろうか。ゼファーの手を引いて、コルネリアのバイクを見ている子供達が逸れていないかを確認する。
「父さんは少し旅の人と出かけてくるよ。……そうそう。このあと天気が悪くなるから院内にいるように、それじゃあ、行ってくるね」
 その声音を作り出し、澄恋は子供達に偽の言葉を告げた。バルフォアは用意周到な彼女の背を眺めるだけだ。
 雑木林の中には、幼児は居ない。依頼を受けて彼を殺しに来た『暗殺者』と、今から殺される『元』殺人鬼だけである。

「こんにちは」
 瑠璃は子供達の前に姿を現した。そのかんばせは別の誰かのものである。ゼファーは「雨かしら」と背を向けて走り出す。子供達は彼女を呼び止める暇も無い。
「実は、私は皆さんのお父さんに用事があったんです」
 変わることのない紅色の眸は底知れない。悍ましくも地を這うような声音に子供達は耳を傾けて――瑠璃は語った。
 バルフォアという男が嘗て何をしたのかを。今から何をされるのかを。耳を疑うような言葉の羅列に一人は泣き出し、一人は言葉を失う。
「……貴方達にとって大切な人である事は先刻承知。ですが、彼が殺した人にもそう思う人が居たのです。
 復讐を否定するなら、彼が殺されても武器を取っては駄目。復讐を肯定するなら、彼が殺される事も受け入れなくては駄目。
 分かりましたね? ”子供”と言えど蚊帳の外、この件は徹頭徹尾、依頼人である復讐者と標的との問題です」
 その言葉を聞いていた少年は一番幼い少女をぎゅうと抱き締めて瑠璃を睨め付けた。
「どうして、僕達に説明をしたんですか? 父さんが殺されるのを理解しろって言うんですか?」
 子供らしい問い掛けに瑠璃は何も言わなかった――子供達にとって『過去よりも今が、未来が必要』であった事には何も変わらなかったのだから。

「子供達には、手出しをしないでくださいますか。こんな老いぼれの所為であれほど可愛い子達の未来が奪われるなんてあってはいけない」
 バルフォアの言葉にシキは「約束するよ」とそう言った。後に、子供達を何処かの孤児院へと約束を結んで、男に向き在った。
 少女は処刑人という身の上でありながら、彼に己が心を素直に向けた。雨降る街で、傘を差すかのような優しさを滲ませて目を細める。
「正直迷ったんだ。君を殺すのか。……君を殺せばきっと子供たちは悲しむ。
 でも、君を殺したいと思う誰かの気持ちも正しくはないだろうけど、間違っているとも言いたくないんだ。
 未だ心を理解したとは言えない私には、愛ってやつは難しい。愛があるから生きたいと願う。でも、殺意も等しく誰かへの愛なのだろうね」
 愛とは、何か。知る由のなかった男は、幼い子供達から無償の愛を与えられた。故に、彼女の言葉を理解出来ると困ったように肩を竦める。
「……随分素直なんだな。恨み言でも何だろうと、聞いてやるつもりだったのによ。
 まあ、過去に殺人鬼だったとしても、赦されるがために償い続けたのだとしても、ガキともを慈しんだ。その事実だけには報いてやるさ」
 ニコラスは何かあればと促した。死に際に、然うして優しくも言葉を紡がれるのは予想外だというように。
「……子供達の事を、大切に、育ててくださればそれでいい。あの子達は、父と慕ってくれますが実の子ではありません。赤の他人です」
「赤の他人だから、巻き添えはごめんだ、と言うのですか?」
 澄恋は問うた。ネリウムは「寧ろ、赤の他人なら巻き添えでも気にもしないだろうにね」と揶揄うように笑う。
「バルフォアにとって罪を雪ぐ理由だった子供達は、ソレさえ置き去りにしても愛するべき存在になったのかい?」
「……そう、ですね」
 ネリウムを見詰めて、バルフォアはぎこちない笑みを作り上げた。
「これが、愛というのですね。言われるまで気付かなかった」
 莫迦者を見るようにゼファーはふ、と小さく笑った。余計な事を口にして、手元が狂ってしまわぬように。
 ゼファーが一瞥すればニコラスは頷いた。子供をどうにかして欲しい、アフターフォローを誓えば、バルフォアは笑うだけだ。
「貴方の罪は無かったことにはならない。だけれど、其れは貴方が子供達へ注いだ愛情も一緒よ。
 多くを奪った殺人鬼の顔も、子供を愛する父親の顔も、其の両方が貴方の真実なんでしょうね。
 罪は確かに雪がれた、私はそう思うわよ。だけれど、無かったことにはならないわ……後は何とかするから、眠りなさいな」
 距離を詰める。人の気配が近付いて。ゼファーのその様子を眺めていたニコラスは「子供達は俺達を恨むかね」とバルフォアに問うた。
「そりゃ、父親殺しだ。慣れては居るが、聞いても良いかい? ガキ共が俺たちに復讐しに来る選択は『父親』としてどうなのかね」
「……あの子達には伝えてくださいませんか。父は、愚かなことばかりをやってきた。いつかはそうなるべきだった。
 これが報いならば、君たちにはこんな道を歩んで欲しくない」
 男の声音にことほぎは「じーさんがそう言えど、子供はどう思うかわかんねーぜ?」と囁いた。
 ソレでも良いと。男は体から力を抜いた。戦いを覚悟していた。シキは驚いた様に男を見遣る。
 子供の保護を誓ったからこそ。子供に手出しをしなかったからこそ――瑠璃が説明を行えど、子供は無事であるのは確かだ。
 バルフォアは『心優しき暗殺者』に身を委ねる決意をしたのだろう。男は祈るように手を組んだ。

「――愚かなる私を、お許しください」

「さ、呪われる覚えはあるだろ? 呪われる覚悟はできてるか?」
 ことほぎの声音は地獄の門戸を開くかのように男の骨身に染みた。恨むなら己の業を恨めと。
 その通りであると、男は目を伏せて。
 コルネリアは銃を構え、唇を震わせた。
「これまでの善行で洗い流せると思ったか? ちげぇ、ちげぇんだよバルフォア。
 お前は……いや、アタシ達はずっと背負ってかねぇといけねぇんだ。罪も、名も、消えた命も……」
 ああ、それでも――『言わずにはいられなかった』
 輝かんばかりの子供達の笑顔を。おとうさんと呼んだ甘ったるい、幼い声音を。こっちだよ、と手を掴んだ小さな掌を。
 彼等にとっての、最愛の人。
 親が子を愛するように、子が親を愛する。そんな、当たり前が無かった男が、死に際に見た夢。唯一の『確かな愛情』
「阿呆がよ、なんで真っ先に逃げなかった。阿呆は、アタシか」
 撃ち抜いた銃弾が、その夢を打ち砕いて。


 横たわった男のかんばせを眺めて居たシキは孤児院の裏にひっそりと小さな墓標を建てた。
 ネリウムが告げた幸福に男は浸ることが出来ただろうか。『硝子の棺』はどこにもないけれど――生きとし生きる者たちは、幸福となる権利を神に授けられて生まれて来たのだとネリウムは知っていた。遍く者を幸福に導けたのだろうと墓標を眺め。
 最後まで幼児に愛を捧げた男に安寧を。そう願うシキは小さな墓標をぼんやりと見下ろし続ける。
「愛、ですか」
 澄恋の問い掛けにシキは頷いた。
「愛。愛だって。この苦しみと痛みを『心』と呼ぶなら。私は間違いなく君に愛を見たと思うから」
「愛は、不合理です。不条理です。そして、最も困難な要素でしょうね」
 言葉にするにも、それはかたちなきものであるから。澄恋の傍らでことほぎは「まあ、これで仕事も完了だぜ。ガキがどう動くかはしらねーケド」とそう振り返る。
 主の居なくなった孤児院で子供達は自由に過ごすことも出来ない。父の死を最初に受け止めたのは瑠璃に問うた最年長の少年であった。
「お父さんは居なくなったんだ」と告げる彼はニコラスとゼファーに頼った。利口な彼の横顔を見詰めてコルネリアは悔むことしか出来ない。
 幼い子供が大人びた表情で大人を眺めて居る。その顔を、見に来たわけではなかったのに。

 ――瑠璃とシキは、その後、知る事になった。
 バルフォアを導いたという聖職者は彼が改心したその後、亡くなっていたという。
 語る、司祭は子供達の保護を行う先を直ぐに見つけることは難しいと告げた。ゼファーの領地で暫くの間は保護をし、どこか孤児院を探すことを決めて。
 ネリウムが子供達の為に置いて置いた手紙は破り捨てられていた。
 それでも、その手紙の端々から滲んだ気遣いに子供達は感謝を抱いたのか、小さく「有難う御座いました」と書き留めて。
「……バルフォア君のお父上だったんです、皆さんが言っている件の聖職者は。どの様な最後でも、息子に愛を知って欲しかったのかもしれませんね」
 やはり、愛と言うものは目にも見えず、不条理なのだと澄恋は首を捻った。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 この度は部分リクエストへのご参加誠に有難う御座いました。
 子供達は、ゼファーさんの領地で一度保護された後、孤児院を探す事となりました。
 物分かりの良い最年長『シャリテ』は皆さんを恨むことはしないでしょう。幼い子供達を危険に晒さないための選択です。

 皆さんの冒険の一頁にとなりますように。
 またご縁がありましたら、どうぞ宜しくお願い致します。

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