シナリオ詳細
Ancient quest『分霊』討滅戦
オープニング
●
――大樹は涙を流すという伝説がある。
それは物言わぬ植物の嘆き。本来、植物は踏まれようが千切られようが苦痛を発する事はない――いやもしかすればそれは人間に理解できていないだけで、心を交わす事が出来る者にとっては別かもしれないが――とにかく。
少なくとも誰の目にも分かる形で悲鳴を挙げたりする事はないのだ。
しかし大樹は異なる。
長き、永き年月を経た彼らは神秘性を纏いて昇華されているのだ。
――彼らは意思を持っているともされており。
身を割かれる様な苦痛を味わった時には――涙を流す事もあるという。
「で、ここからが重要なんだがなぁ。涙ってのはぁ、只の涙じゃねぇんだよ」
酒場。近くの街で酔っぱらった幻想種らしき男性が語るのは一つの御伽噺。
――大樹の涙は彼らの嘆き。
――大樹の涙は彼らの断末魔。
――大樹の涙は敵を滅ぼせという救いを求める叫び。
故に彼らの内より零れ落ちし雫は、敵を排する為に現れる白血球の様なモノ達。
彼らに区別はない。善き者も悪しき者も等しく滅ぼす防衛者……
「ははは! ま、あくまで伝説だけどな。
まぁ伝説ってもたしかカノン様がずっと研究してるらしいが……
どうしたい兄ちゃんら。こういう話に興味でもあるんかい?」
「ああまぁ――少し、な」
すっかり酔いが回っている男の話を聞いているのはベネディクト・ファブニル (p3x008160)らだ――伝説、もしくは御伽噺などどこにでもあるものだ、が。しかしベネディクトらは違った趣をもってその話を聞いていた。
それは一つの噂を聞いたから。
なんでも翡翠の国のどこかで――突如として強力なモンスターが出てくるのだとか。
あくまで噂であり詳細は分からないが一定の条件、もしくは一定の範囲に入った場合にのみ出てくる――所謂ワンダリングモンスターの様な存在があるのではないとか予測出来ていた。
バグの調査を求められているイレギュラーズとしてはより深くこの世界に関わる為に――秘匿されている領域へと足を踏み入れるのもまた重要だ、と。そしてこの国に入り暫し情報集めをしていれば、気になったのがこの男の話。
「なんでもここから北の方に進んだ大樹の付近が怪しいみたいね」
「そうね――ホントかどうかはちゃんと見てみないと分からないけれど」
酔いの回っている男の話をどこまで信用していいか……指差・ヨシカ (p3x009033)とタイム (p3x007854)は些かの不安が無い訳ではない。しかしハズレであっても別に損はないだろう――とも思えば、確かめに行くのが一番かとも思いて。
故に準備を整え、木々の狭間を縫うように歩を進めるのだ。
人里から離れた道なき道。
鳥の鳴き声と小動物らが動く微かな気配だけがする道を進み――
「んっ――オイちょっと待て」
「え。リュカさんどうし、むぎゃ」
瞬間。リュカ・ファブニル (p3x007268)が皆の歩みを止めるべく、腕を伸ばして皆を制する様にすれば偶々ルフラン・アントルメ (p3x006816)の顔に直撃。むぎゃー! と抗議せんとしようとしたルフラン――だが、眼前にありしモノを見据えれば言葉も飲み込む。
それはサクラメントだった。
蔦が巻き付き、なにやら古そうな雰囲気を携えているが……間違いない。
なぜこんな所に――? いやそもそも起動している様な雰囲気もないが、これは――?
「……! 皆さん、あれを――ッ!」
直後、奥の方を指差すのはリラグレーテ (p3x008418)であった。
サクラメントの更に奥。彼方に、なにやら『鯨』の様な存在がいる。
色は白く。所々が虹掛かっており、空中を舞う鯨……
――おかしい。先程まであんなモノはいなかった筈だ。
遠目からでも見える程度には確かな大きさがある化け物を視認する事が出来なかった理由は何か――すぐに思いつくのは『イレギュラーズ達が領域に入って初めて現れた』からか? つまり、奴こそが。
『――特殊クエスト『分霊討滅戦』を開始します。
現在領域から離れた場合、討滅戦は中止されます。準備はよろしいですか?』
同時。イレギュラーズ達の脳裏に響いたのは、まるでアナウンス。
――分霊討滅戦。
聞きなれぬ単語であるが、しかし。
「……どうやら探していたモノであるのに違いはなさそうですね」
「ええと、つまり……アレをどうにかして倒せば良い、って事かな?」
正に。探し求めていたモノであるとリュティス (p3x007926)は確信し。
見上げる様に現場・ネイコ (p3x008689)が――鯨を見据える。
……ここからでは風貌しか伺えぬが、どうにも『只のモンスター』でない事だけは直感出来ていた。恐らくこれより先に進めば討滅戦とやらが開始されるのであろう――逆にここから離れようとすればあの鯨は消え失せてしまうかもしれない。
そして、こんな特殊クエストがあるから此処にサクラメントがある訳か。
この討滅戦専用の代物なのであろう。万が一戦闘不能になってもここから復帰できるのであれば、近くの街からわざわざここまで来る必要はない――戦線への復帰は早く、しかし。
「つまりはソレだけ『死ぬ』のが前提であるという訳だ」
分かる。これはきっと『そういう』戦いなのだと。
アレが酒場で酔っていた男の話していた――大樹の涙、とやらか。
ベネディクトは眺める。
かの男の話が正しいのであれば、アレは周囲の生命体全てを薙ぎ払わんと現れる存在……周囲への損壊もなにも意識すまい。無差別に殺しにかかってくる相手に、どう立ち回るか。
『――特殊クエスト『分霊討滅戦』を開始します。
現在領域から離れた場合、討滅戦は中止されます。準備はよろしいですか?』
頭の中に再度響く不思議な声を聞きながら。
さてどう攻略を進めたものかと――思案を重ね始めていた。
- Ancient quest『分霊』討滅戦完了
- GM名茶零四
- 種別リクエスト
- 難易度-
- 冒険終了日時2021年09月06日 23時10分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費---RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●
「――あれが幻想種の人が言ってた『兵器』
……つまり、どこかに大本の大樹があるって事でもあるんだね」
彼方に見える存在を見据えれば、闘争の開始を『ご安全に!プリンセス』現場・ネイコ(p3x008689)は感じ取るが――彼女の脳裏には『別』の発想も浮かんでいた。これが只のゲームであるというのなら大本をどうにかしてしまうのが一番早いのであろう。しかし。
「伝承が本当かどうかはわからねえけどよ。
本当だとしたら、コイツの主はただ助けを求めて泣いてるって事だ。
……それをぶち折って終わりにするなんざ冗談じゃねえ」
『赤龍』リュカ・ファブニル(p3x007268)もまた同じことを思う。
あの鯨は鎮めよう。しかし主も――救おう。
嘆きから生じたというのならば嘆きの根幹を鎮めず何が解決であろうかと。
「――うん、やろう! 泣いてる誰かを見過ごす事なんて出来ないもん!」
拳に力を。ネイコが決意と共に一歩踏み出せ、ば。
直後。イレギュラーズ達の肌を『何か』がなぞった。
それはまるで静電気の様な――いやこれは――この『音』は!
「わっと!! 来るよ――動いてッ!!」
刹那。声を飛ばしたのは警戒していた『ひよっこヒーラー』ルフラン・アントルメ(p3x006816)だ。肌に感じるは殺意。裁きの雷撃――あらゆるを滅さんとする魔力の収束は、受ければ生半可な者など文字通り消し飛ばしてしまうだろう。
故に躱す。発生点より逃れる様に跳躍すれば青白き光が覆いて――
炸裂。共に轟音も生じれば威力も物語っており。
「自らの危機に現れる防衛者――ですか。時間が許されるのであれば単純に弱った事が原因か別の要因があるのか調べておきたい所ですが……そうもいかないご様子」
「ああ――まずはこの戦いを終わらせよう」
が、斯様な一撃を持つからこそ『黒狼の従者』リュティス(p3x007926)と『蒼竜』ベネディクト・ファブニル(p3x008160)は前へと進むものだ。
リュティスは鯨を射程距離に収めればライフルの銃口を奴へと。放つ一閃が真横から直撃し――同時にベネディクトは鯨の注意を引かんと圧を加えていくものだ。次いでネイコも鯨の視界に映る様に動き回り、リュカは竜の爪たる気迫と共に。
「踏み込む! 奴を自由にさせてはならない――押し込めるぞ!」
相手は強敵だからこそ、この世界で戦う為の実践を学ばせてくれるだろうとも思考する。コレが発生の原因となった古い大木……ソレはリュティスの様に気になる所ではある、が。
『――』
天上。鯨より放たれる殺意と雷撃あらばソレは後だと。
「とにかく視界に入り次第攻撃してきたのが仇になってるわね……
一度見れば二度は食らわないわ!」
鯨の二撃目。投じられるも『冒険者』タイム(p3x007854)は冷静だ。鯨の殺意が余りに高いのが幸いしたか、初手から放ってきた雷撃を目撃出来た事が回避に繋がっている。
尤も、焼き尽くす雷撃は防に些か不安のあるタイムにとって背筋が凍る勢いである。
受ければ死のイメージが強い――それでも即座のコマンド入力。
己に出しうる全霊のすんごいぱんちを繰り出し鯨へ向かう――さすれば。
「武装<メイクアップ>! ――さあ、ブチ抜かれなよっ!」
『虚花』リラグレーテ(p3x008418)も続くものだ。
木々を足場に飛翔する。鯨の放つ氷の殺意を潜り抜ける様に――
そうして穿つ一閃が奴の懐へ。広大に焼き尽くし、毒を撒きてその身を削らん。
……同時リラグレーテの思考に過るは発生の源、だ。
大樹の涙は断末魔。
即ちその『分霊』は救いを求めるカウンターであるのだと言う。
「そう叫ばれちゃ目覚めが悪いのです」
誰もが願っていた。打倒して終わりなど認めがたいと。
――故に狙わぬ。コレの発生となった大木は。
例え奴に果てなき供給があるのだとしても。
「難しい工事になりそうね。ま、いつもの事ではあるのだけれど」
で、あれば。『プリンセスセレナーデ』指差・ヨシカ(p3x009033)は言うものだ。
これはあくまでゲーム。倒して然るべき破壊衝動が敵。
なのに皆は善き結末をと願い……
だからこそ思うものだ。『面白い人達』だと。
口の端に笑みを微かに浮かべながら――彼女もまた鯨への一閃を投じた。
●
『――――、――』
鯨が鳴いている気がする。人には理解出来ぬ言語で。
だが『そう』していると気づける余裕が如何程あっただろうか。
爆音響かせ全てを薙がんとしてる、この状況で。
「うひゃ~! 何これ何これ死んじゃう――!!」
「全く。R.O.Oであればこそ現実よりも桁が外れるは分かるが……こうまでするか!」
雷が落ちている……というより爆撃されているかのような衝撃が二・三・四――
当たらぬのならば当たるまで撃つ。
あまりに乱暴、だからこそ厄介とタイムとベネディクトは感じていた。一瞬でも遅れれば身を焼かれる様な痛みに包まれている事だろう。そうでなくても幾らかのダメージはある……完全回避とは流石に難しく、蓄積されればやはり朽ち果てる。
故にその前にと。痛む体があらば逆に本能が猛りて昇華するタイムは――
「でも、いっつまでも……好きにはさせないからねッ――!!」
踏み込むものだ。放つ拳を幾重にも、一つたりとも手を抜かぬ一撃を鯨へ。
更にベネディクトは常に移動を繰り返しながら周囲の様子も鑑みる。
奴の機を引かんとしているのはベネディクトだけではないのだから。
ネイコもまた戦場を縦横無尽に駆け抜け雷撃の狭間から鯨へと接近し。
「こっちだよ。さぁッ鯨さん!」
打ち上げる様に、宙に佇む鯨へと撃を叩き込んだ。
――奴の視線がネイコを向く。返しにと、振り落とされるは周囲を凍らせる絶対零度の魔力。だがそれでいい。ネイコが引き付ける事が出来ればベネディクトが。ベネディクトが引き付ける事が出来ればネイコが攻撃へと転じるのだ。連携重ね合わせ無駄なき様に――
「……全く。クソでかい背中ね、舗装し甲斐があるわ」
同時。鯨の身にアンカーを射出したのは――ヨシカだ。
食い込む刃。起点とし、高速で巻き取られると共に己が体を空に委ねれば見えるは鯨の巨大たる背中だ。乗り込み、天空へと魔法陣を顕現させて。
「雷やら氷やらを好き放題に使っちゃって……木の分霊の割にはどういう了見なのかしら」
撃ち落とす。ヨシカの腕の振りに合わせて杭がまるでハンマーの様に。
――衝撃。揺らぐソレは、鯨の身を地上に近付けさせる程で。
「あッ、危ない伏せてッ!!」
瞬間。鯨が近くにて雷撃の印を見せる――
生じる爆音の前兆。ルフランが再び声を張り上げるが、間に合わないか。
青白き光に飲み込まれ――
「ッ、大丈夫、ルフランさん!?」
「へへ、あたし頑丈だからだいじょーぶ! これぐらいじゃへこたれないよ!!」
間一髪。前線で戦っていたネイコを庇うようにルフランの守護が間に合った。
彼女の背は蛇打つように焼かれども、しかし崩れない。
彼女の治癒が皆を、そして己をも癒すからだ。創造せし砂糖菓子が天より降り注ぎ、或いは林檎の形を宿した優しき光で包めば傷が修復……さすれば立ち上がる力を与えよう。
「ふぅ、ふぅ……でもあの雷はやっぱり気を付けないとね……!
氷はまだなんとかなるけど……!」
「ええ。あの方の眼にはやはり周囲を憤怒する色しかありません……滅すしかないのでしょうね」
更にルフランは凍結の力を無効化せし加護を周囲へと降り注がせるものだ――かの攻撃の撒き散らす負への対策には十分となり、リュティスが続けざまに射撃を敢行。
鯨からは依然として殺意と暴力の意志だけが垂れ流されている。
話を聞いてくれる様子でもなさそうだ……故、目指すは打倒のみ。
「――攻撃の際は微かに放つ地点を見ている気がしますね。皆さま、ご注意を」
「ご丁寧な所だね……そういう動作が見える所も、ゲームならではという事かな?」
そして鯨の攻撃の様子を注意深く観察していたリュティスが皆に言を紡げば――リラグレーテは飛翔しながら鯨の眼を微かに横目で見るものだ。なにがしかの隙があるのは、勝利への道筋があるのは『クリア』出来る『クエスト』だからなのだろうか、と。
無論簡単な事ではない。特徴があったとしても必ず回避出来る訳でもない――けれど。
「このメンバーなら、ああ……やれるよねッ……!」
紡ぎて往く。
生じる雷撃を大きく躱し、眼前に生じる零度の氷、その表面を駆け抜ける様に。
速度を生かして盾となろう――ネイコやベネディクトらも奮戦しているが、しかしかなり厳しそうだ。故に動き回り庇いに入り、装填せしは絶対貫通の意を秘めた空想の弾丸。
――命中する。厚き肉を穿ちて食い込み。
『――、――■■■』
されど鯨。否、分霊は尚滅びない。
煩わしいぞとばかりに未だ空に佇む大樹の涙。
――直後に生じるは雷撃でも零度でもなかった。分霊の内で収束せし魔力が槍の様になりて……一直線に放たれる。
さすれば生じるは『空間の断裂』
誰も逃がさぬ躱す余地など残さぬ今度こそ死ね。
雷撃の音が生じれ、ば。
「いいぜ。それがお前の怒りだってんなら――来いよ」
リュカは怯まぬ。臆さぬ。退きもせぬ。
元より真っ向から立ち向かうつもりだったのだ。分霊が幾つもの撃を放ってくるのもイレギュラーズが近くに来ようと構わず雷撃を放つのも、全て全てどこかにある大木から加護を受け取っているから。ソレを潰せば分霊の攻勢も幾らか弱まった――だろうが。
それは認めぬ。そんな終わりにするなど。
「例えお前が牙を突き立てて来ようとなぁ!! 泣いてるやつを見捨てるかよ!!」
――己が矜持が許さぬのだと。
直後、全身に轟く雷撃がイレギュラーズらを襲う。
空間を絶つ秘儀……コレが厄介なのは連携が取り辛くなるのもあるが、それ以上に躱す余地がなくなる事。見えぬ壁があらば万全に躱すとは至らぬ。更に大木を潰さねば分霊は常に全力の攻撃を降り注がせてくる。
それは苛烈。熾烈。
身が焦げ、時としては朽ち果てる者も出よう――しかし!
「甘ぇよ――その程度で俺たちをどうにかできるとでも思ってんのかッ!」
リュカの一閃が分霊を捉える。赤き龍の猛りは雷如きで止まりはせず、魂も焦げぬ。
選んだ道のりは、辿り着くべき終点はきっと千辛万苦の果て。
――だがそうだと承知の上で来たのだから。
「全く、命が幾つあっても足りんとはこの事か……! だが須らく承知の上だ!」
もう一人の竜も共に往く。
追い詰められた身であればこそ成せる一撃もあるのだ。本能が揺さぶられ、深く、深く眠っていた筈の竜の血と魂が今こそ此処に。
全霊を込めての――斬撃。さすれば。
「サクラメントの場所は確認して来たからね……!
沢山お世話になりそうだと思ってたし、備えてたわよ!
う~~でもなんかこの感覚は慣れないなぁ……慣れて良いかも分からないけど!」
「畳みかけます。どうかお覚悟を」
雷撃に焼き尽くされ――しかし急ぎ復帰するタイムにリュティスの姿もあるものだ。
賭けの様な行動は避けながら場を持たす。誰もかれもが全滅すれば自動的に敗北となってしまうのならば――最低でも誰かは残れるように。そして落ちた者も素早く戦線に復帰できるように。
いざとなればタイムは己が挑発によってあの分霊の眼をこちらに寄せるつもりだ。
防に薄い、と。先述した様に自覚はあるがしかし誰かが成さねばならないのだから。
――往く。
分霊の放つ空間の断絶。その範囲を理解しながらリュティスが仕掛けるは接近戦。
その頻度が多くなっている事から、分霊もまた追い詰められている事を理解していた。
だからこそ――今こそもう一歩。
「追い詰める時だよね! うん……もうちょっと頑張ってみようッ……!」
「通れない場所は常に気を付けようね! 場合によっては――前に行く方が安全かも!」
故にネイコもルフランも奥底から死力を絞り出す。
飛行し、奴の背に乗る様にネイコは跳べば――必殺の一撃を此処に。舞い散る血飛沫の量は増えており、より芯へと届かせんとして。そしてルフランは空間断裂による壁を把握しながら治癒の力を。しかし誰も彼もに降り注がせている訳ではない。
分霊の力は幅広く被害を与えており――だからこそ勝利の為には己が力をどこかに集中せねばならぬ時もあった。万人を癒せばどうしても『薄く』なってしまうから。
見捨ててしまう様な行動だと歯がゆい気持ちは、ある。
けれど勝つんだ。
「皆と……一緒に……!」
あの分霊に。
そして――このクエストの源に辿り着くために!
「ああ、もう! リスポーン可能とは言えあの範囲攻撃は流石ワンダリングモンスターって事か! ていうかリスポーン前提の難易度って一歩間違うとクソゲー……おっと!」
イレギュラーズらの大攻勢。その最中に、思わず素を出してしまったとヨシカは慌てて口を塞ぐ様な動作をしつつ――零度の壁を飛び越える。引き続き繰り出すアンカーを起点に縦横無尽に移動しつつ分霊の身を割く様に蒼き刃を共に。
己が身を捻り高速に回転させながら――討つ。討てるまで、続ける!
――なんだこいつらは。
幾度焼き尽くしても立ち向かってくる。幾度凍らせようとも此方へ至る。
分霊にとって想像を超えた存在者達。しかし彼らに侵略者の様な意図は感じられない。
なんなのだ――お前らは――!
嘆く様に分霊は力を幾度も収束させ、割断の力を幾度も放つ。
近寄るなと言わんばかりに。その撃もまた強烈で、打ち倒されるイレギュラーズもいる。
――だけどやはり来る。
諦めない。倒れない。何度でも往こう。
……やがて分霊の身が限界を迎えつつあった。
倒されようと必ず一矢以上報いてくるイレギュラーズの撃に、最早浮遊の力も失いつつある。そこへ紡ぐのは――リラグレーテだ。
「……大丈夫。どうか、その意思は僕達が見るから」
君が終わろうとも、終わらせない。
どうして大木が君を生み出したのか。その感情の色は何処にあるのか……
「だから」
述べて、紡ぐ。
全てを貫く空想の一撃が――分霊の真正面より穿たれて。
悲しき慟哭の分霊、その全ての幕を引いた。
●
『Ancient quest clear』
その表示が出ても尚、イレギュラーズ達は其処にいた。なぜなら。
「あ、あったよ! 皆ー! ここだよ! ここにあるみたい!!」
ネイコは見つける。件の……折れた大木を。
さすればルフランが駆けつけ意志を交わせる――
――痛かったよね、ごめんね。
植物と意思を疎通させ伝えるは謝罪――だがこの大木は虫の息、か。
これ程までに追い詰められていたからこそ……あんな代物が出てきたのか。
「どうしよう。ねぇ! もし、もしよかったらなんだけど――
黒狼隊のお城に来ない!? そこだったらね、きっと寂しくないよ!」
「ああ――構わないな、リュティス?」
「無論です。むしろ、永き時を経る程の大樹ならば歓迎されるべきでしょう」
もう駄目だ。この大木の死は止められない。
だけれども。なら――とルフランが提案するのはその身を家具として、の事だ。
生きていけるのだと。木々としての形なくても、きっと生きていけるから……
さすればリュティスは『現実』と異なる感覚になんとももどかしさを感じるものだ。本来であれば彼女と同じ事がリュティスにも出来るのだが……此処では出来ぬのが不便と。
同時。ベネディクトは何があったか調べられないかと電子の妖精を周囲へ。
何か手がかりがないかと――同じ事が起きる可能性があるならば防ぎたいから。
「……少なくとも、俺達が関わる物語の内では良い終わりであって欲しいからな」
例え電子の世界であったとしても。
幸福を願う気持ちに――何の偽りがあろうか。
「……ねえ、君は何を守りたかったんだい?」
更にリラグレーテは語り掛ける。
大樹の意思を、嘆きを――その根源を、増幅させながら。
護りたかったのは己が命か、それともこの美しき自然……周りの者達かと推察しながら。
大木の最後の意志を掬わんと力を込めて。
さすれば微かに――承諾の感情の色を浮かべたと、ルフランが感じ取れば。
「或いは――ああ。なんとか、元気な枝が一本ぐらいないかしら」
同時、ヨシカは探す。
重要な部分が駄目だとしても……元気そうな枝があれば子として蘇る事もあるかもしれない。綺麗に切り取って持ち帰れば――また永き時は必要であろうが――
「――ここにまた、新しい命が芽吹きますように」
それでも。悲しいまでに声を挙げた大木が確かにあったのだからと。
タイムは祈る様に――言の葉を繋ぐ。
どうであれ大木は在ろうとしただけなのだ。此処に、命があると。
……戻ろう。
分霊は倒し、大木は意思を確かめ……もうこれ以上は必要ないから。
「……しかしあんなモンが出てくるなんてな」
しかし刹那。リュカは一度だけ戦場を振り返る。
あれは異常な存在だった――少なくとも常からある存在ではない。
ならば……研究していると言っていたカノンに伝えれば何か分かるだろうかと思えば。
「まさか、こんな所で……頼みごとをする日が来るたぁな」
頭を掻く。
深緑の巫女の片割れ。
どういう顔をして会いに行けばいいだろうかと――思考しながら。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
依頼、お疲れさまでしたイレギュラーズ。
大木を潰さないで倒すという事。それは攻撃の苛烈さが常に続くという事でしたが、皆さんの連携はそれでもなお十分だったかと思われます。尤も、デスペナルティの被害は結構出ていますが……!
そして潰されず生命が辛うじて残っていた大木と微かながら意志を交わす事も出来ました。
きっと大木は最後に皆さんによって――救われた事でしょう。
MVPは凍結対策や治癒、他者の庇いや大木と心交わした貴女へ。
ありがとうございました。
GMコメント
リクエストありがとうございます――以下詳細です。
●クエスト達成条件
突発クエスト『分霊』討滅戦の制覇。
本依頼ではサクラメントからの復帰が可能ですが『戦闘可能な者が一人も存在しない』時間が発生した瞬間、失敗となりますのでご注意ください。
●フィールド
翡翠の国、迷宮森林の一角です。
周囲が木々に囲まれた森林部で戦闘をしていただきます。
少し離れたところに古ぼけたサクラメントがあり、ここから復帰が可能です。
周囲には一般人や他に介入してくるような魔物の気配はありません。
エリアボスとも言うべき『分霊』との戦闘にのみ集中できるでしょう。
●『分霊』ティアーズ・テレマ
一定の場所にて、ある条件を満たした際に出現するワンダリングモンスターです。
その正体は永い年月を経て神秘性を宿した大樹が、自らの危機に瀕した際に放出する白血球の様な――一種の防衛機構、或いは迎撃兵器でありこの存在は周囲の生命体全てを排除せんと襲い掛かってきます。
意思の疎通は不可能な様に思えます。
外見上はまるで巨大な鯨の様に見えます。常に飛行していますが、低空飛行か木々よりもちょっと高い程度しか飛ぶ様子はありません。そのため、接近やなんなら鯨の背に乗る事も容易いでしょう。
・裁きの雷撃(A)
一定範囲(域攻撃)に超威力の雷撃を発生させます。
発生中心点でまず、微かに電流が流れるような『音』が生じた後に爆発が生じる形で攻撃をしてきます。そのため上手く気付ければ回避できる時間的余裕が少しだけあります。直撃すると超々高確率で【痺れ系列】と【窒息系列】のBSを付与してくるのでお気を付けください。
・絶対零度(A)
一定範囲(範攻撃)を凍結させる術です。
雷撃と異なり事前の気配が一切ありません。
またこの攻撃は分霊自身を巻き込んでも、ダメージも効果も無いようです。
【凍結系列】と【足止系列】のBSを付与する事が有ります。
・空間断絶(A)
物超貫の攻撃です。BSは無く非常に強力な攻撃力を宿していますが、最大の特徴は『この攻撃が放たれた場所(直線R4)は3ターンの間通行が不可』になります。まるで見えない壁が存在するかのように断絶されるのです。それは飛行していても同様です。
同時に、断絶された向こう側にいる人物を『庇う』『治癒や付与などなんらかのスキル』の対象にする事も出来なくなります。
HPが減り始めるとこの攻撃を多用する傾向にあるようです。
・嘆きの加護(P)
毎ターン非常に高い充填の効果が奴には齎されます。
また、自身の攻撃全てに『識別』の効果も付与します。
……ただしこの効果は、どこからか魔力を供給されている為に起こっている様です。
実は周囲を探すと奴の発生源となっている『古い大木』があります。その大木は中ほどから完全に折れている為、探し出す事が出来ればすぐにソレだと分かるでしょう。この大木を完全に破壊するとこの加護は消滅します。
●サクラメント
すぐ近くに特殊なサクラメントがあります。
戦闘不能(死亡)状態に陥っても約2~4ターン(ランダム)程度で再度ログインする事が可能です。すぐに戦線に駆けつける事も可能でしょう。ただし『戦闘可能な者が一人も存在しない』時間が発生した瞬間、このクエストは失敗となりますのでご注意ください。
※重要な備考『デスカウント』
R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。
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