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シナリオ詳細

玉砕せよ、カルキノス

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●一匹の勇気
「カルキノス、お前はヒュドラを助けてやりなさい」
 そう言ってヘラ様は私をヒュドラの元へ遣わした。
 私とヒュドラは同じ沼に住む友人だ。
 困った時はお互い様。喜びも悲しみも、ずうっと昔から分け合い生きてきた。

 そんなヒュドラの元ヘラクレスという者が彼を討伐に来るのだとヘラ様は仰った。
 私は無知な蟹故、ヘラクレスという名前に覚えは無く彼がどんな存在なのかなど知る由もない。
 それでもその名を聞いた時に漠然とこう思ったのだ。
『戦ったら屹度勝てないだろう』
 ヒュドラは私なんかよりずっと強くて、賢い。その強さを疑ったことなんて一度も無かった。それでも何故か。
 ヒュドラが負けてしまう。
 そう思ってしまったのだ。だから私はヘラ様にこう返事した。

「はい、カルキノスは友を、ヒュドラを助けに参ります」

 私がヒュドラの元へ向かうと、既に彼はヘラクレスと交戦していた。
 自慢の二つの首の一本は無惨にも斬り落とされ、焼かれてしまい、再生できなくなっていた。
 残った一本で辛うじて耐えている、と言った所か。あのヒュドラを此処まで追い詰めるなんて、私なんかが立ち向かった所で一溜りも無いだろう。
 逃げてしまいたかった。
 ヘラ様の言いつけに背くことにはなれど、逃げて沼の隅っこの方で情けなくガタガタ震えている方がよっぽどマシな気すらした。

 それでも、それでも。

 友を助けたかった。
 力になりたかった。

 ――相手が正義だろうと、そんな事はどうでも良かった。

 震える足に力を込め駆け出した。ヘラクレスは目の前のヒュドラに夢中で私には気がついていない。
 その幹のような太い脚に向かって鋏を伸ばす。
 ざくりと肉に食いこんだ鋏。
 突然走った痛みにヘラクレスの脚が一瞬止まった。
 その一瞬の隙を見逃さず、ぐぱりとヒュドラが口を開く。
「しまっ――」
 ああ、友よ。私は役に立てたのだろうか。

●玉砕せよ、カルキノス
「よう、また会ったな。今回も星座神話が歪められている。そいつを元に戻して欲しい」
 いつもの如く黒衣の境界案内人、朧が星座が刻印された表紙をなぞっている。
「蟹座の神話知ってるかい、本来は無残に死ぬはずの蟹――カルキノスってんだけどな、こいつに奇跡が起ころうとしてる」
 曰く、蟹の攻撃に隙を見せたヘラクレスにヒュドラが勝機を見出してしまった様だ。
 このままだと神話が歪められる――それを、ヘラクレスが勝つように戻す。というのが内容だった。

 つまりそれは、誰かが口を開いた。

 数秒の沈黙の後、静かに朧は頷く。
「ああ、勇気を出したカルキノス。並び友の助けを借りてヘラクレスに勝てそうなヒュドラを討伐してきてくれ」
 例えそれが、友を思う勇敢な一匹の蟹が起こした奇跡だとしても。
『正しい神話』に直されなければならない。それが今回のオーダーなのだから。
「じゃ、頼んだぜ」
 朧はあなたがたを送り出した。

NMコメント

 初めましての方は初めまして、そうでない方は今回もよろしくお願いします。
 星座のモチーフ大好きな白です。
 蟹座って原作では結構コミカルというか情けないシュールさが売りですが、今回はシリアス目にアレンジしてみました。
 立場によってはヴィラン寄りにもなり得るもしれませんね。
 以下詳細。

●目標
 カルキノス、並びにヒュドラの討伐
 ヘラクレスの救援
 
 本来の神話ではカルキノスはヒュドラを助ける為に果敢に立ち向かいますがあっさりヘラクレスに踏まれて死にます。
 しかし今回は奇跡が起ころうとしています。友の勇敢な一撃によりヒュドラがヘラクレスに勝とうとしているのです。
 
 結末が同じ(ヘラクレスを救援し、カルキノス並びにヒュドラを討伐)ならば、途中の道筋が変わっても構いません。
 語り継がれた神話のうちの一つとなるでしょう。

●舞台
 神と人が暮らす星座の神話の世界です。
 今回は『蟹座』の話の舞台です。

●敵
 カルキノス
 ヒュドラの親友の蟹です。サイズとしては普通の蟹と変わりはなく、戦闘能力も大したことはありません。
 友を想う気持ちが強く、今回は自分の死を覚悟し参戦しました。
 鋏での攻撃と体が小さいため攻撃があてづらいです。

 ヒュドラ
 カルキノスの親友の二つの首を持つ蛇です。戦闘能力は非常に高いですがヘラクレスに首の一本を焼かれ息も絶え絶えです。
 毒霧を吐く他、鋭い牙で噛みついてきます。カルキノスの助けにより、ヘラクレスと必死に戦っています。

●味方
 ヘラクレス
 言わずと知れた神話の英雄です。今回は人里を荒らしまわるヒュドラの討伐に赴いていました。
 機転を利かしヒュドラを無事に追い詰めていましたが、足元に居たカルキノスに気が付かず脚を狙われ隙を見せてしまいました。
 このままではヒュドラに逆転されてしまうでしょう。

●備考
 OPに出てくるヘラはシナリオ内には登場しません。
 
●サンプルプレイング
 どんな立場で在れ友を助けたかった。
 その願いに応えた奇跡を無かったことにしろなんてね。
 せめて敬意を込めて、華やかに送ってあげる……!

 こんな感じです、それではいってらっしゃい。

  • 玉砕せよ、カルキノス完了
  • NM名
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年09月02日 22時05分
  • 参加人数4/4人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

ノリア・ソーリア(p3p000062)
半透明の人魚
冬宮・寒櫻院・睦月(p3p007900)
秋縛
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
テルクシエペイア(p3p009058)
作詞作曲・僕

リプレイ

●玉砕せよ、カルキノス
「しまっ――」
 ヒュドラの毒牙がヘラクレスへ迫る。
 ちっぽけな一匹の蟹の友を想う心が呼んだ奇跡。千載一遇の好機。
 しかし、それが叶えられることは無かった。
 戦場に鳴り響くはマンドリーノの音色。第三者の乱入を知らせる鐘である。

「誰だ!」
 ヒュドラが音に首を向ける。その隙にヘラクレスは体勢を立て直し、カルキノスの鋏を振り解いた。振り解かれたカルキノスが転がっていく。

(何が起きた?)
 カルキノスは状況が上手く呑み込めていない様でヒュドラの横顔を見つめている。
 友の視線の先を追えば純白の翼をもつ容姿端麗な男が立っていた。
「おお勇ましきカルキノス……大切な友のため戦ったキミが掴んだ奇跡を、僕は否定することはできない……」
 弦を震わせ『作詞作曲・僕』テルクシエペイア(p3p009058)は目を伏せる。
 悲愴を纏う吟遊詩人はだがしかしと、再度マンドリーノをつま弾いた。
「けれども、長い時の中で神々と人々が紡いできた神話(ものがたり)を断ち切ることもまた僕にはできなかった……! せめて正々堂々と戦おう、カルキノス君! ヒュドラ君!」
「何を訳の分からぬことを! 貴様も喰らってやろうか!」
「ヘラクレスさん」
 『しろがねのほむら』冬宮・寒櫻院・睦月(p3p007900)がヘラクレスへ声を掛ける。
「応援に来ました。一旦下がって体勢を整え直しましょう」
「おお……! まさに天の助けとはこのこと、ありがとうございます!」
 真直ぐな勇者の目に睦月は目を逸らす。
 目の前の英雄が蟹を踏み潰し、ヒュドラを倒すのが物語本来の姿。睦月としてはあまり気分の良い物ではなかった。
 ましてや苦難を乗り越える英雄の名前が、ヘラクレス(ヘラの栄光)だなんて。
 だが依頼は依頼。ねじ曲がった物語を正して見せると頭を振り睦月は二匹へと向き直った。

 ヘラクレスの脹脛に刻まれた痛々しい傷跡に『霊魂使い』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)は眉間に皺を寄せる。
 よく鍛えた強く逞しいガチムチ英雄でも、そこを狙われれば痛みで気を散らす。ガチムチでも筋肉はクッションにはならない。そして小さな蟹だからこそ、力の加わる箇所が小さく集中して痛みは強く……。そこまで考えてアーマデルは思考を放棄した。考えるだけで痛々しい、止めよう。
 気を取り直しアーマデルはヒュドラとカルキノスを見据えた。
「ヒュドラ……多頭の蛇かどちらかといえば蟹より蛇の方が思い入れ……いや、なんでもない」
 足の裏に力を込め弾かれた様にアーマデルはカルキノスへ切迫する。
 刹那の悪夢と虚脱をアルファルドに篭めて刻み込んでゆく。
 鋏を振り回して抵抗するカルキノスに、アーマデルは胸の奥に鋭い痛みを覚えた。
 アーマデルの故郷ではこういう教えがある。
 ヒトは運命の糸を紡ぎ、その糸は歴史と奇跡を織り成す。
 変わらず巡りくるものは世界に刻まれた理のみで、運命も、巡りくる未来も、ヒトの行動で変わるものである、と。
「だから既に定められた物語を逸脱する事は何とも思わないし、それが在るべき筋書きに戻ろうとするのも理に記されし巡り……」
 それでも、とアーマデルは小さく胸の内を吐き出す。
「他者を思う想いを、その結果を、折り取らねばならないのは残念ではあるな」
 向かってきた鋏を刃でいなしアーマデルはカルキノスへ、ヒュドラへと向けて呟いた。
「恨むな、とは言わないさ、それは自我あるものの正当な権利だ」
 

「おなじ、海のなかまの、せっかくの勇気を、無に帰してしまうというのも、心ぐるしいですけれど……弱肉強食こそが、自然の摂理であることは、きっと、おふたりも、わかってくださるでしょう」
 瞳を伏せ、『半透明の人魚』ノリア・ソーリア(p3p000062)は唇を噛んだ。海ではいつも弱い物から喰われていく。生きたい、という想いに優劣はなくともこの物語では強者がヘラクレスで、弱者がカルキノスとヒュドラだった。そういう事だ。
 二柱の海神の力を血を引く怪物には、此方も海神の力で対抗するまでとノリアはヘラクレスへと手を伸ばす。清らかな水流がヘラクレスへと引き寄せられ暖かく包み込んだ。
「足が軽い? それに、毒が……消えた?」
 自身を包み込んだ加護にヘラクレスは心底驚いていたが、やがてヒュドラとカルキノスへと向き直った。
 睦月が細い指先をカルキノスへ向ける。虹の光を纏った小さな星がこつんこつんとカルキノスに当たっては弾けて注意を引いた。
 鋏を避けて、突進を躱し、睦月は攻撃を重ねていく。但しトドメは勇者がささねばならない。
「今です、ヘラクレスさん。カルキノスを踏みつぶしてください!」
「わかりました!」
 睦月の掛け声と同時にヘラクレスが思いきり踵を踏み下ろした。
 小さな蟹に致命的な一撃を躱すことなど出来る筈も無かった。
 ぐしゃり。
 甲羅の砕ける音がする。
 声にもならない痛みがカルキノスの小さな身体を駆け巡った。

 余りにも呆気なかった。
 ああ、やっぱり私は死ぬんだ。
 消えてゆく意識の中でヒュドラが此方を見て何か叫んでいるのが見える。
 ヒュドラ、そんな顔をさせたかった訳じゃないんだ。
 私がもっと君のように強かったなら。もっと君のように賢かったなら。

 ――君に、そんな顔をさせずに済んだのだろうか。

 すまないヒュドラ、私は最期まで君の役に立てなかった
 その言葉を最後にカルキノスはピクリとも動かなくなった。
「……カルキノス、カルキノス!!」
 ヒュドラの慟哭が木霊し空気を揺らした。
 小さくて弱い癖に。
 それでもいつも一緒に居てくれた唯一の友だった。
 こんな悪蛇に寄り添ってくれるたった一人の親友だった。
 どうして、助けになんか来たんだ。
 死ぬかもしれないなんて分かっていた筈なのに。

 踏み抜かれ、掌から零れ落ちた玉のように砕けたカルキノスを前に、ヒュドラは牙を再度ヘラクレス達へと向けた。見開かれた瞳からは鮮血が滴り落ちている。
「よくも我が友を、カルキノスを無残に殺したなァッ!! この怒り、貴様らの腸を引きずり出しても!! 臓腑を引き裂いても収まらぬ!! 全員この場で燃やし、喰らい殺してやるわ!!!」 
 ヒュドラがヘラクレスと特異運命座標達に襲い掛かる。
 しかし奇跡は脆くも儚く崩れ去った。
 
 自慢の毒はノリアの加護でヘラクレスには効かなかった。
 がぱりと開いた口に睦月の放つ毒の魔石が食い込んだ。
 血に濡れた傷口をアーマデルの柘榴の香りが焼いた。
 鈍く光る牙はテルクシエペイアのマンドリーノが砕いた。

 毒は無効化され、逆に毒を植え付けられ焼かれた傷は再生することは無く。
 動きはひどく緩慢で噛みつく為の牙すら残されていない。
 勝敗は火を見るより明らかだった。
 ヒュドラとて勝ち目がないことは分かっていた。
 自棄を起こしていたのかもしれない。

 ヘラの期待に応えられなかったこと。
 自分が、こんなにも弱かったと思い知らされたこと。
 勇気を出してくれた友を救えなかったこと。
 
 許してくれ、カルキノス。
 我はお前が勇気を出して戦ってくれる程、価値のある者ではなかったのだ。

「……今だ!」
 ヘラクレスが巨大な岩を持ち上げ、飛び込んできたヒュドラに目がけて振り下ろした。
 頭蓋が砕け脳髄が抉れる。不死身の身体では死ぬこともできず唯々痛みと苦しみだけがヒュドラに与えられた。それがお前の罰だとでもいう様に。
 かくして、蟹座の神話は在るべき姿へ戻ったのだ。

●何百年何千年経とうとも
「変えてはならない結末を、変えてしまう心配が、ないように……もちろん、手を出す必要がないことが、いちばんですけれど……」
 歪められた神話を元に戻す。それは判っている。
 だがそれは、結局此方の都合に過ぎず――。
 巨岩に潰されたヒュドラと踏み潰されたカルキノスをノリアは悲痛な表情で見ていた。
(いずれにせよ、わたしが、異世界の海神に、つらなるものに、弓をひいたことだけは、事実ですの)
 だから、せめて。彼女らのいのちが、なんらかの形で、つながるように。
「ヘラクレスさん」
 小瓶に二柱の神が居た証左である毒の雫を詰めて、ノリアはヘラクレスに差し出した。
 不思議そうに首を傾げつつも小瓶を受け取ったヘラクレスにノリアは戒めの予言を口にする。
「勝利に、傲慢になっては、いけませんの……そのときは、いつか、かならずや…きょうの、本来の……つまり、ヒュドラの毒にて死ぬという結果が、舞いもどってくるでしょうから」
 これは『そういう物語だった』だからヘラクレスは此処に立っている。
 しかしカルキノスの奇跡が起きていたら、叶っていたら、冷たい躯となり沼へ沈んだのは屹度ヘラクレスの方だったに違いない。
「あの、あなた方は何者なのですか? どうして私を助けてくださったのですか?」
 ヘラクレスの問いにテルクシエペイアは唯の通りすがりの旅人さ、と笑う。
 
「星空に飾られれば多少はヒュドラとカルキノスも心が休まるのでしょうか」
「ああ。それがせめて、せめて少しでも慰めになればいいと、祈っている……」
 
 睦月の呟きにテルクシエペイアが返す。そのまま彼はカルキノスの亡骸に歩み寄り、そっと拾い上げてヒュドラの墓標の隣に丁重に葬ってやった。
「ま、暗い歌は普段あんまりやらないんだけど……たまには湿っぽいのもいいだろう」
 いつもの明るい笑みとは違い、眉根を寄せた悲し気な微笑みを浮かべ、テルクシエペイアはマンドリーノを奏でる。

 友のために戦ったカルキノス
 天に上げられ星の座となる
 同じく天に上った孤独な星
 抱いたヒュドラの隣で輝き
 何百年何千年経とうとも
 神が姿を隠した後の世でさえ
 孤独ではなかったあなたがたの物語は
 星の名と共に語られる

 祈りの詩はあの天高く輝く星空へ届いただろうか。
 その答えは屹度、二匹だけが識っている――。

成否

成功

状態異常

なし

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