PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<イデア崩壊>Empアイテールの証明

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ワールドオーダー
 介入手続きを行ないます。
 存在固定値を検出。
 ――イレギュラーズ、検出完了。
 世界値を入力してください。
 ――当該世界です。
 介入可能域を測定。
 ――介入可能です。
 発生確率を固定。
 宿命率を固定。
 存在情報の流入を開始。
 ――介入完了。
 Rapid Origin Onlineへようこそ。今よりここはあなたの世界です。

 ――■■■■■■■-CCC-■■■■■DEA
 ――boot...OK

 ――すべての前提フラグを獲得したことにより、秘匿オブジェクトCCCを解放します。
 ――おめでとうございます。隠しイベント『■■■■■■■-CCC-■■■■■DEA』が開始されました。
 
 縺雁?縺。繧?s繧貞勧縺代※

●知らなければ夜はこない
 崩れゆく町並み。悲鳴をあげ逃げ惑う人々。
 あがる煙と炎を屋敷のベランダから見つめ、領主マニエラ・マギサ・メーヴィンは悲しげに目を細めた。
「なぜ、この領地だけを……首都や資源豊富な土地にはまるで牙を剥かなかったというのに……」
 閉じた扇子を唇にあて、考え込む。
 そんな彼女が振り返ると、五人の男女が並んでいた。
「マニエラさんは、この僕が必ず守るよ! 安心して!」
 『わたしの世界』八田 一(ハジメ)は獣めいた右手の爪をガチリとならし、決意に満ちた目で言った。
 男子高校生のような幼くも大人びた顔立ちと、やや改造された学生のような服装。
 誠実そうな、そして優しい心のありようが彼の全体から溢れていた。
「そういうこと! 街を襲う奴らなんか、俺たちの必殺技でぶっとばしてやるぜ! 弱気を助け強きをくじく、これがヒーローだからな!」
 同じく『少年の世界』八田 英雄(ヒデオ)は炎のもえる右手を握りしめて見せる。中世を思わせる服装に鱗のベストをつけた少年だ。爽やかで快活な、英雄譚の主人公のようなキラキラとした目をしている。
「そうよね。ええと……なんだったかしら? 誰かが攻めてきた? なら、倒せば良いだけね」
 今まさに破壊が起きているというのに、暢気に首をかしげる『少女の世界』八田 海(ウミ)。
 まるで魚と人が混じり合ったような外見をした少女で、右目は深い海の色をしていた。
 緊急を要する際にも少女らしさを捨てない……逆に言えば少女らしさ以外を喪失しているかのような振る舞いを見せる彼女を見ていると、どこかほっとする気持ちになれる。
 そんな彼女がただ抜けているだけでないのは、体から時折湧き上がる蒼き微光からわかる。深い魔力をもち、クールな印象と混じり合って魔術師としての頼もしさを感じさせた。
 一方で、ぶっきらぼうな傭兵めいた格好をした『カレラの世界』八田 是意(ゼイ)がフリントロック式のライフルを肩に担いで体を傾ける。壁にどすんと寄りかかり、くわえた煙草に火を付けた。
「俺はなんでも構わねえよ。こっちは雇われただけの傭兵だからな。だろ? 憂」
「『ええ、ええ、その通りですわ。わたくしの主人はマニエラさまですもの。ご命令とあらばこの命尽きるまでご奉仕致しますわ』」
 声をかけられ、『ワレラの世界』八田 憂(ウイ)という舞台演劇に登場しそうなほど派手な衣装をまとった女が、ミュージカル演劇のごとく大げさな身振りで語り始めた。
 その語り口調があまりに芝居がかっており、言葉のすべてが台本を読んだかのように聞こえた。
 そんな彼女に小声でささやきかけるゼイ。
「ごますりがお上手なこったな」
 ウイは目を細めて歪め、表情をほぼ変えぬまま小声でささやき返した。
「『あなたのように事態を焚き付けたいだけの人間とは違いますので』」
「似たようなもんだろうよ……」
 二人はそこでこそこそと話すのをやめ、マニエラへ改めて向き直る。代表してハジメが口を開いた。
「マニエラさんは確かに周りの貴族に嫌われてる。けど僕は知ってるんだ。マニエラさんを好きな人も、マニエラさんを信じてる人も沢山いるって。
 今回襲ってきたのも、本当のマニエラさんを知らないやつらの差し金に違いない。けど――」
「俺たちがぜってー守ってやるからな!」
 割り込むように叫ぶヒデオに、ハジメが思わずのけぞった。
 ウミが表情を変えずに『まあ、私もつきあってあげてもいいけど』と頷き、ゼイとウイも笑顔を作って頷いた。
「マニエラさんを狙う悪い奴を、やっつけよう!」

●オーダー内容は『マニエラの拉致』
「なんでだ…………!!」
 頭を抱え、額をデスクにがつんとぶつけるマニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)。
 ROOという仮想世界の中ではリアナルという名のアバターをつかいいくつものクエストをクリアしてきた結構な猛者である。
 ここは練達セフィロト。ROO研究室のひとつ。クエストの打ち合わせや会議を行うための部屋だが、マニエラにはどうやらログイン前にクエスト内容が知らされていたようだ。
「この流れなら『マニエラの護衛』とかだろう!? どうしてそうなる!?」
 デスクに置かれた書面には、しっかりと『マニエラの拉致』と書かれていた。
 その一方で、パイプ椅子の上に座る……とみせかけて微妙に浮いてる八田 悠(p3p000687)。マニエラとは対照的に、『勇』というアバターでROOにログインこそしているもののクエスト攻略にはあまり参加していないイレギュラーズだ。
「あんまり詳しくないんだけど……このマニエラっていうのは? 君とは違うんだよね?」
「……そうか、そこから説明しなきゃだよな」
 むくりと体を起こし、マニエラは額についた赤いあとを手で隠した。

 ROO(Rapid Origin Online)は練達国が目指す混沌法則解明に向けた研究プロジェクトIDEAよりうまれた仮想世界構築システムである。ログイン装置によって仮想の混沌世界へ入り込み通常では不可能な規模による様々な実験を行う……というものであるはずだったが、あるときよりシステムにバグが発生。バグは拡大し続け、ついには『ネクスト』という混沌と似て非なる、そしてMMORPGめいた仮想世界を作り出してしまった。
 そんな世界の中で、マニエラは『リアナル』としてログインしいくつものクエストに挑戦してきた。
 中でも印象深いのは、自分と全く同じ名前で同じ顔をした伝承王国貴族マニエラ・マギサ・メーヴィンの救出クエストだ。
 よりによって人工竜に襲われたほぼ無防備な領地(屋敷ひとつしかない)から彼女を救い出すことは難しく、皆の活躍をもってしても惜しいことに救出対象の貴族マニエラを死亡させてしまったのだった。
 ――が、しかし。
「彼女は生きていた。どころか領地も無傷……どころかそれまでとは比べものにならないほど豊かに発展した街がそこにはあった」
 額をなでながら語るマニエラに、悠は首をかしげる。
「それはおかしなことなの? 確か、ROOの中では何度死んでも生き返るんだったよね」
「それは私達PLがログインしているアバターだけの話だ。仮にも混沌をコピーしようとしただけあって、死者は蘇らない。それが普通なんだよ」
「普通ではないことが……起きたと」
 悠は口元に指を当て、すこし考え込む仕草をした。
「まわりの人間はそれを認識してるのかな?」
「いいや、記憶にも記録にも残ってないらしいな。ログを解析した時だけ死亡したことがわかる程度だ。研究員はこれを『リセット』と呼んでる」

 ――『リセット』。
 それはROO内で時折観測される再構築バグだ。
 死亡した人間。破壊された物品や建物、土地などが再構築されるというもので、しばしば以前とは大きく異なる状態に再構築されるが周囲の記憶や記録も同時に書き換わるためかそれに違和感をもつ者は少ない。少ないだけで、存在はしているのだが……。
「マニエラは過去七回『リセット』されてる。詳しい経緯は省くが、そのたびに彼女のまわりに顔がピクセルモザイクによって隠れた人間……通称『ピクセル』が増えていったらしい。
 『ピクセル』は私達ログインアバターが見れば明らかに異質だが、当人たちはそんなモザイクは全くないかのように振る舞う。まわりの人間もそれが認識できないようだな。
 以前にたようなケースに対応したことがあったが、ピクセル化したNPCをそうでないNPCが気づき指摘すると、すべてのピクセルから殺されそうになるらしい」
「まるでピクセルのスペシャリストだね」
 感想を述べる悠に、マニエラはよしてくれといって首を振った。
「まあ最悪なことに、今は領主マニエラを除く全領民が『ピクセル』化している。そう言う意味じゃ、ピクセル化してない領主マニエラを連れ出すのは悪いハナシじゃないんだが……」
 似たようなケースの顛末を思い出し、マニエラは苦い顔をした。
「ともかく。こいつは特別なクエストだ。放置する手はないだろうな」
 『■■■■■■■-CCC-■■■■■DEA』はこのROOにて発生した隠しクエストだ。
 ROOはMMORPGのような形式をとっているが、この中で発生するクエストをクリアしていくことでバグの原因究明や囚われトロフィー化した研究員の救助などに繋がっている。クエスト解決はそれだけで意味のあるオーダーなのだ。
「まあ、わかったよ。ProjectIDEA(プロジェクト・イデア)、ねえ……」
 悠は椅子から立ち上がり、ログインルームへと歩き出す。
「これは、僕も動かなくちゃいけない時が来たのかな? なんだかとても、意味深が過ぎる」
 クエスト内容に書かれた、『マニエラの護衛』として連なる名前。
 それはすべて、『八田の系譜』にあたる存在たちだった。

GMコメント

※こちらは連動シナリオ<イデア崩壊>です。
 同時公開されている同シナリオタグのなかから一つにだけ参加することができます。
 複数に同時予約した場合もひとつにだけ当選できます。

●オーダー
・成功条件:領主マニエラを拉致し、領外へ強制的に連れ出す。
・オプションA:『八田の系譜』をすべて倒す
・オプションB:『八田の系譜』の真意を推測する、あるいは想像する
・オプションC:『八田の系譜』の真意を探り当てる

 メーヴィン領の中心であるメーヴィンの館に突入し、領主マニエラを確保、強制的に抱えて領外へ連れ出します。
 説得や欺きによって領主マニエラを自発的に領外へ出させることはきわめて困難です。ですので、敵対する存在を片っ端から倒して彼女を『持ち出す』のが打倒な解決法になります。

 現在メーヴィン領は謎の組織アンロットセブンによって激しい襲撃を受けており、兵力はほとんどそちらに裂かれています。
 また領民たちも我先にと安全な場所に隠れているためこの作戦は『館の前から』いきなりスタートできます。扉を蹴破って突入してやりましょう。
 そこそこの兵が撃退しようと襲ってきますが、彼らはさしたる敵にはなりません。

●エネミーデータ
『八田の系譜』はみな八田姓をもっていますが血縁関係は皆無です。厳密には同じ祖をもつため血縁と言えなくもないですが、肉体的にはすべて隔絶された個によって構成されています。

・『わたしの世界』八田 一(ハジメ)
 獣の右手をもつ少年。真面目で優しく素直な高校生めいた存在。
 勇敢に戦い、そして誰かを守るために己を貫く。

・『少年の世界』八田 英雄(ヒデオ)
 右手に炎を宿した少年。必殺バーニングファイヤーで悪い敵をやっつける正義のヒーローを目指している。
 夢にまっすぐで嘘はニガテ。ただ人の話を聞かない一面も。

・『少女の世界』八田 海(ウミ)
 深層の魔力を宿した少女。クールな精神には女性らしさが溢れ、それ以外を喪失しているようにも見える。
 高い治癒能力と攻撃能力を併せ持つ。

・『カレラの世界』八田 是意(ゼイ)
 傭兵めいた胡散臭い男。フリントロックライフル(ライフリング加工されたフリントロック銃)を武器に戦う遠距離戦闘を得意とするファイター。かといって急に近づくと引き撃ちされるだけなので後回しにした方が健全な相手。
 特殊抵抗値が高く、BS全般に対してそつなくかわす。

・『ワレラの世界』八田 憂(ウイ)
 あまりにも妖しい女。どんな力を持っているのか未知。過去調査が行われたが、そのすべてで異なる能力と戦い方を持っていたことから今回もどうでるかが一切不明。

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●ROOとは
 練達三塔主の『Project:IDEA』の産物で練達ネットワーク上に構築された疑似世界をR.O.O(Rapid Origin Online)と呼びます。
 練達の悲願を達成する為、混沌世界の『法則』を研究すべく作られた仮想環境ではありますが、原因不明のエラーにより暴走。情報の自己増殖が発生し、まるでゲームのような世界を構築しています。
 R.O.O内の作りは混沌の現実に似ていますが、旅人たちの世界の風景や人物、既に亡き人物が存在する等、世界のルールを部分的に外れた事象も観測されるようです。
 練達三塔主より依頼を受けたローレット・イレギュラーズはこの疑似世界で活動するためログイン装置を介してこの世界に介入。
 自分専用の『アバター』を作って活動し、閉じ込められた人々の救出や『ゲームクリア』を目指します。
特設ページ:https://rev1.reversion.jp/page/RapidOriginOnline

※重要な備考『デスカウント』
 R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
 現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。

  • <イデア崩壊>Empアイテールの証明完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年09月07日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

Siki(p3x000229)
また、いつか
勇(p3x000687)
あなただけの世界
夢見・ヴァレ家(p3x001837)
航空海賊忍者
リアナル(p3x002906)
音速の配膳係
イデア(p3x008017)
人形遣い
崎守ナイト(p3x008218)
(二代目)正義の社長
黒子(p3x008597)
書類作業缶詰用
いりす(p3x009869)
優帝

リプレイ

●風を封じる者
 パンの香りがする大通り。しかしひとけはなく、遙か遠くで破壊の音がする。
 一時的に収まったものの、ややあってその音は再開した。
「こいつは、マズイかもな……急がないと破壊がここまで及ぶぞ」
 遠くの様子をうかがっていた『調査の一歩』リアナル(p3x002906)が屋根から飛び降り、舗装された道路へと着地した。
「クエストリストには確か、この領地を襲う勢力の撃退があったよな。そのチームはクエストに失敗したのか?」
「さあ……」
 そこまでは分からない、と『書類作業缶詰用』黒子(p3x008597)は首を振った。
 立ち止まり仲間の合流を待っていた『人形遣い』イデア(p3x008017)が歩き出す。
「どのみち、街の破壊が再開したということはタイムリミットが近づいたということ。こちらのクエストも急がなければならないでしょう」
 手をかざし、クイッと小指を立てる動作をする。それによって彼女がひいていた大きなキャリーケースが解放され、中から折りたたまれた状態の巨大な操り人形が出現。ガチャガチャと自らを組み立て、まるで漆黒の鎧を纏った騎士のような人形が形成される。
「それにしても、正面から堂々と乗り込んで領主を強だ――誘拐とは、痛快な依頼ですねえ」
 シャキンと宇宙包丁と宇宙バールを取り出して両手に構える『航空海賊忍者』夢見・ヴァレ家(p3x001837)。
「そしてまた夢見の悪名が増えてしまいますね。そう悪名は夢見に、現実の夢見のものなのです」
「げんじつ……」
 可愛いキーホルダーのさがったスナイパーライフルをむねに抱えた『かつての実像』いりす(p3x009869)。よく見ればライフルの形をした水鉄砲で、スコープ部分が水タンクになっていた。
 もっというと、格好が思いっきりスク水だった。
 その様子を二度見するヴァレ家。
「ひっ、なんという露出度! 今からバトルなのですよ!?」
「あなたも大してかわってませんよ……!?」
「言われて見れば! 夢見、なんとえちえちな娘なのでしょう!」
 まるで他人事みたいに、というか実際他人の評判をねじりにいくヴァレ家。
 『青の罪火』Siki(p3x000229)はその様子を横目に見ながら、領主の屋敷の前で足を止めた。
 同じく足を止める『一般的少年』勇(p3x000687)。
 事前情報の通り、殆どの兵はこの領地を襲撃しているアンロットセブンの迎撃に向かっているのだろう。門番すら不在の有様だ。
 残っている護衛戦力は八田の系譜、それも主格五人のみだ。
 主格、五人。
「なんで、あいつらが……」
 『一般的少年』勇(p3x000687)は目に見えて分かるくらいに顔をしかめた。
 主格。かつてある存在が世界の形を維持しきれなくなるほど混ざり合い少年少女の二分類に別たれた後、観測による再分類によって発生した『世界観』たち。そのうち『私、彼、彼女、彼ら、我ら』より生じた人格もまた、『あなたの世界』こと八田 悠と同じく混沌世界に召喚された……と思われているが。
「それがわざわざ集合するか? 僕からしたら如何にもな怪しさしかないんだけどねえ……」
「何は、ともあれ!」
 顔の前で腕を十字に交差する謎のプレジデントポーズをゆっくりと解きながら、『正義の社長』崎守ナイト(p3x008218)がニカッとハンサムに笑った。
「俺たちのmissionは領主マニエラを連れ出すこと。それによって『リセット』が再び起こる可能性があるが……前評判通りの女傑なら乗り越える事を信じて、真実を見せてやんなきゃな!」
 さあ、missionを始めるぜ。ナイトは指を鳴らすとプレジデントソバットキックによって屋敷の扉を蹴破った。

●この世に罪ありき
 屋敷の扉の内側にあったもの。
 それは高級なロビーであり、曲線を描く階段であり、美しい花であり、高価そうな彫像であり、そしてなにより――。
「賊め、死ねェ!」
 完全武装した衛兵たちによる一斉攻撃であった。
 既にバフを済ませたのだろう。強烈な殺気と、なにより物理的な剣や矢、そして銃弾や魔術が力ある微光すら伴って殺到する。
 そのすべてが着弾し、剣を握っていた兵士が『やった!』と叫んだ。
 対して。
「そこは『やったか?』ではございませんか?」
 平淡な、感情をかんじさせない声。ハッとして兵が顔をあげると、彼が剣を突き立てていたのは鎧を着た人形の胴体。それも中身のないスキマであった。
 人形は兵の剣のみならずすべての攻撃を受けてなお、平然と立っていたのだ。
 キュッと両手を引き絞るように構えるイデア。人形の回転によって騎士の上半真が切断され、その上をヴァレ家とSikiが飛び越えていく。
「馬鹿な! つ、次だ!」
 さらなる魔法を放とうとした兵に対して、ヴァレ家は宇宙バールを叩きつける。
 鋼のかぶとを被っているにもかかわらず、その装甲をバールが貫通。突き立てられた兵は白目を剥いて膝から崩れ落ちる。
「足止めにもなりませんね。さあ、ここは一気に行ってしまいましょう!」
 承知した、という意志を示し黒子が走り出す。降魔の杖を握りしめると、暗闇の魔術を発動。身を引いて射撃を仕掛けようとしていた兵士たちを闇が包み込み、目に見えぬ斬撃のラッシュが襲う。
 ばたばたと崩れ落ちる兵達。マスケット銃を握った銃兵のうち半数が倒れたことで、残る兵が階段を駆け上がる。高所よりの射撃にうつろうというのだろうか。
 それを逃がすリアナルではない。
 マギラニアR――五輪バイクを二輪のようにスリムに変形させると装着した機械の翼によって包み込む。まるで細長い弾丸のように身を整え、リアナルは階段をすさまじい速度で駆け上がっていく。兵を轢き、もしくは撥ね、やぶれかぶれになって反撃してくる銃弾を弾きながら。
「仕上げ(finale)だ!」
 コートのように羽織った武装から副腕を伸ばすことで上階の手すりに掴まり、壁を駆け上がってショートカットしたナイトは、やっと駆け上がってきた兵へむけてビッと指鉄砲を向ける。
「これで……仕舞(curtain call)じゃねーの」
 bangという文字が空中に現れ、目に見えぬ弾丸が兵を打ち抜く。
 力なく階段を転げ落ちていく兵。
 いりすはそれをみて『ひえっ』と行って横によけると、身を低くしながら上階へとあがっていった。
 通路側からは、開いた扉を盾にしつつこちらへ魔術射撃を仕掛けてくる兵が二名ほど。
 直撃をさけるようにいりすは横っ飛びに、ナイトは無駄にバク転しながら通路の脇へとよける。
 ややカーブを描いた炎の魔術弾がよけた彼らをすりぬけ、手すりへとぶつかり炎上させた。
 不気味でしかたないのは、つい先ほどまでこちらへ襲いかかってきた兵も、今まさに魔法を撃ってきた兵も、誰もかもが顔にピクセル状のモザイクをかけていることだった。
「ちょっと不気味……あれが『ピクセル』……」
 いりすは両手でだきしめるように抱えていた狙撃銃型水鉄砲を構えると、スク水の身体で床にごろんと転がりながら通路へと飛び出した。そしてその姿勢から連続で射撃。
 その衝撃で通路の向こう側まで転がってしまったが、威力は充分なようで扉ごと貫いて兵士を吹き飛ばした。
 そこへ一気に突っ込んでいく勇。
 部屋側へと飛び込むことで射撃をかわしていた兵が再び通路へ飛び出し勇の脇腹に剣を突き立てる――が、勇は痛がるそぶりすらみせない。ちらりと兵を見下ろし、そして握りしめた拳でその頭部を殴りつけた。
 受けたダメージが乗った一撃が、ヘルメットをおおきくへこませる。そんなダメージをうけた人間がまともでいられるはずは、もちろんない。
 崩れ落ちた兵をはぎとり、刺さった剣を抜き、そして捨てる。
 次はどんな兵隊が出てくるのだろうと前を向くと……。
「そこまでだ、悪党! マニエラさんに手出しはさせない! 僕が相手だ!」
 獣のような鋭い爪をもった右腕。それ以外はどこにでもいそうな平凡な少年の姿。
 『わたしの世界』八田 一が、立ち塞がった。

●人は家畜や植物を殺して食べなければならない。罪は力(エネルギー)であり、罪は世を動かすのだ。
「そこまでだ、悪党! マニエラさんに手出しはさせない! 僕が相手だ!」
 そう叫ぶ少年、八田 一(ハジメ)。
 ハジメは獣の腕を突きつけるような姿勢でこちらをにらみつけている。
「ふぅん……」
 勇は目を細め、そして帽子をゆっくりと被り直した。
 この時点で分かったことは、二つ。
 ハジメの顔に、モザイクはかかっていない。『ピクセル』化していない。
 次に、『勇の姿』を見てもなんの反応も示さない。ただの賊だと思っているようだ。
(彼は誰かがログインしたアバターじゃない。それに、この土地の領民でもない)
 事前情報が嘘でなければ、この土地の領民は『領主を除いて全員が』ピクセル化しているということだった。
 『八田の系譜』たちは何か目的があって領主マニエラに近づいた傭兵集団だということになる。
「雑務はメイドにお任せくださいませ」
 イデアがスッと前へ出る。そして人形を起動させ、ハジメめがけて襲いかからせた。
 騎士人形の剣とハジメの爪が激突し、火花を散らす。その間も、イデアは懐に入れていた各種BS緩和効果のあるポーションを取り出し仲間達へと放り投げた。
 それをキャッチして走り抜け――ようとした途端。
「ファイナルファイヤー!」
 炎を纏った少年が通路を出た先で突然襲撃をかけてきた。
 咄嗟に宇宙金だらいを取り出して攻撃をうけるヴァレ家。
「なにっ!? 俺のファイティングバーニングを受け止めるなんて!」
「ファイナルファイヤーじゃなくて?」
 右手に宿した炎と、少年漫画の主人公めいた顔立ち。
 間違いない、『少年の世界』八田 英雄(ヒデオ)だ。
「うるさい! もう一度だ、バーニングファイヤー!」
 いうたびに名前の変わる必殺技。だがしかし、彼のあげる炎はすさまじい威力をもっていた。
 思わず吹き飛ばされ、ヴァレ家は壁に叩きつけられる。
 が、取り出した宇宙鎖分銅を放って少年の左腕へと絡みつける。
 そして、『ここは拙者にお任せを』とサインを出した。
「リアナル殿、後は頼みましたよ。拙者がいなくても寂しくて泣かないで下さいね!」
「ああ、寂しいよ。泣いちゃうかもな」
 左右非対称に笑って、リアナルはバイクで駆け抜ける。
 それにつかまって、勇とSiki、そして黒子も屋敷奥へと突っ切った。
 扉を突き破ったそこはなんとダンスホール。
「ようこそ……なんてね」
 光の煌めく海面のようなドレスをきた少女が振り返る。『少女の世界』八田 海(ウミ)だ。
 既に作り出していた氷の槍が空中で無数に回転し、そのすべてがリアナルのバイクへ殺到した。
 破壊されるマギラニアR。機械翼にも不調が起き、リアナルは派手に投げ出された。
 が、それは彼女だけのこと。
 Sikiと黒子は素早く離脱し、勇に至ってはそれを予め察してかホールの外で既に離脱していた。
「ここは行き止まりみたいだ。引き返したいけど……」
「させるわけないでしょ?」
 更に生まれた無数の槍が、殺到する。黒子たちはそれを迎撃。リアナルたちが下がるだけの時間を稼ぐ。
 黒子の類い希なる頭脳が、ここは二人がかりでウミを抑えリアナルたちをホールから外へ出すのが正しいと解答を導き出したのだ。
 早く行けというサインを出してくる黒子に頷き、勇とリアナルはホールをあえてまっすぐに突っ切り、近接戦闘を予感して身構えたウミの両脇を駆け抜けていった。
 それはナイトといりすもである。
 彼らは、というかいりすはホール奥にあるステンドグラスへライフルを乱射。破壊すると、その大きな穴から外へと飛び出した。
 屋敷の外へ? 否。中庭へである。
 着地し、転がり、そしてスタイリッシュプレジデントポーズで立ち上がるナイト。
 ただポージングしたわけではない、着地狩りによる射撃をプレジデントバリアで弾くためだ。
「おっと……ひっかかるほど馬鹿じゃあなかったか。残念残念」
 フリントロックライフルを構える男。おそらくは『カレラの世界』八田 是意(ゼイ)。
 ふと周りをみると、そこは花咲く庭園だった。
 美しく飾られた植物が並び、爽やかなゆずの香りがする。ただ歩いているだけでも良い気持ちになれそうだが、今はそんな余裕はない。
「『マニエラ様、わたくしたちの後ろへお下がりください。この命尽きるまで、必ずお守りすることを約束しますわ』」
 舞台女優のような洗練された、しかし恐ろしく胡散臭い動きで言う女。『ワレラの世界』八田 憂(ウイ)。
「ハジメやウミを倒してここまで来たか? だったらヤベェ……いや、違えな? 誰か残して足止めしてきたか」
 ゼイは勇やリアナルをそれぞれ見つめ、そして指を鳴らした。
 すると茂みの裏などに隠れていた兵達が姿を見せ、一斉にマスケット銃を構えた。もちろんだが、全員ピクセル化している。
 対して、ナイトはプレジデントポーズをとったまま副腕にろくろを用意させ粘土をこねそこに手を当てなんかほそながーいツボを作り始めた。
「モザイクのかかった奇妙な領民たち。あれは良くねぇモンだ。俺達特異運命座標はソレに対処した実績がある。一緒に本当の意味で、この領地と領主を守らねえか?」
 問いかける先は領主マニエラである。
 ナイトの言う言葉にぴくりと耳をふるわせた。
「あなた、まさか――」
「『耳を貸してはいけません領主様! 彼らこそ悪魔の使い。この領地を襲撃する者たちの仲間ですわ!』」
 説得を邪魔するように間に割り込むウイ。
「この地で領主を守る事は悲劇を広げる行為に他ならねぇ。それでも正義と囀るなら、俺の正義と勝負じゃねーの!」
「『望むところですわ。わたくしたちこそが真なる正義なのですから!』」
 ウイが腕を振ると突如多次元宇宙のゲートが開き、あらゆる恐怖が実態を伴わず出現。ナイトへと殺到する。焼き上がったツボは一瞬で粉砕され、ナイトは大きく飛び退いた。
 それが戦いの火蓋である。火蓋は切って落とされた、というやつだ。
「えいっ!」
 いりすは改造されたビーコン弾を発射。茂みの裏から狙っていた兵たちを閃光が包み込み、てやーと言いながら打ちまくった水鉄砲によって兵たちが次々に倒れていく。ついでにいりすも自分で撃ったライフルの衝撃でひっくりかえった。
 リアナルも茶色い小包を取り出すと反対側の兵たちへと投擲。空中で爆発したそれに驚いてひっくり返った兵たちを尻目に、領主マニエラめがけて走り出す。
「ああ、『あのとき』も……最初からこうすればよかったな」
 そう語った時には既に、リアナルは領主マニエラを小脇に抱えていた。
「えっ?」
「なっ!?」
 近接戦闘になると腰のナイフに手をかけていたゼイは虚を突かれた形になって振り返る。
 そしてリアナルへと銃をつきつけ――たその銃口を、グッと勇が掴んだ。
 発砲によって手首から先が吹き飛ぶ。
 が、その間にリアナルは機械翼による羽ばたきをかけ、再召喚したマギラニアRを五輪モードにして飛び乗った。猛スピードで中庭を抜けていく。
「テメェふざけんな! そいつを返――」
「おっと。君には聞きたいことがある」
 勇は無事な方の腕でゼイの襟首を掴むと、すさまじい力で地面へと投げ落とす。
「馬鹿が! 質問ごっこに答えるとでも――むぐっ!?」
 叫ぶゼイの口に、手首から先がなくなった腕を押しつけ無理矢理黙らせる。
 そして『しー』とわざとらしく言って首を振った。
「クエスト内容には『真意を探る』とあった。君たちの意図とは何をさす? 決まってる八田の系譜存在外、『it』。かたちなき無念であり、自我ある無形。主格すべてを束ねる可能性のある、『指向性ある力』」
「……!」
 ゼイが暴れる。拘束を解きたいからか。それとも、真意を解かれることを防ぐためか。
「けど真意とは……真なる意図とは。『真(sin)』とは?」
 がぶり、とあろうことかゼイは勇の腕を食いちぎり拘束を逃れた。データ粒子となって消えゆく肉を吐き捨て、距離をとる。
「それ以上言うな。やめろ! [sin]に触れるな!」
「嫌だと言ったら?」
 勇は拾いあげたフリントロックライフルを突きつけ……そして。
「いや、もう『時間』みたいだね」

 その瞬間、すべてが消えた。

●真(sin)なる罪(sin)
 すべて消えた。
 美しい庭園も、屋敷も、ピクセル化した兵たちも、もちろん街も領民も。
 あったはずの学校も、襲撃に参加していたはずのアンロットセブンすらも。
 そして、そんな風景の中で、舞台女優のごとき女『ワレラの世界』八田 憂(ウイ)が狂乱したような声をあげた。
「そんな、うそ! 嘘よ! 上手くいくはずだったのに!」
 それまでとは全く異なる、心からの言葉に聞こえた。
 彼女のかざす両手はまるで空気の中に溶けるかのように拡散し、希釈され、それは手どころか全身にまで至った。
 最後に残った口が言う。
「わたくしたちが ひとつに なれる はずだったのに」

 すべてが希釈され、溶け合い、渦をなし、そして。
 ピンク色の長い髪と美しい肢体が現れた。
 一糸まとわぬ美女が、目を開く。
「自己紹介をした方がいいかな」
 美女は、こう述べた。

「――『偽の世界』八田 罪(sin)」

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成否

成功

MVP

勇(p3x000687)
あなただけの世界

状態異常

夢見・ヴァレ家(p3x001837)[死亡]
航空海賊忍者
イデア(p3x008017)[死亡]
人形遣い

あとがき

 ――領主マニエラを領外へ連れ出すことに成功しました
 ――八田の真意(sin)に触れることに成功しました

 ――メーヴィン領が『リセット』され、広大な牧場とわずかな領民が再構築されました。彼らのうちピクセル化した人物はいません。
 ――メーヴィン領にはマニエラの夫となる人物がいるようです。
 ――マニエラ領主は記憶を保持したまま残存しています。リアナルたちを命の恩人であると考え、リセットされた領地の経営に着手しました。


 ――error
 ――異常な改ざんが行われました
 ――異常存在『偽の世界』八田 罪(sin)が出現しました
 ――アバターに深刻な影響が予想されます。
 ――強制ログアウトを開始.....

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