PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<半影食>歪む摩天楼、歪なるがらくた

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 練達、希望ヶ浜。
 ここは、望まずして混沌へと訪れてしまった旅人達の拠り所。
 彼らは元の世界と同じ暮らしを求め、混沌にいるという事実を認めぬまま日常を過ごそうとする。

「はあ……」
 すっかり日は暮れ、家路につく小宮・綾菜は溜息をつく。
 こんな世界に来てまで、自分が選んだのはOLであらんとすることだった。
 異世界とか、ファンタジーとか良く分からない。変化を望まぬ自身としては、静かな暮らしをしていたかったのだ。
 なんとか、同じ境遇の人々の集まる商社へと入社することができ、仕事にも慣れて落ち着くことができるようになった。両親と連絡がつかないのが気がかりだが、こちらでも友人ができるようになり、以前と変わりない生活ができるようになってきつつある。
「ふう……」
 改めて、溜息をついた綾菜は元の世界と変わらぬコンクリートの街並みにて曲がり角を折れる。
 程よい倦怠感。きっと、家に帰ればすぐ眠ることができるだろう。
 ぼーっとしながら歩く彼女は、いつものように自分のマンションへと向かっていたはずなのだが……。
 気づけば目の前の街並みが歪み、空気が赤みがかっていて。
「え……?」
 舗装されたはずの歩道やアスファルトが多層となっており、それらの間をどこまでも上下に伸びる高層ビルが連なっている。
 そして、歩道やアスファルトは所々斜面となって層を繋ぐ他、どこから現れたか分からない階段やエスカレーターがあちらこちらに設置されており、こちらも層の移動に利用できそうだ。
 ただ、どこからこの異世界に入ったのか把握できず、綾菜は右往左往してしまう。
 やむなく、出口を求めて歩き出す彼女だったが、前方へと現れた瓦礫とジャンクが合わさったロボットが目を光らせて襲い掛かってくる。
「きゃあああっ!!」
 疲れていたはずの体で、綾菜は後ろへと駆けだす。
 しかし、後方は人型となったコンクリートの塊の群れが行く手を遮る。
「ひっ……」
 綾菜はそれらに囲まれて尻もちをついてしまい、体を震え上がらせてしまうのである。


 練達の地では様々な事件が起きており、メディアを賑わせている。
 筆頭となっているのは、佐伯製作所やテストプレイヤーの行方不明事件。R.O.Oのシステムエラーが原因ではあるが、それらについての報道はない。
 練達へと流れついた人々は超常現象とも言える事態を認めようとしない為、致し方ないことと思われるが……。
「街頭モニター……だったか。便利なもんだね」
 夕暮れ時の街中にて、『海賊淑女』オリヴィア・ミラン(p3n000011)はこの街並みに紛れるべく、スーツ姿で眼鏡を着用している。見た目だけなら完全にOLといった出で立ちだが、オリヴィアは豪放磊落な彼女としてはこの街はかなり窮屈に感じていたようである。
「で、事件なんだが、夜妖討伐と旅人女性の救出依頼だ」
 渾天儀【星読幻灯機】こと「ほしよみキネマ」が新たな悲劇を予知してくれている。これまた便利だなと感嘆しながらも、オリヴィアは判明している情報を語る。
 練達の希望ヶ浜の街中に現れる異世界。それに一般人である小宮・綾菜が巻き込まれてしまうという。
「事件の起きる手前と、夜妖に襲われるタイミングは映っているが、異世界へと突入した場所が分からなくてね」
 街中を手早く探索し、異世界へと突入。そして、OLを保護して帰還までが依頼の内容となる。
 異世界も迷宮のようになっていて、探索の為の手段は必須だろう。ただ、真性怪異の力が強いこともあり、霊魂疎通を行うことは極めて難しいことを覚えておきたい。
 また、OLは異世界にいる夜妖らに襲われている可能性が非常に高い。
「この街を構成している素材が塊となったような敵が現れるようだね」
 瓦礫と交通標識や交差点信号機などの機械などが固まったジャンクマシンや鉄筋コンクリートで構成された人物大の人形が群れとなって現れ、迷い込んだ人を襲うという。
 それらをやりすごし、あるいは倒して異世界から脱出したい。
「そうだ。これを持っていきな」
 そこで、オリヴィアが各メンバーへと手渡したのは、『音呂木の鈴』。
 鈴から聞こえる浄い音が現実世界へと導いてくれるという。きっと探索の役に立ってくれることだろう。
「ま、こんなところだね。アンタ達の検討を祈ってるよ」
 もう日が暮れる。できる限り被害者と接触すべく、メンバー達は異世界への入り口を探しに街を捜索し始めるのだった。

GMコメント

 イレギュラーズの皆様こんにちは。GMのなちゅいです。
 <半影食>のシナリオをお送りします。

●目的
 小宮・綾菜の救出、保護。

●敵……夜妖×10体
〇ジャンクマシン×2体(略称:機械)
 全長5m程。瓦礫となった建物や歩道、信号機や交通標識等が組みあがった存在です。
 明確な意思を持っており、この異空間へと紛れ込んだ者の命を奪おうとしているようです。

〇コンクリートドール×8体(略称:人形)
 全長2m強、見た目がコンクリートで作られたゴーレム達です。
 その見た目のまま粉塵を伴って殴り掛かってきたり、自重をいかしたタックルを繰り出してきますが、体内に入っている鉄筋を伸ばしてくることもあります。

●NPC……小宮・綾菜
 25歳OL。商社系の企業に勤めているようです。黒いスーツを着用したスタイリッシュな女性です。
 その日も若干の残業をこなし、日が暮れてから帰宅しようとしていたところ、事件に巻き込まれてしまったようです。

●状況
 歪んで多層式のダンジョンとなり果てた異世界へと迷い込んだ小宮・綾菜を救出すべく、イレギュラーズもそこに飛び込むこととなります。
 その中は高層ビルが立ち並びながらも、道路や歩道が多層に並び、さらにそれらを階段やエスカレーターが繋ぐ迷宮となっております。
 その中で綾菜を保護して出口へと向かいますが、出口付近で夜妖らが襲い掛かってくる為その討伐を願います。
 綾菜をいち早く探し出し、出口を見つけ出す為の手段、併せて夜妖の対策が求められます。
 事後は保護した綾菜を家へと送り届けるなどするとよいでしょう。

●Danger!(狂気)
 当シナリオでは『見てはいけないものを見たときに狂気に陥る』可能性が有り得ます。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

 それでは、よろしくお願いいたします。

  • <半影食>歪む摩天楼、歪なるがらくた完了
  • GM名なちゅい
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年08月31日 21時50分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)
私の航海誌
楊枝 茄子子(p3p008356)
虚飾
天目 錬(p3p008364)
陰陽鍛冶師
白夜 希(p3p009099)
死生の魔女
糸色 月夜(p3p009451)
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
フィリーネ=ヴァレンティーヌ(p3p009867)
百合花の騎士

リプレイ


 練達、希望ヶ浜。
 コンクリート造りの街は夜になっても放射熱が残る影響か、やや暑い。
「この手の時間が多いな」
 再現性東京に住む高校生、『神異の楔』糸色 月夜(p3p009451)は夜に多く夜妖関連の事件が起きることもあり、夏休みだというのに騒がしくて寝てもいられないと悪態づく。
「異世界絡みが、ここまでの広がりを見せるとは」
 度重なる関連事件に、『流麗花月』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)はこのまま状況が悪化すると、再現性東京すら飲まれないかと懸念を示す。
「まずは捜索からだね!」
 天義出身、愛嬌あるぱっつん髪の女性『羽衣教会会長』楊枝 茄子子(p3p008356)が仲間へと告げると、希望ヶ浜では学生として活動する『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)が今回の依頼の流れを確認する。
 とりあえず、今から異世界への入り口探し。
 異世界に入ったら2班に分かれ、救出対象の女性を捜索して保護。
「後は合流して、異世界から脱出だな」
 それらを再確認し、メンバー達はまず女性が通勤路としている道をたどることに。
 まず、長い白髪に伊達眼鏡着用の『死生の魔女』白夜 希(p3p009099)がコネクションを活用する。
 例えば、街頭モニターに映し出される光景。看板やビル、歩道などの特徴を合わせ、予知と類似する場所がないかと調べていた。
 加えて、月夜もある程度当たりをつけた場所付近で、人が消える噂などないかを聞き込みを行う。
 可愛らしい見た目に対し、鍛え上げた肉体の持つ『私の航海誌』ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)も鳥のファミリアーを2羽放し、異世界の入り口の捜索に当たる。
「無機疎通が役に立つんじゃないか?」
 前髪で片眼を隠す鍛冶師の青年『陰陽鍛冶師』天目 錬(p3p008364)は無機疎通を使って漠然としたものであっても情報を得ようとする。
 発見したのは、ウィズィのファミリアー。他のメンバー達の得た情報もあり、比較的あっさりとその入り口の場所は割れた。
 大通りから小道へと続くその道は、手を入れるだけで空間が避けてしまう。
 仲間が揃うまでの間、白いドレスを纏う女騎士、『百合花の騎士』フィリーネ=ヴァレンティーヌ(p3p009867)もその赤みがかった異世界を垣間見る。
 多数のビルが上下に伸び、それと垂直に無数の道路が交差して伸びている。その間は階段やエスカレーターが繋いでいる異様な空間だ。
「異世界はどこも変な感じだね! ここもよくわかんないビルがいっぱい並んでるし!」
「ROOとは違うが、ROOが遠因となり生まれた異世界か」
 続いて飛び込んできた茄子子があちらこちら見回して本音をぶっちゃけると、錬もこれまでの情報を繰り返すように呟く。
「見てはいけないもの……確かに、言いようのない怖ろしさがあるな」
 イズマは底の知れない不気味さを感じていたが、錬はまるで、子供がぐちゃぐちゃにした玩具箱といった風情を抱く。とはいえ、巻き込まれた者は溜まったものではないだろうと錬はその心境を推し量って。
「この街に住む者からしたらまさに悪夢だろうし、手早く助けるとしよう」
 実際、犠牲者が出ている以上、イレギュラーズも黙ってはいられない。
「まぁいいや! 早く綾菜くんを見つけてあげようね!」
「ああ、手遅れになる前に綾菜さんを助けよう」
 お気楽な調子の茄子子の言葉に、イズマが大きく頷く。
 さて、綾菜とは、今回の救出対象である小宮・綾菜のことだと、フィリーネが思い返して。
「綾菜さんと言う方は、聞くところによりますととても勤勉な方の様子ですわね」
「一般人、まともな人……! うちの領地の経理にスカウトしようかな、そうしよう」
 そこで、希がネジの飛んだ自身の関係者を思い返し、まともな人がいれば自分の負担が減るんだよねと独り言ちていたのはさておき。
「疲れと不安と……大変かと思います」
 元々、綾菜は仕事の疲労もあった上、突如迷い込んだ異世界に対する不安も高まっているはずだとフィリーネは指摘し、可能な限り急いで救出するよう仲間達へと促すのである。
 

 事前の話し合いの通り、2班に分かれるイレギュラーズ。
 A班となるのは、ウィズィ、錬、希、イズマだ。
 まず、希が突入直後に、出入り口の目印にと携行品であるオアシスの花の香水を目印として置く。
「でもこの異世界は……本人が出たいと思わない限り、出れない気もする」
 現状、ここは入口として開いたままだが、出口になってもおかしなことはないと希は考えたのだ。
「がらくたばかりで構成され、中の人への殺意も豊富な場所……」
 錬は引き続き使う無機疎通で雑多な声が煩く感じた様子。
「非現実的でどこか異常なこの世界が真性怪異の一端であるなら……無闇に触れてはいけないというのもよく解る」
 仲間へと自身の考えを伝えつつ、イズマは女性を捜索すべくあちらこちらを見回す。
 道路とビルが立体交差したこの異空間では、物陰も多い。
 ウィズィはここでも鳥のファミリアーを飛ばして捜索するが、今回は1羽を別班との連絡用にと預け、対象発見時など集合の合図、緊急事態の合図などを決めて対処できるようにしていた。
 希はというと、スピーカーボムで大声を発する。その言葉は、反応がありそうでかつ夜妖と誤認されぬようなものとして。
「小宮・綾菜 アラサーな独身OL 迎えにきたよ。どこ!?」
 ある意味で本人なら反応しそうなのは間違いなさそうだが、ともあれ、希は超聴力で反応がないかを確認しつつ、定期的にスピーカーボムを使っていた。
 チリン、チリン……。
 捜索を行う錬は合わせて、音呂木の鈴によって解析も行う。情報通りならば、鈴は出口まで連れて行ってくれるはずだ。
「これ自体が夜妖を呼び込まなければいいんだがな」
 無機物ばかりのこの異空間に意味はあるのか。錬はその辺りまで気を回していたようである。
「多層になっているのが厄介ですね」
 ウィズィはファミリアーをやや低めに飛ばし、自分達とは別の層を捜索させる。媒体飛行を行うことで、同班メンバーの視野を広げる狙いだ。
 仲間の呼び掛けと合わせて活用するエコーロケーションは入り組む建物の多いこの異空間では音の反響が大きく有用性は高い。
「あと、情報によれば、出口は巨大な敵が揃ってひしめいているそうですね」
 ならば、相応の大きさと高さのある場所のはずだとウィズィは考えていたのだが……。
「先にそっちを見つけてしまいましたか」
 光の見える出口。その近くを動き回るのはコンクリート製の人形。そして、瓦礫の固まったジャンクマシンだった。
 なお、そこに希が置いたオアシスの花はない。入口と出口が異なることの証左だ。
「捜索を続けよう」
 今は保護対象の保護が先と、錬は別所を探すよう同行メンバーに促した。

 B班は汰磨羈、茄子子、月夜、フィリーネという面々。
「入り口がそのまま出口になるか知らんが……」
 指を切って血を出す月夜はギフトによって花弁へと変え、地面へと落とすことで標とする。
 こちらのメンツも別班とは違った手段で捜索に当たる。
 例えば、エネミーサーチを使う月夜。霊視疎通も一応とつけていたが、真性怪異の影響もあって満足に情報は得られそうもない。
「まるで、どこぞのだまし絵だな。気を付けねば、直ぐに迷ってしまいそうだ」
 似たような地形が続くこともあり、汰磨羈は特徴的な建築物や標識を瞬間記憶で覚え、現在維持の把握に努める。
「おーい! 助けに来たよー!! 居たら返事してー!!」
 有用なスキルがないからと地道に呼びかけを行っていた茄子子。
 ただ、彼女は同行する仲間に翼を授けて飛行させることができる。
「みんなに翼を授けるよ!」
 もちろん、茄子子自身も飛び立ち、邪魔な瓦礫を飛び越えつつ空中から迷い込んだ女性を探す。
 加えて、汰磨羈が人助けセンサーを、フィリーネが感情探知を行うことで異世界へと迷い込んだ女性の戸惑いを、不安を感じ取ろうとする。
「探知範囲は広がっているはずですわ」
 フィリーネはエキスパートスキルもあり、感情探知の範囲を広げている。
 それだけではない。彼女はセブンスアイも働かせ、最適なルートを導き出して効率良く捜索作業を進め、かつ異質な異世界空間の狂気にも魔眼で対処していた。
 チリン、チリン……。
 月夜も音呂木の鈴を定期的に鳴らし、異様な異世界の空気に抗いながら捜索していたが……。
「皆さん、いましたわ」
 少し離れた場所で捜索していたフィリーネが階段を上っていた小宮・綾菜を発見した。
 取り急ぎ、同班メンバーが駆け付けて。
「無事か? 一応、名前を確認できるか?」
「小宮……綾菜……」
 小さくフルネームを名乗って返す綾菜に、学生服着用の月夜が希望ヶ浜の生徒他、その他大勢と素性を明かす。
 その間に、汰磨羈がウィズィのファミリア―を通して別班に綾菜の発見を伝達し、合流を促す。目印は先程瞬間記憶で覚えていた目立つ色と看板の建物に決めていた。
 なお、月夜は彼女が若干弱ってこそいたが、怪我がないことを確認して。
「よし、みんなで脱出だね!」
「俺達から離れるなよ」
 向こうも出口を発見したとの知らせを受け、茄子子が意気揚々と叫ぶと、月夜が自分達から離れない様伝える。
「必ず無事に家に帰らせることを約束いたしますわ」
 非現実的な状況に不安がる綾菜へと、フィリーネが真摯な表情で告げると、彼女は幾分表情を和らげて頷いたのだった。

 程なく、合流したA班メンバーも綾菜の状態を気遣って。
「綾菜さん、助けに来た。一緒に帰ろう、希望ヶ浜に」
 イズマが告げる間に、ウィズィは相棒の牝馬ラニオンへと綾菜を乗せる。
 B班メンバーが元気づけてはいたが、今回のような異常現象に戸惑いを隠せぬ綾菜の姿に、希は考える。
(希望ヶ浜の人の基本は、目を瞑り、耳を塞いで、怪異を見ない、異世界なんて知らない、この子もそうなのでしょう)
 混沌でようやく元の世界のような日常を取り戻しつつあったのに、またこうした状況に巻き込まれて……。
 それは、『帰りたい』よりも『もうイヤ』という感情なのではないかと、同じく旅人である希は推察する。
(助けにきたといっても、それは『本当の意味で助かるわけではない、帰れないんだから』)
 現実を受け入れられぬ綾菜を気遣う面々。
 イズマは自らのギフトで音呂木の鈴の音色を変え、一度は自分達の見つけた出口を目指す。鈴は道標としても役立ってくれることを、A班メンバーは実証していたようだ。
「綾菜さん、大丈夫。必ず出られるから」
「……はい」
 イズマもそうだが、そうしたイレギュラーズの言葉に、綾菜は少なからず頼もしさを感じていたようだ。
 程なく到着した出口。月夜や希の残した標はそこにはなかったが……。
 グゴゴゴ……。
 ギギ、ギギギギ……。
 砂埃を立てて動くジャンクやコンクリートの塊が光る出口を遮る。
 錬が式符を投げつけ、敵を引き付けようとする中、皆戦闘準備を整える。
「夜妖と戦闘か! さっさと倒しちゃおう!」
 腕を鳴らす茄子子に合わせ、皆前方の夜妖を破壊すべく飛び出していくのである。


 グガガガ……。
 ギギギ……。
 都市伝説にもなりそうな2体の巨大なジャンクマシン、そして、取り巻きとなる人間大のコンクリートドール達。
 牽制の後、秘めた力を解放する錬はアナザーアナライズで敵の情報を探る中、イズマが仲間を巻き込まぬようにと先手を取り、激しく狂おしく苛烈なビートを刻んで敵陣を揺さぶる。
「可愛い女子に手を出すなッ!」
「ジャンク達がこのわたくしに勝てるかしら?」
 多少動きが鈍った夜妖達をウィズィやフィリーネが挑発する。
 戦場となる広間の後方で馬に乗ったまま、身を震わせる綾菜に夜妖の攻撃が行かぬよう、イレギュラーズは全力でそいつらの気を引く。
 粉塵を伴ったタックルに殴打。そして、投げつけてくる瓦礫。
「綾菜さんには触れさせません!」
 それらに耐えるウィズィが毅然と言い放ち、フィリーネも後方支援を期待しつつタンク役に徹する。
 ともあれ、瓦礫だけでなく、凶器となりそうな交通標識や怪しげな光を放つ信号機を組み込んだジャンクマシンが脅威をメンバーは判断して優先的に叩く。
 前線へと出た月夜は自身の傷口から流れる血を刀とし、敵へと切りかかる。瓦礫やコンクリートで構成された敵の体だが、その傷口からはボロボロと粉塵が零れる。
 また、接近する汰磨羈は多数の敵の挟撃を受けぬよう立ち回りながら接近し、美しくも恐ろしい死の舞踏で夜妖達を惑わし、その動きを完全に止めようとする。
「よおし、がんばれー!!」
 声援を送る茄子子は常に状況を立て直せるよう仲間へと呼び掛けながら、皆の体力にも気を配る。序盤仲間達の傷が浅い状況であれば、花吹雪が如き極小の炎乱でジャンクマシンを攻め立てる。
 同じく、希もメンバー回復役となる。存在が希薄な彼女だが、戦場に心地よい歌を響かせ、併せて綾菜の守りにも注力してくれていた。

 交戦が続く中、イレギュラーズは徐々に夜妖の攻略法を見出して。
 ジャンクマシンは信号を灯してこちらの動きを止め、念力で瓦礫や標識を飛ばしてくる危険な相手だ。
 その注意が綾菜の方へと向けば、月夜はすぐさま名乗りを上げる。
「この俺を差し置いて女のケツ追うたァ、随分な余裕かましてンじゃねーか」
 続き、敵情報を暴いた錬は近距離戦に臨む仲間を巻き込む式符を控え、氷の薙刀や無数の木槍を鍛造してジャンクマシンの体へと撃ち込む。
 動きを止めたジャンクの脚へ、汰磨羈はもう1人の自身の可能性を纏って一気に斬撃を見舞う。
 ギギ……!
 1体、もう1体とバランスを崩して倒れるジャンク達へ、メンバーは一気に攻撃を叩き込む。
「さて。どこまで体積を減らせばくたばるのかな、御主は」
 ジャンクの塊なら、核があるはずと考える汰磨羈。
 その心臓部である赤い塊を見つけた彼女は零距離から神秘的な破壊の力を叩きこむと、ジャンクはボロボロとその体を崩してしまう。
 もう1体は倒れたからといってまだ無力化していない。信号機を点滅させて瓦礫を飛ばすそいつの攻撃をウィズィが堪える間に、月夜が迫る。
「今日の俺様の飯は飯らしく、大人しく俺の胃袋におさまりやがれ」
 その瓦礫の上に飛び乗った月夜は血の刃で赤い塊を穿ち、その力を奪いつくして見せた。

 残るコンクリートドール達の動きはやや遅いが、威力ある一撃を叩き込んでくる上、距離をとると体内の鉄筋を伸ばしてくる。
 イズマはそれらを纏めて捉え、乱撃を浴びせかけて1体、また1体を破壊していく。
「ここまで明確に意思がある無機物は珍しいが、殺意だけではな!」
 錬は敵が綾菜を狙わぬようその射線を遮るように立ち回り、氷の薙刀を振るってその体を切り裂く。
 ゴゴゴゴ……。
 数は減ってきていたドール達だが、重々しい音を立ててタックルしてくるその衝撃は小さくなく、1体でも残っていれば油断できない。
「回復するよー!」
 会長がいる限り、誰も傷つけたまま帰らせはしないと、茄子子は福音を紡いで皆を癒やし続ける。
 そんなパワフルな彼女の脇、希も回復にと歌を歌っていたが、時に彼女はドールの視線を感じて禍々しい白い光を放つ杖で殴り掛かることもあった。
 ドール達の攻撃力を受け止め、抗う中、月夜が血の刃で1体を沈め、さらに汰磨羈が刻み込んだ斬撃によって1体が動かぬ瓦礫と化していく。
 タンク役となっていたフィリーネも一度自らを賦活すると、仲間の攻撃に合わせて魔力を展開する。
 牽制の一打のつもりだったが、ドールの体力が尽きたらしく、1体が大きな音を立てて地面へと転がっていく。
 さらに、イズマが形作った黒い顎が1体の体を貪り食らう。
 顎の捕食が完了したところで、イズマは残る1体から強烈な殴打を浴びてしまう。
 仲間が回復の手を差し伸べてくれるが、イズマはその前に細剣を稲妻の如く迸らせる。ずれた相手の体が地面に落ちたと同時に彼は刃を鞘に収めた。

「もう大丈夫ですよ」
「脱出だよ!」
 敵の全滅を確認し、ウィズィは綾菜に笑顔を浮かべると、茄子子が彼女の手を引く。
 これ以上、異世界に長居は無用と、イズマが光へと歩み出す。
 仲間達が次々に異世界から出る中、フィリーネは念入りに異世界へと気を配る。
 この状況にあってまだ、一行へと悪意を向けている存在に皆気づいていたのだ。
「いい加減にしろ、希望ヶ浜で好き勝手しやがって。そろそろ正体を現したらどうだ」
 月夜は黙っていられず呼び掛けていたが、それが姿を現すことは最後までなかった。


 全ての夜妖を倒し、イレギュラーズは安心して眠りについた綾菜を連れて現実世界へ……希望ヶ浜の街へと戻る。
「綾菜くんをお家まで送り届けてあげよう!」
「……ええ、そうしましょう」
 茄子子の提案に、しばし寝顔に見とれていたウィズィが同意する。
「赤い空は忘れて、鈴の音を思い出して……ゆっくり眠るといい」
 イズマもそう声をかけ、仲間と共に彼女の自宅へと向かう。
 そこで、一行の最後を歩いていた汰磨羈が虚空を注視して。
「現実でもバグとか、勘弁して欲しいものだ」
 異空間への入り口が完全に閉じるのを見届け、仲間を追って歩き出したのだった。

成否

成功

MVP

仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式

状態異常

なし

あとがき

 リプレイ、公開です。
 MVPは悩みましたが、捜索、戦闘の双方で成果を上げた貴方へ。
 今回はご参加、ありがとうございました!

PAGETOPPAGEBOTTOM