PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<半影食>Good luck

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●Sunday 17:00
 ――赤く染まっていた。全てが赤く染まっていた。

 俺は会社から家に戻っている途中だったんだ。そう。日曜休日出勤のクソ日の帰りだ。
 でも気づいたら『此処』にいた。
 もしかしたらアンタもそうかもしれない。『此処』はどこなんだろうか――
 ビルが立ち並んで、馴染みのある場所に見えるけれど『違う』
 ここには誰もいない。どのビルを見ても灯りもないし人の気配もないんだ。
 それどころか虫や動物の気配もない。
 野良猫の気配も、鳥の囁きも、何か動物が動く気配もなにもない……
 ただただ夕暮れの赤さだけが周囲を支配してる。
 とにかくいいか、これを読んでるアンタ――

 『ビルには絶対に入るな』

 いや、より厳密には『影』の在る場所には絶対に行くな。
 例えばビルの影以外……夕暮れの光すら届かない路地裏も駄目だ。
 『溶けて死ぬ』ぞ。
 全くもって意味が分からないが『影』に触れると激痛が走るんだ。
 ほんのちょっと影のある場所に踏み込んだだけで……俺の皮膚は爛れたよ。
 直感したね。『ああこれは死ぬな』って。
 ――同時に、分かるよな? もう分かるよな?

 今はもう夜になる寸前の『夕暮れ時』なんだぜ?

 完全な夜になったらどうなるのかなんて、普段会社で頭使えって罵られてる俺でも分かるぜ。クソ、あのハゲ上司め。こうなるんだったら一発ぐらいブン殴っておけばよかった。
 ……まぁ俺の身の上話はどうでもいいとして、とにかく走ったさ。
 この街はどうやら影ばかりという訳でもない。小さなビルとか、でっけぇビルでもよーく見ると影の掛かってない『道』があったりするんだ。そこをよ、走ってよ。どこかに出口はないかとずーと探したんだけどなぁ。
 でももう無理だ。
 もう駄目だ日が暮れる。もうどこにも逃げれない。
 時間が経ったからなのか、さっきまであった筈の道が途絶えちまった。
 前にも後ろにももう進めない。もうだめだどこにも行けない。
 夜になる。もう逃げれない。
 ライターでも持ってれば話は別だっただろうかとは思うんだが……いやライターじゃ灯りとして小さすぎるな。もっと大きな松明みたいな灯りがあったら……
 いや、まぁもういい。無理な事をぐだぐだ書き残してても仕方ねぇよな。
 でも許してくれよ? なんかとにかく手を動かしてないと落ち着かなくてな。
 あー、で、そうだそうそう。
 さっき書いたろ? 皮膚が焼けたって。
 その時に思ったんだが。影は服を貫通して、服の下の俺の皮膚を焼きやがった。
 ――逆に言うと服とか生物の一部でないモノは対象外って訳だ。
 だからこの手紙を書いとくよ。俺の最後の置手紙だ。これは溶けねぇだろたぶん。
 いいか。影をなんとかしようと思っちゃいけねぇ。逃げるんだ。
 俺はどこからか分からないがこの世界に入ってきてしまった。
 なら出口もどっかにあるはずだ。
 夕暮れが完全に沈む前になんとか逃げ出せ。
 とにかく走るんだ。俺みたいに右往左往する前に。
 そうすりゃ生きて帰れるだろ。たぶん。
 俺はどこに出口があるか分かんなかったけど、アンタは帰れると良いな。

 幸運を祈ってる。グッドラック。

●Monday 17:00
 練達。かの国ではネットワーク上の世界であるRapid Origin Onlineのバグ解明の為の動きが忙しないが――同時に現実の空間たる希望ヶ浜では異変が生じていた。
 希望ヶ浜に存在する日出(ひいずる)神社……
 厳密には更にその周辺の地域豊小路(とよこうじ)にて行方不明者が出ているそうなのだ。
 R.O.Oにテスターとして参加し、バグで囚われたが故の行方不明扱いとはまた異なる行方不明――調査が行われた所、それは豊小路周辺にて空間がねじ曲がり『異世界』が如き空間が生じているが為であった。これも怪異『夜妖』が関わっているのであろう。
「いやただの夜妖じゃなくて真正怪異……『神異』って言うべき存在なのかな」
 原因は、と言葉を紡ぐのは綾敷なじみだ。
 日出神社には奉っている存在がある。
 それが――『日出建子命(ひいずるたけこのみこと)』――通称『建国さん』
 国産みの神様とされており親しまれている存在だ、が。その名前がR.O.Oにおける豊穣……『神光(ヒイズル)』と名前が一致しているのははたして偶然か? あの国にも確か夜妖が湧いているという異常事態が発生していた筈だが……
 何か関連があるのかもしれない、が。
 今はその具体的な調査よりもまずは生じている問題を潰していくとしよう。
 先述の通り日出神社がある地域では行方不明者が多発している。そして、行方不明が発生している原因の内の一つを発見することが出来たのだ――つまり異世界への入り口を、だ。
 この中に行方不明者が取り込まれている。
「皆には中に入って、行方不明者を救出してほしいんだ――
 中がどうなってるかは分からないよ。なにせ異世界染みた空間だからね!
 とんでもない光景が待ってるかもしれないし、怪異が沢山いるかもしれない。
 だからこそ普通の人が紛れ込んだりなんかしたらきっと帰ってこれないよ」
 特別な力を持つ君たちに頼むのは『そういう事なんだよ』と彼女は言う。
 救助者がいるのならば急ぐ必要があり、か……内部は何が起こってもおかしくない空間。行きもこわけりゃ帰りもこわい――と。ただ一応『帰り道』だけはどうにか確保する手段があるらしい。
 それが、なじみが手に持っている『鈴』だ。
「これはね『音呂木の鈴』っていうものだよ。真性怪異が苦手とする音色でね――仮に帰り道を惑わす呪いがあったとしても、この鈴の音が聞こえる方に歩いてくれば、きっとまた此処に戻ってこれるから」
 ……対真性怪異用の神秘物、と言った所だろうか。
 彼女が鳴らす鈴の音色はどこまでも透き通る様に――不思議と耳に届く。
 なじみは外でコレを鳴らし続ける。だから――

「なじみさんの鈴の音をずっと聞いておいてね。
 いいね。ずっとだよ。鈴の音が鳴る方に来れば――帰ってこれるからね」

 彼女は念を押すように君たちへと伝えるのだ。
 何か予期せぬ事態があった時には、鈴の音の鳴る方へ。
 それがきっと君たちにとっての――光になるだろうからと。

GMコメント

●依頼達成条件
 異世界から無事に脱出。

●フィールド
 異世界とも言うべき場所です――
 夕暮れ時に赤く染まっており、遥か彼方では段々と太陽が沈んでいるような……周囲はビル街らしき真っただ中に貴方達はいます。しかしどの建物を見ても中は真っ暗闇であり、人や動物の存在を感じ取る事は出来ません。

 そして、貴方達は偶然か否か冒頭の手紙をすぐに見つけることが出来ました。
 ――どこかに『出口』があります。至急脱出してください。
 行方不明者の救出は既に果たせません。至急脱出してください。
 鈴の音は遠くに聞こえます。至急脱出してください。

 時間が経つごとにビルなどによる『影』の面積は増えていきます。
 故にどんどん動きづらくなる事でしょう――
 日没まであと……

●『影』
 沈みゆく太陽を遮って生まれている、貴方達以外の影には触れないでください。
 例えばビルの影です。この世界では『影』の在る場所に入ると激痛が走ります。
 まるで皮膚が焼け爛れる様に……
 常に太陽の光がある場所を歩く様にしてください。
 そうでなければ体力はみるみる内に削れて往く事でしょう。
 もしも太陽が完全に沈んでしまい、その時点で脱出できていない場合の事態は不明です。

 この『影』は、例えば光を発する道具やスキルなどを使用して排除する事は可能です。とにかく自分の体が『影』に触れないようにしてください。
 ――ただし強い光があればあるほど後述の『カラス』が寄ってきます。

●『カラス』
 よーく見ると建物の屋上などに『カラスらしき影』があります。
 しかしそれは生物ではなく『影』の塊です。
 彼らは空を飛び、獲物が見つかれば襲い掛かってきます。

 彼ら自体の戦闘能力はさほど高くありません。素早く空を飛び、時に突いたりしてくる程度です――しかし彼らが太陽を遮って生まれた『影』でも先述の皮膚が焼け爛れる様な痛みが生じます。

 また飛行している存在や光るモノ(例えば松明などの光源)を積極的に狙う傾向があるようです。
 お気を付けください。そして、どうか復唱してください。
 『あれはカラスです』――と。

 カラス以外のモノに見えてはいけませんよ。
 『カラスではない』と気づいては――いけませんよ。

●Danger!(狂気)
 当シナリオには『見てはいけないものを見たときに狂気に陥る』可能性が有り得ます。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。      ひ

  • <半影食>Good luck完了
  • GM名茶零四
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年08月31日 22時06分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ラダ・ジグリ(p3p000271)
天穿つ
サイズ(p3p000319)
カースド妖精鎌
エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
金色凛然
ジルーシャ・グレイ(p3p002246)
月香るウィスタリア
クレマァダ=コン=モスカ(p3p008547)
海淵の祭司
澄恋(p3p009412)
花嫁キャノン
山本 雄斗(p3p009723)
命を抱いて
星芒 玉兎(p3p009838)
星の巫兎

リプレイ


 間に合わなかったか――
 残され記された文を見る『剣砕きの』ラダ・ジグリ(p3p000271)の胸中に感情が渦巻いたのは、しかし刹那の出来事。気落ちしている様な暇は、どうやらなさそうだから。
「なじみの鈴は――聞こえているな。これが我々の生命線か」
「まずいですね。影に触れてはならないのに日没まで時間がありません……
 一刻も早くここから離れましょう。離れる事が出来ると、祈るしかありませんが」
「ミイラ取りがミイラ……なんて冗談じゃないよね」
 故に『太陽の翼』澄恋(p3p009412)と『ヒーロー志望』山本 雄斗(p3p009723)も同意し、周囲を見渡すものだ――
 鈴の音はラダの言う通り聞こえる。優れし感覚を持つ彼女にはより鮮明に聞こえている事だろう……が。方角は分かっても道の正解は分からない。ならば対処は一つとばかりに、イレギュラーズ達が取り得る手段は班を分ける事。
「やれやれ……またぞろなじみの鈴か、あやつが関わるとすぐ怪異絡みの仕事よな」
「……さて、しかし、マリア達も……いやマリア達『は』早く帰らなければ」
 その内の一つが『海淵の祭司』クレマァダ=コン=モスカ(p3p008547)と『雨上がりの少女』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)だ――エクスマリアは念のため、手紙に付着しているであろう書いた主の匂いを読み取るが……しかし、途切れている。
 どこぞへの消え失せてしまったかのように、ここで。

 ……帰らねば。帰れなかった者の意志を継いで、帰らねば。

「影に触ったら解けて死んじゃう……なんて……そんな」
 噓でしょ……と。脳髄が否定せども魂の背筋が真実であると理解してしまっているのは――『ヘリオトロープの黄昏』ジルーシャ・グレイ(p3p002246)か。つまり、ここで行方不明になってしまった者は――全て――
「行かなきゃ、ね……こんな訳の分からない世界では死ねないもの……!」
「ああ……ヤバイ所に入り込んでしまったみたいだな。
 この領域で動けなくなるのは危険だ――とにかく脱出をしないとな」
 故に。『カースド妖精鎌』サイズ(p3p000319)も同意し脱出の道を探るものだ。
 動かないのは手紙を残してくれた者の努力が無為に帰す事ともなる――
 だから、と。まずジルーシャが行ったのはすぐれた聴覚にて鈴の音が正確にどちらから聞こえてきているかの把握だ。大まかな方向は分かっているが、しかし時間を無駄に出来ぬのであれば極限まで正確な場所が知りたい。
 同時に眼でも探索を。影の広がり具合――太陽の沈む速度――
 あらゆるを用いて安全な個所を捜索し。
「……行方不明者の捜索が既に入った時点で『成らぬ』ものであったとは。
 いやそればかりか――このわたくしが宵闇に怯えて逃げる事になるとは」
 同時に行動するのは『神使』星芒 玉兎(p3p009838)も、だ。
 実に不愉快。甚だ業腹。あぁ認めがたき撤退戦であるも――しかし抑えよう。
 この雪辱はいずれ必ず。今は聞き耳を立てて、ジルーシャと同様に鈴の音を追わん。
「いざとなれば光を齎して突破も出来ましょう――空の者が気になる所ではありますが」
「カラス、か。それは来る際に俺がなんとかしてみよう」
 どうしても突破できぬ影があらば玉兎は自ら光を生み出す術がある――
 これを用いれば強行突破も不可能ではない、が。周囲の警戒をするサイズが視線を上へと向ければ――いるものだ『カラス』が。
 ……光に寄ってくる存在。ああなる程あれは『カラス』なのだろう。
 無為なる戦闘は可能であれば避けたい所だが、さて。

「……どっちに進んでいくのが正しいんでしょうね、この街は」

 ジルーシャは見据える。
 ビルとビルの狭間を。影しか存在してない場所を。
 とても人が存在していけない――虚ろいの都を。


 そしてサイズらとは別の方向に進むエクスマリアとクレマァダもまた、鈴の音を辿っていた。
 優れし感覚を持つエクスマリアの耳には常に音色が捉えられ、更にクレマァダの耳はその音色が反響する音をも感知し――周囲の探知もまた可能にしている。妙な存在があればすぐ分かるし、なんとなく順調に近づけている気がする、が。

「からすよ からす なぜなくの
 こどもの こころが みえたのか
 うまれ いでるは おそろしと
 なくこが いるから かえりましょ♪」

 油断はしない――クレマァダは歌声重ねて探索の強化を。
 鈴の音だけではない。彼女自身の声も周囲に反響してエコロケーションの効果を高めるのだ……それにしてもなんだかこの怪異のいる空気というのは、どうにも茫洋としてしまって普段歌わないような歌も歌えてしまう。
 己はこのような歌を歌った事があっただろうか?
「――と。意識まで思考に沈めてはいかんな」
「クレマァダ、疲労は、せぬように、な」
 分かっておるわ――と。エクスマリアからの加護を受け取れば。
 己が技能が更に昇華されるのを感じる――
 同時。エクスマリアは周囲の警戒に努めていた。なんだか……『カラス』が増えている様な気がするのだ。クレマァダの歌声に惹かれてきたのだろうか?【そうだよ】
「……んっ?」
「どうした?」
「いや、今何か――」
 声が、聞こえた様な気がした。
 何の声だったのか――いや理解してはいけない気がする。と、思っていれば眼前の道が影ばかりだ。まずいな……戻るか? いやそんな時間はないか。迂回するにも勿体ない――
「クレマァダ」
「案ぜよ。周囲の『見えぬ所』には何もおらぬ。
 ……知覚できているのが全て正しいのならば、な」
「――よし。では、行こう」
 彼女のエコロケーションによる探知では、影の狭間には何もいない。
 いるとすれば上空のカラスばかりだ。『そうと信じる他ない』
 だからエクスマリアはランタンに火を灯す――つまり、影を消すのだ。
「走り、抜けるぞ!」
 目立つ灯。『カラス』達の眼が一斉にエクスマリア達に向いて――飛翔してくる。
 翼の音。急速に近づいてくる故に、振り返る暇はただ一度としよう。
 奴らに構っていても仕方ないのだ――だから。
「引き寄せられるかの、光に。然らば往生せい」
 クレマァダは引き寄せたカラス共を纏めて薙ぎ払う。
 其は祝詞。人ならざる精神を伝播する歌。
 深淵に眠り待つ神を言祝ぐ歌をもって闇を縛らん。
 ――カラスらの身が震える。何か、魂そのものを魅了されたかのように。
 次いで放たれるのがエクスマリアの光刃だ。光り輝く一閃がカラス達の眼【目? 眼?】を潰して全てを刻む。同時に止まらず再度進むものだ――
「あそこに、また光の道がある……往こう!」
 うむ――とクレマァダは同意して走り抜け、て。

 かーらーす かーらーす なーぜなーくのー
 おまえは ほんとに からすなの♪

 【疑った?】
「――まずいな変な声が聞こえてきた。とっとと逃げるぞ、エクスマリア!」
 【ねぇねぇ】
「ああ――全く。そもそも、生物であるかさえ、怪しいモノだ」
 エクスマリアは見据える。無人の建造物ばかりの世界で唯一自ら動くモノ。
 今のマリアは、眼も、耳も、利き過ぎる――だからこそ『危ない』かもしれないと思うものだ。【そんなことはないよ、こっちを見て】最悪の場合は殿となって皆を帰す覚悟をも決めるべきかと……思考を馳せながら彼女は駆けた。【見ろ】


「――駄目だね。空を飛ぶとカラスに囲まれる……歩いていくのが一番かも」
 別箇所。澄恋らと行動を共にする雄斗は一端周囲の様子を探るべく空を舞った。
 ジェットパックの噴射を利用して――しかし空を飛べば『カラス』共がやってくる。
「ふむ、だが引き付ける目的でならば逆に『そういう事が出来る』……とも言える、か。ひとまず急ごう、集合地点にはめざましを置いてある……耳の良いメンバーが分かれているから、集合は出来るだろうし我々も地上から探索だな」
「ええ。鈴の鳴る方へ――行きましょう」
 とにかく出口を。最終的に情報を集めて皆で脱出を果たすのだと。
 その為の班分けだ。気になるのはやはりカラス――あれらは多少打倒しておいた方がいいだろうかと、澄恋は天を見据えながら思考を。さすれば取り出したドローンに灯を付けるものだ。
「熟考してみれば……後々一斉に襲い掛かってこないとも限りません。
 向こうの『歓迎の仕方』も探っておきましょうか」
 直後。澄恋はドローンを空へ。
 さすればそれは囮となってカラス達を引き寄せる――攻撃されれば一溜りもない故に逃げるのが精一杯だが、注意を逸らす分には十分そうだ。故にその間に迅速に歩を進めていく。
「……我々で出口まで見つけることが出来ればいいが。さて」
 同時。ラダは周囲の索敵も怠らない――
 耳で周囲の音を知覚し、眼で見据え、鼻で不穏なる匂いが無いか……
 ……関係ない事かもしれないが、この空間は異常になんの匂いもしない。滅びた都市でも自然なりなんなりの匂いが感じられるものだが……何者かによって作られた空間だからだろうか? 或いは如何な生物でも痕跡すら存在を許さぬとばかりの意志が……
「おっと。待った、影ばっかりだねこの辺りは……仕方ない。カンテラを使おうか」
「そうですね。どうせ使うのならば惜しまずに行きましょう」
 その時。制止した雄斗の先に見えるのはどこかしこも影ばかりの光景。
 つまりは行き止まりだ。音が聞こえているのはこの先なのだが……やはり迂回している暇も惜しいと思えば、多少は光を使うべきかと澄恋も思いて、さすれば――
「――来ます! 後ろですよ!」
 澄恋が察した。カラス共が――来ると!
 ラダも即座に。構える銃口の果てに見えるのは――三体。
 されば内の一体に銀の弾を。腹を撃ち抜き悲鳴を挙げさせ、次弾装填狙撃開始。
「近づかれる訳にはいかないよね、撃ち落としていくよッ!」
「太陽の翼の名の下に――闇に呑まれる事だけは相成りません」
 更に雄斗の光柱がカラスへと放たれ、同時にそれらを掻い潜ってきた個体あらば澄恋が大喝と共に――その存在そのものを打ち滅ぼすものだ。
 ――脆い。さほど強くもないカラス共。
 奴らに影を作られたりしない事だけを考えていれば左程脅威ではない……筈なのに。
「――」
 その。撃ち落とされたカラスの眼を見据えた時、背筋に何かが走った。
 悪寒? いや違う、この感覚は、もっと、なにか、こう……
「これ、は。カラス……そう、カラスです」
「澄恋。急ごう、カラス共が遠方より迫ってきている――全て相手取る暇はない」
「――ええ、そうですね」
 しかし。只のカラスであれば何を恐れる事があろうかと。
 自らの魂に言い聞かせる様に言葉を紡ぐのであった。
『あれはカラス』だと。


「フッー……これは、カラス。間違いなく……カラス、よね」【ちがうよ、よく見て】
 そして探索を継続するジルーシャ達は遂に出口を見つけた――
 ビルばかりが立ち並ぶはずのこの世界に、鳥居があったのだ。
 古い、鳥居。この先から鈴の音が鳴り響いている……
 後はこの情報を皆と分かち合えば脱出できるはずだと――襲い掛かってきたカラスを撃退しながらジルーシャは思考して。
「しかし、帰りは些か……カラスも増えている気がしますし、難儀しそうですね」
「ああ――だけど、いざという時に備えてこういうのを用意しておいた」
 周囲の景色を眺めながら呟く玉兎に、サイズが準備していたのは花火セットだ。
 これを撃てばおおよその出口の位置は分かるだろう、と。さすれば後は闇があろうと強行突破で此処に至る事も可能かもしれない……確か他の組も発光の手段なり灯の手段なり持ち合わせていた筈だ。
「まぁカラスには気付かれやすくなるかもしれないが……それは仕方ないな」
「時間も迫っているだろうしね――大分太陽が小さくなってきたわ」
 彼方にうっすらと見える程度になった太陽の光を見据えてジルーシャは紡ぐ。
 日が暮れてきた事も関係しているのだろうか、カラスが増えている気がするのは……少なくとも玉兎がカラスが堕としてくる影を回避するためにも発光した際に襲い掛かってく頻度が増えているのは、まぁそうなのだろう。
 灯が消えていけば、小さな灯でも目立つようになるから。
 ――そしてサイズが花火を打ち上げる――此処が出口だと。
 他の者にも伝われば良いが……場合によってはやはり集合地点に一度戻るべきかと思考して。

 ――瞬間。

「急ぐぞ、クレマァダ……! マリア達が帰る先は、あそこだ……!」
「えーいなんてしつこいカラス共よ! 十どころの数ではないぞこれは!!」
 右の方より叫びながら到来する存在があった――エクスマリアとカタラァナか。
 カラス達に必死に追撃されたのか多少傷が見える……が、致命傷を負っているという訳ではなさそうだ。合流すれば追撃のカラス達を退ける事も可能だろう――と思っていれば。
「急げ、走れ! この先だ――一気に駆け抜けるんだ!!」
「なんていうカラスの数……! 撃ち落とすにも限度があるよ!」
 続いて左の方から見えた姿はラダに雄斗だ――雄斗の腰に下げているカンテラを堕とさんとカラスが群がっており、それを雄斗は打撃で抗い払っている。ラダの驟雨が如き銃弾の嵐と、同時に澄恋の大喝が鳴り響けば道が切り開かれて。
「お早く! 恐らくあと五分もなしにこの辺りは闇に包まれます!
 ――『カラス』を全て討伐する必要はないはずッ! 前へ!」
「まずいわね。サイズちゃんや玉兎ちゃん、援護しましょう!」
 更に続いてジルーシャ達もカラス達に檄を。
 光に引き寄せられた者あらば、ジルーシャが顕現させしは漆黒の毛並を持つ――獣。
 追いすがるカラスの身を喰らわんと牙を突き立て貪り喰う。
 ソレにカラスが寄って貪り、貪られ……
「……まるであのカラスは消化液だな」
「消化液――?」
「腹の中というか、大きな生物に捕食されると胃液があちこちから湧き出て……ああ、なんというか。それと同じ感じがするからそう表現しただけの事」
 次いでサイズが己が一閃を叩き込む。繰り出した直死の一撃は、カラスを穿ちて道を作らん。
 ――影は消化液。成程、それもある意味正しい表現なのかもしれない。
 ここは腹の中。何者としれぬ意味不明な存在の胃。
 カラスはその液体――と言った所か?
「ともあれ撤退を。鳥居の中へ、いえ奥へ!」
 直後。玉兎が繰り出すは光の刃だ――
 それは周囲を照らし、しかしカラスを――厳密には敵だけを切り裂き味方を癒す。
 邪悪を滅ぼす光も交えれば完璧だ。
 カラスらがイレギュラーズを仕留めるには……とても手が足りず、光の中を突破できず。
 で、あれば。
「よし、出るわよ――もうこんな暗いだけの世界なんて――」
 刹那。ジルーシャが周囲の状況を確認する為に振り向け、ば。
 カラスがいた。
 否、否。それは死骸だ。ラダかサイズか雄斗かいずれかに叩き落されたカラスだ。
 カラスが見ている。こっちを見ている。
 死んだ眼でこっちを見ている。【見たね?】
 出ていこうとする者らを見ている。【見た見た】
 カラスはこの異世界そのもの。【君も見てよ、僕達を】
 カラスは触覚。カラスはカラス。
 これはカラスではない。
 これは溶けた人たちだ。溶けた人たちがこの世界に再利用されて――いや違うそうではない――これは魔物の類だ――溶けた人たちではない――見てはいけないもの――理解してはいけない――
 貴方の脳髄が異世界に飲み込まれてしまうから。

「お、ぉぉぉ、あああああああ、き、ぁ」

 瞼の裏が沸騰しそうな感覚にジルーシャは襲われる。
 同時。澄恋も同じく、迎撃したカラスと目が合ってしまうものだ。
 ばっちり当てるには、眼を開けて鹿と見据えないといけないのだから――
『あれはカラスです』、
『あれはカラスです』……
「あ……あれは、から、す……? ちがう、にんげ――」
「――しっかりしろ二人とも!」
 瞬間。何かが見えた――様な感覚に襲われた二人の頬を叩いたのは、ラダだ。
 視線を逸らせ。何でもないのだと反芻しろ。【ひどいなぁ】
 私もよく狙おうとするたびに『そう』なりそうになった――【なればいいのに】
「帰るぞ! 現実へ! 私たちは手紙を手に入れた――幸運なんだから!」
 ――次元が歪む。
 鳥居を通れば何もかもが遠くなる様な感覚に襲われた。
 虚ろなる都が遠くに見える。太陽の沈んだ都市は、誰も生きていない。

【またあそぼうね】

 なんらかの声が聞こえた気がしたが――誰しもが無視の一手を決め込めば。
 戻る。現実へ。色在りし現の都へ。
「うー今回は精神的に疲れたー……なんなんだろうね、この異世界群は」
「さぁ、な。だが――砕かねばならない、世界なのは、たしかなようだ」
 雄斗が疲れ果てたかのように座り込み、そしてエクスマリアが返答する。
 この異世界が作り出されている事態の裏には『建国さん』なる存在がいるのだという。
 真正怪異。神の異。『建国さん』
 ――この異世界も奴の影響なのだという事だけは、確かであった。

成否

成功

MVP

ラダ・ジグリ(p3p000271)
天穿つ

状態異常

なし

あとがき

 依頼、お疲れ様でしたイレギュラーズ。【うふふ】
 MVPは周囲の様子もよく見ていた貴女へ。【うふふふ】
 ありがとうございました。【うふふふふふふふふふふふふふふふふ】

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