シナリオ詳細
<半影食>はらぺこファブリック
オープニング
●
ふわふわと、布がある。
艶やかな橙色の朱子織生地。
落ちてきた少女は、三度弾んでから、あたりを見回した。
「え、なにこれ、うそ。これなにぜんぶ布なわけ?」
下にふれると、すべらかな感触が伝わってきた。
立ち上がろうとするが、ひどく波打ちおもうままに動けない。
「なに、え、ちょっと!?」
布を裂くような音と共に、転げて迫ってくるのはいくつものボビンケース。
ぐるぐる、ごろごろ。どれも彼女の背より巨大なものだ。
距離は十メートル。
三メートル。
眼前。
――死ぬ。
ぎゅっと目を閉じ、絶叫し、ただそう思った。
身体が何かに巻き込まれた気がする。
痛みは、まるでない。
そっと薄目を開けると、世界が激しく回転していた。
自分の身体がぐるぐる回っている。
意識だけは、やけに明瞭だ。
突然、背中に衝撃があった。
今度も、痛みはない。
プラスティックの巨大な紐通しが、彼女の身をぱちんと弾いたのだ。
冗談みたいに、身体が宙を舞う。
思い切り壁に衝突しても、やっぱり痛みなんてなかった。
「なんだろう、これ」
少女は、巨大な裁縫道具に追い回されている。
身体には、なぜだか傷一つつかない。まるで夢、それもとびきりの悪夢だろう。
迫る裁ちばさみが足場の布を切り裂き、メジャーは身体に巻き付き、丸太のように転げてくるチャコペンシルを飛び越え、矢のように降り注ぐまち針をやり過ごす。
「ボルダリングかな。違うか」
慣れてきたのか、彼女は真っ白な壁に刺さる無数の針に捕まりながら、そう思った。
異常な状況である。何度も夢だと思うが、けれど違う。
少女はただ、なんとなく神社に入り込んだだけだ。
そうしたら突然、この空間に落ちてきたのだ。
――それから、何分が経過しただろう。
身体は、痛くもない。
疲れもしない。空腹もない。眠くもない。
けれど、出ることも出来ない。
どこにも、出口がないのだ。
ああ、また来た。
今度は何の布だろう。デニムかな。
なんかもう、めんどくさいな――
インディゴブルーが波のように迫り、そのまま彼女を飲み込んだ。
そして意識は、そこでおしまいだった。
●
「ぬのに食べられるはなし」
「布が、食べる?」
ぽつり呟いた『Vanity』ラビ(p3n000027)の言葉に、ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)が聞き返す。
ここへ至る経緯は、ちょっと複雑だった。
周知の通り、練達では国家事業としてR.O.Oと言うプロジェクトが実施されている。
だが原因不明のバグによって情報増殖を起こし、ネクストというゲームじみた世界へ変貌してしまった。
そして最近、そのネクストの影響がここ練達の希望ヶ浜に浸潤している可能性があるらしい。
R.O.Oから『戻ってくることが出来ない』といった事件は、佐伯製作所大量行方不明事件と呼ばれている。
装置を通して精神をダイブさせるなんてSFは、ここ希望ヶ浜では受け入れられない『神秘』なのだ。
この事件がインターネットで考察された結果、行方不明者が異世界に連れて行かれたという、面白おかしい噂話が誕生して広まった。
――神異。
誰かがそう呼んでいた存在。
日出建子命(ひいずるたけこのみこと)、通称は『建国さん』。
希望ヶ浜で普通に信仰される神様のこと。
噂によって『建国さん』の力が急速に強まった結果、本当に異世界のようなものが形成されてしまった。
「本当に異世界が? 本当なのか?」
ラビの瞳が 『流麗花月』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)に向けられる。
「真相はまだ、です」
どうもそういう可能性があるという話らしい。
「だからこれは、調査と救助の依頼、です」
「あ~、会長も気になってたんだよね、異世界の神様?」
腕組みをした『羽衣教会会長』楊枝 茄子子(p3p008356)がうんうんと大きく頷いた。
「それで、どうやってその異世界に行くんだ?」
茄子子の隣、『無限陣』マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)が片手を広げ首を傾げる。
ソーイングセットを鞄にいれて、佐枝ビルの隣にある小さな社に行く。
十七時十七分十七秒に鳥居を潜れば、そこはおかしな空間だ。
その世界では、ハサミや針、布なんかが襲ってくるらしい。
けれど、ぶつかってもなにがおきても、痛くもかゆくもない。
なんなら武器などで撃退も出来る。
「問題は『諦めた』とき、です」
その瞬間に、人は意識を失ってしまう。
「諦めたとき、な」
「ゆっくりと精神を食べられて、心がひからびたらおしまいです」
死ぬということだ。
その異空間には何人かの犠牲者が囚われているらしい。
「だから、助け出してあげて下さい」
「分かった。所で帰ってくる時はどうすれば良いんだ?」
汰磨羈の言葉にラビはハッとした表情でポケットから鈴を取り出した。
「鈴を渡し忘れてました。ひよのさんの鈴です。これで帰ってこれます」
「おい。危ないじゃないか」
「私も一緒に行きます、ので」
この鈴が帰り道を教えてくれる。いざ、異世界探索へ――
- <半影食>はらぺこファブリック完了
- GM名もみじ
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年08月31日 22時06分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●
ふわっとファブリックの感触が頬に触れる。
お日様の香りがしそうな柔らかいタオルに包まれた『流麗花月』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)はゆっくりと身体を起こした。
「ここまで異様な世界を、幻覚などではなく現実的に構築するとはな」
足の裏を擽る布地が柔らかい。けれど、視線を上げれば大きな裁縫道具の中みたいで。
「ええ、不思議な世界ですね。私達が小さくなったような、それ以外が大きくなったような」
汰磨羈の言葉に頷くのは『カーマインの抱擁』鶫 四音(p3p000375)だ。
地面の布の感触を楽しむように、足先で推したり引いたりを繰り返す。
「裁縫道具と布に襲われる異空間、ですか。なんともまた面妖な。普段使い慣れている道具に襲われるというのも変な心地です」
『夏の思い出に燻る』小金井・正純(p3p008000)が遠くに見えるサテンの海に視線を上げた。
「いつまでもこんな空間にいては気も落ち着かないでしょう、早く助けて差し上げなければ」
何処か歪な不安が身体を取り巻いているような気がする。
「世界を作れるのは神の如きと言った感じで面白いですよね」
「なるほど、正に神の所業が如しか」
汰磨羈はその場に座り込み、布の地面の手触りを再確認した。
「私も望んだ世界を作ってみたいものです。ほら、おいしいものを好きなだけ食べれるとか?」
「好きなだけ、美味しい物……」
四音の言葉に、布の地面をコロコロと転がり落ちてきた『Vanity』ラビ(p3n000027)が顔を上げる。
「さて、何とも不可思議な場所だな……さっさと救助者を助けて去るとしよう」
布に縺れて手足をばたつかせるラビを拾い上げるのは『猪突!邁進!』ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)だ。小さいラビの胴体を掴み上げ、地面に立たせる。
「服が食べられるいつもの依頼ではなく、服に食べられる方、ですか。話が違、ではなく。奇妙な世界もあったものですね」
眼鏡の奥が光る。『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)は布の地面に四苦八苦する仲間を見つめた。ラビからの説明によると少しずつ正気を失っていくらしい。あまり長居したい場所ではないだろう。
「早々に仕事を片付けて、夜のプールサイドで一杯やりましょう。せっかく水着なんですから」
足下がおぼつかず、水着からまろびでそうな胸がふるりと揺れる様子に寛治は神妙に頷く。
「異世界の神様ってことは商売敵だね! 希望ヶ浜の人には建国さんじゃなくて羽衣教会を信仰してもらわないとだからね!」
ビーチフラッグを掲げてホイッスルを吹いた『羽衣教会会長』楊枝 茄子子(p3p008356)は空間に響き渡る声で叫んだ。
「じゃ、まあ、今回はそこまで危険じゃなさそうだし、パッと行ってパッと帰ろう」
『無限陣』マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)は長い髪を揺らして周囲を見渡す。
カメラワークもマニエラの背後に回り込み、彼女の視点を追うように動いた。途中、マニエラの尻尾の付け根がアップになる。触りたい。
「異界長居は無用なのは何処も一緒。さっさと済ませてサッと帰ろう」
「R.O.Oの影響でこっちに異世界が発生して……えーっと……むずかしいわね?」
「はい。難しい、です」
ラビは『優光紡ぐ』タイム(p3p007854)が首を傾げるのに頷く。
現実世界で行方不明が大量に居ると明るみに出た、希望ヶ浜に住む普通の人は『ゲームの中に囚われた』とは認識せず、異世界に連れ去られたのではないかとSNSで騒ぎたてた。それが人々の『思いのカタチ』となり本当に異世界と繋がってしまったらしい。
「でも行方不明になった人を助けに行くってオーダーなら単純明快」
「まずは迷い込んじゃった人達の捜索だね! 二手に分かれて効率よく救出しよう!」
「はい!」
タイムと茄子子の声にラビがこくりと頷く。
「よーし、みんな準備はいいよね? いくわよ!」
パステルグリーンの水着でくるり振り向いたタイムのピンクのストールが揺れた。
「わわ、布で出来ている世界って。この島も全部そうなんだ」
足下をふわふわと布が動き回る。
「やだバランスがうまく取れな、やっ」
ころんと後ろに転がったタイム。立ったままでは見えないアングルのラインを寛治は見逃さなかったが、助け起こす手も忘れてはいない。同じく正純もタイムへと手を差し伸べる。
二人の手を見比べたタイムは正純の手を取った。
「えっと、新田さんもありがとう」
「いえ。お礼は此方がしたいぐらいです」
何故お礼を。タイムはそれを聞き返すのを止めて正純の手をぎゅっと握る。
「正純さん、手を繋いで貰ってもいい?」
「ええ。もちろんですよ」
タイムは正純と手を繋いで囚われた人の救出に向かう。
●
「私たちはデニムの海へ向かおう。ラビ殿もこちらで一緒に」
「はい」
ブレンダはラビが転ばないように支えながら少女の手を引いた。
オーロラ・ピンクの水着を着たラビはもこもこの足下に注意しながら進んで行く。
「効果が有るのかは怪しいですけど……」
デニムの海が水中なのかよく分からないけれどと四音は顔を上げた。
「不可思議極まりない世界だ。出来る準備はしておくに限る」
「確かに」
隣に居る汰磨羈も念には念を入れておこうと四音に頷く。
「んーまあ、一応海なんだろうな。鎧の下に水着を着てきたが……必要か?」
「海なので、おそらく」
インディゴブルーの色彩が煌めく波打ち際まで歩いて来たブレンダは水中(?)に足先を入れた。
「海? まぁ海なのか……何なのだろう。デニムの海としか表現しようの無いものだな」
足先に感じるのは『水分』では無いが、『水中』のような感覚を覚える。
「まあ良い」
鎧を脱いだブレンダはデニムの海に飛び込んだ。
「おーい! 助けに来たよー!!」
茄子子の拡張された声がデニムの海に響く。
気を失っている人が居れば気付くように。茄子子は声を張り上げた。
「少しでも声が届けば、諦めないで頑張ってくれるよね! 会長達が絶対に助けてあげるからね!」
痛みはないけれど諦めてしまえば死んでしまう。だから間に合えと茄子子は叫び続けた。
「捕らえた者を食べるということは。水? の流れが止まって動いてない場所に人が居そうですけど、さてどうでしょうか」
四音の提案に「なるほど」と頷いた汰磨羈はデニムの海の流れを注意深く観察する。
海といえど布地である。恐らく容易に流れが止まっている場所を探る事が出来るだろう。
「見つけた」
「やるじゃないか汰磨羈」
汰磨羈の背をポンと叩いたブレンダは剣を持ったまま海の中を泳いでいく。
「諦めたら心が干からびるらしいが……」
ブレンダはデニムの海を泳ぎながら口の端を上げた。
「あいにくとこの程度で諦められるような鍛え方はしていないのでな」
デニムの海に囚われた少女の元へ辿り着くブレンダ。ぐるぐる巻きにされた布の中から少女を引っ張り出せばぼんやりと目を開けていた。
「ほら、助けに来たぞ。諦めるな、ここから出してやる」
声が届いているのだろうか。分からないが声をかけ続けるブレンダ。
汰磨羈は少女の頬を軽くぺしぺしと叩いた。
「痛っ」
「お、気付いた」
この世界の者ではないイレギュラーズは少女の刺激を与える事が出来るのだろう。
久々の痛みに少女の瞳に光が戻ってくる。
「あ……ここは」
「大丈夫だよ! 会長達は君を助けに来たんだ!」
茄子子はブレンダに背負われた少女に笑顔を向けた。
――――
――
マニエラは注意深く辺りを警戒しながら仲間を先導する。ルートはサテンの島からミシンのい城への移動ルートだ。
「山登りの後には攻城戦か。めんどそうだ」
きらりと光った針先にマニエラが気付きはじき返す。衝撃はあるが痛みは無い。
「敵……というより障害物扱いの方が良さそうか? 消費の激しい二人もいるし……え? 二人が頑張ってくれるんですか?」
マニエラはタイムと正純を見遣る。
「えっ!」
「それならクェーサーアナラ出で全力で応援させてもらうよ。ほら頑張れがんばれ。はたらけ」
「も、もちろん頑張るわよ!」
タイムはマニエラに背を押され、溢れる光を解き放つ。
「おっと、上やばそうですね」
天上から針が大量に降り注ぐ。
「これは使えそうかな」
寛治はその辺りにあった布を持ち上げ天上に向けて広げた。
その布へと突き刺さる大量の針。布が緩衝材になり衝撃が吸収される。
前に出た寛治は前方から波打ってくるサテンに照準を合わせる。
「ここは私が行きましょう」
味方を巻き込まぬよう最前線に立った寛治は懐から親指程の筒を取り出し、敵陣へと投げ入れた。
その筒目がけて寛治はステッキを構え狙い撃つ。
弾丸は筒に中り、爆音と閃光を炸裂させた。
「中々やるな。……囚われてる人はどうだ?」
マニエラの言葉にタイムは耳を澄ませる。針山の頂上付近に微かに助けを求める声があった。
「あの山の上の方にいると思う」
「そうか。助かる」
目標の位置が分かれば、あとは助けるだけだ。
「待ち針の山だなんて少しメルヘンを感じちゃうけど。このおかしな敵さん達の前じゃそんなこといってる余裕もないわね……!」
足下に衝撃が走り、その場につんのめるタイム。振り返れば、脚を貫く大きなまち針が見える。
「ひぇ……全然痛くないけど。見た目はすごく痛そうね。しかもすごく怠いわ?」
マニエラがタイムの脚に刺さった大きな待ち針を掴んで抜く。
そこから血が出ることも、穴があくことも無い。
「不思議……」
タイムは立ち上がり再び針山の山頂を目指す。
「助けに来ました。どなたかいらっしゃいませんか!」
正純の声が空間に響き渡った。
もし意識が朦朧としているのだとしても、誰かが助けに来たと分かれば元気が出てくるだろう。
「うう……」
マニエラは耳をピンと立ててうめき声の方向を探る。彼女の視線を追って寛治が中りを見渡せば針山の頂上に布にくるまれた何かが見えた。
「見つけました!」
マニエラは寛治が指差した方向へ駆け出す。続いてタイムも針山をよじ登った。
「もう大丈夫よ! 諦めないで。ここから絶対に出られるから!」
「あ、助けに来てくれたの?」
布の中から引っ張り出された少女はマニエラ達の顔を見て涙を流す。
この調子なら、生きる事を諦めたりはしないだろう。
「もう少しの辛抱ですよ。いきなりこんな世界に放り出され、不安な気持ちは大きかったでしょう。でも、もう安心ですから」
正純は少女を寛治の背に乗せる。
「君達は何を見た? 他にも友達とかは居たのか?」
「うん。友達三人と私で、普通に買い物してたの。一緒のマスコット作ろうって」
「そうか。よく頑張ったな。友達も探そう」
マニエラは安心させるように少女の頭を撫でた。
●
「おーい! そっちは見つかったー?」
ミシンの城の前で茄子子が手を振っているのが見える。
「ああ、ちゃんと見つけたぞ」
寛治に背負われた少女が顔を見せた。
道中話しをしているうちに気力は回復し瞳に輝きも戻ってた。
「向こうも一人見つけたみたいね、よかった~」
タイムはブレンダに背負われた少女を見て胸を撫で下ろす。
「残るはこの城の中ですか」
「『ブロード生地の間』というのが気になります」
「生地の間に捕らえられてるなら、不自然なふくらみが有ればそこに……」
城を見上げた四音と寛治は注意深く情報を探っていた。
「まさか裁縫道具挟むような雑な仕事してませんよね?」
「手遅れになると、二人は縫い合わされてしまうのでは?」
恐ろしい寛治の推測に背の少女がぷるぷると震える。自分の友達が縫い合わされている所は見たくない。
「急ぎましょう」
寛治の言葉にタイムが頷く。囚われた人が諦める前に。
――――
――
四音の影から禍々しい光が溢れ出す。聖なる閃光のはずなのに、何故か邪悪すら感じる。
「これは邪悪を裁く神秘の光。光に紛れておかしいものが見えた?」
ラビに振り返った四音は首を45度傾けて微笑んだ。
「いけませんね。見てはいけないものかもしれません、無視しましょう」
「はい……」
うぞうぞと四音の影の中を蠢く何かが居たようなきがするが見なかったことにするラビ。
「心だけ壊す方法というのも中々、興味深いものですね。そう思いませんか。ラビさん? くふふふ」
「そ、そうですね」
頭を撫でる四音の指が少し怖いような気がする。
汰磨羈とタイムは手分けして囚われた少女の居場所を探っていた。
「居たぞ。布の間に挟まれてる」
「ええ、二人一緒になって並んでるわ。でも……」
タイムと汰磨羈は少女達の巻き込まれた布の先に高速で針を叩きつけるミシンがあるのを確認する。
「かなり危ない状況かも」
「急ぐぞ!」
汰磨羈の声にイレギュラーズは一斉に駆け出した。
「まずは会長が相手だよ! ……あちょっと針は怖い針は怖い!」
茄子子は仲間が少女達を助け出す間、敵の前に立ちはだかる。
「APしか減らないなら会長の出番だよね!! 会長能率100なので! 会長なら例え最大AP0になっても疲れたるだけだよ! いや疲れたくはないけどね!!」
襲いかかってくるサテンやデニムを千切っては投げ、千切っては投げ。茄子子は奮闘する。
「会長がいる限り皆が諦める必要なんてないからね!!」
茄子子が敵を抑えている間にも少女達を縫い合わせようとミシン針はせまる。
間に合うかの瀬戸際で寛治はそのミシン針に照準を合わせた。
しかし、射線を遮るように布が寛治の目の前に現れる。
「任せろ!」
大剣が寛治の視界の端から布を攫った。ブレンダはサテンの布を切り裂き、小剣で縫い止める。
ブレンダの作り出したチャンスを寛治は逃さない。
「銃弾と精神力の、大盤振る舞いですね」
ステッキから放たれる弾丸は性格にミシン針に炸裂し吹き飛ばした。
「痛みがなく、疲れが溜まり、精神的にも疲弊する。これはなかなかに堪えそうです……」
正純は布に挟まれた少女の元へ駆け寄った。
「ただ、諦めたら終わり。ラビさんもそう仰られていました」
諦める事はできない。それだけは。
「まだやり残したこともあります。……あと、色々決着つけなきゃ行けないこともありますし。だから、貴女も諦めてはだめですよ」
正純は汰磨羈に教えて貰ったように少女達の頬を軽くぺしぺしと叩いた。
痛みにうめき声を上げる二人の少女。
「二人とも無事です!」
正純は仲間に少女達を助け出したことを知らせる。
「ラビさん、お願い!」
タイムは少女達の無事を確認し、ラビへと叫んだ。
●
鈴が鳴る。
帰り道を辿る鈴が鳴る――
「しかし……なんともよくわからない世界だったな。なぜ布が人を襲ってきたんだ? まぁ、もう二度と来ることもないし気にしても仕方ないか」
ブレンダは少女を抱えたまま鈴が強く鳴る方向へ歩いて行く。
「にしても。この世界の大本は何だろうな。建国さんの趣味という訳でもあるまい?」
摩訶不思議な空間。サテンとミシン。まち針が飛び交う世界。
「何故布や裁縫道具なのか…建国さん、ふむ。服を創造しているのか?」
汰磨羈の言葉にマニエラが首を傾げた。
「では何故人を喰らうのか。簡潔にはエネルギーだろうが……諦めさせる、なぁ。自己の境界が曖昧になったからか?」
「ううーん。難しいわね」
人が死ぬという定義をも曖昧にしてしまうような奇妙な世界なのだろうとタイムは考え込む。
「所で、毎度気になるんだが……こういう噂、広まる時は聞き間違いや誇張、伝言ゲームなんだろうが。誰か行ってきたのかね?」
マニエラの問いかけに、答えられる者は無く。
その誰かは、本当に存在していたのだろうかと謎を残し――
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
お疲れ様でした。如何だったでしょうか。
異世界での救出劇お疲れ様でした。
無事に少女達を連れて帰るに成功しました。
GMコメント
もみじです。ふしぎな空間。わんわんとカレー。いえなんでもないです。
■目的
布や裁縫道具に襲われる不思議な空間の探索。
囚われた人(4名)の救助。
■ロケーション
みなさんは、布の上に落ちてきます。
それから無数の裁縫道具に襲われます。
あちこちを探検して、ぐるぐる巻きにされた人を探して救助しましょう。
・サテンの島
サテンが波打つ島です。
まち針山の噴火口? に、囚われた人が1名居ます。
・デニムの海
海中? に、囚われた人が1名居ます。
・ミシンの城
ブロード生地を縫い続けています。
ブロード生地の間に、囚われた人が2名居ます。
●敵
縫い針、縫い糸、メジャー、ミシン糸、まち針、針さし
糸切りばさみ、裁ちばさみ、ひも通し、目打ち
リッパー、チャコペン、メジャー、ウェイト
指ぬき、ルレット、糸通し、ボビンケース
いろいろな布とか、etc...
身体より大きなサイズの、こうしたお道具や布類が襲ってきます。
ダメージはAPにだけほんのちょっとだけ入りますが、これらの攻撃で減った分は、空間を脱出するまで回復出来ません。
APが尽きると、こんどはなんだかちょっとずつ疲れてきます。危険信号です。
一体一体の裁縫道具達は強くなく、普通に撃退可能です。
●味方NPC
『Vanity』ラビ(p3n000027)
神秘型トータルファイターです。
脚力を活かした攻撃を仕掛けます。
普段のぼやっとした印象からは打って変わって無駄が無い動きです。
音呂木の鈴をもっています。帰還する際に使用し、清き鈴音に導かれるまま戻ります。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
●Danger!(狂気)
当シナリオには『見てはいけないものを見たときに狂気に陥る』可能性が有り得ます。
予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
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