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シナリオ詳細

再現性東京2010:腹の肉を1ポンド、一滴の血も流さずに

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●去夢鉄道・虚鉄深淵之水夜礼花線
 暗闇を機関車が走っている。
 煙突から白い煙をあげているが、煙は宙にういて数センチもせずに消え、闇に紛れていく。
 ライトのあかりは前方の線路と枕木をうつすが、それ以外のすべては黒の中に吸い込まれ、まるでなにもない宇宙でも走っているかのようだった。
 運転手のたつ機関室では、顔を黒い毛皮の頭巾で覆った猫背の何者からがスコップで白いカケラのようなものを山からすくい、炉へと投げ込みくべていく。
 レバーを操作するのは、『猿飛出』という恐ろしい異形能面をかぶった車掌風の服装の人間だ。白手袋で帽子をきゅっと被り直し、虚空の先を見つめている。
 ここは去夢鉄道、虚鉄深淵之水夜礼花線(こてつふかふちのみずやれはなのせん)。
 存在しないはずの、路線である。

●希望ヶ浜北区、澄原病院前駅裏
 赤い信号が点滅するほどの深夜。無人となった駅に、がたんごとんという列車の音だけが聞こえた。
 ブレーキをかける金属音と、ひとりでに線路へおきる火花。
 それがやんだと同時に、がらり――と扉の開く音がした。
 駅のホームにて、ベンチに座って待ち受けていた男リアム・クラークは、脚を組み直して虚空から現れる能面の人物を見る。
「よく来てくれた、『猿飛出』」
 相手の名前……なのだろうか。とても本名とはおもえないような名を呼ぶと、能面の人物は頷いた。面を除けば人物の服装はまっとうなもので、やや凝った車掌の服装に見えた。帽子には『去夢鉄道』のロゴマークがついている。
 去夢鉄道といえば、ここ再現性東京2010希望ヶ浜地区にて交通インフラを担当している重要な組織だ。『常識の結界』ともいうべき聖域に守られた希望ヶ浜を出入りすることは、そう容易なことではない。
 誰もが勝手気ままに行き来できてしまえば、希望ヶ浜を覆った嘘や幻想はもろく崩れ去り、彼らが愛し縋っている『平和な現代日本』は消えてしまうだろう。それは時として、命を脅かされるよりも恐ろしいことなのだ。
 そんな交通を任されているであろう去夢鉄道がなぜ、目に見えぬ列車から現れたのか。
 答えを述べるかのごとく、『猿飛出』は語り出す。
「あまり、長くこの場に留まるつもりはございません。
 リアム様、例の商品は必ず手に入る……のでしょうな?」
 面の奥でギラリと目を光らせる『猿飛出』。慇懃な、しかしどこか鼻につくしゃべり方だ。
 対してリアムは首をかしげ、薄く笑った。
 この男リアムが運営する組織『L&R株式会社』は異常な存在や物品を富裕層へ販売する事業者である。アーティファクト、珍獣、モンスター、人間、売れるならなんでも商品となりえる。
 そして今回希望ヶ浜外部へ売り渡す商品は――。
「澄原病院には夜妖憑きと一緒に例の『意識不明者』が収容されている。うまくすれば、一体二体は手に入るだろう。まあ、邪魔が入るかもしれんがな」
 笑みを崩さず述べるリアムに、『猿飛出』がズッと右足を踏み出した。
 怒りや威嚇の意思が、目に見えぬ殺気として漏れ出ている。
 が、リアムは笑みをまさ崩さない。
「商売に絶対はない。だから、君は私を、私は君を利用するんだ。
 安心しろ、澄原病院に潜らせたスパイは機能しているさ。障害となるのは……」
「希望ヶ浜学園の連れてきた特待生、ですか」
 ローレット・イレギュラーズ、別名希望ヶ浜学園特待生。学園の生徒や教師としてこの街に入り込んだ例外者たち。
「無名偲も、余計なことする……家も組織も、ろくな力を持たないくせに……」
「そうは仰いますがねえ、彼の活動がなければこの町は夜妖の発生に耐えられません。祓い屋も音呂木神社もその道では優秀ですが、やはり夜妖払いのプロは彼です。
 神にも悪魔にも無力な無名偲ですが、『日常の怪異』に対しての影響力は絶大だ。
 必要な人間――否、妖怪なのですよ」
 白手袋をした両手を開きおどけたようなしぐさをする『猿飛出』。
 リアムは立ち上がり、「だろうな」とつぶやいた。
「だからこそ、我々も設けることができる」

●病院防衛作戦
 希望ヶ浜学園。練達のいち地区であり現代日本を摸した街に存在する学園施設。
 その校長室には、奇妙な男がいる。
 無名偲・無意式(p3n000170)――当学園の校長だ。
 いつも不吉な顔をして、バブル期に置き去りにされたかのような派手なスーツをきた男。
 彼は煙草をくわえると、銀のジッポライターで火を付ける。
 暗い校長室にふわりと煙がのぼり、一点だけともっていた炎の灯りがカチンという蓋の音で消えた。
「俺たち……いや、希望ヶ浜の生徒がProjectIDEAに協力していたことは知ってるな?」
 ProjectIDEA。ROOによって混沌世界を仮想作成し混沌法則を解明する計画。
 しかしそれは不明なバグによって頓挫し、研究スタッフたちはその意識ごとシステムに飲まれた。
 それは佐伯操によって動員された希望ヶ浜生徒たちも同様である。
 特に外の世界に対して抵抗の薄い者たちで構成された希望ヶ浜系スタッフたちは意識を失い、植物状態となって澄原病院へと入院している。
 外の世界に関心を持たない希望ヶ浜市民たちは『大量行方不明事件』と称して、ネットゲームのやり過ぎでおかしくなった子供がどこかへ消えただとか、外の人間に攫われただとか、とにかくありもしない噂で盛り上がっていた。澄原病院をあやしいと嗅ぎつけた連中(もとい知識の怪異に取り憑かれた人々)もローレット・イレギュラーズの活躍で追い払うことに成功していた。
 このままROOの事件が解決し彼らの意識が戻るまで入院し続けられる――と、思いきや。
「L&R株式会社の連中に嗅ぎつけられた。去夢鉄道のスタッフと組んで意識不明者をどこかへ売り渡すつもりだろう。連中のセキュリティでは顧客情報は抜きようがないが、少なくとも『意識不明者』は守らなければならない。できれば、病院にも知られない形でな」
「病院に知られては、ならない……?」
 そこまでおとなしく聞いていたイルミナ・ガードルーン(p3p001475)が、顔をしかめて声を上げた。
「なぜッスか? 病院のセンセー達だって協力してくれるかもしれないのに」
「ああ、その通りだ。協力してくれるかもしれない」
 煙草の煙を吸い込んで、無名偲校長が不吉な笑顔で吐き出した。
「と同時に、対価を求められるかもしれない」
「…………」
 怪訝な顔を崩さないイルミナに、無名偲校長は不吉な笑顔のまま語る。
「依存は死だ。価値観の異なる相手に依存すれば、己を失う。やるべきこと、守るべきもの、すべて手放すことになる。それがたとえ善意によるものであったとしても」
「ちょっと、意味がわからないッス……」
「今は分からなくていい。『病院に不要な貸しを作りたくない』と思っておけ」
 無名偲校長は立ち上がり、窓際へと歩く。
「駅への到着時刻は調べてある。ホームで待ち伏せし、連中を迎え撃て。おそらく撤退するだろうが、深追いは……まあ、薦めはせん、な」
 微妙に歯切れの悪い言い方をして、無名偲校長は窓辺に立った。
「不要な貸しを作らないのと同じように、不要な知識も得るべきではない。みなくていい、知らなくていいものもこの世には多い」
 たのんだぞと振り返り、無名偲校長は締めくくった。

GMコメント

●オーダー
 深夜、澄原病院前駅にて出現する『回収班』を迎撃します。
 これに失敗した場合、澄原病院への襲撃が実行され病院へのダメージが発生するほか、最悪意識不明者を持ち去られる危険が発生します。

 L&R株式会社の狙いはROOによる意識不明者の肉体を確保し、外部のある人物へ売り渡すこと。去夢鉄道の狙いは不明ですが、戦いの中でわかるかもしれません。

●迎撃の手順
 ホームで待ち構えていると、見えない列車がホームにとまりホームへ『去夢鉄道の闇スタッフ』と『L&R株式会社のエージェントたち』が下りてきます。
 これを迎撃し、撤退させましょう。
 それぞれフレンドリーファイアをさけるためか去夢鉄道とL&R株式会社は離れて戦うことになりそうです。
 こちらも挟み撃ちをうけないように、それぞれの担当をわけて別々に戦うとよさそうです。

●エネミーデータ
☆去夢鉄道の闇スタッフ
 普段鉄道やバスといった運行を行っている普通のスタッフとは別に存在しているらしい闇スタッフたち。
 能面をかぶった駅員風の服装をしており、三段ロッドや拳銃といった偽装武器を装備しています。

・『猩々』
 やんわりとした笑顔を浮かべた赤みがかった面をかぶった駅員たち。
 いわゆる通常戦闘員。戦闘能力はやや低め。

・『猿飛出』
 目を見開き牙をむいた異形面をかぶった車掌風の人物。
 慇懃で鼻につくしゃべり方をし、武器は持っていないように見えるが実力は不明。
 かなり強い可能性あり。

☆L&R株式会社のエージェントたち
 この四人はHPが低くなると撤退します。

・イング:イルミナと同世界からきたロボットの旅人。
 スピード型の近接戦闘を得意とし、戦闘スタイルは割とイルミナに似ています。
 突破能力に優れるため、ブロックやマークでおさえておかないと後ろに回られます。

・スミス:ガンマン。プロフィール不明。
 二丁の拳銃を装備した男。殺人や破壊に対して積極的。
 遠距離攻撃が主体のように見えるが一応オールレンジ対応。

・ルカモト:忍者風の男。男と形容はしたが性別不明。
 ビジネススーツに面覆をした忍者風の男。非常に機敏で高い戦闘能力を有しているとみられる。
 近接格闘術に優れ、屋内戦闘はとくに得意そう。

・ジョンソン:魔術師風の男。仕事をするたび名前や自称経歴を変えるため詳細不明。
 いかにも魔法使いですよといった帽子を被り、ラフなジーパンやシャツで過ごしている男。帽子の主張通り魔術に優れており高い攻撃力が予想される。

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●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

●希望ヶ浜と学園
詳細はこちらの特設ページをどうぞ
https://rev1.reversion.jp/page/kibougahama

  • 再現性東京2010:腹の肉を1ポンド、一滴の血も流さずに完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年08月19日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

イルミナ・ガードルーン(p3p001475)
まずは、お話から。
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
黎明院・ゼフィラ(p3p002101)
夜明け前の風
新道 風牙(p3p005012)
よをつむぐもの
茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)
音呂木の蛇巫女
ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)
私の航海誌
ボディ・ダクレ(p3p008384)
アイのカタチ
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色

リプレイ

●虚鉄深淵之水夜礼花線、澄原病院前駅、裏四番ホーム
 月明かりの僅かな夜。深夜三時を大時計がさしたとき。
 チカチカッと点滅する光があった。
 それはブラウン管テレビのようで、その実『彼』の頭であった。
 駅のベンチに座る黒いスーツの男。明滅したライトが、彼の姿をやっと照らし出す。
 『激情のエラー』ボディ・ダクレ(p3p008384)は首から上についたブラウン管式モニターに似た箱形媒体のモニター部分を薄緑色に発光させ、bootという文字をスクロールさせた。
 ノイズのやや混じった音声が、同箱に付属したスピーカーから漏れる。
「あ、あー……そろそろ時間ですか。例の見えない列車がくるという……」
「去夢鉄道。ホームの探索依頼があった時から不穏な組織だとは思っていましたが……」
 続いて点灯したライトが周囲のベンチを照らしだし、缶コーヒーを手にした『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)たちの姿を露わにする。
「何が目的かは分からないし、もしかしたら正当な理由があるのかも知れないけれど、意識を失った人をさらおうとするのであれば見逃せませんわね」
「人さらいに人身売買……あーーやだやだ、すげえやだ。
 そういう人間の闇、みたいなの、ほんとヤだ」
 『よをつむぐもの』新道 風牙(p3p005012)は立ち上がり、空っぽになったスポーツドリンクの空き缶を握りつぶした。
「……だから絶対叩き潰す。これもまた、オレが討つべき『魔』だ」
 決意を表明するかのように限界まで空き缶を潰すと、それをくずかごへと放り投げる。見事な放物線を描き、一発でくずかごにはいった空き缶がコシャンという独特の音をはなった。
「理由や目的を考えるのは後回し! まずはお仕事をこなしましょう!」
 同じく立ち上がった『私の航海誌』ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)。風牙より背丈があるようで、放った空き缶は回転しながら宙を舞い、そしてくずかごの縁にぶつかって地面に落ちた。
 それを一瞥し、次に風牙と顔を見合わせ。黙って空き缶を拾いに行くウィズィ。

 彼女たちの様子を眺めていた『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)は、暖かい珈琲の缶を片手ででくるくると回していた。
「やれやれ、夜妖もそうだが、やはりこの街そのものがきな臭いようだねぇ。
 人身売買とは、また随分と好き勝手やるじゃないか」
 そういう危険がある街であることは承知の上で私は希望ヶ浜学園の教師の籍をもらったんだ、と口の中で小さくつぶやくゼフィラ。
「教師としてもイレギュラーズとしても、生徒たちを浚おうなどという真似は見逃せないね」
「それは同感だ」
 自分は座らず、駅のホームそれも黄色い点字ブロックの上に立ち腕を組んでいた『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)。
「しかし、売る方も買う方も何を考えてるんだ?
 それにR.O.Oに意識を囚われてる人の肉体だけを持ってったら、その人はどうなる?」
「そんなものは当然……ん、まてよ?」
 ゼフィラが何かに気付いたようだった。
 が、確証を持っているわけでもないのか、黙って考え込む仕草に入ってしまった。
 イズマがそれを問いただそうとしたその時、『蒼騎雷電』イルミナ・ガードルーン(p3p001475)が勢いよくベンチから立ち上がり、そして点字ブロックの上まで歩いて行った。
 夜の風が通り抜け、どこか夏をふくんだにおいを運んでいく。
 はるか遠くで車の通り過ぎる音が聞こえ、木々と薄暗い道路に挟まれた駅のホームがこの世界から隔絶されたわけではないことを教えてくれる。
「病院には知られずに病院を守る、と!
 ふむ……校長先生が言うのであれば、きっと大事なことなんスね。まぁ、イルミナ達のやることは変わりませんし!」
「そゆこと。校長センセに言われちゃ仕方ありませんなあ!
 澄原病院にはついこの前にも病院送り(夜妖憑き的な意味で)にしてやったのもいるし、
襲われるのも勘弁なのよねー」
 ひとり、ベンチを大胆に使って寝そべっていた『音呂木の巫女見習い』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)が体を起こす。
「ところで報告書でみたイングちゃんの写真めちゃ可愛くない? 私あの子マークしたーい」
 ぴょんと身をひねったスピンをかけながらジャンプし立ち上がるという器用なことをすると腰に下げた剣に手をかけた。
「つーわけで、ほどほどに貸しを作らないでおきましょうかっ!」
 無駄に武器に手をかけたわけではない。彼女の野生の本能が、何かの到来を感じ取ったのだ。
 それはイルミナの直感でも同じだった。直後に電車のブレーキ音めいたものが聞こえ、空圧式の自動ドアが開く音がした。
 既に身構えていたイルミナ。彼女がたつ点字ブロックとは反対側のホームから、ぞろぞろと猩々面の駅員めいた格好の人間達が現れる。
 彼らは腰にさげた三段ロッドと拳銃をぬき、ジャキンとロッドを展開させた。
 こちらが待ち構えていたことは承知していたのだろうか。この際、どちらでもいい。
「此処から先は病院です。人を攫うための場所ではない」
 立ち上がりスーツの上着を整えたボディがモニターを赤く発光させた。
「より一層の全霊を」
 身をややかがめ、そして走り出す。

●命の金にかえられないという。それは定まっていないということだ。それは何円にでもなるということだ。
 ボディは暴風を感じた。否、自身が暴風となっているのだ。
 敵集団に急接近し地を蹴り飛び上がり、ジャンピングソバットキックを即座にたたき込もうとした――その瞬間。彼の眼前にコインがあった。
 幻想で扱われる銅製硬貨だ。回転している。縦に、横に、そしてパキリと音を立てて割れ――大爆発を起こした。
「――!?」
 モニターにエマージェンシーマークを浮かべ両腕のクロスによって防御。それでも吹き飛ばされた肉体はベンチを粉砕しながらバウンドし、反対側の線路上へと転落した。
「よう、知ってるぜアンタ。病院の……じゃねえか、祓い屋の事件で報告にあった」
 指でコインをはねあげ、点字ブロックの上からボディを見下ろす魔術師風の男。L&R株式会社のジョンソンだ。
「あんたは足が速い。放っておくのはヤバそうだ」
「だったら……」
 むくりと体をおこし、ボディは両腕で地面を叩くとその勢いで起き上がり、更に跳躍。自力でよじ登るだけでも一苦労とされる駅ホームの高さをゆうに跳躍で越えると、その拳をジョンソンめがけて叩きつけた。
 跳ね上げたコインを破裂させ魔術結界をはる――が、その結界はボディの拳によって強制的に粉砕される。今度は、ジョンソンが吹き飛ぶ番だった。

 早くも戦いが始まる中で、ガンマン風の男スミスはイズマに狙いを定めていた。
 二丁拳銃がそれぞれイズマのボディに打ち込まれる……が、ソレを予期していたイズマは膝をあげて防御。鋼の膝が銃弾を撃ちはじく。
「よう、ボディが弱点のにいちゃん。また俺の固ぁいブツが欲しくなったかい?」
「気持ち悪い言い方はよせ。お前はここで食い止める。前のように行くと思うな」
「オーライ」
 拳銃を指でくるくると回し、余裕そうに見せるスミス。
「テメーが雑魚じゃねーことはよく知ってんだよ。だからナメたマネはしねえ。けどテメーが俺様をナメたなら、無様にそこの点字ブロックを舐めることになるぜ? そうしてくれた方がラクでいいんだけどよー」
 余裕そうな、そして挑発的な回転芸の途中で突然射撃体勢をとり、イズマの顔面に弾丸をうちこむ。
 イズマはそれを手のひらで受け止めると、スミスめがけて突撃した。
「愚問だな。おまえ相手に油断はしない。仲間のためにも、病院のためにも……っ」
 飛び退くスミス。イズマの放つ鋼鉄の手刀が空をきり、さらなる回し蹴りも空振りするが、空圧噴射によって急加速して放たれた拳はスミスに追いつき、彼の肉体を吹き飛ばした。線路を越え、駅脇のフェンスへと激突するスミス。

 敵も味方も吹き飛ぶなかで、秋奈とイルミナが並ぶ。
 赤いめがねをかけたイルミナに対抗してか、秋奈も白い縁の伊達眼鏡を装着した。
「やっほイングちゃん。此処はどうしても通せないのさ! 依頼だからじゃなくて、誰も彼も通さない。あとめっちゃ可愛いからイングちゃんには張り付く」
「…………」
 余裕そうだな、と思いながらもエネルギークローを展開するイルミナ。
 イングも同じようにクローを展開。
「小学生に始まりゾンビ、今度は意識不明の方々ッスか!
 人以外売り物無いんスか!?
 もっと世の中のタメになる物を取り扱ってもらいたいものッスね!」
「金になるものはタメになるものだ。それだけ価値があるのだから」
「やり方がきたねーって言ってるんッスよ!」
 イルミナがまっすぐに飛び出す――と見せかけて彼女は左右にも飛び出した。どころか高く跳躍するものやジグザグにはしるもの。そのすべてが一斉にそして確実な実体をもってイングへと襲いかかる。
「腕を上げたなイルミナ。だがそれは、こちらもだ」
 イングもまた質量のある残像を無数に作り出し対抗。襲いかかるすべてのイルミナにクローを突き立て切り裂き、時には首を掴んでねじりおとした。
 残像たちが消え。最後にねじりおとしたイングだけが残りもう一方のクローを振り上げ……た所で目を見開く。『だけ』だと?
「こっちは、腕だけじゃなくおつむも成長してるんッスよ」
 いつの間にか後ろに回り込んでいたイルミナのクローがイングへ迫る。
 直撃――かと思われたその時、間にはさまったのは鉄パイプだった。
「因縁のある様子。しかしこちらも仕事。邪魔立て御免」
 顔を面覆で隠した忍者風の女、ルカモトである。
「ドーモ、ルカモト=サン!」
 急激な加速と共に剣を繰り出す秋奈。
 防御のために投げた別の鉄パイプはなんの抵抗もできずに切り裂かれ、ルカモトを三つに切断……とみせかけてルカモトの形をした煙が霧散する。
 ルカモトは2mほど後ろに後退し、彼女の攻撃をかわしていた。
「オジギもしないとは、パロディ精神の欠片もない」
「パロ? なんの? 秋奈ちゃんニンジャとかしらなーい」
 両目を見開き笑顔をのまま、すさまじい斬撃を繰り返す秋奈。
「よっしゃオラー! かかってこいやー! 学生なめんなおらー! あとイングちゃんこっちに寄せろやオラー!」
「…………やりづらい」
 ルカモトは困った様子でその辺のビニール傘をひろいあげるとそれを刀と定義。斬撃の力をあたえると、秋奈の剣をビニール傘で受け止めた。
「うおっ?」
「ふうむ、咲々宮の太刀筋……に似て非なるもののようで」
 つばぜり合いに危険を感じたのか、秋奈は素早く飛び退いて攻防整った構えをとった。
「なんか、そっちの技も既視感あるなー。きもちわるー」

 L&Rの面々との戦いが拮抗するその一方、去夢鉄道のスタッフたちは悠々と駅から出ようと歩……いた所で槍をさげた風牙が立ち塞がった。
「駅員が、そんな赤ら顔でホーム歩いてちゃダメだろうが――よ!」
 飛びかかり駅員の顔面へ打ち込もう――とした所で猩々面のスタッフがロッドでそれを防御。至近距離から拳銃を構えたところで風牙は身をかがめ銃撃を回避。キィンと耳なりがしたが構わず体をスピン。勢いを付け直した槍が相手を防御の上から無理矢理なぎ倒す。
 それを警戒してか、猩々面たちは大きく飛び退き射撃の姿勢。
「こいつら馬鹿じゃない。一網打尽にされるって分かってて分散してる動きだ」
 距離をとって包囲した状態から銃撃を集中。風牙が槍を回転させて銃弾を弾くその間に――ゼフィラは術式を完成させていた。
「……『コーパス・C・キャロル』」
 風牙の後ろをとり、範囲回復を開始。術式の効果を受けた風牙と別の仲間達は体力をみなぎらせた。
「鉄道会社のスタッフがウチの生徒に何の用かな?
 返答次第では、少々キツいクレームを入れる必要があるんだが……」
「おやおやおやおや」
 猿飛出の面をつけた男が慇懃な口調で肩をすくめる。
「それは困りましたねえ。何でも言うことを聞くので告げ口だけはしないでくださァい――と」
 目の前に居たはずの猿飛出がいない。
 ゼフィラがそのことに驚きを感じたその瞬間、背後に回っていた猿飛出が彼女の後頭部を片手で掴んでいた。
「命乞いでもすると思いましたか?」
 衝撃。
 直撃――はしていない。
 この距離であるというのに。
 なぜなら猿飛出が行動にうつす直前、ヴァレーリヤのメイスが彼の胴体に思い切りめり込み、そして振り抜いていたからである。
「この敵! 猿飛出! 猩々の数を減らすまで放っておこうと思いましたが……」
「さあ、Step on it!! ここから先には行かせないぞ猿飛出!」
 すさまじいプレッシャーによって猿飛出の意識を自分へ釘付けにしようと試みるウィズィ。しかし猿飛出は通用していないかのように両腕をひらき、腰を低くしてピエロのようなおどけた姿勢をとってみせた。
「どうしました? 私はもう階段に近づいていますよ。『先』に行かせないのでは?」
「……!」
 歯がみし、ウィズィは『ハーロヴィット・トゥユー』に心の炎を燃え上がらせた。
 10秒きっかりの溜めを挟んで突撃、斬撃、強力無比な衝撃が猿飛出のいた足場を粉砕しアスファルトを粉砕。まき散らしていく。
「よけるな! もう一発……!」
 怒りの表情を浮かべまた武器に炎を燃え上がらせ――た、瞬間。
「なんてね」
 溜めを無視して、もとい踏み倒して瞬間的に膨大なパワーを燃え上がらせ猿飛出のボディに巨大テーブルナイフを打ち込んでいた。回転し吹き飛ばされ、天井からぶら下がった時計につかまる猿飛出。
「この娘、実力を隠して……!」
「ビビってんじゃねえぞ猿飛出! さっきまでの余裕はどうした猿飛出ッ!」
 追撃を放つウィズィ。紫の炎が燃え上がり、再びハーロヴィット・トゥユーが炎に包まれる。違いは、彼女の瞳と魂に誰かの心が宿ったよに見えたことだ。
「これはまずいですねェ……!」
 身を丸め完全防御姿勢をとった猿飛出。
 が、忘れていた。つい先ほど自分を殴り飛ばした存在のことを。
「迷惑なお猿さんは動物園に叩き込んで、バナナで我慢してもらいましょう!」
 燃え上がるヴァレーリヤのメイス。
 ――『主よ、慈悲深き天の王よ。彼の者を破滅の毒より救い給え。毒の名は激情。毒の名は狂乱。どうか彼の者に一時の安息を。永き眠りのその前に』
 詠唱を終えたメイスが、跳躍し長く炎の尾をひくヴァレーリヤが、猿飛出の背を猛烈に打った。
 ガハッと喉から強制的に息が絞り出される音がした。
 どさりと地面におちる猿飛出。
 その頃には風牙とゼフィラのタッグが猩々たちを倒していた。
「この私が……どうやら注意を引かれていたようですね。なんとも腹立たしい……」
 しゃべりはするもののダメージは深刻なようで、うつ伏せのまま動かない。
 彼を蹴り転がして仰向けにすると、ヴァレーリヤはメイスを振りかざしたまま腕をとめた。脅しの姿勢である。
 同じく槍を構えて突きつける風牙。猿飛出の面を中心に湧き上がる禍々しいオーラに顔をしかめる。
「こいつはタダモンじゃない、気をつけて」
「分かってます。まずは仮面をはいで写真でもとって――」
 と行った途端。
 『ぽぱんっ』という奇妙な音がした。
 それが猿飛出の頭部が内側から破裂した音だと分かったのは、流れる血とその他を見てからだ。
 振り返れば、猩々たちも同じように頭を破裂させ息絶えている。
 なぜ、と口走りそうになったその瞬間。
 ウィズィめがけて猿飛出の能面が飛んできた。反転しウィズィの顔面に張り付――くかに見えたが、すんでの所で突撃してきたイズマの蹴りによって吹き飛んでいった。地面をバウンドし、回転しながら滑っていく面。
 ふとみれば、先ほどまで面をしていた猿飛出らしき男は顔面の皮が完全に剥がれ眼球がはじけたことでのっぺらぼうになっていた。確認するまでもなく、死んでいる。
「おやおや、L&Rの皆さんはもう逃げてしまいましたか」
「そのようです……」
 ゆっくりと、しかし確かなプレッシャーを歩いてくるボディ。
 イルミナと秋奈も傷だらけながら能面を取り囲む。
 能面はふわりと中に浮きあがり、そしてゆっくりと回転をはじめた。
「まあいいでしょう。カラダの確保はまた今度にします」
 といって、まるで見えないカーテンに覆われたかのようにその場から消えてしまった。

●目的
 病院の防衛には成功した。
 が、ここでゼフィラが戦闘前に気付いたことについて説明しておこう。
 ROOによる意識不明者の肉体は、澄原病院には『ない』。ROO旧ログインルームにて生命維持が行われている筈だ。
 ならば、猿飛出がL&Rのついた『嘘の商品』にわざわざ食いついた理由は何か。
 彼が本当に持ち去ろうとしていた『意識不明者の肉体』とは、何か。

 その真相は、夜のホームに消えてしまった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――mission complete

 ――『猿飛出』による肉体の乗っ取りを回避しました

 ――追加調査が行われました。
・『猩々』の能面に異常性はありませんでした
・『猿飛出』の行方は不明です
・能面が張り付いていた遺体を調べたところ、希望ヶ浜地区で行方不明とされている人物のものであると判明しました。
 また、彼らが去夢鉄道に所属していた過去はありませんでした。
 去夢鉄道は『猿飛出』らとの関係を否定しています。

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