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シナリオ詳細

この素晴らしき勝者たちに祝福を

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●祝福
「「乾っ! 杯ーーーーーーーーーー!!!!」」
 浴衣姿の八人が、しゅわしゅわの入ったグラスを天に掲げる。
 ここは幻想王国北部にあるノドクロ温泉街にある宿のひとつ。
 海と山に挟まれた土地に湧き出した温泉水は大地からわき出した魔力によって肩こり腰痛、傷の治癒やストレス解消の効能があるとして、今からおよそ三年ほど前に建設されたのだ。
 そう、奇しくもそれはローレット・イレギュラーズが大々的な活動を始めた頃のはなし。
 『騎兵隊』という集団がローレットの中に生まれその猛威を振るうよりも前のこと。つまりは、彼女たちが出会い始めたころのことだ。

 レイリー=シュタイン (p3p007270)
 ルシア・アイリス・アップルトン (p3p009869)
 オウェード=ランドマスター (p3p009184)
 エクスマリア=カリブルヌス (p3p000787)
 イーリン・ジョーンズ (p3p000854)
 佐藤 美咲 (p3p009818)
 エレンシア=ウォルハリア=レスティーユ (p3p004881)
 フラーゴラ・トラモント (p3p008825)

 一見すると共通点の少なそうに見える彼女たちを繋ぐ、『騎兵隊』。
 彼女たちの祝勝会を開くには、うってつけの場所だとは思わないだろうか?

●のんびりしよう
 レイリーのつて、具体的にはレベッカ・ヴィクトリアの案内と手配によっておさえられたこのノドクロ温泉宿は準和風の、それでいて幻想の風情が混じった高級な旅館だ。
 男湯女湯不詳湯と別れるのみならず、馬や鳥や猫といった人外であっても温泉に浸かって体を癒やすことが出来るという良宿である。
 更に嬉しいのは、幻想北方の山あいにあるだけあって夏でも涼しく、山の雪を眺めながら露天風呂につかれるという贅沢な場所でもある。
 どんな種族もウォーカーも、ゆったりくつろぐノドクロ温泉旅館。
 当旅館は種族個性の大きな方でも安心しおくつろぎ頂ける新築旅館となっております。
 暖かくて広いお風呂で泳ぎたいディープシーの皆様。
 獣性にあったお風呂にゆっくり浸かりたいブルーブラッドの皆様。
 金属部位をいためずにやさしくお湯につかってリラックスしたいオールドワンの皆様。
 翼を休めて暖かな水浴びを楽しみたいスカイウェザーの皆様。
 安らかな花々たちに囲まれて心穏やかに楽しみたいハーモニアの皆様。
 そしてざまざまな個性あふれる出身世界の空気を感じたいウォーカーの皆様。
 当旅館はそんな皆様にあった温泉をご用意いたしております。
 くわえて美味しい料理や美しいロビー、整ったお部屋をご用意しております。
 どうぞ一日、ゆっくりとおくつろぎくださいませ。

GMコメント

 ご用命有り難うございます。この度はヴィーグリーズ会戦の祝勝会として特別に温泉旅館へとご案内させて頂きます。
 場所はノドグロ温泉旅館一泊二日のスケジュール。
 温泉とお部屋とお食事のパックとなっております。
 では早速、それぞれのご紹介へと参りましょう。

【温泉】
 種族個性を考えた温泉が用意されております。
 例えば毛が沢山抜けて水面がぼわぼわになってしまうという方であっても、魔法でキレイに保たれる温泉があれば素敵ですよね。
 他にも、植物の声をいつも気にしてしまう方にとって、花びらを無理に沢山浮かべるお風呂はイヤかもしれません。逆に丁寧に育てられた花々に囲まれていれば、心地よいホストになってくれますよね。
 そのほかにも翼にぱしゃぱしゃと水浴びをしたいタイプの方や、お湯じゃなくミストサウナがあうという方。
 そんなさまざまなニーズに応えた沢山の温泉が作られています。
 混沌在来種の皆様は自分の種族にあった温泉を、ウォーカーの方々は『こんな温泉はあるかな?』と言った具合にお試しください。
 大体はあるそうです。旅館さん、がんばりました。

【お部屋】
 ベッドと木目床のお部屋がご用意されています。
 こちらも種族毎にあわせた作りになっており、ハンモックがよいという方や撥水ベッドを好む方、籠がよいという方、カプセルタイプを好む方などなど……ご要望にあったお布団をご用意いたします。
 一部ウォーカー様におかれましては、『タタミ部屋に布団』という組み合わせもご用意しておりますので、部屋の好みをお気軽にお申し付けくださいませ。

【お食事】
 山の幸と海の幸をそれぞれ得やすい土地でございますので、きっとご満足いただける筈です。
 お食事はバイキング形式となっておりますので、お好きな料理をお好きなだけご堪能ください。
 メニューは沢山。
 みっしりと詰まった牛お肉やミルク、チーズといった山のお料理。
 新鮮な魚介をさばいた刺身や特別な衣で揚げたフライ。
 プリンやアイスクリームといったスイーツ類は勿論、定番のお料理を多く揃えております。
 特に当館がお勧めしますのは、地球という世界からいらしたウォーカーの皆様から伝わった洋食や和食といったメニューでございます。
 ハンバーグ、エビフライ、スパゲッティナポリタン。
 お寿司、天ぷら、おうどん。
 もし出身世界が近かったならば懐かしいお味が、そうでなくとも新鮮なお味をお楽しみ頂けることでしょう。

【プレイングと描写】
 さて、当館にお越しいただいた皆様にはチェックインからチェックアウトまで一通りお楽しみ頂く予定でございます。
 パートも順序こそ入れ替わるかもしれませんが【温泉】【お部屋】【お食事】とご用意させて頂いております。
 基本的に【お食事】は皆さんご一緒にお楽しみ頂くかとはおもいますが、お部屋割りや温泉の楽しみ方や、それ以外でふらりと宿を散歩するといった楽しみかたも大歓迎でございます。チームやメンバーにとらわれず、時には一人でふらりとしてみるのもまた楽しいものでしょう。

 それではごゆるりと、旅行をお楽しみくださいませ。

  • この素晴らしき勝者たちに祝福を完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年08月24日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費150RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
※参加確定済み※
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
流星の少女
※参加確定済み※
エレンシア=ウォルハリア=レスティーユ(p3p004881)
流星と並び立つ赤き備
※参加確定済み※
レイリー=シュタイン(p3p007270)
ヴァイス☆ドラッヘ
※参加確定済み※
フラーゴラ・トラモント(p3p008825)
星月を掬うひと
※参加確定済み※
オウェード=ランドマスター(p3p009184)
黒鉄守護
※参加確定済み※
佐藤 美咲(p3p009818)
無職
※参加確定済み※
ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)
開幕を告げる星
※参加確定済み※

リプレイ

●ようこそ
 山あいに存在するノドクロ温泉へやってきた一行。
 愛馬にひかれた数台の馬車がとまると、旅の荷物をいっぱいにつめたキャリーケースをひいた『ヴァイスドラッヘ』レイリー=シュタイン(p3p007270)が馬車の扉をあけて姿を見せた。
 改めて見上げると、瓦屋根の風情豊かな建物が彼女たちを出迎える。
 ここが、今日宿泊する温泉宿。レイリーが振り返ると『戦場を舞う鴉』エレンシア=ウォルハリア=レスティーユ(p3p004881)たちが『おお』とつぶやいて同じ光景を見上げている。
「まあ戦い続きだしたまにゃこういうのも悪くはないな……」
 今後の事も色々考えたりとかな、と小さい声でつぶやくエレンシア。
 『にじいろ一番星』ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)は長い間馬車のなかに座って居たせいか、うーんと背伸びしていた。
 すとんと下ろした肩と腕。
「温泉でしてー!思いっきり羽を伸ばして休むのですよー!」
「レベッカにはお礼を言っておかないとね」
「レベッカさん、温泉宿の手配ありがとうですよ!」
 にこやかにな顔を交わすレイリーとルシア。
 馬車の御者席から降りた『黒鉄守護』オウェード=ランドマスター(p3p009184)は帽子を被り直し、ふむといって髭を撫でる。いつもと違ってラフな格好だ。体格がいいからか大抵の服は似合う。
「あ、お疲れっス! 旅行とか久しぶりっスね!」
 前乗りしていたらしい『ダメ人間に見える』佐藤 美咲(p3p009818)がぱたぱたと手を振って宿から出てきた。
「準備は済んでるっスから、チェックインだけ済ませちゃいましょう」
「用意がいい、な」
 感心したように入り口の戸をあけて入っていく『雨上がりの少女』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)。
 美咲がした準備はなにもそれだけではないが、わざわざ言うことでもないというすまし顔を美咲はしていた。
 エクスマリアと『恋する探険家』フラーゴラ・トラモント(p3p008825)がロビーを抜けて受付へ歩いて行くと、仕立てのよい絨毯と歴史を感じさせるカウンターテーブルの向こうに上品そうな女性がペンをはしらせていた。
「お話は聞いておりますよ。そちらの棚からお好きな浴衣をどうぞ」
 そう言われて見てみると、棚には沢山の浴衣が並んでいる。
 フラーゴラは金魚柄の浴衣を手に取った。
「えっとえっとマリー……よかったら浴衣おそろいにしない?」
「ああ、一緒に着よう、フラー」
 髪で喜びを表現するエクスマリア。
 そんな彼女たちの様子を横目に、『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)はシートに自分のサインを走らせる。
「勇者としての祝勝会……ね」
 フッと浮かべる笑み。
 振り返って紫の浴衣をひっつかむと、喜びを隠すこともなく歩き出す。
「なんかもう嬉しさ爆発よね。大人気なく楽しませてもらうわよ!」

●お食事
 部屋に荷物を置いて楽な格好に着替えた面々は、早速夕食をとるべく備え付けの食堂へと向かった。
 食堂とはいっても大きく美しいホールに沢山の料理がもられたテーブルが並び、離れた畳座敷に専用の席がとってあるという一風変わったバイキングスタイルである。
 エレンシアがついた頃にはエクスマリアとフラーゴラが一足先に到着していたらしくマグロの解体ショーを眺めていた。
 既に内臓を取り除き血抜きも済ませたらしいマグロに専用の包丁を差し込み豪快に切り拓いていく様子は、その勢いと職人の強くはった声もあって目をみはるものがある。
「おー。こりゃまたでけぇマグロだなぁ……食い切れるのか? これ」
 エレンシアが周りを見ると、同じように見物している客が多数。これだけいれば食べきれてしまうのかもしれない……なんて思いながらエクスマリアたちに寄っていく。
「マグロの、解体……! 陸の獣を捌くのとは、また違った迫力がある、な。
 ずいぶん長い包丁だが、あれならば、刀で代用できそう、だ。工程は覚えておこう」
「こうやって解体するんだねえ……次はワタシも出来るかも?」
 二人して解体の仕方を議論したり、筋にそって包丁を入れてるとか骨の周りをスプーンでそぐとかそんな話をしているようだ。
 一通り話に加わってからテーブルへうつると、既にレイリーやイーリンたちが揃っている。
 まずは皆揃ってということなのだろう。
 料理をそこそこにお皿にとって、飲み物を手に持つオウェードたち。
「それじゃあ、騎兵隊の勝利と栄光を祝して――」
「「乾っ! 杯ーーーーーーーーーー!!!!」」

 自分用に分厚くきったマグロを炙りにしたものをお皿にのせ、フォークとナイフで豪快に食べ始めるイーリン。
「あー、無限に食べられる気すらするわ……」
 戦い直前のなかなかキていたイーリンを知っているだけに、この気の抜けまくったイーリンの様子に仲間達は微笑みすら漏れる。なんか表情もいつになくとろーんとしてるし。
 レイリーはといえば、手配した立場として様子をちらっと見に来たらしいレベッカを席に招いて一緒に食事をしたり会話を楽しんだりしているようだ。
 途中からお酒の飲み比べになったようだが……。
 その一方。
「というか、二人はマジでマグロの解体やりたいんスか?」
 労力というか、専門の職人や道具がうまれるくらい激しいことだと頭では知ってる美咲はちょっと敬意にも似た目でフラーゴラたちを見ていた。
「そうかな、ちょっと頑張ったらできそうな気がする。魔法を使ったら色々省けるかもしれないし」
 コストをある程度度外視すればキャンプ感覚でつかまえて食べられるのでは、という話である。決してお手軽レジャーではないが、その大変さも含めてアクティビティと考えればなるほど楽しそうな気がする。
「前にマリーと再現性東京でお寿司食べたの思い出すね」
「一緒に東京で食べたものも美味だった、な……それに勝るとも劣らない新鮮さ、だ」
 エクスマリアがお皿にのった刺身をちびちびしながらなにかにひたっている。
 その隣ではオウェードがソフトドリンクを手に刺身をガッと箸でさらっていた。
 こう、薄切りにされたマグロの刺身を五枚くらい一片に掴んでわさびの効いた刺身醤油をつけて頬張り、ついでにご飯をかっこむという神みたいな食べ方である。
「美味いッ! 海洋の新鮮さがここでも堪能出来るとは思わなかったッ! これに練達みたいにペースト状のマグロを付けて丼物にしても十分通用するのうッ!」
「ペースト……ああ、ネギトロのことスか」
「そうとも言うのう!」
 お酒飲めないだけで食べ方はおもいきりオッサンなんだなと思いつつ、そのまた隣を見るとルシアがはしゃぎにはしゃいでいた。
「わぁー、わぁー!! 凄いのですよ凄いのですよー!!」
 大量に並んだ料理と解体されるマグロという非日常的風景にテンションがふりきれたらしい。
「そのままでも美味しいけどー、これとこれを足してー、うん! 美味しいのでして! みなさんもどうですよー?」
 そしてあれこれアレンジされた食べ方を早くも始めるルシア。
 ルシアが謎の海鮮丼を作り上げてると、イーリンがちょっと冗談みたいな量のナポリタンを皿に盛り付けてあるいてきた。
 お互いの皿をチラ見してから顔を見合わせる。
「楽しみましょ」
「なのですよ!」
 二人の目がキラリと光った。

●ゆけむり
 ひたっすらに食事を楽しんだ一行は、一休みを挟んでからメインとなる温泉へと足を運んだ。
 夏でも雪景色を眺めながら入れるという露天風呂。竹の柵によって仕切られた場所へぺたぺたと歩いてきたエレンシア。
 横に並んだレイリーが彼女の翼に手を伸ばした。
「ねぇ、翼ってどうやって洗うの」
「あ? そういえば話したことなかったっけな」
 口で適当に説明してやると、レイリーは目をぱっと輝かせた。
 この次に何を言われるのか予想したエレンシアが半歩引く。その距離を埋めるように身を乗り出し――。
「洗わせてっ!」

 そうして、翼洗い大会が始まった。大会?
 黒い翼をあわあわにされ、丁寧に撫でるようにあらわれるエレンシア。
 手洗い派やブラシ派、タオル派や『翼櫛』みたいな特殊な器具を使う派など色々いるが、エレンシアはどうやら手洗い派だったらしい。少なくとも今日は。
「別に構わないが……弱いから手加減してくれよ?」
「弱い……」
 全く同じようなやりとりがなされたようで、隣では美咲がルシアの翼をあらっている。
「はぁー…いいっスね~。
 戯れる美少女を見てるだけで心の何かが浄化されていく気分っスよー」
 ほっこりした顔でルシアの翼をゆっくりと撫でる。
 その間から見えるシルエットに、眼鏡を曇らせた。
「うっわエレンシア氏細っ! ルシア氏は若さが溢れてる……。
 レイリー氏は私と歳が変わらないのに……!」
 自分の体と見比べて唇をかみしめる美咲。
「美咲さん、どうしたのですよ?」
「時の残酷さをかみしめてるっス」
「朱鷺?」

 ここノドクロ温泉は混沌の湯。お肌すべすべヒューマンばかりとは限らない、どころか何割もの確立で獣や鳥や機械が混ざりウォーカー種や精霊種に至ってはゲル状なものまでいる始末。古代ローマテルマエスタイルで運営できる世界ではない。
 ということで、多種多様な湯を用意することで解決策とした巨大温泉施設それがノドクロ温泉なのである。
「お題目はさとき、馬も休ませられるのはいいわよね」
 専用の湯着をきたイーリンが、やわらかいブラシで愛馬ラムレイの体を洗っていた。
 馬用の魔法が込められた石けんらしく、どうも随分と気持ちよさそうにしている。
「ラムレイも強くなったわよね……私も負けないように努力しなくちゃね。
 オウェード! そっちも楽しんでる?」
 柵越しに呼びかけてやると、隣で湯に浸かっていたオウェードが『ああ司書殿! バッチリじゃよ!』と呼び返した。
 大きな桶のような形をした湯にひとりでつかり、お猪口で甘酒(アルコールのないもの)をちょびちょびやっている。
 その隣では綺麗に洗われた雷雲が馬用の湯に浸かり、その足腰を休めていた。
 浅く広く、そしてもやのように煙をのぼらせる薄緑色の湯。野生ならぬ軍馬にとって、肉体構造上凝りやすい筋肉や感じやすいストレスを緩和させ安らかな気持ちにさせる魔法が薬草学的に施されている……という文言がたしか看板にあった。
「種類が多いせいかのう。個室ばかりでまるで貸切じゃな。後で石サウナにも行ってみるか……」

 多様性に対して多様性で返すというノドクロ温泉の仕様というべきか、個室風呂とは別に二人と馬三頭が一緒に入れるタイプの個室も存在していた。
 エクスマリアのグリンガレット、フラーゴラのペイル。そしてあの戦いで走り抜いた名のなき軍馬。
 馬たちはせっせと体を洗われ専用の湯で体を休めている。
 その一方で、フラーゴラとエクスマリアはアヒル湯に浸かっていた。
 フツウの湯だけどアヒルさんが大量に浮いていて縁にもめっちゃ詰まれている(あと背景に巨大なのもある)という冗談みたいな湯である。多様性が行きすぎて途中から遊んだとしか思えないが、入ってみるとなかなかいい思い出になりそうだった。
 入る前にエクスマリアの長い髪の毛をフラーゴラがせっせと洗っていたが、自由に動かせるだけあって普段は自力で洗浄できているらしく、それを他人に触られることのこそばゆさみたいなものが、どうやらあったようだ。洗っている間エクスマリアの髪は随分とふわふわそわそわしていた。
「アヒルのおもちゃいっぱいあってかわいいお風呂!」
「確かに、な。フラーの背も、流してやろう……尻尾も洗おう、か?」

●混沌卓球
「これが、異界の球技、卓球。よし、勝負、だ。マリアの髪は、人体のリーチ、可動域を、遥かに凌駕、する」
「それ反則っス!」
 お風呂上がりに体を動かそうと、浴衣をきた皆は卓球台の前に集まっていた。
 ラケットを十個くらい持ってふわふわさせるエクスマリア。
 美咲がオプション装備(?)をとりあげると、自分がそのラケットをもってピンポン球を指の上で回した。
「卓球の経験は1~2回やったことがあるぐらいでスねー。
 ま、初心者ばかりなら私も優勝ワンチャン……」
「オーケー、それじゃあやるわよ」
 イーリンはパスされたピンポン球を台に一度だけバウンドさせてキャッチすると、すさまじく鋭いサーブを打ち込んだ。
 何故か紫色の微光を纏った高速で迫る球。
「危ない美咲どグワーーーー!?」
 庇いに入ったオウェードが悲鳴をあげて吹っ飛んだ。
 その様子を沈黙し、とりあえず点数カウントの指を立てるエレンシアとフラーゴラ。
「次はルシアが相手なのですよ! 精一杯頑張るのですよ!」
 シュッシュと素振りするルシア。反対側のテーブルについたのはレイリーだった。
「なら、こっちも遠慮無く……やー!」
 肘から展開するスラスター。超高速で振り込まれたラケットが球で空を穿ち――。
「危ないルシアどグワーーーー!?」
 庇いに入ったオウェードがまた吹っ飛んだ。

●夜は更けていく
 部屋へ戻ったエクスマリアとフラーゴラ。
「アトさんの話していい? この間アトさん忙しそうなのにワタシの誕生日にレストラン一緒に行ってくれて……でもデートじゃないんだって」
 急に早口になるフラーゴラ。『マリアも、故郷であいつ、と……』とつぶやきつつ話を聞いていたエクスマリアだが、眠くなってきたのか二人とも布団のなかでいつの間にかすやすやと寝息を立てていた。
 こうなったのも、元は美咲が部屋にやってきていたからで……。

「よーし、淑女諸君。
 旅行の夜の終わりにこの弱枯れ系女にその若さを捧げるのでス。
 つまり恋バナっスね。
 私は過去の栄光にすがるしか無いのですが……」
 急に乾いた目をする美咲にせかされる形でルシアがわたわたしながら応えていた。
「そういえばあまりこういったお話はしてなかったのですよ」
 女が四人あつまってきゃいきゃい恋バナするかと思いきや、内容はフラーゴラによる独演会だったしテーマはアトさんだった。途中から(子供の昼夜感覚なのか)寝落ちしたルシアを抱える形で部屋へと連れて帰っていた。
 背中でスヤ寝するルシアの重みを感じながらも、美咲は眼鏡の下でスッと目を細めた。
 この世界に『組織』はない。大義もなければルールもなく、それを遵守しなかった場合の粛正もない。
(こんな子が戦場で銃を撃ってたのか)
 子供が戦場で銃を撃たされることは、悲しいかな事実だった。一方この世界では、人間を瞬殺するスナイパーライフルに可愛いキーホルダーとリボンをつけて楽しげにぶらさげる少女がフツウらしい。
(別に私は世界やローレットに忠誠を誓ってないけど……でも、この寝顔を崩すのは気分が悪い)
 しばらくは働いてやりますかねと、口のなかで音もなくつぶやいた。

 通り過ぎていく美咲たちがガラスに映っている。
 こちらのことは気付かなかったのか気付かないふりをしたのか、エレンシアのほうを見ずに通路の向こうへ消えていった。
 改めて、窓ガラスにうつる自分を見る。
「……ここにいる奴ぁ、どいつもこいつも強えぇ。
 あたしは未だ、そこに至れてねぇ。ここの頭はおろか、あたしをここに呼び込んだ奴にすら」
 スリッパで歩く音がして、ガラスにオウェードの姿がうつった。
「エレンシア殿……確かにワシも若い頃の強さに至ってない」
「へぇ、あんたほどの勇者でもまだ、ってか。中々奥が深いもんだなぁ、強くなるってなぁ」
 振り返ると、黒い浴衣姿のオウェードが腹を撫でていた。
 話し込むタイミングだろうか。自分を打ち明け合う時か?
 少しだけ考えてから、エレンシアは両手を頭の後ろで組んで歩き出した。
「なーんて、柄にもねぇな。寝よ寝よっと」
 オウェードはそれを追うこともなく、ただじっと窓ガラスを見つめていた。もしくは、そこに映った自分を。あるいは、その向こうにある月を。

 月が柵のむこうから差し込む。ちょうど腰掛けるのに丁度良い窓の縁。イーリンは酒のはいったグラスを手にしていた。
 振り返ると、月光に照らされたレイリーの姿。
「勇者になった先の景色をみんなで見たい。そんなこと言ったの覚えてる?」
「えぇ、覚えてるわ。その景色は見えたかしら?」
 再び見えた空は、どこまでも広い星と月。
 あの戦いに敗れたら、見えなかった景色だ。
「悪いものじゃないわ、でなければ、今ここに居なかった」
「あら、最高というわけでもないのね」
「まだ途中だもの」
 レイリーはグラスの中身をからにすると、親指で唇をぬぐった。
「司書殿はまだ進むのね、それなら、もう少し付き合うわ」
 伝説は、語られてこそ。
 伝説は、生きてこそ。
「そう。この先も一緒に見たいのよ。……見たかったの」

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――そして夜は更けていく

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