PandoraPartyProject

シナリオ詳細

ゴリラアンドゴリラインザスカイ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●シリアスの皮を被ったゴリラ
 電話のベルが鳴るオフィス。忙しそうに行き交う人々はスチールデスクで区切られた世界の中にこもっていた。
 積み上げられたタスクが紙束という形をもって机にうずたかくつもり、人々は目の前のノルマをこなすことに負われている。
 誰もが神経をすり減らし、小さな事でいらだち、ささくれだった心は融和と友情を蝕んだ。
 ここは現代の砂漠。無限に続く、オフィスという名の煉獄。
 そんな世界に現れたのが――あなた(ゴリラ)だ!
「ノルマ、イラナイ! ジャングルデハ、ツヨイヤツダケ、イキノコル!」
 スチールデスク、ドヤ顔の上司、ノルマ達成表、鳴り響く電話機のすべてを粉々に粉砕し、引き裂き、その片隅で小さくなっていた魂へと手を差し伸べる。
 そう、これは魂を救済する物語(プログラム)。

 ――ゴリラアンドゴリラインザスカイ

●運命を解き放て!
 ここはROO内の仮想世界ネクスト。いつものようにログインし、サクラメントで転送したあなたを待ち受けていたのはゴリギュラーズのゴリ報屋、ゴーリカ・ゴリカ(g3n555555)であった。
「ウホ……ウホホッ、ホホッホ、ホッホ!」
 リズミカルに肩を揺らしながら部屋をぐるぐると歩き始めるゴーリカ。だがあなたも気付くだろう。自分もまたゴリラであることに!
 いつからゴリラだった? いや、生まれた頃からゴリラだった! 筈だ!
 ゴリラは疑問をもたない。
 なぜならその拳ですべてを粉砕できるから。
 ゴーリカはドラミングによって今回の依頼内容を伝えてきた。
 言葉はなにも発していないしなんの情報も伝達されていないが、わかる。
 ゴリラは賢い。
 なぜなら全知全能のゴリ頭脳を持っているからだ。
 一瞬にして察したゴリギュラーズたちは悟った。
 この世界にはいくつもの『囚われし魂』がある。
 ノルマに苦しむ会社員。
 育児に追われる主婦。
 ご近所トラブルに巻き込まれた女。
 結婚しろとうるさく言われる男。
 自分に自信が持てなくてもう死にたい奴。
 だが救いの手はここにあるはずだ。
 ゴリラは優しい。
 なぜならすべての苦しみを粉砕するためにこの拳があるからだ。
 ゴリギュラーズたちはドラミングによって応えると、次々に飛び出していった。
 この世界の苦しみを粉砕するため!
 とらわれし魂をすくうために!

●――というクエストである
 ここまで読んだあなたはこれがPPPなのかどうか疑わしくなってサイトを一度ページを戻ってしまったかもしれない。だが安心して欲しい。ちゃんとした依頼だから。
 ことの始まりは練達セフィロトROO研究チームの開発室。もといログインルームにて、『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)がこのようなクエストについて説明した。
「ROO内にバグによって特殊空間が生じてしまったのです。この空間は強いデータ侵食効果をもっていて、はじめは四畳半程度の大きさだった空間が徐々に拡大していっているのです。このままではROOがこの空間に飲まれてしまう危険だってあるかもしれません。
 それだけでなく、調査に向かった研究員や元々ROOの研究をしていたスタッフたちの魂も取り込まれてしまって、彼らは『魂の牢獄』とよばれる闇にとらわれています。
 ですが彼らの魂に『特別なコード』によって直接アクセスすることで牢獄を粉砕し、助け出すことができるのです!」
 そういって取り出したメモリースティック。
 ラベルには『GGG』と書かれていた。
 練達の開発したプログラムコードのひとつ、『golden gorilla goriject』である。
 これは使用者の魂とアバターをゴリラ化することで特定空間にて最強の力を得るというもの。
「皆さん――宇宙最強のゴリラとなり、魂の牢獄を解き放つのです! 物理で!」

GMコメント

 このシナリオはゴリラシナリオです。
 皆さんは宇宙最強のゴリラとなり、現代社会の闇を粉砕します。

 具体的には三つの『魂の牢獄』に2~3名ずつアクセスし、そのゴリラ力で邪魔なものすべてを粉砕してください。
 方法はある意味自由。あながは最強無敵のゴリラなのでなんでもできます。
 では向かうべき『魂の牢獄』についてご説明しましょう。

・ノルマに追われた男
 スチールデスクの並ぶオフィス。ブラインドのかかった窓。そこは現代日本ぽいオフィスルーム。
 男は積み上げられたノルマに苦しみ、今にも自爆営業を強いられそうになっていた。
 壁にかかったノルマ表は日に日に彼を苦しめ、生活はとっくに破綻している。
 上司は嫌みをいいながら男をおいたて、先輩は美味しいところを持っていき、生意気な後輩にも馬鹿にされる始末。
 男はこの闇に屈し、潰えてしまうのか。親から貰った体と、絆と青春のなかで築き上げた人生というリソースを他者に絞り尽くされ、枯れ果て自死の道をゆくのか?
 否! そこに――あなたというゴリラが現れるのだ!

・育児に疲弊した母
 昼夜問わず泣き続ける赤子を抱いて、女は疲弊していた。
 目には隈ができ、髪はもう一年以上手を付けていない。入浴を怠って何日がたっただろう。
 夫は仕事を言い訳に家を空け続け、両親は『育児は親の仕事でしょ』といって手を付けず、可愛がるだけ可愛がって面倒をすべて女に押しつけていた。
 かつて夢見た家庭という楽園は、彼女を捕らえる牢獄にかわっていたのだ。
 可愛い我が子。だが苦しみの元凶でもある我が子。それを憎んでしまう自分を嫌悪し、愛することに疲れてしまう。
 女はこのまま闇に屈し、狂乱の果てに潰えてしまうのか。母にも子にも未来はないのか。
 祝福されて生まれてきたはずの子に、笑顔は与えられないのか?
 否! そこに――あなたというゴリラが現れるのだ!

・いじめに苦しむ少年
 ある高等学校の廊下を、片方の上履きを失った少年が歩いている。
 何の理由もなく……強いて言うなら『空気が読めない』という理由で仲間はずれにされた彼は、いつしか嗜虐の対象になっていた。
 上履きは毎日のように隠され、席を外した間に文房具が壊され、文句を言う度胸もあらがう腕力もないまま、自分をせせら笑うクラスメイトたちに怒りと恐怖と、憎しみと絶望を、いつまでも抱き続けるだけの毎日だった。
 自分がいなくなっても誰も困りはしない。そう考えても無理からぬ年頃だ。少年はこっそりと手に入れた鍵をつかって、屋上への扉を開いた。頼りないフェンスに手をかけ、脚をかける。彼の魂は娯楽のためだけに消費されてしまうのか。心ない者たちの嘲笑に溶けてしまうのか。
 否! そこに――あなたというゴリラが現れるのだ!

================================

●情報精度
 このシナリオの情報精度はGです。
 GはゴリラのG。つまり勇気の印です。

●ROOとは
 練達三塔主の『Project:IDEA』の産物で練達ネットワーク上に構築された疑似世界をR.O.O(Rapid Origin Online)と呼びます。
 練達の悲願を達成する為、混沌世界の『法則』を研究すべく作られた仮想環境ではありますが、原因不明のエラーにより暴走。情報の自己増殖が発生し、まるでゲームのような世界を構築しています。
 R.O.O内の作りは混沌の現実に似ていますが、旅人たちの世界の風景や人物、既に亡き人物が存在する等、世界のルールを部分的に外れた事象も観測されるようです。
 練達三塔主より依頼を受けたローレット・イレギュラーズはこの疑似世界で活動するためログイン装置を介してこの世界に介入。
 自分専用の『アバター』を作って活動し、閉じ込められた人々の救出や『ゲームクリア』を目指します。
特設ページ:https://rev1.reversion.jp/page/RapidOriginOnline

※重要な備考『デスカウント』
 R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
 現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。

  • ゴリラアンドゴリラインザスカイ完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年08月23日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

クシィ(p3x000244)
大鴉を追うもの
梨尾(p3x000561)
不転の境界
ロク(p3x005176)
サイバークソ犬
ハーヴェイ(p3x006562)
心にゴリラ
スキュリオラス・ド・スコタコス(p3x007036)
深海の赤い悪魔
ダテ・チヒロ(p3x007569)
パンドラフィッター
ウーティス(p3x009093)
無名騎士
天狐(p3x009798)
うどんの神

リプレイ

●ゴリラは強い。ゴリラは死なない。
 屋上への扉を開けば、鬱陶しい風が出迎えた。生ぬるく分厚い、生きてることを咎めるような風だ。
 少年は足下を見つめ、歩を進め、フェンスへとてをかける。
 ろくに手入れされていないフェンスは軽くさび付き、乗り越えるのはそう難しくなさそうだった。よじ登ろうと手と足をかけると、ガシャンという音とヴォーーーンという空圧音と共にハイ目の前にホバリングゴリラ。
「コンクリートジャングル ミンナ タタカッテ シヌ タタカワナイデ シヌ ナイ!」
 フィットネスリングをソニックブームでも出るんじゃねーのって速度で高速ヴォンヴォンする『フィットネスゴリラ』ダテ・チヒロ(p3x007569)。
 ダテゴリラはフィットネスホバリング法で金網を悠々と越えると、Y字のポーズで屋上へと着地した。
 あっけにとられなんとなく金網から離れた少年。彼へ振り返ると、ダテゴリラは両腕をガッと広げると隠されしバイオゴリラハンドを更に四本二対はやすと少年へと接近。
「ミズカライノチヲタツカクゴ ナカナカナイ オマエ ユウキ アル!」
 立ち尽くす少年をフィットネスゴリラハグ×3で包み込んだ。
 そう、ゴリラは優しい。ゴリラの優しさは少年へとゴリラパワーを注入しコンクリートの屋上が緑豊かなジャングルへと変化していく。
「ヤラレルマエニヤル イツノジダイモカワラナイ ジャングルノオキテ」
「ワカッタ!」
 少年ゴリラは歯をむき出しにして吠えると、右手をドンと自らの胸に叩きつけた。
「ウホウホ……怒りと恐怖……憎しみと絶望……足りない。これじゃ……ダメ!
 強欲、Greed。もっと貪欲になれ!」
 両手に上履きを大量にくっつけた紐をぐるんぐるん振り回し謎の上昇気流をおこした『グリードゴリラ』クシィ(p3x000244)がフェンスの向こう側から現れた。
「世界は広く、お前より強くてデカいやつは幾らでもいる。無茶だの無謀だの言われても、地に伏しても、満たされなくても、最期の最期まで野望を燃やせ。そう、あの男のように……な!」
「あの男! 誰!?」
「あの男とい言ったらあの男ウホ!」
 教科書に書いてあるだろうが! と吼えながら屋上に着地したクシィゴリラは手にしていた大量の上履きをどさりと落とし山を作った。
「お前の望むものは何だ! 言ってみろ! ガキが!!」
「望みなんて……」
「ウホッ!」
 謙虚さを見せようとした少年の心の行く手を塞ぐように山に手を突っ込み取り出したのは片方の上履き。内側には少年の名前が書いてあった。
「それは、見つけてくれたんですか!?」
 手を伸ばす少年からサッと腕をひき上履きを自分の方へ引き寄せるクシィゴリラ。
「オレ、グリードゴリラ! どんな物も求める! すべてを手に入れる! 片方の上履きも、他人の上履きも、店の上履きも、隠された誰かの知らない上履きも! 全部、オレのモノ!」
「そんな必要な――」
「必要なくても手に入れる! それがグリードゴリラ!」
「ワカッタ!」
 ホワァーッと叫んだ少年は両手で胸をリズミカルに叩くと、屋上の扉をゴリラローリングタックルで突き破るとフィットネスリングを高速ヴォンヴォンしながら股上げダッシュで廊下を突っ走り疑わしい誰かを空気泡でヴォン! 止めなかった周りのやつもヴォン! ついでに教室を片っ端からヴォン! 机も黒板も自分の席を占領してだべってるクラスメイトもまとめてヴォンするとひっくりかえった山の中から足をひっつかみ引きずりだし、上履きを奪い取った。
「ホシイモノ、テニイレル! キンニクハ、ウラギラナイ!」
「ソウダ……」
 なんか真っ白になったダテゴリラがクシィゴリラに肩をかりながらその様子を見ていた。
「キンニクガ、ヨロコンデル……」
 がくりと力尽きるダテゴリラ。
「安らかに眠れゴリラ。ウッホウホホイ。ウホゴリラ」
 ゴリラ俳句を詠み、差し出すバナナ。その花言葉は『ザ・キングオブ風格』。
 こだまする雄叫びとドラミング。そこにもう、虐げられる少年はいない。

●もうひとつのゴリラ学園
 ひとつの魂が救われた。だが、魂の牢獄は消えていなかった。
 それは囚われし魂が分離し、牢獄のなかにまだ残留していることをさす。
 教室の片隅で寝たふりをする少年が見えるか。
 それを指さし嘲笑する者たちの姿が。
 そんな彼らの真後ろに現れた――『ゴリラ騎士』ウーティス(p3x009093)が!
「ジャングル、厳シイ。ソレデモ、生命、皆イキル」
 嘲笑する者たちの頭をバスケットボールみたいに片手できゅって掴みあげると、そのままバンザイの姿勢をとった。掴んでいたものっていうか人がいきなり天井に頭から突き刺さりぶらーんする。
「生キテイテ、イケナイ、タマシイ。ナイ。ソレハ、貴殿モ、オナジ。イキテイルダケデ、尊イ。
 ゴリラ、御身ヲ、導ク。空ノ、ヒロサを見レバ、セカイノ、ヒロサ、知ル」
 そう言ってゴリラダッシュをはじめたウーティスゴリラはがばっと起きた少年を掴み窓ガラスっていうか壁ごと突き破りお外へGO。
 皆は知ってると思うが、ゴリラは飛ぶ。
「目ヲ開イテ、世界、見ヨ! 学校小サイ。ジャングルヨリ、ハルカニ、セマイ」
 少年を抱いて飛ぶゴリラは力強く言った。
「空気、ヨマナクテ、イイ。空気、作ル側ニ、ナレ。ヤサシク、ツヨク、ナレル。運命、貴殿、切リヒラケル。ソノタメニ、ゴリラ、来タ」
「ゴリラ……」
「ゴリラアンドゴリラインザスカイ……世界ヲ愛シ、世界ト戦ウナラ、貴殿モ、今日カラ、立派ナゴリラダ……」
 なびくシルバーバック。
 ゴリラのその姿は少年に勇気を、そして少年を虐げていた者たちに優しき愛を説いた。
「イジメタヤツラ、キコエルカ?
 ゴリラ、悪、ユルサナイ。ダガ、安易ナ暴力ハ、振ルワナイ」
 いま天井からぶらーんしてるやつをチラ見したが、あれは挨拶だから。強めのゴリラ挨拶だから。
「貴殿ラハ、人ヲイジメルコトデ、己ヲ、貶メタ……ジャングル、誇リ無イモノ、死ヌ。
 善ク、生キロ。ゴリラハ、ミテイル。ゴリラ、イツモ、イル……コンクリートジャングルニ」

●ノルマを破壊せよ
 鳴り響く電話のベル音に、男達は疲弊していた。物理的に積み上がるノルマと重圧。生意気な後輩や尊敬できない先輩たちに挟まれすり減っていく心は、机の上に並ぶ大量の空き缶珈琲という形で現れていた。
 また新たな仕事が目の前に積み上げられようとした、その時。
「ホアーーーーーッッッ!!!!」
 『火ゴリラ』ハーヴェイ(p3x006562)がローリングゴリラタックルで扉を突き破って現れた。
 目の前にある書類、ラップトップPC、サボってる上司、上司が読んでたスポーツ新聞、仕事の書類、全部をかき集めるとその場でハーヴェイダンスを踊った。三秒で終了するこのダンス(お茶の間でも大人気。踊ってみた動画が100万再生)が終わると同時に螺旋状に吹き上がる炎の渦がすべてを焼き付くし爆発四散させた。
「ホッホホゥ! ウホホゴリラ! ゴリゴリラ!! ゴリラゴリラ! ウホゴリラウホホウホ!!」
 その足で走り回り壁とコピー機とノルマ表をパンチで粉砕していくハーヴェイ。
「ジャングルニ ノルマ イラナイ !!
 ジャングル チガウ ? ノー ココ ジャングル!!
 ココ ナマエ コンクリートジャングル。ツマリ ジャングル !!
 デモ コノ ジャングル トテモ ツメタイ。オマエ ゴリラ ゲンキナイ。
 ダカラ ハーヴェイ アタタメル。オマエ ゴリラ アツクサセル!!」
 ゴリラマインドを語るハーヴェイを止めるべく現れる上司。
「部外者が邪魔す――ヘヴンッ!?」
 ハーヴェイスクリューアッパー(放ってみた動画が1億再生)が上司を天井に頭からぶっさした。
「ゴリラニ ノルマ イラナイ! ゴリラ ツヨサ スベテ!!
 オマエ ゴリラ! オレモ ゴリラ!! ミンナ ゴリラ!!!
 ゴリラ シバルモノ ナニモナイ!! オマエ ジユウ!!
 ココニアルモノ キニナル? ナラバ コレ ゼンブ ジャマ!!」
 そう語りかけるのは、今まさに心の疲弊しかけていた男だった。後ろから現れ、まがったネクタイをそっと直してやる『深海の赤いゴリラ』スキュリオラス・ド・スコタコス(p3x007036)。
「ジャングルノノルマ、イキルコト!
 モチコシ、オギナウ、イッサイナイ! タリナイ、シヌ!! タリテイレバ、イキル!!
 オマエ、イマ、イキテル! イキテル、エライ! ツヨクナイ、イキラレナイ!」
「えっいまなんて」
「イキルノニジャマナモノ、ステル! ニモツ、オモイ! オモイ、ウゴケナイ!ウゴケナイ、シヌ!」
 スキュリオラスの動きは速かった。とりま目の前のスチールですくを片手で掴むとブゥンつって壁に向かって投げた。
 ごめん間違えた。外に向かって投げた。
 デスクとそこに乗ってたものと周囲にあったもの、ついでに間にあった壁がビルの外へと吹っ飛びお空に書類の紙吹雪を作った。
「ジャングル、チカラガスベテ! ウルサイ、ジョウシトコウハイ、ステル!!
 センパイ、タダシイ! ジャングル、ヨワイモノ、ウバワレル!タダシイ!!!
 ダカラコソ、ウバイカエス! ニドト、ウバワレナイヨウ、タタキダス!」
 更にそうゴリラ語で語ると八本のゴリラテンタクトによって周囲のムカつくやつ全員の片足を掴んでぐるんぐるんすると同じ穴から放り出す。
 そして振り返り、あっけにとられる男の肩を叩いた。
「ステオワッタ、オマエ、ナニガノコッテル?」
「えっ……」
「イノチ、カゾク、トモダチ!」
 そこへ降臨する『ゴリラの』梨尾(p3x000561)。ゴリラ獅子獣人精霊さんに抱きかかえられた梨尾はさっき開いた穴の向こうから現れた。空も飛ぶし翼がなんか十枚くらい生えてる上に光ってる精霊ゴリラ獅子がこっくり頷いた。
「聖猫ゴリラ天使、サバンナゴリラ見参! コノ純白ノ心が目ニ入ラヌカ!」
 カッと光ながら言う梨尾ゴリラ。そこへ青筋立てた顧客たちが飛び込んできた。
「オイテメー納期どうなってんだタダにしろや!」
「イジメル悪魔ドモ。天界とサバンナ賢者ガキルゼムオール!」
 梨尾ゴリラによるゴリラ炎鎖が炸裂した。炎の鎖を実体化させ鎖が対象に絡みつかず殺さず傷つけず痛みを与えずなにもしないけど最終的には自分で殴るという極めて合理的なゴリラスキルである。
「ヘヴンッ!?」
 くの字にまがって吹き飛ぶカスタマー。
「ノルマニ追ワレタ男、新シキ同胞ヨ。
 オ前ノ拳、気絶シタ悪魔、殴レ」
 ポンと肩を叩いてやる梨尾。
 立ち上がった男は、いつの間にかゴリラになっていた。
 ゴリラに仲間と認められればゴリラになる。皆知ってる常識である。
「オ前モウゴリラ!デモ、オ前殴レナイナラ、聖猫ゴリラ天使オ前ノ傘!! 傘、代ワリニシバキ倒ス!!」
 拳を握って見せる梨尾ゴリラに、しかし男ゴリラはゆっくりと首を振った。
「イラナイ! オレ、デキル!」
 そう、ゴリラは強い。
 ゴリラとなった男はこれから降りかかるすべてをゴリラパワーで粉砕し、毎日をゴリラパーティーのシャンゴリラとするだろう。
 ムカつくもん全部ぶっ壊し最後にはポケットから取り出した業務用スマホを握りつぶし粉砕したゴリラは、三人のゴリラへと振り返った。
 頷くスキュリオラスゴリラ。
 頷くハーヴェイゴリラ。
 頷く梨尾ゴリラ。
 その後ろでキレッキレなツーカイダンスを踊る騒霊獅子獣ゴリラ。
 彼らは頷きあうと、ビルの壁を突き破って空へと飛んだ。
 もう彼らを縛るものはない。
 なぜならゴリラだから。
 ゴリラは強い。
 ゴリラは賢い。
 ゴリラは優しい。
 そんな彼らを阻むものなどなく、そして彼らは自分で選択し、生きていく事が出来るのだ。正しさすらも、自分たちで決めるのだ。
 それがノルマなき世界。
 ゴリラの世界なのだ。

●赤ちゃんは可愛い。育児はつらい。ゴリラはつよい。
 屋根の上に座りどんぶりのうどんをすする『ごりらうどん』天狐(p3x009798)。
 その家こそが、育児に疲弊した母の暮らす場所であった。
 文字通り死ぬ思いで生み出した我が子。その苦労と、本能と理性の両方から溢れる愛。可愛さと使命感から始めたワンオペの育児はいつしか自らを縛る鎖となっていた。
 協力の概念をはき違えろくな支援をしてくれない夫や両親。眠れぬ夜は三桁を超え、日に日に浮かぶのは極端に破滅的な妄想ばかり。
 泣き叫ぶ我が子の声を聞きながら台所にたち、熱湯で溶かした粉ミルクを蛇口からの流水に回すように晒し続けていたそのとき、ぴたりと子供の声がとまった。
 過敏になった彼女の神経がすべてをなげうってその様子を見に行かせたが、そこに広がっていた光景とはハイゴリラ。
「赤子、マカセロ、ワタシゴリラ」
 『サイバークソゴリラ』ロク(p3x005176)が静かにきゃきゃっと笑う赤子を片腕に抱き、ゆっくりとその腹を撫でていた。
「あ、あなたは……」
「ゴリラ。ヤサシイヤサシイツヨイツヨイ。ワタシマカセロ、トニカク、マカセロホァーッ!」
 ウホーと言いながら赤子を抱え飛び出したロクゴリラはまず台所にやってくるとその溢れるゴリラパワーでバナナを握りつぶすと離乳食化した。ゴリラの手は常に清潔に消毒されお子様の体にも安心だということは学会でも有名である。
「ロリバナナ、ヤル。タベロ」
 プラスチックスプーンでそっと口へ持っていくと、赤子はそれを口に頬張り、そしてもむもむと動かして再び口を開けた。
「もう離乳食を……!?」
「トウゼン。サアモウ、オマエ、ゴリラ! 赤ゴリラ!」
 赤子いや赤ゴリラはウホーといって飛び上がるとベビー服を着たまま走り出しお外へと飛び出していく。
 赤ゴリラは強い。
 あらゆる危険をその赤ゴリラハンドで粉砕し、あらゆる段差を赤ゴリラフットで飛び越える。赤ゴリラは太陽の下を走り、そして空へと舞い上がった。
 ロクゴリラが次々と投げるロリバナナをキャッチしては喰う赤ゴリラ。
「赤ゴリラ、ハヤクオオキクナル。母ゴリラ、マモル。ドンドン、クエ。ロリバナナクエ」
 ロクゴリラは空飛ぶ赤ゴリラと共に走り出すと、母親を片腕に優しく抱きかかえた。
「ウホゴリラ、ユルサナイ。ゴリラミナカゾクウホ、ゴリラナカス、ユルサナイ!
 母子ゴリラホットク、ユルサナイ。粉砕! 粉砕! ミナゴリラ、ナル。ミナ粉砕ウホ!」
 向かった先は夫の職場であった。
 かつていじめにあい性格が歪み今ではノルマだらけのブラック企業で人格を破壊されていた夫は、他のゴリラたちによって会社ごと粉砕され強きゴリラになっていた。
「ツマ、ナカス、ゴリラジャナイ。ゴリラ、カゾク、マモル! エガオ、マモル!」
「ゴリラ、ナカマ、フヤス。イッパイ!」
 夫ゴリラとゴリラ握手を交わすと次なる目的地は実家。
 実家の家屋と家具とあといろいろ粉砕したあと両親を抱え、ゴリラマインドを物理的に流し込む。
「ゴリラツヨイ、ゴリラヤサシイ、ワルイヤツ粉砕、ワルイヤツミナ、ナカマスル、ワカッタカ?」
「「ワカッタ!!」」
 ゴリラサムズアップをするゴリラ家族たち。
 その先頭にたった赤ゴリラの頭を、ロクゴリラはそっと撫でた。
「赤ゴリラ、モウオマエ、ワタシヒツヨウナイ、母ゴリライッショ、ツヨイツヨイ。ガンバルウホ……」
「ロクゴリラ、ウホ……」
 差し出された小さな手。それを優しく握り、ロクゴリラは頷いた。
 皆に背を向け、そして大地を蹴る。
 ゴリラは去るのだ。もうここに悲しい魂はない。みなゴリラとなり、強く逞しい肉体と精神ですべての困難を粉砕するだろう。
 次なる弱きものを救うため、ゴリラはゆくのだ。
「ゴリラウッホッホーッ!」

成否

成功

MVP

ロク(p3x005176)
サイバークソ犬

状態異常

なし

あとがき

 ――バグは解消されましたウホ

PAGETOPPAGEBOTTOM