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シナリオ詳細

再現性東京2010:ましゅまろメイド

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 夏の日差しはギラギラとアスファルトを照りつける。
 再現性東京2010街希望ヶ浜の夏は暑かった。

「あらー! あんた達似合うじゃないの! とーっても可愛いわぁ!」
「嘘だろ」
「おい。パーシー! 聞いて無いぞ!」
「これ着ないとだめなのか?」
 喫茶店『ましゅまろカフェ』の控え室に集まった八人のイレギュラーズ。
 彼等を優しく包み込むのは可愛らしいワンピースとフリフリのエプロン。
 所謂『メイド服』なるものだ。
 本来であれば少女の魅力を存分に引き出すアイテムだが。
 八人のイレギュラーズは全員男である。
 男なのである――!

 時は遡ること数時間前。
 希望ヶ浜の電気街をふらふらしていたパーシー=マクベス (p3p006620)は目の前で倒れ込む少女に手を差し伸べた。
 可愛いワンピースとフリフリのエプロン。メイド服を着た女の子だ。
「大丈夫か?」
「すみません……」
 顔色の悪そうなメイド服の少女を支えるパーシー。
 妙に熱い。体温が高いような気がする。
「おい、アンタ。熱があるんじゃないか?」
「いえ。バイトにいかないとメイド喫茶のバイトがあるんです」
「そうは言ってもな……こんな状態じゃ無理だと思うが」
「あなたもメイド服を着ているということは、どこかのメイド喫茶で働いてるんですよね?」
 少女はパーシーの服装を見て懇願するように縋り付いた。
「お願いです。私の代わりにバイトに出て貰えませんか? 今日、本当に人手が足りなくて。皆、部活とか家族の用事とかで居ないんです!」
 ぜえぜえと荒い呼吸を繰り返す少女にパーシーは困った顔をする。
「…………分かった。俺が何とかする。だから、アンタは家に帰ってゆっくり休め」
「ありがとうございます。猫耳メイドの少年の人」
 手を合わせて涙を流すメイド服の少女。
「あ、店だけ教えてくれ」
 そんなこんなでパーシーはaPhoneを取り出してメッセージアプリを起動する。

『――この店に夜妖が出るらしい。ちょっと大がかりになるんで、手伝って欲しい』

「ってきいてたんだが。この格好は……」
 パーシーに首を傾けるのはアーマデル・アル・アマル (p3p008599)だ。
 イシュミルに見つかったら写真を撮られてしまうのではないか。アーマデルは何処かから視線を感じ振り向いた。だが、何も無い。
「乙女からのお願いよぉ! もちろん、きいてくれるわよね?」
 店長のオネェ――戸谷裕次郎(ユウちゃん・38)がウィンクを投げて寄越す。
 スティーブン・スロウ (p3p002157)はぐっと息を飲み込み、物凄く頑張って笑顔を作った。
 彼の隣のイケメン大串 湊 (p3p002929)は冷静にメイド喫茶の内装を観察している。写真とか撮ってもいいのだろうか。次のイベントはメイド物もありかもしれないとメガネをスチャってした。

『オイ……騙されてルんじゃねえノカ』
「いや、でもこれはれっきとした夜妖退治だ。この格好で接客をすると夜妖が客として現れるはず……なんだろ?」
 赤羽・大地 (p3p004151)はパーシーに顔を向ける。
「カフェ・ローレットの情報屋(ハルジオン)に問い合わせたら、可愛いメイド服を着て接客すると夜妖が現れて歓喜してほいほいついてくるらしい?」
「何で疑問形なの?」
 辻岡 真 (p3p004665)が大地と共にパーシーを覗き込んだ。
 ひらひらのエプロンをつまんでトスト・クェント (p3p009132)は困った顔をする。
 ワンピースの下は、ニーハイである。ニーハイ以外を毟る鳥を思い出してトストはぷるぷると震えた。
「まさか、毟られないよね?」
 何かにワンピースの裾を引っ張られた気がしてトストは辺りをぐるりと見渡す。
「まあ、格好はどうあれ……、夜妖は退治しねぇとな」
 朔(p3p009861)が観念したように溜息をついた。

 これは、メイド喫茶でイレギュラーズがメイド服を着て、可愛く接客をしたりすると夜妖が現れ「このあとどう?」と誘われるので屋上に呼び出して叩きのめす依頼だ。
 他の客を傷つけない為には誘いに乗って、屋上まで連れださなければならない。
 屋上まで連れて来たらあとは倒しておしまいだ。
 叩きのめすといっても、夜妖は尊みにきゅんすればするほど弱くなり、具体的には両手の指を合わせてハート型にして「きゅん♡」とかやれば尊みに成仏するらしい。
 古来より兵法では『戦わずに勝つが最上』と言われ、男子なら誰でも知っている。な、赤羽!
 なので赤羽さんも是非そのお声で「もえもえきゅん♡」してください。
 という訳で、題して『魅惑のふりふりメイド服』作戦の開始である。
 そうこれはお仕事なのです。仕方ない。仕方ない。

 ところであの少女。本当に少女だったのか?
 誰かが振り返ると、そこにはアーマデルが居た。
 アッ! 巫女メイド!

GMコメント

 桜田ポーチュラカです。
 メイド服で接客をして夜妖を退治しましょう。

■依頼達成条件
 メイド服を着て接客をする。
 現れた夜妖を屋上へ連れ出して討伐する。

■フィールド
 メイド喫茶『ましゅまろカフェ』が入っているビル。
 最上階のメイド喫茶。カフェの外にある階段で屋上に出られます。
 メイド喫茶の店内はカントリー調の優しい雰囲気です。
 可愛らしいオーナメントが飾られていますので、可愛らしく振る舞いましょう。
 ましゅまろカフェはキャラメルマキアートにハートマークを描くサービスや、萌え萌えキュンをしてくれるサービスなどが目当てで来るお客様もいます。
 今日は夜妖だけでなく普通のお客様もいるので、カフェでは可愛くしましょう。
 イレギュラーズは可愛いメイドさんです。
 ちなみにお客様は全て男性です。夜妖も男性型です。いいねいいね、こうでなきゃ。

■敵
・悪性怪異:夜妖『横縞々』×8
 メイド喫茶のメイドさん達と仲良くなりたい思いが形になったもの。男性型です。
 可愛らしいメイドさんに声を掛けてきます。
 とびっきりの可愛いメイドを演じて下さい。
 恥じらいがあってもそれはそれで良いと思います。
 開き直って誘惑しても大丈夫です。
 どんなメイド服でどんな可愛さをアピールするかを書きましょう。
 メロメロにさせればさせるほど、夜妖の能力は弱まり安全に倒せるはずです。
 具体的には、例えば両手でハートを作って「きゅん♡」とすれば、夜妖は尊みに成仏します。
 なのでいっそ戦わずに勝つのが最強に決まっています。「きゅん♡」頑張りましょう!
 だって間違って屋上に一般人を連れてった時に、どついたら大変じゃないですか。でも「きゅん♡」なら安全な訳で。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
 なぜなら「このあとどう?」と誘ってくる男性が、必ずしも夜妖だけとは限らないからです。

●再現性東京2010街『希望ヶ浜』
 練達には、再現性東京(アデプト・トーキョー)と呼ばれる地区がある。
 主に地球、日本地域出身の旅人や、彼らに興味を抱く者たちが作り上げた、練達内に存在する、日本の都市、『東京』を模した特殊地区。
 ここは『希望ヶ浜』。東京西部の小さな都市を模した地域だ。
 希望ヶ浜の人々は世界の在り方を受け入れていない。目を瞑り耳を塞ぎ、かつての世界を再現したつもりで生きている。
 練達はここに国内を脅かすモンスター(悪性怪異と呼ばれています)を討伐するための人材を育成する機関『希望ヶ浜学園』を設立した。
 そこでローレットのイレギュラーズが、モンスター退治の専門家として招かれたのである。
 それも『学園の生徒や職員』という形で……。

●希望ヶ浜学園
 再現性東京2010街『希望ヶ浜』に設立された学校。
 夜妖<ヨル>と呼ばれる存在と戦う学生を育成するマンモス校。
 幼稚舎から大学まで一貫した教育を行っており、希望ヶ浜地区では『由緒正しき学園』という認識をされいる裏側では怪異と戦う者達の育成を行っている。
 ローレットのイレギュラーズの皆さんは入学、編入、講師として参入することができます。
 入学/編入学年や講師としての受け持ち科目はご自分で決定していただくことが出来ます。
 ライトな学園伝奇をお楽しみいただけます。

●夜妖<ヨル>
 都市伝説やモンスターの総称。
 科学文明の中に生きる再現性東京の住民達にとって存在してはいけないファンタジー生物。
 関わりたくないものです。
 完全な人型で無い旅人や種族は再現性東京『希望ヶ浜地区』では恐れられる程度に、この地区では『非日常』は許容されません。(ただし、非日常を認めないため変わったファッションだなと思われる程度に済みます)

  • 再現性東京2010:ましゅまろメイド完了
  • GM名桜田ポーチュラカ
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年08月20日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費---RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

スティーブン・スロウ(p3p002157)
こわいひと
大串 湊(p3p002929)
メガネ取っても可愛いメイド
赤羽・大地(p3p004151)
彼岸と此岸の魔術師
辻岡 真(p3p004665)
旅慣れた
パーシー=マクベス(p3p006620)
ちょっと筋肉質なメイド
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
トスト・クェント(p3p009132)
星灯る水面へ
朔(p3p009861)
旅人と魔種の三重奏

リプレイ


 ほがらかな日光がましゅまろカフェの更衣室に差し込む。
「なにが どうして こうなった????」
 更衣室のハンガーにズラリと並ぶメイド服(なぜか大きいサイズのものばかり)を見つめて首を振るのは朔(p3p009861)だ。
「女装なんて同級生がやってんのを見たくらいなんだが。えっ俺やるの? 大丈夫??」
「あんた綺麗な顔立ちだから。メイクすれば完璧よぉ♪」
 朔の方をぽんと叩いた店長のオネェ――戸谷裕次郎(ユウちゃん・38)はつけまつげをパサパサした。
「分かった。やるからにはみっともない姿は許さない。人生の汚点になるなら汚いより可愛い方がまだいいだろ!」
 目をカッと見開いた朔は振り向いて『旅慣れた』辻岡 真(p3p004665)に詰め寄る。
「真は化粧とか出来るんだろ? 頼むぜ」
「任せな。あなたがもっと美しく可愛く魅力的なメイドに変わる様に、俺があなたに魔術をかけよう」
 真は朔の頬を掴んでまじまじと見つめた。
 朔の顔から手を離した真は自身も英国風メイド服で耽美なメイドボーイになる。
 詰め襟長袖ロングワンピ黒。白エプロンドレス。黒ニーソ。ガーターベルト。黒ピンヒール。
 おもかげ色を唇とアイシャドウに乗せ、化粧して良い感じに整え、指先にMonday。
 髪を掻き上げればハード系銀ピアスが照明に光った。え、美しい。尊。
「真はすごいな。俺はそうだな。カツラとか被っていいの? クラシカルメイド服? でいい??」

「ぬふふw 再現性東京はいいでござるねぇ!」
 うんうんと頷いてみせる『生きたネクロロリコン』大串 湊(p3p002929)は元の世界『現代日本』を彷彿とさせるメイドカフェの空気を肺いっぱいに吸い込んだ。
「電話で呼ばれたのでチャリできた卍勢いで来たでござるがこれはいい、久方ぶりにメイド喫茶の雰囲気も楽しみつつ事件も解決していくでござるよw」
 服装はどれにしようかと一瞬だけ悩むが、やはりここは定番のクラシカルメイドだろうか。
「奥ゆかしい雰囲気と、振り返った時にふんわりと揺れるスカートの裾にときめかない紳士などいないでござるw ……メイクは辻岡殿お願いできるでござるか」
 メイド服を着た湊の顔に乗せられるチーク、唇には薄付きのリップで血色を乗せる。
『未来を、この手で』赤羽・大地(p3p004151)は店長のユウちゃんとメイド服を交互に見つめる。
(店長から何から癖の強いお店ではあるが……引き受けたからには逃げる訳にはいかないぞ、赤羽。俺は逃げないからお前も逃げるなよ。良いな??? 分かってるよな??)
(……クソ! 何でこんな事ニ、おのれパーシー=マクベスゥ!! 覚えてろよォ!!!)
 奇をてらうよりは、基本に忠実にとクラシカルメイドを着る大地。
 長い髪は邪魔にならないよう、二本のおさげに纏めておく。ギャップ良いッ。可愛い。そう思いませんか赤羽さん!

「わからん……何故男しかいない。人口比的におかしいのでは?」
 ぽつりと零した『霊魂使い』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)は店長の説明を聞いて首を傾げる。
 もえもえ、きゅんで夜妖を倒せというのならば、致し方ない。これも訓練なのだ。
 アーマデルの前に用意されているのは、深いスリットの入った巫女メイド服だ。
「巫女……? 何の事だろうな……? おっと、タイツは穿いてもいいだろう?」
 スリットから見える内腿。何だか駄目な気がするとアーマデルは必死に隠そうとする。
「ニーハイはそれ以上上がらないわよ?」
「……何故だ! ニーハイよりタイツの方がいいって客もいるかもしれないだろう?!」
 スリットとタイツ。デニール低いヤツで是非見たいですね! ふともものデニールが広がってる所は肌色が見えるんですよ。その部分はおおよそ、スリットから見えますね。最高だと思います。でも、今回はスリットから見えるニーハイの絶対領域とそれを頼りなく支えるガーターベルトをお楽しみ下さい。

『微睡む水底』トスト・クェント(p3p009132)は鏡に映る自分の姿を見つめる。
 ふりふりのエプロンメイド服。クラシカル寄り。
「うぅ……やっと恥たわーを忘れかけたとこだったのに!! ともかく、やるしかないのか……かわいく接客……かわいいって何だっけ……?」
 トストや大地、アーマデルの可愛らしさにワナワナと震える『ちょっと筋肉質なメイド』パーシー=マクベス(p3p006620)は眉を吊り上げる。
「ぎゃー! どうしてどいつもこいつもなんだかんだなんか乗り気になってんだよ! ムカつくぜ!! 普通なら拒否してギャーギャー騒ぐだろフッツー!」
「でも、やらないといけないんだよね?」
 トストの問いかけに髪をぐしゃぐしゃしてそっぽを向くパーシー。
「……はぁ、てかメイドとかだりぃ。ただでさえ毎日このカッコ(メイド服)を強制されてんのにこれ以上やってられんわ」
「あれ、趣味じゃなかったの?」
 パーシーが溜息をついた所へトストがゆるっと首を捻った。
「黙れー! お前らもメイドになるんだよぉー!」
 叫び声を上げたパーシーはガクリと肩を落として控室にある掃除用具入れを開ける。
「なんでこんなこと引き受け止まったんだか。俺は掃除してっからみんなテキトーに頼むわ」
「おいおい、裏方に引っ込んでようなんて許されるわけないだろ……」
 パーシーの襟首を掴んだのは『こわいひと』スティーブン・スロウ(p3p002157)だ。
「ライブなら丁度良い。てんちょー! こいつにとびきり可愛いメイド服着せましょうぜ!」
「あらあら。じゃあこんなのはどうかしら。黒メインのヒラヒラ多めのミニ丈メイド服。パーシーちゃんの細身の身体ならとっても良く似合うわぁ♪ パニエもふんだんに入れて。動く度にふとももに注目があつまるわよ。最高じゃない? それでステージに上がれば皆が釘付けよ!」
「え?! ステージ上がってライブしろ? おいおいおい裕次郎それはないぜ? ぜってーやんねぇし!」
「ユウちゃんとお呼びなさい!」
「おい! 暴力は反対っ、このカマゴリラめ! あ、どこ連れていきやがる、触んなっ……あ、あ゙ぁぁーーー!!」
 ユウちゃんと真のメイクで可愛らしく着飾られたパーシーが更衣室から出てくる。
「さあショータイムだ! 全員纏めて萌えきゅん尊死でノックアウトさせてあげるよ」
「ユニット名は『もえもえ♡ブラザーズ』合言葉は『あなたのハートにもえもえキュン♡』」
「おい!」
「イメージカラーは白。白ベースに甘ロリ風の改造メイド服でレッツアイドル! そう、胸パッドなんかいらねぇ! 男は素材で勝負だ!」
「クソオオオ!!!!」

 ましゅまろカフェ開店します――!


 ステージの上でパーシーとスティーブンがくるくるとまわる。
 随所に散りばめられたハートに、店内は大盛り上がりだった。
 ――【女の子だけなんてノンノン】の曲のイントロが流れはじめれば、店内の照明が落とされステージの上に居るパーシーとスティーブンにスポットライトが当たる。
「♪男の子がメイド服着ちゃダメだって誰が決めたの?
 女の子だけのものじゃないって証明してあ・げ・る♡」
「あげる♪」
「ほら見て似合うでしょ? フリフリメイド服。そう可愛いに性別は関係ないの」
「それとも男の子のメイドはお嫌い? そんなあなたもきっと夢中にさせてあげる」
 マイクパフォーマンスに、徹底的にあざとくスティーブンはメイド服を振らす。
 湊の用意したペンライトが七色に室内を染めた。
 スティーブンとパーシーに合わせて湊のオタ芸が披露される。
「さぁ、みんなー……きゅん♪」
「「「きゅん♪」」」

 最後はパーシーと手を合わせ――
「「あなたのハートにもえもえキュン♡」」
 店内は一体となってパーシーとスティーブンに魅了されていた。
 ライブが終わればファンサービスも忘れない。
「今日は応援ありがとーございまーす。ご主人様、きゅん♡」
 スティーブンがノリノリで男性客へアピールをする横でパーシーが俯き頬を染める。
「あらあら、スティーブンちゃん、出来るわね。パーシーちゃんはどうなのかしら?」
 近づいて来たユウちゃんに肩を叩かれ、唇を噛むパーシー。
「もういっそ誰か俺を殺してくれぇ!!」

 アーマデルはめいどのお仕事と聞いて成程と納得する。
「冥途の土産……そういわれると死者と生者の境界を保つ我が神の職分のような気がしてくるな」
 アーマデルはテーブルの上に並んだオムライスに大きく×と表示する。
 ここはメイド喫茶。本来であればハートマークなんかを描くのが妥当なのだろう。
 しかし。アーマデルが描いたのは×である。
「これは『お前が標的だ』って意味だぞ」
「標的」
 ミステリアスな巫女服アーマデルに標的(ターゲット)など言われるのであれば、それはもう殺し文句のようなものである。
「あ、あと。パンケーキはどれがいいですかね?」
「パンケーキ? 複数あるが何が違うんだ?」
 男性客の質問に質問で返すアーマデル。
「トッピングとかが違いますかね?」
「なに? トッピングが違う? わからん……お勧めはこれだ、この『はらぺこ狼さんの全部盛りパンケーキセット』を選べ」
 アーマデルの口からはらぺこ狼さんという単語が出るだけで男性客はドキドキしてしまう。

 一般の男性客に怪しまれないよう接客も大事だと湊はうむと頷いた。
 雰囲気作りのために男性客をミニゲームへと誘う。
 ゲームはあっち向いてホイだ。意外と白熱するタイプの遊びである。
「屋上に呼ばれるためにも今は精一杯おもてなしでござる」
「ん? どうしたの?」
「いえ、何でも無いでござるよ。それよりもチェキもあるでござる。一枚いかがか?」
「じゃあ、君も」
 湊は男性客の要望に応え、照れながらエプロンとスカートを摘まんで。チェキにパチリと収められた。
(萌えを醸し出すにはメイド服や髪型だけじゃなく、雰囲気作りも大事だ……多分)
 リコリスと一緒に調香をして良い香りを焚いた大地。
「何か良い香りがするね?」
「お帰りなさいませご主人様」
 おさげを垂らし、大地は男性客を席に案内する。
 水と共に手書きの絵とメッセージを添えたコースターをお出しするのだ。
「おや、可愛いね? 黒猫に肉球マークか。このメッセージは君が書いたの? 素敵だね」
「ありがとうございます。ご主人様に喜んで頂けて嬉しいです」
 なごやかなムードが大地と男性客の間に流れる。
(少なくとも、これが今日の俺達の仕事……!)

「いらっしゃ……あっ、ごめんなさい。……お、お帰りなさいませ……ご主人さま……?」
 トストは間違えてしまった事を恥ずかしそうにもじもじと照れた。
 その姿の可愛さたるや。一瞬で男性客を魅了してしまう。
 お絵かきオムライスはハートが定番だろうが、恥ずかしいしと少し悩んで小さいハートを4つぐるりと並べてクローバーに。
「……どう? ……ご、ご主人さまに、幸せをお届け……なーんて」
「おまじないはしてくれないの?」
「うっ。おまじないも? う、ぅ。おっ、おいしくなぁれ、おいしくなぁれ……」
 恥ずかしさで男性客の顔が見られないと俯くトスト。
 真は接客戦略を頭の中で考えていた。
 妖艶ミステリアスな格好良い男からの、明るく可愛い甘えたさんギャップ萌え路線! 良いですね。
「あなたも萌えきゅんしてみない?」
 美声と話術と細やかな気遣いで誑し込むカリスマ接客で男性客を魅了し、捌ききる真の手腕にユウちゃんも褒め讃える。
「あっちのテーブルご指名よ。もうあんた、うちの店で働かない? 」
「ふふふ」
「まあ、いいわ。いってらっしゃい」
「はぁーい! ご指名を有難うございますお客様! メイドボーイの真があなたに魔法を捧げるよ」
 男性客の前に出て来た真は微笑んでずいと近づく。
「萌え萌えきゅんきゅんっ、萌えきゅっきゅん♪ あなたのハートに萌えきゅっきゅん♪」
 コトリと置いたオムライスにケチャップをゆっくりと掛けた。
「美味しくなあれ、美味しくなあれの魔法のおまじない、あなたにかけてあげる♪ 萌えきゅっきゅん♪」
 吐息が聞こえそうなほど近い真の美貌に男性客はドキドキしっぱなしだ。
「ほらどうぞ。あなたの為に用意した特別な一皿、召し上がれ♡ 楽しんでいってね♡」
 男性客にウィンクしてみせた真は働いている仲間の写真をパシャリと撮っていく。
「お写真撮りチャンスは逃さない! 売れるなら商品にして売り捌く。悪魔? 知らないねえ♪」
 真の魔性の微笑みが浮かんだ。


 朔は喉元に手を当てて考え込む。
 声は普通に男性の声である。高めを意識するとしても無闇喋って男だと落胆させるのはまずいだろう。
 それなら無口系美少女(?)で責めていこうと朔は心に決める。
「お帰りなさいませ……こちらへ、どうぞ」
 頑張って高めの声を絞り出した朔に。男性客はにんまりと微笑む。
 その様子に朔は察した。ここに居るのは全て男性客。店長も男性。何故か用意されていたメイド服はサイズが大きい物ばかり。まさか。ここは元からそういう趣旨のお店なのだろうか。
 分からない。けれど、仕事はしごと。やらねばなるまい。
「ジャンケンで勝てたらオムライスに可愛いクマをケチャップで描いて萌えキュンするぜ」
 パーシー曰く、このバイトで萌えキュンは必須らしい。
「……いくぜ、ジャンケン、ポン……アッッッッ!!」
 ちょきを出した朔は、グーを出した男性客を見つめる。
「ま、負けた……いいや男に二言はないとも、やるっきゃねえ!」
 クマをケチャップで書き、顔を真っ赤にして恥じらいながら手をハートの形にする朔。
「萌え萌え……キュンっ」
(っっっあ"ーーーーーっっっぜっったい俺を知ってるヤツに見られたくねえ!! もれなく死ぬわ!?)
 その朔の萌え萌えキュンなシーンをきちんと真は写真に収めていた。
「おい、嘘だろ。その写真どうするんだ?」
「ふふふ」
「ねえ、このあとどう?」
「え、あ。このタイミング?」
 男性客に引き留められた朔はチェキをちらつかせる真を追いかける事も出来ず。
 屋上への階段を上っていく。
 この男性客が夜妖だろうが、そうで無かろうが一発で決めてやると拳を握った。
「あなたのハートに……萌え萌えキュン♡」
 成仏していく夜妖と、一部始終をカメラに収めた真に朔は項垂れる。
「最後には真っ白になるんだ……俺の黒歴史が生まれちまった……」

「このあとどう?」
 大地はついにこの時が来たと目を見開いた。決着の時である。
 屋上に連れだした男性客に近づいて、上目遣いで囁いた。
「御主人様。貴方様にどうしても伝えなければならない事が……」
「なんだい?」
「えっと」
(おい早くしロ。夜妖だったら逃げちまうだろうガヨ)
 煮え切らない大地に赤羽が焦れる。
「っえ、ぁ、まじで? ぁぁ……ぅう……もえもえきゅん♡」
「可愛いね……もっと見せて?」
 大地の萌え萌えキュンに興奮した男性客がズイと近づいて来る。
(チッ、大地のやり方は生温いんだヨ。いいカ、もっと確実ニ。標的の息の根を止める勢いデ。命(タマ)もぎ取るぐれぇニ!)

「……ァア〝 も、萌え、萌え、キュンッ……! カァ! クソガァッッ!!!!」

 アーマデルは一撃で夜妖を沈めるために渾身のもえきゅんを確実にぶち込むと心に決める。
 倒しきれなかった時は、悪夢を見せるか……いやしかし。
「もう一度やれというのか…あれを……! まだあいつにもやってないのに……!」
 是非お付き合いしている方にもえきゅんした際は教えて下さいね。楽しみにしてます。
「いや、やらないけどな……!」
 そこをなんとか!
 気を取り直して、アーマデルは(巫女メイド服で)ハートを作り出す。
「萌え萌え、きゅん♡」
 尊――

(さぁ此処が正念場…身長180そこらのメイドでも相手を萌え殺す手段……やはり上目遣い! 上目遣いに堕ちない紳士はいない)
 少し前屈みでうるんだ上目遣いでハートを作る湊。
「でゅふっふふ、それではぁ、いくでござるよぉ。美味しくなあぁれ♪ 美味しくなあぁれっ♪ 萌え! 萌え! ――キュンッッッ!!!! でござぁああるるぅうう!」
 最大級の萌え萌えキュンが夜妖を包み込む。感極まった夜妖は大粒の涙を流しながら光の中に消えた。

 その頃、トストは男性客に「この後どう?」と誘われていた。
「……! えっと、うん……!」
 ようやくこの時がやってきた。夜妖退治出来ると安心した笑顔をみせる。
「ちょっとなら抜けられるから」
 男性客に耳打ちして、屋上へと誘い込むトスト。
 ひかりの中トストが頬を赤らめて、もじもじと男性客を見つめた。
「その、さっきは目をそらしちゃったから、今度はちゃんと届けたくて。きみのために精一杯かわいくするんだよっ。だからちゃんと見ててね」
 ハートにした手を差し出して。顔を真っ赤にして。トストは男性客の間近で魔法の呪文を唱える。
「も……んん……萌え萌え、きゅーん…んン……♡」
「!!!!」
 目を閉じていたトストが恐る恐る瞼を上げると、男性客の後ろに消えて行く夜妖が見えた。
「ぁ、あれ」
「君がそんなにサービスしてくれるなんて。俺も頑張らないとな」
「……え、あ。あの」
 腰を掴まれて、顔が近づいて来る。
「ぅうわああああーーーーーーー!!!!!!」
 トストの叫び声が屋上に響き渡った。

成否

成功

MVP

トスト・クェント(p3p009132)
星灯る水面へ

状態異常

なし

あとがき

 イレギュラーズの皆さん、お疲れ様でした。
 楽しんで頂けたら幸いです。
 MVPは一般の男性客の心まで掴んでしまった方へ。
 それでは、またのご縁をお待ちしております。

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