PandoraPartyProject

シナリオ詳細

ピエロが来た日。或いは、血塗れクリーピー・クラウン…。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ピエロの来た日
 鉄帝。
 幻想との国境付近にある“ガルバニー”というその町には、年に1度ピエロたちで溢れかえる時期がある。
 髪を赤く染め、顔を白く塗り、ボールのような付け鼻を付け、派手で滑稽な衣装を纏い、それぞれが磨いた芸を通りで披露する。
 事の起こりは、今より遥かな大昔。
 正確な時期は不明だが、ガルバニーやその周辺で病が流行った頃の話だ。
「町は封鎖され、そこら中に病人が倒れ、空気は淀んで誰の顔からも笑顔が消えた……そんな時期があったのさ」
 そう語るのは、背の高い1人のピエロであった。
 ぽろん、と手にしたリュートを鳴らし、彼はにぃと笑みを浮かべる。
「それを見かねた名も無きピエロが町に来た。人々に笑顔を……そんな想いで、自身が病に侵されるのも構わずに、町の広場で芸を披露したって話さ」
 はじめは誰も、ピエロを気にも留めなかった。
 笑顔を浮かべ、芸を披露するピエロへ向けて石を投げる者もいた。
 しかしピエロは、決して芸を辞めなかった。
 来る日も来る日も、皆を笑顔にするために、ピエロは芸を披露し続けた。
 やがて、1人、2人とピエロの周りに人が増え、彼らは次第に笑顔を取り戻していった。
「そんなピエロに賛同したサーカス団や芸人が、次々に町へやって来たんだ。そうしていつの間にか町は笑顔で溢れるようになっていた」
 陽気な音楽が鳴り響き、あちこちで笑い声と拍手があがる。
 そんな日々が数年続き、遂に病の流行は収束を向かえた。
 人々は町に来たサーカス団や芸人たちと抱き合い、肩を組み、それを喜んだ。
 けれどその時、最初のピエロはいなかった。
「役目を終えてどこかへ去っていったのか、それとも病に倒れたのか……」
 町の住人は誰もがピエロを知っていた。
 同時に、誰もピエロの“本当”を知らなかった。
 白く塗られたピエロの顔しか、知らなかった。
 メイクの下に隠された、ピエロの想いを知らなかった。
 本当の名も、本当の顔も、本当の声も、本当の想いも。
 何も知らなかったけれど、町の住人たちにとってそのピエロが救いであった事実は決して変わらない。
「そんなピエロの偉業を讃え、その行いを決して忘れることが無いように、年に1度町にはピエロが溢れかえる時期があるのさ」
 芸を披露し、歌を歌って、酒と料理に喜んで、かつて町を救ったピエロの偉業を讃え、笑うのだ。
「“ピエロの来た日”って名前の祭りさ。もちろんピエロに扮していない住人や、観光客も多くいる。あんたらも折角来たんだから、目いっぱい楽しんで、笑って帰っておくれよな」
 なんて、言って。
 その男は、リュートを鳴らし立ち去っていく。
 陽気な旋律を響かせながら、ピエロの溢れる人混みへ。

●人を襲うタイプのピエロ
「さて、お前たち。以上の話を聞いたなら、どうして町にピエロが溢れているのかは分かったな?」
 『黒猫の』ショウ(p3n000005)曰く、その小さな町ではピエロがことさら英雄視されているらしい。
 正しく言うなら、ピエロやサーカスの芸人たち、吟遊詩人やパフォーマー。
 人々を笑顔にしてくれる者を、ガルバニーの住人は称賛し、拍手を送るという。
「とはいえお前たちに、祭りを楽しんでいる暇があるかは分からない。今回の依頼ってのはな、楽しい楽しい祭り会場に潜む“殺人鬼”を捕まえて来いってものだからだ」
 町の東西南北に、それぞれ大きな通りが1本ずつ。
 中央には、サーカスのテントや露店の並ぶ大きな広場が造られている。
 それ以外には細い道や裏通りなどが数えきれないほど。
 この期間、町の外部から来た観光客たちは東と西に多くある宿屋に宿泊しているそうだ。
 そのどこかに、ピエロに扮して逃げ込んできた殺人鬼が潜伏しているらしい。
「殺人鬼の名は“クリーピー”。通称クリーピー・クラウンと呼ばれている男か女かもわからん奴だ」
 得物としてナイフや刀剣、斧、チェーンソーなどの刃物を多用する。
 その手で人を殺傷したという実感が欲しいのだろう、とショウはそう分析していた。
「名前の由来だが、奴は凶行に及ぶ際、必ず仮装しているそうだ」
 仮装の種類は様々だが、中でも特に道化に扮するケースが多いということから、クリーピー・クラウンの名を付けられた。
「【滂沱】【無常】【必殺】【致命】と備えているBSも“らしい”ものが揃っているな」
 クリーピー・クラウンは殺傷する得物を選ぶ。
 夜道を1人で歩くような、警戒心の薄い相手を。
 或いは、そこでその人が死んだなら、大きな混乱が生じるだろう目立つ者を。
「前者は己の欲望を満たすため。後者は周囲のリアクションを愉しむため、ってところかな」
 判明しているだけでも、これまでクリーピーが殺傷した人数は20名。
 実際には、倍以上に多いだろうと噂されている。
「ガルバニーの町に逃げ込んだことは確かなんだ。だが、この機会を逃してしまうと、奴の足取りは追えなくなる」
 町に溢れたピエロやサーカス、観光客に紛れて移動されるからだ。
 この機会にクリーピーを仕留めるべく、イレギュラーズに任務が下されたというわけだ。
「詳しいことは不明だが、クリーピーは非常に身のこなしが軽い。勘が良く、頭も回るという話だが……努々油断してくれるなよ?」

GMコメント

●ミッション
殺人鬼“クリーピー・クラウン”の捕縛or抹殺


●ターゲット
・クリーピー・クラウン
人を殺めるタイプのピエロ。
実際のところは、ピエロに扮した殺人鬼。
ナイフや刀剣、斧、チェーンソーなど刃物の扱いを得意としている。
男性か女性かも不明。
殺し屋ではなく殺人鬼。
金のためでなく、己の快楽のために人を殺める狂人。
身のこなしが軽く、頭の回転が速く、勘が良い……と、そのように噂されている。

愉快:物近単に大ダメージ、滂沱、致命
 刃物による殺傷。

痛快:物至単に特大ダメージ、無常、必殺
 刃物による不意打ち気味の殺傷。


・人を笑わせるタイプのピエロ×多数
町に至るところにいるピエロ。
ジャグリングやパントマイム、手品や歌など各々、様々な手段で人を笑わせようとしている。
クリーピー・クラウンと間違えて無実のピエロを攻撃すると、大顰蹙を買うだろう。


●フィールド
鉄帝。
幻想との国境付近にある“ガルバニー”という町。
町の東西南北には、それぞれ1本ずつ大きな通りが走っている。
それらが交差する町の中央には、大きな広場が設けられている。
幾つものサーカスのテントや露店が並び、芸人、ピエロも多くいる。
そのほか、裏通りや細道などは数えきれないほど……とはいえ、祭りの期間中、多くの住人は大通りで芸を愉しみながら移動する。


●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • ピエロが来た日。或いは、血塗れクリーピー・クラウン…。完了
  • GM名病み月
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年08月13日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り
マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)
黒鎖の傭兵
オリーブ・ローレル(p3p004352)
鋼鉄の冒険者
チェレンチィ(p3p008318)
暗殺流儀
マッチョ ☆ プリン(p3p008503)
目的第一
黒水・奈々美(p3p009198)
パープルハート
ルブラット・メルクライン(p3p009557)
61分目の針
アルトリウス・モルガン(p3p009981)
金眼黒獅子

リプレイ

●陽気な音の響く街
 ちゃかぽこ、ちゃかぽこ。
 陽気な音が鳴り響く。
 ドラムにハープにギターにマラカス。
 陽気な空に、木霊す誰かの笑い声。
 おどけたピエロがボールの上で姿勢を崩す。慌てて両手をバタバタさせて、右へ左へ身体を揺らした。
 ここは鉄帝。
 幻想との国境付近に位置する街“ガルバニー”。
 この街では、年に1度、あっちこっちにピエロが溢れる不思議な祭りが開催される。

 人で溢れる広い通りの片隅を『横紙破り』サンディ・カルタ(p3p000438)がゆっくり進む。視線の先には巨躯を逸らしてプリンを掲げる『甘い筋肉』マッチョ ☆ プリン(p3p008503)の姿があった。
 皿に乗った黄色い甘味が、誘うようにふるんと揺れる。
 あぁ、プリン。
 至高の甘味。
 柔らかく震えるその様は、いかな絵画や美術品より衆目の視線を引き寄せる。
 通りの丁度反対側。
 甘いプリンの香りに誘われ、子供達がプリンの前に列をなしていた。
「…………」
 異常はない。
 サンディを初め、8名のイレギュラーズたちがガルバニーを訪れたのは決して観光のためではなかった。
 この街に祭りを利用し潜伏している殺人鬼“クリーピー・クラウン”を捕縛すること。
 それが彼らに課せられた任務だ。
「殺人ピエロでcreepy……そういうのを纏めた俗称を聞いた事があるような」
 壁に背を預けたまま『黒鎖の傭兵』マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)はそう呟いた。
 それから彼は、視線をサンディへと移す。
 何か理由があってそうしたわけではない。ただ、なんとなく、だ。
「……な!?」
 一拍の沈黙の後、マカライトは思わず目を見開いた。
 プリンを眺めるサンディの背後。
 1人のピエロがそっと人混みへ紛れ込む。
 ほんの一瞬、その手元に白銀の輝きが見えた。

 マカライトが動き始めるより先に、ピエロ……クリーピーはナイフを隠し、人混みの中へ逃げ込んだ。
 
 クリーピーが現れた。
 その報を受けた『青き砂彩』チェレンチィ(p3p008318)と『鋼鉄の冒険者』オリーブ・ローレル(p3p004352)は、視線を左右へ巡らせる。
「ピエロを隠すならピエロの中、なるほど少々厄介ですねぇ……」
「えぇ。そして同時に、ここで始末しなければならない相手です」
 右も左もピエロばかり。
 響く笑い声や悲鳴、会話の喧噪に掻き消され音を拾うのも難しい。
 今回のターゲットであるクリーピーは、殺す獲物を選ぶらしい。ピエロの衣装に身を包んだ快楽殺人者。けれどそいつは頭が回り、勘がいい。
「プリン食ベルカ? プリン食べルカ!?」
 大通りの片隅でプリンが大声を張り上げた。
 近辺で、今一番、目立っているのはプリンだろう。クリーピーは「その時、その場で、最も混乱を起こせそうな相手」を選んで襲う傾向が強いらしい。
「……アゲナイッ!!」
 大仰なその仕草に、集まっていた子供達が一斉に笑い声をあげる。
 賑わいが賑わいを呼び、大勢の視線がプリンに集まる。
「はいはいお客さん方、それ以上近付くとあぶねェぞ! スペース開けて! チップは全部終わった後な!」
 そう言って『新たな可能性』アルトリウス・モルガン(p3p009981)は詰め寄る子供たちを押し留めた。
 もしも付近にクリーピーが潜んでいたとするならば、プリンに近づき過ぎることでその凶行に巻き込まれるリスクが生じてしまうからだ。
 しかし、そうしながらも油断なく周囲を警戒しているのは流石といえる。
 幸い、子供達はアルトリウスの指示によく従っている。
「っても、もしクリーピーがことに及んだら、オレが盾にならねぇとな」
 なんて。
 誰にも聞こえないように、アルトリウスはそう呟いた。

 喧噪から幾分離れた暗がりに『夜に這う』ルブラット・メルクライン(p3p009557)は佇んでいた。鳥の骨にも似たマスクに覆われて、その表情は窺えない。
「なるほど。病を治めた医師よりも道化師の方が永く称えられるのだな……いや、皮肉ではない。ただこの町の歴史に興味が湧いただけだが」
 地図に視線を落とした視線を僅かも上げないまま、傍らの『パープルハート』黒水・奈々美(p3p009198)へと声をかけた。くぐもった声だ。けれど、不思議と聞き取りづらいということはない。
 しかし奈々美からの返答はない。
「ん?」
 チラと視線をそちらへ向ければ、奈々美の姿はそこになかった。
「ぴ、ピエロ!? あ、あたしピエロってニガテなの……いや、フリとかじゃなくって!!」
「あぁ。そこにいたのか」
 声のした方へ目を向ければ、大勢のピエロに囲まれた奈々美がいた。
 どうやら挙動不審な彼女を心配し、ピエロの集団が奈々美を囲んでいるのだろう。涙目で怯える奈々美を笑わせるためか、ピエロたちは次々と彼女の前でおどけて見せる。
 その度に怯え、慌てる奈々美の仕草が面白いのか、通行人は皆満面の笑顔であった。

●陽が沈む、祭りは続く
 ちゃかぽこ、ちゃかぽこ。
 祭りばやしは遥かに遠く。
 大通りを行進していくピエロの行列。
 その後に続く住人たちや観光客たち。
 笑顔とざわめき。
「まるでサーカスだな」
 建物の屋根からそれを見下ろすマカライト。
 行列の向かう先には、暗がりに揺らぐオレンジの光が見えている。街の広場で焚火か何かを燃やしているのか、それともあれはランプの明かりか。
 夜になって陽が沈む。
 街全体をあげた祭りのメインステージは、広場に移動するようだ。
 そちらには確か、サーカスのテントが集まっているのだっただろうか。
「あの中に混じってるってことは無いよな?」
 なんて、呟いて。
 瞳を閉じて、辺りの音に耳を澄ました。

 喧噪から遠く離れた裏通り。
 うら若き乙女が1人、夜道を歩く。
 彼女はこの街の住人では無いのだろう。入り組んだ裏通りへ迷い込み、大通りへと帰れなくなってしまったのだ。
「うぅ……み、みんなとはぐれちゃった……どこにいるの?」
 眼鏡の下の紫の瞳に、たっぷりの涙をためて少女は震えた声で言う。
 辺りに一切の人影はなく、当然、少女の問いに答える者もいない。
「お嬢さん。こんな夜道に1人きりとは感心しないね」
「ぴっ!?」
 突如、足元から響く掠れた、けれど甲高い声に少女……奈々美は跳ねるように肩を竦めて悲鳴をあげた。
「な、なに?」
 きょろきょろと辺りを見回す。
 しかし、声の主の姿はどこにも見当たらない。
「こっちこっち」
 聞き間違いか、とそう思った矢先、再び声がかけられた。
 その声は少女の足元。
 地下へと続く跳ね上げ扉の隙間から、それは聞こえたようだった。
「やぁ。お嬢さん」
 そこにいたのは顔を白く塗った細身の男性だ。
 しかし、その目元と口元だけは赤黒い。
「ハンカチをどうぞ、涙を拭いて」
 するり、と伸びた赤い手にハンカチが握られている。
 差し出されたそれを奈々美は掴んで、直後、瞳を見開いた。
 ぬちゃり、と。
 ハンカチを掴んだ指先に感じる湿り気。どこか脂染みた感触と、鼻腔を擽る鉄錆の臭い。
 血だ。
「それと、いらないと思うけど……眼球はいる?」
 なんて、嘲るような笑みをともにピエロはハンカチを開く。
 果たして、そこにあったのは血に塗れた誰かの眼球だった。
「ひ、ぃ!? クリーピー・クラウン!?」
「あれ? ぼくのこと知ってるの? それは……ますます生きて返すわけにはいかなくなtったね」
 跳ね上げ扉を押し上げて、ピエロは地上へ這い出した。
 右手にナイフ。
 左手は血で赤く濡れている。
 つい今しがた、誰かを殺傷したのだろうか。
 目や口元に塗られた赤は鮮血か。
「予行練習は1人でいいと思ったけれど、お嬢さんも解体しておこうか」
 なんて。
 にぃ、と口角を吊り上げてクリーピーは肩を震わせて笑う。
 そうして彼はナイフを振り上げ……。
「見つけたぞパスタ野郎」
 直後、響いた怒声と共に、機械の剣が振り下ろされてナイフを弾き飛ばすのだった。

 地面を削り、機械仕掛けの剣が走った。
 マカライトの放ったそれを回避しながら、転がるようにクリーピーは後方へと逃げる。
 弾かれたナイフが地面に落ちた。
「まんまと出てきてくれましたねぇ」
 クリーピーが次のナイフを取り出す前に、その背から赤い血飛沫が上がる。
 それはチェレンチィの斬撃だ。
 駆ける勢いを乗せたその一撃は、クリーピーの脊柱にも深い傷を刻んだだろう。
「おぉ? おぉぉお? 何だぁ? 何だ何だ何だ、君たちは? もしかして、ぼくを捕まえに来たのかな?」
 新たなナイフを取り出して、クリーピーはそう問うた。
 ナイフの数は3本。次々に回転させながら宙へと投げる。
 ジャグリングだ。
 その手際の良さから、彼がナイフの扱いに慣れた者であることが分かる。
 コンバットナイフを手に斬りかかるチェレンチィ。器用にナイフを操りながら、クリーピーはそれに応じる。
 チェレンチィの放つ、低い位置からの斬撃。
 狙うは喉か。
 チェレンチィのそれが研ぎ澄まされた殺傷のための技だとすれば、クリーピーのそれは相手を翻弄し、惑わし、魅せる類の技だ。
 チェレンチィの目元へ向けて回転するナイフを放った。
 ナイフがチェレンチィの額を裂くと同時にそれをキャッチして、眼球目掛けて突きを口出す。
「っ……器用なものですねぇ」
 “見せかけだけ”のピエロでは無いということか。
 ともすると、クリーピーの本業は大道芸人か何かなのかもしれない。
 しかし、互いの返り血で顔を赤に濡らした2人の有様は、あまりにも凄惨に過ぎる。これでは誰も笑顔になどなるまい。笑っていた子供とて、次の瞬間泣きだすだろう。
 だが、好機だ。
「大事なお祭りを滅茶苦茶にしようとしている。それが心の底から気に入らないのですよ」
 足元を払うように、物陰から駆けたオリーブが蹴りを放った。
「っ……おぁ⁉」
 足首を蹴られ、クリーピーが姿勢を崩す。
 低い位置に来た顔面目掛け、オリーブは膝を叩き込む。
 直撃すれば、鼻の骨が砕けるだろう情け容赦のない蹴りだ。
 事実、辺りに血が飛び散った。
「ぐ……ぉ」
「っと、危ない危ない」
 オリーブの血だ。
 指で挟んだナイフによって、クリーピーが彼の膝を刺したのだ。
 ナイフは骨と骨の間に深く突き刺さっていた。数度、クリーピーはそれを上下に動かして、諦めたようにナイフの柄から手を離した。
 それと同時に、クリーピーは地面を蹴って背後へ跳躍。
 振り下ろされたマカライトの剣が、先ほどまでクリーピーの腕があった位置を薙ぐ。
「この感じ、他にも仲間がいるのかな? だとしたら、少し分が悪い」
 牽制のためにナイフを2本投擲し、クリーピーは踵を返して逃げ出した。

 喧噪を背にアルトリウスは両腕を広げる。
 その脇腹をナイフが抉った。
「ぐ、がはっ」
 血を吐きながらも、アルトリウスは倒れない。
 裏通りから、大通りへと続く狭い通路に立つは3つの人影。
 血塗れたアルトリウスとサンディ、そしてクリーピーだ。
「ここは通さねぇぞ。罪のないヤツらに犠牲が出る前に……オレ達が、なんとかするんだ!」
 振り抜く拳がクリーピーの頬を穿った。
 白く塗られたにやけた顔を痛みに歪め、クリーピーは唇の端を伝う血を拭う。
 クリーピーの攻撃は執拗で、それでいて悪質に過ぎるものだった。
 大通りの通行人へ向けナイフを投げる。
 それをアルトリウスが庇えば、隙を突いて関節や腹部、喉を狙って斬り付ける。
 堪らず、アルトリウスが膝を突いた。
 瞬間、クリーピーはその頭上を跳び越える。向かう先は、表通りの人混みの中だ。血塗れのクリーピーはさぞ目立つだろうが、夜の闇で多少はごまかせると踏んだのだろう。
 もっとも、それが叶えば、ではあるが。
「うぉ? ん、なんだ?」
 着地と同時にクリーピーが姿勢を崩した。
 見れば、彼の足首が奇妙に捻じ曲がっている。
 砕けた骨が皮膚を突き破り血を流す。
「こ、これでいいかしら?」
 クリーピーの耳に届く小さな声は奈々美のものか。
「上出来だ、黒水君」
 耳元で響くくぐもった声は……。
「……いつから」
「初めからだよ。気づかなかったかね?」
 ルブラットが手を掲げれば、伸びた気糸がクリーピーの手首を縛る。
 ギリ、と巻き付くそれは骨を軋ませ、皮膚を裂いた。
 足に続いて腕まで失うわけにはいかない。ナイフで糸を斬り裂いて、クリーピーが立ち上がる。
 瞬間、その口に何かが叩き込まれた。
「ソシテオレハ、今着イタ!」
 甘く、そして柔らかい。
 口腔から鼻腔に抜ける濃厚な卵の香り。
そして食欲を刺激する、甘いバニラエッセンス。
 プリン。
 クリーピーが喰わされたそれの……至高の甘味の御名である。
「コレデオ前ハ逃ゲラレナイ!!」
「よく分かんないけど、だったら君を殺ればいいんでしょ?」
 手にしたナイフを閃かせ、クリーピーはプリンの腹部へ斬撃を放つ。
 バキ、と乾いた音がして、へし折れたのはナイフの刃だ。
「ハハハハ!  タンクトシテ、貴様ノ攻撃ヲ受ケ止メ続ケテヤロウ!」
 斬撃がプリンの服を裂く。
 鎧の体に裂傷が刻まれるが、プリンはしかし1歩も退かない。
「な、何なんだい、君?」
「オレノ名ハ──マッチョ☆プリンダ!」
「何なんだい、それは?」
 斬撃を浴びながら、プリンはびしっとポーズを決めた。
 曲げた両腕を頭部の横に掲げたその姿勢の名はダブルバイセップス。上腕二頭筋をことさら誇示する姿勢であるが、そもそも鎧の体に筋肉などは存在しない。
 クリーピーの目に映るのは、頭にプリンを被った全身鎧。
 斬られても、蹴られても、ただそこに立ち壁となる。
 ただ、ただ、異様な存在である。
「いや、いい。どうでもいいや。倒せないなら、無視すればいいんだった」
「ム!?」
 壁となるプリンの脇をすり抜け、クリーピーは通りへ向かう。
 折れた脚でよく走るものだ。
「行かせません!」
 だが、彼の逃走もどうやらここで終わりらしい。
 大上段より振り下ろされたオリーブの剣が、クリーピーの足元を砕く。姿勢を崩したクリーピーの背後へ、マカライトとチェレンチィが迫る。
「う、ぐぁ!?」
 地面に押し倒されたクリーピーが、必死の抵抗を見せるが2人が拘束を解くことはなかった。
「ふふっ、いつか貴方が処刑される瞬間は私が見届けてあげよう。道化師らしい愉快な最期を見せてくれるのだろう?」
 クリーピーの頭を掴み、ルブラットは告げた。
 その頭をゆっくりと持ち上げ、そして……。
「今から面白い演目を考えておいてくれたまえ」
 どちゃり。
 力任せにその顔面を、地面に打ちつけるのだった。

●ピエロのいる街
 中央広場に集う無数の人とピエロ。
 誰もが笑顔で、楽し気だ。
 騒がしく、そして無軌道。
 だが、しかし笑顔であればそれでいいのだ、と言わんばかりの馬鹿騒ぎ。
 かつて、悲しみと涙に溢れた街は、1人のピエロによって笑顔を取り戻した。
 そんな過去を忘れないため。
 名も無きピエロを讃えるために、この祭りは開催される。
「ウオオオ……! ピエロ、ナンテ凄イヤツダ!」
 歓声をあげるプリンを尻目に、マカライトはため息を零す。
 プリンなりに祭りを楽しんでいるのだろう。
 そういえば、ルブラットも地図を片手に姿を消した。初めから観光がどうのと言っていたような気がする。
 なるほど、仮面を被ったルブラットの衣装も、この場においてはさほど目立ちはしないのだろう。
 なんて、そんなことを考えていたその瞬間。

『やぁ、客人』

 マカライトの耳もとに誰かの囁く声が届いた。
『お楽しみいただけているかな?』 
 喜色を孕んだその声の主は誰だったのか。
 背後を見ても、左右を見ても、そこには誰もいなかった。
 それっきり、謎の声が耳に届くこともなく……。
「……まぁ、暫くはピエロは見なくていいな」
 なんて、嘯いて。
 広場の喧噪へと視線を戻した。

成否

成功

MVP

黒水・奈々美(p3p009198)
パープルハート

状態異常

サンディ・カルタ(p3p000438)[重傷]
金庫破り
アルトリウス・モルガン(p3p009981)[重傷]
金眼黒獅子

あとがき

お疲れさまでした。
クリーピー・クラウンは無事に捕縛され、祭りは無事に終わりを迎えました。
依頼は成功となります。

この度はご参加いただきありがとうございました。
縁があれば、また別の依頼でお会いしましょう。

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