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シナリオ詳細

再現性東京2010:半影食

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 ――依然として、佐伯製作所にて発生していると思われる大量行方不明事件では被害者の行方の大多数が分かっておりません。佐伯製作所広報本部によりますと……。

 ――ネット上ではオンラインゲームに閉じ込められただなんてアニメのような話や人体実験など荒唐無稽な話も出ておりますが……。

 ワイドショーを騒がせる『佐伯製作所 大量行方不明事件』
 行方不明者と思われる一部研究員や学生が澄原病院で治療を受けているという情報は早くもマスメディアに駆け巡った。
 蒼白な顔をしていた澄原病院院長 澄原晴陽もこの所、院長室から余り姿を見せない。夜間緊急用の通路での『夜妖専門科』での診療にも日夜追われているようである。
 R.O.Oが希望ヶ浜に及ぼした影響は大きい。イレギュラーズにとっては練達の超技術を用いれば『現実とは違う仮想世界での混沌の作成とVR体感型ゲームにする』事位容易に思えるだろう。だが、再現性東京2010街の希望ヶ浜では有り得ない技術なのだ。
 故に、大量の行方不明者を出し、被害者が澄原病院で治療を受けているという不可解な現象に希望ヶ浜内は湧いているのである。

「やあやあ。申し訳ないね。ちょーっとだけお付き合いして欲しいことがあるんだけれど。
 ううん、そんなに恐ろしい事じゃ無いんだよ。え? 信用出来ない。可笑しいなあ。なじみさんはこんなにも馴染んでいるんだよ。
 私がみんなにお願いしたいこと何て鳥渡したことでしかないのさ。本当だよ? あやしくなんてないもの」
 カフェローレットのカウンターに腰掛けて居た『猫鬼憑き』綾敷・なじみ (p3n000168)はにんまりと微笑んだ。
 希望ヶ浜では花火大会が行われることになっている。それに馴染むために彼女は今日、浴衣姿だったのだろう。
「実はね、『行方不明事件の怪談』というのが沢山出てきているんだ。そりゃあ、そうだよね。
 うんうん、なじみさんだってそうなると思ってた。それでね、その夜妖に対処をしたいんだ。そいつは、花火大会の時に『別の世界』に連れて行ってしまう……なーんてね。そんなことを言うんだよ」
 悪戯っ子のように微笑んだ。なじみは「別の世界なんてもの、本当にあると思う?」と問うた。異世界に連れ去ってしまう都市伝説は良く聞くことだ。イレギュラーズの中にも類似例と出会ったことはあるだろう。

 ――花火大会の時、人波に逆らって歩いていると、気付けば異世界の祭りに入り込んじゃうんだって。

 その夜妖は『其れだけの影響力』を持っているならば真性怪異相応だ。なじみがどうこうできる存在ではない。
 だが、その夜妖が『その一晩に一度限り』の存在だったら?
 ならば、イレギュラーズがその異世界に入り込み、抜け出して帰って来るだけで良いのだ。
「なじみさんが帰り道は教えてあげる。大丈夫だよ。あやしくなんてないよ。
 ちゃんと付いて帰ってきてね。なじみさんを信じてくれればそれでいいから。それじゃあ……『むこうのせかい』でよろしくね?」


 祭り囃子が響く。浴衣で練り歩く者も居れば、普段着でのんびりと歩き回っている者さえ居る。
 再現性東京のビル街をごった返す人波に逆らうように歩けば異世界に辿り着くのだと、そう囁かれた噂話。
 例えば、希望ヶ浜で流行する電子掲示板に書き込まれた『異世界』――本来ならば存在して居ない事件をさも存在するかのように模倣する『飴村事件』――のように。例えば、本来ならばダムに沈んで居るはずの来名戸村に招かれる『神様の神域』のように。
 其れ等は常に日常の傍らにある。
 スマートフォンのナビゲーションを開きっぱなしに、なじみの指定地点から駅に向かって人波を逆らった。
 決して容易ではない道を、ずんずんと進むだけでそれでいい。

 気付けば、人混みの喧騒は消えていた。

 気付けば、祭り囃子も消えていた。

 無音。無味無臭の世界。その中に、赤い提灯を手にした『猫鬼憑き』の少女がにんまりと微笑んで立っていた。
「やあやあ、こんな所で奇遇だね?」
 ちりん、鈴の音がした。その音色は何処かで聞いたような、そんな――

GMコメント

 夏です。なじみさんと『異』空間旅行。
 黒い影を退けながらなじみさんと楽しくお話しして『異』空間から帰ってきましょうか。

●成功条件
 元の場所に戻ってくる
 (失敗条件:元の場所に戻ってこれないで取り残される)

●夜妖<ヨル>
 都市伝説やモンスターの総称。
 科学文明の中に生きる再現性東京の住民達にとって存在してはいけないファンタジー生物。関わりたくないものです。
 通常の夜妖は『悪性怪異』と呼ばれて通常の精霊相応です。『真性怪異』と呼ばれる驚異的な力を持つ個体も存在して居ます。

 皆さんが遭遇することとなった夜妖は『佐伯製作所 大量行方不明事件』から派生した噂によって生み出されたものだと思われます。
 希望ヶ浜では世紀の都市伝説として扱われ、話が大きくなりすぎて強力な夜妖が登場したのではないでしょうか。
 その力は真性怪異相応だと思われますが、影響力はそれ程大きくないために、異世界に入り込み抜け出すことが容易そうです。

 ――なじみと皆さんが入り込んだ異世界は、どこもかしこもちぐはぐです。aPhoneのナビゲーションも狂ってしまっているでしょう?
 空の色は驚くほど真っ赤で、建物が並んでいますが看板はどれも読み解けません。
 方向感覚もおかしくなり、帰り道が曖昧になりますが、帰らねばいけません。
 皆さんは希望ヶ浜駅から、音呂木神社までを目指すことになります。道案内は『綾敷なじみ』が行います。
 皆さんも知っている道を歩くことになる筈です。ですが、どうしてか「なじみの案内は間違っている」と感じてしまうのです。それが真性怪異のせいなのか、なじみのせいなのか分かりません。なじみを信じるか信じないかを選ぶのも、皆さん次第です。

 その道中には黒い人影が歩き回っています。それらは『行方不明者』として写真が張り出されたものと同じ顔をしています。
 同じ顔をして居ますが、生気を感じず、異形である事は確かです。目が合うと突然襲い掛かってきます。
 もしかすると皆さんの知り合い(関係者など)もいるかも知れませんね……?

●綾敷なじみ
「大丈夫だよ。こっちにおいでよ。直ぐに帰れるよ。安心してよ。私はあやしくないよ。だって、いつものなじみさんだから」
 そんななじみさんです。猫鬼という夜妖に取憑かれています。
 くすくすと笑って、どこか大人びた印象を与えます。
 猫の耳と尾を揺らし、赤い提灯を持って皆さんを誘います。戦闘は行いません。
 歩けば、ちりちりと音がします。鈴の音でしょうか。音呂木神社の巫女、ひよのがなじみに渡したお守りでしょうか……。

●佐伯製作所 大量行方不明事件とは?
 佐伯製作所とはaPhoneやインターネットを希望ヶ浜に提供する佐伯 操(練達三塔主)の研究施設です。
 つまるところ、希望ヶ浜ではそう呼ばれていますが、R.O.Oの実験に携わった人々が大量に行方不明になったという話です。

●希望ヶ浜学園
 再現性東京2010街『希望ヶ浜』に設立された学校。
 夜妖<ヨル>と呼ばれる存在と戦う学生を育成するマンモス校。
 幼稚舎から大学まで一貫した教育を行っており、希望ヶ浜地区では『由緒正しき学園』という認識をされいる裏側では怪異と戦う者達の育成を行っている。
 ローレットのイレギュラーズの皆さんは入学、編入、講師として参入することができます。
 入学/編入学年や講師としての受け持ち科目はご自分で決定していただくことが出来ます。
 ライトな学園伝奇をお楽しみいただけます。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はC-です。
 信用していい情報とそうでない情報を切り分けて下さい。
 不測の事態を警戒して下さい。なじみさんは、あやしくないよ?

  • 再現性東京2010:半影食完了
  • GM名夏あかね
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年08月03日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

アルテミア・フィルティス(p3p001981)
銀青の戦乙女
物部・ねねこ(p3p007217)
ネクロフィリア
恋屍・愛無(p3p007296)
愛を知らぬ者
シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)
天下無双の貴族騎士
しにゃこ(p3p008456)
可愛いもの好き
笹木 花丸(p3p008689)
堅牢彩華
ジョーイ・ガ・ジョイ(p3p008783)
無銘クズ
糸色 月夜(p3p009451)

リプレイ


 ――リン。

 顔を上げれば提灯に火が灯る。祭り囃子の喧騒が遠く、人並みに逆らい辿り着いたその場所に『プロメテウスの恋焔』アルテミア・フィルティス(p3p001981)は嘆息した。異世界を作り出し、異世界に連れ去る夜妖。それはまるで己が迷い込んだ『深きダムの底』の様な不快感。それでも、この一夜で軽く抜け出せるならば『あの日』よりはずっと良い。
「真性怪異相当の存在か……危険な存在だが、だからこそ僕の力を活かすところでもある」
 そう呟いた『竜食い』シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)は耳を欹てる。死者の声を聞くことの出来る青年の耳には祭り囃子は最早遠く真っ赤に染まった空だけが広がっている。夜空のしたの納涼を楽しんでいた筈が異空間に迷い込んでしまっていると『良い夢見ろよ!』ジョーイ・ガ・ジョイ(p3p008783)は驚愕したように天を眺めて両腕を掲げる。
「ほああああ!? 本当に異空間にいってるであります?!
 空は真っ赤だしあちこちおかしいことなってるし、完全にホラーゲームな世界になっとるですぞー!
 いやぁ、不気味なサイレンまであったら完全に発狂するとこでしたな」
 けらりと笑ったジョーイへと「納涼! 真夏の肝試し大会! って感じですね!」と『可愛いもの好き』しにゃこ(p3p008456)はうんうんと頷いた。
「やって来ました『異』空間旅行っ!
 さっきまであんなに賑やかだったのに今じゃ祭り囃子も聞こえないし、空は真っ赤で何だか変な感じ……って言うか、不気味だよね」
「まさかこんなに本格的なのに誘われるとは微塵も思ってませんでしたけど。
 おいおいー、笹木さんビビってるんですかぁー? いやしにゃはびびってへんですよまじで……」
 耳がしおしおなのは誰だと『人為遂行』笹木 花丸(p3p008689)はしにゃこの耳をひょいと掴む。「ああー」と叫んだしにゃこへとくすくすと笑った『ネクロフィリア』物部・ねねこ(p3p007217)は「最近R.O.Oを楽しんでる身としてはそれから発生した夜妖はしっかり処理しておかないとですね♪」と笑みを零した。折角のR.O.Oに希望ヶ浜の夜妖達が侵略してしまったら素直に楽しむことが出来ないのである。
「しかし……なじみさんが怪しいのはいつもですからね。根本的に夜妖の空間に居る時は自分すら信用できませんし……」
 その言葉に糸色 月夜(p3p009451)が眼前に立っていた少女をちら、と見遣った。微笑んだ浴衣姿の娘。見慣れた耳と尾は夜妖憑きであるからだと聞いている。
「……とおりゃんせなァ。夏休みに入ったから来てやったが、肝試しの類か?
 蝉の声だけでも鬱陶しいのに。また変な噂流しやがって、とりあえず、綾敷についていきゃあいーンだろ、わかったわかった」
「信じてくれるのかい?」
 にんまりと笑ったなじみに月夜は『そう言う手筈だっただろう』と彼女をじろりと見遣った。ああ、だが、心の片隅で彼女を信頼しては鳴らないと警鐘が響いている。そんな気さえさせる違和感が体を包み込むのだ。
「好奇心は猫を殺すというが興味はある。真性怪異という存在に。
 東京で過ごしていく以上、その存在は避けては通れまい。ゆえに少しでも情報を抑えておきたい。友人や知人を守るためにも」
 真性怪異は希望ヶ浜の怪異譚を辿るだけではない。祓い屋達とて未来に関わらぬ保証はない。『名を与えし者』恋屍・愛無(p3p007296)は微笑み振り返るなじみに愛無は「進むのだろう?」と問うた。何にせよ、彼女の存在がこの場では鍵である。突き詰めて考えれば裏切るか、裏切らないか。本物か、そうでないか。なのではあるが、其れを判断する材料が乏しいのもまた事実。
 此処で迷っているならば彼女に付いていくしか内。アルテミアは音呂木神社に帰れば良いのでしょうと問い掛ける。
「そうだよ。希望ヶ浜の駅からひよひよのおうちに行くだけさ」
 その話し口調も、その立ち居振る舞いもアルテミアの知っているなじみであるのに。如何したことか疑心は過る。
「なじみさんの案内しか頼れるものがないと言うなら、進みましょう」とねねこはそう言った。愛無はふと、口にする。
「夜妖の影響が大きいというならば、彼女の場合は会話などから判断もできそうだが。……経験則だが、共存する夜妖の影響が大きい際は共存代償が大きくなる」
 ――さて、君に憑いているのは何だったかな。


 ――リン。
 聞こえる音色に耳を寄せて。ねねこはなじみを看破すべくまじまじと見遣る。周辺の霊魂の声を聞こうとしたねねことシューヴェルトに『なじみ』は「やめておいた方が良いよ」と囁いた。
「……どうしてですか?」
「だって、ここは『真性怪異』らしきものの膝元なんだぜ? 来名戸の報告書で私だってしってるさ。こうした場所に存在するのは通常の霊魂じゃない。
 真性怪異とお喋りしたいなら止めやしないけどさ、戻りたいならそれは控えた方が良いんだ」
 さらりと言ってのけたなじみにねねこは確かにと呟いた。自身らの心に狂気が灯る事があったあの村の出来事は確かに『真性怪異』の手の事である。
「なじみ殿に付いていく楽勝……むむ? ふむ……このなじみ殿なにか怪しいでありますな……。
 どちらかと言えばなじみ殿は『大切な言葉が欠落する』筈でしたぞ。なじみ殿の偽物という可能性もありえーるでありますし――」
 本人認証と言うために一つよろしくリーディングと求めるジョーイになじみは首を傾ぐ。如何すれば良いのかいと問うた声音は乾ききっている。
「あ、本物だったらひよの殿のマル秘情報とかそういったのも思考に浮かべてくれててもいいのでありますぞ?
 ――って、『ひよひよのマル秘情報か~』と思い浮かべなくてもいいじゃありませんか? 分かりませんぞー!?」
「ははっ」
 けらけらと笑うなじみを月夜はまじまじと見遣った。月夜は許より誰一人信頼してなんかないとそう言った。信頼有無の前提が違うが――彼女から聞こえる鈴の音が妙に気を引いた。
「ラジオ代わりに霊魂の声を聞いてる分には悪かねェだろ」
「ああ。なじみを信頼して良いかさえ分からない。猫鬼――は表層に出てきていないが何らかの声が聞こえるのは確かだ」
 それも、どれもコレもが楽しそうな。ねねこに言わせれば『祭りに参加している人々の声』に似ているらしい。シューヴェルトは月夜が「鈴」と呟いた声になじみを見遣る。
 リン、と。涼やかなその音にねねこは「……なじみさん中々綺麗な浴衣ですね! 似合ってるとは思うのです♪」と軽く声を掛けた。
「ちなみに鈴は……ひよのさんのお守りですか?」
「あー。そのチリチリ言ってるのは何だろうって、めっちゃ気になってたんですけど、鈴ですか? やっぱ皆が逸れないようにーみたいな感じ……ですよね?」
 問うたしにゃこになじみは「良いでしょ」と微笑んだ。良いか悪いかでなく、妙に気になるのだ。
「あと、そもそもなんでこんな所にしにゃ達を連れてこようと思ったんです?
 肝試しにしてはちょっと危険すぎやしません? ……救出対象がいるなら分かるんですけど」
「だから、こんな所で奇遇だね? って」
 ジョーイが首を振る。なじみの心に靄が掛って読み取ることが出来ないのは彼女に付いている悪性怪異のせいか、それとも意図的なものであるかは分からない。疑心だけが募る。花丸はそもそも、となじみへと距離を詰めた。
「奇遇も何も『こっちのせかい』で付いて来てって言ってたのはなじみさんでしょ?
 どうせなら最初から一緒に行けば良かったのに。花丸ちゃん達が来るまでに変な事に巻き込まれてない? 大丈夫だった!?」
「大丈夫だよ。だって、鈴を持っていたからさ」
「なじみさん、危なっかしいトコがあるし今回はジョーさんも居ない以上、花丸ちゃんがなじみさんの事を変なモノから守らなきゃ!」
『ジョーさん』と告げた花丸に「定くんはこういう所は苦手だろうから、今日はお留守番で良かったよ」と何時もの笑みを浮かべてくれる。
(……あれ? 笹木さんと話しているなじみさんは『普通』に見えますねえ?)
 しにゃこは注意深くなじみを観察していた。その当たり障りのない会話を眺めて居る愛無は確かに『普通のなじみ』であるとしにゃこへと頷き返した。
「それで今回はなじみさんが帰り道を教えてくれるんだっけ? うん、なじみさんが信じて付いて来てって言うなら花丸ちゃんは信じるよ。
 なじみさんがちょっと怪しいのはある意味いつも通りだし、うん。
 でもこんな方向感覚もおかしくなりそうな場所でどうして道がわかるんだろ? オマケになじみさんについて行くと間違ってるって感覚もあるし……。
 それに、その鈴って……」

 ――リン。

「ねっ、なじみさん! ひよのさんからこっちに来る時にお守りでも預かってきたの?」
 花丸の問い掛けになじみは頷いて――口を開いた彼女の『言葉が消えた気がした』


「なーんか胡散臭いんですけど、まぁ、この辺は……しにゃが案内します! って言われたら信用できないのと同じ感じがしますよね。キャラ性……みたいな?」
「そうでありますな。なじみ殿は元から怪しかった!」
 しにゃことジョーイが笑い合う。愛無は「其れを通り越して猫鬼の影響が大きく出ているのが気になるのだが」と呟いた。
「猫鬼。なじみに憑いている其れがなじみの言葉を食べたのは確かだ。だが、そうでは無いときは『言葉を食べられること無く流暢に話していた』が……」
 シューヴェルトに愛無は大きく頷く。それが不可解なのだ。彼女をいまいち信頼できないのは夜妖憑きであり、言葉の欠落が度々起こることがあるからに違いない。だが、それは誰も気付かないところでぽろりと零れる程度であった。あれ程に大げさに『言葉が消える』場面はそうお目にはかかれない。
「なじみ君。一ついいかな? まあ、すりーさいずは聞かないが。猫鬼君は信頼しても良い相手だろうか」
 愛無になじみは「今はね」と囁いた。今は、とねねこが繰り返す。
「今は、というと。猫鬼が『外』の怪異だからですか?
 しかしながら私もこう言う夜妖の謎の空間とは縁があります。こう言う時の帰還は空間内のルールとか現実世界の繋がりが大事なんですけど……。
 そのひよのさんの鈴、猫鬼を今は信頼しても良いこと、なじみさんが案内する道を辿ること。それがこの空間からの帰還ルールと言うことでしょうか」
「そうだね。此処はとある真性怪異『になる存在』が作り出す場所なんだよ。
 事前に私達の存在を楔打っておかなくちゃ、ひよひよが無理矢理捻じ込む様に身を張らなくちゃならなくなる。それに……ねねこちゃんが楽しんでる『あっち』の為でもあるし」
「あっち……R.O.Oですか?」
 ねねこの問い掛けになじみはにんまりと微笑んだ、だが――『また言葉が消える』。シューヴェルトはふと、気付いた。なじみの態度が変化するときがある。流暢に『真実を全て並べて話す』彼女と、『ひよひよやねねこちゃん』と友人に語りかける彼女。その両者は同一人物でありながら別の存在の言葉を聞いているように感じてならないのだ。

 ――猫鬼。

 取憑いて内臓を貪る呪詛。その名を関する悪性怪異。綾敷なじみの臓腑の代わりに言葉を喰らう事で共存を許すそれは話せなかったわけでは無いのか。
 元から其れと会話していたのか。綾敷なじみの体を使って猫鬼が『イレギュラーズを出口にまで案内』しているのだろう。
 だが、時折入れ替わる。夜妖の影響が大きく出るこの漁期で『憑いた存在』がなじみの意識を乗っ取っているだけなのだろう。
「おい、綾敷。希望ヶ浜に住んでるから道案内なんぞなくとも、道外れりゃわかる。
 けどよ、一応なンでそっちの道に行くのか聞いてやる。面白いもンでもいんのか? 馴染んでるのは構わねェが、異世界に馴染むなよな」
 月夜の言葉になじみは振り返ってから微笑んだ。先程の『いつものなじみ』ではない笑顔を浮かべている。
「――神異に触れちゃだめなんだ。こう言う時はね」
「神異……?」
 アルテミアはなじみを――『猫鬼』を、まじまじと見遣った。直感的にひよのの鈴であると、ひよのが示してくれた出口であると。そう認識した途端に疑心など消え去ったのだと胸を落ち着けて声掛ける。
「アルテミアちゃんはなじみさんを疑わなくなったね?」
「ええ。ひよのさんの鈴を真性怪異は嫌うもの。其れがあれば、外に出れる。どれだけ疑心が湧こうとも音呂木の血と、巫女は信じることが出来るわ」
 そうやって『あの神様』から逃れたのだから。アルテミアはひよのを信頼している。月夜もひよのの鈴の音だけは信じていた。
 aPhoneの地図も、看板も何もかもがちぐはぐの世界で。
 なじみだけを信じて進んできたイレギュラーズに彼女は『訳知り顔』で言葉を紡ぐ。
「怪しい場所だとは思って居たが。『猫鬼』、その神異については?」
「言葉は力になるから、なじみさんは言えやしないよ。けどね、そう。……『また此処にはこれるから』」
 この異空間に、と愛無は呟いた。一夜限りと言っていた。それは『迷い込む』側の話か。逆に此処に存在を植え付けることで何度も行き来できるようにしたとなれば。
(此処が『必要な場所』になるとでもいうことでしょうか……)
 ねねこは思案するが、直ぐに顔を上げる。「皆、敵が来たぞ。なじみを庇いつつ戦闘をしていこう」と戦略眼を駆使して告げたシューヴェルトの声に思考が遮られたからだ。
「本当に邪魔をして来るだなんてね。みんな、正気かしら? もしも来るってそうなら物理的衝撃でコッチに戻してあげるわ」
 微笑んだアルテミアがまじまじと向き直る。黒い影が、知り合いの姿を模して――眼が合えばにこりと笑う。
「ひよの――さん」
 花丸が息を飲む。月夜は先導するなじみの首根っこをひっつかんで後方へと投げた。シューヴェルトが直ぐさまになじみの護衛に入る。
「違う。アイツは音呂木じゃねェ……まあ、役得だ。『約束』破って血が吸えるな」
 月夜が走る。その後方から愛無は「現実に英教が無いとは言いきれない。これは『テスト』だ」とそう言った。
「あァ、なら音呂木に『血を吸われたか』って聞けばいいな?」
「血、血を!?」
 慌てる花丸は「どんな約束をしたのさ!」と月夜に問うが彼はつんとした態度で答えることはない。
「えーえーと……だ、誰か助けて下さいー!? 新島先輩がいると思って逃して貰えませんかって聞いたんですけど、駄目って襲い掛かってきました!」
 慌てて走り寄ってくるしにゃこは流石に知った顔には殴りかかれないと困った顔をして叫んだ。
 アルテミアが直ぐさまに前方に飛び出し『新島先輩』らしき影を殴りつける。しにゃこには明らかに『新島月子』として認識できたその影はアルテミアにはただの黒影にしか見えなかったようである。
「新島さんとは知り合いじゃないからかしら……」
「そうかもしれませんね。私達は皆、音呂木ひよのという存在を知っていますからあの影が全員揃ってそう見えているのは――」
 仕方が無いことなのかとなじみが示す出口付近――見慣れてしまった音呂木神社の境内に続く階段に立っていた『ひよの』に、そして愛無の前で微笑んだ『廻』にジョーイは「ど、どうしましょう!?」と叫んだ。
「いや、取り敢えず殴って逃げますぞ! 勢いで!」
「そ、そうだね。もうこの際、勢いで殴って怯ませてから脱出しよう。なじみさんもそれでいいよね!?」
 花丸が振り向けば、シューヴェルトに庇われていた馴染みはにんまりと微笑んだ。

「うん、『今日のなじみさん』はここまでだけど」


 ざわりと周囲に音が溢れ出す。それが『先程までの場所』であると気付いてからジョーイは「で、でられましたぞー!?」と叫んだ。
 aPhoneを眺めて居た月夜はなじみが通ることを選んだ道が不自然であったと呟く。覗き込んでしにゃこは「何がですか?」と問うた。
「方向感覚はおかしかったけどよ、所々現実と同じだったろ。俺だって希望ヶ浜に住んでンだ。道は分かる」
「ええ、曲がりくねったり不自然な曲がり方をしたところはあったわ」
 それを地図上に引いてみる。アルテミアと月夜の作業を手伝っていたねねこは「この道ですかね?」と問い掛けた。
「えーと……普通の道に見えるけど……あ、違うわね。だって、神様だもの。古い地図とか?」
 アルテミアの直感に花丸は大きく頷いて古い希望ヶ浜の地図を開く。区画整理が成される前の希望ヶ浜の地図には細かな道にも様々な名前が付けられていた。
「……『豊小路』って呼ばれる道を避けて、音呂木参拝道に繋がるように迂回してる?」
 ぽそりと呟く花丸に「どうしてですぞ?」とジョーイは首を捻る。
「好奇心は猫を殺す、か。それを細かく調べて良いかどうか。それは、まだ分からないか」
 その答えは出ないまま。喧騒の祭り囃子に辿り着く。愛無は小さく呟いた。

 ――神異に触れちゃだめなんだ。こう言う時はね。

 神異。神の示す霊威。 人間業でない不思議なこと。ああ、確かに真性怪異は土着信仰や様々な伝承より神とも思わしき存在となり得ることがある。
 だが、其れだけの意味であっただろうか。
「おかえりなさい、皆」
 ――リン、と。鈴の音が聞こえた気がした。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 おかえりなさい。
 かみさまのあしもとはたのしかった?

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