PandoraPartyProject

シナリオ詳細

悪意、炎に散って

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●サントノーレの接触
「よう、正純ちゃんだな?」
 ローレットの出張所にて休息をとっていた小金井・正純 (p3p008000)。そんな正純へと声をかけたのは、『探偵』サントノーレ・パンデピス(p3n000100)だ。
「サントノーレさん。何か御用でしょうか?」
 そう言う正純であったが、しかしサントノーレの昨今の活躍を思えば、自身に声をかけてくる理由などは知れている。
 つまりは、アドラステイアに関係すること。
 その想像に心をざわつかせる正純を知ってか知らずか、サントノーレはゆっくりと頷いた。
「君に会いたいって子がいてな……少し前に深緑で保護された、オンネリネンの子供だ」
 その言葉に、正純は無表情で頷く。しかし内心は苦い思いを抱えていた。オンネリネン。それは、アドラステイアが対外的に派遣する子供達で構成された傭兵団の名だ。どうにも、各国で資金を獲得し、アドラステイアに収めるのが目的らしく、昨今は様々な国でその姿を見受けることが出来、正純も、何度か戦い、保護したことがある。
「……あの時の子供ですか。何かお話が?」
「それは、本人に聞いてくれ。俺もオンネリネンに関しては調査中でね。色々と話を聞きたい所だが、俺だけじゃあ不安らしい。どうしても、前に親身になってくれた大人に話したいんだそうだ」
「その話だが――」
 と、隣のテーブルから声がかかった。そちらの方を見てみれば、静かに口を開くオライオン (p3p009186)の姿があった。
「俺も同席させてもらっても構わないか。アドラステイアに関する事であれば、俺も他人事とは思えない」
 サントノーレが正純へ目くばせするのへ、正純はゆっくりと頷いた。
「かまいませんよ、オライオンさん。サントノーレさん、お願いできますか?」
 そう言う正純は、サントノーレは頷く。
「OKだ。じゃあ、二人とも来てくれ。保護された子供が待ってる」
 その言葉に、二人は頷く。果たしてゆっくりと立ち上がると、三人はローレットの出張所を後にした――。

●アドラステイア外縁
 アドラステイア近郊。アドラステイア本都市から少し離れた所に、その建物はある。
 一見すれば、廃村にある、廃墟と化した屋敷に見えるだろう。窓のほとんどは気が打ち付けられ潰されており、外から中をうかがい知ることはできない。だが、よくよく見てみれば、その隙間から灯がともっていることに気づくだろう。
 内部は広く開け放たれるように改装が施されており、倉庫や工場のようにも見えた。内部には木箱が大量に置かれており、その中に除く小瓶の中には、『赤い錠剤』が大量に詰め込まれていて、ここが、その赤い錠剤を何処かへと出荷する拠点であることを、容易に想像させられた。
「この薬か……イコル、だっけ」
 13歳ほどの、赤髪の少年、ヨウシアが言う。腰に差したのは、立派な長剣である。子供ながらに鍛えられた体は、想像を絶する訓練によって得られたものであろうか。
「そうだね。僕たちは飲むことを禁止されてるけど、施設(オンネリネン)の外の皆は飲んでるみたい。もしかしたら、実験部隊に行った子も」
 隣には、同年代の、緑髪の少年がいる。名はライモ。彼も同様に腰に剣を差していて、並の大人よりはずっと使える剣の使い手であることを想起させる。
 二人は、オンネリネンの傭兵だった。周りには、同年代から少し下くらいの、10代前後の子供達がいて、イコルを箱に詰めてる作業を行っていた。皆、剣だったり、杖だったり、今にも戦えそうなくらいの武装をしている。彼らもまたオンネリネンの傭兵であって、相応の使い手たちだった。
「――無駄口を叩かないように」
 暗がりから、女が声をあげた。神経質そうな女である。聖職者風の衣装に身を包んだ女は、ティーチャー・ヘルメルと呼ばれる、オンネリネンの教師の一人だ。
「今やこの辺りは、憎きローレットの連中によって、危険地帯と化してしまいました。
 しかし、イコルを国外に搬出するためには、アドラステイアの近郊、この地で取引をしなければなりません。
 この場所は危険ですが、そのために鍛えられたあなた達オンネリネンの精鋭が派遣されているのですよ。
 マザー・カチヤの期待に応えるためにも、その自覚をしっかりと持ちなさい」
『はい、ティーチャー』
 子供達が声をあげる。ティーチャーの隣には、複数の動物を合成したキメラの様な、一体の怪物がいた。聖獣と呼ばれる、アドラステイアの生み出した怪物である。
「フォルトゥーナ側からも、こうして聖獣を貸与されています……あまり関わりたくない相手ですが、私達オンネリネンの家族が、アドラステイアで暮らしていくには仕方ありません。
 アドラステイアに残る家族にためにも、頑張るのですよ」
 ティーチャー・ヘルメルは神経質そうに言うと、暗がりの椅子に座り込んだ。
「聖獣か。僕はなんか、苦手なんだ」
 ライモが呟く。
「なんだか……見ていると、変な気持ちになる。怖いんじゃない。多分。かなしいんだ。どうしてだろう?」
「……わかるよ。なんとなく」
 ヨウシアが、聖獣を見つめながら言う。
 巨大な鷹の羽、獅子の顔、ゾウの身体、サイの手足……およそ滅茶苦茶につぎはぎされたような姿の、悍ましき聖獣の姿は、確かに憐れみを感じさせるものがあったかもしれない。
 いや……子供達は、本能的に、その正体を感じ取っていたのかもしれない。
 あれが、子供の成れの果てなのだという事に。

●搬出工場襲撃
「……それで、オンネリネンの子供が言うには、アドラステイア外縁の廃村に、イコルを国外へ搬出するための施設がある、と言う事か」
 ベネディクト=レベンディス=マナガルム (p3p008160)がそう言うのへ、オライオンは頷いた。
「ああ。外縁の廃村は、以前ローレットのイレギュラーズによる掃討作戦で、アドラステイアの活動もだいぶ落ち着いたと聞いていたが……どうやら、まだまだ潜伏して活動しているらしい」
「イコルの国外への搬出か……確か、摂取による精神的な高揚……そして、やがて聖獣へと変貌を遂げる危険な薬物だったな」
 ベルフラウ・ヴァン・ローゼンイスタフ (p3p007867)がそう言うのへ、正純が頷く。
「ええ。唾棄すべき存在の一つです」
「そんなのを他の国に流通させられたら、大変なことになっちゃうじゃない!」
 笹木 花丸 (p3p008689)が、正義感による怒りを隠さずに、そう言う。オライオンは言った。
「故に、保護されたオンネリネンの子供も、情報をくれたんだ。
 この搬出工場を攻撃し、イコルの流出を少しでも阻害する」
「もちろん、この施設を潰しただけで、それが全部抑えられるとは言わないけれど」
 スティア・エイル・ヴァークライト (p3p001034)が言う。
「少しでも、相手の動きを止められるなら、それは意味のある事だよ」
「うん。それに、一番近いのは当然天義の街……薬物に汚染される可能性が高いのも、天義だよね。
 そう考えたら、放ってなんて置けないよ」
 サクラ (p3p005004)の言葉に、コラバポス 夏子 (p3p000808)が頷く。
「それで、僕たちが招集されたってわけですか。
 いいとも、何時出発する?」
「なるべく早い方がいいですね。今日中に作戦を詰め、実行は明日」
 正純の言葉を、オライオンが引き継ぐ。
「夜間に襲撃を仕掛けることになるだろう。
 作戦の目的は、施設に待機しているオンネリネンの子供達の保護、聖獣の撃破……いるならば、ティーチャークラスの大人の排除。
 そしてイコルの完全破壊だ」
 その言葉に、仲間達は頷く。
 そして作戦の相談を開始した。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 此方のシナリオは、イレギュラーズへの願い(リクエスト)によって発生した依頼になります。

●成功条件
 イコル搬出施設を制圧し、イコルを完全破壊する。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●独立都市アドラステイアとは
 天義頭部の海沿いに建設された、巨大な塀に囲まれた独立都市です。
 アストリア枢機卿時代による魔種支配から天義を拒絶し、独自の神ファルマコンを信仰する異端勢力となりました。
 しかし天義は冠位魔種ベアトリーチェとの戦いで疲弊した国力回復に力をさかれており、諸問題解決をローレット及び探偵サントノーレへと委託することとしました。
 アドラステイア内部では戦災孤児たちが国民として労働し、毎日のように魔女裁判を行っては互いを谷底へと蹴落とし続けています。
 特設ページ:https://rev1.reversion.jp/page/adrasteia

●聖獣
 アドラステイアが保有しているモンスターです。
 個体ごとに能力や形状が異なります。
 当初はただのモンスターだと思われていましたが、現在は人間をイコルによって改造して生まれたものだということが判明しています。

●状況
 かつて保護したオンネリネンの子供体より、ローレットに情報がもたらされました。
 その情報によると、アドラステイア外縁の廃村に、イコルを国外へ搬出するための施設の一つが存在するようです。
 そこには大量のイコルが保管されている他、作業と護衛のためにオンネリネンの子供達と、ティーチャーの一人、そして聖獣が派遣されています。
 保護された子供達より、この施設の制圧と、働かされている仲間達の救出をお願いされた小金井・正純さんとオライオンさんは、早速信頼のおける強力な仲間達を募り、この施設の制圧を目指すこととなりました。
 情報によれば、施設は一見すれば大きな洋館のようになっていますが、内部は壁などが破壊され、一つの大きなフロアになっています。巨大な倉庫のような様子です。
 そこでは、大量のイコルの入った木箱があちこちに設置され、子供達はそこからイコルを搬出するための箱詰め作業などを行っています。
 皆さんはこの施設に潜入。内部に潜むオンネリネン部隊や聖獣、いるのであればティーチャークラスの大人を制圧し、内部の大量のイコルを残らず破壊してください。
 イコルの破壊方法はお任せします。火をつけて燃やしても、特に害はないです。
 作戦決行時刻は夜。内部には明かりがありますが、フロア全体を見通せるほどではありません。明かりをもって行くと良いかもしれませんが、潜入した際に敵に発見される確率は上がるかもしれません。

●エネミーデータ
 ヨウシア ×1
 派遣されたオンネリネンの子供達の、リーダー格の少年です。赤髪の優しい子。
 剣を持って戦う前衛タイプ。剣戟から繰り出される『出血系統』のBSにご注意を。
 また、彼がいる限り、戦場のオンネリネン所属のユニットの物理攻撃力が少々上昇します。

 ライモ ×1
 派遣されたオンネリネンの子供達の、サブリーダー格の少年。緑髪の、繊細な子。
 彼も剣を持って戦う前衛タイプです。EXAと回避が高めのスピードタイプ。『麻痺系統』のBSにご注意を。
 また、彼がいる限り、戦場のオンネリネン所属のユニットの神秘攻撃力が少々上昇します。

 オンネリネンの子供達 ×13
 派遣されたオンネリネンの子供達です。前衛タイプが6人、後衛タイプが7人存在します。
 前衛タイプは平均的な能力を持ったアベレージファイター。後衛タイプは、術士タイプの神秘攻撃アタッカー+ヒーラーになります。

 聖獣・ペネム ×1
 フォルトゥーナより派遣された聖獣です。外見は、『巨大な鷹の羽、獅子の顔、ゾウの身体、サイの手足』を持ったキメラの様な様相を呈しています。
 基本的には、圧倒的な物理攻撃力で踏みつぶしてくるタイプのユニットです。EXFも高く、タフです。
 『飛』属性を持つ攻撃なども使用してきます。

 ティーチャー・ヘルメル ×1
 オンネリネンの教師クラスの大人です。神経質そうな女性。オンネリネン所属ですが、ヨウシアとライモのバフは受けないようです。
 基本的には神秘系アタッカーになります。主に後衛で攻撃してくる他、戦闘不利を悟ればあっさりと逃げ出します。
 ヘルメルの生死は作戦の成功条件には関わりません。適当に攻撃して逃がすのも良いですし、ここで罰してやるのも良いです。

 以上となります。
 それでは、皆様のプレイングをお待ちしております。

  • 悪意、炎に散って完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年08月12日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費---RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

コラバポス 夏子(p3p000808)
八百屋の息子
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
サクラ(p3p005004)
聖奠聖騎士
ベルフラウ・ヴァン・ローゼンイスタフ(p3p007867)
雷神
小金井・正純(p3p008000)
ただの女
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃
笹木 花丸(p3p008689)
堅牢彩華
オライオン(p3p009186)
最果にて、報われたのだ

リプレイ

●潜入
 アドラステイアより少しだけ離れた廃村。その廃屋には、木で打ち付けられたまどから、僅かに明かりが漏れている。
 内部には無数の木箱があって、中には赤い錠剤の入った瓶が詰め込まれていて、それを子供達が一生懸命に箱に梱包し、出荷すべく区分けしていた。
 アドラステイアの、言い方は陳腐に聞こえるが、秘密工場とでもいうべき場所。此処では、イコルを他国へと搬出する準備をしている。イコルを他国へ売り捌く理由は、今のところローレットにもわかっていない。あるいはこれも、外貨獲得の手段なのかもしれないが……いずれにせよ、こんな事を見逃しておけるわけがない。
「アドラステイアねぇ。もう少し楽に解決できるかと思ったけど、なかなか進まんよなぁ」
 『八百屋の息子』コラバポス 夏子(p3p000808)が、ゴーグルをかけつつ、小さな声でぼやく。夏子らがいるのは、件の秘密工場の一角、大きな木箱の陰である……首尾よく工場内に侵入したイレギュラーズ達は、こうして息をひそめつつ、攻撃の時を窺っていた。
「ええ……あまりにも歯がゆい。アドラステイアには、今にも聖獣にされる子供達がいる。互いに傷つけ合い、苦しむ子供達がいる。
 なのに、私達はこうやって後手後手でしか対抗出来ないなんて……!」
 悔しげにつぶやく『聖奠聖騎士』サクラ(p3p005004)。『リインカーネーション』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)は友たるサクラを心配げに見やりつつ、
「サクラちゃん……あまり思いつめないで。少しでも子供達を助けられるなら、それには確かに意味があるんだから……」
「分かってる……けれど、どうしても……」
 悔し気なサクラの気持ちを、スティアは解らないわけではない。だが、どうしても、今の自分たちにも限界がある。その限界の中でも、諦めずに手を伸ばすことを止めないのなら、それは確かに価値のあることは事実であった。
「……スティアさんの言う通り、少しでもイコルを何とかして、
 子供達を止められるって言うなら、花丸ちゃん達が頑張る価値はあるってモノだよ。
 辛くなっちゃったら、きっと敵の思うつぼだよ。だから、負けないで」
 『人為遂行』笹木 花丸(p3p008689)がそう言う。まだ、アドラステイアに切り込むためのピースは足りていない。それを得るまでは、地道な戦いを続けるしかあるまい。苦しい戦いだったけれど、それでも続けなければ、敵の跳梁を見逃すことになる。サクラはゆっくりと頷いた。その瞳に、まだ潰えぬ決意の色を見せて。
「アドラステイア、か。
 しかし、信仰とは難しいものだな。それが土台としてあらば自らの立つ場所に疑問はなく安穏として居られるが、それを信じられなくなった時に人は寄る辺を失う……そして人とは、自らのみを信じて生きられるほど、強くなれないのかもしれない。その結果が、偽りの信仰か……」
 『金獅子』ベルフラウ・ヴァン・ローゼンイスタフ(p3p007867)が言うのへ、『黒狼の勇者』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)は静かに頷く。
「その結果がイコルか……そのようなものを生み出すものなどを、捨ておくわけにはいかない」
「そも……信仰とは祈り願いて希望を授かる、見つけだすもの。神の名を盾にして我を通すのならばそれは、ただの欲望だ」
 『元神父』オライオン(p3p009186)は静かに言った。
 ――外道になったからこそ分かるとは、なんとも皮肉なものだ。
 胸中でそう呟きつつ、オライオンは言葉を続ける。
「イコル、か。これこそ神の名を盾に人を欲望のままに動かす産物」
「ああ。出来れば大元を断ちたいが、それもまだ難しい。ならば、ここにあるものはすべてを破壊するのが、俺達ができるせめてもの事だ」
 マナガルムがそう言うのへ、頷いたのは『星の救済』小金井・正純(p3p008000)だ。
「……ええ。イコル。子供たちを狂わせ怪物へと変える邪薬。そんなものを、子供たちを利用して搬出しようなどと、許すことはできない」
 正純は、ぐっ、と己が左手で、自身を抱くように、己が右肩を掴んだ。体中を走る、痛みそれは星の祝福/呪い。しかして今は、その痛みすらありがたい。怒りに我を失わずに済みそうだから。
「――さぁ、時間です。子供たちを救いましょう」
 正純の言葉に、仲間達は頷いた。かくして木箱の陰から、一斉に飛び出す。その先には搬出作業中の子供達がいて、驚きに手を止めた。

●少年たち
「リーダー二人を抑えるよ!」
 サクラが叫び、誰よりも早く駆けだす――目標はライモ。神秘攻撃の攻撃指示を取るサブリーダーだ。振るわれたサクラの剣を、ライモは慌てて長剣で受け止めた。手を抜いたわけではない、相手がただの子供であれば一撃で切り伏せていたであろう一撃が受け止められたという事実が、サクラの心に重くのしかかる。彼らは、相応に腕を磨いている。この小さな体で……。
「どれほどの苦痛を……苦難を……!」
 悔し気に呻きながらも、しかし斬撃を止めることは無い。そうしなければ、子供達をすくう事は出来ないのだ。
「敵襲なの!? ヨウシア、このお姉さんは僕が……!」
 ライモが叫ぶのへ、ヨウシアは頷く。
「全員、攻撃を開始しして! 敵の狙いは、多分イコルだ……ッ!」
「ごめん、ちょっと痛いよっ!」
 拳で殴り掛かってくる花丸の一撃を、ヨウシアがシールドで受け止めた。腕を駆け抜ける衝撃は、花丸の一撃が相応の威力を発揮していることの証左であった。
「くっ……」
 ヨウシアが呻く。そのシールドの防御をかいくぐって、花丸の拳がヨウシアの胸元を捉える。その竜の牙が如き一撃、直撃すればただではすむまい。ヨウシアは無理矢理身体をひねって、その攻撃を肩口に直撃させた。痛みが身体を走る。ヨウシアが痛みに顔をしかめるのへ、花丸もまた辛そうな顔をする。
「ごめん……だけど、君達は止まらないんだよね……っ!」
 花丸の言う通り……彼らは言葉では止まるまい。だから、今は傷つけ合う事しかできないのだ。それがどれだけ辛くとも。
「まずはオンネリネンを無力化するぞ!」
 ベルフラウが叫んだ。裂ぱくの号令(コマンド)。英雄を作り上げるための鬨の声。仲間達の活力を体の芯から湧き立たせるための叫び。
「ヴァークライト卿! 聖獣を抑えてくれ!」
「了解だよ!」
 スティアが手にした魔導書を掲げつつ、聖獣・ペネムの元へと駆ける。威圧するような巨体。
「Grrrrrr」
 鳴き声とも威嚇ともつかぬ声を、ペネムはあげた。キメラの如き獣の咆哮! スティアの身体をびりびりと震わせる、衝撃! 途端、ペネムはその巨大な足を持ち上げ、スティアに向けて振り下ろした! スティアは横に飛びずさって回避! 刹那の後に巨体が地面に巨大な後を穿つ!
「まともに喰らったら危ないね……けど、私は耐えられるよ……!」
 あなた達だって、ずっと耐えてきたんでしょう? そう胸中で呟きながら、魔導書の文字を指でなぞる。展開されたサンクチュアリがスティアの身体を包み込み、禍を退ける盾となる。
「なんですか!? これは……一体!?」
 ティーチャー・ヘルメルが困惑した声をあげる。オンネリネンの子供達がすぐさま戦闘に応じたのに対し、あまり戦闘慣れしていないのが分かる様に、まだ彼女は慌てている様だ。
「あれは後回しとしよう」
 夏子が声をあげる。
「悪いね、ティーチャー? ところでこの後空いてるかい? デートをしよう。色々聞きたいんだ……貴女の事をね」
 口説くように、しかしその目には敵意の色を燃やしつつ、夏子は槍を振るう。飛び掛かってきた少年剣士の刃を受け止め、はじき返す。その隙をついて、夏子は槍の柄で、少年剣士の腹を突いた。一息で肺の中の酸素を吐き出した少年が、そのまま気絶する。
「命は奪わない……其れでいいんだろう?」
「ああ、出来る限り、頼む」
 マナガルムが頷き、戦場を駆ける。ヨウシアへと接敵するや、花丸を庇うようにその前に立った。振り下ろされた剣を、己の剣で受け止める。
「花丸、こちらは引き受ける。子供達の相手を!」
「了解!」
 花丸が離脱すると同時に、マナガルムは鋭い斬撃を繰り出した。慌てて防ぐヨウシアの長剣を、弾き飛ばすような衝撃。
「強い……この雰囲気、まさか天義の聖騎士……!?」
「いいや、そんなたいそうなものではない。俺は」
 力強く踏み込み、マナガルムの剣が翻る。長剣が弾かれ、あわや取り落とさんのを必死でこらえたヨウシアが後方へ跳躍、間合いを取るのへ、
「特異運命座標が一人、ベネディクトだ――悪いが逃がす心算は無い。今日此処で、お前達を蝕む悪意を終わらせてやる」
「くっ……!」
「ヨウシア隊長!」
 術師の少女が声をあげる。掲げた杖に魔力が充填される――そこへ飛び込んだ夏子が、杖を槍にて叩き落した。
「悪いね、デートのお相手は俺にしてよ……いや、もう少し大人になってからにしようか。今日はおねんねの時間だ」
 再び振るった槍の柄が、少女の首筋を叩き、気絶させる。夏子は倒れる少女を優しく抱き留めてから、床へ横たわらせた。
「でやぁぁぁぁぁっ!」
 花丸が拳を突き出す。胸部に直撃した剣士の少女が、もんどりうって倒れた。
「ごめん……っ!」
 悲痛な顔で謝りつつ、花丸は刹那、ハッとした表情を見せて跳躍した。途端、荒れ狂う雷がその場を舐めるように奔る。術紙兵の攻撃術式だ!
「花丸さん、こちらへ!」
 正純が退避を促すのへ、花丸は軽やかに宙転しつつ木箱の上に着地。同時、天へ向けて屋を引き絞る正純。
「我が矢はあだなす者のみを穿つ――!」
 矢を放つと魔力を帯びたそれは空中で分裂、矢の驟雨と化して敵対するオンネリネン兵だけを狙い撃ちにする。
「うああっ!」
 腕に矢の刺さった少年剣士が剣を取り落とすのへ、追撃とばかりに神聖なる光がおり、子供達を包み込む。
 オライオンの放った裁きの光が、子供達を打ち据えた。矢を受けた少年が意識を失って倒れる。半数近いオンネリネン兵士を倒し、しかしまだその式は衰えない。
「怯まないで! 魔女たちを倒すんだ!」
 ライモが叫ぶ。
「魔女、か……」
 オライオンは静かに呟いた。
「少年よ、それは本当に己の意思か?
 互いを疑い、蹴落とし、罰と称した暴力は本当に神への信仰と言って良いのか」
 ぐっ、とつまる様子を見せたライモに続くように、ヨウシアが叫んだ。
「だとしても……それから家族を救うためには、オンネリネンでやらなきゃいけないんだ!」
「そうですとも!」
 ヘルメルが叫ぶ。
「あの地獄を地獄と思うなら、そこから家族を引き上げたければ戦い、死になさい! あなた達の死は家族の糧になる……そう教えているはずです!」
「なんて奴……ッ! 貴女はイコルが何か知ってて、子供達に与えてるの!?」
 サクラがぎり、と歯を食いしばった。上段から振り上げた斬撃。ライモは何とかそれを受け止める。サクラは剣を圧しながら、
「あんな大人の言う事を聞かないで……あなた達には、他に行ける場所があるんだから……っ!」
「僕たちには、アドラステイア、しか……!」
 ぐっ、と圧すサクラ。普段の流麗なる剣技とは違う、力を押した攻撃。それは、無理矢理にでも子供たちを助けたいという、そんな思いの表れだったのかもしれない。力を込めたサクラの剣が、ライモの長剣を砕いた。
「お願い。今じゃなくていい。でも、いつか私達を信じて」
 サクラは泣きそうな顔でそう言うと、剣の鞘でライモの首筋を叩く。ライモが意識を失い、地に倒れ伏した――。
「術兵の統率が乱れたねぇ!」
 夏子が叫び、槍を振り回す。
「子供ってのはさぁ……大人の言うこと少しだけ聞いて、後は聞いたフリするくらいで良いんだよ。分かんない?」
 ギフトを併用した横なぎの払い。直撃した術師の少年の顔面で輝くフラッシュ、そして竹を割ったような鋭い音が響いて、少年の意識を失わせtが。
「要は自分で考える…ってコト! それから!」
 夏子は跳躍、今まさに逃げ出そうとしていたヘルメルの前へ降り立つ。
「待ってよご婦人。デートの約束したじゃない?
 ……ガキ共の事どうでも良いと思ってるからって、何も棄てて行く事ないじゃん? 酷いよ」
「どきなさい……!」
 ヘルメルはロッドを掲げると、その先端に術式を展開した。激しい炎が燃え盛り、ロッドを振るうと、薙ぎ払うように炎が巻き起こる。夏子は槍をかざしてその衝撃を殺すと、
「花丸ちゃん、そっちはお任せ! こっちはこれからデートなんだ」
「おっけー、せっかく捕まえたんだから、逃がさないでね!」
 空中でくるりと回転し、放たれた術師兵の氷の矢を避けながら、花丸が言う。着地するや一気に駆けだし、術師の少年の腹部を殴りつけ、気絶させた。
 一方、マナガルムはヨウシアと切り結び、徐々に相手を追い込んでいた。
「……投降するつもりはないか」
 マナガルムの言葉に、ヨウシアは頭を振った。
「ありがとう、優しい魔女さん。でも、僕達の命は、僕たちだけのものじゃないんだ」
 言葉だけは綺麗だ。だが、その真意は大人の悪意で歪まされている。かなしいものだ、とマナガルムは思った。
「――すまない」
 マナガルムはそう言うと、剣の柄で、ヨウシアの腹を殴った。ごふ、と息を吐いて、ヨウシアが意識を失う。
 指揮官を失ったオンネリネンたちは本来の力を発揮できず、徐々に制圧されていく。一方、聖獣・ペネムとの闘いも、いよいよ終わりを告げようとしていた。
「大人に信じろと言われていた光を突然取り上げられ、暗闇に投げ出された子らが犯した過ちは、我々大人に責任がある……」
 ベルフラウが呻きつつ、聖なる術式を編み上げる。その聖なるかなはスティアの身体を包み込み、傷がひらきつつあった体を癒した。
「ヴァークライト卿、頼む!」
「任せて!」
 スティアが魔術書を掲げる。そのページから放たれる青い魔力の奔流は、氷結の花となってペネムへと襲い掛かった。ペネムの足が、舞い散る氷結の花弁の花弁に傷つけられ、その傷口を氷に閉ざして砕いていく。
「Grrrrrrrrrrr!!」
 ペネムが叫ぶ――同時に、放たれた一筋の矢が、ペネムの額に突き刺さった! それは、正純の放った矢だ。獅子の顔の額に深々と突き刺さった矢。天狼星の一撃。
「――そうなる前に救えなくてごめんね。この子達は、必ず私たちが助けるから。
 だから貴方は、次こそ幸福に」
 正純がそう呟いた途端、ペネムの肉体はぐずぐずと泥のように溶けていく。まるで泥人形であったかのように崩れ落ちていくその身体の中に、小さなおもちゃの指輪が光っていることに気づいた。
 正純は、泣きそうな顔をした。
 ベルフラウがゆっくりそれを拾うと、
「君の事は救えなかった……本当に済まない」
 そう呟いた。

●大人たち
 一方、ヘルメルの最後の抵抗は醜くも続いた。撤退に失敗したヘルメルは、もはやこの場で抵抗を続けることしかできない。
「大人として子を導く為の者がこうだとはな。そうして育つ子供達が貴様達の様になるというならば、負の連鎖は僅かでも断たねばなるまい。
 さぁ祈れヘルメル。偶像の神へ届くかは知らんが、お前は逃がす訳にはいかん」
 オライオンが術式を編み上げる。黒いキューブをその手に現出させ、ゆっくりと解き放てば、キューブはヘルメルを飲み込み、与えられた激痛にヘルメルは悲鳴をあげる。
「こ、こんな……ことが、許される……!」
「許しを請うなら、御自慢の神に請え。
 そして届かぬ願いで理解しろ。神なぞ居ないということを」
 ぐ、とオライオンが手を握ると、黒のキューブが収縮して、ヘルメルの内に消えた。爆発するような激痛がヘルメルの内部を駆け巡り、死に瀕するほどの衝撃が、ヘルメルの意識を刈り取った。
「おや、殺したのかい?」
 夏子が尋ねるのへ、
「ううん、生きてるみたい」
 スティアが脈を確認しながら言った。
「……子供達は?」
 サクラが言うのへ、マナガルムが頷く。
「全員、無事だ」
「よかったぁ……」
 花丸が、ほっと胸をなでおろした。
「よし。では、サントノーレに連絡を取るか。とりあえず、この子供達と……ヘルメルの搬送を頼みたい。イコルを破棄するのはそれからになるが……大量だな。さて、どうしたものかな?」
 ベルフラウが首をかしげるのへ、
「簡単です」
 正純が言った。
「燃やしてしまえば、全て灰ですよ」

 ……燃える。
 燃えていく。
 赤い舌がチロチロと屋敷を舐めて、すべてを灰の内に飲み込んでいく。
 子供達とヘルメルを搬送し、イレギュラーズ達は残ったイコルごと、屋敷に火を放った。
 大人たちの悪意が、子供達の悲哀が、すべてが炎に浄化されるように散っていく。
「……これは、狼煙だ」
 オライオンが言った。
「そうですね。
 私達の意思を、アドラステイアに表す」
 正純が頷く。
 見ているか、見えているか、アドラステイアに潜む陰よ。
 これこそが、我らの怒り。我らの決意。我らの裁断。
 いずれお前達の潜むその地を、我らの怒りで焼き尽くそう。我らの怒りで浄化しよう。
 炎が。我らの意思の炎が、お前達を飲み尽くすまで、我々の怒りは消えない。
 その炎を抱くように星は輝き、イレギュラーズ達は、館とイコルがすっかり焼け落ちるまで、その炎を見つめ続けていた。

成否

成功

MVP

サクラ(p3p005004)
聖奠聖騎士

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 子供達は救出され、イコルの搬出は止められました。
 ……まだ、アドラステイアとの闘いは続きます。しかし、これは大切な、一つの勝利であることに違いはありません。

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