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シナリオ詳細

キョウコツ&キツネの冒険。或いは、呪い掃きの海酒…。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●呪い掃きの海酒
 青い空に、白い太陽。
 潮の臭いを孕んだ風が吹き抜ける小さな孤島。
 砂浜と岩礁だけがあるその小さな島には、2人の男女の姿があった。
 片方は、褐色肌に金髪といった姿の女海賊。
 もう片方は、刀を手にし、鬼火を連れた鎧武者だ。
 女海賊は、金の髪を振り乱しながら手にしたランスを鋭く突き出した。
 それを刀で受け流しながら、鎧武者は一気に女の懐へと潜り込む。
 一閃。
 強い踏み込みと同時に武者は刀を薙ぎ、女海賊はそれを寸でで回避する。
 はらり、と。
 切られた髪が熱い風に舞う。
「はは! やるじゃないか、キョウコツとやら! 今のはなかなか危なかったぞ!!」
 鋭い牙の並んだ口を大きく開けて、女海賊……“金鮫”ティブロンが呵々と笑う。
 ティブロンは、海洋国家を出身とする海賊だ。
 海賊といっても、つい昨年に団を立ち上げたばかり。
 おまけにごく小規模な海賊団であり、ティブロンの首には未だ値段が付けられていない。
 賞金首でもないティブロンを、積極的に襲う者などこれまで1人もいなかった。
 つまり、目の前の鎧武者は賞金稼ぎなどでは無い。
「はは! お前ほどの使い手が求めるとは、この酒にはそれほどの価値があるのか?」
 なんて、言って。
 ティブロンは、腰に巻いたパレオの中から青色をした小瓶を取り出した。

 ティブロンの持つ小瓶の中身は“呪い掃きの海酒”という。
 あらゆる呪いを解呪するという性質を持つ海の秘宝の1つである。
 鎧武者、キョウコツと、その傍らに灯った鬼火、キツネの目的はそれである。
 海洋を航海していたティブロンの元を、2人が訪れたのは今からおよそ3日前。
「どうか“呪い掃きの海酒”を譲ってほしい」
 開口一番、キョウコツはそう言った。
 それに対し、ティブロンは1つの条件を出した。
 実のところ、ティブロンは“呪い掃きの海酒”に興味がない。
 彼女にとってそれは、1つの冒険を終えたことの記念品でしかないからだ。
 ティブロンにとって、何よりも大事なものは冒険そのものなのである。
 キョウコツがそれを欲するのなら、くれてやってもいいとさえ考えていた。
 けれど、しかし……。
「それじゃあ楽しくないしな。よし、こうしよう。今から2週間以内に、アタシからこれを奪い取ってみな」
 そうすれば“呪い掃きの海酒”はお前のものだ。
 それが、ティブロンの出した条件だった。
 以来3日、キョウコツとキツネはティブロンを追いかけ回している。

●ナバリ群島
「なるほどな……そんな理由で、あなたはここに倒れていたと?」
 青い空。
 白い太陽。
 褐色肌に白いビキニといった姿のモカ・ビアンキーニ(p3p007999)は、砂浜に倒れた鎧武者へとそう問うた。
 
 2週間以内にティブロンから“呪い掃きの海酒”を奪うこと。
 それが、キョウコツに出された条件だった。
「って言っても、その有様じゃあね……自分で奪わなきゃ駄目なんだろう? 間に合うのか?」
「それはどうにか。いや、なかなか手ひどくやられてしまった」
『手ひどくやられたって、それって全部キョウコツの自業自得でしょ?』
 ケタケタと笑う鬼火……キツネが、砂浜に転がるキョウコツの上を飛び回る。
 海水に濡れた鎧武者の右腹部には、大きな穴が空いていた。
 穴を覗けば、そこにあるのは剥き出しになった白い肋骨。
 一部が大きく欠けている。
 さらに左の腕と左の脚も、一部が欠損して存在しなかった。
 どうやら、鮫か何かに食われたようだ。
「何をやったら、そんな有様になるのか。あなたの体が骨で無ければ死んでいたぞ?」
 そう、キョウコツの鎧の下には肉の体は存在しない。
 あるのは白い骸骨だけ。
 妖刀“肉喰い”の呪いで、キョウコツとキツネは体を失っているのである。
 正しく言うなら、キョウコツには“骨格”だけが残った。
 キツネは、魂だけが鬼火として残った。
 失われた身体を取り戻すため“呪い掃きの海酒”を手に入れたいというのが2人の目的だ。
「体が骨でなければ、鎧のまま海に飛び込んだりはせぬよ」
「体が骨でも、鎧のまま跳び込むべきじゃないと思うけれどね、私は」
 呆れたようにそう呟いて。
 モカは遥か沖を見やった。
 島と島の間の距離は、およそ300メートルほどか。
 近くの島の砂浜で、金髪の女が手を振っている。
「ティブロンを追いかけようとしたのか? 海種を相手に海中戦を挑むつもりか?」
「あ、いや。ティブロン殿は泳げないと聞いたので……いけるかと思ったのだが」
『だから鮫を連れてるんでしょ。人でいうところの馬みたいなものよね』
 猪突猛進気味なキョウコツに比べ、キツネは幾分冷静に成り行きを観察できていたらしい。
 キツネの読みでは、ティブロンは海中での方が強い。
 相棒の鮫“アーロ”に騎乗し、突進と併せて突きを繰り出す彼女の技をまともに受ければ、大きなダメージと【ショック】は避けられないだろう。
「それにしたって、ティブロンは何だって2週間と期間を区切ったんだろうな」
『船の修理が終わるまでに、それぐらいの時間が必要だからですって』
「……要するに、あなたたちとのゲームはその暇潰しというわけか」
『でしょうね。2週間も時間があったのに、キョウコツが馬鹿をやったせいで……」
「骨の体が再生して、満足に動けるようになって……残るは数時間ほどか」
 おまけに付近の海には、鮫が生息しているらしい。
 キョウコツの負った傷を見るに【失血】や【体勢不利】の異常を受けるだろう。
 サイズは小さいようだが、顎の力が強く、数が多い。
 準備や対策もせず、海中でそれらとやり合うのは自殺行為に等しい。
「それに、大小合わせて30を超える島、島、島……どこにいるかも分からないティブロンを探して回って酒を奪うと」
 ふむ、と顎に手をあててモカはしばし思案する。
 それから、彼女はキョウコツの隣にしゃがみ、こう言った。
「手伝ってやってもいい。人手がいるんで、何人か呼び寄せるけれどね」
 バカンスのついでに、遊んでみるのもいいだろう。
 冗談めかしてそうは言ったが、実際のところその提案はモカの善意によるものだ。
 キョウコツとキツネに、身体を取り戻させてやりたいのである。

GMコメント

こちらのシナリオは『キョウコツ&キツネの冒険。或いは、嵐の海を越えた先…。』のアフターアクションシナリオとなります。
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/5370

●ミッション
ティブロンから“呪い掃きの海酒”を奪い取る

●ターゲット
・ティブロン(ディープシー)×1
長身の女性。鮫のディープシー。
褐色の肌に、ウルフカットの金の髪。
水着の上からキャプテンハットやキャプテンコートを纏っている。
武器は騎士が持つような巨大なランス。
生まれつき泳ぐのが苦手なため、相棒の鮫“アーロ”に騎乗し水中を駆ける。
彼女の所有する“呪い掃きの海酒”を奪取することが今回の依頼の内容である。

ティブロン・ラ・ランザ:物中貫に大ダメージ、ショック
 アーロの推進力とランスの破壊力、ティブロンの実行力を1つにした突撃。


・ナバリ鮫×多数
ナバリ群島周辺に住む肉食の鮫。
人でも何でも群れで襲って喰い尽くすことで有名。
サイズは1メートル前後。体躯の割に、口が大きいことが特徴。

肉喰:物近単に大ダメージ、失血、体勢不利
 大口を開け、対象に喰らい付く攻撃。


●チームメイト
・キョウコツ&キツネ
鎧武者(中身は骸骨)と人魂の旅人。
妖刀の呪いで現在のような姿になっているらしい。
呪いを解き、身体を取り戻すために旅を続けている。
キョウコツは生真面目な性格。
キツネはどこか適当かつ軽薄な性格をしている。

妖刀“肉喰い”:物至単に大ダメージ
 キョウコツによる斬撃。

妖術“狐火”:神遠単に中ダメージ、暗闇
 青白い炎による攻撃。キツネの技。


●フィールド
ナバリ群島。
30を超える孤島が集まっている。
島と島の間は30メートルから300メートルと様々。
多くの場合は30メートル程度であり、腰から肩まで浸かる程度の水深しかない。
島に木々などは生えておらず、岩礁と砂浜のみ。
キョウコツが動けるようになってから、3時間ほどの間にティブロンを発見し、依頼を達成する必要がある。

●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • キョウコツ&キツネの冒険。或いは、呪い掃きの海酒…。完了
  • GM名病み月
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年08月07日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

十夜 縁(p3p000099)
幻蒼海龍
寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)
私の航海誌
モカ・ビアンキーニ(p3p007999)
Pantera Nera
クレマァダ=コン=モスカ(p3p008547)
海淵の祭司
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
フォルトゥナリア・ヴェルーリア(p3p009512)
挫けぬ笑顔
白妙姫(p3p009627)
慈鬼

リプレイ

●金鮫の追跡
 鮫に騎乗し、自由自在に海を行く。
 褐色肌に金の髪、勝気な眼差しに、鋭い牙の並んだ口腔。
 外見からしていかにも好戦的な雰囲気を纏うその女性こそが、海賊“金鮫”ティブロンである。彼女は愛用の突撃槍を肩に担いだティブロンは、相対する3人の男女へ挑発的な視線を向けた。
 ところは海中。
 海の奥底。遥か頭上に、きらきらと陽光が煌めいている。
「ははっ! 愉快な連中だと思ったが、まさかあんたらを連れてくるとは! まったく、予想以上に楽しい暇潰しになりそうだ!」
 そう言ってティブロンは、腰に巻いた海賊旗の内側から、古びた酒瓶を取り出して見せる。
「そいつか。秘宝の酒と聞くと味が気になっちまう所だが……“呪い掃き”、なんて名前からしてそう旨い代物でもなさそうだ」
『幻蒼海龍』十夜 縁(p3p000099)は腰の刀に手を添えて、酒の瓶へと視線を送る。
 “呪い掃きの海酒”
 その酒瓶の中身は、そう呼ばれている海の秘宝だ。
「まぁ、暇潰しってことだし、適当に付き合ってやるとするさ」
 海水を蹴って、縁は跳んだ。
 その様はまるで海中を奔る矢のようだ。
 ティブロンは騎乗している相棒の鮫“アーロ”の背を軽く叩くと、その場で反転。
 縁から逃げるように、さらに海の底へ向けて潜っていった。
「こっちからと向こうからで挟み撃ちにしよう」
 ティブロンと縁の後を『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)と『テント設営師』フォルトゥナリア・ヴェルーリア(p3p009512)が追いかける。
 ティブロンと縁という海種の2人ほどに、海中を自在に駆けまわるとはいかないが、それでも行動を阻害されることはない。
 事実、岩陰に隠れ様子を見ていたティブロンを、発見したのはフォルトゥナリアだ。
「っ……鮫が集まって来たな」
「まとめて片付けるよ!」
 進路を阻む鮫の群れを、フォルトゥナリアが眩い閃光を放って焼いた。
 鮫が怯んだその隙に、2人は海の底へと向かう。

 ナバリ群島。
 イレギュラーズやティブロン、そして依頼人である骸骨の武士“キョウコツ”と人魂の呪術師“キツネ”の滞在している島の名前がそれだ。
 点在する大小様々な島の1つに、3人の人影があった。
「あの2人、キョウコツとキツネといったか……いや、なんとまぁ。奇怪な呪いもあったものよの。ある種の不死なのではないか?」
そのうちの1人、『特異運命座標』白妙姫(p3p009627)の脳裏を過るのは、腹と腕を鮫に喰らわれ地面に倒れた無残なキョウコツの姿であった。
 木製の鎧の内に覗いていたのは、肉のない白骨だけの体。キョウコツとキツネはある妖刀の呪いによって、その肉体を喪失しているのだ。
「うむ。なかなか“使える”ようじゃったが、海で海種を相手にするのは無謀極まりないものよ」
「それでいうと私たちも海種ではないんですけどね。だっていうのに、遠慮も無しに海中深くに潜っていったみたいで……やれやれ、ティブロン親分の遊び好きにも困ったもんだぜ」
 なんて。
『海淵の祭司』クレマァダ=コン=モスカ(p3p008547)に言葉を返す『ティブロン海賊団“鮮烈なる”』ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)。
 海賊帽子を持ち上げて、わざとらしく肩を竦めた。
「お主を含めた何人かは、ティブロンのところの船員なのじゃろ?」
「……えぇ、まぁ。私、いつの間に団員になったんす?」
「それもめぐり合わせであろう。それよりも……さぁーて、追いかけっこじゃの」
「そのためには、この鮫の群れをどうにかしないといけませんが」
 白妙姫が背筋を伸ばして刀を手に取る。
 愛用の巨大ナイフを肩に担いだウィズィは海を見渡し、溜め息を零した。
 幾らか遠くの海域で、弾けるような爆音が鳴った。ティブロンを発見したというフォルトゥナリアからの合図だ。
 合図のあった地点へ向かうためには、広い海を行く必要があるのだが……。
「出来れば無駄な殺生は避けたいでな」
 3人の立つ島の回りには、いつの間にか無数の鮫が群がっている。
「さて……控えろ。我を誰と心得るか」
 冷たい瞳で鮫の群れを睥睨し、クレマァダはそう告げた。

 蒼い海を船が行く。
 船の名は“出張店舗船ステラビアンカII号”。『Pantera Nera』モカ・ビアンキーニ(p3p007999)の所有する小型船だ。
「えぇい、鬱陶しい!!」
『もう1匹来るわよキョウコツ!』
「2匹でも3匹でも来るがいいわ! モカ殿の船に傷1つ付けさせはせぬぞ!」
 船上からの斬撃が、大口を開け迫る鮫の鼻先を裂いた。
 キョウコツの愛刀にして、彼らの負った呪いの元凶“肉喰い”の切れ味は抜群だ。血を撒き散らし、海へと沈む鮫の遺体に、別の鮫が群がり喰らう。
 ナバリ鮫というその鮫は、比較的に小さな体と、それに見合わぬ大口でもって何でも喰らう狂暴な種だ。
 そのうち1匹が、高く宙へと跳ね上げられる。
「まったく邪魔な鮫たちだ」
 次いで、海面に顔を覗かせたのは褐色肌の女性であった。
 モカのアッパーカットによって、鮫は空へと跳ね上げられたようである。
「ここで消耗するのは避けたいな。ティブロンさんは水中はもちろん陸地も強いから」 
空中に跳ね上げられた鮫の胴を『若木』秋宮・史之(p3p002233)の刀が斬り裂く。黒い体に、朱色の線が一条走ると、数秒後には肉が分かたれ、鮫は血を吐き海へと落ちた。
 海中を自在に泳ぐ鮫とはいえど、空に打ち上げられてしまえば回避も防御も攻撃も、行えなくなるのは道理である。
「俺が進路を切り開くから、急いでこの海域から抜け出そう」
「承知した。よろしく頼むぞ」
 史之の提案を受けたモカは、海中から小型船へと跳びあがる。
 彼女が操舵輪を握ったのを確認し、史之は空気を肺いっぱいに吸い込んだ。
 それから数秒。
 空気を震わす大音声が青い空に響き渡った。

●ティブロン追走
 まっすぐに駆けて、突撃槍を繰り出した。
 ティブロンの放つ一撃を縁は刀の腹を横にして受け流す。
 しかし、加速と質量の差は歴然だ。
 縁の腕をもってしても、即座に反撃へ移ることは適わなかった。
「怯みもせんとは流石だな!」
「そういや、これまでお前さんと直接やり合ったことはなかったな。か弱いおっさんなんで、手加減してくれると嬉しいんだがねぇ」
「はは! “金鮫の剣”がそのようなナマクラであるものか!」
 そういってティブロンは、アーロの脇を軽く蹴った。
 ティブロンが突撃槍を繰り出すのに合わせ、アーロは後退。
 縁との距離が開いた瞬間、再びアーロは加速をつけて全速全身。脇に長柄を挟んで固定したティブロンは、身体ごとぶつかるような刺突を放った。
「っと、そいつを受け止めるのは勘弁だな」
 僅かに身体を傾けて、縁はティブロンの突撃を回避。しかし、いち早く縁の回避動作に気づいていたアーロが軌道を修正したことで、縁の表情が強張った。
 直後、ティブロンの槍が縁の肩に突き刺さる。
 だが、しかし……。
「やはり狙うならアーロの方か!」
 横合いより迫る顎のごとき黒き斬撃が、ティブロンの槍を弾き飛ばした。
 槍と刀を交わす縁とティブロンの元に、イズマとフォルトゥナリアが追い付いたのだ。
 細剣を構えたイズマが、ティブロンの眼前へと迫る。
 掲げられた突撃槍を躱すように、鋭い刺突を繰り出した。狙いは、ティブロンの脚……否、彼女が騎乗しているアーロだ。
「おっと! 相棒はやらせんぞ!」
 イズマの刺突は、けれどアーロに届かない。刺し込まれたティブロンの腕が、代わりにそれを受けたのだ。
 片腕を犠牲に作った隙を見逃すほどに、ティブロンは甘い性質ではない。
 不安定な姿勢のまま突撃槍を斜めに振って、槍の腹でイズマの頭部を殴打する。
「痛っ!? やっぱり海中じゃ不利か?」
「うぅん、行って。また追いかけっこに戻るのは美味しくないしね」
 頭部を押さえたイズマへ向けて、フォルトゥナリアはそう言った。
 直後、彼女を中心に周囲へ淡い燐光が散る。
 暗い海底で見るその光景は、ある種幻想的でさえある。
「あぁ! ずるいぞ!」
「そう言われても……3時間の時間制限もあるから、このまま捕獲したいんだよね」
 困ったように頬を掻いて、フォルトゥナリアは視線を上へ。
 それを追いかけるように、縁はティブロンの上を取るべく移動を開始。ティブロンの進路を塞ぐ心算だ。
「っ……多勢に無勢か。アーロっ!!」
 それに気づいたティブロンは、慌ててアーロに指示を下して一時撤退を選択した。
「あぁ、また逃げる! 追って、追って!」
 バタバタと腕を動かすフォルトゥナリアに追われるように、縁とイズマはティブロンの後を追いかけた。

 鮫の群れの最中を突き抜け、ティブロンは海上へと至る。
 ナバリ鮫は狂暴だが、鮫であるアーロに騎乗していれば襲われる確率は幾分か軽減されるのだ。
「3人は鮫に足止めされているようだな」
 濡れた髪を搔きあげながら、ティブロンは青い空を見上げた。
 実に楽しい時間だった。
 程よい緊張感と疲労感が気持ちいい。
「やっと一息つけるな。さて、少し休憩したら……あ?」
 頭上を向いたティブロンの顔に影が落ちた。
 大上段に得物を構えた女性の影だ。
 金の髪が、陽光を反射しキラキラ光る。
「さあ、Step on it!! ティブロン海賊団、ウィズィニャラァム! 行くぞォ!」
「お、おぉ!? ウィズィ!? なぜここに!?」
「お主が勝手に、我らのおった浅瀬に来たのよ。さてアーロと言ったか。この浅瀬では、主を乗せては泳げぬじゃろ?」
「もう1人……いや、2人か!」
 掲げた槍でウィズィのナイフを受け止めながら、ティブロンは素早く左右へ視線を巡らせた。オロオロしているアーロを沖へと逃がしながら、1歩、また1歩とティブロンは陸地へ後退していく。
「それにしてもはた迷惑な追いかけっこよの」
 横合いより迫るクレマァダ。
 踏み込みと共に放たれたその掌底が、ティブロンの手首を強かに打った。
「つっ⁉」
 痛みに顔を顰めながら、ティブロンはクレマァダへと前蹴りを放つ。それを手で捌き、クレマァダはティブロンの懐へと潜り込んだ。
「やばっ……」
 回避も防御も間に合わない。
 クレマァダの肘鉄を受け、ティブロンの体が後方へ跳んだ。

 苛烈に、猛烈に、鮮烈に。
 ウィズィの斬撃がティブロンを襲う。
 突撃槍を旋回させて、巨大ナイフを受け止めながら、ティブロンは口元に狂暴な笑みを浮かべて見せた。
「あなたが名付けたんだろ、“鮮烈なる”ウィズィニャラァムと!」
「あぁ、いかにも!」
「ならば私から‪──‬目を離すなッ!」
「応とも!!」
 大上段より振り下ろされた一撃を、突撃槍の腹で受けて横へと流す。
 カウンター気味の一撃が、ウィズィを襲う、その刹那……。
「しゃぁっ!」
 浅瀬を跳ねるように迫った1匹の鮫が、ティブロンの横腹へタックルを決めた。

「アーロ!?」
「しゃぁっ!!」
 ティブロンにタックルを決めたのは、沖へ逃がしたはずのアーロだ。
 相棒の窮地にいてもたってもいられずに、助けに戻って来たらしい。
「っと、外してしまったの」
 先ほどまでティブロンがいた位置を、白妙姫の刀が薙ぐ。
 ウィズィの相手に集中しているその隙に、海中を通って背後へ迫っていたらしい。
「ありがとう、アーロ! 助かったぞ!」
「いいや、まだだぞ。わしらこそが鮫のごとく追い掛け回してくれるわ!」
 アーロを抱え、沖へと走るティブロンを追い白妙姫が疾駆した。
 低い位置で刀を構え、海水を斬るようにしてその背に迫る。
 一閃。
 大きな踏み込みと同時に放たれた斬撃を、ティブロンとアーロは前方へ跳ぶことで回避した。
「アーロ!」
「しゃっ!」
 びたん、とヒレで水面を打ちアーロが跳んだ。その背びれを掴み、ティブロンも跳躍に便乗。白妙姫の射程外へと逃げていく。
 逃がすまい、とクレマァダは海面を殴り波を起こした。
 けれど、アーロの遊泳速度は波よりほんの僅かに速い。
「将を射んと欲すればまず馬を射よ」
 白妙姫は刀を構え、アーロの尾へと狙いを定める。
 だが、彼女が刀を振り下ろすことは無かった。
「……と言いたいところじゃが、どうも可愛がっておるようじゃ」
 刀を鞘へと戻しつつ、白妙姫はそう呟いた。
 それに……と、視線を遥か彼方へ向ければ、こちらへ向かう小型船の影もある。

●呪い掃きの海酒
 油断をしていたつもりはなかった。
 小型船の接近に気づいたティブロンは、キョウコツとキツネを挑発すべく海面に顔を覗かせた。
 彼らが海に入れぬことは知っている。
 だが、これはゲームだ。彼らの集めた仲間たちが、実力者揃いなのも知っている。
 なにしろうちの何人かは、ティブロンの船の船員なのだから。
 だからこそ、距離を取って、顔を見せるにとどめるつもりだったのだ。
 誤算があったとするならば、それはモカの執念深さを見誤っていたことか。
「っと、また来たな!」
 駆けるように接近し、刃のような殴打や蹴りを繰り出してくるモカへ向け、槍の先端を差し向ける。モカは頬を裂かれながらも、強引に槍を回避しティブロンに接近。
 その腰元へ向け、手を伸ばす。
「狙いは酒か」
 なるほど確かに、思い返せばそう言うゲームだったはずだ。
 あまりにも戦いが楽しかったせいだろう。自分で決めたゲームのルールをうっかり忘れかけていた。
「悪いなティブロンさん、今日の私はキョウコツ&キツネ海賊団の一員だ」
「なるほどな! では、こちらも海賊の流儀でいかせてもらう!」
 欲しいものは力づくでも奪い取る。
 奪われたくないのなら、力でもって抗うのみ。
 それがティブロンの掲げる海賊の流儀なれば……。
「アーロ!!」
 瞬間、アーロは加速した。
 モカの首をティブロンが掴む。アーロが向かうのは海底だ。
「なに……いや」
 内臓にかかる負荷を感じて、モカはティブロンの策を悟った。
 急激な水圧の変化は、人の体に大きな負担を強いるのだ。水中での行動を得意としているティブロンならばともかく、モカではそれに耐えきれない。
 呼吸が不要であることと、水圧の変化に抗えることは同じではないのだ。

 苦し気に顔をしかめつつ、しかしモカは笑っていた。
 様子がおかしい。
 そう気づいた時には、手遅れだった。
「“呪い掃きの海酒”獲ったぞ!」
「何を……」
 モカの宣言は気にかかる。
 だが、その答えはすぐに向こうからやって来た。
 ティブロンの視界の端に、淡く青い炎が灯った。
 思えば、深海で炎を見るのは初めてだ。
 そして、炎に照らされて浮かび上がるは鎧武者。
「やぁ、待ってたよ」
 その隣には、にやりと笑う秋宮史之の姿があった。

 時刻は少し遡る。
 モカとティブロンが海中戦を繰り広げるのを、史之たちは船上から眺めていた。
 そのうち、2人の姿は海の深くへと消えていき……。
「行こう。キョウコツさん」
「ぬ? 拙者は満足に泳げぬが? それに海中では視界が利かぬ」
『そうそう。あと、鮫にも襲われちゃうし』
 キョウコツとキツネの困惑も当然。
 だが、史之には秘策があった。
「鮫なら俺が斬ればいい。それに、俺は目がいいんだ」
 ティブロンたちの進路なら、今でもギリギリ追えている。
「肉体が無いなら呼吸も不要でしょ? それなら、水の底で待っていればいいんだよ」
 追いつけないなら、相手の方から寄ってきてもらえばそれでいいのだ。
「おぉ、なるほど。慧眼にござるな!」
『目から鱗ってこのことね!!』
 なんて、目の無い2人はそう言った。
 そうして史之に率いられた2人は、ティブロンたちが寄って来るのを海底で待っていたのである。

 青い火炎が海中を奔る。
 キツネの放った鬼火を受けて、アーロは思わず動きを止めた。
 その隙に、海底を蹴ってキョウコツは跳ぶ。
「あ、離れろ! お前……っ!! 重いだろうが!」
「なればこそ! いかにアーロ殿でも、甲冑を着込んだ拙者を乗せて、自在に泳ぐことはできまい!」
 密着した状態で、突撃槍を振るうことは出来ない。
 海底に押し付けられては、身動きさえもままならず……。
「は、はははは! いいぞ、分かった! アタシの負けだ!」
 ティブロンは、自身の敗北を認めた。

 明るい茶髪に、糸目の女性。
 身に纏うは、黒を基調とした和服。
「あ、あぁぁ!」
 震えた声で糸目の女性……キツネは自分の頬を押さえた。
 細い瞳から、涙がとめどなく零れる。
「おぉ、おぉ!! やったな、キツネ!!」
 泣き笑いの表情を浮かべ、そう言ったのは精悍な顔つきをした総髪の男……キョウコツであった。
 手を取り合い、涙を零す2人の足元には空になった酒の瓶が転がっている。
 歓喜に沸く2人を眺めながら、縁はティブロンへと問うた。
「酒はあるか?」
「うん? 秘宝の海酒ではなくか?」
「あぁ、せっかく2人の体が元に戻ったんだ。今度は普通の旨い酒で乾杯といこうや」
「なるほど。道理だな!! では、アタシの船に来るといい。新たな船員の歓迎会と行こうじゃないか!」
 なんて。
 抱き合い喜ぶキョウコツとキツネ、そしてイレギュラーズたちを、自身の船へと招くのだった。

成否

成功

MVP

寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様です。
無事に“呪い掃きの海酒”を奪取し、キョウコツ&キツネの呪いは解かれました。
依頼は成功になります。

この度は依頼に参加いただき、ありがとうございました。
縁があれば、また別の依頼でお会いしましょう。

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