PandoraPartyProject

シナリオ詳細

雨上がりの君達へ

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●消せない罪
 灼熱の太陽が何もかも綺麗に焼き払う。
 真っ白な世界に取り残された僕は、途方に暮れていた。迎えが来ない事を知っていたからだ。
 遠くでは、ゆらゆら陽炎のように人の影が揺れて消えていく。

 僕は唇を噛んだ。だって、ずるいじゃないか。
 本当に消えてしまいたいのは僕の方なのに。どうして皆、簡単に溶けてしまえるんだ?
 まるで最初からこの街の歯車だったみたいな、そんな顔で淡々と。

 だから僕が消してやった。綺麗さっぱりこの街ごと。ざまぁないよね。

 でも、待って?

 焼いたのは太陽じゃなくて、飲み込んだのは街じゃなくて。ぜんぶ僕がやったって事?

「お願い……誰か、答えてよ」

 返事はかえってこない。だって全て、僕が消してしまったのだから。
 嗚呼、この鼓膜を貫くような沈黙こそーー僕の罪。

●終わりを止めるために
「雨上がり症候群、という奇病をご存知?」

 境界図書館に集まった特異運命座標へ開口一番、『境界案内人』ロベリア・カーネイジは静かに問うた。

「梅雨があけて暫くした頃、ごく稀に人間が発症すると言われているわ。この異世界においての話だけれど」

 ロベリアが取り出した本の表紙は雨上がりの街の風景が描かれている。しかしその景色の一部が真っ白に塗りつぶされて消えていた。

「発症した人間のまわりにいる、ありとあらゆるものは透過病を患う。人も物も何もかも。急に過去を思い出して、消えてしまいたい思いにかられ、まるでそれを叶えるかのように身体が透明になりーー消えてなくなる」

 激しい嵐が過ぎ去って、見上げた空が雲ひとつ残らない様に。
 その呪いめいた強大な病は宿主の魔力を高め、孤独で蝕み続けてしまう。

「特異運命座標にだって、この病は影響を及ぼす筈だわ。
 だからといって、一人として欠けて帰ってくるのは許さない。貴方達がどんなに『自分なんか要らない』と思っても、私は貴方が必要だもの」

NMコメント

 今日も貴方の旅路に乾杯! ノベルマスターの芳董(ほうとう)です。
 梅雨明けるの早すぎませんでした?!

■目的
『発症者』ハルイチの討伐

■重要
 この依頼ではキャラクターが透過症にかかり、自身の姿がどんどん透明になっていったり、自分が「消えてなくなってしまいたい」と思った時の記憶がフラッシュバックするようになります。
「消えたい」というネガティブな気持ちに抗う術があれば、症状を緩和したり姿を維持できるかもしれません。

 姿が完全に見えなくなっている間は、物に触れられず戦闘に参加できなくなってしまいます。

⬛︎戦場
異世界『アスノソラ』
 現代日本めいた建物が本には描かれていましたが、皆さんが辿り着く場所は真っ白な空間です。天も地もなにもなく、遮蔽物もありません。何の境もありませんから、泳いだり飛んだりする事も望めば出来る空間です。

⬛︎敵情報
『発症者』ハルイチ
 20代前半の冴えない青年。家族は全て他界しており、頼る宛もなくひとりぼっちです。社会の歯車にもなりきれなくて、孤独感に苛まれるうちに『雨上がり症候群』にかかってしまいました。
 他者を寄せ付けないように衝撃波で吹き飛ばしたり、周りのカゲビトにネガティブな言霊でバフをかけます。

カゲビト×20
 ハルイチの心象を模した魔物です。他者を孤独に浸そうと暗闇のBSを付与する攻撃を仕掛けたり、引っ掻いたりしてきます。

⬛︎その他登場人物
『境界案内人』ロベリア・カーネイジ
 特異運命座標に依頼した案内人。拘束衣を彷彿とさせる装束を身に纏い、足を戒めた姿の妖しい女性です。呼ばれなければ特に活躍はしませんが、何か求められればサポートにまわったり、顔を出してくれるようです。

■その他
 戦闘依頼ではありますが、病に侵されたキャラクター達が苦しみながらも戦いに身を投じる姿を頑張って描いていきたいと思っています。
600字全てを戦闘用の立ち回りで埋めるよりは、病への葛藤や心情などを書いて頂いた方が盛り上がるかもしれません。

 それでは、よろしくお願いいたします!

  • 雨上がりの君達へ完了
  • NM名芳董
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年08月03日 22時05分
  • 参加人数4/4人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

回言 世界(p3p007315)
狂言回し
メリー・フローラ・アベル(p3p007440)
虚無堕ち魔法少女
冬宮・寒櫻院・睦月(p3p007900)
秋縛
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切

リプレイ


 明日の天気はどうだろう。
 見上げた先に雲もなく、空の青さもない。全てが透明になって消えてしまった寂しい空間に、その男はぽつんと立っていた。
「君達も消えに来たの?」
 このハルイチという青年には、苗字が元々あったという。消えてしまったのだ。彼が発症した『雨上がり症候群』――恐ろしき病魔によって。
「気をつけろ、こういう敵は戦闘が長引くほど不利になる」
 対話の時間すら取るべきではないと『貧乏籤』回言 世界(p3p007315)は感づいたが、時すでに遅し。場にいる他の特異運命座標は身を薄らがせ、虚な瞳で虚空を見ている。
 揺さぶれど返事はなく、彼ら彼女らが無防備な間にも、カゲビトがわらわらと群れだした。
(あぁ、クソ! 感染した方が楽じゃねぇか)
 仲間が目覚めるまで、足止めするのが己の役目か。悲しきかな、何処へ行けども世界は貧乏籤だった。


「しつこい!」
 もう何度、放っただろうか。魔弾を受けたハルイチは身体をくの字に曲げて吹き飛ぶが、次の瞬間には何事も無かったかのように起き上がり、ゆっくりと近づいてくる。
 まるで混沌に来たばかりの頃と同じだと、『汚い魔法少女』メリー・フローラ・アベル(p3p007440)は歯噛みした。
 きっかけは些細な喧嘩だった。幻想の街中で口論になった男へ、元いた異世界でしてきた様に、魔弾を放って吹き飛ばす。
 いつもならそれで血の雨が降る……筈だった。
「衛兵だ! 大人しくしな、お嬢ちゃん」
「触らないでよ! あなたも殺されたいの?」
「このガキ、ローレットの庇護下だからって付け上がりやがって!」
 何度も振り上げられる拳。男数人に囲まれる恐怖や殴りつけられる痛みより、魔弾を喰らった男が怪我をしながらも起き上がる姿の方が、心を強く傷ませた。

――嗚呼! 全力で撃った攻撃をまともにブチ当てても、人間ひとり殺せないなんて!

 混沌肯定Lv.1。無辜なるこの世の理で弱体化しただけならまだ良かった。本来の自分は負けてないと思えるのだから。
 けれど、現実は元の世界にいた時と比べて自分自身が弱くなった感覚も、魔法の威力も落ちた気配もなくて。
 放り込まれた留置所で膝を抱えながら巡る思考は、適度に血が抜けた事もあって、嫌ってほど冴え渡っていた。

 つまるところ、わたしは。

(元いた世界の人間が”魔法攻撃に極端に弱かった”だけで、本当は……弱い?)

 口の中に吐くまで氷を詰め込まれた様な寒気を覚え、震えが走る。
 まるで地元の高校で一番の秀才が都心の一流大学に進学して身の程を知る様に、失われていく自信。

 残酷な事実を突きつけられ、わたしはーー消えたいと思った。


 嫌な世界だと思った時には、すでに発症していた。
 透過症は自身が消えてしまいたくなる様な過去を思いださせる。だから目の前に現れた幼い幼馴染の姿も幻なのだと『しろがねのほむら』冬宮・寒櫻院・睦月(p3p007900)は自分に言い聞かせた。
(あの頃は無自覚で、無邪気に笑っていたけど……見せつけられるとキツいものがありますね)
 彼の瞳は深海の更に底を見る様な虚さを帯びていた。
「ねぇ、辛かった?
 四六時中、僕の側に居ないといけなくて。幼い遊びばかりねだられて、おつとめだからって付き合わされて」
 僕は君のもので君は僕のものだと、本気でそう思い込んでいた。けれど現実は残酷で、僕の姉と君が会話している姿を見た瞬間、幻想は剥がれ落ちた。

 恋を知る者の顔。その瞳はビー玉のように輝いて――虚ろな君に本当の姿がある事を知った。
 年上で偉そうな女性がその頃から好きだったんだよね。混乱して問い詰める僕に、君は唇を開いた。

「年下は論外だよ」

 嗚呼――その時、僕は消えてなくなりたいと思ってしまったんだ。
 生まれてはじめて恥も外聞もなくわんわん泣き叫んだ。君は姉さんと親からきつい説教を受けてまた僕のとなりへ還ってきたね。暗く濁った瞳のままで。
 いまでも思い出すと胸が苦しい。あの言葉の意味を聞きたい。
 だけど聞いたらようやく築いた今の関係まで壊れてしまいそう。それがなによりも怖くて、僕は――


「消えたい」と思った事は……無かったな。
 ただ、「死ぬべきだった」と思った事はある。

「ならば今ひとたび、撚り合わせよう。お前と俺の運命を」

 懐かしい声がする。顔を見る前に視界へ映り込んだのは、あのナックルナイフ。

「……師兄」

 この身は神(《死神(ししん)》)に属し、この魂は守神(『一翼の蛇』)に属する。
 故郷では《死》に際し、強く縒り合された糸が共を引いて、深く縁を結んだものを道連れにした。
 その縁の糸が張り、引き引かれる感覚を『霊魂使い』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)は知っている。

「置いていきたくない」

 病魔が見せる幻だ。振り払ったあの日の雨の音も、むせ返るような血の匂いもこの場所にはない。
(けれどもし、あの日をやり直せるなら……今度こそ俺は、逝くべき場所へ)

 踏み出した瞬間、キィンと耳元で音がした。運命とは別の、蜘蛛糸が紡ぐ機械音。
……思い出せ、自覚せよ、忘れることなかれ。失ったものを、未だあるものを、共に歩むものを!

「"死ぬべきだった"と思った事はある、だが、その期を逃せばそれは『縁が無かった』という事」

 帰らなくては。待つ者がいるから。

「俺は消える事も、死ぬ事も、まだできない!」


 世界が膝から崩れ落ちるとほぼ同時、アーマデルは蛇銃剣アルファルドを振り抜いた。目の前のカゲビトの顔面に斬撃を刺し、錬成された弾丸で深く強く刳り抜く。薄らいでいた身体はすでに実体を取り戻し、戦いに身をと投じる意志が輪郭をはっきり虚無の世界に浮き上がらせていた。
「睦月殿!」
 群がる影の手を払いながらアーマデルが叫ぶ。過去の依頼でバディを組んだ彼女には、少なくとも境界案内人と結んだ絆が見えたから。
「消えたくない想い出はあるか、消せない想いはないか!
 いまもまだ在るならば、容易には消えられないものがその胸にある筈だ!」
「――っあ」
 揺らいでいた実体が一瞬にして現実へと浮かび上がる。睦月は弾かれた様に両手を前に出した。薬指に婚約指輪が光る。
「そうだ。まだ思い出を直視できるほど強くはないけれど……今の僕は、ひとりじゃない!」
 ドゥ! と彼女が放った魔砲の轟音。その炸裂音が耳に届き、メリーは間近に死を感じた。

 このまま流れに身をまかせて、消えてしまうのは簡単な事。
 でも――やっぱり、消えるのは嫌だ!

「勝てないならみっともなく逃げ回ってもいい。地べたに這いつくばって命乞いしてでも生きていたい!
 それに、今のわたしは……あの時ほど弱くない!!」
 激しく瞬く聖光がカゲビト達を巻き込んで、邪悪な力に裁きを下す。盛り返してきた特異運命座標にハルイチは恐れから一歩後ずさった。
「何だよ、君達も消えたいから僕を利用しに来たんだろ?」
「自惚れるんじゃないわよ。あたしはただ仕事だから始末しに来ただけ」
 消えてしまった空は、きっと曇天なのだろう。背中と胸の古傷が痛む。わたしはまだ、生きている!

「よかった、メリーさんも姿が元に戻りましたね!」
「当たり前よ。睦月達の仲良しごっこに巻き込まれる前に復調したの」
「メリー殿は恥ずかしがり屋さんなのか?」
 メリーがシューターをアーマデルに向けようとして、慌てて睦月が制止する。
「とにかく、いくらカゲビトを叩いてもキリがないですよ。なんとかハルイチさんに有効打を与えないと!」
 特異運命座標を囲むように、カゲビトは今も、じわりじわりと増え続けている。虚空に染み出したインクのように無尽蔵に広がるそれは、事前に聞いた数より確実に個体数を増やしていた。じり、と身構えながらアーマデルが2人へささやく。
「一撃の猶予をくれたら、畳み掛ける隙を作れる。病の後押しをしそうだが」
「ようは影の群れに風穴あけろって事ね?」
 作戦を耳にしたメリーがハルイチの方へ駆け出す。阻もうと集まるカゲビトの群れを見て、挑発的にニヤリと笑った。
「影よりも暗い運命で、照らしだしてあげる!」
 彼女の手に黒く輝くダームクムーンは辺りを照らし、闇の光がカゲビト達をのみ込んだ。ごっそりと崩れた包囲の穴からアーマデルと睦月が飛び出す。
「近寄るな! 拠り所も帰る場所もある癖に、僕の孤独を埋める気なんてない癖に……そんなの、ずるい!」
 ハルイチの言葉が残ったカゲビト達の影を濃くする。長い鉤爪が雨のように降り、傷つくメリー。その瞳が暗闇に閉ざされようと、彼女は群れを抑え続ける。
「捉えた」
 喚く男の眼前までアーマデルは迫る。時間がない。逃さぬように狙いをさだめ、突き出された蛇銃剣。
 火薬と硝煙と共に展開された光の糸は、やがて鏡を形作り――ナイトメアミラージュ。刹那の悪夢にハルイチを呑み込んだ。
「見るな……俺を見るなあぁぁ!!」
 見せられた虚像にハルイチの悲鳴が木霊する。乱発された衝撃波がアーマデルの腹を強かに打ち、その身を遠くへ吹き飛ばした。
(ッ……あの精神状態なら、バッドステータスのみならず悪夢が心をかき乱す! 畳み掛けるならまさに、この瞬間……!)
 倒れゆくアーマデルと睦月の視線がかち合い、睦月が力強く頷いてみせる。
「本当は見られたいんでしょう。認められたいんでしょう? だってハルイチさん、貴方……泣いてるじゃないですか!」

 消えたくない、まだ消えたくない。あの人といっしょにいたい。幸せになりたい。だから――ひとりぼっちの君に、知って欲しい。
 生きていればきっと、誰かが手を差し伸べてくれると気づいて欲しい!

「届けえぇぇぇーーっ!!」

 睦月の手からピューピルシールが放たれる。ハルイチの身を封印が縛り、涙の雫は白亜の地平を濡らした。
 嗚呼、空が元の色に染まりゆく。雨上がりのように青々とした色が、取り戻した未来へ満ちてゆく!

成否

成功

状態異常

なし

PAGETOPPAGEBOTTOM