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シナリオ詳細

<現想ノ夜妖>学校の幽霊と少年探偵団

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●少年探偵団活躍す
「後は、調べてないのはここだけなんだけど……」
 と、単発の少年がそう言った。時刻は夕刻。場所は、前時代に大学として名をはせた、平屋の大きな屋敷である。
 かむい大学校と呼ばれたその大きな建物は、前時代まで多くの学問に携わる人々が通い、にぎわった場所でもある。
 とはいえ、今は文明開化の音も遠くなりし、諦星の時代。西洋化は急速に進み、近代的な『学校』が建築されるに至り、この旧来の大学校も閉鎖することとなった。
 とはいえ、文化的な観点から、貴重な遺産として保存運動が提唱されているとかいないとか。
 まぁそれは良い。子供達にとっては関係のない事である。と言うより、そのような文化的な側面をさておいて、子供達にとっては『お化けの出る古い建物』でしかない。
 本当にお化けが出るのか、と言うのはあくまで噂ではあったけれど、子供達にとってはその噂だけで充分、恐れるに値するものだった。
 さて、話を戻せば、屋敷の入り口には4人の子供達がいる。それぞれ名を、短髪、太っちょ、お嬢、メガネ、としておこう。すべて同年代の少年少女であって、同じ近代的な学校の学生である。
「本当にここを調べるのかぁ?」
 太っちょが気弱そうに言った。何せ、お化けの出ると噂されている旧学校である。本音を言えば、誰もが怖い。
「でも、猫ちゃんが最後に目撃されたのはこの辺りだって……」
 お嬢が言う。と言うのも、彼らは少年探偵団を標榜する子供達であって、街のトラブルを解決するために日夜走り回っている……と言う体の遊びであったけれど、本人達は居たって真面目だ。今日も、行方不明になったペットの猫を探して方々を歩き回っていた。
 結果は芳しくなかったけれど、猫を探して歩きまわるのは楽しかった……その果てにたどり着いたのが、この旧学校だ。前述の通り辺りはすでに夕暮れで薄暗い。今から探していては、確実に夜になるだろう。よる。つまり、お化けの出る時間帯である。
「探しましょう! 猫ちゃんも、ここにいるはずです!」
 メガネが言った。自分たちは少年探偵団なのだから、お化けなんて恐れることはない。小さな探偵たちは頷き合うと、旧学校の中に入り込んでいく。
 その姿を、門扉の中から、無数の影が見つめていた。彼らが屋敷の中へと入り込んだのを確認して、影たちはゆっくりと、門扉を閉めた。

●動き出す『渾天儀【星読幻灯機(ほしよみキネマ)】』
「少し予知が遅れちゃったから、これは緊急のお仕事」
 と、そそぎは特異運命座標たちへとそう告げた。
 ここは神光(ヒイズル)。R.O.O、ネクスト世界における『豊穣』のコピー国家だ。
 オリジナルとはかけ離れた様相を見せるこの国は、非常に『近代的』な発展を遂げており、旅人たちの世界の言葉で言うなら『大正浪漫』風の風景が広がっているのだという。
 その一角にある、『高天京壱号映画館』。此処は、事件を予知し、事件を解決するための上映施設である。
「この少年探偵団たちの子が入り込んだのは、旧かむい大学校。元々は名前の通り、前時代の学校施設だったんだけど、近代化に伴って閉鎖されたのね。
 で、閉鎖されて人が寄り付かなくなると、悪い気は集まるもので。此処は今、夜妖の巣窟となっているの」
「そこに、子供達は入り込んでしまう……入り込んでしまったんです」
 つづりが精いっぱい言葉を紡ぎながら、後に続いた。
「その、この子達は、猫を探していて……そのねこ、茶トラの可愛い子なんですけれど、その子も、旧学校の中に居て」
「子供達のカンは当たっていたんだけれど、その結果、夜妖の巣窟に入り込んじゃった、ってわけ」
 二人の話によれば、予知は先ほどなされたばかりなのだという。今からすぐに向かえば、子供達を助けることができる、と言うのも、予知の下された情報だ。
「あなたたちのお仕事は、この子供達を救出して、脱出する事。
 夜妖の全滅はしなくていいわよ。数が多いから、難しいでしょうし。
 人命救助を最優先にして」
 そそぎの言葉に、つづりは、あの、と声をあげて、
「できれば……猫ちゃんも……」
「……まぁ、そうね。出来れば。でいいわ。猫も見つけてあげて。
 ただ、最初に言ったように、目標は人命救助。それは忘れないでね」
 そそぎはそう言う。
 特異運命座標たちは、二人から情報を受け取ると、映画館から飛び出した。夜の帝都の路地を抜け、一路旧学校へと向けて走り出す――。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 旧学校に迷い込んだ、子供達と猫。
 助け出してあげてください。

●成功条件
 少年探偵団を保護し、旧学校から脱出する。
  オプション――茶トラの猫を救出する。

●情報精度なし
 ヒイズル『帝都星読キネマ譚』には、情報精度が存在しません。
 未来が予知されているからです。

●ほしよみキネマ
 https://rev1.reversion.jp/page/gensounoyoru
 こちらは帝都星読キネマ譚<現想ノ夜妖>のシナリオです。
 渾天儀【星読幻灯機】こと『ほしよみキネマ』とは、陰陽頭である月ヶ瀬 庚が星天情報を調整し、巫女が覗き込むことで夜妖が起こすであろう未来の悲劇を映像として予知することが出来るカラクリ装置です。

●状況
 前時代の遺産、『旧かむい大学校』に、少年探偵団の子供達四人が迷い込みました。
 彼らの目的は、迷い猫の保護……。
 旧かむい大学校は、今は夜妖の巣窟と化した危険な建物。速く救出しなければ、子供達の命はないでしょう。
 しかし、それの悲劇は予知され、いま救いの手として特異運命座標たち、つまり皆さんが派遣されようとしています。
 旧かむい大学校は、江戸時代の寺子屋風の広大な屋敷になっています。また、夜妖の力により、少し空間が歪み、さらに広大、迷宮化しているようです。
 皆さんは、この屋敷に侵入し、子供達を救出。脱出してください。
 クエスト発生タイミングは夜。内部は怪しい光により明るいですが、明かりなど、探索に便利なグッズやスキルがあると、様々な点で判定にプラス修正が生じる事が有るでしょう。

●エネミーデータ
 旧かむい大学校の夜妖 ×???
  旧かむい大学校に巣食う夜妖たちです。様々な種類が居ますが、幽霊風のものが特に多いでしょう。
   火の玉を投げつけてくる人魂。
   物理属性攻撃を粉う落ち武者の霊。
   広範囲に呪いをばらまく女の霊。
   猫の声真似をして皆さんを惑わす猫又風の夜妖……などが代表です。
   基本的な戦闘能力は、皆さんよりは弱く設定されていますが、数が多いので、探索の際は大勢に囲まれないように注意しましょう。

●救出対象
 少年探偵団 ×4
  短髪、太っちょ、お嬢、メガネ、の四人組です。短髪がリーダー格。お嬢はヒロイン。太っちょが力仕事で、メガネが頭脳仕事、みたいな分担らしいです。
  基本的に、四人まとまって行動しています。素早く見つけて合流できれば、まとめて保護できるでしょう。
  が、あまり探索に時間をかけていると、敵の襲撃によってばらばらになってしまうかもしれません。
  そうなると、探すのに少し手間がかかってしまいます。

 トラスケ ×1
  行方不明になっている茶トラの猫です。のんびり屋。
  成功条件には含まれませんが、余裕があったら助けてあげると良いでしょう。
  探す際には、猫又の声真似に注意してください……。


 以上となります。
 それでは、皆様のご参加とプレイングをお待ちしております。

  • <現想ノ夜妖>学校の幽霊と少年探偵団完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年08月05日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ハルツフィーネ(p3x001701)
闘神
アレキサンドライト(p3x004247)
リア充ボマー
白銀の騎士ストームナイト(p3x005012)
闇祓う一陣の風
タント(p3x006204)
きらめくおねえさん
イズル(p3x008599)
夜告鳥の幻影
ねこ・もふもふ・ぎふと(p3x009413)
しろねこぎふと
みゃーこ(p3x009529)
野良猫
天狐(p3x009798)
うどんの神

リプレイ

●廃学校の探検隊
 赤く沈む空と、月の照らす夜がせめぎ合い、まさに逢魔が時の時間。
 特異運命座標たちが件のかむい大学校へと到着したのは、まさにそんな時だ。木で作られた門扉は、今は固く閉ざされている。予知の段階では開いていたらしいが、妖――夜妖によって閉じられたらしい。
「……べつに鍵がかかっているわけではないですね」
 ゆっくりと門扉を押し開きながら、『魔法人形使い』ハルツフィーネ(p3x001701)が言った。中から覗くと、大きな庭の奥に、平屋の建物が見える。
 広い建物であったが、しかしいくら広くてもたかが知れているだろう……と思うのは間違いだ。内部は夜妖によって歪められているのだというから、外からの印象などは当てにならない。
 この建物のどこかに、少年探偵団と、彼らが捜す迷い猫トラスケはいる。特異運命座標たちは、その少年探偵団を探すために、この地へとやってきたのだ。
「入ってみましょうか?」
 ハルツフィーネが言うのへ、
「うむ。虎穴に入らずんば虎子を得ず、だ」
 『闇祓う一陣の風』白銀の騎士ストームナイト(p3x005012)がそう言うのへ、仲間達は頷いた。門扉をくぐり、ゆっくりと中へと入ると、夏の温い風とは違う、粘っこい空気を感じられた。
「……まるで、何者かに見られているような感覚だ……」
 ストームナイトが言うのへ、『爆弾魔』アレキサンドライト(p3x004247)が、「うう、確かに」と声をあげた。
「俺はあまりオバケとか超常現象とか、その手の類のものは得意ではないのですが……いや、でもこれ、ゲームですからね。ゲームだと思えばコワクナイヨホントダヨ」
 アレキサンドライトがそう言った瞬間、ばだん、と音を立てて門扉が閉じた。アレキサンドライトはびくり、と肩を震わせるや、懐から爆弾を取り出す。スキル使用を準備!
「ぜ、全部吹キ飛バセバイイノデス、問題ナイ!」
「いやいや、おちついて! まだ敵は出てきてないから! 爆弾しまって!」
 『野良猫』みゃーこ(p3x009529)がそう言うのへ、アレキサンドライトは、ふぅ、と深呼吸一つ、スキルの使用をキャンセルする。
「演出みたいなものだと思うよ……けれど、逃がさないよ、って言う意思は感じるかもね」
「それはそれで怖いのですが……」
 アレキサンドライトが肩を落とすのへ、『きらめくおねえさん』タント(p3x006204)が、安心させるように微笑む。
「大丈夫よぉ。どんな時でも、わたくしが道を照らしてあげます。
 それに、心細いのはきっと、子供達とトラスケも同じだわ。
 しっかりぴっかり、ちゃんとたすけて、安心させてあげないとねぇ」
「そうだね。幼き子供の冒険心と言う奴ね。こういう出来事を経て大人になるのだろうし、少し怖い思いをした……くらいで留めてあげなければね」
 自身はそう言った環境にはおかれずに育ったが故に、知識としての理解でしかないが、それはさておき理解を示すことはできる。そんな思いを抱きつつ、『夜告鳥の幻影』イズル(p3x008599)は言った。
「しかし……実際にトラスケはここにいるんだ。子供達も探偵としては及第点じゃないかな?
 あとは危険に関する嗅覚をもっと磨ければいいのだけれど」
 苦笑していうイズルに、タントは笑う。
「そうねぇ。じゃあ、子供達の成長を、ここで止めてはいけないわねぇ」
「猫さん探してる、探偵団の人達……僕的には、好ましいなっておもう、みゃー。
 だから、皆ちゃんと助けてあげて、トラスケさんも助けてあげたい、みゃうー」
 『淡き光の白子猫』ねこ・もふもふ・ぎふと(p3x009413)の言葉に、ストームナイトは頷く。
「うむ。最善の結果を導き出そうじゃないか」
「ではチーム分けと行こうかの!」
 と、『きつねうどん』天狐(p3x009798)が手をあげた。
「ねこ殿の言う通り、両方を助けてやりたい。そのためには、こちらも多少のリスクは許容するべきじゃろう。
 チームを二つに分けて、広範囲を一気に探索する。
 幸い、敵の戦闘能力は、単体であるならば、わしらと比べるべくもない。
 ならば、慎重に進めば、4人くらいでも充分に探索は可能じゃと思うよ」
「そうだね。じゃあ、決めてしまおう、みゃ」
 ねこがそう言うのへ、仲間達は頷く。かくしてわずかな相談の末、特異運命座標たちは4人の2チームにパーティを分けた。
「ふふ……ねこさんが、おふたり。なんてすてきなのでしょう」
 というハルツフィーネのパーティには、ねことみゃーこ、二人の猫アバターがいる。少しの間目を輝かせたハルツフィーネが、しかしすぐに、こほん、と咳ばらいを一つ。むむむ、と意識を集中して、大地に向けて手をかざすと、30cmほどのクマのぬいぐるみが、ぽん、とかわいらしい音を立てて召喚された。クマのぬいぐるみはぴょこぴょこと歩くと、タントの足元にやってきて、ぴ、と手をあげてアピールする。
「私はその子と五感を共有できますから、なにかあったら伝えてください。
 此方も、連絡はその子を動かしてとることにします」
「ええ、わかったわぁ」
 タントが頷くと、クマのぬいぐるみを優しく抱きかかえた。
「じゃあ、行きましょうか?
 まったく、こんなホラーな所、さっさと帰りたいんだよなぁ……」
 アレキサンドライトが愚痴るのへ、天狐が、むっ、とした顔で頷いた。
「ほんとじゃよ! なんでいきなりR.O.Oでホラーが始まっておるのじゃ? わし聞いてないんじゃが!
 まぁ、わしは子供達にお姉さんとしての威厳を見せねばならぬ故に、怯えたり悲鳴をあげたりはせんのじゃが!
 お化けなんぞ怖くないぞ! ほんとじゃぞ!」
 むふー、と胸を張る天狐。それはさておき、一同は旧大学校内部へと侵入していく。
 果たしてその内部は、外から見た物とは明らかに違う雰囲気と構造を見せていた。
「なるほどね。確かにこれは、歪められてるなぁ」
 みゃーこがそう言う。確かに、内部は異常なほどに拡大している。入ってすぐの、奥に続く廊下を見るだけでも、十数メートルは続いているようにみえるし、部屋の数も片手では数え切れぬほどにあちこちに存在している。
「だが、怯んではいられないね。
 行こうか、皆」
 イズルの言葉に、特異運命座標たちは二手に分かれて探索を始めた。

●トラスケさん、学校を行く
 にゃあああああお。
 にゃあああおおおお。
 あちこちから響く猫の声。呼ぶような、誘うような、そんな声を聴きながら、トラスケは「あれはこわいものだ」と本能的に察した。飼い猫に身をやつしたが、昔は誇り高き野良の猫であった。危機を察知する能力はまだ衰えていないのである。……まぁ、この旧学校に迷い込んでしまった時点で、危機察知能力も少々衰えているようではあったが。
 さて、視点を変えて、こちらは特異運命座標たち。ハルツフィーネ、イズル、ねこ、にゃーこのパーティは、あちこちから響く猫の声に眉をしかめながら、長い長い廊下を歩いている。
「……これが本物の猫でしたら、嬉しいのですけれど」
 ハルツフィーネが嘆息する。廊下の左右を見れば、障子戸の向こうに、ろうそくの明かりに照らされる猫の姿が見える。だが、ろうそくがゆらり、と揺らめくたびに、それは巨大な化け猫の影をみせ、あざ笑うようににゃああお、と鳴くのである。
「全部猫又だよぉ。全然猫の匂いがしない……」
 と、みゃーこがいう。屋敷には猫又、つまり化け猫に相当する夜妖がいるとの事だが、まさかこんなにいるとは。
「ううん、子猫たちも猫又に怯えちゃって、部屋の中に入らないね……」
 と、ねこ。壁にきゅっ、と目印を書いて、探索済みの合図とした。近くには、アクセスファンタズム『淡い白雪の白子猫』によって呼び出した猫たちがいて、一匹はねこの近くで探索作業の手伝いをしていたが、それ以外は子猫そのものといった気まぐれさで、あちこちの壁をがりがりしたりしている。ほのぼのとした光景だが、しかし猫又は怖いのか、部屋の中には近寄ろうとしない。
「逆に言えば、トラスケも部屋の中には入っていない、と言う事でもあるね」
 イズルが言った。
「トラスケがどれだけ賢いかはわからないけど、そこは猫だから、ねこ殿の呼び出した猫と同様に、本能的に猫又に怯えて避けている、と予測できる」
「なるほどねぇ。と言う事は、ボク達が猫又に惑わされなければ、トラスケを見つけるのも少しは楽になる、って事かな?」
 みゃーこの言葉に、ねこが、みゃー、と頷いた。
「きっと怖いだろうし、早く見つけてあげないとね」
 ねこの言葉に、一同は頷く。猫又の鳴き声を避けながら、先に進んでいく。行き止まりの、猫又の声のしない扉を開けて中に入れば、特異運命座標たちの背後で勝手に扉が閉まってしまった。扉が開いているか否かでトラスケの行く先を探るのは難しそうだ。となれば、あとは、自分の足での調査と、みゃーこやねこの、猫の勘次第、と言う事になるだろうか。
「猫は、高い所に逃げます」
 ハルツフィーネが、ぴょっ、と背伸びをしながら、箪笥の上などを覗き込む。届かなかったので、クマさんを持ち上げて覗いてもらったりした。
「……いませんでした」
「でも、確かに高い所は安心するから、探し方は正しいよ……」
 ねこがそう言った瞬間! ばたん、と大きな音が外から響いた! それからどたどたと言う音が聞こえて、フーッ、と言う、猫が敵を威嚇する声が聞こえる!
「……! 猫又かい?」
 イズルが尋ねるのへ、みゃーこが頭を振った。
「違うね、本物の猫だよ!」
 途端、特異運命座標たちは、ふすまを開けて一気に部屋から飛び出した。その先には広い座敷が広がっていて、かもいのわずかな隙間に爪をひっかけて、足元を這う大きな、けだもののような猫又たちと対峙する、茶トラの猫の姿があった。
「トラスケくんだ!」
 みゃーこが声をあげるのへ、真っ先に動いたのはイズルだ。
「引き離そう!」
 ぱちん、と指を鳴らすと第二のスキルが発動し、畳から無数の鎖の様なエフェクトが発現、鋭い鞭のようにしなって、猫又たちを打ち据え、縛り上げる! 部屋を揺らす衝撃に、トラスケが鴨居から落下したが、それを受け止めたのは、ハルツフィーネのクマのぬいぐるみだ。
「大丈夫ですか?」
 トラスケは目をまん丸くしたが、しかし此方に敵意が無いのを本能的に察したのだろう、身を丸めた。ハルツフィーネがクマからトラスケを受け取って、優しく抱き留めると、
「クマさん、やりましょう」
 と、宣言。クマさんは両手をあげて、がおー、と吠えるや、衝撃が猫又たちを打ち貫く。びりびりと身体を叩く痛みに、一体の猫又が悲鳴を上げて逃げ出したが、残る3体の猫又たちはクマさん目がけて攻撃を開始。鋭い爪がクマさんを切り裂き、痛みがハルツフィーネへと伝播する。
「ごめんね。救出の邪魔、しないで……!」
 ねこがするどくねこぱんちを猫又に打ち込む。ぽこん、とかわいらしい猫パンチのエフェクトが踊り、叩かれた猫又はぎにゃあ、と悲鳴を上げて逃走。残る二体の猫又のうち、一体にみゃーこが、
「にゃにゃにゃにゃにゃ!」
 鋭いひっかき攻撃を加えた。顔面を傷だらけにした猫又が鳴きながら逃げ出すのへ、形勢不利を悟った残りの猫又も、後を追うように逃げ出していった。
「大丈夫? トラスケくん」
 みゃーこが言うのへ、トラスケはにゃあ、と鳴いた。
「どうやら無事のようだね」
 イズルが言う。
「初めまして、みゃー。僕達は、君達を助けに来たんだよ」
 ねこの言葉に、トラスケはくしくしと顔を洗った。意思は伝わっただろう。
「向こうの班に、状況は伝えておきますね」
 胸に抱くふかふかの猫の感覚に幸福感を抱きつつ、ハルツフィーネは別チームに預けたクマさんに合図をさせた。

●少年探偵団、救出す
「ハァッ!!」
 ストームナイトが剣を振り下ろす。それを受け止めようとした落ち武者の霊は刀を掲げるが、その刀ごとストームナイトの大剣に両断され、データの粒子となって消滅する。
「よーし、全員、射線から逃げるのじゃ!」
 と、天狐が声をあげ、リヤカーから大砲を出現させた。そのまま耳をふさぐと同時に、大砲から発射された砲弾が、火の玉と女の霊をまとめてフッ飛ばした。霊が消滅する後には、うどんがころり、とポップして湯気を立てる。
「へぇ、これだけ派手にやっても、壁に傷はつかないんですねぇ」
 アレキサンドライトがそう言った。先ほど、アレキサンドライトの爆弾で派手に攻撃を仕掛けもしたが、しかし辺りが崩壊するようなそぶりは見えない。夜妖の結界と言う事なのか、ゲームとしての都合なのか。何にしても、それがデメリットとなることはあるまい。
「向こうのチームは、トラスケを見つけたみたいですね?」
 アレキサンドライトの言葉に、タントが抱えたクマがこくこくと頷いた。
「ええ。一応、こちらへの合流を目指してくれているみたいだけれどぉ……」
「ま、合流するだけなら大丈夫じゃろ。向こうも目印を残してくれたようじゃし、こっちもうどんを置いておいた。
 まさにヘンゼルとグレーテルじゃな!」
 と、天狐が胸を張る。言われてみれば、敵を倒した後にポップしたうどんを、道に残している。幽霊が食べたとかでもなければ、消えることは無いだろう。
「随分と醤油とかつお節の香るヘンゼルとグレーテルだ」
 苦笑するストームナイト。
「さておき、トラスケが見つかったのは良い報告だわぁ。此方も頑張らないと、ね?」
 タントの言葉に、アレキサンドライトが頷く。
「あくまでクエストの達成条件は子供達ですからね。こっちがミスったら洒落にならない」
「うむ。では、エコーロケーションで先を探るぞ!」
 むむむ、と唸りつつ、天狐は両手をこめかみへ。音の反響を頼りに、先を探る。
「おお、おお……? 感あり、じゃ! この廊下の先に四名……じゃが、他にも数がおる……いかん、速く合流せねば、子供達がバラバラに逃げ出してしまうかもしれんぞ!」
 天狐の言葉に、仲間達は頷いた。間髪入れず一気に走り出す。前方、確かに四名の少年少女の姿があった。此方を見て、目を丸くしている――だが、特異運命座標たちは見た! 彼らの背後に、落ち武者たちが迫りくるのを! ストームナイトは刃を抜き放ち駆け抜ける! 一閃! 子供達の背後で、剣閃が落ち武者たちを切り裂く!
「勇敢なる少年少女たちよ! 己が使命を果たさんがため、よくぞここまで歩を進めた! このストームナイト、その勇気に感服した!!」
 子供達へと視線を向けて、ふ、と微笑う。
「だが、長時間の捜査で体力も限界であろう。どうか我らに、貴殿らの手伝いをさせてはもらいたい――タント殿!」
「はぁい、まかせてぇ?」
 ふわり、とかがやくタントが子供達を庇うように立つ。
「おねえさん……?」
 短髪がそう言うのへ、タントはウインク。
「あなたがリーダーね? ちゃんと他の子を見てあげるのよ?」
 いうや、現れた女の霊に向けて、手を突き出した。その指先から迸る雷! きらめきの雷光が女幽霊を穿ち、激しい明滅の下に消滅させる!
「子供達は確保しました! もう遠慮なく爆弾で爆破して吹き飛ばしてやんのです!!
 どんな相手であろうと、俺の爆弾には防御は効きませんから!」
 叫びアレキサンドライトが放り投げる爆弾が、怨嗟の声をあげながら爆発! 爆風が廊下を揺るがし、夜妖を怯ませた。
「よぉし、特別じゃ! 屋台に座るが良い、子供達よ! 撤退するぞ!」
「や、屋台?」
「ほんとだ、うどんの屋台です!」
 お嬢が声をあげて、メガネが叫ぶ。太っちょはどん、と乗り込むと、
「な、何かわかんないけどお願いします!」
 叫ぶのへ、天狐は力強く頷いた。
「しんがりは私が引き受けよう! タント殿、ハルツフィーネ殿に撤退の合図を! アレキサンドライト殿、援護を頼む!」
「了解よぉ!」
「OKです!」
 タントが抱きかかえていたクマのぬいぐるみに声をかけ、アレキサンドライトが爆弾を構える。ストームナイトが落ち武者に斬りかかり、後方へと飛びずさった刹那、アレキサンドライトの爆弾がさく裂! 廊下を激しく揺るがした!
 そのタイミングで、天狐は屋台を引いて走り出す! 続くタント、アレキサンドライト、ストームナイト!
「う、うどんが落ちてる……?」
 短髪が道を見ながら呟くのへ、
「うむ! 目印においておったのじゃ! これなら迷うことなく帰れるぞ!」
 天狐が言う。その通りに、一同は迷うことなく、入り口へと変えることができたのだ。
「みんな、だいじょうぶ……!?」
 入り口では、今まさに到着したばかりのねこたちがいて、声をかけてくれた。
「トラスケ! 見つけてくれたの!?」
 ハルツフィーネの胸に抱かれたトラ猫を見て、お嬢が声をあげた。
「はい。もう大丈夫ですよ」
 ハルツフィーネがそう言うのへ、みゃーこが続く。
「そちらも怪我は無いね? よかった。さぁ、さっさと脱出しよう!」
「さあ、こっちだ!」
 イズルの言葉に、皆が頷いた。
 果たして、一同は旧学校の入り口から脱出する。外はすっかりと暗くなっていて、月があたりを照らしている。
 慌てて門扉から飛び出すと、夏の温い空気が一同を迎えてくれた。
 そしてインターフェースには、派手に『クエストクリア』の文字が踊っていた――。

成否

成功

MVP

天狐(p3x009798)
うどんの神

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 皆様のご活躍により、少年探偵団とトラスケは無事に救出されました!

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