シナリオ詳細
狙われた鋼鉄探偵と陰謀の町
オープニング
●
「ほう、これは事件だね」
「あ、あなたは!」
\鋼鉄探偵ヴィクトリア!/
現場の血だまりには、一人の男が倒れていた。
「いかにも。鋼の頭脳は難問奇問もお見通し。このヴィクトリアが早速推理しようじゃないか。衣類を見るに、遺体は当局の捜査官で間違いないね」
「――」
「そして血塗れのナイフを握りしめている君。君も当局の捜査官のようだが、事情は説明出来るかい?」
パイプを突き出し、ヴィクトリアが問いただす。
「なるほど、噂通りの頭脳というわけだ」
ナイフの男――サムイルが口角をつり上げた。
「ふふん、それで。申し開きはあるかな?」
述べたヴィクトリアが胸を張ると、捜査官達の視線がサムイルに集中する。
サムイルは自身ありげに両手を広げると、ゆっくりと話始めた。
「鋼鉄探偵ヴィクトリアは、怨恨の末に被害者モロゾフを殺害。現場に到着した私ことサムイル捜査官に血塗れのナイフを手渡し、犯人に仕立て上げようとした」
「――なっ!? 何を言い出すんだ。そんな理屈が通ると思うのか!?」
ヴィクトリアが目を見開く。
「仮にも当局捜査官達の前だぞ!? 諸君は彼の言い分に納得出来るのか?」
問いただすヴィクトリアに、捜査官達は目を伏せた。
「ヴィクトリア君。君はいささかやりすぎたのだよ。殺人事件を解決してみせ、ギャングとの繋がりを暴き、更には――当課の裏金問題をも嗅ぎつけた」
「な、この課は裏金を作っていたのか!?」
「ふっ、ご名答。さすがは鋼鉄探偵」
「なるほど、また私の頭脳が冴え渡ってしまったようだね。さしずめ被害者のモロゾフは裏金に気付いたんだろう。組織の裏切り者を排除したという訳か」
「ふん。だが今日、今ここで事実は塗り変わる」
サムイルはフィンガースナップを打ち、表情をどす黒く歪めた。
「鋼鉄探偵ヴィクトリア、君を殺人の容疑で逮捕する」
「――」
「連れて行け」
――
――――さて困った。
さすがの鋼鉄探偵と言えども、鉄の牢獄からは脱出出来そうにはない。
「だがね、この鋼の頭脳にかかればお茶の子さいさい。これをこうして――」
ヴィクトリアは靴に仕込んでいたペンと紙に依頼書をしたため、紙飛行機を折った。
小さな窓からすいと空を飛んだ紙飛行機は、道行くおっさんの後頭部を直撃し、キレたおっさんはそれをぐしゃぐしゃに丸めてゴミ箱に放る。ゴミ集めの蒸気車の収集屋がゴミ箱を担ぎ上げ、丸めた紙が転げ落ちた。巣作りする鳥がいくつかのゴミと共に拾い上げ、大空へ羽ばたく。
鳥の足から落ちた紙はローレット鉄帝国支部の窓硝子にぽこんと当たった。
「……計画通り! さてさて。ふふ、ならば反撃の狼煙をあげようじゃないか!」
●
「まさか、ヴィクトリアからの依頼ですの!?」
なんということだろう。『鋼鉄探偵の助手』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)が素っ頓狂な声で驚いた。
なんと鋼鉄探偵が無実の罪で捉えられたというではないか。
鋼鉄探偵ヴィクトリアは、鉄帝国の様々な町に現れては、事件を解決していくという謎の探偵である。
事件は紆余曲折を経てなぜかローレットに依頼されることになり、イレギュラーズはヴィクトリアと共に事件を華麗に解決するという訳だ。
謎を解いているのはいつもだいたいローレットの情報屋とか、そんな訳ないんだからね!
ローレットの情報屋によると、犯人は捜査当局のサムイルという男らしい。
裏金問題に気付いた部下モロゾフ捜査官を殺害、その罪をたまたま現れたヴィクトリアになすりつけたということだ。敏腕な情報屋は既に裏帳簿を入手しているという。
イレギュラーズは当局の建物に乗り込み、ヴィクトリアを救出の後、サムイル一派をボコり、その場に駆けつけるであろう別課の当局担当者に書類と共に引き渡せば良いということになっている。
「これは、どうにかして差し上げないといけませんわ!?」
問題は――サムイルは証拠の揃った裏金までは認めても、モロゾフ殺害の罪まで認めるかということだ。
単に裏帳簿を突きつけても、殺害のほうでしらをきられれば駄目なのだ。
「助手の頭脳が試される時が来ましたわね!」
- 狙われた鋼鉄探偵と陰謀の町完了
- GM名桜田ポーチュラカ
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年07月31日 22時06分
- 参加人数8/8人
- 相談5日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●
ザッザッと靴音を鳴らし、八人のイレギュラーズが当局の建物――三階建てのレトロなビルディングの正面玄関入口に並んだ。
「鋼鉄探偵……よくわからないけれど大変だってことは分かったわ!」
ぐっと拳を握り込んだ『黒靴のバレリーヌ』ヴィリス(p3p009671)は一歩前に出る。
「任せて頂戴! ぱぱっと救ってみせるわ!」
その手をばっと開いた宣言は当局の建物の壁に反響した。
一歩下がったヴィリスの代わりに前に出たのは『特異運命座標』白妙姫(p3p009627)である。
「探偵が無実の罪でとらわれた、とな」
ふうむと顎に手を当て頷いてみせる白妙姫。
「そ奴を救い出してやればよいのじゃな? よし、任せい!」
胸を張り、ドンと手を翳す。
「ひとまずやることはわかっておるし、ずいぶん前のめりな面子がそろったものよ。
となれば――短期決着。これに尽きる!!!!」
白妙姫の声がレトロなヴィルディングの壁にわんわんと響いた。
「鋼鉄探偵ヴィクトリア!」
くうっと『無敵鉄板暴牛』リュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガー(p3p000371)が唇を噛みしめる。
「どうしてこんな事に!」
ああ嘆かわしいとリュカシスは顔を覆う。
「でも! ボク達がウワーッ! と行ってガーッ! とお助けしますから、それまでどうかご無事でいてくださいね!」
最後は顔を上げて真剣な表情で目の前の当局の建物を睨み付けるリュカシス。
作戦はこうだ。
「迅速丁寧早期救出、短期決戦です!
ボクは攻撃が得意だから悪徳汚職捜査官をとにかくたくさん殴るよ!」
リュカシスの力強い笑顔に『業壊掌』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)が隣に並んで肩をぽんと叩く。
「サスガのヴィクトリアも殺人はやってないよね?」
鋼鉄探偵は悪を暴く正義の探偵である。強盗や殺人なんてもってのほか。何たって鋼鉄探偵ヴィクトリアに解決出来ない謎は無いのだから。
「もうちょっと別の犯罪の現行犯ならオシマイだったね!」
仁王立ちで腕組みをするイグナートはウンウンと頷いた。
「ムジツをショウメイ出来るかは汚職警官全員をぶっ飛ばしてから考えればイイよね! そう! ゼシュテルでは細かいことは殴ってから考えればイイんだよ!」
力強さとは正義なのだから。
「待っていて頂戴、ヴィクトリア。必ず冤罪を晴らしてあげますからね!!」
真摯な眼差しで当局の建物を睨み付けるのは『鋼鉄探偵の助手』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)だ。その隣には『鋼鉄探偵の助手の相棒』マリア・レイシス(p3p006685)が居る。
二人は格好よく地面に立っていた。何処からともなく風が吹いてきて服の裾がバタバタ揺れる。
「悪いがヴィクトリア君は返してもらうし、罪を白状してもらう!」
ビシっと指を突き出したマリアは隣のヴァレーリヤに目配せした。
「それにね! きっとヴァリューシャがなんとかしてくれるよ! だから、大丈夫さ!」
「ええ、マリィの言うとおりですわ! 鉄帝国では力こそがすべて! つまり、思い切り殴って……」
そう言いながら実際に頭突きの構えを取るヴァレーリヤ。
そこへ偶然走り込んで来た通行人の頭に直撃して、相手はその場に倒れ込んだ。
「倒れれば、その方が真犯人なのでございますわー!」
ビシっと倒れた通行人に指を突きつけるヴァレーリヤ。
マリアはその後ろから通行人を追いかけてきた別の警官を見つける。
「いやー、助かりました。あの男。ひったくり犯だったんです」
ブンブンと握手をされ、目の前の当局に連れて行かれる通行人もといひったくり犯を見送るヴァレーリヤとマリア。
「すごいよ。ヴァリューシャ! ひったくり犯を掴まえるなんて!」
「この私の頭脳にかかれば、こんなもの朝飯前ですわ!」
その様子を見守っていた『永久の新婚されど母』マグタレーナ・マトカ・マハロヴァ(p3p009452)は優しい微笑みを浮かべる。
「まだお付き合いは短いですが、探偵と助手のコンビの傾向は何となく理解した気がします。二人の両碗でどんな事件も粉砕してしまうかのような。敏腕ならぬ剛腕ですね」
今回の事件。ヴィクトリアが陥れられたのは鋼鉄探偵の名声が高まってきた証なのかもしれないとマグタレーナは少し心配になる。
ここは母という存在としてヴィクトリアやヴァレーリヤを見守るのが勤めであろうと頷き。
「ヴァレーリヤ助手の助手くらいの気持ちで事件解決に臨みたい所存です」
行く末を見守り、時には手を貸そうとマグタレーナは心に誓う。
「私も力業はまあまあ得意ですので」
くすりと微笑んだマグタレーナは隣で怪訝そうな顔をする『あの虹を見よ』美咲・マクスウェル(p3p005192)に気付いた。
「あら、どうされました?」
「いえ。こうなんというか」
マグタレーナの問いかけに「ううん」と頭を抱える美咲。
(今回の経緯といい、予定の解決方法といい。半グレやヤンキーの抗争にしか見えないのだけれど)
「……この国、なんで成り立ってんのかなぁ……」
力強い生き様というか。なんというか。すごいと美咲は感服する。
しかし、事前に作戦らしい作戦の打ち合わせも無かったが。一つ決まっていたのは正面から一気に叩き潰すということだけ。
しかも、今立っている所は当局の建物の正面玄関入口だ。
そして、何故かその前にひったくり犯を掴まえている。
「異論出さなかった身で言えたことではないけど、すげーわみんな」
首をぶんぶんと振った美咲は、とりあえず目の前の当局の建物を睨み付けた。
●飛び込め潜入捜査!
リュカシスは正面玄関入口をドーンと開け放つ。
目立つようにその辺りのドアをバンバンと開けて閉めて存在をアピールした。
何だ何だと集まってくる悪徳汚職捜査官に向かってリュカシスは大声を張り上げる。その辺にあったメガホンでしゃべるものだからギュンギュンした音声が当局の建物の中に響き渡った。
「ローレットです! 悪徳汚職捜査官のみなさん! 悪事はぜーんぶバレておりますので! 両手を頭の上に挙げて投降してください!」
「何だお前は! 業務執行妨害だぞ!」
「大人しくしなさい!」
こちらの様子を伺う捜査官たちに「ちぇっ」とメガホンを足下に放り投げてリュカシスは愛用武器のインビンシブルを取り出す。
「……そんなに簡単に投降してくれないか。それならば全力で参りましょう! 力こそパワー!!」
ドカンドカンとエフェクトがまき散らされリュカシスが捜査官達に飛び込んでいく。
「一網打尽にいたしましょう!」
リュカシスに続くのはイグナートだ。
ドアノブを握りつぶしてドアを蹴破り、中へ突き進んで行く。
「そこまでだ! お前たちのアクジは調査済みだ! 大人しくお縄を頂戴するんだな!」
「何だお前達は!」
襲いかかってきた悪徳汚職捜査官の警棒を瞬間移動のようにスッと交わし、イグナートは横腹に拳をねじ込んだ。男は吹っ飛んで他の捜査官にあたる。
「正義のミカタだよ! 後は流れるように……! ぶん殴るだけ! カンタンだね!」
二段攻撃をぶちかましながら、イグナートは軽やかに飛び上がった。カラカラと転がる拳銃を拾い上げ懐に仕舞うイグナート。
その背後には白妙姫が朧月夜を掲げ、ぶんぶんと振り回していた。
「皆でこれと決めた敵に対し一気に近づき、一人ずつ確実に仕留めるというのが大体の作戦じゃ!」
「なん、だと……お前達、何て賢い作戦を……くそう! だが、俺達も捜査官の端くれ、この頭脳を持ってお前達をとっ捕まえてやる!」
「かかっ! 望む所よ。ほれほれ、この刀が見切れるか? 見切れずにいると首が落ちるぞう!」
目の前を音速で駆け抜ける白妙姫の刀に捜査官は息を飲んだ。
その様子に白妙姫はふむと考えを巡らせる。
「わしはともかく、他の皆は熟練の者じゃろ? ここまでひと塊になるまでもなく、もう少し散開して二、三人で当たった方が早く片付くかもしれぬ。ほれ、攻撃は最大の防御っていうじゃろ? 敵の数が減ればこちらの痛手も減るという寸法よ。ふはは」
「またしても、頭の良い作戦を! だが、俺達だって負けてはいないぞ!」
白妙姫に向かってくる捜査官たちの視界を真っ白な閃光が覆い尽くす。
それは美咲が放った聖なる光。
彼女のやることは実に単純明快で理に適ったものだ。
前衛の後ろから、遮蔽物に隠れて援護射撃を叩き込む。
絶大な威力を誇る白光が捜査官の目を焼き、痛みに悶え苦しむ。しかも、白妙姫が叩きつけた魔性の切っ先を受けた捜査官は恍惚の中で光に灼かれた。
「銃で撃たれるのは好きじゃないからね」
遮蔽物――デスクの影で詠唱を唱える美咲。
「手抜きをするつもりはないけど。万一で、瞬間の切り返しとか必要になるかもだしね」
念には念を入れて作戦に挑むのが美咲の流儀。
そして。捜査官の人数のカウントも忘れてはいない。
「逃がすわけにもいかないし、挟撃とかされてもめんどくさい」
見える範囲で何処かへ向かう敵が居れば、叩き落とすまで。
「ドタバタしてきた気もしますが敵は侮らず退けようと思います」
マグタレーナは味方が攻撃した敵を確実に狙い撃ち沈めていく。
「敵の数も多いですがフィールドも十分広いと言う訳でないので……」
巻き込む恐れのある範囲攻撃は控え、各個撃破に努めるのだ。
「勢いは大事ですが勢い任せて魔砲ぶっ放したとかないようにします」
少しうずうずするが、我慢の時だとマグタレーナは頷く。
「助手の助手はクールに行きましょう。冷却装置も付いてますしね」
あ、しかし。この方向なら打てるのでは? と一瞬考えがよぎるが。
「ええ。まだですね。その時ではありません。こういうのは使い時が肝心ですから」
マグタレーナは耳を澄ませ、仲間の動向を探る。
「あれ、そういえばその助手さんは何処へ行ったのでしょう」
――――
――
「うおー! カチコミだー!!!」
「どっせえーーい!!!!」
バリーンとガラスの割れる音と共に当局の二階の窓ガラスが割れ、ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤが転がり込んでくる。
「な、お前は!? あの酒乱で暴れ倒しあちこちの留置所に入れられているヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤじゃないか!!!!」
ヴァレーリヤはノンノンと指を振り腰に手を当てる。
「やあやあ私こそは、鋭敏な頭脳と寛大な心、そして淑やかな酒癖で有名な鋼鉄探偵の助手のヴァレーリヤでございますわー! 尋常にお縄に付きなさい!」
その後ろからバッとコートを翻したマリアが飛び込んで来てヴァレーリヤの隣に立つ。
「ごきげんよう! 私はヴァリューシャの忠実な助手! 鋼鉄探偵の助手の相棒とは、このマリア・レイシスだ!」
腰に括り付けた紙吹雪が入った袋が破けて、そこから白い紙が風に乗って部屋の中をキラキラ舞った。
そして、挟撃する形でイグナート達が部屋の中に流れ込んでくる。
「これで揃いましたわね!」
「こっちも結構やっつけてきたよ! こっからは皆でファイトだ!」
イグナートの声にイレギュラーズは気合いを入れ直す。
「ローレットの諸君、助けに来てくれたのかい!?」
牢屋の中からヴィクトリアの声がして、其方に振り向くヴァレーリヤ。
「いつまでのんびりしているつもりですの! 頭脳を働かせるべき時間は、もう来ていましてよ!」
「ああ、分かっているとも! だがね、私は嬉しいのだよ。君なら、いや……君達なら必ず来てくれると信じて居た」
ヴィクトリアは感動のあまり少し涙を浮かべる。
突然のヴァレーリヤとマリアの窓破りに気を取られた捜査官達の隙を突き、ヴィリスは壁を走りヴィクトリアが捕えられている牢屋に走った。
「な、なにぃ!?」
「必要だったら壁も走っちゃうわ! プリマはこんなこともできるのよ!」
スチャっと牢屋の前に立ったヴィリス。彼女を狙い、捜査官が銃を向ける。
「そうはさせません」
マグタレーナはすっと弓を構え針に糸を通す精密さで捜査官を魔力の奔流で撃ち貫いた。
それは、ヴィリスとヴィクトリアの間を通り当局の牢屋の壁を灼く。
「ヒェ! ま、マグタレーナ! 私に当たる所だったじゃないかね! 感動の再会の涙も引っ込んでしまったのだよ」
「いえ大丈夫ですよ。ヴィクトリアさんの声とか動作とかよく音が響くので。わたくしの鋼鉄の耳。ではなくて聴力に掛れば位置はばっちり狙いは外しません。ちょっと格子の間とか通っても絶対大丈夫ですよ」
優しい微笑みを浮かべたマグタレーナはヴィリスに視線を送る。
この隙にヴィクトリアを助け出す作戦を瞬時に読み取るヴィリス。
「さぁ、出番よ鋼鉄探偵さん。これで終わる貴女じゃないでしょう? 貴女のことは、よく知らないのだけれど、役者が揃っていないのに舞台が進むのはよくないわよね!」
ガキンと牢屋の鍵を壊したヴィリスはヴィクトリアに手を差し伸べる。
「ヴィクトリアも戦いなさいよ! ほら! 今必要なのは頭脳じゃなくて頭数よ!」
「ううむ。仕方ない」
困った顔をするヴィクトリアの前に銃がくるくると滑り込んできた。
「オレたち大体前に出るからソレで援護をヨロシク! 誤射はカンベンしてね!」
イグナートが拾っておいた銃をヴィクトリアに寄越したのだ。
「ヴァリューシャ! 気を付けてねー!」
悪徳捜査官の胸ぐらを掴んで拳を叩き込んだマリアはヴァレーリヤに笑顔を向けた。
「私に叡智は無いがMアタはある! APを0にされたくなければ吐くんだ!!!」
APが0になった瞬間の事を考えると悪徳捜査官は震え上がるばかりである。
頭で考えるまでもなく、きっと猛虎の勢いで自分が倒れる未来が見えるからだ。
「う、ウワァ!!!!」
「力こそパワー! パワーこそ知恵なのだ! いっくよーー!」
「それでこそ、マリィですわ。私も負けてられませんわね。……どっせえーい!!!!」
マリアとヴァレーリヤのコンビネーションが炸裂する。
「さあ、サムイル覚悟するのじゃ!」
白妙姫が刀を突きつけ、サムイルを追い立てる。
「あら、どこへお出かけするつもりですの?」
「逃がしませんよ」
ヴァレーリヤとマグタレーナがサムイルの退路を塞ぎ、白妙姫の剣が翻った。
美咲の聖なる輝きが室内を包み込み、視界が晴れた時にはサムイルは気絶し床に横たわっていた。
●
「凶器のナイフの指紋を調べればハンニンは分かるんじゃない? 見ての通りヴィクトリアは手袋とかはしてないよね。じゃあ、現行犯で捕まった事件の凶器には指紋が残ってるハズ」
イグナートの推理に誰もが頷く。
「場当たりな犯行だし捜査官の周りを探せば返り血の付いたフクとかも出てくるんじゃないかな?」
「確かに。流石はローレットのイレギュラーズだね!」
「そうだよ。ヴィクトリア様が怨恨の末にモロゾフ氏を殺害するなんてあり得ないよ! だってお二人は面識がないもの。怨恨を抱きようがありません!」
リュカシスは虚空を見つめ何かと交信している様子を見せる。
「……エッ、ホントですか?! サムイル許せん、償わなければ末代まで呪う? うんうん、その意気です! どんどん呪いましょう! ネ! モロゾフ氏!」
「ひい!」
「現場に到着したお主に血まみれの短剣を手渡して犯人に仕立て上げようとした――じゃと?
たわけめ、そんな話が通じるか! 口封じであることが自明のお主らと、面識すらなさげなヴィクトリアでは比べるべくもないわ!」
白妙姫はカッと目を見開き、刀を床に突き刺す。
「何かやりようの準備ある? とりあえず何回分か殺してみる?」
美咲は不殺技をサムイルに打ち込み、回復を施し、また打ち込むのを繰り返す。
「どうせこいつら、誰かに似たようなことしてるんでしょ?」
やられる想定せずに生きてるはずはないと美咲はサムイルが震え上がるのも構わず攻撃を叩き込んだ。
「わかった! 俺がやったんだ。だから……殺さないでくれ!」
美咲と白妙姫の『説得』でサムイルは罪を自白しヴィクトリアは無事に解放される事となった。
「で、ヴィクトリア。どこまでが計画通りだったのかしら? まさか全部ってわけはないわよね」
ヴィリスの問いかけに腰に手を当てたヴィクトリアが得意げに頷く。
「ふっふっふ……いやいや。全てはこの私の計画通りさ。けれど、君達のお陰で助かった。礼を言うよローレットの諸君」
ヴィクトリアはイレギュラーズに振り返り、ぺこりとお辞儀をした。
「また何かあったら呼んで頂戴ね、鋼鉄探偵さん。プリマはいつだってお手伝いするわ」
「ふう、災難でしたわね。でもこの危機を切り抜けるだなんて、流石は鋼鉄探偵でございますわー!」
「ふふ! 流石はヴァリューシャだね! ヴィクトリア君も無実を晴らせて良かった!」
無事を祝い、ヴァレーリヤとマリアは鋼鉄探偵を胴上げする。
「わっしょい、わっしょい!」
「ふははは! よいよい!」
「「あ……!」」
無事に解放されて気分揚々なヴィクトリアの身体がつるりと滑って地面に落ちた。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
イレギュラーズの皆さん、お疲れ様でした。
楽しんで頂けたら幸いです。
MVPは名助手だった方にお送りします。
それでは、またのご縁をお待ちしております。
GMコメント
桜田ポーチュラカです。
サムイル、なんて悪いやつなんだ。
頂いたアフターアクションを元にしたシナリオです。
■依頼達成条件
当局を襲撃し、サムイル一派をこてんぱんにする。
ヴィクトリアが捉えられている牢を破壊する。
現れる当局の別の人にサムイルを突き出す。
■フィールド
当局の建物です。三階建てのレトロなビルディング。
二階にサムイルの部署と、近くにヴィクトリアが捉えられた牢屋があります。
ずんずん乗り込んで、気にせず大暴れしましょう。
こういうのは勢いが大事です。鉄帝国だから!
■敵
サムイル一派です。汚職捜査官。
『サムイル』
警棒や銃で攻撃してきます。
ボコって殺害の罪を自白させましょう。
鉄帝国の捜査官なので、思ったよりは強そうです。
『汚職捜査官』×12
警棒や銃で攻撃してきます。
サムイルの罪を知る者達です。ボコってサムイルの罪を認めさせましょう。
鉄帝国の捜査官なので、思ったよりは強そうです。
■救出対象NPC
『鋼鉄探偵』ヴィクトリア・ラズベリーベル(p3n000219)
近接格闘術とピストルで戦うことが出来ます。
「ふっふっふ。この私の頭脳が、必要とされているようだね」
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
サムイルが罪を認めるか不明なためです!
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