シナリオ詳細
<現想ノ夜妖>蒸気ノ羽音
オープニング
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R.O.Oが世界、東の果てに光神(ヒイズル)なる国あり――
かの国は現実における神威神楽。しかし内実は異なる様相。
神威神楽は独特なる文化……旅人の誰かは『和』の国とも呼ぶ雰囲気であったが。
光神に流れる『時』は、あまりにも針が進んでいた。
煉瓦を用いられた建築物。灯りには街灯が用いられ、夜でも輝かんばかりの日々。
時代の流れが大きく飛んだかの国を――誰ぞは『大正ロマン』などと呼んだか。
――その、一角。
帝都高天京には鉄道も通っていた。
蒸気の機関車。もはや馬を必要とせぬ技術は、おかしな流れが発生しているこの大正――否。諦星(たいしょう)と呼ばれる時代を象徴する物の一つだろうか。準備の整った壱台が唸りを挙げてその身を動かし始める。
乗るは幾ばくかの乗客達。行く末は果たして何処の地へか。
「おっかぁ、おらもう眠いだ……」
「ほいほい。眠ってる間に着くじゃろうけぇ、眠っときな」
座席の一つに座るのは親子連れか――窓の外を見れば既に暗くなっており、なるほど子供が眠くなるのも納得だ。瞼が半開きになっている我が子の背中を寄せながら母親は一息着いて。
さすれば微かな揺れが座席に座る者達の身を揺らし――と、その時。
「むっ……なんだ?」
別の誰かが異変を感じる。その者も見るは同じく窓の外……だが。
そこから見える景色は『漆黒』に覆われていた。
夜だから――ではない。それにしても暗すぎる、いや『黒』すぎるのだ。
星はおろか微かな景色すら見えぬ。
まるで窓に何か張り付いている様な、と思えば。
「ひ、ひぃ――! なんだ、目が、ァッ!」
突如。その漆黒の中に無数の『目』が出でた。
まるでこちらを覗くかのように。車両の中にいる者らを――
籠の中に入っている『餌』であるかのように。
「……んっ? おっかぁ、もう着いただ?」
生じる騒ぎ。さすれば瞼を瞑っていた子が寝ぼけ眼を手で擦り。
――同時、窓が突き破られる音がした。
直後に響く悲鳴が――何もかもを包んで――
●
「――この後機関車は大事故を起こし乗客は全て死亡……
それがこの先――未来で起こり得る出来事です」
言うは月ヶ瀬 庚(p3n000221)だ――彼は豊穣郷カムイグラが八扇『中務省』の内でも『陰陽寮』に属する長である。この世界……ネクストにおいては『高天京壱号映画館』の館長という立場にもある。
そんな彼は一つの道具を開発した。
それが――渾天儀【星読幻灯機】(ほしよみキネマ)。
星天情報を高度に読み込む事によって事象の予測を可能に……端的に言うと『未来予知』の様な事を可能としたのだ。そういった事が実現できたのもR.O.O故もあったのかもしれないが、ともあれ。
今宵もまたそのカラクリ装置に一つの未来が予知された。
この先。今にも動き出さんとしている機関車が『何者』かにより襲われるという事件を。
「襲撃者は夜妖――ええ。再現性東京なる地にて呼ばれている魔の総称ですよ。
神光の地では……いえ、この帝都では現れし魔をそう呼んでいるのだとか」
何故なのか。練達の知識が流れ込んできたのか――それとも何か別の――
今の所詳細は分かっていない。
が、練達のオーダーであるR.O.Oに参席し数々のイベントをクリアしてほしいという要請は健在だ。ならば神光の地に生じているこの違和に乗るのはイレギュラーズにとってもやぶさかではない。
――誰も。何も介入しなければ星読幻灯機通りの未来が訪れよう。
阻止するのだ。
この星読幻灯機は恐らく『その為』にあり……『そういうイベント』であるならば。
「という訳で至急現地に向かいましょう。
今すぐ向かえば車両出発のタイミングに辛うじて間に合うはずです。
――その後は前方から襲い来る夜妖を撃滅して下さい」
「そいつは一体何なんだ? 特徴と言うか……」
「さて。元々はこの辺りを根城にしていた土地の霊が暴走でもしたか……
いずれにせよ人に対して敵意を抱いているのは確かな様です」
奴は薄暗き時の狭間にだけ現れる。
光に寄せられる様に機関車へと。まるで霧の様に、或いは布の様に纏わりつき。
そして無数の眼にて人を見据えるのだ。
それはまるで妖怪――『目目連』の様に。
奴の羽音を近づけてはならぬ。
人の命の灯に寄りつく邪悪な羽虫は――潰さねばならぬのだ。
- <現想ノ夜妖>蒸気ノ羽音完了
- GM名茶零四
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年07月30日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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蒸気機関車――それは凡そ19世紀から20世紀初頭にかけた鉄道技術。
「ゆっくりと見るのは初めての様な気もしますが機関車……なるほど、これが……」
その中。穏やかな揺れを感じているのはシャスティア(p3x000397)だ。
遠い昔の、朧げの中に見覚えがある様な――
鉄の塊にして人々を運ぶ夢の乗り物。意外と懐かしく感じるものだが、さて。
「火事だー! みんな、前の車両に逃げて! 煙が出てるよ、早く!!」
「火事!? 火事だ! うわわわ! みんな逃げて、前の車両に逃げてー!!」
過去を見据える瞳は現へと揺り戻し、来る夜妖の対処へと赴こう。
シャスティアが後方の警戒の為に最後尾車両の屋根へと上がらん――同時に車両の中からけたたましく響く声は『サクラのアバター』桜(p3x005004)と『人型戦車』WYA7371(p3x007371)のものだ。
WYA7371の姿はいつもの機体より降りた、中のパイロットのアバターとして。
こちらの方が人であり、話が通じやすいだろうと――
無論、ただ言の葉を述べるだけでは真実かと信じてはもらえないだろう。これよりこの場は戦場となる。故に一般人は前の方へと避難して頂こう、と思っても『彼ら』にとっては知らぬ未来の事だから――
しかし。
「……さて。これで疑似的に視えればいいけれど、ね」
後方に生じている何か『煙』の様なモノが視えれば人の心に火事を想起させるものだ。
それは姿を消している『陰』ジャック翁(p3x001649)の気配を絶つ術の副産物と呼べるもの。霧が出てしまう為に接近を感知させてしまう――ものだが。それを逆手にとってまるで煙の様に演出している訳だ。
無論、それはあくまで霧……視る者が冷静に見れば火事の煙ではないと分かろう。
が。囃し立てる者がいて。車両にいる者自体、戦闘の心得もない一般人。
齎される焦りが判断能力を打ち消し――人々を前の車両へと駆り立たせる――
「皆さん、落ち着いて先頭の車両へ向かって下さい――此方へ。さぁどうぞ」
「火事だ! 最後尾の車両で火事だ! 乗客の皆さんは前方の車両へ避難を!
大丈夫! 先頭まで行けば安全ですよ――ですのですぐにここから離れて!」
さすれば『月下美人』沙月(p3x007273)が避難の誘導をし『ただの』梨尾(p3x000561)の咆哮が如き大声が次の車両の者達にも声を届かせる。
――途中。避難を始める親子の姿を梨尾は見た。
「おっかぁ、どうしただ? 前へ行くだ?」
「大丈夫やけねぇ。さぁ行くよ」
これから旅行か、お家への帰り道か……
ほほえましいその光景は本来失われる筈であったもの。キネマが映した本来の光景。
――乗客達が良い思い出を残せるように頑張らなければと奮起するものだ。
夜妖如きに、彼らの命を奪わせてなるものか!
「ほらほら、なんや起こってるみたいやからはよにげぇや。
じゃないと。もうすぐこわーい鬼さんがやってきてしまうで?」
同時。これまた避難の声かけに努める『31勝44敗11分』入江・星(p3x008000)は、ふと『嫌な気配』をどことなく感じていた。
その気配はこの車両に迫っている気がする――情報にあった夜妖だろうか。
WYA7371も情報に在った夜妖らしき存在の感知……急速に、この車両へと近づく存在を感知している。鳥や馬の類ではない。かなり高速でこちらへと近づいてきている――
「化け物です、ね」
見据えるは車両の窓。近いのであれば避難ばかり行っている訳にもいかない。
故に――皆動く。
奴めを迎撃する為に。少なくとも最後尾の車両からは一般人の姿はなくなっている。この状況さえ作れてしまえば、最低限安全に戦闘を繰り広げる事が出来る空間は完成したと言えよう。
「――来ましたね」
そして『人形遣い』イデア(p3x008017)は見た。
列車の窓より屋根へと至り、夜の世界を見据える彼女の視界に映る――妖しき影。
恐ろしい速度でこちらへと迫ってきている悪意の塊。
「されど、事前の準備はメイドの嗜み。
お客様をお迎えする事に抜かりはありません――さぁ、いつでもどうぞ」
振るった腕。その指先より放たれた糸が、彼女の身を弾き飛ばされぬ様に固定して。
強風感じる中、夜妖を迎え撃たんと――一撃を放つのであった。
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イレギュラーズ達の撃を受けながらも夜妖は止まらぬ。
むしろ列車に取りつかんと速度を上げている様にも感じる程だ――梨尾が己が身を煌めかせ、視界を確保せんとすれば成程。やはり情報に在った通り無数の目が此方を向いていて。
「我を見よ夜妖よ! この火が我が命の灯! この発光が文明の光だ!!
お前が憎み、怒り、滅ぼしたい源の一端が此処に在るぞ――来いッ!!」
そのまま彼は奴の注意を引き付けんと錨の形をした焔を放つ。
その灯が奴の目に留まる様に。わざと目立つように声も掛けながら放ちて往こう。
「喰らえるものなら喰らって見せろ!!
此方が勝てばその目を集めて眼科医に売り飛ばしてくれる!!」
眼科医が『ご勘弁を!』と言いそうな気もするが、まぁ事実も言葉が通じるかはどうでもいいのだ。要はこちらがお前に『敵意』を持っているのだと――示してやる。
さすれば向こうの目が血走ったかのような、視線の集中を見せて。
――同時に放つは影の収束、からの槍が如き一閃。
鋭き一閃が梨尾の身を掠め、しかし。
「ただの一人も犠牲にはさせないよ! どんな理由があるか知らないけれど……
奪っていい命なんてこの世にはないんだ!」
その影を斬り穿つのは桜だ。
この夜妖を見逃せばこの先に避難した者達全員が死ぬ――
この世界にいるのはあくまでもNPC。作り出された命……だが、接していれば彼らとて普通の人間と何の変わりがあろうかと思うものだ。それに、プレイヤーと言える己らは死んでも戻る事が出来るが、彼らは違う。
命は一つ。それが彼らにとっての絶対。
「ええ。人を襲う理由は分かりませんが誰かに害をなすというのなら私たちがすべきことは一つです。奴めを排し、この運航を滞りなく目的へと誘いましょう」
「Step on it. 長引かせる理由もなし。さっさと終わらせましょう」
次いで再び放たれる影からの一閃。イデアが狭き屋根の上で、糸を操りながら落ちぬ様に立ち回りつつ夜妖へと紡ぐは黒き騎士たる人形だ。精強なる者の一閃が夜妖を叩き斬る様に――さすればWYA7371も続くもの。
避難指示の終わった彼女は機体へ乗り込み奴めを討つのだ。
――駆動音が鳴り響き立ち上がる二足歩行戦車。
各部と瞳が刹那に黄金色の煌めきを見せればそれは起動の証。
直後よりフルブーストだ。背に浮かぶ機装・砲装を全面展開、狙い定める敵の影を見据えて穿ちて近づかせん。その身を、その魂を――ここで制圧する。
『――■■■!!』
人でなき。声でなき声を夜妖は天へと轟かせ。
されど痛みを感じているのか否か――更に列車へと速度を挙げた。
その瞳には闘志が。殺意だけが浮かんでいる。
邪魔立てする者は全て潰してくれるとばかりに、衝撃と共に接触すれ、ば。
「ふむ……これはこれは。確かに影のようなもの……『目目連』と仰いましたか? 東洋……日本にはこのような妖異に似たものも居るのですね」
「私が知る限り目目連とは家屋に出現する様な逸話だった気がしますが、まぁあくまでも個体名と言った所なのでしょうかね」
迎撃の構えを見せるのはシャスティアと沙月だ。常に低空ながら飛行の力を見せているシャスティアは衝突による揺れが生じようとも問題なく、沙月もまた優れた平衡感覚が被害を最小に抑えて――奴へと態勢を瞬時に立て直す。
そして狙うのは目だ。そこら中に無数にあるのだから試してみたくなるものだと。
シャスティアは漂う雑霊を淡く輝く光の蝶に変性させ――指先で弾く。
さすれば光の蝶へと変じ、舞う。目に触れればそこより呪いを齎し激痛を与えよう――
魂喰らい。その一閃に続き踏み込む沙月は流れる様な動きから目につく目玉を手刀にて。
――穿つ。
手の届く限りの範囲を。貫き潰して奴の視界を、世界を奪わん。
一、二、三、四の五・六・七――激しくなる夜妖の雄たけびは、効いている証か? と。
「むっ――まずい。車両の潰しに掛かってきたか」
瞬間。気付いたのは取りついた夜妖に距離を詰めて撃を放っていたジャック翁だ。
車両の各地から金属の悲鳴が聞こえてくる――そうは保たないかもしれない。
ギリギリまで総員で奴を攻撃し続ける、が。このまま留まれば潰されるのみ……その前に。
「一個車両を移るとしよかぁ……! これ、外せるんかいな? 試してみよか!」
入江・星が最後尾車両を切り離せぬか思考を高速で巡らせる。
少しでも時間を稼ぐ事が出来れば御の字と。見れば非常に硬く、連結されている様だ。事故を防ぐためにもそう容易く人の手で取り外せぬ様になっているようだろう――しかし。
「複数人で掛かればいけそうや……! 誰か手伝ってくれんか!」
「では私が。機を合わせ、参りましょう」
入江・星は見た。一人では無理でも、幾人かの力が合わされば――と。
故に馳せ参じたのは沙月だ。他の者が攻撃により夜妖を押さえている内、に。
連結の要となっているであろう箇所に力を籠める。
息を合わせ全力を。さすれば堅いモノが外れる音が、して。
「よし! 後は次の車両に乗り込んで――とぉ!?」
脱出するだけだとなった――その時。
車両を包み込まんとしていた夜妖の影が、入江・星と沙月の足に絡んでいる。
――逃がすものか。
そのような殺意が足の骨を砕かんばかりに込められていれ、ば。
刹那。引っ張られるような感覚と共に――圧し潰される車両の中へと引きずり込まれた。
●
夜妖は激しく追撃を繰り返してきた。
車両を引き離せば一時的に距離が離れるものの――やはりまた追いついてくる。
逃がさない逃がさない死ね死ね死ね。
呪詛の様に絡みつき、奴が滅されるまで……その歩みが止まる事はないのだろう。
圧し潰された車両はもはや見る影もない程の廃棄物とされれ、ば。
「巻き込まれれば死ぬね。でも――だからって退くつもりはないんだよ!!」
それでも桜は一切臆さぬ。最後尾車両が押しつぶされ、次なる車両へと戦いの場に映ってはいるが――この車両もまた押しつぶされそうな気配に満ちていた。
早く次の車両に移らねば己もあのように潰されてしまうかもしれない。
だが自らが一秒でも二秒でも留まれば、車両が再び潰されるのも――それだけ伸びるのだ。
車両内より紡ぐ斬撃が夜妖の身を削り続ける。
やがて至る奴の影が桜の退路を潰し、彼女の身をも巻き込む――が。
「言ったでしょ! 誰も犠牲にしないって!!」
しかし彼女は今際の刹那さえ。
己が身よりも――他者の身の為に踏み留まり続けた。
最後に放つ一閃は強靭にして意志の集合。夜妖の身を削り飛ばして――そして呑み込まれる。
「目玉が弱点であるとは既に周知の事実。無数、或いは無限にあろうと」
全て打ち砕いて見せましょう、と。
続くのはWYA7371だ。背の砲装群より齎される純正の魔力光が数多を貫く。
斉射、掃射、総攻撃。
超密度にして極小単位で目玉を狙うのだ――お前の世界は開かせない。
『■……■■■、■■――!!』
「傷つくたびに吠えて、その都度に流れる血をも厭いませんか」
「やれやれ。これははたして執念と言うべきか、なんなのか……!」
夜妖は追い詰めている。が、尚にもってその勢いは留まらぬと見据えているのはシャスティアと梨尾だ。シャスティアは魔術の神が秘めていた力を顕現し――光の槍を投擲せん。奴めが抱いている闇を祓うように。奴めに纏わりついている深淵を消し飛ばすように。
一体奴のどこからこのような活力が湧いて出てくるのか知らないが――しかし。
梨尾にとっては依然としてこの先に進ませんとする意志に変わりはない!
強靭なる牙を夜妖の身へ突き立てよう。己に引き寄せ、自らを積極的に狙わせるのだ。
例えこの身に死が訪れようとも。
幸か不幸か――この世界ではさしたる問題でもないのだから。
「ほんになぁ。災害を起こすでもなく、その手で人の営みを犯さんとするんなら、もうアンタは神格やない。ただの化生や。星の光もよう届くこんな夜やし――ここで祓ったるわ」
そして死してでも戻ってくるのは入江・星達も同様に、だ。
ぶん殴ってでも止める。天に輝く星の力を身に堕とし。
その手に宿りし呪縛が、狂い落ちた夜妖の身を縛ろう。
一撃に終わらず二でも三でも。このけったいな怪物の動きが止まるまで――
「諦めへんのなら、付きおうたるからな――」
地獄に還るまで。
孤立せぬ様に立ち回りつつ、入江・星は全霊を尽くし続けるものだ。
死んでも戻ってこれるとはいえ、攻撃の手が足りなくなれば車両が潰される速度も加速してしまうから。可能であれば死なないようにするのが一番だと。
それに――奴の咆哮。少しずつ、ではあるが。
「弱っている様にも感じますね」
遂に光明が見え始めたかと再び戦線に戻ってきた沙月が紡ぐものだ。
勢いは、ある。だが最初に相対した時とは些か『異なって』いる様な気もするのだ。
潰す力が。追いすがる力が――ほんの欠片かもしれないが。
亀裂が見え始めた。
「これより先は、多くの命があるのです」
再度、車両を切り離す。今度は奴めに捕まらぬ様に動きながら。
そうして撃を。掌底の構えから影を打ちて、目があれば貫く様に。
踏み込み、鮮やかに。舞うように、踊る様に。
止まらぬ動きは水流の如く。
そこに在るのに捉えきれぬ――水面に映る月の様に。
これ以上は、行かせない。
「貴方がどんな存在で、今どんな想いをしているのか。それは私にはわかりません。
しかし、仮初の現実とはいえ誰かが作りあげたモノを壊させるわけにはいかないのです」
故にイデアも往く。連続的な動きが彼女の身を素早く戦線へと運び、糸繰の術は衰えを見せず。
「なので――ここが貴方の終着駅です」
『――■■!!』
「さようなら、ごきげんよう。
散る化生の残滓は、文明が至るべき地へと縋ってはならないのです」
再び紡ぐ斬撃が――奴の身を切り裂いた。
既に幾度も銃撃を放たれ、斬撃を見舞われ、放たれた打撃が幾つもの目を潰し。
遂に開いている目が、数える程度に。
残る車両は二つ――イレギュラーズ側にも決して余裕がある訳ではない、が。
「鐘の音は聞こえるか? 晩鐘は鳴った――己が宿命を知るが良い」
もはやこれ以上の力は夜妖に無しとジャック翁は見破っていた。
最後の一撃を放つ。車両に最後の力をもって纏わりついている――奴めへと。
衝撃一閃。激しい波が車両を揺らし、そして。
「――落ちる」
同時。駄目押しの一斉掃射を紡ぐWYA7371が見た。
夜妖が、車両を潰す前に――離れてゆく。
それは力を失ったから。もはやへばりつく事も出来なくなり、路肩に落ちる奴の身へ彼女の数撃が放たれれば……跡形もなく影が消し飛ばされるものだ。
――勝利した。残った車両は二つ。
一般人が避難した最後の一つは潰せないものと考えれば危ない所ではあった、が。
「荒御魂よ鎮まりたまへ――ってな。」
しかし確かに狂いし魂は討ち果たし勝ったのだと。
入江・星は夜妖が消滅した方向を見据えながら静かに呟く。
――夜妖。それは本来、再現性東京の地区にて出る筈の怪異の総称。
それがはたしてなぜこの国……光神(ヒイズル)の地に現れたかは知らぬが。
「救うだけだよ。人を害すなら……
例え作られた世界であったとしても。作られた世界の――作られた命だったとしても、ね」
桜は紡ぐ。己らの在り方に違いはないのだと。
――停まる駅が見え始めた。
街の灯り。文明の灯が――無事なる彼らを優しく迎え入れんとしているようだった。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
依頼、お疲れさまでしたイレギュラーズ!
文明が発達したが故にこそ生じる存在もいるのでしょうか……
ともあれ皆さんの活躍のおかげで守られた命が――確かにあったのです。
ありがとうございました!
GMコメント
茶零四です。帝都の一夜、その文明の一端にて。
ご縁があればよろしくお願いします!
●依頼達成条件
目目連の撃破
●フィールド
帝都より始動している機関車『阿号』です。全六両編成。
時刻は夜。周囲は薄暗いでしょう。
全ての車両に少人数ずつですが一般人が乗っています。
屋根に上ったりする事などは可能ですが、戦いの衝撃などで振り落とされない様には気を付けてください。また、車両を切り離すことが出来るのかは不明です――
シナリオ開始後、暫くすると夜妖が接近してきます――撃滅して下さい!
●敵夜妖『目目連』
元々はこの辺りに住まう精霊の様な存在……だったのかもしれません。
文明が進化する程に取り残された過去の残滓とも言うべきでしょうか。
奴の正体のハッキリとしたことは分かりませんが、しかし少なくとも邪悪な存在であるのだけは確かです。人の命の灯を、文明の光に手繰り寄せられ全てを喰らわんとする夜妖です――
シナリオ開始後、暫くすると後方少し横より接近してきます。
その姿は非常に大きな……猪の影の様な、或いは牛の影の様な形です。しかし実際は不定形であり機関車に取りつくと、まるで布の様に己が体を広げて圧し潰さんとしてきます。
また、その体には無数の目を宿しており死角がありません。
ただしこの目を攻撃すると幾らかダメージが上昇するようです。
攻撃方法としては圧迫して潰す以外にも、己が体の一部を刃の様に尖らせる方法もあるようです。これは遠距離にまで到達し、出血系統のBSを付与する事があります。
夜妖は後方から一台ずつ潰しにかかってきます。
全ての車両が壊される前に奴を倒してください!
●備考
本シナリオではデスカウントを受けると、幾らかのタイムラグはありますが最先頭車両から復活出来るようです。ただしそれは複数のデスカウントを受ける可能性もあるという事ですので、ご注意ください。
●情報精度なし
ヒイズル『帝都星読キネマ譚』には、情報精度が存在しません。
未来が予知されているからです。
※重要な備考『デスカウント』
R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。
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