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シナリオ詳細

<フルメタルバトルロア>白銀の戦士は黒鉄に染まりて

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 ――人々の歓声が聞こえる

 ――声援が聞こえる

 ラド・バウを包み込むように、人々が声を張る。

『がんばれぇぇ! マスクド・ライザー!』

 子供の声だ。

 子供の声だ。

 力無き、人の声だ。

 無力な子の声だ――

 彼らの為に、私はもっともっと強くあらねばならない! 彼らを守るためにも!

「みんな! 私に力を分けてくれ!」

 陽光の輝きを鎧に反射させ、白銀の鉄騎は拳を天へと突きあげた。
 益々湧き上がる人々の声が、闘技の場で力を呼ぶ。

 白銀の身体を駆け巡るエネルギーの輝きがブゥン、と眩く輝いた。

「――行くぞ! とぉ!」

 溢れ出す力の限りを込めて、マスクド・ライザーはマントを翻して微かに下がり跳躍。

「ライザァァ――キィィ――ック!」

 天より流星の如く走り抜け、相手を蹴りつけた。

 爆発のエフェクトが散り、閃光の軌跡は美しく線を引く。

 くるりと身を翻して、観衆に向けてポーズを決めるその後ろで、爆炎が爆ぜた。

 人々の歓声が響く。

 マスクド・ライザー――白銀に輝く金属の身体を持つ正義の戦士を呼ぶ。
 ラド・バウを覆いつくす人々の歓声を聞きながら、マスクド・ライザーはその場を後にしていく。

――――――――
――――
――

「あ、あの!」
「うん?」
 会場から出てきたライザーの下へ、少年が走り寄ってくる。
 しゃがみこんで目線を合わせれば、少し緊張した様子を見せた少年が、白紙の色紙を1つ差し出す。
「サインください!」
「構わないよ」
 柔らかい声でそう答え、ライザーはサインをさらさらと記した。
「……そ、それで、あと」
「どうかしたのかい?」
「うん、お兄ちゃんがね、今日これなくて、でもお兄ちゃんがライザーさんのこと好きで!」
「ふむ……」
 少しばかり考えた後、メモ帳を確認して――
「よし、それじゃあ、今日の夜、少しだけ君の家にお邪魔してもいいかな?」
 優しい声でそう問いかけた。


 翠色の閃光が奔る。黒鉄の影が躍る。
「――き、貴様」
 呻く声がする。はて、誰だったか。
 ――つい昨日、盤外で似たような男を打ちのめしたような気もする。
 黒鉄の鉄騎は静かに踏み込んだ。
 そこはつい昨夜、彼が暴漢から奇襲気味に受けた傷を寸分狂わず穿ち貫く。
 男が口から血を噴いた。
「――さらばだ、力を持つ者よ」
「ま、待て! 降参――こうさ――」
 男が何かを吠えるその声を聞きながら、黒鉄の男はもう一度同じところを穿ち抜いた。
 よろめき後退する彼の喉元を鷲掴み、黒鉄の戦士――マスクド・ライザーはその首をへし折った。
 その瞬間、眼前の男が形を崩し、電子の海へと消えていった。
 静まり返ったラド・バウを、黒鉄の戦士が歩く。
 ブーイングさえ響かず、後にはただ審判員の『勝者:マスクド・ライザー』の一言のみが残っていた。

――――――――
――――
――

「ライザー選手、今回も圧勝でしたね!」
 リポーターだろうか。鉄騎の女が声をかけてきた。
「ふん……当然だ。力こそ全て! 私は全ての強者を平らげる。それだけだ」
「ライザー選手、貴方はつい先日まで力無き者のために戦っているとおっしゃられておりましたが?」
「そうだ。だから、弱者などいらぬ。強い者を全て殺す。さすれば弱者も守れると思わんか?」
「……そういう考えもあるのでしょうか?」
 訝しむようなリポーターの言葉にライザーが睨むように見る。
 それだけして、ライザーはその場を後にした。

 その様子をネクスト内のモニターで眺めていたIgnat(p3x002377)はカニの眼でチカチカさせながら思う。
「キミはこちらでもそうなってしまうんだね……」
 それは、現実世界の混沌でもそうなってしまった男への思わず漏れた声。
「……キミに何があったのかは分からない……でも、どうやら今回は救う道がありそうだ」
 さっきからポップしているシステムメッセージに目を向ける。

 ――新規イベント『機動要塞ギアバジリカ』が開催されています。
   鋼鉄内乱『フルメタルバトルロア』を攻略し、皇帝殺害の真相に迫りましょう。
   さあ、機動要塞ギアバジリカ初号艦のクルーとなって戦地へ赴きましょう。
   発進! 黒鉄十字柩(エクスギア)で出撃し、鋼鉄を蹂躙する『シャドーレギオン』と交戦せよ!

 いくつかは参加しているその新規イベント。
 記されたクエスト名称は『白銀の騎士、黒鉄に染まりて』
 達成条件は単純、マスクド・ライザーを倒して『DARK†WISH』から解放すること。

(元同僚として、キミを止めよう)
 現実での彼がどうしてそうなったのかは分からない。
 ――だとしても、その変化が『彼自身の心境的変化』ではなく『得体のしれないバグ』なんぞであるのなら。
 『現実世界の彼の』と枕がつくとはいえ、同僚である以上、止めない理由はない。

GMコメント

お久しぶりです、春野紅葉です。
さて、フルメタルバトルロアになります。始めましょう。

●オーダー
・『黒鉄に染まりし戦士』マスクド・ライザーを解放する。

●フィールド
 夜のラドバウです。皆さんはリプレイ開始時に遠隔から闘技場の上空をくぐって突っ込みます。やや薄暗いですが、視界や射程に問題はありません。
 戦場にはマスクド・ライザーとその一派。そしてライザーの次の対戦相手候補者がいます。
 戦闘開始時には皆さんと入れ替わるように候補者は撤退します。

●エネミーデータ
・『黒鉄に染まりし戦士』マスクド・ライザー
 ラドバウの闘士。元々は白く輝く金属の身体を持つ鉄騎種でしたが、現在は禍々しい黒鉄の姿となっています。
 本来はエンターテインメント重視のヒーローといった雰囲気を持つトータルファイターでした。
 性格はまじめで優しく、子供にも優しかったため、人気のファイターでした。
 しかし、『DARK†WISH』に歪められた結果、現在は残虐さに満ちたファイターに変質し、容貌の変質しました。
 現実でも同じような変質を遂げているようですが、ネクストでは明確に『バグに巻き込まれた結果として生じた変質』です。
 『DARK†WISH』を『WISH』に戻してやれば正気に戻ります。

 必殺、邪道、弱点、致命、恍惚、出血系列を使いこなすパワーファイターですが、手数と反応も馬鹿にできません。
 特に必殺技の『ライザーキック』は強力です。
ライザーキック:物超域 威力特大 【万能】【崩れ】【体勢不利】【業炎】【炎獄】【デメリット:戦闘中2度まで】

『WISH』
 弱者を守りたい

『DARK†WISH』
 弱者を守るため、この世の強者を殺し尽くす。どんな手を使っても。

・ライザー一派×15
 それぞれマスクド・ライザーとよく似た装いをした鉄騎種です。
 ライザーと異なり、眼や体などの部分が青、黄、ピンクに輝いています。
 ライザーとの一番の違いはライザーは生来の物ですが、彼らは後付けでパワードスーツ的に着込んでいます。
 彼らはライザーの活躍を慕っていたファンというべき存在であり、『WISH:ライザーの役に立ちたい』が『DARK†WISH:ライザーの邪魔ものを殺し尽くす』に変じています。
 ライザーに倣い、全員徒手空拳です。

・ライザー一派〔青〕×5
 反応命中型の戦士です。FBが高めでHPが低めなのが欠点ですが、その分当たればえぐいタイプです。

・ライザー一派〔黄〕×5
 豊富なHPと防技を持つタンク型の戦士です。
 直接的な攻撃力は低めですが、防技を上乗せしてくるカウンタータイプです。

・ライザー一派〔ピンク〕×5
 トータルファイターを目指している途中のバランスタイプ。
 凍結系列のBSを持ち、あらゆることをそつなくこなしてきますが、爆発力はありません。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

※WISH&DARK†WISHに関して
 オープニングに記載された『WISH』および『DARK†WISH』へ、プレイングにて心情的アプローチを加えた場合、判定が有利になることがあります。

※重要な備考『デスカウント』
 R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
 現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。

・黒鉄十字柩(エクスギア)
 中に一人づつ入ることのできる、五メートルほどの高機動棺型出撃装置。それが黒鉄十字柩(エクスギア)です。
 戦士をただちに戦場へと送り出すべくギアバジリカから発射され、ジェットの推進力で敵地へと突入。十字架形態をとり敵地の地面へ突き刺さります。
 棺の中は聖なる結界で守られており、勢いと揺れはともかく戦場へ安全に到達することができます。

●ROOとは
 練達三塔主の『Project:IDEA』の産物で練達ネットワーク上に構築された疑似世界をR.O.O(Rapid Origin Online)と呼びます。
 練達の悲願を達成する為、混沌世界の『法則』を研究すべく作られた仮想環境ではありますが、原因不明のエラーにより暴走。情報の自己増殖が発生し、まるでゲームのような世界を構築しています。
 R.O.O内の作りは混沌の現実に似ていますが、旅人たちの世界の風景や人物、既に亡き人物が存在する等、世界のルールを部分的に外れた事象も観測されるようです。
 練達三塔主より依頼を受けたローレット・イレギュラーズはこの疑似世界で活動するためログイン装置を介してこの世界に介入。
 自分専用の『アバター』を作って活動し、閉じ込められた人々の救出や『ゲームクリア』を目指します。
特設ページ:https://rev1.reversion.jp/page/RapidOriginOnline

  • <フルメタルバトルロア>白銀の戦士は黒鉄に染まりて完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年08月04日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

君塚ゲンム(p3x000021)
胡蝶の夢見人
ジャック翁(p3x001649)
Ignat(p3x002377)
アンジャネーヤ
吹雪(p3x004727)
氷神
ソール・ヴィングトール(p3x006270)
雷帝
ベル(p3x008216)
ちいさなくまのこ
黒子(p3x008597)
書類作業缶詰用
アズハ(p3x009471)
青き調和

リプレイ


 闘技場の空を8つの弾丸が飛翔する。
 放物線を描く8つの弾丸は弧を描き、闘技場の中央部に突き刺さる。
 突き立った十字架が開き、彼らは姿を現わした。
(歪んだ英雄、堕ちた意志……か)
 十字架の外へ踏み出す『胡蝶の夢見人』君塚ゲンム(p3x000021)はこちらを振り返った『彼』を見た。
(……歪んでいるのはリアルのこっちもある意味そうではあるがな)
 サンバイザー型のサングラスから見る黒鉄の男に視線をそそぐ。
 似て非なる『歪んでしまった相手』に、ゲンムは思う。
「……だが、俺と違ってあんたは“ヒーロー”だ。見せる姿は白くなくてはならない……違うか?
 気取れよ、ヒーロー。あんたにその黒い姿は……ヒールの在り方は似合わない」
 ガトリングガン砲をゆっくり構える。
「心を惑わされたか。哀れとは思わぬ。強き信念は時にネジ曲がる事もある」
 杖とも剣ともとれる幽明の武器を携え『陰』ジャック翁(p3x001649)は敵を見た。
「生き恥を晒すならばそれに引導を渡してやるのも救いであろう。
 ……今回は、首を落とす必要は無さそうだがな」
 影に生きる者――ジャック翁の視線は静かに敵らを見た。
「大切な想いが捻じ曲げられちゃうなんて、ゲームの中とはいえそんなの可哀そうだよ! 元に戻してあげないと! ……あっ」
 漏れてしまった魂に『氷神』吹雪(p3x004727)は氷雪の如き美女の顔で驚いたように口元に手を添えた。
「こほんこほん。その歪みから救ってあげましょう、現実でのことはわからないけれど、こちらでは間に合うのでしょう?」
 美女らしい嫋やかさを以って緩やかに微笑む。
「少しずつ、ゲームというものがわかってきたであります。
 架空ゆえ、己の振る舞いや願望が出やすいのでありますね」
 全身鎧に身を包んだ『雷神の槌』ソール・ヴィングトール(p3x006270)は槌を担いだ。
(ならば自分は……いや、私は――)
「――私の正義を行う」
 宣告とともに、槌が雷霆を纏う。
 とてとてと歩いて『ちいさなくまのこ』ベル(p3x008216)は十字架から姿を見せる。
「誰かを守りたい気持ち、ベルは、とっても分かります。でも……」
 戦闘の気配を感じ取った小さな熊さんは、その姿を見る見るうちに女性のソレへと変えていく。
「そのために、悪いことをして、殺して、酷いことをする事は、守る事とは、全然違うって、ベルは思いました」
 ちょこんと2つの熊耳がぴょこぴょこ風に揺れ、紫の髪が風に靡く。
「まずはセオリー通りに数を減らしていくのがよさそうですね」
 ライザー一派の数とこちら側の数をざっと比べた『書類作業缶詰用』黒子(p3x008597)は静かに状況の整理を開始する。
(弱者を守るという点は変わらないのに、こうも変質してしまうとは。
 願いが歪んだとは言うが、俺には手段を間違えたように思えるよ)
 十字架より姿を見せた『アルコ空団“路を聴く者”』アズハ(p3x009471)は敵の動きを感じ取る。
「ただで殺されるつもりはない。殺しても無意味だと理解させてやる」
 ライフルを構え、音の反響を頼りに銃口を敵に向ける。
「その黒鉄の棺……ゼシュテリウスか」
 黒鉄の戦士が一歩前に出て闘技場のステージを踏みしめる。
「ゼシュテリウス――強者で構成されたもの……潰さなくては……私の邪魔をする者は、全て!」
「ぐ、ぐぅ……」
 ライザーの後ろ、囲われていたらしい男が呻く声がした。
「まだ立つ余裕があるのなら逃げることですね」
 黒子はその様子を見てとめると、男にそう声を上げた。
 その声を聞いたらしい闘士がそそくさと消えてしていく。
 少女型の姿で十字架の外に姿を見せた『カニ』Ignat(p3x002377)は、メインとなるカニの姿へ変じる。
「ごちゃごちゃ問答するよりも拳をぶつけ合う! それがオレたちのコミニュケーションだからね!行くよ!」
 真紅の単眼レンズで黒鉄の男と取りまきを見て、高く鋏を掲げた。
 それを合図とするように、双方が動きを見せる。
 ライザー一派の誰よりも早く動きを見せた黒子は杖を掲げた。
 自らに術式を施したのち、カッと杖が輝けば、ライザー一派の足元で魔方陣が構築される。
 陣は一瞬にして闇へと姿を変え、複数の一派がその闇に呑まれていく。
 沈み込んでいくライザー一派へ、波打った泥のような闇がのしかかるようにまとわりついていく。
「あなた達のやりたかったことは本当にこんなことなの?
 今のライザーさんが、あなた達の好きだったライザーさんなの?」
 マスクド・ライザーと似たような――けれどカラフルな極まる15人のライザー一派の前へ踊りこんだ吹雪は彼らへと問う。
「――ライザーさんのやってることが間違ってるはずがない!」
「そうだそうだ! ライザーさんの邪魔をするな!」
 口々に叫ぶ彼らだったが、吹雪はやや視線を細めた。
 ライザーのみならず、彼ら一派もその夢――WISHを歪められているという。
「そう……分かったわ」
 今の彼らに、そのことを言っても、歪められた彼らには届いていないようだ。
「ふぅぅ」
 深呼吸の後、吹きかけた吐息が、魔力を帯びてその性質を増大させ、一面を閉ざす氷雪の領域を作り出す。
 そのまま作り出された氷の弾丸をけしかけ、凍てついた彼らを砕く。
「それは本当にあんた達が憧れていたライザーの姿か?
 あんた達のやっていることはただの虐殺への荷担だ。
 もしあんた達が今のライザーを受け入れると言うのであれば……」
 吹雪への返答を聞いたゲンムは、ガトリング砲を静かに一派の方を向けた。
「躊躇はしない、叩き潰す」
 引き金を弾いた。反動を抑え放たれた弾丸は、狙撃を見紛わんばかりの精密なる射線配置と連射による破壊力を以って青色の一派の1人を撃ち抜いていった。
 抜け出した2人の青色の戦士がビュンッと飛ぶ。
 片方はそのまま足をも連れさせてすっころび、もう片方は真っすぐに近くにいた仲間に突き立った。
 アズハはその場で片膝を突くように座ると、銃を静かに構えた。
 反響する音を聞きながら、空へ銃口を向けて引き金を弾いた。
 弾丸は空を舞い、放物線を描いて雨のように振り注いでいく。
 鉄の雨に降られた戦士たちの何人かは、関節を撃ち抜かれてうめき声をあげる。
 戦場を黒い影が疾走する。
「目障りな男だ――貴様から、死ね!」
 駆け抜けた黒い影が狙うのは、黒子。
 手刀を作った黒鉄の戦士が、鋭く刀のように刺突を打ってくる。
 その勢いを体捌きで殺しながらも、微かな傷がアバターのエフェクトを削る。
 続けるように他の一派も動き始めていた。
 その動きの間隙を縫うように、ベルとソールは動く。
 かわいらしいとてとてとした効果音を鳴らし、ベルは真っすぐに黒子に襲い掛かるライザーの前へ。
「――がおー!」
 自分を奮い立たせるように、気合を入れて、ベルは吼えた。
 それは本物の熊のそれにとても迫力では及ばない。
 けれど奮い立たせた声に、ライザーの視線がベルに向いた。
「おお、速い」
 稲妻が奔るように駆けるソールは思わずつぶやく。
 電子の海を切り裂くような鮮やかな疾走を経て、雷霆纏う槌がその輝きを増した。
 勢い任せに振り抜いた打撃が1人の青き身体をした一派を撃ち抜く。
 一派の身体を貫通した雷霆は慣性に釣られ、そのまま推進力を得て直線状を巻き込んで貫いた。
「もうひとっ走り、付き合ってもらうよ――」
 槌より伝った雷霆がその身を包み込む。
「まずは周りの邪魔な方々にはご退場願おうか!FIRE IN THE HOLE!」
 カニの姿を取ったIgnatは立ち位置を調整する。
 そのまま、静かに背中に乗せた砲門へと魔力を込めていく。
 収束した魔力がエフェクトと共に炸裂。
 三門の砲撃は真っすぐに閃光を描き、進路上にいた複数の一派を巻き込み、焼き払う。


 戦いは続いている。
 青色のライザーの数は1人に減り、それ以外の者達も巻き込まれた分だけ徐々に減りつつある。
 黒子は天へ杖を掲げて再び魔術を発動させる。
 2人とその間にいた黄色の1人を巻き込んだ陣より姿を見せた澱みが纏めて巻き込んでいく。
 縛り上げ、抑え込んだ澱みが3人の身体にまとわりつき、身動きを停止させる。
 割り込んできたのは、ピンク色のライザー。
 電算システム足る身体は瞬く間に敵から受ける攻撃の最終ダメージを予測する。
「――氷刃! お願いだから、少しの間眠っていて!」
 掌に氷のエフェクトが走る。
 吹雪は願うように告げて、手を横に薙ぐように払う。
 瞬間、構築されていた氷の刃が戦場を疾走。
 横一線を切り裂くように真っすぐに放たれた。
 それは未だ戦い続ける数人の取りまきを撃ち抜いていく。
 吹雪の攻撃で怯んだ敵の1人に浮かぶHPが瀕死の域に落ちる。
 その瞬間、アズハは引き金を弾いていた。
 真っすぐに戦場を貫く弾丸はその一人へと走り抜ける。
 それは不殺を為す精密狙撃。炸裂した弾丸を受けて、そいつがぐらりと体勢を崩してその場で崩れ落ちる。
「そろそろ感覚が慣れてきたね。それじゃあ――もう一度行こうか」
 そんな言葉を残してソールは再び疾走を開始する。
 雷霆もかくやと言わんばかりの超加速より放つタックルからの殴打が未だに残る取り巻きの身体を真っすぐに貫いていく。
 電磁エフェクトが収まる頃、敵の数は残り1人になっていた。
 続けるようにIgnatが動く。
 主砲の1つへ急速に光が集束し、まばゆい輝きを帯びていく。
「――FIRE!」
 それは直線を貫く閃光。
 一条の閃光は真っすぐに1人のライザーピンクの身体を貫通。
 その身体を焼き、辺りを溶かして泥沼へと作り変えていく。
 苛烈なる砲撃を受けたその1人の身体が、地面へと倒れていった。

 ライザー一派の処理をし終えたイレギュラーズはいよいよ本命の前へとあつまっていた。
「強者を挫き、弱者を救わぬ哀れな戦士。鐘の音が汝が名を指し示した。己が宿命を知るが良い」
 ライザーへと肉薄したジャックは武器で地面を叩く。
 くるりと剣のように構えなおした斬撃がライザーの身体を2度に渡って切り落とす。
「手段を択ばない? 楽な方に逃げてるだけじゃないか! 現実から逃げるんじゃないぞヒーロー!」
 美女のアバターへと変じたIgnatは大剣を握り締め、ライザーめがけて振り抜いた。
 そのアバターに違わぬ流麗な斬撃が深くライザーを切り開く。
 斬撃は急速な軌道を描いて連撃を為していく。
「違う――ちがう、そんなはずは……そんなはずは、ない!」
 それを防ぐライザーが振り払うように叫ぶ。
「手段を選んで、真っ向勝負するから助けられた人たちが心まで救われるのが本当のヒーローだろ! なぁ、ライザーッ!」
 最後の一太刀、振り抜く軌道とともに上げた声に、ライザーの眼が見開かれた。
「今のあなたの振舞いが、本当にあなたのなりたかった姿なの?」
 吹雪はライザーから距離を取りながら構える男へ語り掛ける。
「私は、私は、強く、これで間違ってない……! この手に強さを、手に入れたのだ!」
 緑色の瞳が、振り払うように輝きを増した。
「本当の願いを思い出して! そんな歪められた願いに負けないで!」
 ライザーの動きが開始されるより前、吹雪は構築した槍を投射する。
 一本の槍と化した氷槍は真っすぐに戦場を疾走、振り抜かれたライザーの拳と衝突。
 槍が拳に痛撃を加え、多大な流血をもたらした。
「何故強者を殺す? 貴方はこう言ってたよな。『守るには強くあらねばならない』
 そうだ。強者を殺し尽くしたら、守るための力が足りなくなってしまう!」
 アズハは銃口を黒鉄の戦士へ向けた。
 弱者、強者などといって人を選ぶことを、アズハは好まない。
 それがレッテルを張ることになりうるから。
 それでも、守りたいという願いだけは、応援したいと思った。
「強者がのさばるが悪い! 絶対に、絶対にだ! 力無き者をどれだけしいたげてきたか!
 守るための力など、誰も振るわぬ! 振るうのならなぜ、強い者が弱い者を嬲ることが娯楽というのか!」
 激昂したのか、ライザーの翠色の光が輝きを増す。
「だったら、周りを、守りたい者を見ろ!
 守るための力を奪うその様子をどういう顔で見てる!
 その力は奪うためではなく……支えて、役立てるためにあるんだろう!」
「だ、だまれぇぇぇ!!」
 激昂したライザーへ、アズハは静かに引き金を弾いた。
 黒鉄の戦士の足に、禍々しいオーラがあつまっていく。
 その場で跳躍したライザーは空中でバク転、勢いをつけ、一気に落下する。
 落下のエネルギーを含んだ強烈な蹴撃が、流星のようにベルの身体を強かに打ち据える。
 砕けた大地、クレーターのようになったそこで、ベルはばらける身体に鞭を入れる。
「守る事は、痛い事も、怖い事も、辛い事も、みんな背負って、誰かに、大丈夫ですよって、言い続ける事、だって、ベルは考えています。
 今のあなたは、力で押さえ付けるだけで、全然守ってなんて、いません」
 選ぶような言葉にいつもより息が入る。
「だから、めっ! です」
 それでも、勇者としてベルは声を上げ、剣で斬りつけた。
 そのタイミングでソールはベルの前へ出た。
 話によれば、ライザーキックはあと一発残っている。
「女の子に二度も三度も受けさせてたまるかね、こんなキック。
 私は、正義の味方なのだから!」
 槌に雷霆が迸る。ソールは静かにソレを構えた。
「ライザー。君にもそういう志があったはずだ。
 正義の心があったはずだ。それを今、思い出させてやろう!」
 ライザーが腕を組んで防ごうとするその上から、ソールは雷霆を叩きつけた。
「弱き者に誇れる姿を見せろ、DARK†WISHなんかに引きずられるな」
 叫ぶゲンムはガトリング砲の持ち方を変えて弾丸をぶちまけた。
 神秘性を帯びる魔力弾は独特な打ち方により放散されるはずのものを収束。
 連続して苛烈な砲撃を撃ち込んでいく。
「ライザー、少なくともオレはヒーローだったキミの方が何倍も格好良く見えてたよ」
「な――に?」
 大剣を片手に、Ignatは眼前の男へそう声をかけた。
 傷だらけのヒールが目を見開く。
 静かに振り抜く剣筋に籠った力と、双眸に宿した想いはいかほどか。
 守りに力を籠める余力もないのか、ライザーは静かに斬り降ろされた。


 戦場を静寂が包み込んでいた。
 戦いは終わり、倒れていた幾人かのライザーの一派たちが仰天した様子を見せている。
「うぐ……うぅぅむ……」
 倒れていたライザーがよろよろと身体を起こす。
 漆黒の身体が微かに輝きを取り戻す。
 警戒を見せるイレギュラーズ。
「私は……私は、いったい何を……ぐぅぅぅ……あぁぁ……そんな、私は……私は……」
 うめき声がやがて、嗚咽に変わっていく。
「ライザー……あなたはどっちだ」
 アズハは思わず問いかけた。聞こえる音は人らしい人のそれだ。
 だが、その身体は黒鉄のままという。
「君達は……あぁ、先程までの君達か――なんということだ……ということは、私は本当にあんなことをしたのか」
 顔を上げたらしいライザーの声が聞こえた。
「あんた、正気に戻ったんだな? なら、あんたは真のヒーローだ、ライザー。
 心の奥底のWISHを忘れず、闇の心すらも跳ね除けられたのだからな」
 ゲンムはその様子を称賛するように告げる。
 ゲンムの言葉に、ライザーが顔を上げる。
「跳ね除けた……ふ、そんな……本当にそうであればこんなことをしてなかっただろう……」
 自嘲するように笑って言った。
「もし良ければギアバジリカに来ないか、ライザー。
 あんたの助けが必要な人たちが、まだたくさんいるんだ」
「私のような目にあっているものが……私で、やれることがあるだろうか?」
 声が震えていた。
「キックは、いいね。貰うよ。そのアイデア。ちょうどどうやって使うか考えている技があるんだ」
 ソールはそんな彼に声をかけた。
 一見すると噛み合わぬ話題だが、それでよかった。
 思いつめた様子のライザーの気持ちを軽くするための発言だった。
 事実、驚いた様子を見せたライザーは笑ったように見えた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

黒子(p3x008597)[死亡]
書類作業缶詰用

あとがき

お疲れさまでした、イレギュラーズ

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