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シナリオ詳細

<フルメタルバトルロア>心の底を歪め狂わせ

完了

参加者 : 8 人

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オープニング


 『鋼鉄』に於いて、正義とはそれ即ち勝利である。『であった』、というべきだろうか?
 皇帝暗殺の折から軍閥の跋扈に至り、ただ勝利だけを追求することは求められなくなっていく。
 勝利は当然大事だ。だが、『正しく』勝利しなければ意味がない。
 正しさを求める、ということは権謀術数を尽くす事に対して不義理である、悪である……その様な風潮が芽生え始めることと同義だ。
 畢竟、それらに己の精髄をつぎ込んだ者こそが諸悪の根源であるかのように語られるのはよくある話。
 それが即ち悪と断じることは無論として愚の骨頂であるが、『彼』に関して話が違った。

「ヴィトルト。貴様の作戦立案に関しては今後一切の許容ができない。そしてその結果を、軍は容認できない。本日を以て貴様の軍籍を剥奪する、と先程通達が下った」
 鋼鉄南西、所謂『南部戦線』でも辺境にあたる地で、ヴィトルト・コメダは突如として軍籍剥奪を下命された。
「何故です? 私は確実に任務を遂行し、軍に十分な成果をもたらしてきたはずでしょう?」
「その『成果』が問題なのだ。今まで貴様が立案した作戦を思い出せ」
 ヴィトルトの抗弁に、即座に苦々しい顔で自制を促す上司。彼の表情をまじまじと見てから、ヴィトルトは「それは」、と言葉を吐きかけ、そして途切れた。
 騎士道を旨とする者に対しては徹底してゲリラ戦術と遅滞戦闘を行い、人々を守ろうとする敵は守るべき民をだまし討ちに近い形で奪い、彼等彼女らの無惨な姿を肉盾として怯んだところを撃破。
 信頼し合う者がいれば双方に裏取引を持ちかけ「ふたりとも助かる」と嘯き、最終的に双方を破滅させた。
 どれもこれも、人の道を外れていると言われていても反論はできまい。だが、それもすべて国のためと立案したもので、現に被害は少なかったはずだ。それが、この仕打か。
「……分かりました。つまりは『好きにせよ』と」
「軍にいるから辛うじて許されたことだ。除籍された貴様がそれをやればどうなるか、分かっているのだろうな?」
 ヴィトルトの返答を諌めるように声をかけた『元上官』はしかし、それ以上言葉を吐くことはなかった。
 次の瞬間、ヴィトルトの傍らから現れた機械の触手がその頭部を貫き、カチカチと音を立てて何事か始めたからだ。
「な、あ、なにがされでるのに゛いだぐな、」
「脳には痛感がないのですよ、上官殿。これも、『作戦』の成果として知ったことでしたが」
 ですから、これからあなたの脳を、感情を、思う様調べさせてもらいましょう――然る後にこの駐留軍全員を。
 今までできなかったことを、今まで積み上げてきた叡智でもって思う存分に調べたい。
 それは、間違っていることでしょうか?


「ヴィトルトという男は、決して褒められるような戦いを指揮する男ではなかったようだ。だが、しかしここまで人道に外れているとは、軍でも把握していなかったようだが」
 『覆面鉄人』ドムラ・ミンミン (p3y000097)はことのあらまし――今回の『シャドーレギオン』と化した男の情報をまとめ、ギアバジリカ内でイレギュラーズに伝えた。一部、苦い顔をする者がいたかもしれない。それほどまでに、胸糞の悪い相手というものはいるのだ。
「現在、彼と元上司や同僚達は戦線周囲の『伝承』の村を襲撃し、彼の操る兵器によって改造兵士を量産している最中らしい。現在駐留している場所も判明している。そこにエクスギアで吶喊する。家の被害は二の次、落下地点からすぐ近くの広場で会敵となる」
 つまり、それだけ逼迫した状況ということにほかならない。急がねば、敵が増える。人の心が壊れた敵が。
「ところで、ヤツが何故ここまで人の道を外れたことをしているかと言えば――人の心を知りたいから、だそうだ」
 一同が、思わず聞き返す。
「人の心を乱すことで、その奥底にあるものを知りたかったのだとさ。今はもう少し、碌でもない方向に『WISH』が歪められているようだがね」

GMコメント

●成功条件
・ヴィトルト・コメダの撃破、拘束
・住民の救出

●失敗条件
・ヴィトルト・コメダの死亡
・住民の生存数が3割以下(概算)を切ること

●ヴィトルト・コメダin歪想コンソール
 ヴィトルト・コメダは鋼鉄において作戦立案などを主とする軍人です。
 敵対者の精神的素養・バックボーンなどを調査することで『最も嫌がる行為』を悪意なく選択し躊躇なく行える者として赫々たる戦果をあげてきました。
 ですが、皇帝暗殺に伴い正々堂々と戦う事を美とする軍人が主流派を占めつつあるなかで彼の立場は劇的に悪化。結果、軍を追われた後にシャドーレギオンと化しています。
 『歪想コンソール』は彼の周囲を包むゼリー状の外装と、それに接続された機械の触手が主武装です。移動手段は多脚の補助ユニットが存在します。
・物理無効、パッシブで『緩和1』持ち
攻撃手段(一例):
・触手による殴打、洗脳ユニット排出(魅了+【混乱系列】BS+【窒息系列】BS)
・外装射出による自分中心の範囲攻撃(【毒系列】BS+呪殺)
 他、【移】あり長射程攻撃など。
※通常時、毎ターン「付与されたBS数×10%」で判定を行い、成功時「(付与されたBS数)ターンの間、外装が無効化」されます。この間、「物理無効、緩和1」が消滅します。外装無効化時、副行動でBS回復(高)が発生します。
 つまり効果として有効かどうかは別としてBS漬け戦法はそれなり意味があります。
『WISH』
 人の感情を調べ上げたい

『DARK†WISH』
 人の感情を歪め、その変化に伴う心身への影響を調べたい

※WISH&DARK†WISHに関して
 オープニングに記載された『WISH』および『DARK†WISH』へ、プレイングにて心情的アプローチを加えた場合、判定が有利になることがあります。

●歪曲兵×20(戦闘が冗長化すれば一般市民がこれに変化します)
 ヴィトルトに脳をいじられた連中です。
 自分の最も大事なものを手ずから破壊(殺害)するシミュレートを繰り返し刷り込まれ、どのように壊れるかを観測されています。一例として「殺人衝動に芽生える」「茫然自失となる(頭部のコンソールで強制的に戦闘に参加させられている)」「幼児退化し、殺人を遊びに感じるようになる」など。
 頭部にある小型装置を破壊すれば自動戦闘をやめますが、それで彼等の脳に刷り込まれたシミュレートや壊れた思考がもとに戻るわけではありません。命を絶ってあげるか、生かすかは皆さん次第です。
基本的にはライフルや銃剣による戦闘、一部治癒術使いなども混じっています。

●一般住民×多数
 小さい村ではありますが、集めればそれなりの数となります。
 村の中心に纏まっていますので、一点突破の救出もできましょうがヴィトルトの射程外に引っ張り出さないと新たな犠牲となる可能性大です。


●ドムラ・ミンミン(友軍)
 『名前でバレがちな誰か』のROOアバターです。
 こちらでは割と脳筋気味なステータスに振っており、物理攻撃メイン・中堅程度のタンク並の働きはします。

※重要な備考『デスカウント』
 R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
 現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。

・黒鉄十字柩(エクスギア)
 中に一人づつ入ることのできる、五メートルほどの高機動棺型出撃装置。それが黒鉄十字柩(エクスギア)です。
 戦士をただちに戦場へと送り出すべくギアバジリカから発射され、ジェットの推進力で敵地へと突入。十字架形態をとり敵地の地面へ突き刺さります。
 棺の中は聖なる結界で守られており、勢いと揺れはともかく戦場へ安全に到達することができます。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <フルメタルバトルロア>心の底を歪め狂わせ完了
  • GM名ふみの
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年07月31日 22時06分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ヴァリフィルド(p3x000072)
悪食竜
ニアサー(p3x000323)
Dirty Angel
梨尾(p3x000561)
不転の境界
Teth=Steiner(p3x002831)
Lightning-Magus
アリス・フェアリーテイル(p3x004337)
艶魔
きうりん(p3x008356)
雑草魂
ルイズ・キャロライン(p3x008702)
必ず、絶対にその首を
アズハ(p3x009471)
青き調和

リプレイ


「やることが随分えげつないな、ヴィトルトとやらは」
「それしか知らない、が正しいだろう。それだけを突き詰めて作戦立案に協力してきたようなのでな」
 『アルコ空団“路を聴く者”』アズハ(p3x009471)の不快そうな表情を見て、『覆面鉄人』ドムラ・ミンミン (p3y000097)はしずかに首を振る。道理は分かるが、心情としては愉快なものではない。最適解は、必ずしも最善足り得ない。それは誰しもが知るところである。
「面白いではありませんか……私も興味がありますとも。私も研究成果には、興味があります」
「国同士の戦いに正々堂々もくそも無いと思うけどね! 騎士道精神とか私嫌いだし!」
 『必ず、絶対にその首を』ルイズ・キャロライン(p3x008702)と『開墾魂!』きうりん(p3x008356)は、しかしその『卑怯さ』をこそ評価する。生死の賭けた戦いに正しさを求める道理は、きうりんの言う通り存在し得ず、人の心の歪みや狂い方、精神の欠損はルイズの『現実(リアル)』が求める情報であることは間違いない。両者にとって、元のヴィトルトはそれなり、興味深い相手だったことは確かだ。
「心を知りてぇと言いながら、それを不自然な形に歪めるってか。正に本末転倒だな?」
「洗脳か。人の心を知りたいにしては歪んでいるな。この体で受けるわけにはいかないな」
 『Lightning-Magus』Teth=Steiner(p3x002831)と『ただの』梨尾(p3x000561)は、彼の歪んだ願いに、そして歪む前のそもそもの願いの在り方に、どこか辟易したような表情を浮かべた。人の心を知りたいと言いながら、人の心を蹂躙することを是とする男。その在り方は、どうにもちぐはぐであり、人の心をモノのように扱っている感すらある。
 彼等や、操られているであろう上司ならずとも拒否反応を持つのは当然――そう言わんばかり。
「人の感情を調べたいとは思っていても、自分の感情には興味が持てなかったか」
「……まあ、自分が他人からどう思われるかは、研究が足りなかったようだね」
 手を汚すことに躊躇ない者は使い潰し易い。ヴィトルトはきっと、相手にばかり目を向けていたばかりに自分自身を鑑みる余裕がなかったのだろう。『悪食竜』ヴァリフィルド(p3x000072)は、彼の在り方に一定の理解を示しつつ、彼自身の在り方の歪みを指摘する。『Dirty Angel』ニアサー(p3x000323)もそれには同感だったらしく、ヴィトルトのこの末路に残念そうに首を振った。
「何れにせよ、今の我々には緊急性が求められている。……君達なら出来ると、私が保証する。そして私が護る」
「あんまり自分が自分がってしゃしゃっちゃ駄目だよ! 死ぬよ! 私みたいに!」
「耐えることなら自分も自信があります。1人で抱え込まぬよう」
 ドムラが分厚い胸を叩いて仲間に宣言すると、きうりんと梨尾はその危うさに釘を刺す。至らぬ自分だからこそ力強く、そんな嗜好が漏れていたのだろう、彼は。
「みんな、細かいこと考えすぎ。他人をサンプルにして楽しんでるようなヤツなんだから、自分がサンプルにされるなんて……きっと思ってないんでしょう?」
 『艶魔』アリス・フェアリーテイル(p3x004337)は一同のやり取りや考えを一通り噛み砕いて、ヴィトルトという男への理解を再構築した。安全圏から他人を弄ぶ『弱者』。それが彼女による結論である。そういう意味で、彼女ほど――他人を操る技術に特化した者(アバター)はこの場には居まい。
「じゃあ行くか。最優先は住民の確保と避難誘導だ!」
 Tethの言葉に頷いた一同は、各々エクスギアに乗り込み、順次射出されていく。家々をブチ抜いた一同の視界に入ってきたのは、まさに先程まで、そこに誰かしらがいた生々しい生活の跡。きっと、彼等は今まさにヴィトルトの手にかけられようとしているのだ。
「見つけたぜ……、助けに来た! 俺様が穴をブチ開けるから、そこから逃げろ!」
 偵察ドローン越しに敵と、住人たちを視認したTethは同じく視界に入ってきた仲間に手を振って指示を飛ばしつつ、ハンドガン型の武装を前方に突き出す。一拍遅れて爆ぜた雷光は住民達の混乱を招き、歪曲兵の何名かを狙い撃った。……それでも、彼等の表情には一片の曇りも動揺も感じ取れなかったのだが。


「襲撃者には俺たちが対応するから、今のうちに向こうに逃げてくれ!」
「うーんと、あれだよ……めんどい! 私がエサだよ! ついてきな!!」
 アズハの声に顔を上げた住民達は、しかし直後にきうりんの発した「挑発目的の」言葉に首を傾げる。敵意がないのは目に見えており、残されたのは彼女の言葉だけだったが……それでも、胡瓜を手に自分達を誘導する相手が悪人とはとても思えない。その意識の一瞬の緩みが、彼等に冷静な判断力を取り戻させた。
「……戦う力が無い内に一般人の方を斬ってしまえば敵は増えないでしょうに、そうもいかないようで、ままならないものですね」
「…………」
 ルイズはカタナを手に無造作に歪曲兵へと近づくと、ほぼ構えぬ状態から抜き放った一刀にてその首を落としにかかる。その太刀筋は正確に首へ吸い込まれたが、無言で差し出した腕が斬撃を受け止め、骨でもって刃に噛み付く。空いた左手を握り込み、腹部に叩きつけたその動きは機械じみた冷たさすらも感じさせる。
「……人の心を知りたいなら心のお医者さんとかもっと穏便な方法があるだろう? 知りたいからとやってることが以前はデスゲームの主催者、今はマッドサイエンティストじゃないか」
「デスゲーム? 言葉の意味が分からないな。だが、そうだな。道理や道徳で戦争が出来ないのは間違いない。私はその点で、道徳は捨てたが遊戯のつもりではやってないよ。心を暴くことにいちいち愉悦を覚えていては、研究者としては三流以下だ」
 梨尾はヴィトルトのやり口に正面から疑問を呈し言葉を紡ぐが、さりとて意味の通じぬ言葉はこころに響き得ない。ただ、己の研究を楽しんでやっている、と思われたのには不快感を覚えたようだ。拒絶するような触腕の殴打は、梨尾を強かに打ち据えた。
「ヴィトルト君、あなたは2つ間違いをしている。1つは『鋼鉄』にいる事。彼らはとても丈夫な箱は作れるが、箱に何かを詰められない。蓋の開け方がわからないんだ」
 ニアサーの冷静な言葉は、それに続いて雷鳴を撒き散らす。直前に打ち出された光球がそれを成したのは明らかだ。先にTethが放った雷撃のせいか、はたまた乾いた空気ゆえか。その音は彼女の声すらかき消すかの如き轟音を生み出した。歪想コンソールはその雷撃を散らしたが、帯電状態を無視はできまい。
「もう1つは、まあ。あなたもわかっているだろう。他人が他人をどう思うかを研究し続けてはいたが、自分が他人からどう思われるかを研究しなかったからだね」
「私が? 嫌われているだろうね。別に、私は私に興味がないのだからいいだろう。研究するにも値しない、つまらない男だよ。……だから、君達の感情には随分遊び甲斐があるのが分かるよ」
 ヴィトルトは、ニアサーの言葉にクスリと笑みをこぼした。目が笑っていない、あきらかな虚無ばかりが満ちたそれではあったが。それは、ヴァリフィルドの目から見ても哀れに思えたらしい。
「少しでもそこに興味を抱いておれば、軍を追われることもかような状況になる事もなかったであろうに」
「……それは奢りだ。自分ひとりの改善で、軍の考えを、心を変えさせる。大きな総意に挑むには、私は無力だ……でも、君達の関心に罅を入れることはできるさ」
 その言葉の虚無感は、そのまま触腕の強打としてヴァリフィルドを打つ。衝撃で弾かれた背後には、逃げ遅れた住民。まずい、と思う間もなくその巨体は彼等をデータの塊に……変えなかった。
「何をされたのかよくわからないけど、私の目が……いや食感が新鮮なうちは? まあいいや、傷つけさせないよ!」
「1人で受け止めるには重すぎるだろう、にしても趣味が悪すぎだぞ、あの男は!」
 ヴァリフィルドを受け止めたのはきうりんと、そしてドムラ。住民には、一歩分の猶予がある。顎をしゃくって先を促したきうりんに頭を下げた住民は、しかし続いて現れた歪曲兵の一刀で首を落とされそうになる。
 が、その動きをアズハが止め、その首にルイズがが刃を通す。紙一重で動脈を裂き損ね、喉をわずかに斬って声を奪った相手へと、更にアズハは殺さぬように一撃を加える。狂笑を浮かべたまま倒れたそれは、辛うじて死を免れたらしい。
「あぁ……幸運ですね、あなたは」
 残念そうにカタナを一旦収めたルイズの視界の端で、何名かの歪曲兵が住民に襲いかかろうと駆ける。が、イレギュラーズがそれを見咎めぬわけもない。
「どっち見てんだよ。住民追っかけてる余裕あんのかテメェ!」
「そうだよ! 私を! 食えよ!!」
 Tethの一撃、そしてきうりんの挑発。嬉々として無力な人を襲う連中が、それらの攻勢に抗えるわけもない。
「全く……厄介極まりないな、君達は」
「あら? 何度もエナジーを吸い上げた割に元気いっぱいなのね? ……まだ足りなかったかしら?」
「味あわせてもらったよ、十分にね」
 イレギュラーズの猛攻に晒された歪想コンソールは一時的に、その中身たるヴィトルトを吐き出していた。すかさず濃密な妄想を叩き込んだアリスであったが、舌打ちし、唾を吐き捨てたヴィトルトにはその魅力は伝わりきってないとみえる。ならばより手にかけねば、襲わねばと笑みを深めたアリスの横を、何かが駆けた。


「操られているお前ら! 俺も昔は洗脳されて悪い事し続けたが息子と戦ってる時に正気に戻れたんだぞ! その後腹を刺されたがな!
 この声が届くなら生きることを諦めるな !大切な者を殺すぐらいなら俺を狙え!
 そして生きろ! 生きていればそこのデスゲーム主催者を正気に戻させた後に治療させる!
 人の心を歪められるなら、自然回復の手伝いぐらいやってみせろ!」
 梨尾は残り僅かな歪曲兵に必死に言葉を紡ぐが、しかしその言葉は彼等の感情を揺さぶるには至らなかった。そも、彼等にとって『大切な者』はこの場にはいない。だから、本来なら通じようもない。……のだが。
「大切……? どこにいるんだ、俺の家族は?」
「何を……?」
 だが、彼等はそこにない何かを『見た』。互いを視認し、錯乱した彼等は同士討ちを誘発する。それは当然ながら、梨尾が想定したそれではない。
「私はね、彼等が混乱の中同士討ちをすることを望んでいた。けれど、彼らが何を口走って何をするのか、予想できない。楽しみなんだ。ヴィトルト君、そう思わないか」
「私が歪めた者達を、更に歪める、か。成程……なるほど!」
「何がおかしい、うぬが歪めた者達の有様に、何を思う」
 ニアサーの行動は、勝利への冷静な組み立てであるかに思えた。が、その実、昏い好奇心が垣間見えていたのだ。それに気付いたヴィトルトの笑いは、ヴァリフィルドに不快感を抱かせる。
「いや、いや! 人の心がどこまで狂えるのか、歪むのかは見ていて楽しい! 有難う、名も知らぬイレギュラーズ!」
「矛盾してるよな。人の心を知りてぇって言いながら、その心を歪める真似をしてるんだからよ!」
「心の奥底を見たいなら、強制的に歪めるんじゃなくて、もっと自然な方法を探すんだな」
 再び形を取り戻しつつある歪想コンソールに、Tethとアズハは攻撃を叩き込む。アズハのそれは打撃にこそならねど、凍りついたコンソールは再び破砕した際に、ヴィトルトの不調を癒やしきれずに消えていく。
 そして、コンソールの守りがなくば、彼の防御力などたかがしれている。触腕やその他武装を以て暴虐を尽くせど、根本の耐久力がおそまつでは意味がない。
 ……加えて、執拗に彼を己の思い通りにしようとしたアリスの存在と、仲間の生存力を底支えしたきうりんの地力が大きく。
「自分の手で人の感情歪めちゃったら自分基準の影響しか観測できないじゃん! そんなことしてないでもっと健全に洗脳しな!」
「健全な、せんの、うぼぁっ!?」
 最後の最後につかつかと近寄ったきうりんの往復ビンタ(拳)により吹っ飛ばされたヴィトルトは、申し訳程度の不殺の追撃で動きを止めた……ので、あった。

「怒りや悲しみは人の心の深奥を引き出す。アプローチは正しかったよ。でも、喜びや楽しみを感じて共有しようとする時にも心の真実は見えてくるんだ」
 ニアサーは、ヴィトルトの考えに多少なり共感をもちつつも、しかしそればかりがアプローチではないことを告げる。しかるに、軍籍剥奪の憂き目をみた彼の次の道はそれではないか、と。
「手始めに、だが。奴等を元に戻せる可能性があるのであれば、それをやらぬ手はないのではないか?」
 ヴァリフィルドは、アズハやルイズが縛り上げた歪曲兵達を指差す。洗脳装置が残っている手合いは、それを操作すればなんとかなるのではないかと。
「……正気を取り戻したら、催眠療法ってことにならないかしら? 私があなたを洗脳しようとしたみたいに♪」
「それは、流石に無理があるだろう……罪は背負って罰は償うよ。それが、心に執着した私のけじめだ」

成否

成功

MVP

なし

状態異常

ヴァリフィルド(p3x000072)[死亡]
悪食竜
梨尾(p3x000561)[死亡]
不転の境界

あとがき

 救いがたい性根の相手の心を引き戻すというのは、得てして助ける側の満足を満たし難いものではあります。
 けれど、救ったという事実をこそ、皆さんは誇っていいのかもしれません。
 まあ、説得とかはあっちこっちに話題がそれていくのも華ということですね。

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