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シナリオ詳細

<現想ノ夜妖>バンカラ少年と桜下の死体

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●無より来て、無へ還るものなり
 雨もない夕暮れ橋。まだ明かりの灯っていないガス灯の下を、紫のスーツを着た男が歩いて行く。
 ポケットに手を入れ、背を丸めた男。
 あなたはもしかしたら、彼を知っているかも知れない。
 ひどく陰気な顔をした、目の下にくまのできた中年男性。
 バブル期にすべてを置き忘れてきたようないでたちで、全身から不吉さがただよった男。
 男は橋を渡ってすぐ、ふと足をとめた。
 足下にはらはらとおちる花弁に目をとめ、そして手をかざす。
 手のひらにおちた長細いハート型のそれは、まごうこと無き桜の花弁。
「こんな季節に……」
 目を細めると、花弁の赤い色がわかる。
 夕暮れをあびて色が変わったものかと思えたが、違う。
 ハッと顔をあげると、桜の樹木は赤く赤く色づき、狂わんばかりに花弁を散らしていた。
 その時になってようやく気がついたのだ。

 夕暮れ時、血色の桜のさく下には。
 桜の鬼が現れる。

 男の後ろに、立っていた。
 桜色の花嫁装束を纏った、赤い角の鬼。
 じゃり、と地面を踏んだ音に気がついた男が振り向くも、既に遅い。血が固まったことで鋭い爪と化していた鬼の手が、男の首を切り落としたのだ。


「フン、弱いな。背の影を踏まれなければ鬼の息にも気づけないか」
 ここは高天京壱号映画館、特別映写室。
 その最前列の座席で足を組み、映像を見ていた少年がいた。
 歳にして十代のなかばか後半といった所か。バンカラ型の高校制服を纏った、それは若い少年だった。
 少年は座席から立ち上がり、映像が終わり白い光だけを映すスクリーンに影をおとした。
「『桜嫁』の話を知っているか。悲しい恋と愚かな男。そして終わらぬ呪いの物語だ」

 桜嫁。ここヒイズルに古くより伝わる古典芸能の一幕である。
 あるとき桜の下で出会った幼い男女が恋をして、自分の手が枝まで届くほどになったら再び会おうと約束をした。
 男はすくすくと成長し、約束通り手の届く頃になり桜の下にやってくると、幹の裏から現れたのは赤いツノをもつ鬼の女だった。
 ぞっとするほどの美貌と、それを打ち消すほど恐ろしい瞳と牙。そして赤いツノのもたらす恐怖と威圧に、男はつい逃げ出してしまった。
 約束と純情を踏みにじられた女は悪鬼羅刹となり、桜の下をおとずれる男を順に殺し続け、やがて約束の男が現れるのを待っているという。

「おっと、勘違いをするなよ? これはあくまで物語の話。そんな鬼はいない。そんな桜はない。そんな少年は実在しない。この物語はフィクションだ。実在の人物団体とは一切の関係がありません、だ。
 おおかた、『物語』が空想ながらも数多の人間に信じられるうち、人に牙を剥く怪異と化したのだろう」
 バンカラの少年は外套を払うと、脇に置いていた帽子をとって頭にかぶった。
「さあ、行こうかイレギュラーズ。間違って世に出てしまった物語を終わらせよう。
 おっと、俺か? 俺のことは気にするな。
 ――『嘘吐きの退魔師』、さ」

GMコメント

 ここはROO内ヒイズル。未来の映像が流れるほしよみキネマによって事件の存在を知ったあなたは、依頼をうけ悪性怪異『夜妖』との戦いを始めるのです。

●オーダー
 夜妖『桜嫁』の撃破が今回のクエスト内容です。
 映像に映っていた橋とガス灯、そして背景の建物から場所は判明しています。
 が、『桜嫁』は多くの人がしる古典であり名作であったためか高い力を持ち、非情に強い殺意をもって襲いかかってくることでしょう。
 共に映像を見ていたバンカラの退魔師と共に、この夜妖を倒すのです。

●夜妖『桜嫁』
 桜の下に現れる、花嫁衣装の鬼です。
 真っ赤なツノをもち、平安時代を思わせる桜色の花嫁衣装を着込んでいます。
 所謂つのかくしをしているのですが、赤いツノがそれを突き破り、僅かにでも口を開けば鋭い牙がのぞくでしょう。
 血色の花弁や実際の血を操る能力があるようで、腕に纏わせ鋭い爪に変えたり刃にして飛ばしたりといったアクションを可能とします。
 力は強く俊敏で、非常識な動きやパワフルな破壊によってこちらを物理的に破壊、抹殺しようとするでしょう。

 元ネタ(?)となった物語は男を優先的に狙うとしていますが、夜妖として現れたことでそうしたルールはやや無視され、通行人を無差別に襲う怪異になっている模様です。

●味方NPC
 今回の依頼にはバンカラの少年が味方に加わっています。
 どうやらあなたと同じイレギュラーズで、アバターを使ってこの世界にログインしているようです。
 『嘘吐きさん』でも『退魔師』でも、単に『少年』でも好きな呼び方をすればよさそうです。
 少年は怪異全般に精通しており、霊的な術を用いた戦闘を得意としているようです。

●ROOとは
 練達三塔主の『Project:IDEA』の産物で練達ネットワーク上に構築された疑似世界をR.O.O(Rapid Origin Online)と呼びます。
 練達の悲願を達成する為、混沌世界の『法則』を研究すべく作られた仮想環境ではありますが、原因不明のエラーにより暴走。情報の自己増殖が発生し、まるでゲームのような世界を構築しています。
 R.O.O内の作りは混沌の現実に似ていますが、旅人たちの世界の風景や人物、既に亡き人物が存在する等、世界のルールを部分的に外れた事象も観測されるようです。
 練達三塔主より依頼を受けたローレット・イレギュラーズはこの疑似世界で活動するためログイン装置を介してこの世界に介入。
 自分専用の『アバター』を作って活動し、閉じ込められた人々の救出や『ゲームクリア』を目指します。
特設ページ:https://rev1.reversion.jp/page/RapidOriginOnline

※重要な備考『デスカウント』
 R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
 現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。

●情報精度なし
 ヒイズル『帝都星読キネマ譚』には、情報精度が存在しません。
 未来が予知されているからです。

  • <現想ノ夜妖>バンカラ少年と桜下の死体完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年07月26日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ラピスラズリ(p3x000416)
志屍 瑠璃のアバター
カイト(p3x007128)
結界師のひとりしばい
かぐや(p3x008344)
なよ竹の
イズル(p3x008599)
夜告鳥の幻影
アイシス(p3x008820)
アイス・ローズ
ハンモちゃん(p3x008917)
金枝 繁茂のアバター
ルージュ(p3x009532)
絶対妹黙示録
キサラギ(p3x009715)
呉越同舟

リプレイ

●夏にさく桜
 ガス灯のともる橋の前。
 『志屍 瑠璃のアバター』ラピスラズリ(p3x000416)は足を止め、あるはずもない散り桜花に手をかざした。
「異種恋愛譚が題材の怪談ですか。わりと好きなストーリーですし、名作と呼ばれるのも頷けます。が……『まことの鬼と変じた娘を、一度は逃げた男が愛ゆえに相打ち』という物語のほうが好みですね」
「そのバリエーションもある」
 外套を纏った退魔師の少年が横に立ち、学帽を被り直した。
「おや、ありましたか」
「古典は時代と共に変形するものだからな。男女逆のものもあれば、関係のない退魔師が現れて鬼を払う話もある」
「今回はむしろ、そのバリエーションに変わったということでしょうか」
「かも、しれん」
「花嫁衣裳の鬼のねーちゃんかー」
 『絶対妹黙示録』ルージュ(p3x009532)はぼんやりと何かを考えていたようで、頭の後ろで手を組んで歩いていた。
 橋にかかる直前でぴたりと足を止め、手を解いてぶらりと下げる。
「そういう人知ってるぜ?」
「まあ、ヒイズルだからね。鬼人種は山ほどいる」
 それに鬼と嫁は古来からよく結びつくものだよね、と『夜告鳥の幻影』イズル(p3x008599)は肩をすくめた。
「それにしても異類女房…それに桜、か。
 物語がヒトの心を動かし、夜妖を生み出す。
 その媒体が本や絵画で、媒介するのが演芸。
 そのうち怪奇・婚約破棄王子とか。
 怪異・追放聖女とかいうのも生まれてくるのかもしれないね」
「よくある話は怪異になりやすい。だが……」
 退魔師の少年は外套の下からスッと刀の柄をだした。
「『鬼を嫁にとる』話は古今東西多くある。悪魔や邪霊に置き換えてみれば世界中にな。邪な思いから嫁にとれば不幸が、愛から結ばれれば福がもたらされるのがパターンだ。今回は、前者のもののようだが……」
「そういえば、初めましてですよね退魔師さん」
 『氷華のアイドル』アイシス(p3x008820)が手をかざし、握手を求めた。
 退魔師の少年は表情を変えずに手を出し、アイシスと握手を交わす。
「今日はよろしくお願いしますね」
「ああ、こちらこそ。よろしく」
「退魔師さんってもしかして――」
 話をスッと遮るように、『結界師のひとりしばい』カイト(p3x007128)が手をかざした。
「俺はカイト。よろしく」
(……まぁ、真実はどうあがいても『出てこない』だろうな。
 奴が少なくとも嘘付いてるってのは俺にだって分かる訳で。
 そんなんじゃねぇかとは前から思ってたが――これはここが生み出した『捏造』か。それとも『虚構』で隠された『核心』なのか?)
 カイトは疑念を胸におしこめ、飲み下し、作り笑いを浮かべた。

「新しいカフェーができた近くにわざわざ夜妖が出てこなくてもいいじゃん? いいじゃん!
 だがしかーし、繁茂の得物(男)を横取りする不埒な夜妖は直々にお仕置きしちゃうゾ☆」
 橋にさしかかったあたりで合流しようと約束していた『疑似人格』ハンモちゃん(p3x008917)は、手にお団子を持ったままぴょんぴょんとした軽い足取りでやってきていた。
 竹槍をかついで横を歩く『なよ竹の』かぐや(p3x008344)。
「花嫁衣装で真っ向勝負を仕掛けてくる……ふふ、上等ですわ!
 本来バトルに不向きなコスチュームで暴れ狂う。常在戦場の心意気あってこその、バーサーカー。
 良いですわ良いですわ良いですわ。普段着が十二単のわたくしにとって、まさに魂で分かり合える存在。
 さあさあ存分に殺り合いますわよ!」
 意気揚々と戦闘姿勢をとる彼女らの後ろで、『雷火、烈霜を呼ぶ』キサラギ(p3x009715)は帯びていた刀をすらりと抜いた。
(しかし夜妖は練達に現れる怪異だって聞いたぜ?
 どこでも現れられるのか、元々豊穣──神光にも現れるのか。それともこれも「バグ」ってやつなのか……)
「ま、いいか。気になるこたぁ多いがオレの気にするコトじゃねぇな」
 ふと浮かんだ迷いを斬り捨てるかのように刀をふると、右手に刀をダブルで握って『狐月三刀流』の構えへとシフトする。
「パパっと鬼斬り済ませて茶でも飲みに行こうぜ!」

●鬼が笑う夜のこと
 橋へと踏み込み、その中程まで進んだところで、欄干の外に大きな桜の木が現れたのが分かった。
 かすむ闇から浮き出たようなその風景にびくりと足を止めると、強い風と共に花弁が赤く染まり散っていく。
 散った華の吹雪に紛れて、花嫁衣装の鬼が現れた。
 常人ならばここで悲鳴をあげて逃げ出すところだが――。
「いかに麗しき桜と言えども、竹の強靭さに敵うハズもございません!」
 こちらはイレギュラーズ。世界の例外にして勇者のギルド。かぐやはかついでいた竹槍をすぐさま投擲すると、次なる竹槍を手の中に出現指せる。
 手をかざし、血色の壁を作り出す鬼。壁に突き刺さる形で止められる竹槍だが、さらなる竹槍突撃によって壁は破られた。
 防御は無意味と察してか、砕けた血の塊を無数の矢に変えてかぐやへと殺到させる。
 が、イズルはその動きにすぐさま反応した。
 『雫の輝き』と呼ばれる癒しの薬液を作り出すと、瓶詰め状態でかぐやへと投げる。後ろ手にキャッチしたかぐやはそれを飲み干し、無数に突き刺さった矢の傷を取り払った。
「……この程度?」
 挑発による発言、ではない。イズルの想定では鬼はもっと強力なものだと思っていた。この程度のスペックであれば、三人程度で完封できてしまいそうだ。
(何か手札を隠しているかもしれない。警戒しておこう……)
 その横を抜け、刀で斬りかかる退魔師の少年。
 鬼は血で作り出した刀でそれを受け、つばぜり合いの状態へと持ち込んだ。
(そりゃあ、花嫁の代わりを承る存在だぁ、激しい『愛』に身を晒す訳だ。……節度の悪い愛情表現はさせねぇがな?)
 カイトは『七星結界・破軍の呪剣』を発動。跳躍によって高度をとると、結界術による楔をクナイのように放った。
 鬼の周囲に刺さった楔が結界を作り出し、激しい電流めいた冷気の結界が取り囲む。
「花嫁さん、花嫁さん――懸想する男の顔も忘れておいでですか?
 『だれでもいい』なんて。余りにも『酷すぎ』やしませんかァ!?」
 こちらは、あえての挑発である。
 本命の――ラピスラズリによるダガー投擲を確実に命中させるための。
「そこです」
 後ろに回り込んでいたラピスラズリの放ったダガーが鬼の背に命中。ぎろりと赤く血走った目で振り向く鬼に、ラピスラズリは盾と剣をかざすことで防御の構えを取る。
 そんなラピスラズリへ斬りかかろう――とした鬼の両手を、強引に間へ割り込んだルージュががしりと掴んだ。
「今日のおれはタンクもーどだぜ。わりーな、鬼のねーちゃん。
 ねーちゃんが、自分で考える意識があるかもわかんねーけど。
 もうこれ以上だれかを殺させるわけにはいかねーんだぜ!!」
 えいっと力を込めて振り倒し、橋の欄干へと叩きつけられた鬼。
 アイシスはその隙を逃さず、ハンモと同時に動き出した。具体的には、橋の上に氷のステージを出現させアイドルソングを歌い始めた。
(悲恋の話に寄生して歪める夜妖に好き勝手なことはさせません。被害者が出る前に倒してしまいましょう!)
 アイシスのそんな考えを読み取り、ハンモはキラキラしたエフェクトをステージへとかぶせ、鬼へアイシスの歌声と共にぶつけにかかった。
「それじゃあ早速酷く陰気な顔をした男性に猛接近☆
 ハァ~イ! オニーサン暇してる?よかったらお茶でもDOかな??
 日本茶? コーヒー?それともー、ハ・ン・モ?
 って花嫁衣裳の鬼さんしかいないじゃん! ハンモの中年男性はどこ!? ここ!?」
 二人の攻撃をモロに浴びることになった鬼は血で固めた壁を作り出すも、すぐにそれは破壊されてしまった。
 二人の猛攻によって。あるいは――。
「一瞬で畳み掛ける手数の多さが狐月三刀流の真髄よ! オラオラ行くぜェ狐月三刀流――『雲耀』! ――『霜嵐』!」
 一本刀の居合い斬りによって壁が切り裂かれ、砕け散り、さらなる二本刀による斬撃が万物を凍てつかせる霜の刃となって襲いかかる。
「冥土の土産にくれてやる、湖面の月すら捉え、断ち斬る我が絶剱! 奥義──『湖月』!!」
 最後に繰り出した三本刀による交差斬撃が鬼の肉体を、そして橋の欄干すらも切り裂いていった。
 下の川へと落ち、水柱をあげる。
 きまった、とばかりにキサラギは刀を下ろして背を向けた。
 その時――。

●呪いは一人で起こらない
 もう一度、たかい水柱があがった。爆発でも起きたのかと振り返るキサラギ。水柱からのびた手に気付いた時には、しゅるりと伸びた血色の糸が彼女の腕や刀を縛り拘束していた。
「下がれ!」
 退魔師の少年が強引にキサラギを突き飛ばし、割り込むようにその場に残った。
 伸びた手が少年の首を掴み、大量の血色の槍が彼を貫く。
 学生服は切り裂かれ、心臓をも貫かれた少年はそのまま反対側の欄干へとぶつかり、そして光の粒子になって消えた。
「おいおい、今のは……」
 突き飛ばされたことで拘束が解除されたようで、キサラギは再び立ち上がる。
 ラピスラズリが慎重に距離を取り、ダガーを手に取った。
 ぼろけた衣装を引きずり、橋へと再び這い上がってくる鬼。ずぶ濡れになったそれを引きちぎって捨てると、長い髪を手でなでつけるように後ろへと払った。
 目元に描かれた赤い紋様。胸元にかけて伸びる赤い紋様。シンプルな、しかし印象的なそれを見て、ラピスラズリはふしぎと直感することができた。
(これまでの相手とは違う……)
 試しにとダガーを投擲してみるが、鬼はそれを腕の一振りで打ち払ってしまった。
 これまで簡単にできていた【怒り】効果の付与が極端に難しくなった。そう思えた。
 アイシスは再び別の形状の氷ステージを作り出すと、次なる歌を歌い始めた。『ショックボイス』と呼ばれる特殊な魔力発声法によって指向性を持った声が、橋の上にただ立つだけの鬼へと浴びせられる。否、突き刺さる。
 かぐやも負けじと両手に竹槍を作り出し、投擲の連射を開始した。
「その角、へし折ってあげましょう!」
 鬼はちらりとかぐやを、そしてアイシスをそれぞれ見ると小さく息をついた。それだけで生まれた血色の槍が、飛来する竹槍を相殺する形で放たれ魔法の声をも打ち消した。
「今までのように完封するのは無理だ。いや……それが出来る相手ならそもそも……」
 イズルは鎖剣を展開すると、まるで意思を持った蛇のようにそれを操り鬼の脚から腰にかけてに巻き付け拘束――したかと思いきや、鎖剣を直接握りこんだ鬼の腕力によって逆に引っ張られ、宙を舞った。
 このまま着地できる場所は……と地面を探ったところで鬼がそれまでの場所にいないことに気付く。
 不自然、不安、そして直感。自分のすぐ脇に現れていた鬼に対し咄嗟のガードを試みたが、イズルは強烈なパンチを受けて地面へと急降下。橋を破壊しながら川へと墜落した。
「女性は全く対象外だけど、話ぐらいは聞くよ?
 殺して待ってたら男なんて戻ってこないよ!
 待つならお店しながら待つと良いよ、そしたらフラッとやってくるよ。
 男ってのはそういう無責任な生き物なんだし☆」
 とはいえ空中ならばかわすことも難しい筈。ハンモは再びキラキラのエフェクトを出すと鬼へと浴びせかけた。
 空中で血色の壁を作り出してエフェクトを防御する鬼。今度は大量に重ね合わせた壁であったためか簡単には破れなかったが……。
(なんでまたこのねーちゃんは、逃げた男を待ち続けようとしたんだろうなー。さっさと忘れて別の恋に生きれば幸せになれたと思うぜ)
 ルージュは壊れかけた橋の欄干上へ飛び乗ると、強く蹴って跳躍。防御中の鬼へと急接近をかけた。
 多重構造の壁もハンモの攻撃によって脆くなっていたのだろう、渾身の『愛の力』で殴りつけると謎の発光と共に壁が崩壊。余った衝撃で鬼は川へと墜落――しかけた所で空中に生み出した血色の壁を蹴って離脱。川べりの土手へと着地した。
 と、そこへ。
「よう、鬼。逃げた男を殺し損ねたか?」
 橋の下の暗がりより、一人の男が現れた。先ほどのバンカラ少年……のようだが、少しだけ様子が違う。シャツは着ておらず、上着のボタンはひとつも残っておらずズボンの裾はひどく破れていた。マントに至っては随分な損傷具合だ。更に、刀の代わりにやや厚みのある木刀を担いでいた。
 彼の目元や胸元にはシンプルながら印象的な血色の模様が描かれていた。
「キサラギ。カイト」
 ちらりと振り返ったナナシノ少年に、カイトは小さく笑った。
「なんだ。特攻でもして隙を作ってくれるって?」
「その通りだ。俺ごとやれ」
 ジョークを言ってみたつもりが、そのまま肯定されてしまった。カイトは笑みをより深く苦くして、結界の楔を放った。
 と同時に鬼めがけて突撃するナナシノ少年。
 繰り出した木刀が血色の剣とぶつかり合うが、じわじわとその剣を木刀が侵食していった。
「んじゃ、今度こそしまいにしようか!」
 仕留め損なったついでだ、とキサラギは橋から跳躍。月光とガス灯の明かりを背にして、三本刀による旋風を巻き起こした。斬撃――と呼ぶにはあまりにすさまじい衝撃が鬼とナナシノ少年にまとめて降りかかる。
 波となった衝撃が周囲の風景ごと吹き飛ばし、鬼はごろごろと転がった。
 そこへ『予め』仕掛けられていた結界が発動。カイトが印を結び眼帯の下で目を細めた。
「いつまでも狂暴な鬼女のままじゃあ、折角の古典が台無しだぜ」
 結界から吹き上がった強烈な冷気の柱。それにつつまれた鬼は力を失い、そして砕ける霜のように消え去った。
 のそりと起き上がるナナシノ少年。
「――まぁったく。『どこまで』信じた方が、そちらに都合が良いのかな。『嘘吐きさん』」
「――信じたいものだけ信じればいい。俺は嘘しかつかないからな」
 あからさまな矛盾を言って、ナナシノ少年は振り返り、そして不器用に笑った。

●なべて世はこともなし
 後日談はない。若者が暴れたせいで橋が壊れたのだといって、翌朝から早速大工が修復を行っている。都市伝説も、襲われる男もいない。
 ただあるのは、橋の欄干の外に、枯れ木がひとつたっていたことだけだ。





成否

成功

MVP

なし

状態異常

イズル(p3x008599)[死亡]
夜告鳥の幻影

あとがき

 ――バンカラ少年、改め『ナナシノ少年』が仲間になりました。

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