シナリオ詳細
フフとプティと白い花。或いは、当たり前の幸せを求めて…。
オープニング
●砂漠に咲く花
明るい夜が明ける頃、ほんの一時だけその花は咲き誇るという。
年に一度だけ、長い時間をかけて蓄えたエネルギーを解放するかのように、夜明けよりなお鮮烈な白い輝きを放つ。
あまりの神々しさに、人々は見惚れ、そして噂した。
その光には強い“破邪”の力が宿る、と。
光を至近で浴びたなら、向こう1年は安泰だ。身を侵す病も、光を浴びればたちまちに治癒する。
花を得れば、生涯あらゆる苦難を退け、幸福が約束されるだろう。
商人、貴族、冒険者、あらゆる者が花を求めて砂漠の遺跡を訪れた。
円形に8つ並んだ石柱は、果てして何を目的として建てられたものか。
花は決まって、その中心に咲くという。
そして、遺跡の周囲にはいくつもの人骨が転がっている。
花を求めた者たちの、哀れな末路がそれである。
花を守護する騎士たちが、盗人どもを斬り捨てたのだ。
古い書物のページを捲る手を止めて、女は青い髪をそっとかきあげた。
彼女の名はフフ。ラサを旅する商人だ。
「文献によって騎士の数は違うわねぇ。4人だったり、5人だったり」
「去年は3人だったって……だんだん、減ってる、けど……強そうだよ?」
本当に花を取りに行くの?
そう問うたのは、茶色い髪の小柄な少女、プディである。
「だっているでしょう? 去年から、散々な目にあってばかりなのよ?」
垂れた瞳を細くして、フフは言う。なるほど確かに、フフとプティはひどく運が悪いのだ。
この1年、幾度のトラブルに巻き込まれ、何度も何度も死にかけた。
砂漠で魔物に襲われ。
盗賊に追い回され。
地下遺跡に転落し。
大商人と張り合った。
どよん、と肩を落とした2人は同時に大きなため息をこぼす。
思い返せば思い返すほど、運の悪さにうんざりする。
何か良くないものにでも“憑かれて”いる気がして仕方なかった。旅の途中に曰く付きの場所にでも立ち寄ったことがあっただろうか?
無い、とは言い切れないのが行商人の辛いところだ。
明後日の方向へ視線を向けてプティは呟く。
「それは……同感」
「危険な仕事は、これで最後にしましょう? 私、普通の旅商人でいたいの」
「……それは」
難しいと思う。
その一言を、プティはどうにか飲み込んだ。
●白い夜の物語
「年に1度だけ、それは白い花を咲かせる。そして、その地では時折、陽の沈まない夜が訪れる」
白い花が咲くのは、決まってその夜の夜明けごろ。
ほんの数時間ほどの間に限る。
『黒猫の』ショウ(p3n000005)は手元の資料へ視線を落としてそう言った。
ラサに多くある来歴不明の古い遺跡。
白い花が咲く場所にも、それがあった。
等間隔に、円を描くように並ぶ8本の石柱。花は、並んだ石柱の中央に1輪だけが咲いている。
「その花を手に入れれば、生涯幸運でいられるという言い伝えがある。フフとプティが花を求める理由もそれだな」
事実、開花と同時に花は鮮烈な光を放つ。
その光を浴びた者は、その身を侵す病魔がたちまち消え去ったという。
少なくとも、白い花の放つ光には【BS回復】の効果が備わっていることに違いはないだろう。
実際、過去には花の光を浴びることに成功した者もいるようだ。
「しかし、花を手に入れ持ち帰った者はいない。ほとんどの者は花に近づくこともできず、騎士に斬られて命を落としたそうだ」
商人、貴族、冒険者。
誰もが生涯の幸運を求め、白い夜に遺跡を訪れた。
そして、そんな彼らの前に立ちはだかった騎士たちによって、彼らは哀れにも命を落とした。
白い夜、遺跡の周囲に現れるというその騎士たちは、おそらくアンデッドの類だろうと予想される。
「文献に記録されている限りだと5人だったり4人だったり……数が安定しないな。ちなみに昨年は3人の騎士が現れたという」
1人は、赤い鎧に長剣を携えた騎士。
もう1人は、蒼い鎧に大戦斧を携えた騎士。
最後の1人は、黒い鎧に大盾と剣を携えた騎士。
それぞれ【必殺】【失血】【魔凶】【致命】の付与された攻撃を行うという。
騎士たちは個人の武勇に優れ、状況に応じて高度な連携も行使する。
生前の動きをトレースしているのだとしたら、さぞ高名な騎士たちであったのだろう。
「……言い忘れたが、依頼の内容はフフかプティを花の元へ辿り着かせることだ。自分たちの手で花を手に入れなければ“幸運”は得られない気がするんだと」
実際のところ、2人を現場へ連れて行くのはかなり危険だ。
しかし、それと同時にショウはこうも考えている。
もしも、花の効力が摘んだ当人にしか及ばないとしたら……と。
「あぁ、それと……フフとプティが傍にいるせいでお前たちは常に【不運】が付与された状態に陥るだろう。そのことを忘れないでくれ」
なんて、言って。
ショウは一行を送り出す。
- フフとプティと白い花。或いは、当たり前の幸せを求めて…。完了
- GM名病み月
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年07月24日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●白い花を護る騎士
もうしばらくで夜が明ける。
1年の中でも一等に夜の明るい時期だ。
砂漠の夜はひどく冷える。
吹きすさぶ冷たい風に身を震わせて青い髪の女は白い吐息を零す。
「大丈夫?」
茶色い髪の華奢な少女が、青髪の女にそう問うた。
「え、えぇ。武者震いよぉ、武者震い」
青い髪の女……フフはぎこちない笑顔を浮かべた。当然、フフの強がりは少女……プティにもばれているが、そこを追求するような野暮な真似はしなかった。
「手に入れようね……白い花」
「えぇ、昨年から続く不運の連鎖を、断ち切ってみせるわぁ」
馬車に背中を預けたまま、2人は砂漠の真ん中……正確には、そこにあった小さな遺跡へ視線を向けた。そんな2人を横目に眺め『白き寓話』ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)は小さな声で言葉を零した。
「運が悪いだなんて……気のせいというか、気の持ちようのような気もするのだけれどね」
もうじき、夜が明ける。
遥か東の彼方から、太陽が覗き始めていた。
白い光に照らし出されるようにして、遺跡の前に3人の騎士が現れる。
「貴方たちは何故ここに居るの? ここはどんな場所なのかしら?」
静かに佇む3人の騎士へ、ヴァイスはそう問いかけた。
しばしの沈黙。
騎士からの返答はない。
ただ、冷や汗が滲むほどに強い敵意と使命感のようなものを感じるだけだ。
「ハッハー! どうやら返答はないみたいだな。よし、露払いは任せときな!」
これ以上、待機していても時間の無駄と『鬼火憑き』ブライアン・ブレイズ(p3p009563)が前へ出る。
今回、フフとプティが求めている白い花が開花している時間は僅か。夜明けから、ほんの少しの間だけなのだから、無い返答をいつまでも待っている余裕はない。
ブライアンが数歩遺跡へ近づけば、3人の騎士はそれぞれの武器を構え、臨戦態勢を整える。1人は戦斧を、1人は大剣を、1人は剣と盾を。綺麗に揃ったその動きから、彼らがしっかりと訓練を積んだ騎士なのだとわかった。
「お2人とも、白い花がそこにありますが、不用意に近づいてはいけませんよ!」
「ラサに騎士だなんて……砂地でその鎧は足を取られないのかしら?」
剣を手にした『優愛の吸血種』ユーリエ・シュトラール(p3p001160)と、大鎌を手にした『竜首狩り』エルス・ティーネ(p3p007325)は、フフとプティを背に庇う。
しかし、3騎士の視線は現在のところブライアンにだけ向いていた。
「ほぉ? おそらく、この辺りより前に出ると騎士たちの警戒網に引っかかるというわけじゃな。つまり、前衛で積極的に騎士たちを攻撃していれば後ろの皆に攻撃は向かわないということじゃ」
騎士との対話が期待できない以上、戦闘は回避不能であろう。『元気なBBA』チヨ・ケンコーランド(p3p009158)は老人らしからぬ闊達さでもって、両の腕を高く掲げた。
「皆、忘れないでね。運が悪くなってるんだから、無理そうなら撤退するよ。命あっての物種なんだから」
『テント設営師』フォルトゥナリア・ヴェルーリア(p3p009512)の言うとおり、今のイレギュラーズはフフとプティの影響により【不運】が付与された状態にある。
フォルトゥナリア自身は、多少運が悪くなっても問題なく動けるが、誰もがそうとは限らない。とくにフフとプティの行動には注意を払う必要がある。
ぐちゃり、どちゃり。
砂の底から、朝焼けの中生まれた影から、暗く輝く泥が零れた。
泥から生じる蛇に蠍に、得体のしれない羽虫たち。『砂漠の蛇』サルヴェナーズ・ザラスシュティ(p3p009720)が腕を振るえば、それはブライアンやチヨの周囲を取り囲む。
「いつまでも眠れない死者というのは、哀れなものですね。終わらせてあげましょう。彼らの物語を」
「気をつけるのじゃぞ……あれは、パワースポットか、それとも、ある種の神殿か? 何かしらの効果のある布陣じゃからな」
そういって『砂礫の風狼』ウルファ=ハウラ(p3p009914)は騎士たちの背後、8本並んだ石柱を見やる。
8本の石柱が描くは円形。その中心に、白い花が咲いている。
朝焼けよりもなお白い光が、遺跡の内側を満たしていた。あらゆる災いを打ち払うという伝承のある白い花。年に1度だけ開花するそれを獲得できれば、生涯不運に悩まされることは無いだろう。
「遺跡に騎士に白い花……いかにも意味がありげじゃの」
褐色の腕を顔の高さに掲げたウルファは、その指先に黒く不吉な魔力を集めた。
●3騎士の使命
空気を切り裂き、まっすぐに。
闇を纏めて、不吉で塗り固めたような黒い魔弾が騎士へと迫る。
黒騎士は、構えた盾でそれを弾いた。
「騎士ども、お役目大義である。が、今は去れ。この者らは盗人どもとは訳が違う」
尊大な口調でウルファは告げる。
風の精霊たるウルファの性格は、かつて彼女が契約していたある王族のものを真似たものだ。自然、彼女にとって“当たり前”の口調というのは、王族の感覚に近しいものとなるのであった。
とはいえ、騎士たちの本性はアンデッドだ。
何らかの意思らしきものは感じるが、人の言葉がしかと通じているのかどうかも怪しいものだ。そも、退けと言われて退く程度の騎士が、長い年月、この地に留まるはずもない。
ウルファの援護射撃に合わせ、ブライアンとチヨが駆け出す。それを迎え撃つように、戦斧を構えた蒼い騎士が数歩前進。
やはり、騎士たちは遺跡を……遺跡に咲く花を護っているらしい。
「まぁ……などと言っても伝わらんよな。命令系統からして違う、アンデッドの守護者ではな」
続けざまに魔弾を撃ち込むウルファ。
試しに遺跡を狙ってみれば、黒い騎士はそれも阻んだ。
「集中砲火で数の有利を活かしたいところだが……っ」
「遺跡や仲間から付かず離れず……戦い慣れておるのぉ」
地面に足を沈ませるほどの力強い踏み込み。
蒼騎士はブライアンとチヨを纏めて叩き斬るべく、大戦斧を大きく薙いだ。力任せに振るわれたそれを回避するのは難しくない。
敵が1体だけならば……という条件付きではあるが。
「左は無理じゃな」
赤い騎士が剣を構えて立っている。斧を回避し、姿勢を崩したその隙に突きか薙ぎかを食らわせるつもりなのだろう。
チヨはその場で跳躍すると、ブライアンの胸へと蹴りを叩き込む。
「おわっ!?」
「数歩後退してから、右へ回り込むんじゃよ」
ブライアンが大斧を回避した代償に、チヨは胸から肩にかけてを深く裂かれた。幸いに腕が断ち切られるほど、大きなダメージは受けていないが、肩を斬られては拳骨を繰り出すことは難儀を極めるだろう。
「それにしても、ちょっと気になることが多いのぉ」
肩を押さえ、地面を転がるチヨは確かにそれを見た。
一見すれば、隙のないように見える3人の騎士たちの布陣だが、その実、ところどころに穴があるのだ。
例えば……今しがた地面に倒れたチヨへの追撃は行われなかった。
その眼前にユーリエが迫っているのも理由の一端だろう。
けれど、それにしたって赤騎士は冷静に過ぎるように思われる。
赤騎士は剣を構えたまま、ただ静かに立っている。本来であれば、槍や矛、或いは弓による追撃が、行われると確信しているかのように。
チヨを襲った蒼騎士へ、毒蛇や蠍、羽虫の群れが襲い掛かった。
その隙にチヨは一時後退。
ブライアンは、チヨの指示に従い右方向へと駆けていく。
「経年劣化か? 盾が欠け始めておるの」
「では、予定通り黒騎士から崩す方針で」
そう告げてサルヴェナーズは、瞳を覆う布に手をかけた。
まっすぐに顔を騎士たちの方へと向けると布を引き剥がす。顕わになった緑の瞳が、まるで水面のように揺らいだ光を放った。
「きっともう、眠りたいはずですから」
戦場に湧き出す毒蛇の幻影。
それを斬り捨てるべく、黒騎士は剣で足元を払う。
黒騎士の注意がそれた一瞬の隙を突き、ブライアンは盾を押しのけその懐へ肉薄。
「この距離なら……強烈な一撃を喰らわせてやらァ!」
下段から、逆袈裟掛けに斬りはらわれる機械剣。ブライアンの気勢に伴い、火炎を噴いたその剣は、黒騎士の鎧を胸から頭部にかけて斬り裂く。
高熱に焼け解けた裂断面。顔を覆う鎧の一部が、斬り落とされて地面に転がる。
「っと……やっぱ、そうなってるよな」
顕わになったその顔に、眼球は既に存在しない。空洞と化した眼窩。乾いた肌に、削げた頬や鼻。ミイラ化した青年の顔だ。
剥き出しになった顔面へ、剣を叩きつけるべくブライアンが剣を上段へと掲げる。
直後、砂に足を取られた彼は姿勢を崩す。
「っ……ここでかよ」
姿勢を崩したブライアンの腹部を、黒騎士の剣が突き出した。両者ともに姿勢が崩れていたせいか、致命傷には程遠いが、止血をせねば加速度的に体力を消耗するだろう。
「特異運命座標だもの、このぐらいの不運慣れっこよ」
蛇は羽虫の幻影に紛れ、接近していたエルスの姿を黒騎士は認識していなかった。
空気が白むほどの冷気が、3騎士の足元を這う。
一閃。
振り抜かれた氷の鎌が、黒騎士の顔面に突き立った。
膝を折るようにして、黒騎士はその場に倒れ伏す。最後に1度、彼は背後を……白い花を一瞥し、それっきり活動を止めたのだった。
「フフ……あの人、血が」
「え、えぇ、そうねプティ……あの人、大丈夫、なのぉ?」
顔を見合わせ、頬を引き攣らせている2人は有体に言ってドン引いていた。
腹に風穴を開けたまま、ブライアンは蒼騎士と斬り合っていた。蒼と垢の騎士2人は、既に白い花の光をその身に浴びて、状態異常を脱している。
「大丈夫だよ。それに、ここで諦めたりしないで。2人には元気を出してもらいたいし、少なくともここまで生きてきたことや、私達に頼ったことは、幸運か2人の実力だったって思ってほしいの」
その手に淡い光を灯し、フォルトゥナリアはチヨの傷を治療する。
そうしながらも、優しい笑みをフフとプティへ投げかけた。
「えぇ、そのとおりよ! それにしても、この砂地でも花は咲くものなのだと驚いてしまうわね! ラサの花……一緒に見ましょう!」
前線で鎌を振るうエルスがフォルトゥナリアの言葉を次いだ。
彼女の肩を、赤騎士の剣が斬り裂くが、その攻勢は衰えない。冷気を散らし、長い黒髪を躍らせながら戦う彼女は、さながら砂漠を走る死神のようだ。
「さて……」
治療を終えたチヨが立つ。
最前線で戦い続けるブライアンを、1度後退させるため、彼女は再び最前線へと駆け出した。
薙ぎ払われた大斧を、黒い影が叩き落した。
「その斧は、降ろしていただけないのかしら?」
白い髪、白いドレスを砂に汚したヴァイスは告げる。
そんな彼女へ視線を向けた蒼騎士は、直後真下から振り上げられた掌底を受け仰け反った。チヨによる不意打ちを受けながら、蒼騎士はしかし決して斧を手放さない。
しかし、斧を封じてしまえばその脅威も半減となる。
ヴァイスはチラと背後を見やると、治療途中のブライアンへと合図を送る。
「よっしゃ、行くぞ!」
「はぁ? え、どこに」
「花を取りに……じゃない?」
ブライアンに促され、フフとプティは駆け出した。援護のために、フォルトゥナリアも付いて行く。
そんな2人へヴァイスは告げる。
「なにかあっても大丈夫、今日はちょっと運が悪いだけよ」
「ちょっと!! 不用意に近づいてはいけませんよ!」
振り下ろされた赤騎士の剣を受け止めながら、ユーリエはフフとプティへ告げる。
本来であれば、安全を確保したうえで2人を遺跡へ進ませたいのだ。
しかし、不用意に近づくな、とは言ったものの時間的な余裕が少ないのも事実だ。東の空が白くなるにつれ、白い花の放つ光は徐々に弱まっているのだから。
「あぁ、もう……危なくなったら“最後尾に退避”を徹底してくださいね!」
赤騎士の剣は重く、速い。
単純な剣の腕前だけなら、赤騎士はユーリエより上だ。
手傷を負いながらも、ユーリエは赤騎士を抑えることに成功しているが、それがいつまで続くものかは分からない。例えばウルファかサルヴェナーズの援護が一時、途切れてしまえば一瞬で形成を逆転されかねないほどの綱渡り状態なのである。
そして、フフとプティの影響により【不運】を付与された現状、そういった行動失敗の可能性は常に考慮しておくべきだ。
「っ……」
赤騎士の剣に膝を斬られ、ユーリエはその場に倒れ込む。
ユーリエが立ち上がるより速く、騎士の剣がその背を刺し貫いた。
「が……ぁぁ!?」
『…………』
戦闘不能と見て取ったのか、赤騎士の狙いは遺跡へ迫るフフとプティ、先頭を走るブライアンやフォルトゥナリアへと向いた。
けれど、それは些か早計に過ぎる。【パンドラ】を消費し、意識を繋いだユーリエは、震える手をあげ技を行使する。
「この……2人には、これから先の未来を幸運に生きてもらいたいのですよ!」
邪魔をするな。
そんな想いを胸に抱いて、ユーリエは黒い霧を周囲へ展開させた。
●白い花
ヴァイスの脳裏に“想い”が響く。
蒼騎士の斧が、ブライアンの腕を裂いた。怯まず彼は、蒼騎士の胴にしがみつくと、力づくでその体を押し倒す。
『行かせない』
そんな強い想いの共に、蒼騎士は腕を伸ばした。
伸ばされた腕の先にはフフの細い脚首。けれど、蒼騎士の手がフフの脚を掴む直前、その手首に毒蛇が巻き付き、締め上げる。
仰向けになった蒼騎士の顔面に、ブライアンが拳の雨を降らる。
鈍い殴打の音が響く。
この至近距離ではお互いに得物を振るえない。
『行かせない』
そんな想いがヴァイスの脳裏に響き渡る。
怒りでもなく、敵意でもなく、それは深い敬愛とそして悲しみの想いであった。
「……さて、どうしましょう?」
ウルファの放った不可視の悪意が、蒼騎士の手首を貫いた。折れた手首が地面に落ちたが、それでも蒼騎士はもがき続ける。
フフとプティが遺跡へ至る。
2人が石柱へと差し掛かった、直後、背後で激しい剣戟の音が鳴り響く。
強引に起き上がった蒼騎士が、ブライアンの脚を掴んでその巨躯を振り回したのだ。
赤騎士の相手をしていたチヨやエルス、ユーリエを纏めてなぎ倒しながら蒼騎士は地面を蹴って駆けだす。けれど直後、限界を迎えた脚首が折れ、蒼騎士はその場に再び倒れた。
「あんなにボロボロになるまで戦って」
サルヴェナーズは言葉を零す。
蒼騎士や赤騎士、既に倒れた黒騎士も長くこの地で風雨にさらされ続けたのだろう。
乾ききった肉体はもちろん、鋼の鎧の耐久も限界だったようだ。
しかし、蒼騎士が作った時間は赤騎士に自由な時間を与えた。
花の放つ白い光を浴びながら、赤騎士はフフとプティへと疾駆。背後よりサルヴェナーズやウルファが援護を試みるが、間に合わない。
大上段から振り下ろされた大剣は、けれど2人を裂くことはなく……。
「貴方たちを、フフさんやプティさんに近づけたくないからね」
割り込んだフォルトゥナリアが、代わりに剣に斬り裂かれた。
フォルトゥナリアが血飛沫の中に沈みその直後……。
「それ以上はいかーーーん!!」
地面を蹴って、弾丸のごとく跳ねた老婆の蹴りが赤騎士の側頭部を打ち抜いた。
倒れたフォルトゥナリアの視界にそれは映った。
8本の石柱。
その影に並ぶ、幾つかの鎧と槍や弓、大盾、戦鎚、双剣といった武器。
「守るのだ……と。今も、ずっとそう言っているわ」
フォルトゥナリアを助け起こしたヴァイスが告げる。
自身に治癒を施しながら、フォルトゥナリアは周囲を見回す。
8本の石柱。
5つの鎧と、5種の武器。
「これって、墓石……なの?」
光を放つ白い花へと視線を向ける。
花の前に立つフフとプティは、花を摘むこともないまま、立ち尽くしていた。
「ねぇ……フフ、これ」
「指輪かしらぁ?」
白い光が弱まっていく。
開いた花弁の中に、小さな指輪が納まっていた。
「ちゃんと見れた?」
肩を押さえたエルスが問うた。
フフとプティは言葉を返さず、じっと花を見つめている。
2人は花を摘みに来たのだ。
けれど、それを成せぬまま花はやがて光を消して花弁を閉じた。
次の開花は1年後。
けれど、花を護る騎士たちはこの日、全員がその役目を終えてしまった。
「良かったの?」
エルスは問うた。
フフはどこか寂し気な笑みを浮かべて答える。
「私たちが摘み取って良いものではないわぁ。お墓に供えられた花を、横から盗んでいくなんて商人の仕事じゃないもの」
「そう。それじゃあ……帰りましょ。二人共お疲れ様……帰ったら紅茶をご馳走するわ」
おそらく、元々この遺跡には8人の騎士が眠っていたのだ。
彼らは主の遺品と、主の植えた1つの花を護るため、アンデッドとなってそこにいた。
長い年月の中、1人、2人と騎士たちは限界を迎え、倒れた。
「なんて……想像でしかないけどね」
そう呟いたフォルトゥナリアは、ウルファやサルヴェナーズと共に騎士たちを土に埋めることにした。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
あとがき
お疲れさまでした。
フフとプティは、無事に白い花のもとへ辿り着きました。
依頼は成功となります。
3人の騎士と遺跡と花と商人たちの物語、お楽しみいただけましたでしょうか。
この度は、依頼にご参加いただきありがとうございました。
縁があれば、また別の依頼でお会いしましょう。
GMコメント
●ミッション
フフorプティを白い花の元へ到達させる
●ターゲット
・白い花
砂漠に咲く花。
開花している間は、鮮烈な白い光を放つ。
光を浴びることで、対象の【BS】を回復させる。
1年に1度、1輪だけしか開花しない。
・3人の騎士
赤、蒼、黒の鎧を纏った騎士。
恐らくアンデッドであろうことが予想されている。
かつては4、5体の騎士が確認されていたが、昨年は3体のみにしか確認されていない。
騎士たちは遺跡を護るように並んでいる。
赤い騎士は長剣による単体攻撃。
蒼い騎士は大戦斧による範囲攻撃。
黒い騎士は盾と剣による攻防一体の単体攻撃をそれぞれ得意としている。
付与されるBSは以下の通り。
【必殺】【失血】【魔凶】【致命】
・フフ&プティ
フフは青髪の商人。
プティは赤茶色の髪の小柄な少女。
各地を旅する行商人。
非常に運が悪く、トラブルに巻き込まれやすい。
そんな現状を打破するために、白い花の獲得を目指しているが、そもそもそれがある種のトラブルであることに気付いていない。
同行者であるイレギュラーズは彼女たちの影響を受け常に【不運】が付与された状態となる。辛い。
●フィールド
砂漠の真ん中にある遺跡。
時刻は夜明けごろ。
空は白く、視界は良好。
8つの石柱が円形に並んでおり、その中央に白い花は咲いている。
白い花の光が届く範囲は、およそ円形に並んだ石柱辺りまで。
白い光を浴びることで付与されている【BS】が解除される。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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