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シナリオ詳細

砂塵舞う地に、走れイレギュラーズ!

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●今日の嘆き
『金がねぇなぁ~~~~』
 はぁ~~~~~~、と、ローレットの出張所である酒場の片隅でテーブルに頬杖をついて長い長いため息をつくのは、サンディ・カルタ (p3p000438)、キドー (p3p000244)、ニコラス・コルゥ・ハイド (p3p007576)の三人である。三人はコップに注がれていた冷水をきゅっと飲み干すと、三人同時に、
『お冷もう一杯』
 と、お冷を注文した。酒を飲むにも、今は懐が寂しい。よって、さっきから無料の水で唇を湿らせてクダをまいているわけである。
 いやいや、こうしてイレギュラーズがローレットに張り付いているのは、仕事を探すためなので、何も悪い事ではない。それはそれとしてウエイトレスの姉ちゃんの視線が冷たい。
「しかしなんで金ってなくなるのかね。不思議じゃねぇ?」
「そりゃ使うからなくなるんだよ。アンタの場合はほら、博打がさ」
 ニコラスのボヤキに、キドーがストローを噛みながら言う。
「いや、流れは来てたんだよ、こりゃ勝つ流れってな。何がいけなかったかねぇ? 勝負の女神さまは気まぐれでいけねぇ」
「そりゃ負ける思考だよ旦那」
 サンディが言う。
「しかしキドーさんも金がないってのは珍しいな。なんかあったの?」
「あー、最近ラサで仕事受けようと思っていろいろ張り切ってたんだけどよ、先行投資ッつうかな……色々先立つもん買いそろえてたらなぁ」
「あー、分かるわ、それ。まぁ、でも今は耐える時期じゃん、そう言うのってさ」
「分かってんだけどよぉ~~~~お金欲しくない? 今すぐ。ナウで」
『欲しい~~~~~~5000兆ゴールドくらい欲しい~~~~~~』
 ばたん、とテーブルの上に上体を投げ出す三人。
「そんな野郎どもに耳よりのおはなしが」
 と、三人の座るテーブルにぱたぱたと跳び込んできたのは、『小さな守銭奴』ファーリナ(p3n000013)だ。手には一枚の紙きれを持っていて、それをぱたん、とテーブルの上に置く。そこにはこんなことが書いてあった。

 ~ラサ縦断・パカダクラ大レース開催のお知らせ~
 来る七月吉日、この記念すべき日に、第33回ラサ縦断・パカダクラ大レース大会を開催することをお知らせいたします。
 この伝統あるサバイバルレースは、元はパカダクラにのり、ラサの砂漠を3日をかけて走破するという大変過酷なレースでした。
 現在もその過酷さに変わりはありませんが、近年の他国の出身者や旅人(ウォーカー)らの参戦なども鑑み、乗騎には制限をつけない、何でもありのレースとなっています。

「レースだぁ?」
 ニコラスがそう言うのへ、ファーリナは頷いた。
「レースです。もちろん優勝すれば賞金が出ます……と言うわけで、出ましょう!」
 ばん、とファーリナがテーブルを叩いた。サンディは胡散臭そうな目でファーリナを見ると、
「で、そのこころは?」
「はい! 伝統あるレースですから、当然外ではその勝敗に関しての賭け事が行われます! 皆さんは参加者なので賭けには参加できませんが、それはそれとして私は部外者なので皆さんの優勝に全賭けします!!!!! それでお肉を食べます!!!!」
「だと思った」
 キドーが鼻を鳴らした。
「ですがこれは皆さんにとってもチャンスですよ。実際賞金は出ますからね」
「まぁ、そりゃそうなんだが」
 サンディが、ふむん、と唸った。
「どうするよ、出てみるか? 俺はまぁ、出てもいいと思うけど」
 キドーが言うのへ、ニコラスがむぅ、と唸って、
「そうだなぁ……確かに、ここで冷水飲んでクダまいてても仕方ないからなぁ」
「出ますか? あ、ちなみに最大8人チームの参加ですので、仲間がいればいるほど有利になりますよ?」
「そうだな。じゃ、せっかくだから他の連中にも声かけてみるわ」
 サンディが言うのへ、ファーリナは満足げに頷いた。
「了解でーす! じゃ、エントリーとかしときますので! 儲けさせてくださいね!」
 欲望を隠そうともせず言い放つファーリナに苦笑する三人であった――。

●開催! ラサ縦断・パカダクラ大レース!
 ラサ縦断・パカダクラ大レースは、3日をかけてラサの砂漠、岩石地帯、遺跡地帯、オアシス地帯などを走破する過酷な競技である。
 サンディはチラシを読みながら、言った。
「一日は、日の出とともにレースはスタートし、日の入りと共に時間制限を迎える。日が沈み切るまでにチェックポイントに到着できなければその時点でリタイア。もちろん、道中で要救助状態になっても即リタイア……ね」
 過酷なこのレースでは、道中でのリタイア者が最も多いという。
 何せラサの大自然をそのままレース場としているため、ダイレクトに自然そのものが敵として襲い掛かってくる。熱。未舗装の路。そして砂賊や魔物の類なども、自力で対処しなければならない。
「使用する乗騎は、足とタイヤが地についていればなんでもOK。極論、車でも良い、と。まぁ、ラサの過酷な自然を走れる車など、混沌では数えるほどしかないだろうけどな。登録可能乗騎数は1チーム最大8騎、つまりチーム人数分までか」
「で、1区画を走った騎手は、次の区画を走れない……って事は、交代して走ることになるわけか」
 キドーが冷水を飲みつつ言う。
「人数配分も重要だな。安全な区画は一人に任せて一気に駆け抜けて、危険そうなところに人数を集中して安全に走る……ってのも必要かもしれない」
 ニコラスはそう言って、静かに息を吐いた。
「意外と考えることは多そうかもなぁ。要相談って感じで」
「金がかかってるレースだからな。しょうがない」
 キドーが言う。
「とりあえず、仲間を募って作戦決めるか」
 サンディの言葉に、三人は頷く。

 かくて、それより数日後。
 ラサのオアシス都市に、イレギュラーズ達は居た。
 多くのカラフルなのぼりや旗が舞い踊り、沢山のパカダクラや馬などの騎乗動物、果てやクルマの類までもが、街に集結していた。
 ラサ縦断・パカダクラ大レースのスタート地点である。エントリーした騎乗動物はやはりパカダクラが最多だったが、上述したようにそれ以外の姿も見えた。
 イレギュラーズ達は、練り上げた作戦を胸に、スタート位置につく。
 主催者の長々とした挨拶を聞き流し、スタートの開始をじっと待つ――果たしてどれだけの時間が過ぎただろうか。観客たちの声と共に、3カウントダウンが始まって、それが2、1となるごとに、緊張と興奮が身体に沸くのを覚えた。
 スタート、の合図が響く。それと同時に、イレギュラーズ達もまた砂漠に向けて走り出した。
 さあ、三日間の大レース、ここに始まりである。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 此方のレースは、イレギュラーズ達の参戦(リクエスト)からスタートするレースになります!

●成功条件
 ラサ縦断・パカダクラ大レースの優勝

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

●状況
 ラサの砂漠を横断する、パカダクラ(に限りませんが)による大レース。皆さんはそのレースに参加し、優勝を競い合う事になりました。
 勝てば賞金、まければ敢闘賞。完走するだけでも名誉ですが、狙うはもちろん優勝です!
 さぁ、この過酷なレースを勝ち抜きましょう!

●レースのルール
 1.乗騎(乗り物)は『地に足やタイヤがついていればなんでもOK』。登録できる数は、最大8騎まで。
 2.1区間を走ったものは、次以降の区間は走れない。
 3.日の出とともにスタートし、日没までにチェックポイントにつけなければ失格。

●走行区画
 1.オアシス都市~砂漠
  スタート地点から中継地点の砂漠の野営地まで、砂漠を走ります。
  ここが一番安全な場所です……もちろん、砂漠と言う場所の厳しさはありますが。
  この区画で速度を稼ぎ、なるべく速く走破できるようにすると良いかもしれません。

 2.砂漠~廃遺跡
  砂漠から廃遺跡を抜けるコースです。
  砂漠の過酷さと、廃遺跡に隠れた砂賊による襲撃が危険視される区画です。
  砂賊への対処は自力で行ってください。なるべく多くの人数で、安全を優先して走ると良いかも。

 3.廃遺跡~岩石地帯~オアシス都市
  廃遺跡を抜けて岩石地帯をすすみ、ゴールのオアシス都市へ到着するルートです。
  前区画までの貯金(なるべく早くゴールをすることで有利点を稼ぐ)があれば、少しは楽になるかも。
  また、岩石地帯は険しく、操パカダクラ技術に自信のあるものが騎手になると良いと思います。
  最も長い区間でもあるため、ペース配分や休憩のタイミングには気をつけましょう。

●乗り物について
 前述したとおり、地に足がついていればなんでも持ち込み可能ですし、主催者からパカダクラを借りることもできます。
 足に自信のある人は、自分で走ってもいいかもしれません。

以上となります。
 それでは、皆様のご参加をお待ちしております。

  • 砂塵舞う地に、走れイレギュラーズ!完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年07月29日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費150RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)
社長!
※参加確定済み※
ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
亘理 義弘(p3p000398)
侠骨の拳
サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り
※参加確定済み※
ニコラス・コルゥ・ハイド(p3p007576)
名無しの
※参加確定済み※
モカ・ビアンキーニ(p3p007999)
Pantera Nera
マグタレーナ・マトカ・マハロヴァ(p3p009452)
想光を紡ぐ
ルナ・ファ・ディール(p3p009526)
ヴァルハラより帰還す

リプレイ

●ラサ縦断・パカダクラ大レース、スタート!
 ラサのオアシス都市には、この日多くの人出でにぎわっている。ラサ縦断・パカダクラ大レース。三日をかけてラサの地を縦断する大レースは、非常に過酷、危険ながらも、その人気と名誉から、今なお繰り返し開催されている名物レースだ。
 そのレースに参加するために、イレギュラーズ達もこの地を訪れていた。目指すは優勝、狙うは賞金。様々なものを求めて、今イレギュラーズ達はスタートラインにつく。
「へぇ、流石ににぎわってんねぇ」
 と、『最期に映した男』キドー(p3p000244)が言う。キドーらがいるのは、参加受付だ。第一区間を走るのは『月夜に吠える』ルナ・ファ・ディール(p3p009526)だけであったから、他のメンバーは受付の近くで待機中と言うわけだ。ルナがスタートとしてから一同はチェックポイントまで先回りし、ルナのゴールを祈り、待つことになる。
「どの参加者も中々厄介そうな連中だな。ま、記念参加みたいな奴らもいるが、やっぱりマジな奴は目が違う」
 『横紙破り』サンディ・カルタ(p3p000438)が、集まった参加者たちを見ながらそういう。静かに精神統一をするもの、周囲のライバルをぎらぎらと見つめるもの、笑顔を振りまきながら、しかしその目は狡猾にあたりを見やるもの……様々であったが、その瞳にうつるのは、優勝と言う名の金と名誉であることに間違いはない。
「地元の情報誌によると、私達チーム・ローレットは期待の新星、って所だね」
 『Pantera Nera』モカ・ビアンキーニ(p3p007999)が言った。
「やっぱり人気は、常連参加者に偏ってるみたいだ。
 例えば、獣種のみで構成されたチーム・ビースト。彼らはルナみたいに、自前の足で走るタイプだ。
 練達から来たチーム・ナイトロは、毎大会ごとにチューンされたサンドバギーを利用して、好成績を残している。
 へぇ、海洋からも参加者がいるんだ。チーム・ストームは、正統派なパカダクラや馬を利用したチームだって」
「まさにお祭り騒ぎって所だな。で、その三チームが優勝候補かい?」
 『名無しの』ニコラス・コルゥ・ハイド(p3p007576)が、にぃ、と笑った。
「その前評判を俺達が覆せばいいわけだ。
 なぁに、元から狙うは優勝だけ。ローレットの走りって奴を見せてやろうじゃないの」
「ふふ。皆様、頼もしくて母は安心なのです」
 『永久の新婚されど母』マグタレーナ・マトカ・マハロヴァ(p3p009452)が微笑む。
「ですが……やはり砂漠のレースなれば。意気ごみだけではなく、身体のコンディション管理も重要となりましょうね。
 わたくしたちは第二区画からのスタート。きちんと準備をしておきませんと」
「そうだな。前のメンバーが良い走りを見せてくれても、後に続く我々が醜態をさらしてしまっては申し訳が立たなくなる」
 『剣砕きの』ラダ・ジグリ(p3p000271)が頷いた。
「亘理、あなたは愛馬を使うのだったな。砂漠の走り方は知っているかい?」
「ああ、前に仕事でキャラバンに同行した時に、少しな。脚は引っ張らんさ」
 『仁義桜紋』亘理 義弘(p3p000398)が言う。
「ついでに、砂漠の渡り方も学んだつもりだ……おまえさんに比べたらまだまだひよっこだろうが、期待はしてくれ」
「もちろんだ。ともに力を合わせて走破しよう」
 ラダが差し出す手を、義弘が強く握り返す。
「おっと、そろそろスタートか」
 サンディが言うのへ、仲間達がスタートラインへと視線を移す。そこには白い日除けの外套に、砂よけのゴーグルとマスクをつけたルナの姿があって、リラックスするように肩を回していたりする。
「おうおう、金欲しそうにギラギラした連中がわんさかだ」
 ルナがそう言う。実際、名誉であれ、自己満足であれ、様々な欲望が渦巻いていることは確かだ。それはヘルシーな精神活動ではあったが、とにかく少しでも前へ、と瞳をぎらぎらさせていることに違いはない。
「よう、お仲間かい?」
 そう声をかけてきたのは、上半身が人間、下半身が馬と言う姿に変化した獣種だ。ルナは上半身が人間、下半身が獅子、と言うタイプの変化をする獣種であったから、そう言った意味でのお仲間、と言う事だろう。
「やっぱりこういう場じゃ、自分の足で走らなきゃなぁ?」
 ――情報誌で読んだな。たしか、チーム・ビーストの参加者か。
 ルナは内心でぼやくと、
「おう? ま、そうだな。けど俺は記念参加みたいなもんだからなぁ? ま、のんびりやるわ」
「冗談だろう? あんた、スピードには自信あり、って顔してるぜ?」
 ビーストの参加者は言った。
「オレはホロウだ。ホロウ・ガッス。脚には自信がある。あんたみたいにな。
 あんた、チーム・ローレットのだろ? よかったら名前を教えてくれよ」
「ルナだ。ルナ・ファ・ディール」
「OK、ルナ。オレはあんたがこの区間のライバルだと思ってる……よろしくな」
 にやり、と笑うホロウ。ルナは肩をすくめた。
「そりゃどうも。お手柔らかにな」
 そこまで行った時に、スタート開始を告げるアナウンスが鳴った。同時に、5からのカウントダウンが始まる。
 ルナはひょうひょうとした様子を見せつつも、しかしその視線はすでに、はるか先を見据えている。それは、おそらくホロウも同じであろう、とルナは思った。
 4、3、カウントが進む。ルナがぎり、と足に力を込めた。2、1、息を吸い込む。0! スタートフラッグが降られると同時に、ルナは全速力で駆けだした。
「速ぇ……ッ!」
 すぐ後に続くホロウが舌を巻く。速い。ルナの反応速度は、この時ホロウを、いや、全参加者を含めてはるかに圧倒していた。先ほどまでの飄々とした態度からは想像もできぬような、ルナの走り。そうだろう、力こそすべての部族で生きてきたルナが、部族の仲間達の誰よりも秀でていたのが、この「脚」だ。この速度こそルナのフィールド。この走りこそルナのプライド。如何に速度の世界に生きるホロウであったとはいえ、このフィールドに到達させることなど――。
「悪いが! ぶっちぎらせてもらう!」
 ルナが一段とギアをあげる! 背に補給物資を乗せながらもなお加速! スタート地点では団子になったランナーたちによる妨害戦が繰り広げられているが、そんなことなどはお構いなしだ。ルナにかろうじてついてこれているのは、前述したホロウ、そして練達のサンドバギー、海洋のパカダクラと言った所か。
 柔らかい砂地を蹴って先へ、先へ。オアシスから離れるにつれて、気温はより高く、足元はより柔らかく、ここよりは流砂の存在も警戒しなくてはならなくなるだろう。ルナはわずかに速度を落とした。トップスピードから巡航へ。腰の水筒を取り上げて、水を飲む。
(聞こえるのは、砂の流れる音……流砂か。避けて進む)
 高めた聴覚を駆使しながら、ルナは砂漠を進む。後方から迫るランナーも、ルナのように最適なルートを進んでいる様だ。だが、スタートダッシュで一歩抜けたルナにはまだ追いつけまい。
 スタート時には昇っていた太陽も、頂点に達していた。流石にこの時は日陰にて足を止めて、食事と休憩をとる。前半の貯金は充分にある。此処からはゆっくり進んでもいいだろう……だが、そんな考えはルナにはない。わずかな休息で体を癒したのちに、ルナは再び走り出した。これは身体に大きな負担をかけただろうが、しかしルナにとってはその程度の痛みなどは大したことではなかった。
「この足の誇りにかけて……!」
 ルナが走る。日が沈むよりも早く! 体は限界を迎えていたが、しかし、それでも走った。そも、一人で丸一日を交代なしで走るとすれば、それは相当の負担がかかる。ルナはそれを承知で走ったのだ。
 それ故に、ルナの走りの結果は、太陽が沈むよりもはるかに速いタイミングでのゴールに結びついた。
「信じられない。まさに砂漠に吹く疾風のような走りだった」
 ゴール監視員は後にそう語ったという。
 汗だくで、筋肉の痛みを覚えながらも、ルナはゴールで待つ監修に手を振ってみせた。
「……あぁ、らしくねぇ仕事しちまったな。暑ぃ暑ぃ」
 肩で息をしつつ、ルナは満足げに笑った。

●第二区間の激闘
 第二区画は、砂漠のチェックポイントからスタートする。前日までに稼いだ『貯金』――つまりどれかけ素早くゴールに到着したかによって得られるボーナスによって、スタートのタイミングが異なる。第一区画にてかなりの速さでゴールしたチーム・ローレットは、第二区画では他のチームに先駆けてスタートする権利を得ていた。
 さて、第二区画では、サンディ、ニコラス、モカ、マグタレーナの四名が出走する。サンディ駆る『GRND』(トカゲの様なロボットだ)を先頭に、一行は砂漠を進んでいた。砂漠はより険しく、暑さを増していく。このレースの過酷さは2日目に一つのピークを迎えるといっても過言ではなく、それはより厳しさを増す砂漠の環境との闘いが、その一因を担っていた。
「やれやれ、真っすぐ進めれば……と思ってたけど、どうやらそうもいかないらしいな」
 サンディの耳に、すさまじい勢いの水流の音が聞こえてくる。どうやら昨日あたりにスコールがあったらしく、目の前には砂漠には珍しい土砂の流れる川が生み出されていた。
「この辺の対処も込みのレースって事か。くそー、飛べちまえば楽だけど、この辺りはまだ他のランナーがいるな……」
「川が途切れる所まで向かいましょう」
 マグタレーナが言う。
「この様子では、他のチームもこの川を越えることはできないでしょう。ならば、回り道をしても大差はつかないはずです」
「この先は判断のスピードが物を言うな」
 ニコラスが言った。
「地図があったな……サンディ、この先に丘がある。そこまでは川も流れてないだろう。迂回するぞ」
「了解だ。モカさん、マグタレーナさん、馬車は丘を越えられそうか?」
「問題ありませんよ。相応に強靭な馬を用意しておりますので」
 マグタレーナの言葉に応じるように、馬車の馬がいななく。
「こっちもだよ。とはいえ、少し速度は落ちるだろうね」
 モカの言葉に、ニコラスが頷く。
「織り込み済みだ。他のチームも、さほど速度は上がらんだろうさ……いや、練達のバギーがいたな。ま、あの辺は特殊だ」
「とにかく進もう! こんな所で止まってらんないぞ!」
 サンディの言葉に、仲間達は頷いた。そのまま迂回路を通る。足元を囂々と流れる川にはひやひやしたが、あまり速度を落とすことなく突破。日が頂点に到達する頃には、行程の半ば頃には到着出来ていた。馬車に詰め込んだ物資によって、イレギュラーズ達の体力は保たれていたが、その分速度は落ちる。これは安定を重視した結果であり、良い悪いという話ではない。そもそも、進行不能となってリタイアとなっては目も当てられないのだ。
「この先から廃遺跡群に入る」
 サンディが干し肉を齧りながら言う。ニコラスは自身の古ロリババア、四葉に干し草を与えながら頷く。
「つまり、砂賊たちのテリトリーってわけだ。より一層警戒しないとなぁ」
「敵は蹴散らせばいい……けど、数で攻められると中々つらいかもね。
 負けるわけじゃないけど、足を止めさせられるのが」
 モカの言葉に、マグタレーナが続いた。
「突破を優先とした方が良いのでしょうね。まともに相手をしていては、それこそきりがないというものでしょう」
「よし。荷物を馬車に。馬車を中心にして俺が後方で警戒、ニコラス、前の方頼めるか?」
「オーケーだ。行くぞ!」
 ニコラスの言葉を合図に、一行は一気に廃遺跡を進みだす。あちこちから向けられるのは、獲物を見やる視線か。しかし刹那、ニコラス、そしてサンディの『感覚』に違和が走った。
「くるぞ! 右手から!」
 そう言った瞬間、右手から大量の矢が降り注ぐ!
「速度を緩めるな! 突っ切ればあたらない!」
 ニコラスの言葉に、
「まぁ、そう言った根拠が?」
 とマグタレーナが問う。ニコラスは笑った。
「ああ、ギャンブルじゃなぁ、こういう時に足を止めた奴から沈んでくんだ」
 果たしてその判断は、今回は成功だった。一行を追うように放たれた矢は、すべて地面に落着。続いて剣で武装した男たちが飛び込んでくる!
「ハアッ!!」
 飛んできた男を、モカは馬車の上からけり上げて叩き落した。
「マグタレーナさん! 御者を! まっすぐ走らせるだけだから、難しい事は無いはず!」
「ええ、ええ。承りました!」
 馬車の上に飛び乗って、モカは片っ端から飛び込んできた敵を迎撃していく。
「足を止めるなよ! 走れ走れ走れ! 矢は俺が受ける! とにかく走るんだ!」
 サンディの叫びに応じるように、仲間達は速度をあげて遺跡を突っ切る! ニコラスが神速の光弾を打ち放ち、アーチャーを撃ち倒した。
「はっ! 騎馬戦なんざ初めてだが割りかしやれるもんだな!」
 ニコラスが次々と光弾で敵を撃ち落としていく。激闘は、しばし続いた。

 ――果たして、どれだけの時間がかかったか。夕暮れも近づくころに、一行はチェックポイントへとたどり着いた。
「やれやれ、なかなヘビーだったね」
 サンディが、馬車に突き刺さった矢を引き抜いて、ぼやいた。
「少し時間をかけてしまったかもしれませんね……敵の攻撃はなかなか苛烈でしたもの」
 マグタレーナの言葉に、ニコラスは頷いた。
「俺たちは俺たちの道を行けばいい。最後まで駆け抜けようぜ、相棒」
 その言葉に、仲間達は頷いた。

●第三区画の疾走
 そして、最終日。ラダ、義弘がスタートする。前日は些か貯金が少なかったこともあり、他のチーム、とりわけ優勝候補の三チームとは特段の差はなくスタートすることになる。
 遺跡群を走る二人。ラダは変化して己の足で、義弘は己の愛馬を駆って進む。
「……バギーとパカダクラ、それに獣種か」
 義弘が嘆息した。
「件の優勝候補だ。流石に早いな。もう追いついてきている」
「今回はとにかく、ペース配分とコース選択が重要になりそうだな」
 ラダが言うのへ、義弘が頷く。それを確認して、ラダは続けた。
「とにかく、午前中は休みなく走ろう。速めに岩石地帯に入って、そこを慎重に進むべきだ」
「同感だ……さて、悪いが頑張ってくれよ……!」
 義弘の言葉に頷くように、愛馬が頸を頷くように振った。最終区間と言う事もあり、ランナーの総数は減っていたが、その分精鋭の者たちが集まり、激しいデッドヒートを繰り広げている。二人はまだ先頭を走っていたが、しかしこの差がいつ覆るかは、それこそ勝負の女神にしかわかるまい。
 午前中の段階では、まだまださほどの差は開いていない。問題は、ここからだろう。岩石地帯に入った二人は、簡潔に昼食をとると、早速歩を進め始めた。
「なるほど、これは厳しいな……」
 人の姿をとったラダが呻いた。細い道や、途切れた道、険しい斜面などが行く手を阻む。スピードよりも安定性を重視してラダは人の姿をとっていたが、それは一つの正解だっただろう。
「馬は私が引こう。亘理、焦らなくて大丈夫だ、慎重に進んでくれ」
「おう」
 義弘が頷く。
「しかし……なんだな。砂漠ばかり走るのかと思ったが、遺跡だの、岩山だの……ふっ、中々景色豊かで面白いじゃないか」
「だろう? ラサとてただ殺風景なわけじゃないさ」
 楽し気に微笑むラダに、義弘はにやりと笑った。落石や滑落を警戒しながら、二人は岩石地帯を進んでいく。道中で、ひっくり返ったチーム・ナイトロのバギーを見かけた。隣で休んでいたチーム・ナイトロのランナーはこちらに向かって手を振ると、「俺らはもう駄目だけど、あんたらは頑張れよ」などと声をかけてくれたから、こちらも手を振って返した。
 岩石地帯を抜ければ、また砂漠の砂が目に映った。遠くには巻き起こる砂塵が見える。どうやら、先を越されていたらしい。
「まずいな……此処からは全力だ!」
 義弘の言葉に、ラダが頷く。ラダは変化をし、義弘の愛馬と共に砂地を駆ける。
 果たして砂塵の主の背中が見えれば、ラクダの下半身を持つ獣種のようだった。どうやら、チーム・ビーストのメンバーだろう。
「追いつけるか……いや、追い付く!」
 ラダが自分の身体に鞭打つ思いで、走った。太陽はもうすぐ沈みそうで、眼前のオアシス都市を赤く染めている。もうすぐ。もうすぐ、この長い旅も終わる。出来れば優勝を飾りたいが――。
 しかし、ほんのわずかな差で、先にゴールに到着したのはチーム・ビーストのメンバーだった。そのすぐ後にチーム・ローレットがゴールへと着く。
 どんな些細なきっかけでひっくり返ってもおかしくはなかった差だ。
「……っ! はぁ、はぁ……だめ、だったか……!」
 ラダが肩で息をするのへ、義弘は馬を止めて飛び降りた。
「しょうがない。勝負に絶対はないさ」
 荒い息をつく愛馬を撫でながら、義弘は言った。
「ま、充分やったさ。健闘をたたえて、この後は飲みにでも行くか。
 愛馬(こいつら)にも、美味い餌をやらなきゃならん」
「そうだな……私は、マッサージに行きたいよ」
 観客たちの歓声に包まれながら、二人は笑った。果たしてゴールの先から、仲間達がやってくるのが見える。
 優勝こそ逃したものの、貴重な経験と、確かな絆を、皆は得た事だろう。

成否

失敗

MVP

ルナ・ファ・ディール(p3p009526)
ヴァルハラより帰還す

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 惜しくも優勝は逃しましたが、しかし過酷なレースを踏破した経験は、皆さんの内に残る事でしょう。

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