PandoraPartyProject

シナリオ詳細

ネズの海を渡る

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 深い霧の中、出航の汽笛が轟く。
 戦場の角笛に似た猛々しさの中、灰色の海に浮かぶのは巨大な化け物の影――ではなく巨大な白磁の船である。
「Welcome aboard,ようこそ皆様。蒸気幽霊客船『灰色の貴婦人』号へ。皆さまの乗船を我々は心から歓迎します」
 頭からすっぽりと白いローブをかぶった、恐らく船員であろう人物が頭を下げた。

 死者を彼岸へと運ぶ船がある。
 日本であれば三途の川、ギリシアであればレテの河。
 そしてモラヴィチェでは『ネズの海』を越えて死者の国へ至る。
「凄い魂の数でしょう? 本来であれば安寧とくつろぎの時間を過ごしてもらうのですが……ああ、生者の方には魂が見えないかもしれませんね。むしろ、その方が良い。今の彼らはひどく疲弊していますから」
 無人のコンサートホールを音もなく歩きながら船員が言う。
「我々も普段は陶器の小舟で死者を運んでいるのですが、最近は数が多く、とても運びきれなくて。こうやって巨大な船を建造したのです」
 それほどまでに現世が荒れているのだと船員は痛ましげに首を振った。
「そして、魂が集まれば海から『ボグ』がやってくる」
 開けた扉の先から風がなだれこむ。
 見晴らしの良いであろう甲板は青灰色の霧で包まれていた。

「このネズの海には、死後、洗い流された人間の罪や悪意が溶けています。
 そこから生まれるのが『ボグ』と呼ばれる悪霊です。彼らには意思も感情もない。海を渡る魂を狙い、喰らい、成長するものとお考え下さい。
 本来なら運ぶ魂を守るのは我々の仕事なのですが……前回、我々は全ての魂を守りきることが出来なかった。
 業腹ですが認めましょう。死神は万能ではない。どんなに腕を磨いても、結局はただの渡し守なのです」
 海の中から大蛇の如き黒腕が伸びてくる。
 十指を伸ばすそれを船員は草刈り鎌でサックリと刈り取り、海の中へと蹴落とした。

「皆さまには目的地到着まで船の警護をお願いします。我々はその間、船頭としての本分を発揮し、全速力で彼岸を目指します」


「死者の国とは一体どういう所なんだろうね」
「今回は入れないわ、船の護衛だもの」
 カストルの疑問にポルックスは湖水のような瞳を瞬かせ、柔らかな猫のように言った。
「さっきも言った通り、今回は綺麗な白いお船の警護よ」
「自ら豪華客船を謳うだけあって、広い。四階層すべてをカバーしようと思えば少し骨が折れるかもしれないね」
 いってらっしゃい、と双子の案内人は揃って手を振った。 

NMコメント

こんにちは、駒米と申します。
豪華客船に一度乗ってみたいです。

●世界説明
 モラヴィチェという国にある『ネズの海』が舞台です。
 どこまでも濃い霧に包まれた灰色の海、という印象を持ちます。
 魂を死者の国へと運ぶ豪華客船『灰色の貴婦人』号が戦場です。
 四階層の船で、三階層に甲板があります。
 大きさはタイタニック号の半分。舞浜にある夢と魔法の国の蒸気船と同程度です。

●目標
 死者の国へ到達するまで船と魂を護衛する。
 警護、戦闘依頼です。連続戦闘や長期戦を想定しておいた方が良いでしょう。

●敵
 ボグ×???
 無限に湧き続ける黒い悪意がイキモノの形をとったもの。
 必ず海の中からやってきます。
 素早さと体力はそれほどでもありませんが、ひたすら襲ってくるため消耗戦となります。

●味方
 船員×4。
 彼らの安否が船の運航速度に関係しています。
 各階に一人ずつ存在しています。

  • ネズの海を渡る完了
  • NM名駒米
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年07月14日 22時15分
  • 参加人数4/4人
  • 相談3日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

マルベート・トゥールーズ(p3p000736)
饗宴の悪魔
ポシェティケト・フルートゥフル(p3p001802)
白いわたがし
ラヴ イズ ……(p3p007812)
おやすみなさい
クレマァダ=コン=モスカ(p3p008547)
海淵の祭司

リプレイ

●Good night, Lullaby.
 ネズの海は鼠の海、幽玄なりし無明の海原。
 ネズの海は寝ずの海、永久に晴れぬ霧の海。
 白き船の導くままに久遠の国へと旅立ちぬ。

 巨大な船が霧の中を優雅に奔る。
 死者を運ぶ『灰色の貴婦人』の足元にしがみつく音の正体は波か、それとも濁った生者の未練の声か。『饗宴の悪魔』マルベート・トゥールーズ(p3p000736)は無骨な船首から足を放り出し、船首像の代わりに頬を撫でる霧風の冷たさを楽しんでいた。
「死者の国への船旅とは、実に優雅じゃないか」
 護衛という束縛がやや窮屈ではあるものの、これも余興の一つだと考えれば悪くはない。
 揺籃に似た白い箱舟が出航してから一時間は経ったであろうか。未だ灰色の景色は変わらず、波は眠りのように穏やかだ。
「この海に入ったら、きっと我とてただでは済まんのじゃろうな」
 甲板の手摺りから灰色の海を見下ろす『海淵の祭司』クレマァダ=コン=モスカ(p3p008547)は誰ともなしに呟いた。縋るように灰色の海面へと手を伸ばすも、そこに海の蒼色は見えない
「死者の国……か。そんなものが、混沌にもあるのじゃろうか」
 問いかける彼女の呟きに答える者はいない。鯨のような濃霧が言の葉を飲み込んでいく。

 ♪

 静寂の海に歌が聞こえる。
 ほろりほろりと幽かに。けれども確かに。
 夢見るような、歌声が。

「ここは危なくなるから、下の階層にいてね」
『謡うナーサリーライム』ポシェティケト・フルートゥフル(p3p001802)は迷い子のような魂をひとつ、ふたつと抱きしめて、そうっと船内へと導いた。
「ワタシ達がいるから、安心をなさって」
 微笑む金色と銀色が寄り添い合って船内の窓辺へ小さく手を振る。
「何だか緊張するわねぇ」
『おやすみなさい』ラヴ イズ ……(p3p007812)は蕩けた星のように瞬いた。目の前に佇まい友人たちと戦場を共に駆けるのは初めてのこと。けれども自分の背中を預けるのに、これ以上頼もしい相手がいるだろうか。手繰るようにポシェティケトの眼差しを握って微笑んだ。
「幸せを運ぶ鹿さん、私の幸運の女神。よろしくね」
「ええ、任せてちょうだい」
 月の眠りが願った確かな約束。
(――しっかりと、守らなくちゃね。絶対に傷付けないと誓うわ)
 銀の森が願った柔らかな祈り。
(キュウ、たくさん敵を引きつけるでしょうから。あの子が痛いなと思うよりはやく、治してしまいたいわねえ)
 互いを思いやる二つの眼差しが、ふと。変わった風の匂いに頭を上げた。
「おや」
 縋りつくように脹脛へと伸ばされた黒い十指の嘆きをマルベートは嗤った。船旅で食事を供される時間としては些か早いが、コース料理の前菜だと思えば悪くない。
「人間の悪意ならば私の好む味だけど……さてさて、君達はどんなお味かな?」
 灰色の世界に古の黒が灯る。立ち上がった拍子に腰に提げたハンガーボトルがちゃぷりと揺れた。

『灰色の貴婦人』に魔除けの船首像は存在しない。
 その代わり甲板を駆けるは四人の守護者。
 眠りの乙女に蒼海の司祭、優美なる獣に黒き悪魔。
 動かぬ女神像ではなく四人の守護者を守り人に添え、魂たちは最期の旅へと臨む。

 帰れ。孵れ。還れ。

「……来るぞ」
 海の異変を察知したクレマァダの警鐘を受け、風よりも早く夜の帳が駆ける。
 灰色の波間から生を求めて黒腕が伸びる。
 指の数さえ曖昧な悪意の象徴は押し寄せる黒きの樹海にも似ていた。
「――夜を召しませ」
 相対するは星明りと墜落。幾千もの夢の迷い路は海より現れたボグの群れを停滞させた。
 悪意の果ては溺れる迷子のように手を伸ばし、墜ちる幻影を追いかける。
 眠りを誘う銃声が確実に堅実に一体ずつ禊いでいく。
 何処にも流れ着くこと能わぬかたち。ならば、せめて。
「……おやすみなさい」
 弾丸の接吻を貴方に。
「後ろじゃ!」
 安寧の眠りを願う者は一人ではない。
 海神の巫女の意思があり、此処が海である限り神威は成される。
「所詮は現か夢かもわからぬ世界……なれど、死者の為に働く者が居るのであれば、助けねば我の心は立ち行かぬ」
 船内の魂に対して慈悲か。死神へと捧げた同調の念か。それともボグへと告げる自身の決意か。
 金色に渦巻く瞳がきろりと敵対者を見定めた。歌声が喚んだ蒼き波龍の渦は、甲板へと這い出た澱みを喰らわんと其の身を躍らせる。
「船旅の食事としては些か風変りだけど、たまには悪くないだろう」
 黒き翼がしなやかに踊る。マルベートの身を傷つけようと牙を剥くものは晩餐の双槍に切り裂かれ、既に亡き命を燃やし尽くすように啜られる。数多の暴虐を尽くそうと、数多の悲憤を浴びようともその目は冷静だ。一皿、一皿。大切に喰らって。喰らいつくしてから、さあ次へ。マルベートを苛むものと言えばただ一つ、空腹だけなのだから。
「ポシェティケトさん」
 後ろへと下がるラヴは頬を伝った汗を拭うと微笑んだ。
「ちょっと、甘えてもいいかしら」
 知らない海霧の匂いに混じって、よく知る匂いが鹿の鼻へ届いた。濃い、血の匂いだ。そう気づいた瞬間、ポシェティケトは朝霧色の薔薇に願いをこめていた。
「痛いのは、遠くに飛ばしてしまいましょう」
 あなたに辛いことが無いように。あなたに痛みなど無いように。ポシェティケトは調和の力を分け与える。
「ありがとう」
 和らいだ痛みを一撫でするとラヴは片目を瞑って颯爽と駆けていった。その背中を見おくりながらポシェティケトは薔薇の杖を構え直す。
「クララ。まだまだ元気よね?」
 鹿の意志を組んだのか、唸る妖精の四肢が甲板を踏みしめた。
「牙の力を、奮って頂戴」
 金砂の獣は好戦的な笑みで吼えると、夜の後を追うように駆け出した。

●Good bye,stund by.
 時計の針がどれほど回った事だろう。
 海から這い出るボグの群れはようやくその勢いを緩めようとしていた。
「さて、これでひと段落かな」
 煮凝りの如き悪意もマルベートの手にかかれば、其の運命は皿の上。災厄に見初められた黒い指が、甲板のあちらこちらに転がっては残火の名残を宿している。マルベートは顔面に散る己の物とも敵の物ともつかない朱を舌で舐めとると、好戦的な獣の視線を甲板へ巡らせた。
「いや、船内にボグらしき反応がある。今はまだ動いておらぬが、もしかしたら我等の目を掻い潜って船内へと逃げ込んだのかもしれん」
「まだ、誰も襲われていない。今から行けば助けられるわ」
 ラヴの人助けセンサーに反応が無いという事は、船内が無事である証拠だ。しかし、いつ襲われるとも限らない。
 急がねば。
「では、船内の探索に赴こう。おっとその前に船員の無事を確かめるのが先かな」
 マルベートは柔和な笑みを浮かべた。それはさながら狩りを愉しむ貴族のような残酷な優雅さである。
「ボグは一体、どの階にいるのかしら」
「うぅむ、各階に数体ずつは潜んでおるな」
 ポシェティケトの疑問にクレマァダが答えた。
「それなら各階に手分けして向かった方が良いわね」
「邪魔者にはさっさとご退場願って、後はゆっくりと豪華客船の旅を楽しもうじゃないか」 
 マルベートの言葉にラヴはにっこり笑って同意した。

 二階、大食堂。
「いただきます」
「あら、美味しい」
 晩餐用の席に座るは二人のVIP。豪華海鮮パエリアからはたっぷり入ったムール貝やエビから採れた出汁と完熟したトマトの甘い湯気が立ち上っている。銀のスプーンでぱくりと頬張れば、今までの疲れがほどけていくようだ。
「先ほどはありがとうございました」
 間一髪のところを助けられた魂と船員が、仄かな光となって燭台代わりにテーブルを照らしている。
「さっきのキュウは早かったわねぇ」
 ぴゅーんと行って、あっという間。ボグは逃げる暇も無かったでしょうねえ。
 おっとりと、それでいて驚いたように喋ることができるのはポシェティケトの特技の一つで、それはいつだって聞く者の心を穏やかにさせる声だった。
「それはポシェティケトさんの回復のお陰だわ」
 怪我が治っていなかったら、あんなに早くは走れなかったもの。
 二人は勝利の余韻を味わいながら、遠くで汽笛が鳴るのを聞いていた。

 三階、静物画に風景画。豪奢な硝子細工に色鮮やかな陶器の壺。
 芸術品に彩られた歓談室のソファで、マルベートはボトルから直接紅い葡萄酒を一口ふくんだ。
「うん、悪くない」
 上等な品に舌鼓を打ち、また一口。風呂に浸かっているかのような満足気な表情に、白い船員が戸惑ったように声をかけた。
「あの、助けてもらったのは嬉しいのですが」
「ん?」
「片づけますか?」
「いや、良いよ。すぐにまた増えるかもしれないからね」
 マルベートの足元にはフットレストと化したボグの死骸が積み重なっている。
「濃密に満ちた死の気配。溢れかえらんばかりの悪意。全く、素晴らしい船旅だね?」

 四階、展望デッキはどこまでも続く霧に包まれている。
 そもそも、霧に包まれた海をどうやって眺めるというのだろうか。不必要な設備に不必要な豪華さ。
 死者を届けるだけの船が目指したのは、日常に近い平穏の姿。
「……そうとも」
 魂を助ける。死後の安らぎを守る。それはクレマァダ自身が決めた事。
「死者が安らかに暮らしてくれているのだと、それすら信じられなくなれば」
 ――あとには現実しか残らぬではないか。
 握りしめた拳の力が雪のように解けていく。
 夢をみたいのだとガラス窓に映った眼差しが囁いている。

 ふんぐるい むぐるうなふ くつるぅ るる=りぇ うがふなぐる ふたぐん

「……終わりは、次の始まりに過ぎぬ」
 着港の汽笛が鳴る。見上げた先は白き門。
「どうやら到着したようですね」
 船員が言った。
「善き終わりの、あらんことを」
 旅の逝く末に、死者の未来に祝福を。
 此の世の境に踏みとどまりながら、クレマァダはそっと祈った。

成否

成功

状態異常

なし

PAGETOPPAGEBOTTOM