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シナリオ詳細

<現想ノ夜妖>輝かしき穢

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●帝都星読キネマ譚:穢厭いて魂崩れ
 初夏、ヒイズルのそれは断続的に降る雨と照りつける太陽の御蔭で、猫も杓子も流れる汗を拭う間もなく次の汗が目に染みる。路面電車が巻き上げた街路の埃は肌を玉の汗で濡らした若い男の肌に張り付き、拭ったハンケチをうっすらと汚す。
 街道を歩くアイスクリン売りには子供達が群がり、貴婦人たちはそんな子らをカフェーの中でメロンソーダを嗜みながら眺めている。
 熱にうなされた風景でありながら、人々は新たな文明の到来を歓迎し、人々の顔は一様に明るい。それは鮮やかなネオンや幻燈(ガスライト)で照らし出し、闇を追い払った夜に於いても同じこと――であるが。

 シュコー、と漏れ出たマスク越しの呼気、全身を覆うスウツから響く低音の駆動音は、『その女』が汗一滴を流すことをも憂えている証左であろう。文明開化華やかな利子ヒイズルにあっても、その機構は未知のそれだ。文化の違いで済まされぬ。人々からすれば、奇異な容貌のその人物は、うら若き少女であった。
「私(わたくし)がパトロオルだなんてなにかの間違いですわ! 人手不足にしたってもうちょっと適任がありますでしょうに……」
 兵部省に務める黒鉄の役人、争治姫(そうじき)はガスマスク越しにくぐもった声を響かせた。
 肌をちらりとも見せぬ外見からわかろうものだが、彼女は一言で言えば潔癖症である。
 埃ひとつ、素肌に触れることを厭う――だが顔だけはどうにもならなかった――彼女は、ゆえに雨上がりの夜をこそ出歩くのである。
「近頃は物騒になりましたけど、だからといって警邏を増やせばいいっってもんじゃないですわ。私はどちらかといえば現場よりは内勤に回って情報を集める方が……」
 争治姫はその時、視界の端に映った光を見逃さなかった。彼女は潔癖症ではあるが、さりとて一般的な少女の精神性であることに変わりはない。それが、間違いなく年頃の乙女を惑わすたぐいの――宝石めいたものであることは間違いなかった。
 そんなものを見せられ、正常な判断を下せる者はおよそ年頃の少女の感性とは呼べまい。手にしたハンケチを握りしめ、視界を横切った「宝石」の行き先へと歩を進めた。
(あれが宝石であったなら動くのは怪しい、そうでなくても目につく大きさの光る何かがうろつく状況は普通じゃない、ですから私があれを追うことになんの誤りもないのですわ……!)
 彼女はそれらしく自分の行動を正当化し、路地裏へと歩を進める。
 文明開化の光すら届かぬ薄暗がり、レンガの壁が左右を阻み、レンガ敷きと舗装土の合間にあって輝いたそれは、確かに宝石の色合いをしていた。
 尤も、それは宝石に鋼鉄の節足が生えた代物で、節足の先はさらに開閉する牙めいたものを備えた異形で、彼女一人がなんとかできる領ではなかったが。
 そして、その異形達の中心に光輝を纏って現れたのは金粉混じりの砂塵を人型に凝集したなにかだった。
「人の欲というのは際限がないのだな。追えばどうなるか分かっていても、追わずにはいられない。どれだけの穢を見ていても、欲のためには見逃してしまう」
「……え、あ」
「だから、欲に溺れた者は自らの主義主張すら捨てて手を伸ばしてしまう。代価に耐えられなくとも」
 汚らわしい砂と泥にまみれた足元、周囲を覆う異形の中にある宝石、そして砂の男が隠し持つ砂金。
 穢と麗しの間にあるそれらを、何と認識すればよいだろうか――争治姫は終ぞ結論が出ぬままに、泥と砂にまみれ窒息し、ほんのいくつかの屑石を抱えて命を落とした。

●時は諦星(たいしょう)十五年
「……以上が、これから起きるであろう懸案です。今映った敵……僕たちが『夜妖』と呼ぶあれを退治して頂きます。彼女も退治するための要員でしたが、相手が悪かったようです」
 月ヶ瀬 庚(p3n000221)は『高天京壱号映画館』内で映し出された『結末』が終わるなり、神使達に向き直った。
 ハイカラになったヒイズルは、衛生観念の劇的な進歩をもたらした。だが、潔癖症の争治姫にはそれでも足らず、しかし十人並みの完成をもっていた彼女の精神を突き崩す程度には誘惑というやつが溢れているらしい。
「彼女の兵部省での活躍は中務省にも伝え聞くところです。少なくとも、軽々に失っていい人材ではないでしょう。どちらかといえば『人財』と呼んで差し支えない方ですね」
 庚の評価通りであれば、なるほど、彼女は失ってはならぬたぐいの者であることが分かる。そうでなくとも、人死を観測した以上は止める必要があった。
「砂の男はその一部に砂金を隠し持っていて、その光で人を惑わす能力があるようです。砂ですから、水や氷に類する異常を受ければ固まることで砂としての不定形成を発揮できなくなるでしょう。逆に言えば、通常時はそれだけ避けられやすい、ともいえます。
 周囲の宝石に足が生えたような連中は、無視というより機械に近いようです。見た目を綺麗に見せようとしてきますが、恐らくほとんどが屑石です。惑わされてはなりません」
 皆さんには屹度、もっと大事なものがあるはずです。庚はそう言って、一同を送り出した。

 ――新規イベント『帝都星読キネマ譚』現想ノ夜妖が開催されました。
   星読幻灯機(ほしよみキネマ)が伝える『未来』を元に、帝都を脅かす夜妖を退治しましょう。
   神使となり、悲劇を未然に防ぐのです。

GMコメント

 カム……じゃなかったヒイズル編本格始動ですね。頑張っていきましょう。

●成功条件
・『川砂ノ男』『屑石鋼虫』の殲滅
・争治姫の生存

●川砂ノ男
 砂金を微量に含んだ砂男です。砂金を利用した魅了・恍惚などの精神攻撃、砂を詰まらせての窒息攻撃、乾いた砂で直接触れることで水分を奪う(Mアタック)攻撃など、多彩な攻撃手段を持ちます。
・肉体特性として「火炎系」BSを受けると乾き(回避増)、「氷結系」BSを受けると濡れ(回避減)ます。
 なお、濡れた状態のときは窒息攻撃によるBSが1~2ランク悪化します。
 前述のとおり、基礎回避と反応が高め。

●屑石鋼虫×30
 屑石に鋼鉄の節足を取り付けたような外見の小型の虫系(機械系)夜妖。
 宝石で光を反射させる長射程の攻撃や、自らを綺麗に見せて混乱や狂気をもたらそうとします。 
ごく一部、特に瘴気が強そうな『不運の魔石』の鋼虫がおり、これらは「不吉」をバラ撒きます。

●争治姫
 鋼鉄からヒイズルに訪れた軍人で、現在は兵部省に在籍しています。自称軍師。
 それなりに戦えるはずですが、潔癖症の彼女には相性がやや悪いです。

※重要な備考『デスカウント』
 R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
 現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。
※付近に強化サクラメントがあります。死亡後の復帰は2~3ターンを要します。

●情報精度なし
 ヒイズル『帝都星読キネマ譚』には、情報精度が存在しません。
 未来が予知されているからです。

  • <現想ノ夜妖>輝かしき穢完了
  • GM名ふみの
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年07月26日 22時45分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

グレイシア(p3x000111)
世界の意思の代行者
縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧(p3x001107)
不明なエラーを検出しました
ハルツフィーネ(p3x001701)
闘神
玲(p3x006862)
雪風
Jane(p3x008480)
Λ(p3x008609)
希望の穿光
武野ミカ(p3x008658)
かみなりさま見習い
シャナ(p3x008750)
爪紅のまじない

リプレイ

●高天京街道:夕刻・雨上がり
「ぬぅー、映画はやはりダメじゃ 寝ておったでな! すっきりじゃぞ! もちもちつやつやじゃ! 」
「ふぅん。星読みで未来ねえ。かみさま(見習い)としちゃ複雑なモンだな」
 目をこすりながら大きくのびをした『緋衝の幻影』玲(p3x006862)の言葉がどの程度まで本気であったのかはさておき、彼女は映像の中で死の運命にある少女に見覚えがあった。
 他方、『かみなりさま見習い』武野ミカ(p3x008658)は星読幻灯機の未来予測に思うところあるようだが、さりとて悲劇を捻じ曲げて無かったことにできる、という事実に魅力を感じないでもない。神の見習いとしての心情にも、慮るところはあるが。
「貴金属の魔性ってやつかなぁ~、アレだね……確か宝石の魅力に囚われて理性を失った挙句、運命を狂わされて破滅ってやつ」
「偽の輝きで人を惑わしますか。また随分と趣味の悪い方のようですね」
 『汎用人型機動兵器』Λ(p3x008609)は映像内で理性を突き崩し、相手の命を奪う悪趣味さに不満げに口元を歪めた。宝石に理性を奪われるのは女性にとって無理からぬはなしだが、それが全て偽りであるというのは、やはりいただけない。『魔法人形使い』ハルツフィーネ(p3x001701)もその点同感で、抱えたテディベアを抱える腕に籠った力はその感情の揺れを否応なしに周囲に理解させた。
 一先ず映画館から外へと歩み出た一同は、外に広がる光景に改めて驚きを禁じえない。
「ようやくヒイズルに来れたと思ったら、何なのだこの状況は……」
「大正……ハイカラ……激動の時代、何もかも不安定で何もかも変わって行くニホンだっけ」
 『???』シャナ(p3x008750)は改めてその風景を、諦星(たいしょう)のヒイズルの姿を目の当たりにし、呆けたように呟いた。Jane(p3x008480)は発音と、そして雰囲気を同じくする異世界の『大正』の様子を諳んじる。俗にモボ(モダンボーイ)だのモガ(モダンガール)だのが横行した時代。平時という状況単位が一秒として存在しないそこは、成程シャナにとっては理解が追いつくまい。
「何処か練達……再現性東京辺りに近い物を感じる街並みだとは思ったが、夜妖まで居るというのはどういうことなのか」
(ミミック、愚者の黄金、そういった噺を彷彿とさせる夜妖だね。混沌の練達に出没する夜妖とは毛色が違う印象を受けるのも面白い)
 イレギュラーズの驚きを代弁する意味では、『世界の意思の代行者』グレイシア(p3x000111)の言葉が一番端的、且つ正当なものだっただろう。『日本』を模した、そして歪めた世界は、どこか『帝都』に通じるものがある。そこに夜妖が現れる。『不明なエラーを検出しました』縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧(p3x001107)にとって、今までに遭遇した、または見聞きした『夜妖』とは毛色の違う存在がいるというのは如何にも『ネクスト』、といったところか。恐らく、その好奇心は今まさに満たされようとしているのだ。
『ヨル が 降りる』
「ああ、これから訪れる夜を……事件が起こる事が分かっていれば、クエストとして『未然に防ぐ』というわかりやすい目標が出来るのだな」
「ああ、誰かが死ぬ未来が分かっているならば、書き換えねば」
 縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧の言葉にグレイシアが応じ、シャナが硬い声とともに頷く。混沌とも、『ネクスト』の他国とも違う、『来たるべき未来を覆す』クエスト群。それは即ち、誰も死なせずに済む未来を勝ち取る戦いだ。
「ROOの技術も研究者としては興味深いけど…今は夜妖の方に興味があるね。再現物なのかROOに介入したのか…どちらにせよ。要観察だ」
 Janeの浮かべた研究然とした笑みに応じるように、太陽は駆け足で西へと降りていく。これから訪れる夜と、夜妖から逃げるかのように。

●高天京路地裏:宵の口
「あれはただの虫です。虫。カサカサします。ブーンと飛びます。それでも触れたいですか?」
 ハルツフィーネは、夜の町中を必死の形相で駆け回る争治姫の手を取り、力いっぱい引き寄せた。思いの外強く引っ張られたこと、そして布越しでこそあれ他人に触られたという事実に、争治姫は驚愕と恥じらいと少しの嫌悪感を顔に浮かべた。
「何を……あなた達は一体なんなのです? 私はあの怪しい影を撃退してここのところ巷間を騒がせる何某かを引きずり出すのが目的で、」
「で、宝石なんかに気を取られて正気を失いかけてるってか? 人ってのは欲の皮が張ってるねぇ」
「おぬしはそういう役割ではなかろうが、ちょっと落ち着くんじゃ!」
 必死に手を振り払おうとした彼女に、ミカと玲が相次いで声をかける。我欲を義務感で塗りつぶし、言い訳をしていた事実を突きつけられればさしもの彼女とて反論の余地がない。どころか、自らの役割がなんであるかを的確に突きつけられれば、如何に感情に支配されていようと思うところもあったりはする。
「あなた達はなんですの!? 私のことをさも知っているかのように話しかけてきて! そこの路地裏に、明らかに怪しい相手が潜んでいるのに見過ごせと!?」
「見過ごせとは言ってないよ。僕達も路地裏の相手に用があるんだし、慌てて追いかけるより、役割分担しよう、って話さ」
「無為に命を捨てかねない選択に向かうのは感心しない。この国の者を、私は死なせたくはない」
「…………?」
 Janeとシャナの、正しくも熱情の籠った言葉を耳にした争治姫は、やっとのことで己の正気を取り戻す。直後、彼女はシャナの方に訝しげな視線を向けた。
「……む、どうした? じろじろと此方を見て」
「いいえ、よく知る方に、面立ちが似ておりましたので」
 まじまじと見られることで、シャナは『その事実』を見抜かれるのではないか、と僅かにたじろいだ。だが、結局は勘違いの範疇で済まされたらしい。
「で、アレを追いかけて捕まえたいっていうのかい? ボクはごめんだね」
 Λの指差した方から、見る間に渦を巻く砂埃が見て取れる。思わず顔をしかめた争治姫と、敵意と好奇心をないまぜにしたイレギュラーズの視線がそれに注がれる。
「欲の匂いが濃くなったかと思えば、抑えきれぬ欲求と好奇心にはちきれそうな者ばかりときたものだ。娘1人を括るよりは楽しめそうだ」
「人の欲を嘲笑うようだが、恐ろしい物だぞ……人の欲という物は」
 川砂ノ男が挑発的に声をかけると、グレイシアは軽く首を振り、その挑発を否定する。人の欲、それもこの人数のそれを前にして、ただ欲望を歪めて見せるだけの存在が勝てるものか、と。
「前は任せると良いです。がおー」
「こういうのはなあ、圧倒的な重さと威力で粉砕すんだよ!」
『こっち、みて』
 壁いっぱいに広がった屑石鋼虫達が誰を狙うべきかと見定めようとする中、ハルツフィーネの手から離れた『クマさん』が凡そ理解できぬ音量で叫び声をあげる。一斉にそちらに向けられた注目ごと蹴散らそうと放たれたミカの斬撃が戦列を散らすと、縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧の周囲ごと歪めるかのような一撃が空間をえぐり取る勢いで屑石鋼虫達へと襲いかかる。
「――終わっておりませんわ! 今ので仕留められたのは一握り、人形遣いのあなた、身構えるのですわ! 引きつけるなら、尚更!」
 攻撃の余波は激しく、食らったものはひとたまりもないように見えた。が、争治姫には別の光景が見えていたのだろうか。Λはその言葉が終わるより早く、連装魔導噴進砲をばら撒きつつ書ける。
 ハルツフィーネの誘導を避けた屑石鋼虫は、各々の屑石を精一杯に輝かせようと光を増し、イレギュラーズへと襲いかかる。その合間をすり抜けて争治姫へと向かおうとした川砂ノ男はしかし、眼前に突如として現れた影絵の如き姿にその身を阻まれ、攻撃姿勢のまま動きを止めた。
「人の欲は、ときに自分を超える強大な敵をも倒す力を持つ。だから不可解で、しかし面白いものだ」
「欲とは溺れるもの、底のない沼そのものだ。そんなもので、力を得られるものか」
「悪いが、屑石に惑わされるつもりはない。……私の願いは、其方らでは叶わぬ物だからな」
 グレイシアは『実感』を(或いは実体験を)伴った声音でもって人の欲を肯定する。川砂ノ男にはそれが理解できぬ。我欲で何かを為せるものか。失敗を呼び込むばかりだ、と。だが、我欲というには余りに悲壮な願いを呪歌に乗せるシャナの姿は、或いは彼の知る欲とはまた違うようにも思われた。だからこそ、響く。

「キミ、軍師を名乗るぐらいだし蟲の群れやら砂まみれになるより正確に状況を見て指示したほうが良いんじゃない?」
「冷静に、ですか。そうしたいところですが、先程から私の計算が狂いっぱなしなのですわ……!」
 Λが魔力によって遠近自在に攻め手を熟し、背後にいる争治姫へと声をかける。相手は、ガスマスク越しの呼吸を荒げつつ周囲を見渡し、努めて冷静にあろうとする。少なくとも、戦況は理解している。いるのだが……。
「妾の華麗な技をみせてやるのじゃ! さあさあ! 最強無敵の妾を見るのじゃ! にゃーっはっはっはっは!」
「いいねえ、玲さんには僕の魔術の効果が色濃く出ているようだ! あの暴れっぷりはいい研究材料に……」

「……うん、なるほどなるほど。あれは確かに計算が狂うね」
「守りを度外視した戦いは本当に危ないからやめてほしいのですわ! 死にたいので!?」
 争治姫は潔癖症なので、自らが見た勝利への道筋が、個人の異常な戦いぶりや実力に塗りつぶされていくことが、それはもう偉く困り果てる要素となっていた。


 縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧の口から不定形の叫びが漏れる。凡そ会話が通じない相手に念話を強いる気はないのだろう、若干の苛立ちが混じっているようにすら感じ取れた。……恐らく、屑石達が放つ偽りの輝きが鬱陶しいのだろう。でなくば、体いっぱいに広げてそれを防ごうなどと思わぬはずだ。
「生憎と、いくら光っても虫には興味がないもので。金の等身大クマさんの群れだったら危なかったかもしれませんが」
「石っころ程度に惑わされる私様じゃあねえんだよ!!」
 ハルツフィーネは辛抱強く攻撃を受け止め、返礼とばかりにクマさんの攻撃を叩き込む。ミカの攻撃は荒削りながらも正確性を弥増し、着実に屑石たちを殲滅しつつあった。途中途中で派手に動き回る玲や、仲間の補助に奔走するJaneのような者を除けば、とりわけ殲滅力が高いのはこの2人か。
「欲に溺れぬことが美徳のように語るが、それで、これか。もう少し楽しませて欲しいものだが」
「吾輩1人ばかりが貴殿と楽しんでは嫉妬されよう……Λ」
「砂製の身体とかやりづらいなぁ……核とかわかりやすい場所があれば良いのに」
「そう言ってくれるな。砂金を幾つか潰しても未だ戦える以上、あれは総体として倒さねばならぬ輩だ」
 グレイシアは川砂ノ男と丁々発止のやり取りを交わしながら切り結び、互いに浅からぬ傷を負っていた。彼等はたとえ死んでも、敗北たり得ない。が、この佳境で戦列を降りることは許されない。なればこそ、連携でもって死なぬ工夫が必要なのだ。入れ替わりに前進したΛは、拡散魔導砲を相手に叩き込み、ぐいとその距離を詰めに行く。それを挑発と見て取ったか、相手も距離を詰め、激しい攻撃を繰り出していく。
 その、一見すれば正々堂々とした戦いはしかし、影からずるりと近づく縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧の存在によって一気に天秤を傾けられていく。
「後少し……後少し倒せば、もう私を惑わすものは……」
 争治姫は、荒い息を吐き出しながらじわりと足を前に踏み出す。それまで随分と耐えた、というべきだろうか? 彼女をも巻き込むように放射された屑石の輝きはだいぶ減ってはいるが、さりとて完全というわけでなく、そして彼女は年端も行かぬ少女である。魅了されるな、というのが無理があるのだ。
「……まあ、そうなると思ったよ」
 Janeはそれを読んでいたかのように、手近な屑石に掴みかかると、己の身ごと壁に這うパイプへと突っ込んでいった。常軌を逸した行動に反応が遅れた屑石は、そこから漏れた蒸気とJaneの膂力に挟まれ、ひび割れて動かなくなった。
「争治姫、そっちに行くんじゃねえ! ……このっ」
「ひゃぁっ!?」
 蒸気にまみれた視界の外から、ミカの手が争治姫に伸びる。それは見事に彼女の(慎ましい)胸を鷲掴みにし、繰り返しまさぐられた。
「な、ななな、なにを」
「あ? いいじゃねえか女同士なん」
 あっけらかんと笑うミカはしかし、いい終えるより早く彼女にぶん殴られていた。

「おぬしの主役だった映画は先程飽きるほど見たからのぅ! そんなものはここで廃盤じゃ!」
「欲に関しては貴方も人の事を言えないでしょう。虚飾の輝きで人を惑わし愉悦に浸る、浅ましい欲をお持ちなのですから。私も、これ以上はゴメンです」
「何を訳のわからないことを……!?」
 川砂ノ男は、襲いくる玲とハルツフィーネの攻撃を身構え、受け止めようとする。が、縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧につけられた傷はじくじくと体力を削り、守りに入る構えすらもままならぬ。
 悲鳴も、暇乞いも、それには不釣り合いで、許されぬことだったのは間違いない。
 蒸気と夜気、そして玲の高笑いにかき消されるようにして、砂の塊は千千に乱れ、夜妖としての生を終えた。

 ……当然の顛末ではあるが。
 助けられた争治姫はしかし、暫くの間ミカの方を恨めしげな目で見ていたのは言うまでもなかろう。

成否

成功

MVP

グレイシア(p3x000111)
世界の意思の代行者

状態異常

Jane(p3x008480)[死亡]
武野ミカ(p3x008658)[死亡]
かみなりさま見習い

あとがき

 一夜の欲に塗れた奇譚、これにて幕引き。

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