PandoraPartyProject

シナリオ詳細

狐の恩返し

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 ざぁ、ざぁ、と竹林を風が抜けて笹を揺らしている。
 青色のポニーテールが風に遊ばれるようにふわりと揺れている。
 竹特有の香りが鼻を刺激する中、青髪の少女にしか見えぬその人物は『そこにあるもの』を見下ろしていた。
 手入れに来る者がいるのか、綺麗な墓碑と、その横には『幾つかの名前が刻まれた』墓標が1つ。
 今日のものではないだろうが、お供え物もそう遠い日のものではなさそうだ。

 神咒曙光――通称『神光』あるいは『ヒイズル』、ネクスト2.0によって追加実装された地域である。
 現実の混沌大陸の東の端に存在する島国『豊穣』ことカムイグラに相当する国家であり、豊穣と異なり、争いを起こさなかった世界より現れたという現帝・今園賀澄と建葉晴明、天香長胤らが協力した世界線である。
 少年はその新規実装されたばかりの領域で、その内側の人に導かれるように辺鄙な郷へ訪れていた。

 ――久留尾郷。
 混沌であれば悲恋の果てに戦いを求め死んだ魔種が、かつての想い人と共に眠っているはずの場所。

「おや、見ぬ顔じゃのう?」
「えっ――」
 もしかしたら、もう一度聞くことができるかもしれない――そう思っていた声がして、ブラワー(p3x007270)は振り返った。
「鈴華――御前」
「ほほほ、そのように敬称をもって呼ばれたのは幾ぶりかえ?」
 懐かし気に目を細め、狐を思わせる女性が小さく笑っている。
「しかし、妾も年かのう……お主を見た覚えがないわ……」
 申し訳なさそうに柳眉を下げる女に、ブラワーは気にしないでと首を振る。
「あの……ここに眠ってる人達は一体?」
「む? ほほ、そこに眠っておるのは妾の夫――じゃった男と、何人かの子供達じゃよ」
 小さく笑ったその後に、鈴華は愛した相手を慈しむように墓碑を見て、そろそろと近づいてくる。
「……旦那さん、なのね?」
「うむ、遠き頃のじゃがの……」
 そう言って手を合わせ、眼を閉じた鈴華に合わせるように、ブラワーもまた手を合わせて目を閉じた。

 あの後、お墓の世話を始めた彼女を手伝った後、ブラワーは鈴華の今の住居だという屋敷に通されていた。
「ほほ、なるほどのう。遠い地から……そのアイドル? とやらのことはよくわからぬが……。踊り子のようなものかえ?」
「ええ、そう思ってもらって大丈夫。鈴華さんはここに1人で済んでるの?」
「いや、娘たちとじゃよ。……じゃが、少しばかり遅いのう? 今日は帰ってくる日じゃったと思うが……」
 外を見て陽の光の差し方で首を傾げた。
 その時、ぽん、と画面にポップしたのは受注可能クエスト発生の文字。
(……今の流れ的に、娘さんを探せってこと)
 少しばかり考えて、受注するべくブラワーは視線を鈴華に向けた。
「良かったら、探しに行きますよ、ボク、こう見えても運動神経は良いので」
「ほむ……悪い気もするが、そうしてもらおうかのう……」
 扇子で口元を隠しながら少しばかり考えた後、鈴華はそう言ってこくんと頷いた。
「あの子が働いとるところは……ここよりずっと南にある神社じゃよ。
 境内の外も含めれば広いゆえ、人を集めてから行った方が良いかもしれぬの」
 立ち上がり、箪笥にしまわれていた地図を持ってくると、神社の場所に印をつけてから手渡してくる。


「ん、んん……? んん!?」
 口に手拭いを嵌められ縛り上げられた少女は眼を開けると、動けないことに気づいて身じろぎする。
 幸い、眼は覆われていない。きょろきょろと巡らせれば、どうやら建物の中らしい。
 考えてから頭がずきずきと痛むのに気づいて、殴られたらしいことを悟る。
 声を潜め、明かりのない視界の中で視線を巡らせ――自分以外の人の気配も感じ取る。
(……一体なにがどうなって?)
 自らの状況を推測しながら、少女はギュッと手を握った。

GMコメント

 こんばんは、春野紅葉です。神光のやつです。

●オーダー
【1】NPCの救出
【2】久里を久留尾郷へ無事に連れ帰る。

●フィールド
 由緒正しく古めかしい荘厳な雰囲気漂う神社です。
 境内は広く、射線の確保などは問題ありません。
 NPC達は神社の入り口に相当する鳥居から見て正面にある本殿の中に隔離、監禁されています。

●エネミーデータ
・『盗掘家頭』義兵衛
 『盗掘家』の名の通り、遺跡などに眠る骨董品専門の盗賊です。
 京の滞在中に発見され逮捕間近というところで逃亡、ここまで逃れてきました。
 新しい拠点として神社を定め、その前にと骨董品を探しています。
 神社の中にある宝物庫を漁っている最中で戦闘開始時には姿を見せていません。

 物神両面型でやや高めの回避、反応、EXAを有します。
 【飛】を持つ妖術師であり、【邪道】【氷結】を用いる剣士でもあります。
 進退窮まれば何より『逃げ』を優先します。

・盗掘一家〔斧〕×5
 斧を握る構成員。物攻高めの近接物理アタッカーです。
 うち2人は本殿の入り口を固めています。それ以外の3人は境内にいます。
 単体の他、近扇、近列があります。

・盗掘一家〔剣〕×5
 剣を握る構成員。やや反応が高めの至近物理アタッカーです。
 うち2人は義兵衛と共に宝物庫に赴いています。それ以外の3人は境内にいます。
 一部に【毒】系統のBSがあります。

・盗掘一家〔妖〕×2
 妖術を用いる符使いの構成員。神秘遠距離範囲アタッカーです。
 全員で境内にいます。
 【足止め】【火炎】系列のBSを持ち、一部には【万能】がつきます。

・盗掘一家〔弓〕×2
 弓を持つ構成員。物理中~遠範囲アタッカーです。
 全員で境内にいます。
 一部に【識別】を持ちます。

●NPCデータ
・上坂 久里
 救出対象NPCです。白髪金眼の10代半ば~20代前半の少女、白色の尾が2本と耳を生やしています。
 現実世界ではイレギュラーズと敵対した妖狐の1匹でしたが、鈴華御前の実子であり、こちらでは普通の精霊種です。

・巫女数名
 救出対象NPCその2。神社の巫女さん達です。
 いわゆる『トロフィー』にされた希望ヶ浜の生徒たちです。
 気絶しているようです。

・鈴華御前(上坂 鈴華)
 精霊種の女性。現実世界ではイレギュラーズと戦って倒された魔種でした。
 反転と共に現実では悲恋に終わり、隠居する理由となった上坂氏という武人との大恋愛を成し遂げ、円満に隠居しています。
 子供も多く、穏やかな隠居生活を営み、その分、母性的な要素が強調されています。
 戦場には登場しません。

※重要な備考『デスカウント』
 R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
 現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●ROOとは
 練達三塔主の『Project:IDEA』の産物で練達ネットワーク上に構築された疑似世界をR.O.O(Rapid Origin Online)と呼びます。
 練達の悲願を達成する為、混沌世界の『法則』を研究すべく作られた仮想環境ではありますが、原因不明のエラーにより暴走。情報の自己増殖が発生し、まるでゲームのような世界を構築しています。
 R.O.O内の作りは混沌の現実に似ていますが、旅人たちの世界の風景や人物、既に亡き人物が存在する等、世界のルールを部分的に外れた事象も観測されるようです。
 練達三塔主より依頼を受けたローレット・イレギュラーズはこの疑似世界で活動するためログイン装置を介してこの世界に介入。
 自分専用の『アバター』を作って活動し、閉じ込められた人々の救出や『ゲームクリア』を目指します。
特設ページ:https://rev1.reversion.jp/page/RapidOriginOnline

  • 狐の恩返し完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年07月25日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ハルツフィーネ(p3x001701)
闘神
ミーナ・シルバー(p3x005003)
死神の過去
悠月(p3x006383)
月将
ディリ(p3x006761)
九重ツルギ(p3x007105)
殉教者
ブラワー(p3x007270)
青空へ響く声
スイッチ(p3x008566)
機翼疾駆
アイシス(p3x008820)
アイス・ローズ

リプレイ


 階段を昇った先、厳かな雰囲気を漂わせ、どことなく神気のような物さえ感じさせる社が姿を見せた。
 鳥居の向こう側、ここからでも見えるのは明らかに堅気じゃなさそうな輩が数人。
 今回の依頼は依頼人の娘を見つけて無事に連れ帰ること。
「成程、神社が盗賊に襲撃されているという訳でしたか」
 その様子を眺め、悠月(p3x006383)は納得したように頷いた。
 この神社で働いているらしいのであれば、捕まっている可能性は高い。
(確かに、神社仏閣の類には金銭的価値の高いものがある場合も少なくないので、時代が時代なら狙われるのでしょうね)
 少しばかり考えて、悠月は神社の地図に目を向けた。
「……狙いは恐らく倉庫の類ですか」
 神社の地図によれば、宝物庫が近くにあるようだ。
「神を祀る社で盗賊とは……怖いもの知らずというか、何というか。
 この地の神を煩わせるまでもないですね」
 呆れ半分に『魔法人形使い』ハルツフィーネ(p3x001701)はぎゅぅっとテディベアを抱きしめて。
 境内の様子を観察していた『死神の過去』ミーナ・シルバー(p3x005003)はクエストの詳細欄を振り返ってみる。
(どこの世界にいっても盗賊っているもんだが、こんなとこでもいるとはねぇ……)
「ま、救出だけとりあえずすりゃいいんだろ」
 そこそこの数がいる敵を流し見して、飛び出す準備を整える。
「狐のお嬢さんのお迎えに来てみれば……これは何やら穏やかではなさそうだ」
 平時ではないことを悟り、『可能性の分岐点』スイッチ(p3x008566)は武骨な愛剣を抜いた。
「神聖な境内を汚すごろつきにはお帰り願いつつ……お嬢さん達を無事に助けないとね」
 斬りこみ体勢に入り、体勢を整えた。
「ええ、私達……と、クマさんの手で罰を与えましょう。がおー」
 スイッチに頷いてから、ハルツフィーネはクマさんを掲げた。
(しかしこの世界はログイン……いや、囚われているんだったな。
 プレイヤーが捕まっているケースが多い。戦える人もいるというのに、何かあるのか)
 その違いがどういうわけなのかはまだ分からない。
 考えを整理しながら、『君の手を引いて』ディリ(p3x006761)は武器を担ぐように持つ。
「……現実で叶う事のなかった幸福な世界。そこに土足で踏み入る下衆を見逃す訳にはいきませんね」
 細剣を抜き、光の羽の輝きを微かに強める『殉教者』九重ツルギ(p3x007105)は少しばかりの不快感を顔に滲ませる。
「汚れごとこの地から削ぎ落としてしまいましょう」
 魔道具が輝きを放ち、ツルギの横に聖騎士が顕現する。
 騎士に地図上にある宝物庫の位置を示して出入口を塞ぐよう指示を与えれば、騎士は静かに迂回していった。
(鈴鹿御前が好きな人と結ばれ、家族が出来て幸せそうで良かった)
 ROOの世界――現実と異なることもあるからこそのありえた可能性の提示。
 手を握りしめて『青空へ響く声』ブラワー(p3x007270)は前を向く。
「元の世界で魔種であった鈴華御前がR.O.Oでは普通に暮らしている……ちょっとしたきっかけがあれば幸せになれたと思うと物悲しいですが」
 少し悲しそうに俯いていた『氷華のアイドル』アイシス(p3x008820)は魔神王の指輪とも呼ばれるそれに触れて視線をあげる。
「今は彼女の子供の久里さんを助けましょう」
 目標を定めるように、鳥居の向こうへ。
「……うん、久里を助けないと。幸せな家族を悲しませたくない」
 同意するように頷いたブラワーの目に覇気のようなものが宿る。


「さぁ――斬りこもうか」
 眼前、構築されたホログラムのターゲットスコープに狙うべき目標を映し、スイッチは爆発的な疾走をみせる。
 境内――矢を弓に添えた状態の弓兵。
 目標めがけ、スイッチは武骨な愛剣を振り抜いた。
 推進力を利用し、半月を描くような振り抜きに弓兵が目を見開きながら退避を試み――刃に切り開かれた。
 スイッチ自身は、推進力の赴くまま戻っていく。
「だ、誰だ、てめえら!」
 盗賊の1人が声を張り上げた。
 警戒するように、敵が各々の武器を構えんと動き出す。
「神の遣いたるクマさんがやってきました。
 賊に慈悲は必要ありません。叩きのめして、あげます」
 そんな言葉と共に、ハルツフィーネが戦場に姿を見せる。
 視線を巡らせ、人を隠せるような場所は――意味ありげに守る者がいる場所は中央奥に見える本殿だけだ。
 両手を上げた威嚇ポーズを決めたクマさんが『がおー』と咆哮を上げれば、衝撃波が戦場を劈いて本殿前の斧兵へと走る。
 見た目の可愛らしさと裏腹に込められた威圧感に斧兵がたじろぎをみせる。
「さぁ、ミーナいくよ!」
 更に続けるように、ブラワーはミーナへ声をかけ走り抜けた。
 斧兵の注意がハルツフィーネに向けられているのを確認して、そのまま真っすぐ本殿の扉を開く。
「みんな! 助けに来たよー♪ もう大丈夫」
 巫女たちに声をかけ、その視線を縛り上げられたもう1人へ向けた。
「久里さんですね、上坂鈴鹿さんから頼まれて迎えに来ました」
 目を見開く少女に声をかけ、はめ込まれた手拭いを外してやる。
「ありがとう、ございます」
 知性を湛えた瞳は現実で相対した同名の妖狐を思わせる。
「まだ外は危ないから、ここで待ってて。……それで、良かったら、ボクの歌、聞いてってね」
 久里がこくりと頷いたのを見てから、ブラワーはウインクをして外へ。
 少しでも、元気が出るようにと。
「頑張るとしますかね……」
 ブラワーの動きに合わせるように動いたミーナも走り抜ける。
 ある程度近づくや、仕込んでおいた毒のしみ込んだ苦無を斧兵めがけて投擲する。
 風を切って苦無が斧兵へ走り――斧で防ごうとしたその腕に傷をつけ、しみ込んでいた毒がその身を蝕んでいく。
 盗掘一家の弓兵の片方が矢を番えて本殿目掛けて射かけていく。
「何もんか分からねえが……誰か、旦那に知らせに行け!」
 叫んだのはスイッチの攻撃に怯んだ弓兵だ。
「数はこっちが上みたいですね……くふふ」
 符を構えた男が笑い、3人の剣兵のうち、1人が宝物庫の方へ走っていく。
 境内へと侵入したディリはガンブレードを担ぎ、盗掘一家へその身を晒す。
「どうせ助からないんだ。一縷の望みに賭けて、俺たちを殺しに来たらどうだ? ん?」
 人差し指を立てるように、クイッと曲げて挑発するとそのまま近くにいた盗賊へとガンブレードを振るう。
 死角より撃ち抜くように斬り払えば、そいつはバランスを崩して隙を見せた。
 その隙だらけな胴体を、ディリは思いっきり蹴りつけた。
「浄化を始めましょう」
 そう言って魔力を込めるツルギの背中、美しき光の翼が鮮烈なる輝きを放つ。
 美しき光は球体に変質してその身を包み、ツルギの守りを固める盾となる。
 その姿のまま、ツルギは戦場を走る。
 目指すは本殿へと走り出した仲間を追うように動く剣兵。
 間に割るように立ちふさがれば、警戒したように剣兵が間合いを開けた。
「……どうあれ、馴染み深い場所が荒らされているのは不愉快ですね」
 戦場の様子を見た悠月はその光景に改めての不快感を露わに、杖を地面へ突き立てるように構えた。
 視線を遠く、乱戦には至らぬ盗賊たちへ向ける。
 やがて、妖術師の頭上へ陣が浮かび上がる。
 斧兵1人と剣兵1人を巻き込む陣が輝きを放てば無数の氷刃が形成され、清冽なる氷の刃が降り注いでいく。

 スイッチは再びスラスターの出力を上げた。
 向かう先は妖術師。爆発的な推進力をエネルギーに変えてぶつかるままに剣を薙ぐ。
 防御技術はその圧倒的速度の前に意味をなさない。
 あまり余った勢いのまま剣を振るえば2度目の斬り払いが炸裂し、妖術師の身体を大きく揺るがせた。
 その傷が深いのを見越し、スイッチはその場で妖術師へ剣を向けた。
「そら、どうした! まだまだ倒れないぞ!」
 斧兵の振り下ろしを刃を当てて受け流し、ディリは挑発の言葉を放つ。
 事実、衝撃はあるが致命的な傷には至らない。
 近くを囲うのは斧兵1人と剣兵が1人。射程圏内にあるのを確かめ、ディリはガンブレードを横に構えた。
 そのまま勢いをつけて回転を加え、剣の重心に従うまま、取り囲んでいる3人を切り刻んでいく。
 ミーナは爆ぜるように駆けると、ハルツフィーネに引き寄せられている斧兵へ向けて踏み込んだ。
 両手に握るは双剣。踏み込みと同時、ミーナは剣を振るう。
 鮮やかな剣筋は守りを固めんとする斧兵を正面から斬り伏せると同時、体当たりをかまして勢いをつけ跳躍。
 くるりと跳ねた身体は斧兵の首筋を刈り取らんと剣を薙ぐ。
 それはまるで風に導かれるが如く、或いは未来視を為すかのように、斧兵の身体を切り刻む。
 妖術師がツルギへ投げつけた符が爆発を起こす。
 燃え盛る符がツルギの身体を焼き、続けるように振りぬかれた剣がその身を更に深く削る。
「この復讐は俺だけの物ではありません。奪われた者の苦しみ、身に刻みなさい!」
 相対するように、ツルギは細剣を立てるように構えた。
 その刀身に魔力が集束し、幾重もの層を作り出していく。
 引くようにして構え、放たれた斬撃は無数の光の刃を帯びて剣兵を切り裂き、その身を電子の海へと消し飛ばす。
 ソロモンの指輪の魔力を媒介とするアイシスの歌が戦場に響き渡る。
 落ち着いた歌声はディリの身体的疲労感を打ち消し、癒していく。


「刑部の追手かと思ったが、そうでもなさそうだな……なにもんだ?」
 声がしてそちらを向けば、3人の剣兵を従えた男の姿が見えた。
 その風貌は、クエスト詳細欄に記された『盗掘家頭』義兵衛のもの。
 剣を構える義兵衛はそのまま視線を鳥居の方へ。
「ま、なんでもいいか」
 そのまま、まっすぐに鳥居の方へ走り出した。
 それへ割り込んだのはスイッチだった。
「神社の宝物庫を荒らそうだなんてこういうのを罰当たりっていうんだよね?」
 急ブレーキをかけ、眼前に義兵衛を抑える。
「しかるべきところに引き渡してきちんと裁いてもらわないとね」
「おいおい、やっぱ刑部の手のもんか? ……まぁなんにせよ、捕まっちまったらたまんねえ!」
 改めて剣を構えた敵へ、スイッチも同じように構える。
「俺の翼と剣の間合いからそう簡単に逃げられるとは思わないでね」
 再び爆発的加速と共に繰り出した斬撃が、義兵衛の身体を浅く裂いた。
 淡い輝きを放つ細剣を、ツルギは静かに構えた。
 細剣に濃密な魔力が反映されていく。
「汚れを祓うのが神なる社。貴方は祓うだけでは生温い。ここで滅します!」
 続けるようにツルギが踏み込んだ。
「――逃がしてくれるのか逃がす気がないのかはっきりしないねえあんたら!」
 打ち込んだ斬撃は真っすぐに、義兵衛と共に姿を見せた剣兵達へと振り下ろされる。
 まばゆく輝く天使の裁きは、回避を赦さぬ苛烈なる断罪の太刀となって剣兵を刻んでいく。
 構えるスイッチに続くようにディリは義兵衛の前へ立ちふさがる。
「お前が義兵衛だな? 来い、相手してやる。こいつらと違って少しは骨がありそうだしな」
「いやなこった! 俺は捕まるのはごめんだよ!」
「そうか」
 交わされた言葉に合わせるように、ディリは剣を振るう。
 振り下ろされるガンブレードに合わせるように義兵衛が剣を構える。
 その剣に触れる瞬間、ディリは装填したシェルを炸裂させた。
 苛烈な振動が構えられた剣を弾き、隙のできた腹部に斬撃を見舞う。
「ってぇぇ!?」
 思わぬ一撃だったのか、義兵衛が目を見開いて大げさに叫んだ。
「お楽しみのところ悪いんだがね。こっちもこっちで事情があるんだわ」
 続けるように駆け抜けたミーナは魔力を手繰り、疑似的な蜘蛛の糸を作り出す。
 魔力で出来たそれを張り巡らせ、義兵衛と周囲にいる剣兵に叩き込む。
 その瞬間、義兵衛たちの動きが明確に鈍っていく。
 その視線の先で、巫女たちが鳥居の向こう側へ抜けていくのが見えた。


 人質たちの救出に成功したイレギュラーズは、久留尾郷へと戻ってきていた。
「無事に帰られたようじゃのう。久里も怪我は無さそうじゃな?」
 屋敷の縁側にて外を見ていたらしい鈴華が君達を見つけてセンスを口元に寄せて微笑む。
「お主らも、無事で何よりじゃ。この恩は忘れぬぞえ」
 ぺこり、頭を下げる鈴華とその隣に立った久里を見ながら、ミーナは少しばかり頬を掻く。
「やれやれ。こういった仕事には向いてないねぇ私は……」
 むずがゆさを感じて吐いて出た言葉に、久里が首をかしげる。
「まぁ、美人に感謝されるのはわるかーないけどな」
 その様子を受けて、ミーナは思わず続けて呟いた。
「あの……報酬は要らないので依頼人さんの尻尾をもふもふさせてくれないでしょうか」
 機会を窺っていたハルツフィーネは誘うようにゆらゆらと動く鈴華の尻尾をみながら問う。
「ほほ? 尻尾をかえ? ほほ、構わぬよ」
 ひょいひょい、と手招きされるのにふらふら~と近づいていく。
 ぎゅう、と抱きしめて思い出すのは自分のクマさん。
 140cm、リボンがチャームポイントなテディベア。
 そのつぶらな瞳と視線があって、罪悪感のようなものが湧いてくる。
(いえ、クマさんが最強です。浮気ではないです。
 しかし、狐さんの尻尾もなかなかに抗いがたい魅力があるのです)
 ふるふると頭を振って、テディベアから手を離し、もふりと狐の尻尾に顔をうずめていく。
(……こういう道も有り得た、ということなのでしょうね)
 悠月は縁側に座る鈴華と久里を見ながら、思いにふける。
 奇妙な縁となった現実での御前とその弟子のような妖狐たちの事を思いながら、ふと。
「そういえば……おふたりが居るのなら、悪戯が過ぎると言われていたあの子も生きてるのでしょうか?」
 それは現実のカムイグラで出会った妖狐のこと。
「悪戯が過ぎる……ですか?」
 聞こえたらしい久里が悠月の方を向いて首を傾げた後、少し物思いにふける。
「悪戯っ子な妹は確かにいますね。普段は京の学び舎で暮らしておりますが」
「なるほど、京で……」
(そういえば、あの尾裂狐も高天京にいましたね)
 あの妖狐を思い出しながら、悠月はそのまま久里の話を聞くことにした。
 ブラワーはじっと2人の方を見ていた。
 仲のいい母娘なのだという事はひしひしと感じられた。
(……少し、羨ましいけど)
 胸の奥に一抹の寂寥がよぎる。それでも。笑って今日は別れよう。
「家族を大切にしてくださいね。あと、今度ボクのライブ見に来てね」
 アイドルらしく、というには少しばかり口調に覇気は籠らなかったけれど。
 それでもアイドルらしく、笑ってみせる。
「ほほ、もちろんじゃよ。機会があれば行かせてもらうとするぞえ。
 お主の歌と踊り、楽しみにしとるよ」
 鈴華が笑う。
「お元気で」
 ぺこりと頭を下げる久里。
 その様子を見ながら、ブラワーは頷いた。
(彼女たちが幸せでよかった)
 くるりと踵を返してその場を後にする――その前に。
「そうじゃ、また会いに来てくれると嬉しいぞ。
 暇つぶしの出来る友は何人いてもいいからのう」
 緩やかに笑った鈴華に改めて返事をして、ブラワーはその場を後にした。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れさまでしたイレギュラーズ。

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