PandoraPartyProject

シナリオ詳細

1年に1度のお願い

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●枯れた大河の水平思考
 灼熱の太陽は地平線の向こうに沈み、とっぷりと暮れた夜だった。
 砂漠の夜は身を刺すように寒く、石造りの建物は容赦なく冷たさを反射する。
 その日、『黄金卿』恋屍・愛無は、湿った夜の匂いを嗅いで、そういえば、世界には昼と夜があったのだと久しぶりに思い出した。ここ最近は、ずっと屋敷にこもっていた。
 オアシスの都ネフェレストの郊外にある、黄金の屋敷。
『化け物』が潜むとされるその場所で、愛無は、数多くの財宝を所持していた。
 そこへ現れたのが、ルウナだった。
「今宵は全く良い夜よ」
 屋根の上に寝転びながら、ルウナ・アームストロングと愛無は宙を眺めていた。これが”良い”のか、そうか、と愛無は納得する。
「……そうか?」
 屋根の上でうごめく影は、人だったか、それとも化け物だったのか。
 愛無には人の感覚というモノがわからない。
 いずれにせよ、星の見えない暗い夜だ。
 けれどもルウナは、ごくごく親しい友人に話しかけるようにして語りかけるものだから、愛無は自分のすがたを人のようだと思った。
「こんな日だからな。もう少し晴れておったら見応えもあるじゃろうが、まあ、良し。及第点としておこうか。見えぬ方が想像できるものもある」
 ぐいと酒をあおると、ルウナは気まぐれに話を始める。
「むかしむかし、あるところに働き者の女がいた。機を織るのが大層上手かったが、余りに自分のことを顧みないため、天の神さまが婿を探してきた」
「……さらってきたのか?」
「ふっ……くくっ、あっはっは。なかなか面白い発想じゃのう。案外、さらってきたのかもしれんのう? 神さまのいうことには逆らえんじゃろうて」
 ルウナは面白そうに笑った。
 屋敷から出ない恋屍・愛無に、ルウナが語る物語は不思議に響くのだった。
「二人は運命的にであい、愛し合ったが、恋愛にかまけて仕事がおろそかになった。遊んでばかりいて、ちっとも働こうとはせんのよ」
「それじゃあ、飢えて死んだのか」
「ふふ……そりゃあもう、畑は荒れ、見事な衣服も手に入らなくなった。そこで、神様は二人を『宙の河』……今の東側の遺跡らへんじゃろうかのう。そのあたりの、向こう側と、こちらがわに分けた。決して渡ることのできない、流砂のこちらと向こう側に」
「……結局、流刑にされたのか」
「流刑とはまた……」
 ルウナ曰く。
 流砂が流れ落ちる砂の川は流れが速く、とてもではないけれども向こう岸には行けない。けれども、1年に1度、スコールが降りしきれば、ワジに水が溜まり道ができ、船をこいで、お互いに会えるのだ。
「何事も怠るなかれとな、そういうことだ。恋人達が会えるのは、オアシスが満ちたとき。
……星が見えるそうだ」

●ハプニング
(……妙な連中に見つかったな)
<Genius Game Next>で、プレイヤーたちに助けられてからというもの。
 いや、違う……。おそらくは光景を見せて貰ったときからだろうか?
 愛無は、無性に外が気になったのだ。
 外に出た……ところで、うっかりと盗賊と出くわしてしまった。
「お前、『黄金卿』か?」
「……まあ、そうだな」
 ハウザー・ヤーク幹部……というには動きがお粗末すぎる。おそらくは、またはったりだろう。あとあと、オトシマエをつけられるのは間違いないだろうが……。
 何かやらかしたあとらしく、追っ手が追いかけてくるのだった。
「くそ、いいか。『黄金卿』はカネを持ってる。交渉材料になる……このまま浚っていくぞ」
 これは面白くもない。
 愛無が、そろそろ帰ろうかな、と思っていたところである。
「もう連中が追ってきやがる……どうする?」
「『宙の河』を知っているか? うまく、あの川を渡れば……」
「いけるのか? ふーん、それに賭けてみようじゃねぇか」
「待て。……『宙の河』へ行くのか?」
「ああ?」

●届いたメッセージ
TITLE:救出依頼
FROM:黄金卿
世話になっている。
このメッセージが誰に届くのかは、正直分からないところだが……。
現在、身動きが取れない状態にある。
場所は宙の河。
ハウザー・ヤーク幹部を自称する連中がいる。

手間をかけるが、迎えに来ていただけないだろうか?

急に届いたDM(ダイレクトメッセージ)に、プレイヤーたちは思い思いの反応を示すだろう。メールを閉じれば目標地点が示される。

砂嵐――遺跡の密集したエリアの宙の河。

GMコメント

●目標
・『黄金卿』恋屍・愛無の奪還
・『宙の河』の景色を楽しむ

●場所
 R.O.O内『砂嵐』、宙の河。
 設定上普段は乾いた大河なのですが、今日に限っては水が満ちています。星空を映したかのような広い河があります。

 幅の広い川で、船は出発したばかりです(イベントの都合でしょう。たどり着かないと進行しないのです)。探せばほどよいイベント用の小船が係留してあります。
 追いついて救出しましょう。

●敵
ハウザー・ヤーク幹部(自称)×12
 ハウザー・ヤーク幹部(自称)です。3つの小舟に分かれています。水には慣れていないようで、操船技術はあまりありません。何人か遠距離攻撃をするモノがいます。
 なにかやらかし、ヤケになって愛無を誘拐し、一発逆転を狙っています。
 倒すと肉や酒をドロップします。

●救出対象
『黄金卿』恋屍・愛無
参考のために「感想」を求めることがあります(自由記述)。

※重要な備考『デスカウント』
 R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
 現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●ROOとは
 練達三塔主の『Project:IDEA』の産物で練達ネットワーク上に構築された疑似世界をR.O.O(Rapid Origin Online)と呼びます。
 練達の悲願を達成する為、混沌世界の『法則』を研究すべく作られた仮想環境ではありますが、原因不明のエラーにより暴走。情報の自己増殖が発生し、まるでゲームのような世界を構築しています。
 R.O.O内の作りは混沌の現実に似ていますが、旅人たちの世界の風景や人物、既に亡き人物が存在する等、世界のルールを部分的に外れた事象も観測されるようです。
 練達三塔主より依頼を受けたローレット・イレギュラーズはこの疑似世界で活動するためログイン装置を介してこの世界に介入。
 自分専用の『アバター』を作って活動し、閉じ込められた人々の救出や『ゲームクリア』を目指します。
特設ページ:https://rev1.reversion.jp/page/RapidOriginOnline

※重要な備考『デスカウント』
 R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
 現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。

  • 1年に1度のお願い完了
  • GM名布川
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年07月26日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ヴァリフィルド(p3x000072)
悪食竜
ユキノ(p3x002312)
Teth=Steiner(p3x002831)
Lightning-Magus
ファン・ドルド(p3x005073)
仮想ファンドマネージャ
真読・流雨(p3x007296)
飢餓する
ホワイティ(p3x008115)
アルコ空団“白き盾持ち”
黒子(p3x008597)
書類作業缶詰用
霧江詠蓮(p3x009844)
エーレン・キリエのアバター

リプレイ

●Fw:
 受信:1件。
『書類作業缶詰用』黒子(p3x008597)の視界の隅にメッセージがポップアップした。黒子は事務作業を並行しながら、依頼概要を分析する。数秒で状況を把握。即座に解決するべき課題として分類。
 必要と思われる事項を付け加えると、メッセージを転送する。
「ふむ……」
『仮想ファンドマネージャ』ファン・ドルド(p3x005073)は、わかりやすくまとめられた概要を眺めた。
「黄金郷も運がないというか、間が悪いというか……手早くお助けして、あとはナイトクルーズと洒落込みましょうか」
『恋屍・愛無のアバター』真読・流雨(p3x007296)は『Fw:ナイトクルーズの件につきまして』と題された以来の概要を見て額を抑えた。
(外を出歩くときは知らない人について行ってはいけないと教えるべきか? というか、なぜ自己紹介までしているのだ? 昔の僕もこんな感じだったのだろうか。いや、もう少しまともだった気はするぞ)
 そのあたりは、まあ、クエストの都合というやつだろう。
(それにしても、捕らわれのお姫様と言うには、少々、物騒な気もするが)
 物語の裏に存在する存在する彼女の影を思い浮かべそうになって、考えを止める。
(まぁ、いいか。そのおかげで報酬にありつけるという訳だ。さて、仕事といこう)

「メッセージは、救援依頼。ですか」
 承諾を返し、ユキノ(p3x002312)はそれ以上は詮索することはない。現実は現実。R.O.Oは、R.O.O。裏にある事情も、正体も、明かさないのなら無理に知ることはない。
(黄金郷とは、知らない名前です。この世界の私なら、彼女なら、どう応えるでしょうか。
……難しいことは、行ってみてから考える。でしょうね)
「愛無ちゃん……いや、ROOでは初対面だから愛無さん、かなぁ。
大丈夫、必ず助けだすからねぇ……!」
 見覚えのある名前があった。
『ホワイトカインド』ホワイティ(p3x008115)はわたわたと重い装備を用意する。
「ハウザーの幹部? 先日、ハウザーと邂逅したのであるが……ふむ」
『悪食竜』ヴァリフィルド(p3x000072)はメッセージに含まれる小さなエラーデータをかみ砕いた。黒子の付け加えてきた「注:」の通り、これは詐称とみて間違いないだろう。
「幹部を名乗って逃走劇ってか。
余計な人質なんざ抱えずに、すぱっと全力で逃げりゃ良かったモンを」
『Lightning-Magus』Teth=Steiner(p3x002831)はニヤリと笑った。
「まぁ、こうなった以上は絶対に逃がさねーけどな?」

「一年に一度、河を渡って会える、な。ここまで符合が多いと世界同士に何かしらの繋がりを感じざるをえないな」
 サクラメントを抜け、現場にやってきた『エーレン・キリエのアバター』霧江詠蓮(p3x009844)。戯れに空を見上げて苦笑いを浮かべた。
 混沌世界でいうカムイグラにほど近いこれは、どこを参照している世界だろうか。
 混沌が軸で、自分の出身が巻かれているのか。それとも、練達に集まる誰かの欠片のひとつなのか。……似通った逸話を知るTethが同じように空を見上げて背伸びしていて、「よろしく頼む」と笑うのだった。

●人質奪還作戦
「宙の河はここですね。都合のいいことに、船も用意されていますし、行きましょうか」
 ユキノが小舟を見つけて頷いた。
「はい、手筈の通りに」
「やってみよう」
 詠蓮と黒子は分かれて操縦役を担うことになる。
「手信号っていうのか、これ。なかなか便利だな。覚えたぞ?」
 黒子の指示に従うTeth。操作に従ってドローンがまたたき、信号を伝える。
 まあ、戯れの一つである。
 TethのRecon_Droneが、飛び立つ機体は音もたてずに空を滑る。
「こう、こうかなあ?」
 ホワイティがぱたぱたと手を動かす。ヴァリフィルドは器用に前足を振って返した。とはいえ、彼らは合図さえ分かれば良いのだ。舟に、小さくなって身を潜める。

「そう遠くはなさそうだな。片方には依頼人が乗っている」
 ドローンの視界を得たTethが、敵の構成と人質が乗っている船を把握する。相手は、まだこちらには気がついていないようだ。
「移動手段は船さて兎にも角にも接近せねば始まらぬ」
 ヴァリフィルドが小さく唸った。……獲物がすぐ近くにいる。
 鳴神抜刀流・捉機眼如鷹。詠蓮は紛れるさざ波の一つすら見逃さない。星を確認し、……造り物の空はやはり様子が違うが、指標くらいにはなる。
「北北西……いや、そうだな。11時方向だ」
「うーん、ちょっと遠いけど。……いるのはバレてもいいんだよねえ?」
「はい、その予定です」
「よーし!」
 黒子に応えて、ホワイティはぴょんと背伸びする。
「愛無さん! 助けに来たよぉ! 聞こえてたら助けを呼んで!」
 ――こちらだ。
 みょんとアンテナが反応した気がする。
「船は二隻、クライアントはあちらですか」
 ファン・ドルドはしっかりと黄金卿をその目に捕らえる。
「ご無沙汰しております」
「……なにをやっているのだかな……」
 ふう、とため息をつく流雨。
「さあ、どうでしょうか。超然としているところは似ているといえるかもしれませんね」
 言外の意思を読み取って、ファン・ドルドは返事した。
「人質をすぐにどうこうはないだろうが。まぁ、楽観視もできまい……」
 人質本人は余裕(?)そうなのであるが。

「近寄るなーーっ、これが見えねぇのか!?」
「ダメだ、敵方の手の内にまだ黄金卿がいる。あれでは近づけないぞ!」
 詠蓮は芝居を打ちつつじりじりと近づく程度に船の速度を落とす。
 黒子は小さく頷いた。
「よしよし、よっし、相手は手を出せねぇ! ……撃ち落とせ!」
「はいはい分かったっての。手は出さねぇから、人質は傷つけんなよ?」
 Tethがお手上げだというように頭をかがめた。
 St.Elmo's Fireはまだ起動せず、単に、飛んできた矢を叩き落とす。それだけでも十分な威力ではあるのだが、相手からはロクにこちらの動きは見えていないだろう。外
「ったく。ハウザー・ヤークの幹部を名乗る奴等が、随分とみみっちい真似をするもんだな!?」
 舟は距離を保っている。直接乗り込むのであれば近づけないだろう。
 ……通常ならば。
「人質のいる舟、そうではない舟……条件が整いました」
 射線を確保するふりをして、巧みに位置を作り出した。真の意図は隠したまま。……不自然な動きでもしていれば、気が付いたかもしれない。だが、黒子の行動はすべて理にかなったものだ。
 人質を失いたくはない、しかし、攻撃はできない……。まどろっこしい位置だ。
 黒子はぱっと両手を挙げた。武器を捨てるかのように、降参に見えただろう。
 頷いた詠蓮はその刀を……三州景忠を『抜いた』。

●奇襲
 ホワイティとヴァリフィルドが同時に舟を飛び出した。
 矢を避けるために、水に身でも投げたのかと耳を澄ませる。
 けれどもぼしゃんという水音は聞こえない。
 見えたのは、透き通るような光の翅。
「おまたせ! 助けに来たよぉ」
 助けを求める声にしたがい、騎士は戦場へと駆けて行った。
 愛無は迷わずに騎士の手を取る。ぐいと手を掴んで、ホワイティは飛翔する。
「ば、馬鹿、ボーっとしやがって、追えーっ!」
「ふむ、乗員がいなくなっては寂しかろうな? どれ、 我がうぬらの相手をしようか」
 ヴァリフィルドは吠えるように翼を広げ、その姿を現した。咆哮をあげ、勇ましく竜の鱗が煌めいた。盗賊達には実際の何倍もの大きさに見えるだろう。
 船はめりめりと沈み込む。敵の攪乱が目的だ。
「ここは食い止めましょう、安全な場所へ」
 ファン・ドルドが割り込み、一瞬。盗賊達は何に斬られたかもわからない。旋風虎徹。納刀した状態から、一気に周囲を薙ぎ払った。
 盗賊は死角から足をとられて転んだ。
「拘束なら、攻撃力はさほど関係ありませんね」
 陰陽道を操るユキノの術が、的確に船の動きを阻害していた。
「ホワイティさん、今のうちに」
「うん、ありがとぉ!」
 矢が雨のように降り注ぐ、合間。アンカーシルクが船のマストに飛びついた。素早く進路を変えるには役に立つ。見えない何かにからめとられ、矢は地に落ちた。
 黒子は船の位置を引き離していた。追撃はできるが奪還には間に合わない位置。まいてきたブラフは効率よく動作している。水の上を渡り、当て身の一撃を食らわせる。
 詠蓮はぐいぐいと舵をとった。飛び移れる距離まで。
「追え、追え、逃がすなぁー!」
 しかし、追われているのは盗賊の方だ。
 ぐらりと、死角から船体が揺れる。
 接舷。
 影から飛び出した流雨が、ひらりと船体を足場にして大跳躍を果たした。食らいつくさんばかりの一撃。ヴァリフィルドが豪快に笑った。
 彼らは捕食者だ。
「させるか!」
 やぶれかぶれに追いすがろうとする敵の前に、ヴァリフィルドが立ちふさがった。吸い込むかのごとく大口を開けて、息吹を吐き出す。
『斃環』が、荒れ狂う奔流となった。黒子は位置取り、船を動かして死角を作る。よじ登ってきた敵を足止めした。そのあとは、ただ、さっと身をかわせばよい。位置取りは正確で、仲間がいる。
 射線上にいたユキノの一撃が敵を再び狂乱の渦の中に叩き落した。混戦による自滅、相打ち。……錬度が全く足りない。
「幹部というには、あまりにお粗末ですね。詐称なら、本物が黙っていないと思いますが」
「援護、痛み入ります」
「お互い様です」
 黒子は小さく頭を下げる。会釈、ついでに仲間の攻撃を予測してのことである。
 盗賊が撃ち抜いたはずの矢は、鋭い勢いの雷撃に阻まれる。
 S3:Sparkly_Bird。Tethの操る――自動反撃ドローンである。
 演算。
 予測。
 実行。
 一連の流れは視認できないほど速く、鋭い速さで繰り出される。それは、攻撃をものともしない。いや、傷つけば傷つくほどに、その雷はバチバチと唸った。
「お仕置きの時間だ。纏めて消し炭にしてやるぜ、偽幹部共よぉ!!」
「うわああーー!」
 水しぶきを上げておっこちる盗賊の落とす品を、ファン・ドルドはひょいと回収した。
「この後のナイトクルーズに、必須のアイテムですからね」
 ついでに、矢をかまえる敵を打ちのめすことも忘れない。
「もちろん、クライアントの無事は最優先事項です」

●冷静に暴れまわるときが来た
 陽光。
 人質を片手で抱きながら、ホワイティの繰り出すラウンドスラッシュがくるりと、虚空をくりぬくかのように丸く世界を切り裂いた。
「くそっ」
 ジャンプして追いすがる敵に向かっての、サンライズソードを掲げた。陽光の魔力を封じ込めた長剣。
「『サンライトバッシュ』! 陽光の力を見せてあげる!」
 きらり、その時ばかりは朝方のようだった。
 人質は僅か、それに見入った。
 まぶしい。
「脱出成功だねっ!」
「……参る」
 鳴神抜刀流・在万時一撃之機。この世界では思った通りに身体は動く。ばらばらになりかけた木っ端であろうとも詠蓮にとっては足場である。浮かぶ盗賊の頭をひょいと踏み抜いて、一閃を見舞う。流れるような舞。そして斬撃だ。人質を失い、標的は目立つものへと変わる。だが、それが詠蓮を捕らえることはない。
 足場は無数にあった。
「――鳴神抜刀流、霧江詠蓮」
 攻撃する船を都度変え、飛び渡って空間を裂いた。
「そろそろ、時間だな」
「クライアントの無事を確認しました。おつかれさまです」
 ファン・ドルドの手元は見えない。旋風虎徹が辺りを舞いあげた。目的を達したのだから引くはずだ、と退路を断ちに向かうが、そうではない。目的は制圧だ。一度しまった刀は、再び猛威を振るった。
 裂空虎徹。数フレームにおけるコマンド入力を必須とする達人の技だ。一度繰り出したら二度目も成功する確率は、ほぼゼロ。盗賊の中でも鋭いものは、そう読んでいた。
 だが。
 寸分たがわず同じ動きを繰り出したのだ。
「馬鹿な、その動き、どうやって……」
「マクロをご存知ですか? 便利ですよ」
 ワンアクション。
 そして、どこからともなく浸食してきた竹が船底を突き破る。流雨はエフェクトで生えた竹槍を振りかぶり、そのままとーうと投げた。しなる笹を足場に上へ上へ。
「かかって来い、だよぉ!」
 グレイミラージュ。ホワイティの影が、飛翔がそれに重なる。敵戦に自身の旗を掲げるように――ブリンギットオンを帯びた剣がきらりと輝いた。
「どうしても攫うって言うなら、わたしを倒してからだよぉ。白き騎士の守り、簡単に崩せると思わないでねぇ……!」
 片方の船が沈んでいく。
「こうなりゃやけだ! まとめてかかって……へぶっ!」
 ヴァリフィルドは敵を巻き込み、水中へと飛び込んだ。離脱するのは味方の船ではなく水中である。
(彼奴等は水に慣れておらぬのであろう?
ならば頑張ってこの川で水に慣れてもらうとしよう)
 あばばと溺れる連中をよそに、巨体な竜は優雅に泳いだ。そして、どんと体当たりだ。大きく揺れる。
「年貢の納め時ってやつだ。諦めろ」
 St.Elmo's Fireが正しく起動する。瞬く雷撃は新しい星のようだ。
 ユキノの攻撃が混乱を招き、盗賊たちは既に囲まれていることを知る。
 S1:Quark_Starが瞬いた。必死に抗えば抗うほどに、激しさは増して、そして。
 どん、と二隻目が決壊していった。
「これで全てですね。確かに」
 ファン・ドルドが戦利品を回収し、こちらの船に降り立った。
 盗賊たちは樽に捕まって必死に浮いている。
「有り金に肉に酒だ。金の重みが、命の重みだ。この程度で済んでらっきーだろう。折角の星見に死体の山のを積み上げるのも風情が無い。疾く散れ散れ。賊の処遇は契約には含まれていないからな」
流雨の言葉にこたえるように、一生懸命に泳ぎ去っていった。さあ、僭称者たちの処遇はいかほどか。

●感想欄
「しかして、こいつらも他人の威ばかりを借りてないで、真面目に仕事の一つもすればよいだろうに。こんな事ばかりしているから、虎の尾を踏むことになる。まぁ、ハウザー君は犬だが」
「は、ハウザー君、……?」
「あれ。狼だったか。まぁ、良い。同じイヌ科だ」
 ホンモノを知る者に対して、ハッタリなど通用しない。
「これで全部片付いたか」
 TethのもとにReconが戻ってくる。
「人質のヤツは無事か? なんか平然としてそうな雰囲気を感じるけどよ」
「いや、とんでもない。……驚いた」
 彼らならば必ずクエストをクリアできるだろう、と考えていた。けれども、こうも鮮やかに。
「では、面倒事も片付きましたし、ナイトクルーズと参りましょう、黄金郷」
 ファン・ドルドが敷き布を広げる。
「うんうん。それじゃあ、あとは宙の河見物と洒落こもっか」
 舟にゆったりと揺られながら。今日一日だけ生まれた大河を楽しむ。
(水の河が流砂の上に出来ているなら、それは、綺麗でしょうね)
 ユキノは感嘆する。
 ガラスの混じる砂粒が、眼下で煌めいている。深い闇が、煌々と照る夜空の星を映し出す。
 砂金が、星のように瞬いていた。
「宙の河とは、星を映し出す河の事だと思いましたが、どちらでしょうか」
 ユキノの言葉に、黄金卿は少し言葉を止める。
「どちら、か。……物語だけでは、わからぬこともあるのだな」
「この光景を見れたなら、貴方の要請に応じた甲斐は、ありますね」
「折角宙の河とやらに来たのだ。景色は楽しまねばなるまい」
 空に向かって、ヴァリフィルドは翼を大きく伸ばした。
「さて、ご感想は?」
「『宙の河』の感想ぉ?
いやまぁ、随分と綺麗な河だとは思うぜ」
 どうだ、と問われてTethは首をかしげる。
「モノホンの"星の河"を見まくった身としては、ちっと物足りねぇけどな」
 ただこともなげに空を見上げる。
「素敵な呼び名だよねぇ……」
 ホワイティは涼しそうに笑った。
「えっ、感想? えーっと……"綺麗"と"嬉しい"って感じかなぁ。
星空を映したような河。他の何かに例えたくなるようなものを見た時、胸に起こる気持ち。わたしには、"綺麗"としか言えそうにないねぇ」
 星空と、水面に映った星空に挟まれながら、静かに盃を傾ける。
 景色そのものに価値を感じるものもいれば、その景色の中に身を置きながら体験することに価値を感じる者もいる。
「私の感想は、こうした景色を肴に飲む酒は旨い、ですかね」
 ファン・ドルドが言ったことばに、「それはそうだ」、と思ったのだった。これも感想、なのだろうか。
「嬉しいか」
「嬉しいのは。ちゃんと貴女を、取り戻せたからだよぉ」
 ホワイティと、初めて会った気がしない。首をかしげる。
(世界は違うけれど、わたしはキミを大事な友達だと思ってるから……ね)
「ふむ。食べるか。飲むか」
 流雨は愛無の代わりに、乾杯をしてみせた。
「上空から宙を眺めるのも存外悪くないかもしれぬな。……如何考える?」
「見晴らしがよい、な……風がある。あとは……いや」
「星を見たところで、腹は膨れないが満たされるモノもある。それが人間というもの、らしい」
「……」
「なに。何れ解る時が来るのだろうさ。君にも。僕にも」
 真似をして杯を掲げる。
「それはそれとして、知らない人に名前を聞かれたら、こう答えるのだ。
「通りすがりの怪生物」と。そして悪いやつには「お前たちに名乗る名前はない」といっておくといい。
何にせよ、外に興味を持つのは良い事だ。そのうち砂嵐以外の国にも行ってみるといい。世は広い。きっと楽しいぞ」
「偉くなると外出一つするのも大変だな、という月並みすぎて申し訳なくなるものがひとつ」
 詠蓮は、刀を納めて苦笑いする。
「状況と手法はレアケースなので今後の糧になりそうですね。
今回はそういう趣向だとは思いますが、身辺警護の検討を」
 黒子は淡々と頷き、今回のレポートをまとめる。
「貴方の安否もそうですが、貴方を使って国家転覆は頭が回る人ならできますし。
人々に降りかかる災いの種になるのを避ける、というのは貴人の責務かとは。」
「仕事熱心なことだ。心に留めておく」
 自分と似通ったもの……、血の通った気遣いを感じる。
「それと。俺の故郷の似た話の舞台は空で、雨が降れば渡れない。二人は年に一度も会えないことの方が多かった。雨が降ったら河を渡れるのは、逢瀬ができそうで羨ましいな」
「……まさかとは思うが、七夕モチーフの話でもあんのか?
いやまぁ、この時期に星の河っつってまず思い浮かぶのはそれだろ」
「知っているのかい?」
 Tethと詠蓮は互いの世界の逸話に、花を咲かせた。
「ありゃぁ、自業自得な話だとは思うけどよ。
どんなに離されても、1年に1度は必ず会いに行くってのは中々どうして凄いと思うぜ。余程の深い愛がなきゃ別れるぞ、普通」
 黄金郷は思わず笑みをこぼし、そんな自分がおかしいように首を傾げた。

成否

成功

MVP

ヴァリフィルド(p3x000072)
悪食竜

状態異常

ヴァリフィルド(p3x000072)[死亡]
悪食竜
ファン・ドルド(p3x005073)[死亡]
仮想ファンドマネージャ
ホワイティ(p3x008115)[死亡]
アルコ空団“白き盾持ち”

あとがき

七夕クルーズ、お疲れ様でした!
スムーズな奪還&素敵なボートクルーズでした。

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