PandoraPartyProject

シナリオ詳細

メイドは主を探してる。或いは、主へ捧げる独唱曲…。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●主を探して
 仕えるべき主を探して、彼女は幻想の地を訪れた。
 艶のある黒い髪に、どこかぼうとした瞳。
 女性にしては高めの背丈と、妙に引き締まった身体つきをした女性である。
 身に纏うは黒と白を基調としたエプロンドレス。
 いわゆる、メイドと呼ばれる職種の者がしている服装だ。
「さて、ご主人様はどこでしょう?」
 楚々とした足取りのまま、彼女は通りをまっすぐに進む。
 どこか目的地が決まっているのか?
 否、目的地もなく、ただ迷いのない足取りで歩いているだけだ。
 歩き続けていれば、いずれどこかに辿り着く。
 そんな、確信的かつ無計画な思考に基づき、彼女は行動しているのである。
「……ギルド・ローレット?」
 事実、彼女は辿り着いた。
 幻想に広く根を張る冒険者ギルド、ローレット。
 いわゆる『超広域を顧客対象とした何でも屋』である。

「こちらに、私が仕えるに足るご主人様はいらっしゃいますでしょうか?」
 開口一番、彼女は問うた。
 受付カウンターに座っていた『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)は、目を丸くしてしばしの間停止する。
 彼女が何を言ったのかを理解するのに、数瞬の時間を要してしまったのだ。
「? あの、こちらに……」
「あ、や、ご主人様です? それは、えっと、どういう?」
「どう、と言われると具体的には……メイドですので、主が必要ということはおわかりいただけますか?」
「……つまり、働き口を探しているということでいいですか? だったら、貴族の屋敷とか、裕福なご家庭に売り込んでみてはいかがでしょう?」
 女性の言葉を自分なりにかみ砕き、ユリーカはそのように助言を与えた。
 彼女は冒険者でもなく、依頼人という風でもない。
 しかし、困っていることは事実であり、そしてユリーカへ助けを求めてくれたのだ。
 いわば、善意に基づくアドバイス。
「なるほど。売り込む……何が出来るのかを知っていただく必要がございますね。大人しくしている予定でしたが、やむを得ませんね」
 ユリーカの一言がきっかけとなり、騒動が巻き起こることなどこの時点で予想できるはずもなく。
「変な人だったのです……」
 深く礼をして立ち去る彼女の後ろ姿を、ユリーカは見送った。

●青い空に硝煙はたなびく
 幻想貴族、シャルロット・ローランは18歳の若い女性だ。
 元より落ち目の貧乏貴族出会ったことに加え、不慮の事故により両親は昨年亡くなった。
 支援してくれるような他家とのつながりもなければ、不自由なく暮らせるほどの金もない。
 使用人たちは1人辞め、2人辞め……とうとうシャルロットには小さな屋敷だけが残った。
 1年間……彼女は家を再興するべく奮闘した。
 けれど、不運にもそのことごとくは失敗。
 各地で厄災級の出来事が頻発している時代である。
 実のところ、こういった不運な出来事なんて、そこかしこに溢れているものだ。
 命があり、住む家もある分、シャルロッテは恵まれている方だろう。
 市井には奴隷に身を落とした者や、貧困に喘ぎその日暮らしを続ける者も多数いる。
 シャルロッテ自身も、それは十分に分かっていた。自分の身に襲いかかった不幸など、大したものではないと知っていた。
 けれど、幾度も失敗を重ねるうちに心は疲弊しきってしまった。
 仕方のないことだ。

「もし、貴女は私のご主人様でしょうか?」
 
 そう、仕方が無いことだったのだ。

「私の命を狙う輩が近くにいるわ。そいつらを近づけないで。それが出来れば、雇ってあげる」

 なんて、苛立ち紛れに1つの嘘を吐いてしまった。
 メイドを名乗る奇妙な女をからかってやるつもりだったのだ。
 ともすれば、身の安全を優先しメイドはどこかへ行くだろう……そんな想いもあっただろうか。
 誤算があったとするならば、それはメイド……アリアの実力と思い込みの強さだろう。
「承知致しました。親切な方にも“自分の力を売り込むように”とアドバイスをいただきましたので、このアリア、お嬢様の怨敵を1人残らず討ち滅ぼしてご覧に入れます」
 なんて、言って。
 マシンガンを両手に構え、アリアは暴走を開始した。

 ローラン家の屋敷は、王都『メフ・メフィート』郊外の小さな街の外れにあった。
 小さいながらも綺麗な街だ。
 しっかりと整備された道路によって、区画わけされた町並み。
 高さや外観を統一された家屋が、整然と並んでいる様はある種の芸術のようでさえある。
 治安も良く、住人達の幸福度も高いことで知られていた。
 生活は多少苦しいが、それでも笑顔の絶えない街だ。
 けれど、昨年ローラン夫妻が他界して以降、街には流れのならず者たちが住むようになった。
 どんな場所にも脛に傷持つ輩はいるのだ。
 若き当主、シャルロットの力不足もあり、ならず者はこの1年で急速に数を増やしている。

「お嬢様の住む街に汚物は必要ございません」

 増やしていた、とそう言うべきか。
 たった1人のメイドによって、見せしめに数人が病院送りにされた。
 身体中に風穴を空け、痛みに喘ぐ彼らの眉間に銃口を押しつけアリアは言った。
「街から出て行くか、この世から退場するか、好きな方を選びなさい」
 その一言が、ならず者たちの怒りに火を付けた。
 連日、アリアを狙い屋敷へ攻め込むならず者たち。
 圧倒的な火力でそれに応じるアリア。
 道路は砕け、植木は燃えた。
 ならず者たちの作ったバリケードには鉛弾が撃ち込まれ、屋敷の庭へは火炎瓶が投げ込まれる。
 連日続く戦闘に、シャルロットはすっかり不眠に陥っていた。
 
「この際、力尽くでもいいのでアリアさんを止めて欲しいのです」
 メイドが1人暴れている。
 そんな噂を耳にするなり、ユリーカはイレギュラーズに召集をかけた。
 暴れているメイドの特徴と、ユリーカが対応した女性の特徴が一致していることに気がついたからだ。
「どうにも特殊な弾丸を使っているようなのです。【連】【弱点】【ブレイク】は確定。それから【業炎】【飛】の効果がある火炎瓶を所持しているみたいです」
 アリアの手により防衛機能を強化された屋敷へ侵入し、シャルロットを救出すること。
 アリアの身柄を確保すること。
 15名からなる、ならず者たちを鎮圧すること。
 以上が依頼の内容だ。
「アリアさんはおそらく戦闘訓練を積んだ人間なのです。くれぐれも油断はないようお願いするのです」
 なんて、言って。
 ユリーカは、イレギュラーズを送り出す。

GMコメント

●ミッション
アリアおよびならず者たちの鎮圧
シャルロッテの救出

●ターゲット
・アリア
艶のある黒い髪に、どこかぼうとした瞳。
女性にしては高めの背丈と、妙に引き締まった身体つきをしたメイド。
クラシカル。
思い込みが激しい性質のようで、シャルロットの冗談を真に受け暴走を開始した。
『ご主人様』を探している模様。長い旅の果て、幻想に辿り着いたようだが……。
武器としてマシンガンを所持しているほか、戦闘訓練を積んでいるらしき動きをする。


・シャルロット・ローラン
貧乏貴族ローラン家の当主。
両親が早くに他界し家を継ぐことになったため、経験と知識が不足している。
1年の奮闘と失敗により疲弊しており、やさぐれている。
現在、アリアとならず者たちの抗争にビビり、2階自室に引きこもっている。

メイドマシンガン:物中範に中ダメージ、連、弱、ブレイク
 両手に構えたマシンガンによる一斉掃射

火炎瓶:神中範に小ダメージ、業炎、飛
 簡単、綺麗、よく燃える


・ならず者たち×15
アリアの行動により怒り心頭といった様子のならず者たち。
ローラン家屋敷前方、大通りにキャンプを張っている。
武器として剣やナイフ、火炎瓶などを所有している。
元は倍以上の人数がいたが、アリアの手により病院送りにされている。
※15名の中にも怪我をしている者が多い。


火炎瓶:神中範に小ダメージ、業炎、飛
 簡単、綺麗、よく燃える


●フィールド
幻想。
ローラン家の屋敷およびその周辺。
正面大通りには瓦礫が散らばっており、ならず者たちが昼夜を問わずキャンプを張っている。
屋敷の裏側にはローラン家私有地である草原と森が広がっている。
屋敷はアリアの手により、罠や警報の類が設置されているようだ。


●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • メイドは主を探してる。或いは、主へ捧げる独唱曲…。完了
  • GM名病み月
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年07月19日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

シラス(p3p004421)
超える者
ティスル ティル(p3p006151)
銀すずめ
ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)
私の航海誌
イサベル・セペダ(p3p007374)
朗らかな狂犬
リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)
黒狼の従者
薫・アイラ(p3p008443)
CAOL ILA
ヲルト・アドバライト(p3p008506)
パーフェクト・オーダー
ウィルド=アルス=アーヴィン(p3p009380)
微笑みに悪を忍ばせ

リプレイ

●メイド・the・マシンガン
 青い空。
 眩い太陽。
 熱を孕んだ風が吹く。
 風に混じった血と硝煙の臭い。
 有刺鉄線や鉄板で、正面扉が封鎖された小さな屋敷。
 その前に佇む長身の女性は、白と黒を基調としたメイド服を纏っていた。
 手にしたマシンガンから硝煙を漂わせ、メイドはふぅとため息を零す。
「あぁ、お嬢様が寝込むのも仕方ありません。なんてこと……狩っても狩っても、害虫は無限に湧いて来るのだから」
 淡々とした口調。
 大仰な仕草で空を仰ぐそのメイド……アリアから十メートルほど先には、数人の男が倒れていた。
 血だまりに沈む男たちは、この街に住む悪党たちだ。
 彼らの狙いはシャルロットという名のこの街を納める貴族の少女……と、アリアはそう思っているが、実際のところそれは大きな間違いだ。
 シャルロットの下した『私の命を狙う輩が近くにいるわ。そいつらを近づけないで』という命令。それを曲解したアリアが悪党どもを襲撃し、恨みを買ったというのが事の真相だ。
 つまり、悪党どもの狙いはアリアの命。
 シャルロットが頭痛に寝込む原因を持ち込んだのは、ほかならぬアリア自身である。

「世の中には変わった方もいるものですねぇ……戦闘技能は優秀みたいですが、メイドに必要かと言うと、ねえ……?」
「仕える者としては最低の一言に尽きるな。正直、好きになれそうにはない」
 喧噪を見守る『微笑みに悪を忍ばせ』ウィルド=アルス=アーヴィン(p3p009380)と『幻想の勇者』ヲルト・アドバライト(p3p008506)は、視線と言葉を交わし合う。
 片や幻想貴族・アーヴィン家の現当主。
 片や幻想貴族に仕える小間使い。
 暴走メイド、アリアに対するアプローチを2人が思案しているその横を日傘を差した女性が颯爽と歩き去っていく。
「わたくし達のようなお嬢様は、優秀な使用人が居てこそ優雅に暮らせるもの」
「あ、ちょっと、お嬢さん?」
 ウィルドの制止を振り切って、銃声と怒声の轟く鉄火場へ『CAOL ILA』薫・アイラ(p3p008443)は、散歩にでも出かけるような気軽さで歩み出ていく。
「せっかくの綺麗な町並みがこれ以上壊れてしまう前に、止めて差し上げませんと」
「まぁ、少々過激な様子ですが、以前の私に似ているとも言えますね」
 アイラ1人を先に行かせるわけにもいかず、『黒狼の従者』リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)が後に続いた。
 
 屋敷へ続く通りの隅には、ボロ板や鉄板、布で形成された雑な小屋が並んでいる。
 街に住むならず者たちが建てた、対メイド用の前線基地のようなものだ。
「怪我人を下げろ。戦える奴ぁ前に出ろ! メイドを休ませるな、畳みかけろ! おら、そっちを見張れ! あっちを撃て!」
 スキンヘッドにタトゥーを刻んだ巨漢が叫ぶ。
 ならず者たちの中に何人かいる実力者の1人だ。
 右へ左へと檄を飛ばす男の背後に、細身の少年が迫る。
「よぉ、堂々と何してんだ、テメーら?」
「あぁ!? てめぇ、な……あが!?」
 タイルを割って、伸びた茨が男の体を締め上げる。
 苦悶の声を漏らす男を一瞥し、『竜剣』シラス(p3p004421)は拳を握った。身動きの取れない男の顔面に、フルスイングの拳を打ち込み、彼は言う。
「昼夜を問わずバカスカと、迷惑で仕方ねぇよ。屋敷の方も黙らせてやるから大人しくしてな」
 拘束を解かれ、男は地面に転がった。
 その後頭部を踏みつけて、シラスは嗤う。
 明らかな挑発行為だろう。メイドに意識を集中させていたならず者たちは、しかし対応が早かった。
「てめぇ、メイドの仲間か!!」
 即座にシラスを敵と認識し、一斉に武器を向けたのだから。
「んー!? い、いきなり! 敵か味方かしかないわけ? な、なんか、お互い派手に争い過ぎじゃない?」
「でも戦えるのって楽しいですよ。楽しいこと見逃せません。それに、ならず者ならば特に躊躇なく戦えますしねぇ」
 シラスの乱入を意にも介さず、ここぞとばかりにメイドは発砲。それを見て、困惑している『幻耀双撃』ティスル ティル(p3p006151)は、この場において数少ない常識人なのだろう。
 事実、ティスルの隣に並ぶ『朗らかな狂犬』イサベル・セペダ(p3p007374)はうふふと笑って鉄火場に割り込んでいった。
 195センチの長身から繰り出される拳は、ならず者の1人を真上から殴打。よろけたところに、顔面目掛け膝蹴りを叩き込む。
「ぶぇ……げぁ」
 折れた前歯が血と一緒に地面に零れる。
 それを踏みにじるようにして、イサベルは次の獲物を探した。
「あぁ」
 手近な位置でナイフを構えた男が1人。
 ナイフとは凶器だ。人を殺傷できる武器だ。
 それを手にして、切っ先を向けたということは、殺されても文句はないということだろう。
 イサベルは拳を高く振り上げて……。
「さあ、Step on it!! まずはこっちから!」
 巨大なナイフが、男の側頭部を打ち据える。
 ならず者たちの中央で、台風のごとく得物を振るう『私の航海誌』ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)であった。
「あら?」
 獲物を横取りされたイサベルは、きょとんとした仕草で肩を竦め……。
「あ」
 背後に誰かの気配を感じ、力任せに裏拳を叩き込むのであった。

●特殊作戦メイド
 イサベルの放った裏拳を、ティスルは咄嗟にしゃがんで避けた。
「ひ……ちょっと、まずはならず者たちをボコボコにするんじゃなかったの?」
「あらぁ? ごめんなさい」
 ゆっくりとした動作で謝罪を述べたイサベルは、しゃがんだティスルを助け起こした。
 その直後、バララと火薬の爆ぜる音。
 2人目掛けて、アリアが鉛の弾を撃ち込んだのだ。
「っ⁉ アリアさん、ここまで暴走できるなんて何者なの……!?」
 胸の前で腕を交差させたイサベル。
 彼女が盾になっているうちに、ティスルは転がるように後ろへと下がった。

 火炎瓶に火をつけて、アリアはそれを投擲した。
 ガシャン、とガラスの砕ける音。
 次いで、業火が周囲に広がる。
「なかなか腕の良い者たちが現れましたね。お嬢様の命を狙うならず者とは、もしや彼らのことでしょうか?」
 業火に追い立てられるようにして、ならず者たちが四方へ散った。
 射線が空いたその先には、背の高いドレスの女と紫髪の小柄な女性の姿があった。
 一見しただけでは、彼女たちがならず者とは思えない。しかし、先に見せた動きや力は、明らかに常人を超えたものに違いなかった。
 実際、ドレスの女……イサベルは、その身でアリアの銃撃を受け止めたのだから。
「ふむ? ならず者でさえなければ、メイド・フォースに勧誘したい逸材ですね」
 マシンガンの弾はまだある。
 絶え間のない集中砲火。
 いかに頑丈であろうと、撃ち続ければいずれ心臓は鼓動を止める。
 相手が何者であろうと撃てば死ぬ。
 それが彼女、アリアの戦闘哲学だった。
「自分の力を示す前に主のこと見てやって下さいよ! あなたは周りが見えてなさすぎ!」
 金髪の女がそう叫んだが、アリアには彼女の言葉が理解できない。
 巨大なナイフを武器にした女は、身のこなしが軽かった。
 アリアは彼女、ウィズィがこれまで多くの戦場を渡り歩いてきたことを、直観的に理解した。そして、事実としてアリアの読みは当たっている。
「そうバカスカ撃ってこられちゃ話をする暇もないわね。いきなりで悪いけど、ちょっと黙っててね!」
「メイドたるもの、主に迷惑が掛かるような手段を取っちゃいけません! ティスルさん、行ってください!」
 ウィズィが、巨大なナイフを振るう。
 足元を払われ、数人の男が地面に伏した。
 空いた空間を、一直線にアリア目掛けて疾駆する影が1つ。
 紫髪の小柄な女性……ティスルは銀の剣をその手に携えていた。
 太陽の光を反射し、きらりと輝くその斬撃は神速を持ってアリアへ迫った。アリアはマシンガンを背後に回すと、上体を大きく仰け反らせてティスルの一撃を回避。
 振り上げた蹴りがティスルの腹部を打ち据える。
「っ……浅いですね」
「いや、結構痛いけど……」
 蹴り飛ばされたティスルは、転がるように人混みの中へと逃げていく。アリアが姿勢を戻した時には、既にイレギュラーズの姿は見えなくなっていた。

 アリアに撃たれ、倒れて呻く男たち。
 回避も防御も出来ない彼らを、眩い閃光が焼いた。
「死にたくなければ足を洗うことをオススメします。悪人に容赦する心など持ち合わせておりませんので」
 意識を失い倒れた彼らを道の端へと転がして、リュティスはそう呟いた。

 突然の乱入者たちは、どうやらならず者の仲間ではないらしい。
 彼らや彼女らは、アリアに牽制をかけることはあっても、積極的に襲って来ようとはしない。彼らのメインターゲットは、どうやらならず者たちらしい。
「敵の敵は味方……という見方もできますが。不確定要素に違いはありませんからね。それに連中こそがお嬢様の命を狙う悪漢である可能性もあります」
 ふむ、と顎に指をあてアリアは僅かに思案する。
 敵の数は、乱入者たちの手により大幅に減らされている。
 今だって、浅黒い肌の少女が放った閃光によって数人が地面に伏したではないか。
 見たところ、歳若く美しい少女だ。
 到底戦う力を持つ者には見えない。
 だが、それは間違いだ。
 この銃火と怒声の飛び交う場にて、涼し気な顔で悪漢相手にわたり合っている彼女が、普通であるはずがないではないか。
「明らかにやりすぎと言えましょう」
 ティスルの唇を読んだアリアは、確かに彼女の言葉を聞いた。
 だからどうというわけでも無いが。
 お嬢様の敵を相手に、やり過ぎなどあるはずがない。
 害虫を駆除して、一体何が悪いのだ?
「魔術の類でしょうか? 先ほどの剣を使う方といい、誰もがかなりの使い手ですね」
 彼女たちの目的は定かではないが、敵でないとも限らない。
 いかにアリアがメイド・フォースで訓練を積んだ戦士だとしても、彼女たちを纏めて相手取るのは厳しい。アリアは自分が強者であると知っている。だからといって、力に溺れるつもりはなかった。
 差し違える覚悟で挑めば、数名は討つことができるかもしれない。
 だが、その後は?
 生き残った者たちが、シャルロットを手にかけるかもしれない。そうなれば、それはつまりアリアの敗北に他ならない。
 何を置いても、優先すべきはお嬢様の安全だ。
「ならば、乱戦に乗じて……討つ」
 マシンガンのマガジンを取り換え、アリアは姿勢を低くする。乱戦の中に割って入るつもりなのだ。
 けれど、その時……。
「失礼、メイドさん。シャルロットさんに会いに来たのだけれど、通してくださる」
 日傘を差した令嬢が1人、アリアにそう声をかけた。
 佇まいも、服装も、感じる気配も高貴な者のそれである。些か荒事に慣れた空気も感じるが、少なくともアリアに対して敵意を抱いている風ではない。
「アポイントはございますか?」
 なので、アリアはそう問うた。
「アポイントを取りたくても、この有様でしょう? シャルロットさんが心配で、こうして訪ねて来たのです」
 そう言ってアイラは、手土産の袋を掲げて見せた。
 アリアは僅かに思案して、バリケードの一部を解除することにした。
「お嬢様はお部屋でお休みになられています。人手不足につき、ご案内もおもてなしもできませんが……」
「構わないわ。わたくしには、優秀な使用人がいますの」
 姿は見えませんけれど。
 そう言ってアイラは、ふわりと笑んだ。

 走りながら、アリアはマシンガンの引き金を引く。
 ばら撒かれた弾丸が、ならず者を撃ち抜いた。
 命中精度はひどいものだが問題はない。敵の数が多いのだから、適当に撃っても当たるのだ。問題は、それ以外の連中だ。
「説得に応じる気はなさそうだな」
 弾幕を掻い潜り、迫る痩身の少年はアリアへ向けて拳を振るった。
 アリアはマシンガンを盾にし、拳を回避。
 部品が一部砕け散ったが、射撃に支障は出ないだろう。
「まずは1人」
 短く息を吐いたアリアは、マシンガンをこん棒のごとくスイングした。シラスの側頭部を狙ったそれは、けれど直前で回避される。
 額を銃底に抉られながら、シラスはアリアの手首を殴る。
 一瞬、衝撃に腕が痺れたが、問題ない。
 アリアは銃口をシラスへ向けると、躊躇なくトリガーを引いた。

 至近距離から掃射を浴びる。
 血と火薬の臭いが立ち込める中を、巨躯の男が駆け抜ける。
「2人目」
 淡々と。
 アリアは敵の数を数えて、火炎瓶を背後へ放る。
 ならず者の頭部に当たって砕けたそれが油と火炎を撒き散らす。背後から迫る巨漢は、これで動きを止めただろう。
 その隙に、シラスにトドメを刺して……3人目を狙う。
 単なる暴漢相手であれば、きっと計算通りに事が進んだだろう。
 アリアにミスがあるとするならば、それはウィルドのタフネスを読み違えていたことだ。
「容赦のない人だ。町中に死体を増やすのはよろしくありませんねぇ」
 火炎に身を焦がしながら、ウィルドはアリアの背後に迫った。
 アリアがそれに気づいた時にはもう遅い。大上段から、ハンマーの如く振り下ろされた太い腕が、アリアの肘を打ち据える。
「ぐ、ぁ」
 骨の砕ける音がした。
 筋肉が断裂したかもしれない。
 右腕はしばらく使い物にならないだろう。
 だが、問題ない。
「2人目」
 血を流すシラスに前蹴りを食らわせ、反動でアリアは後ろへ跳んだ。素早くマシンガンを持ち替え、左手だけでそれを操りウィルドへ掃射を食らわせる。
 視界に映る敵は6人。
 銀の剣を持つ女。
 ナイフを振るう金髪の女。
 ドレスを纏い、悪漢どもを嬉々と殴る長身の女。
 笑みを浮かべた偉丈夫と、素早く動く少年は既に血塗れだ。
「まずは手負いの2人……を? あ、え?」
 着地し、銃を構えたアリアはそこで異変に気が付いた。
 身体が痺れて動かない。
 思考が乱れ、考えが纏まらない。
 冷静なはずのアリアの脳裏に【怒り】の感情が湧き上がる。
 思わず叫びそうになるほど、強い心の揺れを感じる。
「今のお前にメイドを名乗る資格は無いだろ。主を脅かすメイドなんて聞いたことも無い」
 誰かがアリアの背後に立った。
 それがヲルトだと、今のアリアには分からない。
 振り返ろうにも、身体が上手く動かないからだ。
 視界の隅を覆う赤は、血液だろうか。
 じわり、とアリアの視界が赤に塗りつぶされて……。
「少し冷静になってみてはどうでしょうか? 自身が仕える主を探したい、その気持ちはわからなくはありません」
 浅黒い肌の少女は告げる。
 そして……。
「殺してしまわないよう気をつけますが……たぶん、すごく痛いですよぉ」
 くすり、と。
 誰かが笑う声。
 顔面に強い衝撃を感じ、アリアは意識を失った。

●これがアリアのご主人様
 鼻腔を擽る甘い香に誘われ、アリアはゆっくり目を覚ます。
 ぼんやりとした視界に映ったのは、イレギュラーズとシャルロットの姿であった。
 場所は屋敷の中庭だ。
 白いテーブルを挟んで座るシャルロットと、ウィルド、アイラが談笑していた。
「あら、美味しい。これは何というお菓子なの?」
「そちらはマリトッツォというお菓子ですわ。最近、巷で流行しているのですって」
 そういってアイラは、ブリオッシュ生地に溢れんばかりのクリームを挟んだ菓子を口元へと運ぶ。
 そんな2人の様子を眺め、ウィルドは「それで」と言葉を挟んだ。
 空いた3人のカップへ、琥珀色の紅茶を注いでいるのはヲルトだ。服装や佇まいから察するに、彼もまた従者の訓練を積んだものであるらしい。
(従者は……もう1人)
 ウィルドとシャルロットの会話に耳を傾けながら、アリアは周囲の気配を探る。
 会話の内容は、ならず者たちの扱いについて。
 どうやら見舞いに金を出し、非正規に雇用することをウィルドは提案しているらしい。
 ウィルドとアイラ。
 テーブルに付いている2人。
 傍に控えたヲルトとティスルの2人は従者であるだろうか。
 他にも4人、仲間がいたはずだ。
 背の高い女と、細身の男は少なくとも重症のはず。
 しかし、金髪と紫髪の女たちは……。
「変な真似するなよ」
 瞬間、アリアの首にひんやりとした手が当てられた。
 それはシラスの手であった。シラスがその気になってしまえば、アリアは即座に首の骨を折られるだろう。いかに重傷を負っていようが、その程度は造作もないことぐらいは分かる。
「いい光景でしょう?  主の笑顔こそメイドの本懐と気づきませんか?」
「貴女の力は十分に伝わったのだから、もう戦う理由もないしね」
 背後から聞こえる声は、ウィズィとティスルのものだろう。
「今……なんと」
「ですから採用と言ったのです。もし失敗して行く当てがなくなったらが鍛えて差し上げようと思っていたのですが、良かったですね」
 就職おめでとうございます。
 そう言ったのはティスルであった。
 その隣に立つヲルトの視線は冷たいが、どうやらアリアは無事に主を得たらしい。
「あぁ、お嬢様。このアリア、持てる力の全てを注ぎ、お役に立って御覧に入れます」
「ほどほどによろしく頼むわね……まぁ、この騒動は私の責任でもあるし」
 なんて、言って。
 シャルロットは、気恥ずかし気に紅茶を口へと運ぶのだった。

成否

成功

MVP

薫・アイラ(p3p008443)
CAOL ILA

状態異常

シラス(p3p004421)[重傷]
超える者
イサベル・セペダ(p3p007374)[重傷]
朗らかな狂犬

あとがき

お疲れ様です。
アリアとならず者の抗争は収束。
話し合いの末、アリアはシャルロットに仕えることになりました。
曰く「このお礼はまたの機会に」とのことです。
依頼は成功です。

この度はご参加いただき、誠にありがとうございました。
縁があれば別の依頼でお会いしましょう。

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