PandoraPartyProject

シナリオ詳細

陰陽の獣

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●勅命
 神威神楽の『八扇』――政に携わる八つの省庁、その中務省の中に『陰陽寮』は存在して居た。
 陰陽五行思想に基づいた天文道、暦道……陰陽道によって占筮を行い妖撃破を得意とする陰陽師達。
 かの大戦の際では影で妖と戦っていたという彼等を取り仕切るのが『陰陽頭』月ヶ瀬 庚(p3n000221)である。

 幼い少年のような風貌でありながら整ったかんばせは女人のようにも麗しい。
 永く、朝廷に使えてきた八百万である月ヶ瀬の一族の中でも庚は特筆した陰陽師としての能力を有していたらしい。
「吉兆を占って参りました」
 霞帝へと静々と卜占の結果を告げる庚は、この後、書庫に籠もり自身の研究を進めるはずであった。星や月を見、吉日を見定めるのだ。
 だが――
「庚、少し良いだろうか」
 その予定をいとも容易く覆すのがこの男、『霞帝』今園 賀澄である。
「……何か?」
「実は、『中務卿』に大陸の文化を学ぶために遊学を、と出発させたのだが……奴はどうにも頭が固くてな。
 行く先々で俺への土産物を探して持ち帰るだけなのだ。四神を式神として着いて往かせておるが、彼等の方が得意といった有様でな。
 俺だけでは、四神を保っては居られない。良ければ、庚も『向こうに渡って』来ては呉れないか?」
「……はあ」
 聞き間違えだろうかと庚は首を捻った。
『中務卿』建葉 晴明が頻繁に留守にしていたことは知っていた。交易の為に海洋王国で対話を重ねていることや、混沌の大陸を見て回っていることも、だ。その留守の間に補佐をし卜占(うらない)を行い忙しない日々を送っていた庚はやっとの事で少しの休暇を得た、つもりだったのだ。
「大丈夫だ、庚ならば上手くやれる」

 ――と、言うわけで彼は中務卿と共に『練達』に赴き、神使が調査を行うR.O.Oに同行することを決めたのだと言う。

●R.O.O
「こんぴうたーげーむとやらには馴染みはありませんが……神威神楽の陰陽寮に属する月ヶ瀬 庚です。
 神使の皆さんの補佐と大陸文化を知る為に、此方にも協力させて頂こうと――……それで、此処は豊穣ではないとのことで」
 庚が訪れたのは2.0で『解放』されたばかりの神咒曙光(ヒイズル)であった。
「成程、『いべんとでぇた』とやらが無ければ……此岸ノ辺や周辺の村々は変わりが無く――……
 ああ、いえ、どうやら、この鏡写しの世界は『いべんとでぇた』により日々変化を遂げていると聞きました。不可思議な物ですね」
 不思議そうに首を捻った庚にとっては、電子の躯にも余り慣れが無いのだろう。だが、そうした事も在ると受入れるのは陰陽師故か。
「僕も余りなれてはいないのです。ですので……良ければ皆さんの戦い鰤を見せて頂きたいのです。
 丁度よいところに獣の姿も見えますし……行きずりですが『くえすと』も発生しているようです。僕も補佐として戦います。
 あ、いえ。此方の方が良いでしょうか。先達である皆様のご指導を頂きたいのです、様々な知識を得るためにも」

 クエストが発生しました。
 クエスト名 『陰陽の獣』

 クエスト詳細『吉兆を占うが為に飼われていた鶏が逃げ出した! 妖に憑かれてでっかくなっちまってる! 助けてくれ!』

「おお、とても大きな雄鶏……。
 この様なことを問うのも可笑しな事ではありますが――神使よ、あれは『食べられる』のですか?」
 ゲームの世界に不慣れな陰陽師、月ヶ瀬 庚。様々な事に興味があるようである……。

GMコメント

夏あかねです。カムイグラのニューフェイス陰陽師の月ヶ瀬君も宜しくお願いします。

●成功条件
 クエストクリア!

●クエスト『陰陽の獣』
 クエスト詳細『吉兆を占うが為に飼われていた鶏が逃げ出した! 妖に憑かれてでっかくなっちまってる! 助けてくれ!』
 神咒曙光の田舎町に姿を現した巨大な雄鶏です。
 陰と陽の気配を持っており、首は二つ。とても巨大であり、鳴き声を響かせ続けます。
 非常に喧しいです。自身のことを朱雀だと思い込んでいます。
 庚曰く、それを朱雀様に言ったら「コケッコッコーとはいわない……むにゃむにゃ……」と怒られてしまうかも、との事でした。

●同行NPC『月ヶ瀬 庚』
 神威神楽の陰陽寮、陰陽頭です。霞帝の勅命で大陸文化や大陸の政治形態、現況を学ぶためにやってきました。
 穏やかで落ち着き払ってた八百万です。陰陽師らしく遠距離攻撃を得意とします。
 アバターは現実世界と変わりなく、陰陽師としての攻撃も総て研究者に設定して貰ったそうです。
 R.O.Oを学び、イレギュラーズの事も学ぼうと思い同行しています。
 色々と教えてあげて下さい。彼自身は八百万でかなりの年齢ですが、そうであることをことさら告げるつもりはないようです。
 非常に神使に好意的です。とてもカッコイイ攻撃を見せてあげて下さい。
 そのうち霞帝に報告が届けられ、「神使は異世界(?)でとてもカッコイイのだ」と言伝えられるでしょう――

●ROOとは
 練達三塔主の『Project:IDEA』の産物で練達ネットワーク上に構築された疑似世界をR.O.O(Rapid Origin Online)と呼びます。
 練達の悲願を達成する為、混沌世界の『法則』を研究すべく作られた仮想環境ではありますが、原因不明のエラーにより暴走。情報の自己増殖が発生し、まるでゲームのような世界を構築しています。
 R.O.O内の作りは混沌の現実に似ていますが、旅人たちの世界の風景や人物、既に亡き人物が存在する等、世界のルールを部分的に外れた事象も観測されるようです。
 練達三塔主より依頼を受けたローレット・イレギュラーズはこの疑似世界で活動するためログイン装置を介してこの世界に介入。
 自分専用の『アバター』を作って活動し、閉じ込められた人々の救出や『ゲームクリア』を目指します。
特設ページ:https://rev1.reversion.jp/page/RapidOriginOnline

※重要な備考『デスカウント』
 R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
 現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。

  • 陰陽の獣完了
  • GM名夏あかね
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年07月23日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ヴァリフィルド(p3x000072)
悪食竜
ラピスラズリ(p3x000416)
志屍 瑠璃のアバター
白銀の騎士ストームナイト(p3x005012)
闇祓う一陣の風
スイッチ(p3x008566)
機翼疾駆
更紗(p3x008628)
くのいち見習い
アイシス(p3x008820)
アイス・ローズ
アズハ(p3x009471)
青き調和
霧江詠蓮(p3x009844)
エーレン・キリエのアバター

リプレイ


 神咒曙光(ヒイズル)――イベントデータが採用される前に、訪れたその場所は『現実世界の神威神楽』と大差は無い。
 そして、下されるクエストさえも『現実世界で行われる良く在る出来事』である事に『志屍 瑠璃のアバター』ラピスラズリ(p3x000416)は「シンプルで良いですね」と頷いた。
「月ヶ瀬さんにとっても、慣れた地元に近い環境での活動なら負担も少ないと思います。
 ……教えるなどと偉そうなことは言えませんが、雰囲気など知って頂ければ」
「いいえ、僕は若輩者です。『こんぴうたー』なるものに付いて、こうして練達へと訪れるまでは音の一つも聞いたことも無かった。
 ラピスラズリさん、そして神使の君を頼りにしています。しかし……不思議なものですね。此処で出会った皆さんは『現実とは姿が違う』のでしょう?」
『あばたー』の姿を変化させるのはどうにも居心地が悪いと現実世界と差の無い格好でR.O.Oへとやって来たのは神威神楽の陰陽寮に所属する『陰陽頭』月ヶ瀬 庚(p3n000221)その人だ。ぎくりと肩を揺らした『闇祓う一陣の風』白銀の騎士ストームナイト(p3x005012)は庚が言うとおり現実では姿が違う一人である。
「ゲームとはそう言うものらしいからね。はじめまして庚殿、俺もゲームにはそこまで詳しくはないんだけれど、見えるし触れて攻撃も出来る、現実とこの世界にあまり大差は無いよ。
 ……あぁ、でも死んでも戻れるのは大きな差か…うん、それくらいかな。とにかくこれからよろしくお願いするね」
 柔らかに告げる『可能性の分岐点』スイッチ(p3x008566)に庚は「ええ、スイッチさん。どうぞ宜しくお願いします」と丁寧に頭を下げる。
 自身も神威神楽の出身者。そうなれば陰陽頭という存在が何を指し示すのかを知っている『くのいち見習い』更紗(p3x008628)は出来うる限り無礼の内容にと気遣い頭を下げる。
「月ヶ瀬殿でありますね。更紗と申します、であります。此度のくえすとに同行させていただくでありますよ」
 彼女の仕草は神威神楽では良く見られるお辞儀だ。庚も同郷の人間の挨拶には安堵できるのか穏やかに微笑んで見せた。
「R.O.Oだとヒイズルって言うんだな。行けるようになるのが思ったより早かったな。ちょっと楽しみにしてたんだ。庚さんもどうぞよろしく」
 カムイグラとは此れから違いが見られるのだろうか。そう興味深そうに笑いかける『アルコ空団“路を聴く者”』アズハ(p3x009471)に「こちらこそ」と庚は頷いた。
 満を持して己の番だとストームナイトが堂々と歩み出る。何時もの如く『剣を引き抜き騎士ポーズ』での挨拶を。
「貴殿が月ヶ瀬殿か。噂は聞き及んでいる。陰陽寮の長だとか。その歳で大したも……っと、失礼。見た目通りの歳ではないのだったな。
 申し遅れた。私の名はストームナイト。人呼んで白銀の騎士。人の嘆きあるところに駆け付け、闇打ち祓う一陣の風! ……よろしく」
「ええ、宜しくお願いします」
 握手を求めるストームナイトに庚は「外国式の挨拶、参考になります」と大きく頷いた――それでいいのかはさて置いて、受入れられたストームナイトはほっと胸を撫で下ろす。
「さて、今回はこのROOを体験したいのだとか。ここは皆で楽しく人助けといこうではないか!」
 ストームナイトは何となく考えていた。庚は双子巫女――けがれの巫女とも呼ばれるつづり、そそぎとも交流があるらしい。自身がかっこいいところを見せたならば、庚がつづりやそそぎに『ストームナイトさんという素晴らしい騎士(ナイト)が居るんですよ』なんて話してくれて、それから、それから……。
 そんな下心に「よっしゃあ! 気合い入れんぞー!」と一人、闘志を滾らせる白銀の騎士ストームナイトを庚は柔和な笑みを崩さぬまま、頷くのだった。
「それで……クエストか」
 そう呟いた『悪食竜』ヴァリフィルド(p3x000072)が表示されたクエスト内容を確認する。

 ―― クエスト名 『陰陽の獣』

 クエスト詳細『吉兆を占うが為に飼われていた鶏が逃げ出した! 妖に憑かれてでっかくなっちまってる! 助けてくれ!』

「ニワトリ。ふむ。妖憑きであろうと所詮は鶏。その上巨体であるのであれば飛ぶことは難しかろう。
 あの、姿を確認出来る巨大なニワトリこそが此度のクエストの対象だろう。空中寄りの高みの見物と行こうではないか」
 空を駆り、『陰陽の獣』に近付くことを選ぶヴァリフィルドは「庚、我の背に乗ってみるか?」と問い掛けた。
「背、ですか?」
「ああ。まぁ、飛んでいる演出はあった方が映えるというものであろう? 無論、我があの鶏を引き付けておる間は流石に危害が及ぶであろうし、乗せるのは戦闘後でもよい。いや、無論本人が乗りたければの話であるがな」
 ならば、戦闘後にお願いしようかと。そう微笑んだ庚の耳に入ったのはその鶏が自身を朱雀であると認識して居るという下らぬ情報なのであった。


 朱雀。四神であるそれは神威神楽では守護者の一柱である。時の天子、『霞帝』に加護を与えているそれは庚にとっては上司に当たる中務卿の式神扱いで各国を自由に周遊しているとも及び聞く。だが、不敬であろう。眉を寄せた庚と同じく『氷華のアイドル』アイシス(p3x008820)は唇を尖らせた。
「ちょっと大きいだけの雄鶏の分際で朱雀様を名乗ろうだと不遜が過ぎます。
 喧しい雄鶏などちょちょいと片付けてしまいましょう。あっ、私の焼き鳥はタレでお願いいたします」
「食す事ができるのですか」
 興味深そうに呟く庚に『エーレン・キリエのアバター』霧江詠蓮(p3x009844)は表情一つ変えず真面目そのものに悩ましげに首を捻り――
「食べられるのか、と? それは……試してみるとするか。何事もやってみないと始まらない。
 神使と呼ばれるだけの力量があるかどうか、きちんと見てもらわねばならんしな。やってみようか、陰陽頭」
 何事にも大真面目に返答する詠蓮に庚はうずうずとした表情で「是非」と笑いかけた。それでいいのか、陰陽頭。
 神使と共に、陰陽頭の初陣は『朱雀だと思い込んでいる鳥の討伐と調理』に相成ったのであった――

「――鳴神抜刀流、霧江詠蓮だ。早いところ片付けさせてもらおう」
 未だ、剣を引き抜くことは無い。鳴神抜刀、それは詠蓮による速度・精妙・柔軟を重んじ、抜刀術とトリッキーな体術を必須とする剣術流派。
 堂々と名乗った青年が喧しい程に鳴き声を上げる鶏へと向き直る。耳を劈く鳴き声に朝はまだ遠いというのにと耳を塞いだアズハは「う、うるさい……!」と呻いた。
「これは、アクセスファンタズムに頼るより、眼で見て動いた方が良さそうだ……」
 R.O.Oで自身が設定したスキルをチェック。アクティブスキルの組み合わせ方法は決定済み。自己強化、そして、阻害スキルを駆使すれば『鶏』の動きを食い止めることも容易であろうか。
 天高く飛び上がったヴァリフィルドの翼が開かれる。庚に言わせれば四神の『頭』たる黄龍の本来の姿にも似た雄大な龍が天空を舞っている。
 ヴァリフィルドの咆哮が鶏のけたたましい鳴き声をかき消すように重なった。鶏が抱いたのは『龍』への恐怖、そして己が歌声(なきごえ)をかき消す咆哮への苛立ちだ。
 地団駄踏むように地をだしだしと蹴り付ける。その苛立ちを感じ取り、ストームナイトは轟雷剣『ストルムガング』をすらりと引き抜いた。太古の英雄が使ったとされる伝説の装備。そう名付けた剣を振り上げれば嵐の如く風が音鳴らす。
「妖に憑かれし哀れな雄鶏よ、汝を正しき道に戻そう! ……ちなみに、朱雀は首が二つも無いからな? だが嘆くことはない。鶏だって素晴らしいのだ。美味しいし」
「確かに、鶏は美味しいですね。激しい同意です」
 真顔で肯く庚にストームナイトはふ、と小さく笑みを零した。鶏の行く手を遮り、使える技は惜しみなく。そう決めるストームナイトの前でターゲットスコープを覗き込んで背面スラスターを起動して一気に鶏へと切り込むのはスイッチ。
「術が使えるなら庚殿には後方から支援をしてもらうのがいいかな。俺は前に出て戦うから、頼りにしているよ」
「承知致しました。少し勝手が違いますが――陰陽頭として皆さんを支えましょう」
 符が浮かび上がる。『カムイグラ』ではそう見ることの無かった陰陽頭の陰陽術。それをちらと見遣った更紗は「共闘嬉しゅうございます!」と微笑んだ。
「しかし……討伐対象は一体ゆえ無茶をしなければ問題なく倒せるでありましょうが……。
 死んでも実際には死ぬことはない……等と説明を受けたでありますが、更紗にはよく分かりませなんだ。ゆえに、倒される前に仕留めてみせるでありますよ!」
「更紗さんは『仮想の死』はまだ経験したことはありませんか?」
「恐ろしゅうございますな。しかし……双頭の鶏を打ち倒すためには周到なる用意をしておかねばなりませぬか。
 静かにしてくれるなら、取り憑いた妖を剥がすことができれば、只の鶏に戻るのやもでありますが……それは恐らくできないのでありましょうな。可哀そうではありますが……致し方なし」
 陰陽頭を以てしても其れは不可能であろうか。更紗は飛び込むように鶏の懐へと焔の気配を叩き込む。ひらりと蝶々舞うように。右足で踏み締め、身を反転させる。ぐん、と体を捻り上げ鶏の右面へと殴りつけた。
「グエッ――」
 潰れた蛙のような声を上げた鶏に魔力を込めた声音が響き渡る。アイドルならば『訓練すればそんなことくらい容易』だと。アイシスの歌声がのびのびと伸び上がる。
 左手を胸に当て、右手はそっと雄鶏へ。この声を聞いてと、伸び伸びと力強く発声したその声は、真っ直ぐに雄鶏の声音を遮った。
「あんなに大きいんだ。防御が弱いところを狙ってくぞ」
 アズハへと頷いたのはラピスラズリ。鶏とは視界は余り広くは無い。首を頻りに振ることでカバーしていると閑話休題と蘊蓄を告げれば庚がうんうんと後方で頷いている。首回りの肉が発達していて美味しい――というのは『今後』の参考だ。
「それにしても、鶏は古来よりその鳴き声で夜を遠ざけ朝を呼ぶ鳥であり、縄張り意識が強く攻撃性が高いことから勇猛さの象徴であるとされたものです。朱雀様とはまた異なるジャンルの良さがあると思うのですけどねえ」
「まあ、朱雀になりたい気持ちは分からなくはありません。朱雀当人に言わせれば困ったことなのでしょうけれど」
「そうですか……まあ、首が2つあるのは視野のカバーなのでしょう。2つの首で意識の混濁でもしてくれれば有り難いのですが!」
 ラピスラズリの投擲術によって包丁が雄鶏の首へと突き刺さる。雄鶏の意識を引いていたヴァリフィルドの側に向いた右頭へ、左側が勢いよくぶつかった。
「意識の混濁。成程。我に夢中であった右側が痛がっているようだ」
「ふっ――……ふふ、鶏も2つ首を持ったからこうも容易く捌かれるだなんて、思いも寄らないでしょうね」
 くすくすと笑う庚にストームナイトは確かに、と大きく頷いた。
 鶏がじたばたと足を動かしている。ラピスラズリが包丁を幾重も首へと突き立て、距離を詰めた更紗が身を屈める。上空を移動するように貫いたアイリスの歌声。
 雄鶏の身動きを許さぬ彼の如く符術が行き交い、アズハは鶏を上空から見下ろし、一気に飛び込んだ。味方を巻き込まぬように、ラピスラズリが攻撃し続けた首を狙う。
「首を落せば仕込みがしやすいのではないか?」
 問うた詠蓮に更紗は「その様にしましょうか」と頷き返す。ならば、と詠蓮は地を踏み締めて抜刀――一閃するアクティブスキルは流れるような所作で鶏の首肉を傷付けた。固い、だが、確かな感覚が腕へと伝わってくる。
「鶏もこうも相手が多ければ首が回らぬか」
 呟いたヴァリフィルドに「その間に倒してしまおうか」とスイッチは再度狙い澄まし飛び込んでゆく。
 鋭き風の如く。推進力を活かして勢いで押し込んだその一撃が鶏の姿勢を崩した。アイシスは「今!」と声を張り上げる。
 美しいアイドルの声音に動かされるようにストームナイトが地を踏み締め、跳ねた。
 研ぎませた攻撃は『必殺技』である。白銀の騎士は闇を祓い光をもたらすように、堂々と叫ぶ。
「そしてとどめだ――悪心両断・ゴッドストームクラァッシュ!!」
 屹度、双子巫女にも言伝えられるような素晴らしき活躍をそこに残して――!


「そういえば、彼の鶏を料理するという話であったが……本来は吉兆を占うために飼っていたものという話故、喰らっても問題はないのか?」
 ヴァリフィルドの疑問は尤もだ。庚は「まあ、そうですねえ。現実なら止めに入りますがバーチャルですし」と軽い返答を返している。
「いやまぁ、倒してしまったらほかの用途はないのだがな。いずれにしても、我は丸焼きにする以外の手段はとれぬ。
 手の込んだ料理を作るのであれば、出来る者に任せようぞ。最も、我は別に丸のみでも構わぬがな」
 あんぐりと口を開けたヴァリフィルドの咥内を興味深そうに覗き込む庚は「僕のことも丸呑みできそうですよね」とへらりと笑う。
 彼がよいというならばとラピスラズリはさっさとしっかりと絞めておいたと告げた。継いでのように市場で何羽か見繕ってきたようである。
 お手伝いしたいと手順を問い掛けるアイリスに血抜きをしていた更紗は「斯様に大きなものは初めてでありますよ」と疲労を滲ませる。
「それでは、アイリス殿にも手伝って頂きましょう。何、げぇむの中で食事をする。何とも不思議な体験でありますな」
「ゲームの中で食事をしてもちゃんと味がするのは嬉しいよね。庚殿にはこれからいろいろとお世話になることも多いと思うし、逆に困ったことがあったら何でも言ってね」
 微笑んだスイッチに庚は「ええ、勿論。互いに協力しましょう」と堂々と胸を張った。
 鶏肉パーティーの開催だと告げるストームナイトは雑用係で走り回っているようだ。
「庚、食してみようか。まずは……そうだな。棒々鶏にするか」
「ばんばんじい?」
「ああ。こいつはもともと暑くて湿った地域の料理でな。当然人間にも熱がこもる。そんな時にこうして意識して辛い物を食べることで身体の巡りを活発にして汗をかいて、熱を逃がしていたんだそうだ」
 綺麗に解体された鶏を棒で叩いて柔らかくする詠蓮は青ネギやショウガと一緒に蒸し上げて臭みをとる。たっぷりの唐辛子と胡椒、酢、砂糖、醤油、実銀義理のショウガと白ネギをごま油に合わせてピリ辛タレをその間に作成して行く。千切りキュウリの上に載せれば完成なのだと告げれば庚は「物珍しいですね」とまじまじと手際よい詠蓮の手元を眺めて居た。
「大陸の色々な文化を学ぶのだろう? であればこんな具合に『どうしてそうなったのか』の流れを追っていくと、楽しいぞ。気候風土にせよ歴史にせよ、必ず理由がある」
「そうですね。陰陽術も同じ。理由を調べれば其れだけで愉快そのものです」
「焼き鳥は塩派が多いようですがたれも決して悪くないですし、作りやすさでいえば鶏わさなどお手軽ですね。
 唐揚げは定番ですので多めに作ってしまいたいですし、依頼が終わっても忙しいものです。何が食べたいですか?」
 ラピスラズリの提案にストームナイトが代わりに返答を。テーブルに鶏肉が盛り沢山となっている。
「うむ、美味い! 戦いの痛みも、料理の美味さも、喜びも悲しみも、現実となんら変わらないな。月ヶ瀬殿、どうだ、いい土産話ができそうか?」
「勿論です。巫女達や中務卿に『げぇむ』は凄いのだと伝えなくては為りませんね」
 良い事だと頷くストームナイトへと庚は「君のことも伝えなくては」と揶揄うように微笑んだ。
 更紗は神使となってはまだまだ新米だ。庚は「楽しいですね」と同郷であろう仕草を見せた彼女にそっと囁いた。
「ええ。もっと強くなって……先達に並べれば嬉しいと思っております」
「そうですね。神威神楽の者達も皆、そう思っていることでしょう。あの国を良くするために……霞帝の膝元で動く僕ですらそう思う」
 この異文化を取り入れて、栄えある国となるために。その決意を告げる庚は名を呼ばれたことに気づき、何食わぬ表情でアズハの元へと向かった。
「クエスト、どうだった? R.O.Oは混沌と似てるけど、どこか違う方向に変化していってるような感じがするし……色々と戸惑うこともあるかもしれないけど、よければまたご一緒してもらえると嬉しいな」
 微笑むアズハに庚は「良き経験になりました」と大きく頷いた。彼自身にとっても未知が溢れたこの場所は愉快奇天烈だったのだろう。良き経験になったと微笑んだ陰陽頭にアイリスは「それじゃあ、一曲」とウィンクを。
 氷のステージの上に立った可愛らしいアイドルはスポットライトに照らされて、アイドルサポートプログラムで歌い始める。
「氷華のアイドル、アイシスのゲリラライブ楽しんで下さい。先ずは『氷雪乱舞』――聴いて下さい」
 ゲリラライブで盛り上がる。そんな『ヒイズル』の夏――

成否

成功

MVP

なし

状態異常

ヴァリフィルド(p3x000072)[死亡]
悪食竜
白銀の騎士ストームナイト(p3x005012)[死亡]
闇祓う一陣の風

あとがき

 お疲れ様でした。
 月ヶ瀬君初陣。皆さんと楽しく鶏を食べた結果、彼は「現実では腹は膨れないけれど満足感がありますね」と感想を抱いたのでした。

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