シナリオ詳細
<フルメタルバトルロア>穢れ堕ちた白銀の乙女
オープニング
●
黒煙が空へ上がり、血と硝煙の臭いが鼻を衝く。
砕け散った足場を踏み砕き、白銀の鎧をまとった女は静かに歩みを進めていく。
「……こ、降伏する!」
男性が手に握っていた剣を放り投げた。
「だから頼む! これ以上は……これ以上は許してくれ!
家族のいる奴――も!?」
震え、叫ぶようにして懇願する男性を見据え、女は一歩前へ進み躊躇いなく貫いた。
「――くだらん。貴様らが始めたことだろう。戦だ、戦を始めたのは貴様らだ」
こと切れた男性が粒子へと変わっていくのを見下ろして、女は静かに身を翻す。
視界に映した先、ボロボロの兵士達が各々の武器を震えながら握りしめているのを見ながら、女は全てを冷ややかに見据える。
『――団長、市街地の制圧が完了しました』
「そうか。捕虜は逃してないか?」
『はい、ご命令通り。捕縛済みです』
「――ならいい。制圧地点を奪還させるな」
無線を切った女――『銀閃の乙女』ユリアーナ(p3n000082)は硝煙と瓦礫へ変わった拠点を見渡して、くるりと構えなおした槍を肩に担ぐ。
その翡翠色の瞳はハイライト薄く、酷薄な表情を浮かべ力づくでねじ伏せるその在り方は、混沌におけるユリアーナのそれとはまるで違う。
「父よ、我々は間違っていた。――間違っていたのだ。
やむを得ぬ事情を持っているかもしれない?
この貧しい国でだからこそ、隣人に優しくなければならない?
――間違っていた。違う。駄目だ。それじゃ駄目だ、父よ」
灰色の雲に覆われた空を見据え、ユリアーナは独り言ちた。
ユリアーナという女は、鋼鉄の西部、国境よりやや内陸部に生まれ育った。
鋼鉄の軍人の父と伝承貴族の末娘を母として、それなりに平和な日常を過ごし、父の死に伴ってその地位を継いだ。
日々ストイックに自分を追い詰め、人々の為に全力を賭して問題解決に尽力した。
手の伸ばせる場所にいる数少ない人々が少しでも平穏な一日を過ごせるように。
「民を守らなくては――」
風にあおられてマントがふわりと翻る。
散り付く火の粉を振り払い、剣を握り締めた兵士を叩き潰して、ユリアーナは眼を閉じた。
――そうだ。民を守らなくては。
それが、私の存在意義なのだから。
そうだ。そのためには――
「全ての敵を根絶やしにするほかない」
瓦礫を踏みしめ、眼下を見下ろせば自分(シャドーレギオン)の部下達が未だ無意味に抵抗を見せる敵と戦っていた。
●
――新規イベント『機動要塞ギアバジリカ』が開催されました。
鋼鉄内乱『フルメタル・バトルロア』を攻略し、皇帝殺害の真相に迫りましょう。
さあ、機動要塞ギアバジリカ初号艦のクルーとなって戦地へ赴きましょう。
発進! 黒鉄十字柩(エクスギア)で出撃し、鋼鉄を蹂躙する『シャドーレギオン』と交戦せよ!
「おぉ~! R.O.O、色々増えたんっすね、2.0っすか!」
面白そう! とばかりに目を輝かせる少女――レア(p3y000220)。
「お知らせには色々あるっすけど、目玉は鋼鉄とヒイズルっすか」
鋼鉄ではこのところ闘士や軍人、はたまた何らかの志を持つ人々が『突如人が変わった』ようになり、あちこちで軍閥とでも言えるものを形成して争っているという。
その多くは邪悪な人格に変貌して略奪、虐殺などの非人道的行為を行っているという。それらの軍閥を指して言うのが先に出た『シャドーレギオン』なのだ。
「善良だったりする人が突然、そんな風に意図しないことをさせられるようになってしまうのって……気づいた時が一番きつそうっすね……」
数々のバグの正体も原因も分からない。
特に、先に出た『お知らせ』とやらの文面によれば、『R.O.O運営』ともすればゲームマスターとでも言える奴らは悪い意味で『いい性格をしている』、癪に障る相手だ。
つまりは、今回は『わざわざ人々をバグらせ』、『悪人に仕立て上げる』というわけだろう。
「なーんかよくわかんないっすけど、この『DARK†WISH(歪んだ願い)』を持ってるシャドーレギオンの人たちを倒すと、
その人が持ってる『WISH(本来の願い)』になるってことっすかね? はへー、益々ゲームじみてるっす!」
感心するようにそう言いつつ、でも、とレアは眼を輝かせる。
「このエクスギアってのに乗ってビュンって飛んでいくのは面白そうっすね!
どんな気分なんっすかねぇ、ちょっと楽しみっす!」
今回のイベント、『機動要塞ギアバジリカ』は現実世界のゼシュテル鉄帝国では皇帝たるヴェルス・ヴェルク・ヴェンゲルズが人々の平等を掲げる団体『クラースナヤ・ズヴェズダー』と共に紆余曲折を経て立ち上げた軍閥『ゼシュテリウス』からの要請を受ける形で発生した。
イベント名にもなっている機動要塞ギアバジリカから、目標の現場に向け、イレギュラーズは文字通りに『射出』される。
その際に乗るのがエクスギア――5メートルほどの黒鉄十字柩である。
「ささ、行きましょ、先輩たち! 楽しみすぎてたまらないっす!」
- <フルメタルバトルロア>穢れ堕ちた白銀の乙女完了
- GM名春野紅葉
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年07月22日 22時06分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●
硝煙が上がっている。
炎が立ちのぼり、悲鳴が轟く戦場の上空――九つの光が瞬いた。
炸裂音を伴い、熱を帯びた蒸気を放つは九つの十字架。
漆黒のそれが音を立てて開き――人の影が姿を見せる。
「うう、まだ頭がフラフラします…皆、大丈夫ですか?
思ったより乱暴な到着でしたが、ぐったりもしていられませんね」
エクスギアから頭を抑えながら這い出てきた『航空海賊忍者』夢見・ヴァレ家(p3x001837)は直ぐに周囲を見渡した。
「ユリアーナ殿を止めてあげなくては。現実と同じユリアーナ殿であれば、きっと後悔して、自分を責めてしまうでしょうから」
瓦礫の山と化して、硝煙の立ちのぼる城塞だったであろうこの地。
ヴァレ家はこの光景を作り出した人物のことを知っていた。
「これは……ユリアーナ殿……」
続けてエクスギアより姿を見せた『航空海賊虎』夢見・マリ家(p3x006685)も思わずつぶやく。
(現実ではないとはいえユリアーナ君がこんなことを心底望むはずがない! 必ずWISHを取り戻させてみせる!)
歪められた願い――『DARK†WISH』は『民を守るためにはそれ以外すべてを殺し尽くせばいい』。
そして、データに乗っているユリアーナの本来の願い――『WISH』は『民を守るために最善を尽くす』というものであるという。
「ヴァレ家! 絶対に正気に戻しましょう!」
近くにいたヴァレ家に向かって声を上げれば、同じように彼女も頷いた。
「敵を全て殺せば争いはなくなる。
一つの真理かもしれませんが破綻していますね」
愛刀を抜きながら『nayunayu』那由他(p3x000375)はぽつりと。
(彼等の感情の味は一体どんなものか。楽しみです)
那由他は周囲に近づいてくる敵兵に油断なく視線を向けた。
「何が起こってるのかまだ詳しくはわからないけれど……人の願いを歪めてしまうなんて……
みんなそれぞれに、譲れない願いを抱えてるんだ。それを変えてしまうなんて……許せないよ!」
魔導弓を握るアレクシア(p3x004630)も周囲を見る。
その視線はさながら今回のみならず、R.O.Oの黒幕を射抜くように。
「さて、仕事の時間だ」
少々乱暴がすぎるエクスギアの着地方法にへきえきしつつも、エマノン(p3x007812)は拳銃を抜いて構える。
(それにしても、乙女の志を歪ませるとは、中々に業腹なバグもあったものだ。
どういった意図によるものか、解らないことだらけだが……)
「やれることを、ひとつひとつやっていくしかないか」
「R.O.O.がもたらす冒険譚も悪くないものだと思っていたし、今でも半分くらいはそう思うけれど。
流石にこれは……実に悪趣味だね……」
戦場の光景を見ながら、『魔剣遣い』アーゲンティエール(p3x007848)は魔剣を抜いて天へ掲げるようにして構えた。
「DARK†WISHの氾濫を止め、光差すWISHが報われる世界の為に。
『銀魔』アーゲンティエール、機動要塞ギアバジリカよりいざ参上だ!」
堂々と宣誓を告げるようにポーズを決める。
(なんつーか、ホント極端だな。
鋼鉄の一部派閥が願いを歪ませてるって聞いたが、どうも目的が見えねえな)
腕を組みながら『赤龍』リュカ・ファブニル(p3x007268)は今回のイベントの趣旨を考えていた。
ひしひしと感じる周囲からの敵意。
「ま、そういうのは頭良いやつに任せて俺は目の前の問題を解決していくとするか」
その視線は前に。
「新手……ゼシュテリウスか」
涼し気に風にマント遊ばせながら姿を見せたのは、銀色の髪の女。
微塵の油断なくこちらを見下ろすその女は今回のエリアボスであり、目標たるユリアーナだ。
「あれの抑えは任せたぜ、兄弟」
リュカはそう言葉だけ相方へ向け、視線を歩兵へ向けた。
「任せてください兄上」
美しき愛刀――竜刀『夢幻白光』を抜いた『蒼竜』ベネディクト・ファブニル(p3x008160)はリュカの言葉を受けてそう答え、一歩前へ出た。
(確かにこのR.O.Oの運営については悪趣味である、という言葉には頷かざるを得ないな。
だがこれがイベントだと言うのなら、やってやるさ)
身体に力を籠めれば、蒼く輝く燐光が輝きを増したような気がした。
「そして、俺達が勝利し、バグを受けてしまった人達を元に戻して見せる!」
合わせるようにユリアーナが動き、高速で振り下ろされた槍を何とか防ぐ。
「力で捻じ伏せる事だけが強さでは無い、その事を貴女は良く知っていた筈だ」
膂力で押しつぶすような技を振り払い、ベネディクトは声を上げる。
「だとしても、捻じ伏せなくてはならない。それが、民のためだ」
まるで自分に言い聞かせるように、ユリアーナが答える。
「あなたたちも願いを歪められているのかもしれないけれど……ごめんね!」
先手を取ったのはアレクシアだ。
魔導弓を引き絞れば、圧倒的な魔力制御技術をもって矢を放つ。
最速の魔力砲撃は星のように輝き放物線を描いて空へ。
強烈に瞬いた魔力は雨のように広域へと降り注ぐ。
着弾した魔力は人々の心を蝕み、混乱と狂気をもたらした。
「民を遍く護るため、時に相手を傷つけ、時に殺すのも騎士の本分であるのは否定しないよ。
我が魔剣も、結局はそういう業だ。……けれど最も優先されるべきは『護ること』じゃあなかったか」
担い手の名を冠する魔剣に魔力が充実していく。
銀白に輝く魔剣をそのままに構え、瓦礫を踏みしめて振り抜いた。
「――これから我は君達を、殺さず鎮圧するという形で護り切るよ!」
銀白の閃光が敵陣を薙ぐように駆け抜けた。
続くように、ヴァレ家は前へと走り抜けた。
「そういえば、ユリアーナ殿でしたか? 凛々しくて美しい方ですね。
拙者、好事家からも依頼を受けていましてね。彼女は高く売れそうです。
どうです? 協力してくれたら礼金は弾みますが」
敵陣の前まで近づけば、目の前の兵達へ挑発するように言葉を示す。
受けた兵士達が各々の武器を握る手に力を籠めるのを見て取りながら、ヴァレ家は一歩前に踏み込み、駆け抜けた。
すれ違いざま、手に括りつけられた短剣を振るい切り結ぶ。
挑発に乗った歩兵がサーベルを片手にヴァレ家へと襲い掛かっていく。
ヴァレ家はそれをあえて受けながら、その防御技術を駆使して受け流した。
そこからは徐々に動き出した自警団兵との乱戦へと突入していく。
エマノンは二丁拳銃を構え、動き出した歩兵めがけて弾丸をぶちまけていく。
火花散りばる銃撃の硝煙は既に戦場を包むそれと混じって消えていく。
砲撃の傷の幾つかは盾によって防がれるものの、盾で防ぎきれなかった弾丸は敵兵へと致命傷を与えていく。
「どうした、足が覚束ないか?」
一通りの銃撃が終息に向かう中、挑発と共にもう一度弾丸を撃ち込んでいく。
リュカはその手に竜の呪いを降ろす。
「まずはてめえらからだ!」
赤龍を思わせる真紅の呪いが天へと掲げられたリュカの腕を呑み込み、圧倒的質量を伴って振り下ろされた。
それはさながら龍が愚かな人類を踏みつぶすように――あるいは尾で振り払うように。
近づいた歩兵の身体を圧し潰し、満足したかのように消えていく。
龍の脅威を目の当たりにした槍兵達が、歩兵を救わんとでもするようにリュカへ殺到していく。
続けるように銃兵達が銃撃の準備を始めた頃、マリ家と那由他はその先手を取った。
「折角のぶつかり合いです。長く楽しみませんとね」
那由他は鞘に納めた愛刀を高速で抜いて、斬撃を払う。
放たれた斬撃が駆け抜け、1人の歩兵の身体を切り裂いて、鮮血を舞い散らせた。
それはさながら千の雨のように鮮やかに振り注ぎ、返り血は那由他自身の生命力を取り戻させていく。
「ユリアーナ殿! 貴女はそんなことを望んでいないはずです! 拙者は……拙者は知っています!」
マリ家は叫ぶ。今はまだ、自分の前にいない彼女へ。
「私が……望んでいない? いいや、そんなはずは――これは、これはきっと、政界のはずだ!」
ユリアーナが答えたのを聞きながら、マリ家は間に入ってきた敵兵を見据えた。
「何を言っているかこちらの貴女には伝わらないでしょう……!……必ず貴女の真の願いを取り戻させてみせます!」
リミッターを解除したバルカン砲から離れた無数の銃弾が眼前の敵兵の身体を数度にわたって撃ち抜いた。
「まるで冷徹無比の殺人機械の様だ、鋼鉄の軍人よ。それで満足か?」
その身を晒すように、ベネディクトはユリアーナに対峙した。
自身の間合いに調整する彼女と、視線を交わす。
蒼竜の瞳が女を射抜き、精神性を揺さぶり食らいつかんとする竜の如く視界に収めた。
「私は……私は、それでいいはず、だ。機械でなければ、民は守れぬ!」
胡乱な瞳を揺らして叫び、ユリアーナが疾走する。
高速の刺突がベネディクトの身体へと吸い込まれていく。
●
戦闘は続いている。
当初の数的不利もあり、必ずしも圧倒的に優位に事を運べたとは言えない。
その一方、比較的早期に乱戦に持ち込めたことで制圧力に長けた銃兵達からの範囲攻撃がかなり少なくなっている。
その上、数的不利ゆえに巻き込む可能性が少ないイレギュラーズは優位に持ち込みつつあった。
「私は嫌いではありませんが、貴女達のやり方は、無用な争いを増やします。
それに民を巻き込むことにしか繋がりませんよ?」
双剣を振り抜き、斬り払いながら、那由他は敵へと告げる。
(守るために戦うのではなく、戦うために守る感じになってしまっていることに気づいて貰えると良いのですが)
静かに振り払った斬撃が槍兵を切り裂いた。
アレクシアは視線をユリアーナに向けた。
引き絞る弓に濃密な魔力が集束していく。
それは荘重たる雲を纏わせるが如く、たなびく雲の如く。
遥かな遠くまで撃ち抜く魔弾。
「あなたの役目は、人を守ることなんでしょう!」
放たれた魔弾が身体を撃ち抜くのを見ながら、アレクシアは声を上げた。
その願いは、アレクシアだって理解できる。
だからこそ、問わねばならない。
ユリアーナが顔を上げた。
アーゲンティエールはその名を冠する魔剣を構えた。
「あとは君だけだ」
剣という獲物からすれば一見するとやや遠いその間合いこそ、魔剣の『アーゲンティエール』にとっての最適解。
層を為しながら集束する銀色の魔剣を、静かに振り抜いた。
苛烈な瓦礫に満ちた戦場を、銀色の輝きが作り変えるように走り抜けた。
「さて、ユリアーナの様子は……」
エマソンはあらかた敵の数が減ったのを見て、ベネディクトの方へ視線を向ける。
そちらを見たまま、適当に地面へと向けた銃の引き金を弾いた。
跳ねた弾丸は見るまでもなく、『偶然』に槍兵を撃ち抜いた。
「うん? どうした、当たっちまったか?」
そのままそちらに顔を向けば、体勢を崩した槍兵が見えた。
その横を赤い影が躍る。
「遅れたな兄弟。じゃ、やっちまおうぜ!」
ユリアーナの眼前へ飛び込んで、リュカは不敵に笑みを浮かべベネディクトに言い放つ。
「流石にそろそろ厳しい所でしたが、兄上が来てくれたのなら百人力です」
対するベネディクトが笑みを零してそう答えれば、既にリュカの腕には赤いオーラが層を増していた。
「力でねじ伏せるのが得意らしいが……ソイツは俺も専門分野だぜ!」
オーラは龍の爪の如くその鋭さを増していく。
振り抜かれた拳が、全身の闘志と呼応して渦を巻きながら、ユリアーナに突き立った。
●
「民を守る、守るために敵と戦う。それを否定する気はない」
それは、エマノン自身もやってきたことだ。
「だがな、殺し合いの行き着く先は……殺し合いしかない。
見てみろ、今のこの有り様を。叩きのめされた自警団員を」
銃を構えることをせず、エマノンは静かに自警団員を見せるように手を広げてみせた。
「お前の進もうとしている道は、いつか必ずこうなるものだ。
破滅の道に向かおうとするものに、何かを守る等と言う資格は……無い」
そのまま、ユリアーナを見ることなく引き金を弾いた。
跳ねた弾丸が静かに彼女の身体を穿つ。
「勝てば、いい。勝てば失わなくて済むのだから……」
「……勝てば良いとは言いますが。そのやり方で味方が増えるとも思えませんし、最終的には全てを失いますね。残念です」
ユリアーナの言葉に切り返すように告げたのは、肉薄した那由他だ。
「まあ思い込むと短慮や暴挙に走るのは仕方のないことですね」
静かに言葉を残し、剣身を這う自らの血液を刃に変えて、真っすぐに切り上げるように振り抜いた。
刃の斬撃に加えた血刃の飛沫が、身体を貫いていく。
「あなたはどうして民を守りたいと思ったの!?
誰か守りたい人がいたの? それとも誰かにそうあれと言われたの?
あなたが守りたいと思った気持ちは、敵を全て滅ぼせば満たされるの!?」
アレクシアは再び弓を構えながら、ユリアーナへ問う。
「――それは……」
その瞬間、ユリアーナの表情が歪み、動きが固くなる。
それを、アレクシアは見逃さなかった。
一瞬の隙を突くように、前へ。
肉薄したアレクシアにユリアーナが咄嗟に対応を見せるよりも前、矢に変える前の濃密な魔力を帯びた斬撃がユリアーナの身体を強かに切り裂いた。
返すように、振り抜かれた穂先が、アレクシアの身体を貫いた。
自警団戦で蓄積してきた傷に加えた一撃に、ゲージがゼロを示す。
「思い出して……どうしてそうありたいと願ったのか」
粒子になる身体で、アレクシアはそれだけはと言い残す。
「守る為には時には武器を納めるという選択肢が必要な時もあるんじゃないのか?
本当に貴女が、皆が為す最善とは守るべき物以外の物を殺す事なのか!」
動きの揺れたユリアーナへ詰めるように、ベネディクトは更に前へ。
「黙れ、黙れ黙れ――黙れ!!」
まるで痛む頭を抑えるように、頭部を掴むユリアーナが再び槍を振るう。
それを受けながら、ベネディクトは減りゆくゲージがゼロに至るのを見た。
ログアウト――いや。自らを貫く槍を掴んで、ベネディクトは力を振り絞った。
蒼の闘気を全身からあふれ出させ、確率の天秤に勝ち越して、蒼い瞳がユリアーナを射抜く。
「答えろ! 鋼鉄軍人、ユリアーナ!」
竜の咆哮の如き気迫を込めて、声を上げる。
「敵は倒さなくてはならない……恐らく、それは真理なのでしょう。
拙者も、それを否定はしません。ですが、貴女が倒してきた敵は、本当に『敵』だったのですか?」
説得を試みながら、ヴァレ家はユリアーナへと肉薄する。
その問いかけに、再びユリアーナの身体が硬直する。
「……なにを?」
震えた声で問いかけてくる彼女に視線を合わせ、ヴァレ家は次の言葉を紡ぐ。
「話し合いの余地はなかったのかと聞いているのです。
だとしたら、本当は分かり合えたはずの相手を殺すのは、本当に正しかったのですか?
そこに守るべき幸せはなかったのですか? 目を覚まして下さい、ユリアーナ殿!」
「守るべき、幸せ……分かり合えたはず……そんな、ことを……私は」
「ユリアーナ殿! 本来の貴女は優しく思慮深い女性です! 目を覚まして下さい!」
動きの緩むユリアーナへ、マリ家は叫ぶ。
それは、ここにいる彼女とは異なる彼女の事。
それでも、少しでも同じところがあるのなら、きっとそうだからと。
「……だから、お願いだ!」
言い放つと同時、マリ家はユリアーナが槍を握る手に向けて弾丸を撃ち込んだ。
動揺して力が入っていなかったのか、槍が衝撃を受けて手から離れていく。
「狂わされた女性を殴るのは気分よくねえが……これも正気に戻す為だ。
悪く思わねえでくれよ!」
リュカは肉薄するや、その身に宿る赤竜の力を増幅させ、全身の力を拳に籠めていく。
踏みしめた瓦礫が砕け、全身が赤い闘気を纏う。
振り抜かれた拳がユリアーナの身体に突き立った。
「殺さず鎮圧する言ったからね――」
魔剣を立てるようにして構えたアーゲンティエールは、その剣身に白銀の闘志を抱き、剣身へともたらしていく。
振り抜かれた斬撃は、真っすぐにユリアーナへと走り抜ける。
それは不殺を帯びた――けれど、必ずや倒すという気迫を込めた鎮定の剣。
斬撃がユリアーナの身体へと炸裂し、ぐらりとその身体が倒れていった。
●
「ヴァレ家ぇ……疲れたぁ……」
瓦礫の山の戦場、マリ家の声が響く。
ふらりと崩れるようにぽふん、とヴァレ家と抱き合えば。
「疲れましたね……お家に戻ってゆっくり休みましょう」
同じようにそう言ったヴァレ家も疲労を解き放つような微笑を浮かべた。
その時だった。
瓦礫の中から、ボロボロのユリアーナが姿を見せる。
「……なんということだ。私は、なにをしていたのだ……」
槍を杖のように握りしめて瓦礫の中を抜け出した彼女は、そのまま戦場へと視線を向けた。
「私が……こんなことをしたのか? 命じたのか? ……なんということだ」
がくりと、女が膝から崩れ落ちた。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れさまでした、イレギュラーズ。
戦後の療養などのあと、ユリアーナの軍閥はゼシュテリウスへ合流すると思われます。
MVPは一番クリティカルな説得をであっただろう貴方へ。
GMコメント
そんなわけでこんばんは、春野紅葉です。
新展開のようですね。
早速詳細をば。
●オーダー
・ユリアーナ軍閥の鎮圧
●フィールド
鋼鉄の西部に存在する城塞だったものです。
盗賊ないしは国に属さない者が潜んでいたらしく、攻め落とされました。
そこら中がれきにあふれていますが、足場の問題などは特にありません。
●エネミーデータ
・『銀の果て』ユリアーナ
トップ画像右の銀髪の女性。
鋼鉄の西部にある自警団の団長だった女性です。
本来は真っすぐな武人でしたが、歪められてしまったようです。
技量よりも力で捩じりつぶす戦闘スタイルをしています。
物攻、反応、命中高めの物理アタッカー。射程は近接までですが貫通、扇、範など範囲は多様です。
スプラッシュ、追撃、邪道、変幻を持っています。BSはもちません。
『WISH』
民を守るために尽くせる最善を。
『DARK†WISH』
民を守るためにはそれ以外すべてを殺し尽くせばいい。
・鋼鉄自警団槍兵×10
重装甲の歩兵。
バランスのいい戦場の主力です。
・鋼鉄自警団歩兵×5
サーベルを握り、盾を持った歩兵です。
突撃力と単体戦闘力に長けています。
・行為軼自警団銃兵×5
ライフルやロケラン、ミサイルポッドなどなどを持つ遠距離兵です。
面制圧力に長けています。
●同行NPC
・レア
トップ画像左のオッドアイの女の子。
希望ヶ浜学園の生徒です。一応イレギュラーズです。
物理近接バランス型です。攻防ともにある程度なんでもやってくれます。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
※WISH&DARK†WISHに関して
オープニングに記載された『WISH』および『DARK†WISH』へ、プレイングにて心情的アプローチを加えた場合、判定が有利になることがあります。
※重要な備考『デスカウント』
R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。
Tweet