シナリオ詳細
<フルメタルバトルロア>正義の剣、城塞都市の攻防
オープニング
●正義会談
R.O.O、ネクスト世界。『正義(ジャスティス)』と名付けられた国。
かつて様々な困難に見舞われながらも、多くの者達による献身と正義により、安定した運営を成功させた、現代の強国の一つである。
その教皇庁にて、今、正義のトップたちによる会談が行われようとしていた。
「此度皆に集まってもらったのは、もう察しがついているだろう。鋼鉄の皇帝暗殺の件と、それに伴う治安悪化についての議題だ」
円卓に集いし正義の重鎮たち。国王にして教皇たるシェアキム・ロッド・フォン・フェネスト六世がそう告げるのへ、一同は深く頷いた。
「皇帝暗殺による鋼鉄の混乱は必至……内乱は拡大し、今は各軍属が次なる権力を握って争い合う状況にあるとか」
レオパル・ド・ティゲールの言葉に、シリウス=アークライトは静かに頷いた。
「すでに国境には複数の難民が詰めかけているようだ。関所では止めているけれど、不法入国者の流入は抑えようがない。国境に壁を作り、我が国を囲う事は出来ないからね。どうしてもほころびは出る」
「目下の問題は、難民の流入と、それに伴う治安の悪化である」
シェアキムがそう言うのへ、声をあげたのはアストリアはアストリアだ。その眉を吊り上げ、明確な怒りの声をあげる。
「まて! では、無辜の難民たちを見捨てるというのかえ!?」
「枢機卿、そうは言っていないだろう」
エルベルト・アブレウが静かに声をあげた。
「君は優しく聡明だが、その優しさに目を曇らせるきらいがある。
あえて酷な事を言うが、現実を見てくれ。すべての難民をすくえるほど、我々も豊かではない」
「それは……」
アストリアが口をつぐんだ。分かっている。だが、それが理解できるからこそ、アストリアが難民たちを救いたいと思う気持も膨れ上がっているのだ。
見捨てなければならない。
見捨てたくはない。
そう言った二律背反――。
「わしらとて、理想を捨てているわけではない。
だが、仕事柄、少しばかりシビアになってしまうものだ。許してくれ、枢機卿」
イェルハルド・フェレス・コンフィズリーが静かに言った。
「……すまぬ。妾も頭に血が上っておった」
「ですが、枢機卿のお怒りももっともだ」
シリウスが言う。
「我ら正義の騎士……その存在価値はあまねく民のため。世界に我らが正義かくあれかしと謳うのであれば、確かにここで鋼鉄の民を見捨てるのは、その存在意義に関わろう」
「だが、難民だけが来ると言えばいいが、しかし実態には国境付近には暴徒や賊と化した民もやってくる。それらの対処はどうする」
レオパルの言葉に、
「ふむ……些か乱暴ではあるが、結局のところ、元を断たねばこの事態は解決せぬのではないか?」
イェルハルドが言った。
「元を……つまり、鋼鉄における皇帝の不在か。だが、それこそ内政干渉と言うものでは?」
エルベルトの言葉に、ふむ、とシェアキムが頷いた。
「だが、もはや彼の地は政なき地。この期に及んで内政も何もあるまい」
「では……どうするのじゃ?」
アストリアの言葉に、シェアキムが頷いた。
「レオパル。貴殿に任を下す」
「ハッ」
「特異運命座標たちと共に、国境より鋼鉄へと侵入せよ。そして貴殿の目で見極めるのだ。何者こそが、鋼鉄の皇帝にふさわしいか。私は貴殿の目に全幅の信頼を寄せている。もし貴殿の目にかなわぬなら、そのまま斬れ。鋼鉄が国としての体を為さぬ愚かな皇帝しか戴けぬのならば、我ら正義はその名の下に、鋼鉄を併合する。また、貴殿が鋼鉄に侵入できなかった場合、対話は不可能と判断し、これも我々は進軍を開始する」
「それは――」
レオパルは息をのんだ。
もし、鋼鉄が、愚かにも内乱を続け、民を顧みないのであれば。
正義はその慈悲を持って、進軍を開始すると――。
「特異運命座標たちは、『ゼシュテリウス』なる軍閥に肩入れしているようですな」
エルベルトの言葉に、イェルハルドが頷く。
「では、ティーゲル卿。貴殿は特異運命座標たちと共に、ゼシュテリウスの戴く皇帝候補……ヴェルス・ヴェルク・ヴェンゲルズに接触していただくことになりますな」
「レオパル、君の任務は責任重大だぞ」
シリウスが笑うのへ、レオパルは苦笑した。胃が痛い。自分の判断一つで、作戦の成否一つで、この国は戦争を始めるかもしれないのだから。
すでに鋼鉄・正義国境線沿いには、多くの正義騎士たちが布陣している。関所には多くの難民が詰めかけて、時折略奪者と暴徒が関所へと攻撃を仕掛けているのを、騎士たちによる制圧行動が行われていた。
「やれやれ、国境付近も随分と騒がしくなってしまった……」
レオパルは悲痛な表情をしながら、特異運命座標たちへと声をかける。
「依頼を受けてくれて感謝する。私は貴殿らのように、好きに自由にあちこちへ移動できるわけではないからな。また、単独で正義の騎士が国境を超えるのも不味い。貴殿らと言う後ろ盾があってこそ、ようやく動ける身だ」
レオパルは、特異運命座標たち一人一人に固く握手をすると、ゆっくりと頭を下げる。
「……今回の依頼は、正義、鋼鉄、どちらにとっても大きな一石を投じるものになるかもしれない。どうか、気を引き締めてかかってくれ。私も全力を尽くすこととしよう」
レオパルの言葉に、特異運命座標たちも力強く頷く。
そして、一行は鋼鉄の地へと足を踏み入れた。
秘密の旅路は続く。レオパルは素性を隠しながら、鋼鉄の様子を肌で感じていた。
あちこちで起こる衝突。軍閥同士の争い。それがこの国の一つの現実なのだと、レオパルは深く思い知る。
やがて、一行は一つの都市へとたどり着いた。城塞都市ラーク・アトシェーリニク。ゼシュテリウスの擁するギアバジリカへ向かうには、この街を通る以外に道はない。
「……だが、この街はゼシュテリウスとは反目する軍閥によって占拠されている、か」
レオパルの言葉に、特異運命座標たちは頷いた。
「ギアバジリカも、我々を迎えには来られない様だな……いや、それも傲慢ないい口か。むしろ私は訪問者。力を示さねば、時代の皇帝に見えることも不可能か」
レオパルは頷くと、特異運命座標たちへと静かに向き直った。
「もとより依頼した身ではあるが……重ねてお願いしたい。私へ……正義国へ、力を貸してほしい。共に、この街を突破してほしいのだ」
レオパルの言葉に、特異運命座標たちは頷いた――。
「はぁ~~~~~? 正義のレオパル(オッサン)がこっち来たってぇ~~~~~?」
と、ラーク・アトシェーリニクの公会堂の一室で、その男はサンドイッチをパクつきながら首をかしげた。
着崩した、ともオブラートに包んだ表現になるほどにだらしのない着こなしのスーツ。伸びたネクタイ。テーブルの上に胡坐をかいて、傍らのランチボックスに目を移せば、男の好物である、ハム・レタス・トマト・チーズの具沢山サンドイッチが見える。
「まてまてまてまてぇ~っ? 今ほらよ、ランチタイムだからよぉ~~~~~~! 紅茶飲んでからって事にできねぇ?」
「アッティ様、それは……」
「無理か! 無理だよなぁ~~~~! しゃぁえねぇ! 飯は後にするか! ほら、ランチタイムってよぉ、なんつーの? 誰にも邪魔されちゃならねぇよなぁ~~~~~~~豊かじゃなきゃな! 心も腹もいっぱいにするんだよぉ~~~~~!」
部下の男の言葉を遮りながら、アッティと呼ばれた男は紅茶を飲み干す。香りを楽しむ間もなく、ランチボックスに蓋をした。
「で! 正義のおっさんは何しに来たわけよ?」
「特異運命座標たちの姿も見えます。恐らく、奴らが懇意にしているゼシュテリウスに接触するつもりかと」
「それでこのヤドカリタウンを越えるって? 馬鹿だねぇ? 通す分けねぇんだよなぁ! ほら、ゼシュテリウスに正義の支援を送られてもたまったもんじゃねぇし! そりゃあうちの軍閥が一番ですけど? めんどくさいのは嫌だからよぉ~~~!」
ずだん、と音を立てて、アッティがテーブルから飛び降りる。それからぱちん、と指を鳴らすと、
「じゃあ、兵隊共集めてすぐに迎撃って事でヨロ! 俺は本隊率いて街の出口で待ち受けるからさ! 遊撃的に敵に攻撃して体力減らしてって事で一つよろしく!」
そう言うと、アッティはランチボックスと紅茶の入った水筒を抱えて、扉を開いた。
「俺まず飯食うからさ! そのくらいの時間は稼いでくれよなぁ? じゃ、よろしくぅ~~~!」
と、外へと向かうのであった。
- <フルメタルバトルロア>正義の剣、城塞都市の攻防完了
- GM名洗井落雲
- 種別EX
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年07月19日 22時05分
- 参加人数10/10人
- 相談7日
- 参加費150RC
参加者 : 10 人
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参加者一覧(10人)
リプレイ
●城塞都市にて
「城塞都市ラーク・アトシェーリニク。堅牢な城壁と、指揮官アッティ配下の戦士たちが守る、まさに鉄壁の都市だったな。
いかにして、被害を抑えてこの都市を攻撃するか……などと、同期の騎士達で話題になったこともある」
どこか懐かしそうに、レオパルが言う。一行は城塞都市入り口付近に身を隠しながら、都市の内情を窺う。入り口では、5名ほどの見張りの兵士があわただしそうな様子を見せていて、こちらの接近はすでに知れ渡っているものとみていいだろう。
「アッティ、ですか。何か懐かしい名ですね」
『仮想ファンドマネージャ』ファン・ドルド(p3x005073)がそう言うのへ、レオパルは、ほう、と唸った。
「もしや、接触したことが?」
「以前、一度。まぁ、彼は私のことなど知らないというでしょうが」
苦笑する。アッティと言う男を、ファン・ドルドは現実で知っていた。現実での彼は、不倶戴天の存在、魔種であった。R.O.Oでは、鋼鉄で軍閥などを率いているらしい。何とも、奇妙な感覚だ。
「では、貴殿らも知っているだろうが、このアッティは鋼鉄で指揮官をやれるほどには、確かに有能な男だ。
もちろん、その配下たちも、その戦闘能力は高水準であろう。
私は今回は、あくまで貴殿らの判断に従うつもりだ。その上で問う。
どうする、と」
つまりレオパルは、『突破は可能か?』と聞いているわけだ。レオパルの言によれば、城塞都市の突破は簡単ではないだろう。だが、ここを突破できなければ、ギアバジリカに接触することもできない。任務の失敗は、正義による鋼鉄への直接介入の可能性を示唆していた。
「――うん、任せて。
私達が絶対にこの城塞都市を突破させてみせるから。
だからレオパルさんは、何があっても私達を信じて前に進んでね?」
『ご安全に!プリンセス』現場・ネイコ(p3x008689)がそう言うのへ、
「エイラ達ぃレオパルぅ守るぅ。
レオパルぅ沢山の人々ぉ守るぅ」
『仄光せし金爛月花』エイラ(p3x008595)が続いた。
二人の表情はそれぞれだったが、その眼に宿る決意の色は、確かに頼れるものだった。レオパルは、現実と同様に嘘を見抜く力を持っていたが、この二人は確かに、真実、そう思ってレオパルにその言葉を投げかけてくれたのを、レオパルは理解していた。
故に、レオパルは決意した。彼らに賭けてみようと。
「承知した。だが、危険だと判断したら、私は撤退を提案する」
それは、わが身惜しさではなく、特異運命座標たちの事を慮っての事であると、皆には理解できた。
「そうはならぬよう、全力でレオパル様をお守りしマス」
と、『□□□□□□□□□□』スクエア(p3x008096)が言う。
「この作戦が、鋼鉄、正義、両国のためなればコソ。確実にミッションを遂行いたしマス」
スクエアの言葉に、『翳り月』レイス(p3x002292)が続く。
「あの……よ、よろしくお願いします。必ず、送り届けますから……無理はしないように、してください……」
「うむ。貴殿らも、くれぐれも無理はしないでくれ」
「さて、あまりここで長話をしていてもしょうがないね」
ネイコが言った。
「そうですニャ。あんまりぐずぐずしていても入り口を固められてお終いニャ。
ノープランぽい言い方だけど、まずは中に入ってから考えますニャ!」
と『にゃーん』ネコモ(p3x008783)が言うのへ、仲間達は頷いた。
「まずは侵入するぅ。入り口で追い返されるぅ、避けたいねぇ」
エイラが言う。ファン・ドルドが続いた。
「ええ。では、レオパル様。少し騒がしくなりますが」
「問題ない」
レオパルが笑った。そのままゆっくりと剣に手を伸ばすのへ、特異運命座標たちも倣う。武器を携え、一同は一気に入り口へと駆けだした。
「ささやかではあるが、援護を!」
レオパルが剣を掲げると、聖なる雰囲気を持つ威風が、周囲に放たれた。それはイレギュラーズ達の心を鼓舞し、肉体に活力を与える、聖なる加護である。
「……! ありがとうございます……!」
レイスが言うのへ、レオパルは走りながら頷いた。
「うむ、シリウス団長には到底及ばぬが……!」
レオパルの事である、謙遜と言うより事実だろう。
「ふふ、レオパルさんから援護をもらっちゃったら、頑張らなくちゃだね、サクラちゃん!」
『天真爛漫』スティア(p3x001034)がそう言うのへ、『サクラのアバター』桜(p3x005004)が頷いた。
「うん! いくよスティアちゃん!」
二人の剣客が走る! 二人はそれぞれ、別々の見張りへと接敵!
スティアは散華、月天、二振りの刃をそれぞれ二刀流に、舞い散る桜の花びらと共に、同じく舞い散る花びらのごとく流麗な斬撃が、見張りの闘士を斬りつける。まさにそれは桜花の乱舞。
また、別の敵を相手にしていた桜の刃もまた、敵の身体を捉えていた。スティアと同様、まさに流麗な流れる様な斬撃が、怒涛の連斬を見張りの闘士へと喰らわせて、その刃のもとに斬り捨てる。
(……! 見事な刃だ。二人とも、ウォーカーか、ヒイズルの出か……? だが、その刃にはどこか、我々正義の所作も見受けられるような気もするが……)
レオパルが胸中で、二人の刃を称賛する。とはいえ、観察してるわけにもいくまい。レオパルもまた、戦いの中に身を投じている。
「ちっ、件の侵入者か!?」
見張りの闘士が叫び、手にした手甲でアレクシア(p3x004630)を殴りつける。が、アレクシアは軽やかに跳躍してそれを回避、空中で身をひねると、手にした弓に魔力を込めて、一気に引き絞る。
「ごめんね、でも、私達が任務を失敗するわけにはいかないから!」
アレクシア達の任務の失敗は、すなわち正義による鋼鉄への介入の開始を意味する。鋼鉄はすでに混乱の極みにあるが、そこへ更なる火種を持ち込むのは避けたい。
(鋼鉄の混乱も、それを止めるために正義が介入するって言うのも、いい事なのかどうかはわからない。
でも、一つだけ言えるのは……!)
「苦しんでる人は放っておいたらいけないって事!」
解き放つ魔力の矢が、天を穿つがごとき鋭さを以って、見張りの闘士を貫いた。空の蒼を思わせる魔力の矢は、闘士の命を奪うことなく、その戦意を撃ち貫く。
「どっせーい!」
『航空海賊忍者』夢見・ヴァレ家(p3x001837)が、手にした大槌を力いっぱいに振り払った。ヴァレ家の目の前にいた二名の闘士がフッ飛ばされ、地にたたきつけられたまま気を失った。
「よし! このまま侵入と参りましょう!」
と、笑いつつも、
(……しかし、レオパル殿と一緒にギアバジリカへ……と言うのは、何とも奇妙な気分ですね。彼の城塞都市に侵入者として入り込む……と言うのも。
まぁ、革命の際の予行演習とさせていただきましょうか)
胸中で呟く。
「中に入ればまさに敵の巣窟です。準備はよろしいですね?」
眼鏡をくい、と直しながら、ファン・ドルド。
「索敵は私たちにお任せくだサイ。皆様、参りまショウ」
スクエアがそう言うのへ、仲間達は頷く。
「くれぐれも……」
と、レオパルが言うのへ、
「わかってますニャ。無理はしない。キミも、無茶はしないでくださいですニャよ?」
ネコモが答える。レオパルは苦笑した。
「分かっているとも。口うるさくて申し訳ないが、性分でな」
「レオパル様は、騎士団の副団長ですから。自分以外のものの安全を考えてしまうのも仕方のない事でしょう」
桜が、どこかかしこまった様子で言うのへ、レオパルは、
「そう言ってくれると助かる……さぁ、内部へ。ギアバジリカまで、共に駆け抜けよう」
「はい!」
桜が緊張した面持ちで頷くのを見ながら、仲間達は城塞都市、ラーク・アトシェーリニクへと侵入した。
●潜入戦
「もうぉ~~~~~~~~なぁにやってんだよぉ~~~~~~~」
アッティが椅子に座り込みながら頭を抱えた。街の東口に設置された城門、そこに設えられた会議室。この街を守る軍閥であるアッティは、部下より、侵入者……つまり特異運命座標たちが城塞都市内へ侵入したという報告を受けたばかりである。
「も、申し訳ありません。此方が防備を固めるより先に……」
「まッ! そうだなッ!
俺もあいつらが来るの聞いたのさっきだからよぉ~~~。
侵入されるのはしょうがねぇ……ギリギリ織り込み済みッ!」
ととん、と頭を指で叩きながら、アッティが言う。
「だが中に入り込んだ奴らを見つけられねぇってのはどういうことだぁ~~~~~~~!? お前俺の立場だったら納得いくかぁ~~~~~?」
ぎろり、と睨みつけられた衛兵が、ひ、と悲鳴を上げた。
「も、申し訳ありません! 奴ら、まるでこちらの行動を察しているみたいに姿を消して……!」
「言い訳は聞きたくねぇッ!!」
だんっ、とアッティは足を踏み鳴らした。
「……ってのもなんかテンプレっぽいセリフだよなぁ?
まぁ、見つからないのはしょうがねぇよなぁ?
ただ、奴らの目的は、俺達の背後……つまり東方面に移動してきた『ゼシュテリウス派閥のギアバジリカ』だ。
って事はよぉ~~最終的に東門を通らなきゃならないのは確実ッ! ハムとチーズのサンドイッチがベストマッチってくらいに確実なわけよッ!」
「ハッ!」
衛兵が頷くのへ、アッティは言った。
「最悪、東門の警備を固めておけば、対策は取れるっつーわけよ!
俺もさぁ、嫌だけど東門で待ち構えるからさぁ?
ま、お前らもぜひ頑張って、奴らを緊張させて消耗させてほしいわけ」
「か、かしこまりましたッ!」
衛兵が敬礼すると、慌てて飛び出していく。アッティは、はぁ、とため息をついて、傍らのランチボックスを見た。
「何でランチタイムに来るかなぁ~~~~空気読んでッ!?
俺はさぁ、ランチタイムの献立以外で深く悩みたくねぇッ!
あ~~~~今日のサンドイッチはさぁ、ベーコンをカリカリに焼いて、とろとろの半熟目玉焼きにからいマスタードを塗った、ちょっとあったかい奴だったのによぉ~~~~~~~~……冷めちまった……」
しょんぼりとした様子で、アッティはうなだれた。
「……大方、そんなやり取りをしているのでしょうね」
ファン・ドルドが肩をすくめた。視界のHUDには、入り組んだ町の地図に、いくつかの動く光点が見える。
ファン・ドルドの予想したやり取りはほぼ的中している。アッティ側もあせっているのは事実だろう。ファン・ドルド、そしてスクエアのスキルで敵の動きはほとんど感知できており、多少は時間がかかっても、敵の数の少ない道を進むことができたのだから、思いのほか消耗自体は少ない。
「相手が焦るくらいに、今のところ順調って事だよね。ファン・ドルドさんと、スクエアさんのサポートのおかげかな」
ネイコが言うのへ、スクエアがふよふようきながら言った。
「その分、皆さんには戦闘面でお世話になっておりマス」
「その辺は任せて! 私も敵のサーチくらいはできるから……っと、敵発見。そっちも見てるよね?」
「ええ。このままいけば、敵の背中をつけますね」
「了解。スクエアさん、ミサイルで援護を。レイスさんも遠距離から攻撃お願い。エイラさんと私で斬り込むっ!」
「う、うん……!」
「エイラぁ、分かったぁ!」
レイスとエイラ、そしてスクエアが了解するのを確認して、ネイコは親指を立てて見せた。
「よし、行くよ!」
「では、ミサイル支援、開始いたしマス」
ぱか、とスクエアの上部がひらいて、中に無数のミサイル弾頭が見えた途端、それらが一斉に上空へと解き放たれる。上空から斥候部隊へと飛来するミサイルが次々と着弾!
「うおっ、なんだ!?」
「敵の攻撃か!」
浮足立つ斥候部隊に、光纏う大剣が放たれる。身体を突き刺したその大剣は、しかしその大剣そのものに殺傷能力があるわけではない。まるでホログラムのように身体を透かし貫く大剣、それが聖なる光に満たされるや、大剣より放たれた光の柱が斥候部隊の兵士を包み込んだ。
「なんだこの光は……うわぁっ!!」
体を貫く断罪の光に、兵士が悲鳴を上げて昏倒する。
同時、ネイコとエイラが一気に接敵。
エイラはそのナイフを使って、兵士の身体に強かな斬撃をお見舞いする。ぎゃっ、と悲鳴を上げて、兵士が昏倒。隣立つネイコは、光り輝く安心安全なグラフィティをエフェクトに発しながら必殺の一撃(ストライク)を撃ち放つ。
「安全、よし! なんちゃって!」
キメのセリフなどを言いつつ、ネイコがポーズ。プリンセスストライクの一撃によって昏倒した兵士が倒れる。斥候部隊は瞬く間に鎮圧されて、特異運命座標たちも最小の被害で済んでいる。
「鮮やかなものだな」
レオパルが感心した様子で言った。
「流石は勇者たる特異運命座標と言った所か。貴殿らからは、まさに世界を救う光を感じると言うものだ」
「よくわからないなぁ。でもぉ、褒められるのは嬉しぃ」
エイラがにこにこと笑った。
「ファン・ドルド殿、おそらくこの辺りは街の中心辺りと見ましたが……?」
ヴァレ家がそう言うのへ、ファン・ドルドが頷く。視界の端(HUD)に地図を認めながら、
「確かに。となると、些か時間がかかっているでしょうか?」
「だけれど、今は慎重に行動するにこしたことはないよ」
アレクシアが言う。
「東口……城塞都市の出口に敵が待ち受けているのは確実だからね。
敵も、私達が消耗するのを狙っていると思う。
そうなっちゃったら、相手の思うつぼになっちゃうよね」
「サメちゃん、東の方って見える?」
と、スティアが上空を飛んでいたサメ(精霊)に声をかける。サメは可愛く鳴くと、くるくると回ってみせた。
「うん。やっぱり待ち構えてるね。
相手にもこちらの目的はバレてるだろうから、やっぱりアレクシアちゃんの言う通り、街を巡回している兵士は、私達を捕まえるというより、数多く当たって消耗させるつもり、と見た方がいいと思うよ」
「東口の戦力は、これ以上は増えないとみた方がいいかな?」
桜が言う。
「街にはなってる戦力も考えれば、これで敵の全戦力とみてもいいと思う。
……となれば、拙速に振ってもこちらに利は無いね。
慎重に進んだ方が、今となっては最善だと思う。
と言うわけで、今のペースを維持することに賛成」
「そうですね!
この城塞都市、内部も結構入り組んでいて、攻略しづらいという触れ込みでしたから。
しかし内部が入り組んでいるという事は、内情を知っているものにとっては、あちこちに隠れ場所があるともいえます!」
ヴァレ家の言葉に、レイスが頷く。
「すこし、乱暴だけれど……建物の中に入って進んでも、身を隠せるからね……。
入り組んでいるのが、逆に私達にもメリットに、なってるとおもう……」
「使えるものは思いっきり使ってやるのが、潜入作戦のセオリーですニャ!
あ、建物に鍵かかかってたら任せるですニャ。マスターキーでどっかんニャ」
ネコモが言うのへ、仲間達は頷いた。
「敵も無計画に警備をしているわけではありまセン。
ある程度はルートも予測できるでショウ。
そうなれば、このクエストも、決して無理なものとは言えまセンね」
スクエアが言うのへ、ファン・ドルドが頷く。
「ふむ、要人のエスコート依頼、それに敵地潜入。じつにあるあるになってきましたね。
護衛対象が撃墜されたら失敗、みたいな。
まぁ、私達が失敗することなどはあり得ません、とここは些か傲慢に言わせてもらいましょうか」
「と言う事です。レオパル様」
桜が言うのへ、レオパルは頷いた。
「ああ。作戦に関しては、貴殿らに従う事としよう」
頼りにしている、と言外に伝える視線に、桜は些かの緊張を覚えながら頷いて返す。
「では、再び……行こう、皆!」
桜の言葉に頷いて、一行は進軍を再開した。
●東門攻防
「腹減ったなぁ~~~~~~~~」
東門、その正面に立つアッティが、空を眺めながらそう言う。周囲には、10を超える兵士たちの姿がある。いずれも屈強な兵士たちであり、このゲートを守る最終防衛ラインを任された者たちだ。
「ほんとはよぉ~~~~~今日はランチタイムの後のけだるい空気を感じながら書類を処理するはずだったんだよぉ~~~~~~!!!
なぁんでこうなっちまうかなぁ? 俺なんか悪いことしたか?」
「はぁ……」
兵士の男が困惑したように言うのへ、アッティはうへえ、と唸った。
「張り合い、無ッ! まぁ、良いんだけどよぉ~?
でさぁ、お前らはどう思うのよ? 特異運命座標チャン達よぉ?」
アッティがそう呟いた途端、無数のミサイルが着弾、爆炎を巻き上げた。スクエアの放ったそれがあたりを撃ち抜くのへ、飛び込んできたスティアと桜が、
「気をつけてねスティアちゃん!」
「任せて、桜ちゃん! さぁ、アッティだったね!
私はスティア! スティア・エイル・ヴァークライト! 推して参る!」
抜き放った二振りの刀を、スティアはアッティへと叩きつけた。アッティはぐるり、と後転して斬撃を回避、
「おっかねぇ! 挨拶なしに斬りかかって……いや、挨拶したわな。偉いじゃん~~~?」
と挑発するように言いつつ。がん、と両こぶしを叩き合わせた。途端、爆発するような炎のオーラが巻き起こり、スティアの頬をちりちりと炙る。火炎無効のスキルをつけてはいるが、あのオーラで殴られれば怪我は必至。
「でも挨拶したからって斬りかかっていいわけじゃねぇよなぁ~~~~?
これは正当防衛じゃねぇかなッ! と言うわけで、撃っちゃうんだよなぁ、これがッ!」
がおん、と音を立ててアッティの振り放った拳から、獄炎が解き放たれる!
「ま、マズい! 司令官はランチタイムを邪魔されてお怒りだ!
巻き込まれんように注意しろ!」
兵士たちが慌てるのへ、スティアはゆっくりと息を吸い込んだ。手にした刀を一度納刀、居合の構えを取り、
「せいっ!」
気合の言葉と共に一気に振り放つ! 獄炎は剣風によって二つに散らされ、落着した炎が石畳を焼く。同時、アッティは跳躍、一気にスティアに接近すると、その拳を繰りだした! とっさに庇った左手に、拳が直撃する。痛みに顔をしかめつつ、スティアが刀を振るう。アッティは右手の手甲を差し出して受け止めた。
「喰いもんの恨みはこの世で一番恐ろしいんだぜッ!?」
「それはごめんね!」
切り結ぶ二人をしり目に、一方桜は大剣を持った剣士へと躍りかかる!
「先にあなた達を倒して、道を作るっ!」
「させんわ!」
振るわれる刀の一撃を、大剣士は軽々と大剣を振るって受け止めた。きぃ、と金属がこすれる音がして火花散る、桜はしかし、大剣防御の隙間を塗って刀を突き入れる。
「そこっ!」
「ちぃっ!」
大剣士は以外にも身軽に身を引く。切っ先が空を切ったが、ここまでは桜の予定通り。
「アレクシア君っ!」
「了解っ!」
アレクシアの蒼天貫く魔力の矢が、一気に解き放たれる! 蒼の矢は空を切り裂き、大剣の上から大剣士を叩いた! 大剣が半ばからへし折れ、蒼の矢は大剣士の腕を強かに貫き、そのまま爆発するような魔力の奔流で打ち据える!
「うおおっ!?」
悲鳴を上げて大剣士が昏倒する。
「ちっ! 弓兵! 援護! 撃ッ!」
兵士が叫ぶのへ、弓の嵐が巻き起こる。桜、そしてアレクシアはその場から駆け出すと、石畳に矢が次々と突き刺さった。
「レイス殿、弓を潰します! 援護、よろしくです!」
「うんっ……!」
ヴァレ家の言葉に頷くレイスが、その手に大剣を掲げ、突き出した。途端、宙を舞う剣が出現し、突き出された大剣の周囲をくるくると踊る。それに応じるように、大剣はほの青い魔力を蓄積し、爆発せんばかりの魔力がその剣の上に踊った。
「貫き、穿て……そして示せ、我が道を……!
……ロード・ディバイダーっ!」
轟音をあげて放たれた魔力が、まさに己の路を分割して現したかのように、一直線に伸びていく。直線状にいた兵士たちが次々と巻き込まれて打ち倒せらて行くのに合わせて、ヴァレ家が駆ける!
「その道、乗らせてもらいますっ!」
ヴァレ家が手にした大槌を振るいながら、弓兵部隊に突貫。
「どっせーい!!」
雄たけびを上げながら大槌を振るう! フッ飛ばされた弓兵たちが、城壁に身体を打ち付けて昏倒。
「制圧!」
ヴァレ家が叫ぶ。
「了解デス! さぁ、コロス、コロス、全員コロス、塵も残さず、ミナゴロシダー!! ヒャハー!!」
暴走したようにミサイルをまき散らすスクエア。
「危ないですって!」
ヴァレ家が思わず叫ぶが、しかしミサイルは次々と敵兵士に向けて着弾していく。
「わっはっは、派手になってきたニャ! いけいけ、たつまきにゃんぷーきゃく!」
ぐるぐると回し蹴りを行うネコモ。巻き込まれた兵士たちがフッ飛ばされ、意識を失った。
「ヨシ、このままでいけば、敵を全滅して先に進める……」
ネイコの言葉に、しかし答えたのは爆炎だった。
「どうしてヨシって言ったんですかぁ~~~~?」
ぐわおん、と激しい爆風と共に、吹き飛ばされたスティアの身体が地に落下する。
「スティアちゃん!」
桜が叫ぶのへ、スティアは申し訳なさそうに微笑んだ。
「ごめんね、ここまでみたい……!」
上空を飛んでいたサメ(精霊)が哀し気に鳴いて消える。スティアの身体が光に包まれて、死亡(ログアウト)して消えていった。
「痛ぇ、痛ぇ、痛ぇわ! 中々強い子だったよあの子!
スカウトしたいくらい!」
体のあちこちに斬傷を作りながら、しかしアッティは健在だった。
「相変わらずランチタイムにご執心で。スーツの着こなしも今一つですね、アッティ」
ファン・ドルドがそう言うのへ、アッティは笑った。
「そうぉ~~~~? ま、性分なもんでさぁ。
……って、いや、あんた誰よ。会ったことあったっけぇ?」
「いいえ。『あなた』とは。
ただ、そうですね、前からそのスーツの着こなしについては、一言いいたいと思っていた所だったんですよ。
以前は伝えそびれましてね。どうですか? 私の着こなしについての講義、お聞きになるつもりなどは?」
「じょうだぁん。今はほら、不法侵入者を追い出すのに必死でさぁ~~?」
ファン・ドルドが肩をすくめた。
「おや、出て行けというのなら出ていきますよ。
東の門からね」
「あっちから出ていけッ!」
アッティが叫んだ。
轟! 巻き起こる炎のオーラ! それは、クエストボスに指定されたフラグ故の強化か。少なくとも、ファン・ドルドが体験した魔種としてのアッティのそれよりも、数段は上のように感じた。
「やれやれ、そんなに御強いなら、魔種などに堕ちる必要もなかったでしょうに……」
ファン・ドルドは何か懐かしいものを思うような口調でそう言ってから、
「プランを変えましょう。全滅は無理です。
街の敵もこちらに向かってきていますからね。
クエスト完遂を最優先とします」
「わかったぁ」
エイラが頷いた。
「レオパルぅ、先に行ってぇ」
「だが、貴殿らは……!」
レオパルがそう言うのへ、エイラは頭を振った。
「エイラ達ならぁ、大丈夫ぅ。『死んだりはしない』よぉ。
……レオパルならぁエイラ達がぁ根拠あってぇ言ってるのぉ分かるよね~」
それは、確かに嘘ではなかった。PCとしては『死』と言う状態にはなるだろうが、本体であるイレギュラーズ達に命の危険性はない。
「貴殿らを信じるぞ」
レオパルがそう言うのへ、エイラが頷いた。
「ここは私達に任せて下さい! すぐ隊長をやっつけて追いかけますよ!」
桜の言葉に、レオパルは頷く。
「ありがとう、勇敢な剣士よ。
……貴殿とは、何時か剣を交えてみたい。
だから、決して、命を無駄にはするな」
「させねぇよぉ!」
アッティが叫び、飛び掛かってくる。それの前に飛び込んだのは、ネイコだ!
「何でヨシって言ったんですか? って?
私達は、絶対に勝つからそう言ったんだ!」
ネイコの安心安全のエフェクトから繰り出される災厄の斬撃! アッティは上段から振るわれたそれを、腕をクロスさせて受け止める! 安心安全のエフェクトと、炎が巻き上がって爆発し、災厄がまき散らされる!
「抑えててぇ、ヨシカぁ!」
エイラが腕を振るうと、空中にクラゲのエフェクトが浮かび上がる。ゆらゆらと揺れるクラゲの灯がアッティの身体に巻き付いて、爆発、炎上する!
「あっ、ちぃわっ!!」
アッティが後方を飛びずさる――。
「今デス!」
スクエアが叫んだ! レオパルは頷くと、一気に東門へと向けて走り去る。
「逃げんのかよぉ~~~~~レオパル(おっさん)ッ!」
アッティが叫ぶのへ、
「違いますね! あれは、勝利の凱旋ですよっ!」
ヴァレ家が大槌を以って殴り掛かる! アッティの右肩を強かに打ち据えた大槌。アッティは痛みに顔をしかめつつ。
「やるじゃん! けどさぁ!!」
轟、と爆発する炎が、特異運命座標たちを吹き飛ばした。爆炎にもみくちゃにされる特異運命座標たち。激痛が、身体を走る。
「まだ時間を稼いで!」
アレクシアが叫んだ。
「まだ、レオパル君が移動する距離を稼がないと、追撃されるかもしれないっ!」
「分かった……! レオパルさんは、追わせない……!」
レイスが声をあげて、大剣を解き放つ。蒼のそれがアッティを貫き、光の柱で強かに打ち据えるが、しかしアッティは無理矢理に光の柱から逃れると、
「お返しだ!」
拳を打ち鳴らし、炎の弾撃を撃ち放つ! レイスの眼前に迫るそれ、しかしその前にネコモが立ちはだかった! ネコモの身体を、獄炎が焼き討つ!
「ぐうっ……!」
ネコモが呻き、くずおれた。
「ネコモさん……!」
レイスが声をあげる。
「ふふ、お先に失礼ニャー」
光の粒子となって死亡(ログアウト)するネコモ。だが、悲嘆に暮れている時間などはない。間髪入れず、レイスは大剣を放ってアッティに攻撃。
「ちぃっ!」
アッティは舌打ち一つ、大剣の直撃を避けた。身体をかすめる光の柱に撃たれながら、アッティは疾走。
「追わせないで!」
アレクシアが叫び、蒼穹の矢を放つ。蒼のそれがアッティの右足を貫いて、つんのめった。
「鬱陶しいなぁ~~~もうぉ~~~~!!!!」
アッティが指を鳴らすと、爆炎がアレクシアへと迫る。爆炎に包まれたアレクシアの身体が、光の粒子となって死亡(ログアウト)。
「ファン・ドルド殿! スクエア殿! 二人は後方の増援の処理を!」
ヴァレ家が叫び、
「了解デス!」
「アッティはお任せします」
二人は頷いて、後方より迫る増援への対処を開始する。残る桜、ヴァレ家、エイラ、ヨシカが、アッティへと迫る!
「どっせーいっ!」
気合と共に振るわれる大槌を、アッティは受け止めた。ギリ、と手甲が鳴る刹那、ヨシカと桜が斬りかかる!
「左!」
「右!」
同時に振るわれる斬撃を、アッティは爆炎を巻き上げることで勢いを殺して回避!
「必死じゃん!」
「必死にもなるっ! 私達の方に、あの人の期待と、人々の希望が乗ってるんだ!
……それに、あんな格好良い事言っといて、負けるわけにはいかないからね!」
「自分のランチタイムのことしか考えてない君には、分からないかもね!」
「そうかい!? 俺も色々考えてるんだけどなぁ~~~……あんた達の出し抜き方とかさぁ!」
アッティが地面に向けて炎を放った。途端、爆炎が特異運命座標たちの視界をふさぐ。
「上ぇ!」
エイラが叫んだ。途端、とんでもない大きさの火級が、アッティの手の中に育ちつつあった。
「これはとっておきでさぁ!
これを出させたことはホント、誇っていいッ!
もうちょっとで死ぬかと思った所だからよぉ~~~~~!」
アッティが放つ火級が、石畳に着弾した。途端、爆発的な炎の奔流が大地を舐めつくした。範囲攻撃が特異運命座標たちを強く打ちのめし、その身体を次々と光の粒子に変えていった――。
「……ただよぉ……これはもう、俺の負けだよなぁ~~~。
ぶっちゃけもう、死ぬほどボロボロだしッ!
レオパルも逃がしちまったッ!
ランチも焼け焦げだッ!」
アッティは頭を抱えた。
特異運命座標たちは全滅の憂き目にあったが、しかしクエスト達成項目には、確かにクリアの文字が躍っていたのである。
……ラーク・アトシェーリニクよりしばし離れた、街道にて。
レオパルは、静かに街の方を眺めていた。
まるで、地を舐めつくすかのような爆炎。
……あれは、激しい戦いの証左だ。
信じる、と言った。
彼らが嘘をついていないことも、分かっていた。
だが――レオパルの心境に、心配の二文字が踊る。
このようにやきもきするなど、何年ぶりになるのだろうか。
だが、己の身を挺して自分を送り出してくれた勇者たちの身を、案じずにいられることなどできようか?
「……すまない、勇者たちよ」
レオパルは呟いた。きっともう、戻ってこないであろう、勇者たちの事を思い浮かべつつ――。
「遅くなりました、申し訳ありません、レオパル様」
声が聞こえた。
桜の声だった。
見てみれば、そこには、10人の勇者たちの姿があった。
「さぁ、ギアバジリカまで後少し! 急ぎましょう!」
そう言う桜の言葉に、レオパルはゆっくりと頷いた。
「ああ。護衛を頼む……勇者たちよ」
全幅の信頼の色が、その言葉にはのせられていた。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
ご参加ありがとうございました。
レオパルは、城塞都市を無事通過。皆さんの護衛もあって、ギアバジリカへと到着しました。
レオパルとヴェルスの会談が行われます……。
GMコメント
お世話になっております。洗井落雲です。
レオパルと共に、ギアバジリカへと向かっていた皆さん。
合流地点に向かう為には、敵の占拠する城塞都市を抜けなければなりません。
激闘を制し、レオパルを街から脱出させてください。
●成功条件
レオパルが、東口から城塞都市を脱出する。
●失敗条件
レオパルが戦闘不能になるか、レオパルより撤退を進言されるほどに戦況が悪化する。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
●ROOとは
練達三塔主の『Project:IDEA』の産物で練達ネットワーク上に構築された疑似世界をR.O.O(Rapid Origin Online)と呼びます。
練達の悲願を達成する為、混沌世界の『法則』を研究すべく作られた仮想環境ではありますが、原因不明のエラーにより暴走。情報の自己増殖が発生し、まるでゲームのような世界を構築しています。
R.O.O内の作りは混沌の現実に似ていますが、旅人たちの世界の風景や人物、既に亡き人物が存在する等、世界のルールを部分的に外れた事象も観測されるようです。
練達三塔主より依頼を受けたローレット・イレギュラーズはこの疑似世界で活動するためログイン装置を介してこの世界に介入。
自分専用の『アバター』を作って活動し、閉じ込められた人々の救出や『ゲームクリア』を目指します。
特設ページ:https://rev1.reversion.jp/page/RapidOriginOnline
●状況
正義による、鋼鉄内乱への介入。その一歩として、ゼシュテリウスへレオパルが派遣されることとなりました。
特異運命座標による手引きの下、鋼鉄領内へ潜入したレオパルですが、その行き先に、敵に占拠された城塞都市が立ちふさがります。
この街を越えなければ、ギアバジリカと合流することは困難になります。そのため、どうしてもこの街を越えなければならないのです。
みなさんは、レオパルと共に、この城塞都市を突破し、街の東口より離脱してください。
クエスト開始タイミングは昼。周囲は充分明るいものとします。
また、クエストフィールドは、城塞都市ラーク・アトシェーリニク内部です。砦の様な建物が立ち並び、多少入り組んでいます。
迷うほどではありませんが、一直線に突破できるような造りはしていません。
●サクラメント(再ログイン)について
本シナリオに関しては、街の中での戦いと言う事もあり、強化サクラメントが付近にあるものとして判定されます。
要するに、戦闘中に死亡したとしても、一人当たり1~2回程度は戦線復帰できる可能性があるのです。
とはいえ、戦闘中での合流は(経過時間的に)すこし難しいと思います。戦闘の合間合間、移動中などであれば合流できるはずです。
※重要な備考『デスカウント』
R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。
●エネミーデータ
鉄帝兵 ×???
一般的な鉄帝の兵士たちです。兵士とは言いますが、本職の軍人から、腕で鳴らした一般人上がりまで、その戦闘能力はまちまちです。
基本的には、複数名でグループを組んで、街内を巡回しているようです。一度に大勢と戦うわけではありませんが、連戦となる事に中止してください。
遭遇する個体により攻撃方法は変わりますが、やはり物理攻撃を主体とするメンバーが多いようです。BSとしては、『出血系統』や『麻痺系統』を付与してくるものが居ます。
『ランチタイムの』アッティ ×1
敵軍閥の将軍の一人です。人間種ですが、鉄機種に負けぬほどの力を持っています。
闘気を爆発させるような戦い方を得手としており、そのオーラは炎や爆発として発現します。
複数体を巻き込むような爆発の一撃や、『火炎系統』のBSに注意してください。
アッティは、街の東口で部隊を率いて待機しています。脱出の際の戦闘は避けられないでしょう。
●味方NPC
レオパル・ド・ティゲール
正義の聖騎士。皆さんに同行しています。
非常に強力なキャラクターですが、あくまで護衛NPCであることを忘れないでください。
体力は普通に減りますし、あまりレオパルに頼った戦い方をしていれば、戦況不利を察して撤退を提案してくる可能性もあります。
以上となります。
それでは、皆様のご参加をお待ちしております。
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